(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706412
(24)【登録日】2020年5月20日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】フロントバンパのリインフォース
(51)【国際特許分類】
B60R 19/04 20060101AFI20200601BHJP
【FI】
B60R19/04 M
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-102547(P2016-102547)
(22)【出願日】2016年5月23日
(65)【公開番号】特開2017-210028(P2017-210028A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】照山 俊輔
【審査官】
マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−078492(JP,A)
【文献】
特開2015−091710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に取付けられているフロントバンパのリインフォースであって、
車幅方向における中央部が両端部に対して前方に凸となるように湾曲しているリインフォース本体部を備えており、
前記リインフォース本体部の左右の端部寄り位置は、車両前後方向に延びる左右のサイドメンバの先端に連結されており、
前記リインフォース本体部には、そのリインフォース本体部と前記サイドメンバとの連結部位よりも車幅方向外側位置に、微小ラップ衝突時において衝突物が衝突する衝突受け部が設けられており、
前記リインフォース本体部の衝突受け部の車幅方向外側位置には、前記車両前後方向に対して垂直な縦壁面が設けられており、
前記縦壁面は、前記衝突受け部よりも車両前後方向において後側に設けられているフロントバンパのリインフォース。
【請求項2】
請求項1に記載されたフロントバンパのリインフォースであって、
前記リインフォース本体部の縦壁面は、前記リインフォース本体部の端部の前面に平面視略楔形のブロックを連結することにより構成されているフロントバンパのリインフォース。
【請求項3】
請求項1に記載されたフロントバンパのリインフォースであって、
前記リインフォース本体部の端部を前記衝突受け部の近傍で水平前方に曲げ、前記リインフォース本体部の端部の前面を車両前後方向に対して垂直に保持することで、前記前面を前記リインフォース本体部の縦壁面とするフロントバンパのリインフォース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部に取付けられているフロントバンパのリインフォースに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の車両はフロントバンパを備えており、前記フロントバンパが車両の前方衝突時の衝突荷重を受けられるように構成されている。前記フロントバンパは、車幅方向に延びる梁状部材であるバンパリインフォース102を備えている。バンパリインフォース102は、
図8に示すように、両端部に対して中央部が前方に凸となるように湾曲して設けられている。そして、バンパリインフォース102の左右の端部寄り位置106がクラッシュボックス104を介して車両前後方向に延びるサイドメンバ105の先端に連結されている。
【0003】
近年、車両が、例えば、立木や電柱といった障害物(衝突物G)に衝突した際の前突事故の状況を再現する微小ラップ衝突試験が行なわれている。微小ラップ衝突試験においては、
図8に示すように、サイドメンバ105(クラッシュボックス104)との連結部位106よりも車幅方向外側に位置するバンパリインフォース102の端部102wに衝突物Gが衝突する場合がある。バンパリインフォース102の端部102wは、端面に近づくにつれて後側になるように後方に傾斜している。このため、微小ラップ衝突時に衝突物Gがバンパリインフォース102の端部102wに衝突すると、衝突物Gはバンパリインフォース102の端部102wを連結部位106で後方に折り曲げて、その端部102wの前面を滑って後方に抜け易くなる。これにより、衝突物Gの衝突荷重に対するバンパリインフォース102の受け荷重が小さくなり、微小ラップ衝突時にバンパリインフォース102がほとんど働かない状態となる。
【0004】
この点を改善するため、
図9に示すように、バンパリインフォース102の端部102wとサイドメンバ105間に補強部材108を設ける構成が特許文献1に記載されている。これにより、微小ラップ衝突時にバンパリインフォース102の端部102wが衝突物Gの衝突荷重を受けても、バンパリインフォース102の端部102wが折れ曲がり難くなり、バンパリインフォース102で比較的大きな衝突荷重を受けられるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−189365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、バンパリインフォース102の端部102wとサイドメンバ105間に補強部材108を設ける構成では、構成が大掛かりになり、車両の軽量化に反する。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、フロントバンパのリインフォースの端部を補強することなく、微小ラップ衝突時における衝突荷重をリインフォースの端部で良好に受けられるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題は、各請求項の発明によって解決される。請求項1の発明は、車両に取付けられているフロントバンパのリインフォースであって、車幅方向における中央部が両端部に対して前方に凸となるように湾曲しているリインフォース本体部を備えており、
