特許第6706319号(P6706319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706319
(24)【登録日】2020年5月19日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】生体電気信号を検出する外耳道プラグ
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0408 20060101AFI20200525BHJP
   A61B 5/0478 20060101ALI20200525BHJP
   A61B 5/0492 20060101ALI20200525BHJP
   A61B 5/0476 20060101ALI20200525BHJP
   G06F 3/01 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   A61B5/04 300J
   A61B5/04 300M
   A61B5/04 320A
   G06F3/01 515
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-514426(P2018-514426)
(86)(22)【出願日】2015年10月1日
(65)【公表番号】特表2018-531666(P2018-531666A)
(43)【公表日】2018年11月1日
(86)【国際出願番号】EP2015072691
(87)【国際公開番号】WO2017054875
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2018年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】515283703
【氏名又は名称】ティ・オ・ドォッブルビィ・エンジニアリング・アー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】東京UIT国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】アンデルセン・ミケール
【審査官】 門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−530563(JP,A)
【文献】 特開2014−008166(JP,A)
【文献】 特開2001−299713(JP,A)
【文献】 特表2010−504159(JP,A)
【文献】 特開2002−119519(JP,A)
【文献】 特表2012−533248(JP,A)
【文献】 特開2012−120705(JP,A)
【文献】 N.S Dias et al.,New dry electrodes based on iridium oxide(IrO) for non-invasive biopotential recordings and stimulation,Sensors and Actuators A: Physical,2010年 9月29日,VOL:164, NR:1-2,pp.28-34,URL,http://dx.doi.org/10.1016/j.sna.2010.09.016
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/04−5/053
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヤプラグが外耳道内に配置されるときに皮膚表面からのEEG信号を検出するために用意される少なくとも2つの電極(3),
弾性材料からつくられる外壁(2)を有するハウジング,および
上記電極(複数)(3)に接続され,上記EEG信号を信号処理する信号取得回路(23)を備え,
上記電極(複数)(3)が,上記ハウジングの外表面に配置され,かつ上記ハウジングの上記外壁(2)中の孔を通じて上記ハウジングの内部の支持部材(5)に接続される皮膚接触部(4)を備え,
上記皮膚接触部(4)に状の内側接続部(61)が,上記支持部材(5)に筒状の外側接続部(62)が,それぞれ一体に形成されており,
上記外壁(2)の孔内において上記内側接続部(61)が外側接続部(62)に押し込まれることによって上記皮膚接触部(4)と上記支持部材(5)とが接続され,かつ上記皮膚接触部(4)および上記支持部材(5)が,上記外壁(2)を締め付けるように構成されている,
