【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、不織ウェブ配置で金属繊維を含む焼結金属体である。金属繊維は、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維を含む。二相ミクロ組織は、オーステナイトとフェライトとの混合ミクロ組織である。ステンレス鋼繊維は、それらの接触点の少なくとも一部において、焼結接合によって接合される。
【0009】
混合ミクロ組織のオーステナイトおよびフェライトを有するステンレス鋼グレードとして定義される二相ステンレス鋼グレードは周知であり、局部腐食、特にピッチング、隙間腐食および応力腐食割れに対してオーステナイト系ステンレス鋼よりも改善された耐性を有すると記載されている。これらは、高クロム(19〜32重量%)およびモリブデン(最大5重量%)、ならびにオーステナイト系ステンレス鋼よりも少ないニッケル含有量を特徴とする。
【0010】
二相ステンレス鋼グレードは、それらの合金含有量(重量パーセント値で表される)および耐食性に基づいたグループに特徴付けられる。スーパー二相は、定義によって、孔食指数(pitting resistance equivalent number)PREN>40の二相ステンレス鋼グレードであり、ここでPREN=%Cr+3.3×(%Mo+0.5×%W)+16×%Nである(すべてのパーセント値は重量パーセント値である)。通常、スーパー二相グレードは25重量%以上のクロムを有する。一部の例は、S32760(Zeron 100)、S32750(2507)、およびS32550(Ferralium)である。
【0011】
一方で、オーステナイト系ステンレス鋼繊維ウェブを含み、オーステナイト系ステンレス鋼繊維が接触点で焼結する焼結金属体が知られており、他方で、二相ステンレス鋼は繊維に加工することができるが、オーステナイトおよびフェライトの二相ミクロ組織を有する焼結ステンレス鋼繊維を含む焼結金属体の製造は、当初は可能であるとは思われていなかった。このような焼結体を製造しようと試みると、繊維の二相ミクロ組織およびその結果得られる特殊で有益な性質が、焼結プロセス中に失われることが分かった。二相構造および結果として得られる有益な性質(たとえば優れた耐食性)を維持するためには、特殊な焼結パラメータが必要と思われることが分かった。本発明の第2の態様に明記されるような特殊な焼結パラメータを創出することによって、本発明の第1の態様の焼結金属体が製造可能となった。
【0012】
本発明に使用するための二相およびスーパー二相ステンレス鋼グレードの例は、たとえば二相1.4462およびスーパー二相1.4410であり、どちらもEN10088:2005に準拠している。
【0013】
好ましくは、本発明の不織ウェブ配置のすべてのステンレス鋼繊維が二相ミクロ組織を有し、この二相ミクロ組織は、オーステナイトおよびフェライトの混合ミクロ組織である。
【0014】
好ましくは、本発明の焼結金属体中のすべてのステンレス鋼繊維が二相ミクロ組織を有し、この二相ミクロ組織は、オーステナイトおよびフェライトの混合ミクロ組織である。
【0015】
好ましい一実施形態では、焼結金属体は、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維からなる金属繊維ウェブである。
【0016】
好ましくは、焼結金属体は、不織ウェブ配置の金属繊維からなる。
【0017】
好ましくは、金属繊維は、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維からなる。
【0018】
好ましい一実施形態では、焼結金属体は多孔質体である。
【0019】
好ましい一実施形態では、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維中にσ相が存在しない。当技術分野において周知のように、σ相は、正方晶構造の脆く非磁性の相であり、一般に、ステンレス鋼製品の耐食性低下の原因となる。
【0020】
好ましい一実施形態では、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維は、オーステナイトのパーセント値が30
体積パーセントと70体積パーセント
との間、より好ましくは40
体積パーセントと60体積%
との間である。オーステナイトおよびフェライトのパーセント値は、金属組織実験、X線回折(XRD)、または磁気測定によって当技術分野において周知のように求めることができる。
【0021】
好ましい一実施形態では、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維はスーパー二相ステンレス鋼繊維である。
【0022】
好ましい一実施形態では、ステンレス鋼繊維の二相ミクロ組織中のオーステナイト結晶粒の平均結晶粒度は、ステンレス鋼繊維の相当繊維直径の半分未満である。ステンレス鋼繊維の相当直径は、円から逸脱する断面を有しうるステンレス鋼繊維の断面と同じ表面積を有する円の直径である。より好適な耐食性および機械的性質を有するステンレス鋼繊維ウェブが得られるという理由で、このような小さな結晶粒度が好ましい。オーステナイト結晶粒の結晶粒度は、ASTM−E112−13(2013年版)に準拠して求めることができる。
【0023】
好ましい実施形態では、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維は、それらの体積にわたってクロムおよびモリブデンの重量パーセント値が実質的に均一であり、好ましくは、ニッケルが存在する場合は、ニッケルの重量パーセント値も実質的に均一である。このような実施形態の利点の1つは、焼結金属体のより良好な耐食性が得られることである。
【0024】
好ましい一実施形態では、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維は0.3重量%未満の窒素を含む。
【0025】
好ましい一実施形態では、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維は、窒化物を実質的に含まない。より良好な耐食性が得られるので、このように窒化物を含まないことが好ましい。
【0026】
好ましくは、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維は、束延伸(bundle drawn)繊維、または機械加工された繊維、または四角形の断面を有する繊維(たとえば巻き取られたシートまたは板から削り落とされた繊維)、またはシングルエンド(single end)延伸繊維、または溶融物から押出成形または引き出された繊維である。
