特許第6706413号(P6706413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6706413ロジン変性樹脂とその製造方法、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニス、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ、及び印刷物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706413
(24)【登録日】2020年5月20日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】ロジン変性樹脂とその製造方法、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニス、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ、及び印刷物
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/48 20060101AFI20200601BHJP
   C09D 11/101 20140101ALI20200601BHJP
【FI】
   C08G63/48
   C09D11/101
【請求項の数】8
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2018-507377(P2018-507377)
(86)(22)【出願日】2017年3月22日
(86)【国際出願番号】JP2017011500
(87)【国際公開番号】WO2017164246
(87)【国際公開日】20170928
【審査請求日】2018年9月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-56629(P2016-56629)
(32)【優先日】2016年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福島 明葉
(72)【発明者】
【氏名】高村 光仁
(72)【発明者】
【氏名】末永 隼也
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−070743(JP,A)
【文献】 特開2010−070742(JP,A)
【文献】 特開2013−194121(JP,A)
【文献】 特開平02−145668(JP,A)
【文献】 特開2011−225748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63/00−64/42
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
C09D11/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役系ロジン酸(A)にα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)を付加させた化合物、前記共役系ロジン酸(A)を除く有機一塩基酸(C)、及び脂肪族系多塩基酸無水物(D)と、ポリオール(E)との反応によって得られるロジン変性樹脂であって、
前記α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)の配合量が、前記共役系ロジン酸(A)に対して、80モル%〜200モル%の範囲であり、
前記有機一塩基酸(C)の配合量が、前記共役系ロジン酸(A)に対して、150〜400重量%の範囲である、ロジン変性樹脂。
【請求項2】
前記α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)の配合量が、前記共役系ロジン酸(A)に対して、100モル%〜200モル%の範囲である、請求項に記載のロジン変性樹脂。
【請求項3】
前記有機一塩基酸(C)の配合量が、前記共役系ロジン酸(A)に対して、150重量%〜300重量%の範囲である、請求項1又は2に記載のロジン変性樹脂。
【請求項4】
前記脂肪族系多塩基酸無水物(D)の炭素数が16以下である(但し、カルボニル炭素を除く)、請求項1〜3のいずれか1項に記載のロジン変性樹脂。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載のロジン変性樹脂と、活性エネルギー線硬化型化合物とを含む、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニス。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載のロジン変性樹脂と、活性エネルギー線硬化型化合物と、顔料とを含む、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ。
【請求項7】
基材と、前記基材の上に請求項に記載の活性エネルギー線硬化型平版印刷インキを用いて形成された印刷層とを有する、印刷物。
【請求項8】
ロジン変性樹脂の製造方法であって、
共役系ロジン酸(A)に、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)を付加させる反応を行う工程と、
前記工程で得た化合物、前記共役系ロジン酸(A)を除く有機一塩基酸(C)、及び脂肪族系多塩基酸無水物(D)と、ポリオール(E)とのエステル化反応を行う工程と
を含み、
前記α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)の配合量が、前記共役系ロジン酸(A)に対して、80モル%〜200モル%の範囲であり、
前記有機一塩基酸(C)の配合量が、前記共役系ロジン酸(A)に対して、150重量%〜400重量%の範囲である、ロジン変性樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロジン変性樹脂とその製造方法、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニス、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ、及び印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷で使用されるインキは、通常、5〜100Pa・sの比較的高い粘度を有する。平版印刷機の機構では、印刷機のインキ壺から複数のローラーを経由して版面の画線部にインキを供給してパターンを形成し、版面のインキを紙などの基材上に転写して画像を形成する。上記パターンを形成するために、湿し水を使用する平版印刷では、非画線部に湿し水が供給され、非画線部がインキを反発するようにする。一方、湿し水を使用しない平版印刷では、非画線部にシリコーン層を形成し、非画線部がインキを反発するようにする。
【0003】
特に、湿し水を使用する平版印刷では、インキと湿し水との乳化バランスが重要である。そのため、平版印刷で使用されるインキには、適度な乳化特性を有し、かつ高速印刷適性を有することが求められている。インキの乳化量が多すぎると、非画線部にもインキが着肉し易くなり、汚れが発生しやすくなる。一方、インキの乳化量が少ないと、絵柄の少ない印刷を行う場合に、インキ表面に湿し水が吐き出し易くなる。そのため、ロール間のインキ転移性や、基材へのインキ着肉性が悪くなり、安定して印刷することが難しくなる。
【0004】
さらに、近年では、印刷時の省人、省力化、自動化、及び高速化の要求が高まってきており、特に、印刷スピードは益々高速化してきている。そして、様々な印刷条件下において、トラブルなく長時間にわたって安定して高品位な印刷物が得られるインキが望まれており、これまでに種々なインキの改良が検討されている。
【0005】
一方、活性エネルギー線硬化型インキは、活性エネルギー線に対して硬化性を有する、アクリルエステル化合物のような不飽和化合物を構成成分として含有している。そのため、上記インキは、活性エネルギー線が照射されると、瞬時に硬化し、上記不飽和化合物の3次元架橋による強靭な被膜を形成する。また、上記インキは、瞬時に硬化することから、印刷直後に後加工を行うことができる。このような観点から、生産性向上及び意匠の保護のために強い被膜が要求される包装用パッケージ印刷や商業分野におけるフォーム印刷等において、活性エネルギー線硬化型インキが好適に使用されている。
【0006】
一般に、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキは、バインダー樹脂と、アクリルエステル化合物のような活性エネルギー線硬化型化合物と、顔料と、ラジカル重合開始剤と、各種添加剤とから構成される。
【0007】
活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ(以下、単に「インキ」ともいう)には、乳化特性、地汚れ耐性、及び初期濃度安定性といった印刷適性が要求される。また、同時に、上記インキには、硬化性、光沢性、及び密着性といった印刷被膜特性に加えて、耐摩擦性、及び耐溶剤性といった印刷被膜の強度も要求される。上記要求に応えるために、これまで、活性エネルギー線硬化型バインダー樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂等が検討されてきた。
例えば、特許文献1は、飽和ポリエステルをイソシアネート基含有ウレタンアクリレートで変性した樹脂を開示している。しかしながら、開示された樹脂は、直線性の高い構造であるため、十分なインキ粘弾性を得ることが難く、またミスチング性、地汚れ耐性などの印刷適性が低下し易い。
また、特許文献2は、ロジン誘導体多価カルボン酸を必須成分として含む水酸基過剰のポリエステル化合物と、アクリル酸又はメタクリル酸との反応によって得られる樹脂を開示している。しかし、上記ロジン誘導体多価カルボン酸の特定が十分ではなく、例えば、共役二重結合の残存量が多いときには硬化阻害を引き起こし易い。その結果、開示された樹脂は、硬化性に加えて、印刷被膜強度が不十分になるという問題が生じ易い。
さらに、特許文献3は、ロジン類と、α,β−不飽和カルボン酸との付加反応によって得られる、多価カルボン酸を含むポリエステル樹脂を開示している。しかし、開示された樹脂は、流動性や光沢性が不十分である傾向がある。
このように、活性エネルギー線硬化型バインダー樹脂について、種々の検討が行われているが、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキに要求される印刷特性及び印刷被膜特性において十分に満足できるものはなく、さらなる改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−348516号公報
【特許文献2】特開平2−51516号公報
