特許第6706258号(P6706258)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エン・ベー・ベカルト・ソシエテ・アノニムの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706258
(24)【登録日】2020年5月19日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】金属繊維を含む焼結金属体
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/11 20060101AFI20200525BHJP
   C22C 49/08 20060101ALI20200525BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   B22F3/11 C
   C22C49/08
   B01D39/20 A
【請求項の数】13
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-525553(P2017-525553)
(86)(22)【出願日】2015年11月4日
(65)【公表番号】特表2018-500458(P2018-500458A)
(43)【公表日】2018年1月11日
(86)【国際出願番号】EP2015075682
(87)【国際公開番号】WO2016075005
(87)【国際公開日】20160519
【審査請求日】2018年10月3日
(31)【優先権主張番号】14192957.0
(32)【優先日】2014年11月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502385850
【氏名又は名称】エンベー ベカルト ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】NV Bekaert SA
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100139549
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 泉
(72)【発明者】
【氏名】ウィム ファン アヴェアー
(72)【発明者】
【氏名】フランク ヴェルシュエーヴェ
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−137418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結金属体であって、
少なくとも一つの第1の不織ウェブと、少なくとも一つの第2の不織ウェブとを含み、これら第1及び第2の不織ウェブが、互いに積層され、また、共に焼結されて、単一の焼結金属体中に少なくとも2つの層を有する積層焼結金属繊維ウェブを形成しており、
第1の不織ウェブは第1のステンレス鋼繊維から形成され、第2の不織ウェブは第2のステンレス鋼繊維から形成され、第2のステンレス鋼繊維の平均相当直径は、第1のステンレス鋼繊維の平均相当直径よりも大きく、
第1及び第2のステンレス鋼繊維は、オーステナイトおよびフェライトの混合ミクロ組織を有するスーパー二相ステンレス鋼繊維であって、オーステナイトのパーセント値が、40体積パーセントと、60体積パーセントとの間であり、
前記第1及び第2のステンレス鋼繊維が、それらの接触点の少なくとも一部において焼結接合によって接合されている、焼結金属体。
【請求項2】
第1のステンレス鋼繊維の平均相当直径が12μmであって、第2のステンレス鋼繊維の平均相当直径が22μmである、請求項1に記載の焼結金属体。
【請求項3】
前記第1及び第2のステンレス鋼繊維中にσ相が存在しない、請求項1または2に記載の焼結金属体。
【請求項4】
前記第1及び第2のステンレス鋼繊維の前記二相ミクロ組織中、オーステナイト結晶粒の平均結晶粒度が、それぞれ、前記第1及び第2のステンレス鋼繊維の相当繊維直径の半分よりも小さい、請求項1〜のいずれか一項に記載の焼結金属体。
【請求項5】
前記第1及び第2のステンレス鋼繊維が、それらの体積にわたって実質的に均一な重量パーセント値のクロムおよびモリブデンを有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の焼結金属体。
【請求項6】
二相ミクロ組織を有する前記第1及び第2のステンレス鋼繊維が窒化物を実質的に含まない、請求項1〜のいずれか一項に記載の焼結金属体。
【請求項7】
二相ミクロ組織を有する前記第1及び第2のステンレス鋼繊維が1.5μmと100μmの間の相当直径を有する、請求項1及び3のいずれか一項に記載の焼結金属体。
【請求項8】
前記焼結金属体が、前記焼結金属体中に焼結した1つ以上の金属メッシュを含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の焼結金属体。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載の焼結金属体の製造方法であって、