外耳道内に配置されるイヤプラグ(1)。
【請求項2】
上記ハウジングが圧縮可能であり,上記電極(3)が上記外壁(2)の圧縮によって生じる動きに追従するように配置されている,請求項1に記載のイヤプラグ。
【請求項3】
上記外壁(2)が特定ユーザの外耳道に対してカスタマイズされた形状を備えている,
請求項1に記載のイヤプラグ。
【請求項4】
上記電極(3)の皮膚接触部(4)が,少なくとも皮膚表面に接触することが意図される表面上に酸化イリジウムの層を備えている,請求項1に記載のイヤプラグ。
【請求項5】
上記酸化イリジウムの層がタンタルも含む,請求項4に記載のイヤプラグ。
【請求項6】
上記酸化イリジウムの層が多孔質である,請求項4または5に記載のイヤプラグ。
【請求項7】
上記少なくとも2つの電極(3)のそれぞれが増幅回路(23)を備え,上記増幅回路が電磁干渉に対してシールドされている,請求項1に記載のイヤプラグ。
【請求項8】
上記増幅回路(23)が,上記少なくとも2つの電極に接続されるフレックス・プリント回路に接続されている,請求項7に記載のイヤプラグ。
【請求項9】
上記皮膚接触部(4)が,上記内側接続部(61)および上記外側接続部(62)から構成される接続部(6)を介して上記支持部材(5)に着脱自在に接続されている,請求項1に記載のイヤプラグ。
【請求項10】
上記少なくとも2つの電極(3)のそれぞれが上記信号取得回路(23)を備えている,請求項1に記載のイヤプラグ。
【請求項11】
上記少なくとも2つの電極(3)の皮膚接触部(4)と外耳道壁の間の電気的接触を増強するために,上記外壁(2)が外耳道への挿入時に圧縮され,挿入後に外耳道壁に対して圧力を加えるサイズおよび弾性をもつ,請求項1または2に記載のイヤプラグ。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載のイヤプラグを備えるEEGモニタ。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載のイヤプラグを備える補聴器。
【請求項14】
弾性外壁(2)を有するイヤプラグ・ハウジングを用意し,
複数のEEG電極(3)を用意し,各電極が,状の内側接続部(61)が一体に形成された皮膚接触部(4)と筒状の外側接続部(62)が一体に形成された支持部材(5)とに分けられており,
上記支持部材(5)を,EEG信号を信号処理する電子回路(23)に接続し,
上記電子回路(23)を備える上記支持部材(5)を上記イヤプラグ・ハウジングの内部に配置し,かつ上記外側接続部(62)を上記弾性外壁(2)にあらかじめ配置された孔(複数)に押し込み,
上記外壁(2)の孔(複数)を通じて上記イヤプラグ・ハウジングの外側から上記皮膚接触部(4)の上記内側接続部(61)を上記支持部材(5)の外側接続部(62)に押し込むことによって,上記外壁(2)の孔内において上記皮膚接触部(4)を上記支持部材(5)に接続し,ここで上記皮膚接触部(4)および上記支持部材(5)が上記外壁(2)を締め付けるように配置される,
EEGモニタを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は生体電気信号(bio-electrical signals)を検出するイヤプラグに関する。より詳細には,この発明は外耳道内に配置されるイヤプラグに関するものであって,上記イヤプラグは,上記イヤプラグが外耳道内に配置されたときに皮膚表面からのEEG信号を検出するために用意される少なくとも2つの電極を備えている。上記イヤプラグはまた,弾性材料から作られた外壁を有するハウジングを備え,さらに信号取得回路を備えている。この発明はまた,上記イヤプラグを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体電気信号は,ここでは,組織,臓器または細胞系を通るまたは人体に由来する電位差として理解される。最もよく知られている例は,心電図(ECG)(Electrocardiogram)信号および脳波(EEG)(Electroencephalogram)信号である。外耳道内の生体電気信号を検出するイヤプラグは人の外耳道内に完全にまたは部分的に配置されるようにつくられる。上記イヤプラグは主にEEG信号の検出のために設計される。
【0003】