前記リインフォース本体部の左右の端部寄り位置は、車両前後方向に延びる左右のサイドメンバの先端に連結されており、前記リインフォース本体部には、
そのリインフォース本体部と前記サイドメンバとの連結部位よりも車幅方向外側位置に、微小ラップ衝突時において衝突物が衝突する衝突受け部が設けられており、前記リインフォース本体部の衝突受け部の車幅方向外側
位置には、
前記車両前後方向に対して垂直な縦壁面が設けられており、
前記縦壁面は、前記衝突受け部よりも車両前後方向において後側に設けられている。ここで、微小ラップ衝突とは、車両が、例えば、立木や電柱といった障害物(衝突物)に車両前部の端から約1/4が衝突する状態をいう。
【0009】
本発明によると、
リインフォース本体部の縦壁面は、前記衝突受け部よりも車両前後方向において後側に設けられている。即ち、衝突物がリインフォース本体部の衝突受け部に当接した状態で、前記リインフォース本体部の縦壁面は前記衝突物に当接しないように構成されている。
したがって、微小ラップ衝突の第1段階では、衝突物がリインフォース本体部の衝突受け部にのみ当接し、車幅方向外側に位置する縦壁面には当接しない。このため、リインフォース本体部の端部に縦壁面を設けても、微小ラップ衝突によるリインフォース本体部とサイドメンバ等との連結部位を支点とするリインフォース本体部の端部の曲げモーメントが大きくならない。即ち、リインフォース本体部の端部に縦壁面を設けることで、リインフォース本体部の端部が連結部位で曲がり易くなることがない。
【0010】
また、前記リインフォース本体部の縦壁面は、
車両前後方向に対して垂直に設けられている。このため、微小ラップ衝突の第2段階で、リインフォース本体部の縦壁面が衝突物に当接した後は、リインフォース本体部の縦壁面は衝突物の後方移動を妨げるように、即ち、衝突物に引っ掛かるように動作する。したがって、リインフォース本体部の端部が前記連結部位を中心として後方に折れ曲がっても、衝突物がリインフォース本体部の端部の前面を滑って後方に抜け難くなる。このため、衝突物の衝突荷重に対するリインフォース本体部の受け荷重が従来と比較して大きくなる。即ち、リインフォース本体部の端部を補強することなく、リインフォース本体部により衝突物による衝突荷重を良好に受けられるようになる。
【0011】
請求項2の発明によると、リインフォース本体部の縦壁面は、前記リインフォース本体部の端部の前面に平面視略楔形のブロックを連結することにより構成されている。このため、リインフォース本体部に対して前記ブロックを後付けすることで縦壁面を形成することができる。
【0012】
請求項3の発明によると、リインフォース本体部の端部を衝突受け部の近傍で水平前方に曲げ、前記リインフォース本体部の端部の前面を
車両前後方向に対して垂直に保持することで、前記前面を前記リインフォース本体部の縦壁面とする。このため、縦壁面を設けるために新たな部品が不要になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、フロントバンパのリインフォースの端部を補強することなく、微小ラップ衝突時における衝突荷重をリインフォースの端部で良好に受けられるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態1に係るフロントバンパのリインフォースを備える車両の前部構造を表す平面図である。
【
図2】フロントバンパのリインフォースを備える車両の前部構造における左側部分を表す斜視図である。
【
図3】微小ラップ衝突時において衝突物がフロントバンパのリインフォースの衝突受け部に衝突(当接)した状態を表わす平面図である。
【
図5】微小ラップ衝突時において衝突物がフロントバンパのリインフォースの縦壁面に衝突(当接)した状態を表わす平面図である。
【
図6】フロントバンパのリインフォースの変更例を表わす平面図である。
【
図8】従来のフロントバンパのリインフォースを備える車両の前部構造を表す平面図である。
【
図9】従来のフロントバンパのリインフォースを備える車両の前部構造を表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施形態1]
以下、
図1から
図7に基づいて本発明の実施形態1に係るフロントバンパのリインフォースについて説明する。なお、図中の前後左右は乗用車(車両)の前後左右に対応している。
【0017】
<乗用車の前部構造の概要について>
フロントバンパ(図示省略)のバンパリインフォース20(以下、リインフォース20という)について説明する前に、
図1に基づいて、車両10の前部構造等の概要について説明する。車両10の前部には、エンジンルーム12の左右両側に車両前後方向に延びる一対のサイドメンバ14が設けられている。左右のサイドメンバ14の前端には、それぞれクラッシュボックス16がほぼ同軸に取付けられている。クラッシュボックス16は、車両10の前方衝突時にフロントバンパのリインフォース20とサイドメンバ14間で潰れることにより、衝突荷重を吸収できるように構成されている。左右のクラッシュボックス16には、前記フロントバンパのリインフォース20の後面が左右の端部寄り位置22x(連結部位22x)で連結されている。
【0018】
<フロントバンパについて>
フロントバンパは、車両の前方衝突時の衝突荷重を受ける緩衝材である。フロントバンパは、
図1に示すように、車幅方向に延びる梁状部材であるリインフォース20と、そのリインフォース20の前面に取付けられる緩衝材であるバンパアブソーバ(図示省略)と、前記バンパアブソーバ及びリインフォース20を前方から覆うバンパカバー(図示省略)とから構成されている。
【0019】