【特許文献3】特開2010−070742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の状況を鑑みて、硬化性、光沢性、密着性、耐溶剤性、及び耐摩擦性といった印刷被膜適性と、初期濃度安定性といった印刷適性とを両立できる活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ及びその印刷物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、鋭意検討した結果、ロジン酸類と、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物とを付加反応させ、次いで有機一塩基酸と、脂肪族系多塩基酸無水物と、ポリオールとを反応させて得るロジン変性樹脂をバインダー樹脂に使用することにより、優れた印刷適性と印刷被膜適性を両立し得る活性エネルギー線硬化型平版印刷インキが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の一態様は、ロジン変性樹脂に関する。上記ロジン変性樹脂は、共役系ロジン酸(A)にα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)が付加した化合物に由来する構造単位(ab)と、上記共役系ロジン酸(A)を除く有機一塩基酸(C)に由来する構造単位(c)と、脂肪族系多塩基酸無水物(D)に由来する構造単位(d)と、ポリオール(E)に由来する構造単位(e)とを有し、上記構造単位(ab)と上記構造単位(c)との重量比が、100:80〜100:350の範囲であることを特徴とする。
上記ロジン変性樹脂において、上記構造単位(d)の炭素数は16以下であることが好ましい(但し、カルボニル炭素を除く)。また、上記構造単位(d)の割合は、上記構造単位(e)を除いた上記ロジン変性樹脂の全構造単位の合計モル数を基準として、5.0モル%〜65.0モル%の範囲であることが好ましい。
【0012】
本発明の他の態様は、共役系ロジン酸(A)にα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)を付加させた化合物、上記共役系ロジン酸(A)を除く有機一塩基酸(C)、及び脂肪族系多塩基酸無水物(D)と、ポリオール(E)との反応によって得られるロジン変性樹脂に関し、上記α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)の配合量が、上記共役系ロジン酸(A)に対して、80モル%〜200モル%の範囲であり、上記有機一塩基酸(C)の配合量が、上記共役系ロジン酸(A)に対して、100重量%〜400重量%の範囲であることを特徴とする。
【0013】
上記ロジン変性樹脂において、上記α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)の配合量は、上記共役系ロジン酸(A)に対して、100モル%〜200モル%の範囲であることが好ましい。また、上記有機一塩基酸(C)の配合量は、上記共役系ロジン酸(A)に対して、150重量%〜300重量%の範囲であることが好ましい。また、上記脂肪族系多塩基酸無水物(D)の炭素数は16以下であることが好ましい(但し、カルボニル炭素を除く)。
【0014】
本発明の他の態様は、上記第1の態様のロジン変性樹脂と、活性エネルギー線硬化型化合物とを含む、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニスに関する。
【0015】
本発明の他の態様は、上記第1の態様のロジン変性樹脂と、活性エネルギー線硬化型化合物と、顔料とを含む、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキに関する。
【0016】
本発明の他の態様は、基材と、上記基材の上に上記活性エネルギー線硬化型平版印刷インキを用いて形成された印刷層とを有する、印刷物に関する。
【0017】
本発明の他の態様は、ロジン変性樹脂の製造方法に関し、共役系ロジン酸(A)に、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)を付加させる反応を行う工程と、上記工程で得た化合物、上記共役系ロジン酸(A)を除く有機一塩基酸(C)、及び脂肪族系多塩基酸無水物(D)と、ポリオール(E)とのエステル化反応を行う工程とを含み、上記α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)の配合量が、上記共役系ロジン酸(A)に対して、80モル%〜200モル%の範囲であり、上記有機一塩基酸(C)の配合量が、上記共役系ロジン酸(A)に対して、100重量%〜400重量%の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本明細書で開示するロジン変性樹脂をバインダー樹脂として使用することで、印刷適性と印刷被膜適性とを両立できる活性エネルギー線硬化型平版印刷インキを提供することが可能である。上記インキを使用することで、従来の平版印刷の条件下で印刷した場合であっても、損紙枚数が少なく、効率良く高品質の印刷物を得ることが可能となる。
本明細書の開示は、2016年3月22日に出願された特願2016−056629号の主題に関し、この明細書の開示は全体的に参照のために本願明細書に組み込むものとする。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は、以下に記載の実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0020】
本実施形態のロジン変性樹脂は、共役系ロジン酸(A)にα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)が付加した化合物に由来する構造単位(ab)と、上記共役系ロジン酸(A)を除く有機一塩基酸(C)に由来する構造単位(c)と、脂肪族系多塩基酸無水物(D)に由来する構造単位(d)と、ポリオール(E)に由来する構造単位(e)とを有し、上記構造単位(ab)と上記構造単位(c)との重量比(ab):(c)が、100:80〜100:350である、ロジン変性樹脂に関する。
一実施形態において、上記重量比(ab):(c)は、100:100〜100:310であることが好ましく、100:100〜100:250であることがより好ましく、100:110〜100:230であることがさらに好ましい。ロジン変性樹脂において、上記重量比(ab):(c)比が上記範囲内である場合、被膜に光沢性を発現させることが容易となる。また、好適な分子量分布を有する樹脂を得ることが容易であり、そのことによって耐溶剤性や耐摩擦性が向上しやすい。
【0021】
上記重量比(ab):(c)は、ロジン変性樹脂における構造単位(ab)と構造単位(c)との重量の比であり、ロジン変性樹脂における構造単位(ab)の重量を100とした場合の、構造単位(c)の重量の値を意味する。
なお、上記構造単位(ab)の重量、及び構造単位(c)の重量は、上記ロジン変性樹脂を製造するために使用した上記単量体(A)、(B)、及び(C)の仕込み量から反応終了後の各単量体の残量を減じることで算出される。また、実施例において、具体的な算出方法について詳細に説明する。
【0022】
一実施形態において、上記ロジン変性樹脂は、共役系ロジン酸(A)にα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)を付加させた化合物、上記共役系ロジン酸(A)を除く有機一塩基酸(C)、及び脂肪族系多塩基酸無水物(D)と、ポリオール(E)との反応によって得られるポリマー化合物である。ポリマー化合物は、各々の単量体に由来する構造単位(ab)、(c)、及び(d)と、構造単位(e)とが、互いにエステル結合を介して結合した構造を有する、ロジン変性ポリエリステル樹脂である(以下、ロジン変性樹脂と称す)。上記ロジン変性樹脂は、共役系ロジン酸(A)に由来する構造単位(a)、及び/又は、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)に由来する構造単位(b)をさらに含んでもよい。
【0023】
特に限定するものではないが、例えば、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)として、(無水)マレイン酸等のカルボキシル基を2つ有する化合物を用い、脂肪族系多塩基酸無水物(D)として、無水コハク酸等のカルボキシル基を2つ有する化合物を用いた場合、ロジン変性樹脂は、代表的に下記式(I)〜(VI)で表される部分構造を有してよい。中でも、下記式(IV)〜(VI)で表される部分構造は、樹脂の末端構造の具体例である。但し、ロジン変性樹脂の部分構造はこれらに限定されない。
また、詳細は後述するが、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)が脂肪族系多塩基酸無水物(D)として反応に関与する形態の場合、下記式(I)、(II)及び(IV)に含まれる構造単位(d)の代わりに、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)に由来する構造単位(b)が含まれてもよい。また、成分(A)に成分(B)を付加させる反応(後述するディールスアルダー付加反応)の後、成分(A)が残留する場合、構造単位(c)の一部が、成分(A)に由来する構造単位(a)となってもよい。
【0024】
(ロジン変性樹脂の部分構造の例)
【化1】
【0025】
以下、各構造単位を構成する単量体について説明する。
<共役系ロジン酸(A)>
ロジン変性樹脂を構成する構造単位(ab)を有する化合物は、共役系ロジン酸類(A)と、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)とのディールスアルダー反応によって形成される。
上記共役系ロジン酸(A)は、共役二重結合を有するロジン酸類である。本明細書において「ロジン酸類」とは、環式ジテルペン骨格を有する有機一塩基酸及びその誘導体を意味する。ロジン酸類は、例えば、ロジン酸、不均化ロジン酸、水添ロジン酸、及びこれら化合物のアルカリ金属塩であってよい。また、「共役二重結合」とは、複数の二重結合が単結合を挟んで交互に連なっている結合を意味する。但し、芳香族化合物に含まれるπ電子共役系の共役二重結合は含まない。すなわち、本明細書で記載する「共役系ロジン酸類(A)」は、共役二重結合を有さない水添ロジン酸等を除いた、上記ロジン酸類を意味する。
【0026】