EEG信号は人の脳活動によって生成される電気信号である。近年,モニタされる人によって連続的に持ち運ばれるまたは装着されるEEGモニタリング・システムが案出されている。たとえば数か月または数年といった長い期間にわたって持ち運ばれるとしても,眼鏡や最新の小型補聴器に比べて不便を生じさせることなく持ち運ぶことができる個人用のウエラブルEEGモニタの提供が,目標である。
【0004】
このようなEEGモニタは,人の状態監視のため,および所定条件が満たされた場合に何らかのアラームまたは情報を提供するために用いることができる。上記モニタは,たとえば診断目的または研究用途といった,さらなる分析のためのデータの収集にも用いることもできる。適用例の一つは糖尿病患者の監視である。
【0005】
外耳道内のEEG信号の計測は国際公開WO2011/000383A1から知られており,そこにはEEG電極を備えるイヤプラグであって,形状がユーザの外耳道に個々に適合するイヤプラグが開示されている。
【0006】
WO2013/026481A1には,電極は容量性のものとすることができること,すなわち,皮膚表面と接触することを意図した表面上に誘電材料が設けられたものが記載されている。
【0007】
WO2007/047667A2は,圧縮性材料から作られ,EEG電極を備えるイヤプラグを開示する。
【0008】
既知の解決策の問題点の一つは,快適かつ長時間の装着に煩わしくなく,同時に安定かつ信頼性のあるEEG信号を得ることができる,そのようなEEG電極を有するイヤプラグを得ることが難しいことである。
【発明の開示】
【0009】
この課題に対する解決策は,イヤプラグ・ハウジングの外面(外側表面)に配置され,かつハウジングの外壁を通じて上記ハウジングの内部の支持部材に接続された皮膚接触部を備える電極をさらに有するイヤプラグによって見出された。上記皮膚接触部および上記支持部材は上記外壁を締め付けるように配置される(arranged for clamping the outer wall)。
【0010】
上記解決策の利点の一つは,外耳道の形状に合致する柔軟なイヤプラグが達成されることである。上記イヤプラグ・ハウジングの外壁が弾性材料(resilient material)から作られていると表現する場合,これは弾力性材料(elastic material)のみならず粘弾力性材料(viscoelastic material)も含むと理解されたい。
【0011】
上記イヤプラグの一実施態様では,上記ハウジングが圧縮可能でありかつ上記電極が上記外壁の圧縮によって生じる動きに追従するように配置されている。これは,弾性外壁だけでなく,イヤプラグ全体が圧縮可能であるという利点を持つ。これによって,数ヶ月または数年といった長期間にわたって装着するときに上記イヤプラグにイラついたり,悩まされたりする危険が大幅に低減される。
【0012】
イヤプラグのさらなる実施態様では,上記ハウジングの外壁が特定ユーザの外耳道に対してカスタマイズされた形状を備えている。これによって上記イヤプラグをより快適に装着することができ,悩みやイライラのリスクを低減することができる。
【0013】
イヤプラグのさらなる実施態様では,上記電極の皮膚接触部が,耳,たとえば耳の外耳道または甲介の皮膚表面に接触することが意図される少なくとも表面上に酸化イリジウムの層(a layer of iridium oxide)を備えている。皮膚と電極との間の低インピーダンスを達成することができ,皮膚刺激のリスクが低減されるという利点を有する。酸化イリジウムの利点の1つは,電極の比較的小さい幾何学的領域を用いることができ,かつそれでも大きい電気化学的有効領域が達成されることである。酸化イリジウムの層がタンタル(tantalum)も含む場合,この利点はより大きくなる(more profound)。低インピーダンスに関して,このことは上記酸化イリジウムの層が多孔質である(porous)場合にも当てはまる。
【0014】
イヤプラグのさらなる実施態様では,少なくとも2つの電極のそれぞれが増幅回路を備え,上記増幅回路が電磁ノイズに対してシールドされている。これによって上記電極が,
いわゆるアクティブ電極とされ,上記電極から派生する信号がよりパワフルになり,したがってノイズの影響を受けにくくなる。上記増幅回路は,電極からの信号がノイズの影響を一層受けにくくするアナログ−デジタル(A/D)変換器を有してもよい。
【0015】