<フロントバンパのリインフォース20について>
フロントバンパのリインフォース20は、車幅方向に延びるリインフォース本体部22を備えている。リインフォース本体部22は、例えば、アルミ合金製で、
図2に示すように、角筒状に形成されており、車幅方向における中央部が両端部に対して前方に凸となるように湾曲している。即ち、リインフォース本体部22の左右の端部22wは、
図1等に示すように、端面に近づくにつれて後側に位置するように緩やかに後方に傾斜している。そして、上記したように、前記リインフォース20の後面における左右の端部寄り位置に形成された連結部位22xが左右のクラッシュボックス16の先端に連結されている。
【0020】
また、リインフォース本体部22の前面は、
図1〜
図3等に示すように、左側の連結部位22xの車幅方向外側位置で、リインフォース本体部22の左端面から所定寸法位置が微小ラップ衝突時において衝突物Gが衝突する衝突受け部20uとなっている。また、衝突受け部20uに対して車幅方向外側(左側)に位置するリインフォース本体部22の端部22wの前面には、略楔形のブロック30がボルト止めされている。ブロック30は、車幅方向内側で肉厚寸法が小さく、また車幅方向外側で肉厚寸法が大きくなるように略楔形に形成されている。
【0021】
そして、前記ブロック30の先端角度、即ち、楔角度が車幅方向に延びる仮想直線X(
図3参照)に対するリインフォース本体部22の端部22wの傾斜角度にほぼ等しく設定されている。このため、ブロック30の表面に形成された縦壁面32は、仮想直線Xと平行で衝突物Gの衝突方向(前後方向)に対して垂直な面となる。また、前記ブロック30は、
図3、
図4に示すように、微小ラップ衝突時において衝突物Gがリインフォース本体部22の衝突受け部20uに当接した状態で、衝突物Gとブロック30の縦壁面32間に一定幅の隙間Sが形成される位置に位置決めされている。
【0022】
<フロントバンパのリインフォース20の動作について>
次に、微小ラップ衝突時におけるフロントバンパのリインフォース20の動作について説明する。微小ラップ衝突の第1段階では、
図3、
図4に示すように、衝突物Gがリインフォース本体部22の衝突受け部20uに当接する。この段階では、リインフォース本体部22の衝突受け部20uよりも車幅方向外側に位置するブロック30の縦壁面32は衝突物Gに当接していない。このため、リインフォース本体部22の端部22wにブロック30(縦壁面32)を設けても、微小ラップ衝突によるリインフォース本体部22とサイドメンバ14等との連結部位22xを支点とするリインフォース本体部22の端部22wの曲げモーメントが大きくなることはない。即ち、リインフォース本体部22の端部22wにブロック30(縦壁面32)を設けることで、リインフォース本体部22の端部22wが連結部位22xで曲がり易くなることがない。
【0023】
また、リインフォース本体部22のブロック30の縦壁面32は、
図3等に示すように、衝突物Gの衝突方向に対して垂直に設けられている。このため、微小ラップ衝突の第2段階で、リインフォース本体部22(ブロック30)の縦壁面32が衝突物Gに当接した後は、リインフォース本体部22(ブロック30)の縦壁面32は衝突物Gの後方移動を妨げるように動作する。即ち、リインフォース本体部22(ブロック30)の縦壁面32は、
図5に示すように、衝突物Gに引っ掛かるように動作する。したがって、リインフォース本体部22の端部22wが前記連結部位22xを中心として後方に折れ曲がっても、衝突物Gがリインフォース本体部22の端部22wの前面を滑って後方に抜け難くなる。
【0024】
このため、衝突物Gの衝突荷重に対するフロントバンパのリインフォース20の受け荷重が従来(
図8参照)と比較して大きくなる。即ち、リインフォース本体部22の端部22wを補強することなく、リインフォース本体部22により衝突物Gによる衝突荷重を良好に受けられるようになる。したがって、微小ラップ衝突時にフロントバンパのリインフォース20で受けた衝突物Gの衝突荷重を良好にクラッシュボックス16からサイドメンバ14に伝達できるようになる。
【0025】
<フロントバンパのリインフォース20の長所について>
本実施形態に係るフロントバンパのリインフォース20によると、リインフォース本体部22の端部を補強することなく、リインフォース本体部22、及びブロック30により、衝突物Gによる衝突荷重を良好に受けられるようになる。さらに、リインフォース本体部22の縦壁面32は、リインフォース本体部22の端部22wの前面に平面視略楔形のブロック30を連結することにより構成されている。このため、リインフォース本体部22に対してブロック30を後付けすることで縦壁面32を形成できる。
【0026】
<変更例>
ここで、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態に係るフロントバンパのリインフォース20では、リインフォース本体部22の端部22wにブロック30をボルト止めすることにより、衝突物Gの衝突方向に対して垂直な縦壁面32を構成する例を示した。しかし、
図6、
図7に示すように、リインフォース本体部22の端部22wを衝突受け部20uの近傍で水平前方に曲げ、リインフォース本体部22の端部22wの前面を衝突物Gの衝突方向(前後方向)に対して垂直に保持することで、前記前面をリインフォース本体部22の縦壁面32とすることも可能である。これにより、縦壁面32を設けるために新たな部品(ブロック30)が不要となる。
【符号の説明】
【0027】
10・・・・車両
14・・・・サイドメンバ
20・・・・リインフォース
20u・・・衝突受け部
22・・・・リインフォース本体部
22w・・・端部
22x・・・連結部位(支点)
30・・・・ブロック
32・・・・縦壁面
G・・・・・衝突物