− 湿式ウェブ形成技術により、第1及び第2の不織ウェブを形成するステップと
第1の不織ウェブと、第2の不織ウェブとを積層して未焼結金属体を製造するステップと;
この未焼結金属体を、1000℃と1300℃との間の温度にて、窒素分圧が10mbarと100mbarとの間である焼結オーブン中で真空中にて加熱することで、焼結金属体を得るステップと;
− 焼結後に前記焼結オーブン中で前記焼結金属体を冷却するステップであって、950℃650℃の間の温度範囲の冷却が1.5時間未満で行われるステップと、
を含む方法。
【請求項10】
前記焼結温度から650℃までの冷却が1.5時間未満の時間で行われる、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記焼結温度から650℃までの冷却が窒素ガスを含む雰囲気中で行われる、請求項または10に記載の方法。
【請求項12】
前記焼結温度からの焼結金属体の冷却の少なくとも一部が、前記焼結オーブン中に窒素ガスを導入することによって少なくとも部分的に実現される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜のいずれか一項に記載の焼結金属体を含む濾過膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属繊維を含む焼結金属体の分野に関する。このような製品は、多数の異なる用途に使用され、たとえばフィルター中の濾過媒体として使用される。
【背景技術】
【0002】
どちらもオーステナイト鋼グレードであるAISI 304およびAISI 316などの数種類のステンレス鋼合金でできた焼結ステンレス鋼繊維不織ウェブが知られている。焼結ステンレス鋼繊維不織ウェブは、多数の用途に使用され、たとえば濾過媒体として使用される。焼結ステンレス鋼繊維を含む濾過媒体の一例は国際公開第2013/124142A1号パンフレットに示されている。
【0003】
ステンレス鋼以外の一連の別の金属も、金属繊維を含む焼結金属体に加工することができる。焼結チタン繊維または焼結ニッケル繊維を含む代表的な製品が、国際公開第2003/059556A1号パンフレットに電解槽中のガス拡散層用で挙げられている。
【0004】
金属繊維ウェブ中の金属繊維の溶接方法が記載されているが(たとえば国際公開第2004/039580A1号パンフレット中)、ウェブ中の繊維接触点において金属繊維を接合させるための好ましい方法は、金属繊維ウェブの焼結であり、その理由は、それによって経済的な方法で高い一貫性で焼結製品の広い表面を形成できるからである。
【0005】
金属繊維の互いの溶接は、少なくとも繊維の接触点において繊維を溶融温度よりも高い温度まで加熱する熱を加えるステップと、続いて、液化した繊維または繊維領域を固化させるために冷却するステップとを含む。焼結では、ある時間の間、温度および圧力が加えられる。繊維は溶融温度よりも低温で十分に維持され、接触する繊維間の原子拡散によって接合が形成される。繊維の溶接または繊維の焼結では、繊維間で同じ接合は形成されず、使用された接合方法は区別することができる。
【0006】
特開2014−014830号公報には、窒素の含有量が少ない二相ステンレス鋼の溶接方法が提供されている。この方法では、溶接金属の組織の改善によって、溶接割れ、および耐食性低下の発生が抑制される。この溶接方法では、母材と溶接材料(溶接消耗品)との間に電圧を印加し、その間隙にアークを発生させ、それによって溶接材料(溶接消耗品)が溶融する。溶接消耗品は、心線と金属心線を被覆する被覆材とを有する金属ワイヤである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第1の目的は、たとえば塩化物を含有する環境中で、優れた耐食特性を有する金属繊維を含む焼結金属体を提供することである。本発明のさらなる目的の1つは、そのような焼結金属体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、不織ウェブ配置で金属繊維を含む焼結金属体である。金属繊維は、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維を含む。二相ミクロ組織は、オーステナイトとフェライトとの混合ミクロ組織である。ステンレス鋼繊維は、それらの接触点の少なくとも一部において、焼結接合によって接合される。
【0009】
混合ミクロ組織のオーステナイトおよびフェライトを有するステンレス鋼グレードとして定義される二相ステンレス鋼グレードは周知であり、局部腐食、特にピッチング、隙間腐食および応力腐食割れに対してオーステナイト系ステンレス鋼よりも改善された耐性を有すると記載されている。これらは、高クロム(19〜32重量%)およびモリブデン(最大5重量%)、ならびにオーステナイト系ステンレス鋼よりも少ないニッケル含有量を特徴とする。
【0010】