共役系ロジン酸(A)として、具体的には、アビエチン酸、及びその共役化合物である、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、及びレボピマル酸が挙げられる。また、これらの共役系ロジン酸(A)を含有する天然樹脂として、ガムロジン、ウッドロジン、及びトール油ロジン等が挙げられる。一般に、上記天然樹脂には、共役系ロジン酸(A)とともに、共役二重結合を有さないロジン酸類が含まれているが、ロジン変性樹脂の製造時にこれら天然樹脂を使用しても差し支えない。共役二重結合を有さないロジン酸類は、後述の有機一塩基酸(C)として反応に関与する。また、共役系ロジン酸(A)は、ロジン変性樹脂の製造時の配合量に応じて、化合物に由来する構造単位(a)を構成してもよい。
【0027】
<α,β−不飽和カルボン酸またはその酸無水物(B)>
ロジン変性樹脂を構成する構造単位(ab)を有する化合物を得るために使用可能なα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)の具体例として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、桂皮酸、2,4−ヘキサジエノン酸、及びこれらの酸無水物が挙げられる。
共役系ロジン酸(A)との反応性の観点から、マレイン酸、又はその酸無水物が好ましい。なお、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)は、ロジン変性樹脂の製造時の配合量に応じて、化合物に由来する構造単位(b)を構成してもよい。
【0028】
<有機一塩基酸(C)>
ロジン変性樹脂を構成する構造単位(c)を得るために使用可能な有機一塩基酸(C)は、共役二重結合を有さない有機一塩基酸であればよく、公知の材料を任意に用いることができる。具体例として、
酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、及びベヘン酸等の飽和脂肪酸、
クロトン酸、リンデル酸、ツズ酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、ガドレイン酸、ゴンドレン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、リノエライジン酸、リノレン酸、及びアラキドン酸等の不飽和脂肪酸、
安息香酸、メチル安息香酸、ターシャリーブチル安息香酸、ナフトエ酸、オルトベンゾイル安息香酸等の芳香族一塩基酸、
共役リノール酸、エレオステアリン酸、パリナリン酸、カレンジン酸等の共役二重結合を有するが環式ジテルペン骨格を有さない化合物
が例示される。
また、上記の通り、ピマル酸、イソピマル酸、サンダラコピマル酸、及びデヒドロアビエチン酸等の共役二重結合を有さないロジン酸類も、有機一塩基酸(C)として用いることができる。
【0029】
一実施形態において、活性エネルギー線硬化型化合物との相溶性を向上させ、流動性を改善できる観点から、有機一塩基酸(C)として、炭素数が16以下である化合物を用いることが好ましい。但し、上記炭素数は、化合物におけるカルボニル炭素を除いた炭素の数を意味する。また、顔料との相溶性を向上させ、光沢性を改善できる観点から、先に例示した化合物の中でも、芳香族一塩基酸を使用することが特に好ましい。
【0030】
<脂肪族系多塩基酸無水物(D)>
脂肪族系多塩基酸無水物(D)は、芳香族系多塩基酸無水物を除いた多塩基酸無水物を意味する。脂肪族系多塩基酸無水物(D)は、直鎖構造、又は分岐構造のいずれであってもよい。また、環状構造を有する、すなわち脂環式多塩基酸無水物であってもよい。
ロジン変性樹脂を構成する構造単位(d)を得るために使用可能な脂肪族系多塩基酸無水物(D)の具体例として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライ酸、ドデシルコハク酸、テトラデシルコハク酸、ペンタデシルコハク酸等のアルキルコハク酸、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、3−メチルヘキサヒドロフタル酸、4−メチルヘキサヒドロフタル酸、ハイミック酸、3−メチルハイミック酸、及び4−メチルハイミック酸等の無水物が挙げられる。
【0031】
脂肪族系多塩基酸無水物(D)として、上記α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)で例示した二塩基酸無水物を使用することもできる。具体例として、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、及びイタコン酸等の酸無水物を使用することもできる。
【0032】
本実施形態のロジン変性樹脂は、剛直な構造を保有する芳香族系多塩基酸無水物ではなく、脂肪族系多塩基酸無水物に由来する構造単位を含むことで、密着性の発現及び向上が可能となる。
一実施形態において、ロジン変性樹脂における構造単位(d)の割合は、後述する構造単位(e)を除いた全構造単位の合計モル数を基準として、5.0モル%以上が好ましく、6.5モル%以上がより好ましく、8.0モル%以上がさらに好ましい。一方、上記構造単位(d)の割合は、65.0モル%以下が好ましく、55.0モル%以下がより好ましく、45.0モル%以下がさらに好ましく、38.5モル%以下が特に好ましい。一実施形態において、上記構造単位(d)の割合は、5.0〜65.0モル%の範囲が好ましく、6.5〜45.0モル%の範囲がより好ましく、8.0〜38.5モル%の範囲がさらに好ましい。
【0033】
ここで、ロジン変性樹脂の製造時に、共役系ロジン酸(A)に対して過剰量のα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)を使用した場合、ロジン変性樹脂は、ポリオール(E)と上記成分(B)とのエステル化反応を経て構造単位(b)を含むことになる。この実施形態において、例えば、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)として無水マレイン酸等の二塩基酸無水物を使用した場合、過剰量の二塩基酸無水物は、脂肪族系多塩基酸無水物(D)の一部として反応に関与する。すなわち、このような実施形態において、上記ロジン変性樹脂における構造単位(d)の割合は、過剰量の上記成分(B)に由来する構造単位(b)を含む量となる。
【0034】
本明細書において、ロジン変性樹脂における各構造単位の割合(モル%)は、先に説明した構造単位の重量比と同様に、ロジン変性樹脂を製造するために使用した、各構造単位に対応する単量体の仕込み量から、反応終了後の各成分の残量を減じた量を基準にして算出した値である。
【0035】
活性エネルギー線硬化型化合物との相溶性を向上させ、流動性が向上し、光沢性や印刷適性が良化できる観点から、構造単位(d)の炭素数は16以下(但し、カルボニル炭素を除く)であることが好ましい。このような観点から、脂肪族系多塩基酸無水物(D)として、炭素数が16以下である化合物(但し、カルボニル炭素を除く)を用いることが好ましい。一実施形態において、脂肪族系多塩基酸無水物(D)として、無水コハク酸、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、及びテトラデシルコハク酸無水物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を使用することが好ましい。
【0036】
<ポリオール(E)>
ロジン変性樹脂を構成する構造単位(e)を得るために使用可能なポリオール(E)は、分子内に2以上の水酸基を有する化合物であればよく、特に限定されない。ポリオール(E)は、共役系ロジン酸類(A)、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)とのディールスアルダー反応によって得られる化合物、有機一塩基酸(C)、及び脂肪族系多塩基酸無水物(D)におけるカルボン酸との反応によってエステル結合を形成する。
一実施形態において、ポリオール(E)は、2価アルコールであってよい。特に限定するものではないが、2価アルコールの具体例として、以下が挙げられる。
(直鎖状アルキレン2価アルコール)
1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,2−デカンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオール等。
(分岐状アルキレン2価アルコール)
2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオ−ル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ジメチロールオクタン、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール等。
(環状アルキレン2価アルコール)
1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘプタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、水添ビスフェノールS、水添カテコール、水添レゾルシン、水添ハイドロキノン等。
他の具体例として、ポリエチレングリコール(n=2〜20)、ポリプロピレングリコール(n=2〜20)、ポリテトラメチレングリコール(n=2〜20)等のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0037】
他の実施形態において、ポリオール(E)は、3価以上の多価アルコールであってよい。具体例として、グリセリン、トリメチロ−ルプロパン、ペンタエリスリトール、1,2,6−ヘキサントリオール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ヒドロキシメチルヘキサンジオール、トリメチロールオクタン、ジグリセリン、ジトリメチロ−ルプロパン、ジペンタエリスリト−ル、ソルビトール、イノシトール、トリペンタエリスリトール等の直鎖状、分岐状、及び環状の多価アルコールが挙げられる。
【0038】
一実施形態において、ロジン変性樹脂は、共役系ロジン酸(A)にα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)を付加させた化合物、上記共役系ロジン酸(A)を除く有機一塩基酸(C)、及び脂肪族系多塩基酸無水物(D)と、ポリオール(E)との反応によって得られる反応物であり、上記α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)の配合量が、上記共役系ロジン酸(A)に対して80〜200モル%であり、上記有機一塩基酸(C)の配合量が、上記共役系ロジン酸(A)に対して、100〜400重量%であることが好ましい。
【0039】
<ロジン変性樹脂の製造方法>
上記ロジン変性樹脂は、(1)共役系ロジン酸(A)と、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)との反応、並びに(2)上記(1)の反応で得た化合物、有機一塩基酸(C)、及び脂肪族系多塩基酸無水物(D)を含むカルボン酸含有化合物と、ポリオール(E)との反応を経て製造される。