【0027】
好ましくは、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維は、相当直径が1.5
μmと100μm
との間、より好ましくは8
μmと75μm
との間、たとえば20μm未満である。
【0028】
好ましい一実施形態では、焼結金属体は、不織ウェブ配置の金属繊維の2つ以上の層を含む。金属繊維の2つ以上の層の少なくとも2つの層は、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維を含み、二相ミクロ組織は、オーステナイトおよびフェライトの混合ミクロ組織であり、ステンレス鋼繊維は、それらの接触点の少なくとも一部において焼結接合によって接合する。少なくとも2つの層の第1の、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維の平均相当直径は、少なくとも2つの層の第2の、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維の平均相当直径とは異なる。第1および第2は、それらの層が互いに異なることを意味する。このような好ましい一実施形態では、1つ以上の金属メッシュが金属体中、たとえば金属繊維の層の間に設けられる。好ましい一実施形態では、1つ以上の金属メッシュは、少なくとも2つの層の第1および第2の間に焼結接合によって設けられる。好ましくは、1つ以上のメッシュは、スーパー二相鋼の二相でできている。使用可能なメッシュの例は、金網メッシュまたはエキスパンドメタルシートである。
【0029】
本発明の第1の態様のいずれかの実施形態などで好ましい焼結金属体の1つは、焼結金属体中に焼結した1つ以上の金属メッシュを含む。1つ以上の金属メッシュは、たとえば金網メッシュまたはエキスパンドメタルシートであってよい。好ましくは、1つ以上の金属メッシュは、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼合金でできている。好ましくは、1つ以上の金属メッシュは、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維と同じ合金でできている。1つ以上のメッシュは、不織ウェブ層の間、または焼結金属体の上部および/または底部に設けることができる。
【0030】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様のような焼結金属体の製造方法である。この方法は、以下のステップを含む。
− 二相ステンレス鋼繊維を含む、またはからなる不織ウェブを含む、またはからなる未焼結金属体を製造するステップ。好ましくは、不織ウェブ中のステンレス繊維は、均一な化学組成を有する。二相ステンレス鋼繊維は、二相ステンレス鋼グレードのステンレス鋼繊維を意味する。二相ステンレス鋼繊維は、好ましくはスーパー二相鋼グレードであってよい。
− 窒素(N
2)を含む焼結雰囲気中、1000
℃と1300℃
との間の焼結温度において焼結オーブン中で金属体を焼結させるステップ。好ましくは焼結温度は1000℃
と1200℃
との間に維持され、より好ましくは焼結温度は1150℃未満に維持される。焼結雰囲気の窒素分圧は10
mbarと100mbar
との間であり、好ましくは30mbarを超え、より好ましくは50mbarを超え、好ましくは70mbar未満であり、より好ましくは50mbar未満である。
− 焼結後に焼結オーブン中で焼結金属体を冷却するステップであって、950℃
と650℃
との間の温度範囲の冷却が、1.5時間未満、好ましくは1時間未満、より好ましくは45分未満で行われるステップ。
【0031】
一実施形態では、未焼結金属体は、不織ウェブ配置の金属繊維の2つ以上の層を含む。金属繊維の2つ以上の層の少なくとも2つの層は、二相ステンレス鋼繊維を含む、またはからなるステンレス鋼繊維を含む。第1の層の二相ステンレス鋼繊維の平均相当直径は、第2の層の二相ステンレス鋼繊維の平均相当直径とは異なる。第1および第2は、それらの層が互いに異なることを意味する。このような好ましい一実施形態では、1つ以上の金属メッシュが金属体中、たとえば金属繊維の層の間、および/または金属体の上部および/または底部に設けられる。
【0032】
好ましくは、焼結温度は1200℃未満に維持される。
【0033】
好ましくは、ステンレス鋼繊維が20μm未満の相当直径を有する場合、焼結雰囲気の窒素分圧が好ましくは45mbarを超える。
【0034】
本発明に使用するための二相およびスーパー二相ステンレス鋼グレードの例は、たとえば二相1.4462およびスーパー二相1.4410であり、どちらもEN10088:2005に準拠している。
【0035】
ステンレス鋼繊維は、特殊な寸法を有し、それらは小さな断面と、相当直径比よりも大きな長さとを合わせもつ。これらの特殊な寸法は、二相繊維の焼結の場合に考慮される。
【0036】
好ましくは、窒素圧は、焼結サイクル全体の間で維持される。これによって、焼結ステンレス鋼繊維の、高温における均一なフェライト状態の終了が回避されると考えられる。これによって結晶粒の粗大化が回避されると考えられ、それらの二相ミクロ組織を維持できることが注目される。
【0037】
好ましい方法の1つでは、焼結温度から650℃までの冷却は、1.5時間未満、好ましくは1時間未満、より好ましくは45分未満の時間で行われる。
【0038】
好ましくは、焼結温度から650℃までの冷却は、窒素ガスを含む雰囲気中で行われ、より好ましくはその窒素分圧は、10
mbarと100mbar
との間であり、さらにより好ましくは30mbarを超え、さらにより好ましくは50mbarを超え、好ましくは70mbar未満、より好ましくは50mbar未満である。
【0039】
好ましい方法の1つでは、焼結雰囲気は水素(H
2)を含有しない。「窒素を含有しない」とは、焼結雰囲気が微量を超える水素(H
2ガス)を含まないことを意味する。
【0040】
好ましくは、焼結雰囲気は水素化物を含まない。
【0041】
好ましくは、焼結温度からの金属体の冷却の少なくとも一部は、焼結オーブン中に窒素ガスを導入することによって少なくとも部分的に実現される。
【0042】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様のいずれかの実施形態のような焼結金属体を含む濾過膜である。このような濾過膜は、特に塩化物を含む環境において、優れた耐食性という利点を有する。好ましい一実施形態では、濾過膜は、本発明の第1の態様のいずれかの実施形態のような焼結金属体からなる。
【0043】
本発明の第4の態様は、本発明の第3の態様のような濾過膜を含むフィルターである。