イヤプラグのさらなる実施態様では,上記電極の増幅回路が,上記少なくとも2つの電極からの信号を結合するフレックス・プリント回路に接続されている。これによって電極を含むイヤプラグの圧縮に追従可能な,機械的に柔軟な電子回路プラットフォームが提供される。この柔軟な電子回路プラットフォームを個別にフィットされたイヤプラグにおける搭載のために用いることもできる。上記電子回路プラットフォームの柔軟性はワイヤを使用することによって達成することもできるが,これは製造プロセスに時間がかかる。
【0016】
イヤプラグのさらなる実施態様では,上記電極の皮膚接触部が,接続部(連結部)を介して電極の支持部材に着脱自在に接続されている。イヤプラグ・ハウジングの外壁中の孔を通じて電極を組み立てることができる。
【0017】
イヤプラグのさらなる実施態様では,挿入時に上記外壁が外耳道壁に対して圧力を加えるように構成され,これによって電極の皮膚接触部分と外耳道壁の間の良好な電気的接触が助長される。
【0018】
一般には,導電性ゲルの使用を,EEG電極と外耳道の皮膚の間の電気的接続を向上するために適用することができる。
【0019】
一実施態様では,上述したイヤプラグはEEGモニタに用いられる。上記イヤプラグがEEGモニタの全体を構成してもよいし,上記イヤプラグがいくつかの電極を備え,他方において通知を提供するための信号処理,電力供給,スピーカ等を,たとえば耳の後ろに配置される別個のハウジングに配置することもできる。
【0020】
他の実施態様では,上述したイヤプラグを補聴器として用いることができ,補聴器によってEEG信号が検出されかつ利用される。上記利用は,補聴器のよりよい調整または自動プログラム選択とすることができる。これは耳内型補聴器またはイヤプラグ部分を備える他の補聴器とすることができる。
【0021】
第2の観点において,この発明はイヤプラグを製造する方法に関する。この方法は,1)弾性外壁を備えるイヤプラグ・ハウジングを用意し,2)複数のEEG電極を用意し,ここで各電極が皮膚接触部と支持部材とに分けられており,3)上記支持部材を電子回路に接続し,4)上記電子回路を備える上記支持部材を上記イヤプラグ・ハウジングの内側に配置し,5)上記外壁中の事前配置された孔(たとえば,事前に打ち抜かれた孔)を通して,上記イヤプラグ・ハウジングの外側から上記皮膚接触部を上記支持部材に接続して,上記外壁を締め付けるように上記皮膚接触部および上記支持部材を配置する。この製造方法は,特に個別に位置決めされる電極を備えるイヤプラグに関し,信頼性があり,かつ高速であることが分かった。
【0022】
以下,図面を参照してこの発明の実施態様をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】弾性材料から作られたハウジング中に配置されたEEG電極を有するイヤプラグを示す。
図2】電極を保持するワッシャを備えるEEG電極を示す。
図3】2つの延在するEEG電極を有する,イヤプラグ用の内側ハウジングを示す。
図4】別個のワッシャを持たないEEG電極の一例を示す。
図5】電極を保持するワッシャを備えるEEG電極の他の例を示す。
図6】電気回路を備え,信号ケーブルに接続されるモジュールを備えるEEG電極の一例を示す。
図7図6のEEG電極を異なる角度から示す。
図8】3つの異なるEEG電極に接続されたフレックス・プリントを示す。
図9】EEG電極の分解図を示す。
図10図9の電極を異なる角度から示す分解図である。
図11】弾性壁中に配置されたEEG電極を有するイヤプラグに基づくEEGモニタを示す。
図12】EEG電極を有するイヤプラグを備える補聴器を示す。
【実施例】
【0024】
図1は人の外耳道に個別にフィットするイヤプラグ1を示している。上記イヤプラグ1の第1部位20を外耳道内に配置することができ,図1に示すイヤプラグの第2部位21を外耳道の外側の甲介領域(concha region)に配置することができる。他の実施態様では,イヤプラグ全体を外耳道内にフィットさせることができる。上記イヤプラグ1は弾性材料たとえばシリコン製の壁2によって形付けられる。2つのEEG電極が上記イヤプラグ中に示されているが,3つまたは4つとすることもできる。各EEG電極は皮膚接触部4を備えており,上記皮膚接触部は上記イヤプラグ1が使用されるときに人の皮膚と良好な電気的接触を得る必要がある。上記皮膚接触部4はハウジング壁2の外側に配置される。上記皮膚接触部4は,接続部(コネクタ)6たとえば金属ピンを用いて,上記壁2を通して,上記壁2の内側に配置された支持部材5に接続される。上記支持部材5はワッシャの形態とすることができる。図示する2つの電極は,検出されたEEG信号または増幅されたEEG信号を信号処理のための電子モジュール(図示略)に送信するワイヤ8にそれぞれ接続されている。これは典型的には増幅器を保持する信号取得回路内とすることができる。