上記(1)の反応は、共役系ロジン酸(A)における共役二重結合(ジエン)と、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)における二重結合(ジエノフィル)とのディールスアルダー付加反応である。また、上記(2)の反応は、(1)の反応で得たディールスアルダー付加反応物、有機一塩基酸(C)、及び脂肪族系多塩基酸無水物(D)の各化合物におけるカルボキシル基と、ポリオール(E)における水酸基との間のエステル化反応である。
【0040】
共役系ロジン酸(A)とα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)とのディールスアルダー付加反応物は、多価カルボン酸化合物となる。そのため、ポリオール(E)とのエステル化反応により高分子化が可能となる。また、エステル化反応時に有機一塩基酸(C)を併用することで、過剰な高分子化を抑制することができ、分子量分布の制御が可能となる。さらに、ディールスアルダー付加反応によって、共役系ロジン酸(A)中の共役二重結合を消滅させることができるとともに、ロジン酸類由来の多環構造をロジン変性樹脂に導入することができる。通常、共役系ロジン酸(A)中の共役二重結合は、インキ硬化のための活性エネルギー線照射時に硬化阻害を引き起こす。しかし、本実施形態では、ディールスアルダー付加反応によって共役系ロジン酸(A)中の共役二重結合を消滅させるため、インキの硬化性を向上することが容易となる。
以上により、本実施形態のロジン変性樹脂の製造方法によれば、乳化特性、高速印刷適性、硬化性等の印刷適性と被膜強度とを両立することが可能となる。加えて、上記の通り、柔軟性を有する脂肪族系多塩基酸無水物(D)を構造中に組み込むことによって、上記被膜特性に加えて、優れた密着性、及び光沢性を発現させることも可能となる。
【0041】
ディールスアルダー付加反応の条件は、特に限定されず、常法に従って行うことができる。反応温度は、使用する化合物の沸点、及び反応性を考慮して決定することができる。一実施形態において、上記反応温度は、80℃〜200℃の範囲が好ましく、100〜200℃の範囲がより好ましく、100〜180℃の範囲がさらに好ましい。
ディールスアルダー付加反応は、重合禁止剤の存在下で行なっても良い。使用可能な重合禁止剤の具体例として、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、メチルハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、t−ブチルカテコール、4−メトキシ−1−ナフトール、及びフェノチアジン等が挙げられる。
【0042】
エステル化反応の条件も、特に限定されず、常法に従って行うことができる。反応温度は、使用する化合物の沸点、及び反応性を考慮して決定することができる。一実施形態において、上記反応温度は、200℃〜300℃の範囲が好ましく、200〜280℃の範囲がより好ましく、200〜260℃の範囲がさらに好ましい。
また、必要に応じて、エステル化反応において、触媒を用いることが可能である。使用可能な触媒の一例として、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−ドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の有機スルホン酸類、硫酸、塩酸等の鉱酸、トリフルオロメチル硫酸、トリフルオロメチル酢酸等が挙げられる。さらに、使用可能な触媒の他の例として、テトラブチルジルコネート、テトライソブチルチタネート等の金属錯体、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、酸化亜鉛、酢酸亜鉛等の金属塩触媒なども挙げられる。これら触媒は、ロジン変性樹脂の製造時に使用した全成分の総量を基準として、通常、0.01〜5重量%の範囲で使用される。触媒を使用することによる樹脂の着色を抑制するために、樹脂の製造時に、次亜リン酸、トリフェニルホスファイト、トリフェニルホスフェート、及びトリフェニルホスフィン等を併用することもできる。
【0043】
上記ロジン変性樹脂の製造において、樹脂を構成する上記(A)〜(E)の単量体は、同時に配合することもできるし、段階的に配合することもできる。
例えば、共役系ロジン酸(A)、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)、有機一塩基酸(C)、脂肪族系多塩基酸無水物(D)、及びポリオール(E)の混合物を用いて、2段階で反応を実施することができる。この場合、最初に、共役系ロジン酸(A)と、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)とのディールスアルダー付加反応が起こるように反応温度を調整すればよい。より具体的には、最初に、反応温度をディールスアルダー付加反応が進行する温度に制御し、一定時間にわたって維持した後に、エステル化反応が進行する温度まで加熱し反応を実施すればよい。
別法として、共役系ロジン酸(A)とα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)を配合し、ディールスアルダー付加反応させた後、有機一塩基酸(C)、脂肪族系多塩基酸無水物(D)、及びポリオール(E)を配合し、エステル化反応を実施してもよい。
なお、一実施形態において、共役系ロジン酸(A)に対して過剰量のα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)を使用した場合、ディールスアルダー付加反応に関与しなかった(B)成分は、続くエステル化反応で脂肪族系多塩基酸無水物(D)と同様に消費されることになる。脂肪族系多塩基酸無水物(D)として、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)と同じ化合物を用いてもよい。
【0044】
一実施形態において、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)の配合量は、共役系ロジン酸(A)に対して、80〜200モル%の範囲であることが好ましく、100〜200モル%の範囲であることがより好ましく、110〜200モル%の範囲であることがさらに好ましい。α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)の配合量を上記範囲内に調整した場合、硬化性、及び流動性に優れるロジン変性樹脂を得ることが容易である。
【0045】
一実施形態において、有機一塩基酸(C)の配合量は、共役系ロジン酸(A)に対して、100〜400重量%の範囲であることが好ましく、100〜300重量%の範囲であることがより好ましく、150〜300重量%の範囲であることがさらに好ましい。上記配合量が100重量%以上である場合、樹脂合成中のゲル化を抑制することが容易である。また、上記配合量が400重量%以下である場合、ロジン変性樹脂の重量平均分子量の制御が容易である。また、上記記配合量で調製して得たロジン変性樹脂を使用して活性エネルギー線硬化型平版印刷インキを構成した場合、インキの流動性が向上し、優れた光沢性や印刷適性を得ることが容易である。
【0046】
一実施形態において、ロジン変性樹脂の製造方法は、
共役系ロジン酸(A)に、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)を付加させる反応を行う第1の工程と、
上記第1の工程で得た化合物、上記共役系ロジン酸(A)を除く有機一塩基酸(C)、及び脂肪族系多塩基酸無水物(D)と、ポリオール(E)との反応を行う第2の工程と
を含み、上記α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)の配合量が、上記共役系ロジン酸(A)に対して80〜200モル%であり、上記有機一塩基酸(C)の配合量が、上記共役系ロジン酸(A)に対して、100〜400重量%であることを特徴とする。
【0047】
上記製造方法において、第1の工程は、80℃から200℃の範囲の反応温度で実施することが好ましい。また、第2の工程は、200℃から300℃の範囲の反応温度で実施することが好ましい。
【0048】
ロジン変性樹脂において、ロジン酸類由来の多環構造は、乳化特性、被膜強度等の特性向上に寄与する。このような観点から、樹脂製造時に使用するロジン酸類の全量は、使用する単量体(A)〜(E)の合計量を基準として、10〜40重量%の範囲であることが好ましく、10〜35重量%の範囲であることがより好ましく、10〜30重量%の範囲であることがさらに好ましい。
ロジン変性樹脂において、ロジン酸類に由来する多環構造を含む構造単位の含有量が10重量%以上の場合、上記多環構造に由来する、乳化特性、被膜強度等の特性が好適に発現するため好ましい。また、上記多環構造を含む構造単位の含有量が40重量%以下である場合、ワニス又はインキ組成物の調製において、活性エネルギー線硬化性化合物に対する溶解性が良好となり好ましい。
一実施形態において、ロジン変性樹脂の製造時に、原料として、ガムロジン等の天然樹脂を使用した場合、上記天然樹脂は、共役系ロジン酸(A)とともに、共役二重結合を有さないロジン酸類などその他の成分を含んでいる。このような実施形態では、共役二重結合の有無に関係なく、天然樹脂におけるロジン酸類由来の多環構造を有する成分の合計量が上記範囲内となるように、配合量を調製すればよい。
【0049】
上記ロジン変性樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が、10000〜50000の範囲が好ましく、15000〜45000の範囲がより好ましく、15000〜35000の範囲がさらに好ましく、15000〜30000の範囲が特に好ましい。ロジン変性樹脂の重量平均分子量が上記範囲内である場合、当該樹脂を使用したインキは、好適な乳化特性や、優れた印刷適性を有する。
上記ロジン変性樹脂の酸価は、5〜50の範囲が好ましく、5〜45の範囲がより好ましく、15〜40の範囲がさらに好ましく、20〜38の範囲が特に好ましい。ロジン変性樹脂の酸価が上記範囲内である場合、当該樹脂を使用したインキは、好適な乳化特性や、優れた印刷適性を有する。
上記ロジン変性樹脂において、水酸基/カルボキシル基の比率は、0.8〜1.2の範囲が好ましく、0.9〜1.2の範囲がより好ましく、1.0〜1.2の範囲がさらに好ましい。また、上記ロジン変性樹脂の融点は50℃以上であることが好ましく、60〜100℃の範囲がより好ましく、60〜80℃の範囲がさらに好ましい。
特に限定するものではないが、一実施形態において、ロジン変性樹脂は、ポリスチレン換算の重要平均分子量が15000〜35000であり、酸価が15〜40であり、かつ融点が60℃以上であることが好ましい。各特性が上記範囲内であるロジン変性樹脂を使用して活性エネルギー線硬化型の平版印刷インキを構成した場合、優れた乳化特性、及びインキ転移性を得ることが容易である。なお融点は、BUCHI社製のMeltingPointM−565を用い、昇温速度0.5℃/分の条件下で測定できる。