二相ステンレス鋼グレードは、それらの合金含有量(重量パーセント値で表される)および耐食性に基づいたグループに特徴付けられる。スーパー二相は、定義によって、孔食指数(pitting resistance equivalent number)PREN>40の二相ステンレス鋼グレードであり、ここでPREN=%Cr+3.3×(%Mo+0.5×%W)+16×%Nである(すべてのパーセント値は重量パーセント値である)。通常、スーパー二相グレードは25重量%以上のクロムを有する。一部の例は、S32760(Zeron 100)、S32750(2507)、およびS32550(Ferralium)である。
【0011】
一方で、オーステナイト系ステンレス鋼繊維ウェブを含み、オーステナイト系ステンレス鋼繊維が接触点で焼結する焼結金属体が知られており、他方で、二相ステンレス鋼は繊維に加工することができるが、オーステナイトおよびフェライトの二相ミクロ組織を有する焼結ステンレス鋼繊維を含む焼結金属体の製造は、当初は可能であるとは思われていなかった。このような焼結体を製造しようと試みると、繊維の二相ミクロ組織およびその結果得られる特殊で有益な性質が、焼結プロセス中に失われることが分かった。二相構造および結果として得られる有益な性質(たとえば優れた耐食性)を維持するためには、特殊な焼結パラメータが必要と思われることが分かった。本発明の第2の態様に明記されるような特殊な焼結パラメータを創出することによって、本発明の第1の態様の焼結金属体が製造可能となった。
【0012】
本発明に使用するための二相およびスーパー二相ステンレス鋼グレードの例は、たとえば二相1.4462およびスーパー二相1.4410であり、どちらもEN10088:2005に準拠している。
【0013】
好ましくは、本発明の不織ウェブ配置のすべてのステンレス鋼繊維が二相ミクロ組織を有し、この二相ミクロ組織は、オーステナイトおよびフェライトの混合ミクロ組織である。
【0014】
好ましくは、本発明の焼結金属体中のすべてのステンレス鋼繊維が二相ミクロ組織を有し、この二相ミクロ組織は、オーステナイトおよびフェライトの混合ミクロ組織である。
【0015】
好ましい一実施形態では、焼結金属体は、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維からなる金属繊維ウェブである。
【0016】
好ましくは、焼結金属体は、不織ウェブ配置の金属繊維からなる。
【0017】
好ましくは、金属繊維は、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維からなる。
【0018】
好ましい一実施形態では、焼結金属体は多孔質体である。
【0019】
好ましい一実施形態では、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維中にσ相が存在しない。当技術分野において周知のように、σ相は、正方晶構造の脆く非磁性の相であり、一般に、ステンレス鋼製品の耐食性低下の原因となる。
【0020】
好ましい一実施形態では、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維は、オーステナイトのパーセント値が30体積パーセントと70体積パーセントの間、より好ましくは40体積パーセントと60体積%の間である。オーステナイトおよびフェライトのパーセント値は、金属組織実験、X線回折(XRD)、または磁気測定によって当技術分野において周知のように求めることができる。
【0021】
好ましい一実施形態では、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維はスーパー二相ステンレス鋼繊維である。
【0022】
好ましい一実施形態では、ステンレス鋼繊維の二相ミクロ組織中のオーステナイト結晶粒の平均結晶粒度は、ステンレス鋼繊維の相当繊維直径の半分未満である。ステンレス鋼繊維の相当直径は、円から逸脱する断面を有しうるステンレス鋼繊維の断面と同じ表面積を有する円の直径である。より好適な耐食性および機械的性質を有するステンレス鋼繊維ウェブが得られるという理由で、このような小さな結晶粒度が好ましい。オーステナイト結晶粒の結晶粒度は、ASTM−E112−13(2013年版)に準拠して求めることができる。
【0023】
好ましい実施形態では、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維は、それらの体積にわたってクロムおよびモリブデンの重量パーセント値が実質的に均一であり、好ましくは、ニッケルが存在する場合は、ニッケルの重量パーセント値も実質的に均一である。このような実施形態の利点の1つは、焼結金属体のより良好な耐食性が得られることである。
【0024】
好ましい一実施形態では、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維は0.3重量%未満の窒素を含む。
【0025】