【0025】
図1に示すイヤプラグは,図示する2つのEEG電極よりも多くを備えることができる。総数が少なくとも3つまたは少なくとも4つの電極を,上記外耳道内に配置される上記イヤプラグの第1部位20に設けることができる。さらに,またはこれに代えて,たとえば耳介中に配置される上記イヤプラグの第2部位21に電極を設けてもよい。この耳介電極は参照電極として機能することができる。図1のイヤプラグにはさらに音響路のための開口7が設けられており,上記イヤプラグを装着する人物の通常の聞こえを許容する。
【0026】
弾性かつ柔らかな材料から作られる上記ハウジング壁2を,上記イヤプラグの全体形状を提供する構造とすることができる。上記壁2は上記外耳道内の皮膚に対して上記電極の上記皮膚接触部4を押し付けるように設計される。この圧力は,EEG信号を検出するために安定した電気的接触を提供するのに十分に高くなければならない。しかしながら,上記イヤプラグを装着する人物が上記イヤプラグの長期使用において悩まされることになるような圧力であってはならない。
【0027】
上記壁2の厚さはイヤプラグ全体にわたって一定とすることができる。しかしながら,上記壁2の厚さを変えて,皮膚に対してEEG電極3によって加えられる圧力を提供し,かつ上記イヤプラグの他の部分によって加えられる圧力がないようにすることもできる。上記壁は形崩れ(collapsing)の危険なしに正しい形状を保つのに十分な厚さでなければならない。多くの場合,厚さは0.5〜3.0mmの範囲内とすることができる。
【0028】
上記壁2に用いられる弾性材料は,弾力性材料または粘弾力性材料とすることができる。上記壁2に用いることができる材料には,たとえばショア硬度が20〜60の範囲であるシリコンがあるが,他の材料を用いることもできる。
【0029】
上記イヤプラグの内部空間を,電子回路,接続ワイヤまたはフレックス・プリント用の空間,および音響路用の空間を除いて,弾性の壁材料,たとえばシリコンによって充填することもできる。
【0030】
図2は皮膚接触部4,ピン接続部(ピン連結部)6および支持部材5を含むEEG電極3の一例を示している。図1にも示されているように,皮膚接触部および支持部材5は,イヤプラグに組み立てられたときに,上記イヤプラグ・ハウジングの壁材料を締め付ける(挟みこむ)ように配置することができる。
【0031】
図2に示すEEG電極の一実施態様において,上記皮膚接触部4は,典型的には,たとえば金属の同一ピースから製造されることで,接続部6と一体とされる。上記支持部材5,たとえばワッシャは,上記接続部6に着脱自在に接続される。このEEG電極の構成はイヤプラグの組み立て方法を容易にするものであり,そこでは,はじめにイヤプラグ内に配置されるすべての電極についての支持部材が,それぞれ電子回路に接続された信号ワイヤ8に取り付けられるか,または上記支持部材がそれぞれ直接にたとえばプリアンプを含む電気回路または信号取得回路に接続され,そこから1つの電子回路への接続が設けられる。次に,ワイヤを介して接続されたこれらの支持部材5がイヤプラグ・ハウジングの内部に配置される。支持部材のそれぞれは,イヤプラグ・ハウジング壁の内側であって,EEG電極を配置することが意図される箇所に配置される。上記壁に孔が形成され,たとえば打ち抜かれ,そこに上記接続部6が押し込まれ,たとえばスナップ接続(snap connection)によって支持部材5と係合される。
【0032】
実際上は,上記支持部材5と上記電子回路との間の配線は,以下においてフレックス・プリントと呼ぶフレキシブルプリント回路基板(図8および以下を参照)によって作成することができる。上記支持部材5たとえばワッシャは,上記フレックス・プリントにはんだ付けされる。
【0033】
図2に示すように,上記接続部6が円筒形であれば,周方向の溝を設けることで,上記支持部材がこの溝の正しい位置にクリックされるようにしてもよい。
【0034】