【0050】
<活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニス>
一実施形態において、上記ロジン変性樹脂を使用して、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニスを構成することができる。一実施形態において、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニスは、上記ロジン変性樹脂と、活性エネルギー線硬化型化合物とを含んでよい。特に限定するものではないが、例えば、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニスは、ワニスの全重量を基準として、上記ロジン変性樹脂を10〜50重量%と、活性エネルギー線硬化型化合物を50〜90重量%とを含有するものであってよい。上記ロジン変性樹脂と活性エネルギー線硬化型化合物との配合比は、重量比で10:90〜45:55の範囲がより好ましく、20:80〜45:55の範囲がさらに好ましい。
【0051】
本明細書において、活性エネルギー線硬化型化合物とは、分子内にアクリル基を有する化合物を意味する。上記活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニスを構成するために使用可能な化合物の具体例として、
2−エチルヘキシルアクリレート、メトキシジエチレングリコールアクリレート、アクリロイルモルホリン等の単官能活性エネルギー線硬化型化合物、
エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(n=2〜20)、プロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート(n=2〜20)、アルカン(炭素数4〜12)グリコールジアクリレート、アルカン(炭素数4〜12)グリコールエチレンオキサイド付加物(2〜20モル)ジアクリレート、アルカン(炭素数4〜12)グリコールプロピレンオキサイド付加物(2〜20モル)ジアクリレート、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレートジアクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(2〜20モル)ジアクリレート、水添ビスフェノールAジアクリレート、水添ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(2〜20モル)ジアクリレート等の2官能活性エネルギー線硬化型化合物、
グリセリントリアクリレート、グリセリンエチレンオキサイド付加物(3〜30モル)トリアクリレート、グリセリンプロピレンオキサイド付加物(3〜30モル)トリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(3〜30モル)トリアクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド付加物(3〜30モル)トリアクリレート等の3官能活性エネルギー線硬化型化合物、
ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラアクリレート、ペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラアクリレート、ジグリセリンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラアクリレート、ペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンプロピレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラアクリレート等の4官能活性エネルギー線硬化型化合物、及び
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(6〜60モル)ヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物(6〜60モル)ヘキサアクリレート等の多官能活性エネルギー線硬化型化合物
が挙げられる。活性エネルギー線硬化型化合物として、例示した化合物を単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
上記に例示した化合物の中でも、硬化性の観点から、多官能活性エネルギー線硬化型化合物を使用することが好ましい。多官能活性エネルギー線硬化型化合物として、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラアクリレート、ペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラアクリレート、ジグリセリンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラアクリレート、ペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンプロピレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(6〜60モル)ヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物(6〜60モル)ヘキサアクリレートからなる群から選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0052】
活性エネルギー線硬化型化合物は、要求される硬化被膜特性に応じて、適宜選択することが可能である。必要に応じて、上記化合物に加えて、ポリエステルアクリレート、ポリウレタンアクリレート、及びエポキシアクリレート等のオリゴマーを併用することも可能である。
【0053】
一実施形態において、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニスは、上記成分に加えて、さらに光重合禁止剤を含んでもよい。このような実施形態では、光重合禁止剤を常法により添加し、使用することができる。上記ワニスに光重合禁止剤を添加する場合、硬化性を阻害しない観点から、その配合量は、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニスの全重量に基準として、3重量%以下にすることが好ましい。一実施形態において、上記光重合禁止剤は、ワニスの全重量を基準として、0.01〜1重量%の範囲で使用することが好ましい。
【0054】
使用可能な光重合禁止剤の具体例として、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p−メトキシフェノール、t−ブチルカテコール、t−ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1−ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p−ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5−ジ−tert−ブチル−p−ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、トリ−p−ニトロフェニルメチル、N−(3−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o−イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシム、及びシクロヘキサノンオキシム等が挙げられる。特に限定するものではないが、一実施形態において、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、t−ブチルハイドロキノン、p−ベンゾキノン、2,5−ジ−tert−ブチル−p−ベンゾキノンからなる群から選択される1種以上の化合物を使用することが好ましい。
【0055】
上記活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニスは、例えば、常温から150℃の間の温度条件下で、上記成分を混合することで製造することができる。一実施形態において、ロジン変性樹脂と、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと、ハイドロキノンとを、100℃の温度条件下で、加熱溶融して得たワニスを好適に使用することができる。
【0056】
<活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ>
一実施形態において、上記ロジン変性樹脂を使用して、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキを構成することができる。例えば、上記活性エネルギー線硬化型平版印刷インキは、上記ロジン変性樹脂と、活性エネルギー線硬化型化合物と、顔料とを含んでよい。上記活性エネルギー線硬化型化合物は、先にワニスの構成成分として例示した化合物であってよい。
一実施形態において、上記活性エネルギー線硬化型平版印刷インキは、上記ロジン変性樹脂を5〜40重量%、上記活性エネルギー線硬化型化合物を30〜75重量%、及び顔料を5〜40重量%含有するものであってよい(但し、各成分の含有量の合計が100重量%とする)。ここで、上記ロジン変性樹脂、及び上記活性エネルギー線硬化型化合物は、予めワニスの形態に調製して使用してもよい。
【0057】
顔料は、公知公用の各種顔料であってよく、無機顔料及び有機顔料を使用することができる。
無機顔料の具体例として、黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミムレッド、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイト、及びアルミニウム粉等が挙げられる。
有機顔料の具体例として、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系、β−オキシナフトエ酸系アリリド系、アセト酢酸アリリド系、及びピラゾロン系等の溶性アゾ顔料、
β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系アリリド系、アセト酢酸アリリド系モノアゾ、アセト酢酸アリリド系ジスアゾ、及びピラゾロン系等の不溶性アゾ顔料、