好ましい一実施形態では、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維は、窒化物を実質的に含まない。より良好な耐食性が得られるので、このように窒化物を含まないことが好ましい。
【0026】
好ましくは、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維は、束延伸(bundle drawn)繊維、または機械加工された繊維、または四角形の断面を有する繊維(たとえば巻き取られたシートまたは板から削り落とされた繊維)、またはシングルエンド(single end)延伸繊維、または溶融物から押出成形または引き出された繊維である。
【0027】
好ましくは、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維は、相当直径が1.5μmと100μmの間、より好ましくは8μmと75μmの間、たとえば20μm未満である。
【0028】
好ましい一実施形態では、焼結金属体は、不織ウェブ配置の金属繊維の2つ以上の層を含む。金属繊維の2つ以上の層の少なくとも2つの層は、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維を含み、二相ミクロ組織は、オーステナイトおよびフェライトの混合ミクロ組織であり、ステンレス鋼繊維は、それらの接触点の少なくとも一部において焼結接合によって接合する。少なくとも2つの層の第1の、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維の平均相当直径は、少なくとも2つの層の第2の、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維の平均相当直径とは異なる。第1および第2は、それらの層が互いに異なることを意味する。このような好ましい一実施形態では、1つ以上の金属メッシュが金属体中、たとえば金属繊維の層の間に設けられる。好ましい一実施形態では、1つ以上の金属メッシュは、少なくとも2つの層の第1および第2の間に焼結接合によって設けられる。好ましくは、1つ以上のメッシュは、スーパー二相鋼の二相でできている。使用可能なメッシュの例は、金網メッシュまたはエキスパンドメタルシートである。
【0029】
本発明の第1の態様のいずれかの実施形態などで好ましい焼結金属体の1つは、焼結金属体中に焼結した1つ以上の金属メッシュを含む。1つ以上の金属メッシュは、たとえば金網メッシュまたはエキスパンドメタルシートであってよい。好ましくは、1つ以上の金属メッシュは、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼合金でできている。好ましくは、1つ以上の金属メッシュは、二相ミクロ組織を有するステンレス鋼繊維と同じ合金でできている。1つ以上のメッシュは、不織ウェブ層の間、または焼結金属体の上部および/または底部に設けることができる。
【0030】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様のような焼結金属体の製造方法である。この方法は、以下のステップを含む。
− 二相ステンレス鋼繊維を含む、またはからなる不織ウェブを含む、またはからなる未焼結金属体を製造するステップ。好ましくは、不織ウェブ中のステンレス繊維は、均一な化学組成を有する。二相ステンレス鋼繊維は、二相ステンレス鋼グレードのステンレス鋼繊維を意味する。二相ステンレス鋼繊維は、好ましくはスーパー二相鋼グレードであってよい。
− 窒素(N)を含む焼結雰囲気中、1000℃と1300℃の間の焼結温度において焼結オーブン中で金属体を焼結させるステップ。好ましくは焼結温度は1000℃1200℃の間に維持され、より好ましくは焼結温度は1150℃未満に維持される。焼結雰囲気の窒素分圧は10mbarと100mbarの間であり、好ましくは30mbarを超え、より好ましくは50mbarを超え、好ましくは70mbar未満であり、より好ましくは50mbar未満である。
− 焼結後に焼結オーブン中で焼結金属体を冷却するステップであって、950℃650℃の間の温度範囲の冷却が、1.5時間未満、好ましくは1時間未満、より好ましくは45分未満で行われるステップ。
【0031】
一実施形態では、未焼結金属体は、不織ウェブ配置の金属繊維の2つ以上の層を含む。金属繊維の2つ以上の層の少なくとも2つの層は、二相ステンレス鋼繊維を含む、またはからなるステンレス鋼繊維を含む。第1の層の二相ステンレス鋼繊維の平均相当直径は、第2の層の二相ステンレス鋼繊維の平均相当直径とは異なる。第1および第2は、それらの層が互いに異なることを意味する。このような好ましい一実施形態では、1つ以上の金属メッシュが金属体中、たとえば金属繊維の層の間、および/または金属体の上部および/または底部に設けられる。
【0032】
好ましくは、焼結温度は1200℃未満に維持される。
【0033】
好ましくは、ステンレス鋼繊維が20μm未満の相当直径を有する場合、焼結雰囲気の窒素分圧が好ましくは45mbarを超える。
【0034】