図2における実施態様では,上記皮膚接触部4およびピン接続部6が同一中心軸を中心とするものが示されている。これは一つの可能性を示すものであり,他のオプションも可能である。たとえば,上記ピン接続部6を上記皮膚接触部4の外側円形エッジに向かって配置することもできる。このような設計は,一つのシート材から結合された皮膚接触部4およびピン接続部6を製造することを容易にし,そこでは,上記結合された皮膚接触部4およびピン接続部6がシート材から打ち抜かれ,その後にピン接続部6が上記皮膚接触部4の表面領域に対して90度または概略90度の角度で折り曲げられる。
【0035】
上記皮膚接触部4は,好ましくは,皮膚に対する良好な電気的接触をもたらし,湿気の多い環境において耐久性があり,皮膚に対する無毒かつ刺激のない材料からつくられる。利用可能な材料の例としては,酸化イリジウムの表面コーティングを有するチタンが考えられる。さらなる材料例は,欧州特許EP1237621B1,段落[0016]に見ることができる。酸化イリジウムは,乾燥電極として用いられる場合に比較的低い皮膚接触インピーダンスを有する電極を提供する。
【0036】
多くのピン接続部6は,円形の断面形状を有する場合には1mmの直径を有する。上記皮膚接触部の直径は3〜4mmの範囲,または3.5mm未満の範囲とすることができる。皮膚接触部の厚さは多くの場合0.25〜0.5mmの範囲にある。
【0037】
図3は,上記ハウジング用の内部シェル10が設けられている実施例を示している。上記内部シェル10は,好ましくは,たとえばアクリルのような非弾性材料からつくられる。上記電極3をこのシェル10上に配置し,電子回路と電気的に接続し,かつ上記シェル10の内部に配置された配線またはフレックス・プリントに接続することができる。
【0038】
電極,電子回路,およびワイヤおよび/またはフレックス・プリントの形態の電気接続を内部に備える内部シェル10を準備した後,弾性外壁2が上記シェル10の外側に配置される。電極3を備える内部シェル10上に上記弾性外壁2を被せ,次に上記電極3の皮膚接触部4を,上記弾性外壁材においてあらかじめ打ち抜かれた孔を通して押し込む。上記外壁材はこの目的のために十分な弾性を有する必要がある。これに代えて,上記弾性外壁2を上記内部シェル上に直接に鋳造してもよい(may be casted)。
【0039】
多くの場合,上記イヤプラグには,音の識別可能な閉塞(discernable occlusion of the sound)が導入されるレベルで,鼓膜への音の通過を妨害しない十分な直径を有する貫通孔が設けられる。この開口または孔の位置が符号12によって示されており,上記開口は上記内部シェルの延長部11にまで連続している。この開口または孔の直径は少なくとも1.5mm,好ましくは少なくとも2mm,より好ましくは少なくとも2.5mmである。
【0040】
一般には,すべての実施態様において,鼓膜への音の通過を妨害しないために貫通開口または孔を設けることができる。その直径は上述したようなものとすることができ,上記開口が円形の断面形状を持たない場合には,断面積を,少なくとも1.8mm,好ましくは少なくとも3.2mm,より好ましくは少なくとも5.0mmとすることができる。
【0041】
図4は電極3の一実施態様を示すもので,上記支持部材5が接続部6に固着されており,上記外側ハウジング壁2中に打ち抜かれた孔を最初に通る円錐形部分16を上記支持部が備え,上記支持部材を簡単に押し込むのを容易にする形状を備えている。弾性ハウジング壁2は,正しく位置決めされたときに,上記支持部材5と上記皮膚接触部4の内側14との間に締め付けられなければならない。上記弾性ハウジング壁2に孔を形成する材料は,好ましくは,上記接続部6の周りにおける任意の漏れを通じた汚れや湿気の通過を制限するために,接続部6にも当接するべきである。
【0042】
上記円錐形部分16および上記支持部材5が弾性ハウジング壁に押し込まれたときに,ハウジング内の回路に接続されるべきである。この接続のために周方向溝15を用いることができる。
【0043】
図5は,上記支持部材5が電極を保持するためのワッシャである電極を示している。図3の実施形態について,図5のワッシャ5が,たとえばワイヤによって,またはフレックス・プリントに直接にはんだ付けされることで,はじめに電子回路に固定される。次に,上記皮膚接触部4が取り付けられた上記接続部6が,たとえばあらかじめ打ち抜かれた孔を通じて,弾性外壁2に押し込まれる。上記接続部6およびワッシャ5を,上記ワッシャ5および上記皮膚接触部4が上記弾性外壁を締め付ける位置においてロックされるように構成することができる。上記ワッシャ5における上記接続部6の固定は,はんだ付けまたは接着によって達成することもできる。なお,2つの部分の間の良好な電気的接触が得られるべきである。