銅フタロシアニンブルー、ハロゲン化(塩素又は臭素化)銅フタロシアニンブルー、及びスルホン化銅フタロシアニンブルー、金属フリーフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、
キナクリドン系、ジオキサジン系、スレン系(ピラントロン、アントアントロン、インダントロン、アントラピリミジン、フラバントロン、チオインジゴ系、アントラキノン系、ペリノン系、ペリレン系等)、イソインドリノン系、金属錯体系、キノフタロン系等の多環式顔料及び複素環式顔料等が挙げられる。公知公用の各種顔料が使用可能である。
【0058】
上記活性エネルギー線硬化型平版印刷インキは、活性エネルギー線の照射によって硬化する。一実施形態において、紫外線でインキを硬化させる場合は、インキに光重合開始剤を添加することが好ましい。一般に、光重合開始剤は、光により分子内で結合が開裂して活性種を生成するタイプと、分子間で水素引き抜き反応を起こして活性種を生成するタイプとの2種類に大別できる。
【0059】
前者として、例えば、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ジエトキシアセトフェノン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパン}、4−(2−アクリロイル−オキシエトキシ)フェニル−2−ヒドロキシ−2−プロピルケトン等のアセトフェノン系、ベンゾイン、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトンとベンゾフェノンとの混合物、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド系、ベンジル、メチルフェニルグリオキシエステル、及び3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0060】
後者として、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系、ミヒラーケトン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のアミノベンゾフェノン系、10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−エチルアンスラキノン、9,10−フェナンスレンキノン、及びカンファーキノン等がある。
例示した光重合開始剤を単独で使用しても、必要に応じて2種以上を組合せて使用しても良い。
【0061】
活性エネルギー線硬化型平版印刷インキに紫外線を照射して、インキを硬化させる場合、インキに光重合開始剤を添加するだけでよいが、硬化性をより向上させるために、光増感剤を併用することもできる。
光増感剤としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、及び4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシル等のアミン類が挙げられる。
【0062】
一実施形態において、活性エネルギー線として紫外線を使用する場合、光重合開始剤の配合量は、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキの全重量を基準として、0.01〜15重量%であることが好ましく、0.05〜10重量%であることがより好ましい。上記配合量を0.01重量%以上とした場合、硬化反応が十分に進行する。また、上記配合量を15重量部以下とした場合、熱重合反応の発生を抑制し活性エネルギー線硬化型平版印刷インキの安定性を好適な状態にすることが容易である。活性エネルギー線として、紫外線以外の電離放射線を使用する場合には、光重合開始剤を配合しなくてもよい。
【0063】
活性エネルギー線硬化型平版印刷インキは、光重合禁止剤、耐摩擦剤、ブロッキング防止剤、スベリ剤等の各種添加剤を、目的に応じて、さらに含んでもよい。各種添加剤は、常法によりインキに添加することができる。インキに対して各種添加剤を添加する場合、他のインキ材料の効果を阻害しない範囲で配合量を調整することが好ましい。一実施形態において、各種添加剤の配合量は、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ全量を基準として、15重量%以下であることが好ましい。なお、光重合禁止剤を使用する場合、例えば、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニスに使用可能な光重合禁止剤として例示した化合物を用いることができる。
【0064】
活性エネルギー線の照射は、窒素ガス等の不活性ガス置換雰囲気下で実施することが好ましいが、大気中で照射しても差し支えない。活性エネルギー線を照射する前に、赤外線ヒーター等によって活性エネルギー線硬化型平版印刷インキの塗布層を加温するか、又は活性エネルギー線を照射した後に、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキの硬化層を赤外線ヒーター等で加温することは、硬化を速く終了させるために有効である。
【0065】
本明細書において、活性エネルギー線とは、代表的に、紫外線、電子線、X線、α線、β線、γ線のような電離放射線、マイクロ波、高周波等を意味する。しかし、活性エネルギー線は、上記に限定されるものではなく、ラジカル性活性種を発生させ得るならば、いかなるエネルギー種でもよく、可視光線、赤外線、及びレーザー光線でもよい。
紫外線を発生するものとしては、例えば、LED、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、ヘリウム・カドミニウムレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー、及びアルゴンレーザーなどが挙げられる。
【0066】
活性エネルギー線硬化型平版印刷インキは、常温から100℃間の温度条件下で、上記の成分を練肉、及び混合することによって製造することができる。インキを製造するために、例えば、ニーダー、三本ロール、アトライター、サンドミル、ゲートミキサー等の各種器材を用いることが好ましい。インキを製造するためにロジン変性樹脂を添加する場合は、ロジン変性樹脂そのものの形態で添加してもよいし、上記ロジン変性樹脂を含む活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用ワニスの形態で添加してもよい。
【0067】
一実施形態において、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキは、通常、湿し水を使用する平版オフセット印刷に好適に使用することができる。しかし、このような実施形態に限らず、上記インキは、湿し水を使用しない水無し平版印刷においても好適に使用することができる。
一実施形態において、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキは、フォーム用印刷物、各種書籍用印刷物、カルトン紙等の各種包装用印刷物、各種プラスチック印刷物、シール/ラベル用印刷物、美術印刷物、金属印刷物(美術印刷物、飲料缶印刷物、缶詰等の食品印刷物)などの印刷物に適用される。他の実施形態として、上記印刷物のオーバーコートワニスとして使用されることもある。
【0068】
上記インキが適用される基材は、特に限定されない。使用可能な基材の具体例として、上質紙等の非塗工紙、微塗工紙、アート紙、コート紙、軽量コート紙、キャストコート紙等の塗工紙、白板紙、ボールコート等の板紙、合成紙、アルミ蒸着紙、及びポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等のプラスチックシートが挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、本明細書に記載の「部」は重量部を表し、「%」は重量%を示す。
【0070】
以下の実施例で実施した各種測定の詳細は以下のとおりである。
(重量平均分子量)
重量平均分子量は、東ソー(株)製のゲルパーミネイションクロマトグラフィ(HLC−8320)で測定した。検量線は標準ポリスチレンサンプルにより作成した。また、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、カラムとしてTSKgel SuperHM−M(東ソー(株)製)を3本用いた。測定は、流速0.6mL/分、注入量10μL、及びカラム温度40℃の条件下で行った。
【0071】
(酸価)
酸価は、中和滴定法によって測定した。具体的には、先ず、ロジン変性樹脂1gをキシレン:エタノール=2:1の重量比で混合した溶媒20mLに溶解させた。次いで、先に調製したロジン変性樹脂の溶液に、指示薬として3重量%のフェノールフタレイン溶液を3mL加えた後に、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液で中和滴定を行った。酸価の単位は、mgKOH/gである。
【0072】
(ロジン酸類の成分分析)
原料として使用するロジン酸類をガスクロマトグラフィー質量分析計で分析し、全ロジン酸ピーク面積100%に対する、各ピーク面積比(%)を求めた。より具体的には、ロジン酸類中に含まれる共役系ロジン酸(A)と有機一塩基酸(C)との含有比を、それぞれ該当するピーク面積の比から求めた。
【0073】
(ディールスアルダー付加反応の進行の確認と、生成した上記付加反応物の定量)
ディールスアルダー付加反応の反応液をガスクロマトグラフィー質量分析計で分析し、原料として使用した、共役系ロジン酸(A)、及びα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)の検出ピークの減少によって反応の進行を確認した。検出ピークの減少に変化が見られない時点で反応を終了した。
また、ロジン酸類中に含まれる共役系ロジン酸(A)、及びα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)について、予め検量線を作成しておき、上記分析で得た反応終了時のピークの面積を上記検量線に当てはめることで、反応液中に残存する各成分の量を測定した。各成分の仕込み量から、上記残存する成分の量を差し引くことで、ディールスアルダー付加反応で消費された上記成分(A)及び(B)の量を算出した。さらに上述した、ディールスアルダー付加反応で消費された各成分の量を足し合わせることで、上記付加反応によって得られた、共役系ロジン酸(A)にα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)が付加した構造単位(ab)を有する化合物の重量を算出した。
なお、共役系ロジン酸(A)にα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)が付加した構造単位(ab)を有する化合物のモル量は、上記で算出した、ディールスアルダー付加反応で消費された上記成分(A)及び(B)の重量を、各成分の分子量でそれぞれ除算することで得られる、ディールスアルダー付加反応で消費された各成分のモル量のうち、小さい方の値となる。