本発明に使用するための二相およびスーパー二相ステンレス鋼グレードの例は、たとえば二相1.4462およびスーパー二相1.4410であり、どちらもEN10088:2005に準拠している。
【0035】
ステンレス鋼繊維は、特殊な寸法を有し、それらは小さな断面と、相当直径比よりも大きな長さとを合わせもつ。これらの特殊な寸法は、二相繊維の焼結の場合に考慮される。
【0036】
好ましくは、窒素圧は、焼結サイクル全体の間で維持される。これによって、焼結ステンレス鋼繊維の、高温における均一なフェライト状態の終了が回避されると考えられる。これによって結晶粒の粗大化が回避されると考えられ、それらの二相ミクロ組織を維持できることが注目される。
【0037】
好ましい方法の1つでは、焼結温度から650℃までの冷却は、1.5時間未満、好ましくは1時間未満、より好ましくは45分未満の時間で行われる。
【0038】
好ましくは、焼結温度から650℃までの冷却は、窒素ガスを含む雰囲気中で行われ、より好ましくはその窒素分圧は、10mbarと100mbarの間であり、さらにより好ましくは30mbarを超え、さらにより好ましくは50mbarを超え、好ましくは70mbar未満、より好ましくは50mbar未満である。
【0039】
好ましい方法の1つでは、焼結雰囲気は水素(H)を含有しない。「窒素を含有しない」とは、焼結雰囲気が微量を超える水素(Hガス)を含まないことを意味する。
【0040】
好ましくは、焼結雰囲気は水素化物を含まない。
【0041】
好ましくは、焼結温度からの金属体の冷却の少なくとも一部は、焼結オーブン中に窒素ガスを導入することによって少なくとも部分的に実現される。
【0042】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様のいずれかの実施形態のような焼結金属体を含む濾過膜である。このような濾過膜は、特に塩化物を含む環境において、優れた耐食性という利点を有する。好ましい一実施形態では、濾過膜は、本発明の第1の態様のいずれかの実施形態のような焼結金属体からなる。
【0043】
本発明の第4の態様は、本発明の第3の態様のような濾過膜を含むフィルターである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
一例として、スーパー二相ステンレス鋼1.4410(EN10088:2005に準拠)から金属繊維ウェブを作製した。2つの異なる不織ウェブを作製した。第1のウェブは相当直径12μmのスーパー二相1.4410繊維でできており、第2のウェブは、相当直径22μmのスーパー二相1.4410繊維でできている。スーパー二相繊維は、国際公開第2014/048738A1号パンフレットに記載されるように、インゴットからの機械加工によって製造した。それぞれの種類の繊維を使用し、湿式ウェブ形成技術を用いて重量300g/mの不織ウェブを作製した。
【0045】
第1の不織ウェブ(相当直径12μmの繊維)および第2の不織ウェブ(相当直径22μmの繊維)のそれぞれは、真空中の焼結オーブン中で1150℃まで加熱した。温度上昇中、不活性ガス、たとえば窒素(N)を用いた洗浄のための中断を組み込んだが、アルゴンを使用することもできる。ウェブは、窒素(N)分圧30mbar(これが全圧でもあった)、1150℃において75分間焼結させた。焼結温度1150℃から650℃までの冷却は45分間行った。この冷却は30mbarの窒素分圧下で行った。ウェブは室温までさらに冷却した。
【0046】
グレード2205と同等である、二相ステンレス鋼合金1.4462(EN10088:2005に準拠)の束延伸繊維を用いて別の代表的な試料を作製した。これらの繊維のウェブを1100℃で焼結させたが、その他は第1および第2のウェブの例と同様のプロセスパラメータであった。
【0047】
作製したすべての試料で、オーステナイトおよびフェライトの混合ミクロ組織が、焼結ウェブの繊維中に存在することが示された。両方の相(オーステナイトおよびフェライト)がほぼ等しい体積パーセント値で存在した。XRD(X線回折)でも、金属組織解析でも、焼結ウェブのステンレス鋼繊維中にσ相は検出できなかった。焼結ウェブ中のステンレス鋼繊維は、窒化物を実質的に含まなかった。ウェブ中の繊維中のオーステナイト結晶粒の平均結晶粒度は、繊維の相当繊維直径の半分よりも小さいことが示された。これらの焼結ウェブは、塩化物イオンを含有する環境中で試験した場合に、優れた耐食性を有することが示された。
【0048】
互いに積層したスーパー二相1.4410の12μmの相当直径繊維の300g/mの不織ウェブと、22μm繊維アウトスーパー二相1.4410の2つの300g/mのウェブとを焼結させ、それによって層状焼結金属繊維ウェブを製造することも可能である。たとえば、スーパー二相1.4410のステンレス鋼ワイヤメッシュを異なる平均相当直径の不織ウェブの間に配置し、不織ウェブおよびメッシュが焼結して、二相ミクロ組織の12μm相当直径および22μm相当直径のステンレス鋼繊維を含む1つの焼結金属体が得られるように焼結させることも可能である。このような製品はフィルター中の濾過膜として使用することができる。