【0044】
図6はイヤプラグ用電極の一実施態様を示すもので,たとえばプリアンプまたはA/D変換器を備える信号取得回路(図示略)が,上記支持部材5内または上記接続部材6内に配置されている。上記接続部材6は内側接続部61(図9参照)および外側接続部62を備え,上記内側接続部61が,たとえば同じ材料片から形成される上記皮膚接触部4と一体にされている。上記外側接続部62は上記支持部材5と一体にされて電子回路ハウジング25(図8および図9参照)を形成し,このハウジング25は,電気的に絶縁性の材料,たとえばセラミック,ポリマーまたは様々なタイプのプラスチックからつくられ,かつその外面上に導電層が被覆されており,電子回路の電磁シールド(遮蔽)および任意の信号経路が得られる。外側接続部62の周りにバンド13があり,そこには導電層がなく,電極または皮膚接触部4がシールドから絶縁され,これによってEEG信号は短絡しない。図6には接続ケーブル8からのワイヤ19が示されている。ワイヤの保護のためのシーラント17,たとえば接着剤も示されている。上記支持部材5のシールドは,電磁ノイズに対して上記皮膚接触部4をいくらか保護することもできる。上記シールドはアクティブでもパッシブでもよく,アクティブ・シールドであれば上記シールドに信号ワイヤと同じ電位が提供され,その結果,上記信号ワイヤと上記シールドの間に電位はない。これは国際公開2013/026481A1に記載されている。
【0045】
図7図6の電極を別角度から示すもので,回路基板(たとえば厚膜回路基板)上のパッド18に接続されたワイヤ19が示されている。
【0046】
図8は,フレックス・プリント接続具8によって接続されたイヤプラグ用の3つの電極3を示している。上記電極(複数)は,ここではアクティブ電極として(部分的に分解図において)示されており,これは,図6および図7にも示すように,たとえば増幅器および/またはA/D変換器を備える信号取得回路が,皮膚接触部分にまたはその背後に配置されることを意味する。アクティブ電極は,電源供給線のみならず,フレックス・プリント接続具8を通る信号線を必要とする。フレックス・プリント接続具8の柔軟性は,上記電極3(複数)をイヤプラグ1中に個別に配置できることを意味する。これはカスタマイズされるイヤプラグに関して有利であり,それは,人が違えば耳チャネルも異なり,外耳道内のEEG信号を最良に検出するための最適な位置が人によって異なる可能性があるからである。また,人によって異なる耳のチャネルの幾何学的形状の相違が,電極の様々な配置を必要とすることがある。
【0047】
図8の3つのフレックス・プリント接続具の一つにあるベンディング27は,フラットなフレックス・プリント片の同じ側にすべての電極および支持部材を取り付けることを可能にし,上記フレックス・プリントをイヤプラグに取り付けるときに,上記電極のうちの一つが反対方向を向くようにすることを可能にする。
【0048】
図8のフレックス・プリント接続具はパッシブ電極とともに用いることもでき,その場合には,増幅器,A/D変換器等を中央フレックス・プリント部9に配置することができ,そこに様々なフレックス・プリント接続具8が接続される。この実施態様では,上記フレックス・プリント接続具8上の信号ワイヤをシールドするのが好ましい。
【0049】
上述した様々な実施態様のイヤプラグは,イヤプラグを使用する人の外耳道のサイズおよび形状に対して正確にそのサイズおよび形状をフィッティングすることによって,カスタマイズされたイヤプラグとしてつくることができる。上記イヤプラグを,あらかじめ選択された様々なサイズの標準イヤプラグとしてつくることもでき,その場合,個々人は最もフィットするサイズを選択する必要がある。イヤプラグの外壁の弾性は,各標準サイズのイヤプラグがわずかに圧縮されて,したがってより小さな外耳道サイズの範囲に適合できるので,標準サイズの使用を容易にする。
【0050】