また上記の、ディールスアルダー付加反応によって得られた構造単位(ab)を有する化合物の分子量は、(A)の分子量と(B)の分子量の和で算出できる。
【0074】
(ロジン変性樹脂中の各構造単位の量の確認)
上記構造単位(ab)を有する化合物(ディールスアルダー付加反応物)の定量と同様に、エステル化反応後の反応液を、ガスクロマトグラフィー質量分析計で分析し、有機一塩基酸(C)、脂肪族系多塩基酸無水物(D)、及び、ポリオール(E)のピーク面積を測定した。そして、予め作成しておいた、上記各成分の検量線に当てはめることで、反応液中に残存する各成分の量を測定した。エステル化反応で使用した各成分の仕込み量から、残存する各成分の量を差し引くことで、エステル化反応で消費された、すなわち、ロジン変性樹脂中に存在する、構造単位(c)、(d)、及び(e)の重量を算出した。
また上記と同様にして、ディールスアルダー付加反応に関与せず残存していた成分(A)及び(B)についても、エステル反応後の反応液中に残存する各成分の量を測定した。そしてそれぞれ、ディールスアルダー付加反応後に残存していた成分(A)及び(B)の量から差し引くことで、エステル化反応で消費された、すなわち、ロジン変性樹脂中に存在する、構造単位(a)、及び(b)の重量を算出した。
さらに、共役系ロジン酸(A)にα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)が付加した構造単位(ab)を有する化合物についても、上記と同様に、エステル反応後の反応液中に残存する各成分の量を測定した。そして、上記で算出した、ディールスアルダー付加反応によって得られた上記構造単位(ab)を有する化合物の重量から差し引くことで、エステル化反応で消費された、すなわち、ロジン変性樹脂中に存在する、構造単位(ab)の重量を算出した。
そして、上記エステル化反応における各成分の消費量を、それぞれの分子量で除算することで、エステル化反応で消費された各成分のモル量、すなわち、上記エステル化反応後に得られたロジン変性樹脂における、上記構造単位(ab)のモル量、各成分(単量体)に由来する構造単位(a)、(b)、(c)、(d)、及び(e)のモル量をそれぞれ算出した。
なお、以下で説明する実施例及び比較例では、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)として無水マレイン酸を使用した。そのため、ディールスアルダー付加反応後に上記成分(B)が残存していた場合の、ロジン変性樹脂中の構造単位(d)の重量又はモル量は、脂肪族系多塩基酸無水物(D)の消費量と、過剰量の上記成分(B)に由来する、ロジン変性樹脂中に存在する構造単位(b)の量との合計量である。
【0075】
1.ロジン変性樹脂、及び活性エネルギー線硬化型平版インキ組成物の調製
以下に示す実施例及び比較例の処方に従い、ロジン変性樹脂、及び活性エネルギー線硬化型平版インキ組成物をそれぞれ調製した。なお、以下に示す処方で使用したガムロジンは、共役系ロジン酸(A)の含有量が80重量%であり、有機一塩基酸(C)の含有量が20重量%であった。
【0076】
(実施例1)
攪拌機、水分離器付き還流冷却器、及び温度計を備えた4つ口フラスコに、ガムロジン10部と無水マレイン酸5部とを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら、180℃で1時間にわたって加熱することにより、反応混合物を得た。次いで、先に説明したように、反応混合物のガスクロマトグラフ質量分析によって、ディールスアルダー付加反応が完了したことを確認した。
次に、上記反応混合物に、安息香酸16部と、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物41部と、ペンタエリスリトール28部と、触媒として、p−トルエンスルホン酸一水和物0.1部とを添加し、230℃で14時間にわたって脱水縮合反応を行い、樹脂(R1)を得た。樹脂(R1)の酸価は31であり、GPC測定ポリスチレン換算での重量平均分子量(Mw)は2.8万であった。また、先に説明した方法に従い算出した、樹脂(R1)における各構成単位の割合は、表1に示すとおりである。
次に、上記と同様のフラスコに、上記樹脂(R1)を38部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート61.9部、及びハイドロキノン0.1部を入れて混合し、これらを100℃で加熱溶融することでワニス(V1)を得た。
さらに、ワニス(V1)62部、リオノールブルーFG7330(トーヨーカラー社製の藍顔料)20部、トリメチロールプロパンテトラアクリレート12.9部、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン2.5部、2−メチル−2−モノホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン2.5部、及びハイドロキノン0.1部を、40℃の三本ロールミルにて練肉し混合物を得た。次いで、インキのタックが9〜10になるように、上記混合物にトリメチロールプロパンテトラアクリレートを加えて調整し、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ(C1)を得た。インキのタックは、東洋精機社製のインコメーターにてロール温度30℃、400rpm、1分後の値を測定した。
【0077】
(実施例2)
実施例1と同様の操作にて、表1に示す配合組成で酸価25、Mw2.0万の樹脂(R2)を得た。先に説明した方法に従い算出した、樹脂(R2)における各構成単位の割合は、表1に示すとおりである。次いで、表2に示す配合組成でワニス(V2)、表3に示す配合組成で活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ(C2)を得た。
【0078】
(実施例3)
実施例1と同様の操作にて、表1に示す配合組成で酸価23、Mw2.2万の樹脂(R3)を得た。先に説明した方法に従い算出した、樹脂(R3)における各構成単位の割合は、表1に示すとおりである。次いで、表2に示す配合組成でワニス(V3)、表3に示す配合組成で活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ(C3)を得た。
【0079】
(実施例4)
実施例1と同様の操作にて、表1に示す配合組成で酸価29、Mw2.3万の樹脂(R4)を得た。先に説明した方法に従い算出した、樹脂(R4)における各構成単位の割合は、表1に示すとおりである。次いで、表2に示す配合組成でワニス(V4)、表3に示す配合組成で活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ(C4)を得た。
【0080】
(実施例5)
攪拌機、水分離器付き還流冷却器、及び温度計を備えた4つ口フラスコに、ガムロジン30部、無水マレイン酸9部、安息香酸30部、無水コハク酸2部、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール29部、p−トルエンスルホン酸一水和物0.1部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら、180℃で1時間にわたって加熱した。次いで、得られた反応混合物について、230℃で12時間にわたって脱水縮合反応を行い、樹脂(R5)を得た。樹脂(R5)の酸価は33であり、GPC測定ポリスチレン換算での重量平均分子量(Mw)は2.5万であった。また、先に説明した方法に従い算出した、樹脂(R5)における各構成単位の割合は、表1に示すとおりである。
次に、上記と同様のフラスコに、樹脂(R5)を34部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート65.9部、及びハイドロキノン0.1部を入れて混合し、これらを100℃で加熱溶融することでワニス(V5)を得た。
さらに、ワニス(V5)62部、リオノールブルーFG7330(トーヨーカラー社製の藍顔料)20部、トリメチロールプロパンテトラアクリレート12.9部、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン2.5部、2−メチル−2−モノホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン2.5部、及びハイドロキノン0.1部を、40℃の三本ロールミルにて練肉し混合物を得た。次いで、インキのタックが9〜10になるように、上記混合物にトリメチロールプロパンテトラアクリレートを加えて調整し、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ(C5)を得た。インキのタックは、東洋精機社製のインコメーターにてロール温度30℃、400rpm、1分後の値を測定した。
【0081】
(実施例6)
実施例1と同様の操作にて、表1に示す配合組成で酸価20、Mw1.8万の樹脂(R6)を得た。先に説明した方法に従い算出した、樹脂(R6)における各構成単位の割合は、表1に示すとおりである。次いで、表2に示す配合組成でワニス(V6)、表3に示す配合組成にて活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ(C6)を得た。
【0082】
(実施例7)
実施例1と同様の操作にて、表1に示す配合組成で酸価36、Mw2.9万の樹脂(R7)を得た。先に説明した方法に従い算出した、樹脂(R7)における各構成単位の割合は、表1に示すとおりである。次いで、表2に示す配合組成でワニス(V7)、表3に示す配合組成にて活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ(C7)を得た。
【0083】
(実施例8)
実施例1と同様の操作にて、表1に示す配合組成で酸価33、Mw2.3万の樹脂(R8)を得た。先に説明した方法に従い算出した、樹脂(R8)における各構成単位の割合は、表1に示すとおりである。次いで、表2に示す配合組成でワニス(V8)、表3に示す配合組成にて活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ(C8)を得た。
【0084】
(実施例9)
攪拌機、水分離器付き還流冷却器、温度計付4つ口フラスコに、ガムロジン15部、無水マレイン酸20部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら、180℃まで加熱した。