図9および図10は,図8の電極の拡大分解図を示している。上記電極は,内側接続部61と一体の皮膚接触部4を備えている。これは,たとえば皮膚に接触することが意図された表面のみにまたその表面に主要に,酸化イリジウムの表面コーティングを有するチタンからつくることができる。増幅回路23がチップ上に配置されている。このチップはA/D変換器を備えることもできる。チップは回路基板24上に配置され,回路基板24が電子回路ハウジング25内に配置される。電子回路ハウジング25は,上述したように導電性材料からつくられたシールド層を備えている。上記電子回路ハウジング25は,外側接続部62および支持部材5を備え,たとえば同一の材料片からつくられることで,これら2つの部材は一体的につながっている。
【0051】
フレックス・プリント接続具8を,上記電子回路ハウジング25と,チップ23および必要に応じてその他の構成要素を備える回路基板24(厚膜モジュールとすることができる)とに接続することもできる。上記回路基板24およびチップ23をカバーするためにカバー26が配置され,カバーは,電子回路の完全なシールドを確保するために,導電性材料からつくられるか,または導電性材料を用いて被覆される。上記カバー26は好ましくはフレックス・プリント接続具8の中立位置(neutral)またはグランドにも接続される。
【0052】
図6図10の実施態様による電極を備えるイヤプラグの製造には,少なくとも2つの可能性がある。第1は,完全に組み立てられた電極3の皮膚接触部4を,弾性の,弾力性外壁材料中の孔を通して押し込むことである。第2は,組み立て前の電極を2つの部分とし,一方を,増幅回路23および電子回路基板24を有する電子回路ハウジング25ならびに接続具8とし,他方を,内側接続部61を備える皮膚接触部4とすることである。上記イヤプラグは,上記外側接続部62を上記イヤプラグの内側から弾性外壁中の孔に押し込み,次にイヤプラグの外側から内側接続部61を備える皮膚接触部4を上記外側接続部62に押し込むことによって組み立てられる。
【0053】
図2図4〜7または図9〜10による電極を備える図1のイヤプラグを提供する利点の一つは,これらの電極が薄いまたは可撓性のワイヤまたはフレックス・プリントによって接続されるだけであるときに,これらの電極がイヤプラグ・ハウジングまたはこのハウジングの外壁2の可撓性および圧縮性に影響を与えないことである。すなわち,これらの図にしたがうまたは類似タイプの電極を備えるイヤプラグが提供される場合,これらの電極が柔軟なワイヤまたはフレックス・プリントによって電子回路に接続される箇所において,上記弾性壁2がイヤプラグに提供することができる全体の可撓性または弾力性を維持することができる。このようして,上記イヤプラグが圧縮されたとき,および上記イヤプラグが外耳道内の皮膚に圧力をかけるときの両方において,電極は外壁の動きに追従することができる。
【0054】
上述したように,壁2の好ましい厚さは0.5〜3mmである。しかしながら,上記イヤプラグの内部を,壁2に使用される材料と同じ弾性材料で充填することもできる。この充填は換気および音通路チャネルのためのスペースを残すことができる。全体が弾性材料であるイヤプラグを,一回のプロセスで,電極,支持部材,電子回路および接続部の周囲に鋳造することができる。
【0055】
図11は,弾性外壁2,2つのEEG電極3が接続された電子回路24,および音響音通路31を備えるイヤプラグ1に組み込まれたEEGモニタ30の一例を示している。上記EEGモニタは外耳道内に配置されるように構成されており,音開口34の箇所にスピーカ33を備えている。上記スピーカはEEGモニタ30を装着している人にアラームまたは通知を提供するために用いることができる。上記音開口34を備えるEEGモニタの端部は,使用時に,外耳道の内部,すなわち鼓膜に面するようになっている。
【0056】
図12は,弾性外壁2を有し,かつEEG電極3が設けられたイヤプラグ1に組み込まれた補聴器40の一例を示している。上記補聴器40は,マイクロフォン開口46の箇所に配置されたマイクロフォン45を備えている。上記マイクロフォンは音増幅および処理のための手段(図示略)を備える電子回路24に接続されている。上記回路24は,上記補聴器40が外耳道内に配置されたときに鼓膜に面する上記音開口44を通して音響音を生成するレシーバ43に処理済み信号を搬送する。上記補聴器はさらに補聴器のオクルージョン(こもり)効果を低減するための通気口41を備えている。
【0057】
補聴器において,補聴器ユーザのEEG信号の検出および分析を補聴器の調整のために用いることができる。これは国際公開WO2011/006681A1に記載されているようにすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12