その後、ターシャリーブチル安息香酸30部、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物9部、ペンタエリスリトール26部、p−トルエンスルホン酸一水和物0.1部を添加し、230℃で18時間にわたって脱水縮合反応を行い、樹脂(R9)を得た。樹脂(R9)の酸価は22であり、GPC測定ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は3.0万であった。先に説明した方法に従い算出した、樹脂(R9)における各構成単位の割合は、表1に示すとおりである。
次いで、同様のフラスコに、樹脂(R9)を33部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート66.9部、ハイドロキノン0.1部を入れて混合し、100℃で加熱溶融することによりワニス(V9)を得た。
さらに、ワニス(V9)を61部、リオノールブルーFG7330(トーヨーカラー社製藍顔料)20部、トリメチロールプロパンテトラアクリレート13.9部、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン2.5部、2−メチル−2−モノホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン2.5部、及びハイドロキノン0.1部を、40℃の三本ロールミルにて練肉し、インキのタックが9〜10になるようにトリメチロールプロパンテトラアクリレートで調整し、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ(C9)を得た。なおインキのタックは、東洋精機社製インコメーターにてロール温度30℃、400rpm、1分後の値を測定した。
【0085】
(比較例A)
実施例9と同様の操作にて、表1に示す配合組成で酸価25、Mw2.5万の樹脂(RA)を得た。先に説明した方法に従い算出した、樹脂(RA)における各構成単位の割合は、表1に示すとおりである。次いで、表2に示す配合組成でワニス(VA)、表3に示す配合組成にて活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ(CA)を得た。
【0086】
(比較例B)
攪拌機、水分離器付き還流冷却器、温度計付4つ口フラスコに、安息香酸41部、無水コハク酸6部、ペンタエリスリトール22部、p−トルエンスルホン酸一水和物0.1部を添加し、窒素ガスを吹き込みながら、230℃で5時間にわたって脱水縮合反応を行った。
その後、ガムロジン25部、無水マレイン酸6部を仕込み、230℃まで加熱し、酸価が37であり、GPC測定ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)が2.5万の樹脂(RB)を得た。先に説明した方法に従い算出した、樹脂(RB)における各構成単位の割合は、表1に示すとおりである。
次いで、同様のフラスコに樹脂(RB)を34部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート65.9部、ハイドロキノン0.1部を混合し、100℃で加熱溶融することによりワニス(VB)を得た。
さらに、ワニス(VB)を61部、リオノールブルーFG7330(トーヨーカラー社製藍顔料)20部、トリメチロールプロパンテトラアクリレート13.9部、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン2.5部、2−メチル−2−モノホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン2.5部、及びハイドロキノン0.1部を、40℃の三本ロールミルにて練肉し、次いでインキのタックが9〜10になるようにトリメチロールプロパンテトラアクリレートで調整することにより、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ(CB)を得た。なおインキのタックは、東洋精機社製インコメーターにてロール温度30℃、400rpm、1分後の値を測定した。
【0087】
(比較例C)
実施例9と同様の操作にて、表1に示す配合組成で酸価27、Mw2.1万の樹脂(RC)を得た。先に説明した方法に従い算出した、樹脂(RC)における各構成単位の割合は、表1に示すとおりである。次いで、表2に示す配合組成でワニス(VC)、表3に示す配合組成にて活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ(CC)を得た。
【0088】
【表1】
【0089】
注記:
表1において、ロジン変性樹脂の製造時に使用した各単量体の配合量は全て固形分重量である。
表1に記載した構造単位の割合及び量は、ガスクロマトグラフィー質量分析計で反応液を分析し、先に説明した方法に従い、それぞれ、重量基準、モル基準で算出した値である。概略は以下のとおりである。
構造単位(ab)の量は、上記記載の方法で測定及び算出した、成分(A)と成分(B)とのディールスアルダー反応によって得られる化合物の量に対応する。
構造単位(c)の割合は、上記構造単位(ab)の量を基準として算出した割合である。
成分(B)の残量は、上記ディールスアルダー反応で消費されずに残った成分(B)の量である。
成分(D)の配合量は、ディールスアルダー反応後に添加した、脂肪族系多塩基酸無水物(D)の量である。実施例において、上記成分(B)の残量が0より大きい場合、構造単位(d)の含有量は、成分(D)の配合量に上記(B)の残量を加算した値となる。
構造単位(e)以外の全構造単位の量は、エステル化反応で消費された、成分(E)以外の成分の合計量である。
構造単位(d)の割合は、上記構造単位(e)以外の全構造単位の量を基準として算出した割合である。
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
2.活性エネルギー線硬化型平版印刷インキの評価
実施例及び比較例で調製した活性エネルギー線硬化型平版印刷インキについて、下記の方法に従い、印刷被膜適性と印刷適性を評価した。
【0093】
<印刷被膜適性の評価>
【0094】
実施例1〜9、比較例A〜Cで得られた活性エネルギー線硬化型平版印刷インキを、RIテスター(明製作所製簡易展色装置)を用いて、マリコート紙(北越製紙社製コートボール紙)に対して1g/mの塗布量で印刷し、120W/cmの空冷メタルハライドランプ(東芝社製)1灯を用いて60m/minで紫外線を照射した。
【0095】
紫外線照射後の印刷物の硬化性、耐溶剤性、耐摩擦性、及び光沢値について、以下に従って評価した。各評価の結果を表4に示す。
【0096】
(硬化性)
硬化性は、印刷物の印刷面を綿布で擦った時の状態を目視にて観察し、以下の基準に従い4段階で評価した。使用可能なレベルは、「3」以上である。
4:印刷面の変化なし。
3:印刷面の一部にキズが見られるが、剥離は見られない。
2:印刷面の一部(50%未満)に剥離が見られる。
1:印刷面の一部(50%以上)、又は全部に剥離が見られる。
【0097】
(耐溶剤性)
耐溶剤性は、MEK(メチルエチルケトン)を浸した綿棒で印刷面を30回擦った後、印刷面の状態を目視にて観察し、以下の基準に従い4段階で評価した。使用可能なレベルは「3」以上である。
4:印刷面の変化なし。
3:印刷面の一部で溶解が見られるが、剥離は見られない。
2:印刷面の一部(50%未満)に剥離が見られる。
1:印刷面の一部(50%以上)、又は全部に剥離が見られる。
【0098】
(耐摩擦性)
耐摩擦性は、印刷物の印刷面(塗膜)に対し、JIS−K5701−1に準じて、試験を行い評価した、具体的には、学振型摩擦堅牢度試験機(テスター産業社製)を用いて、摩擦用紙として上質紙を500g加重で塗膜表面を500回往復させた。次いで、摩擦面(塗膜表面)の変化を目視にて観察し、以下の基準に従い4段階で評価した。使用可能なレベルは「3」以上である。
4:摩擦面の変化なし。
3:摩擦面の一部にキズが見られるが、剥離は見られない。
2:摩擦面の一部(50%未満)に剥離が見られる。
1:摩擦面の一部(50%以上)又は全部に剥離が見られる。
【0099】
(光沢性)
プルーフバウ展色機を用いて、三菱製紙社製のパールコートにインキを同一濃度に展色し、試験サンプルを作製した。次いで、光沢計グロスメーターモデルGM−26((株)村上色彩技術研究所製)を用いて、試験サンプルの60°光沢値を測定した。得られた光沢値から光沢性を以下の基準に従い、4段階で評価した。光沢値の数値が高い程、光沢が良いことを表す。使用可能なレベルは「2」以上であるが、「3」以上がより好ましい。
4:光沢値が60以上である。
3:光沢値が50以上〜60未満である。
2:光沢値が40以上〜50未満である。
1:光沢値が40未満である。
【0100】
また、実施例1〜9、比較例A〜Cで得られた活性エネルギー線硬化型平版印刷インキを、RIテスター(明製作所製の簡易展色装置)を用いて、PPフィルムに対して1g/mの塗布量で印刷し、120W/cmの空冷メタルハライドランプ(東芝社製)1灯を用いて60m/minで紫外線を照射し、印刷物を得た。またPPフィルムの代わりにPEフィルムを使用し、上記方法と同様にして印刷物を得た。
【0101】
紫外線照射後の各印刷物の密着性を以下に従って評価した。評価結果を表4に示す。
【0102】
(密着性)
上記のようにして得たPPフィルム及びPEフィルムへの各印刷物に対し、セロハンテープ剥離試験を行い、密着性を評価した。試験後の印刷物の表面を目視で観察し、密着性を以下の基準に従い、4段階で評価した。使用可能なレベルは「3」以上である。
4:印刷面の変化なし。
3:印刷面の一部(25%未満)に剥離が見られる。
2:印刷面の一部(25%以上、50%未満)に剥離が見られる。
1:印刷面の一部(50%以上)又は全部に剥離が見られる。
【0103】
<印刷適性の評価>
実施例1〜9、比較例A〜Cで得られた活性エネルギー線硬化型平版印刷インキを用いて、インキごとに2万枚の印刷試験を行った。印刷試験は、リスロン226(コモリコーポレーション社製の枚葉印刷機)を用いて、三菱特両アート紙斤量90Kg/連(三菱製紙社製)に対して、10,000枚/時の速度で印刷する条件下で実施した。
また、印刷試験では、湿し水として、アストロマークIIIクリア(東洋インキ社製)1.5%と、イソプロピルアルコール3%とを含む水道水を使用した。正常に印刷できる条件範囲の境界付近における印刷状態の比較を行うために、水巾の下限値よりも2%高い水ダイヤル値で印刷を行った。なお「水巾の下限」とは、正常な印刷が可能である、湿し水の最低供給量を意味し、「水ダイヤル」とは、上記湿し水の供給量を調整するために、上記印刷機に備えられたダイヤルを意味する。
上記印刷試験で得られた各印刷物について、ベタ着肉状態、及び地汚れを比較したが、実施例1〜9、及び比較例A〜Cのインキを用いた各印刷物の間で顕著な差は見られなかった。
また、上記印刷試験において、刷り出し時、濃度変動が安定するまでに発生する損紙枚数から、以下の基準に従い、初期濃度安定性を4段階で評価した。使用可能なレベルは「2」以上であるが、「3」以上がより好ましい。評価結果を表4に示す。
(初期濃度安定性の評価基準)
4:損紙枚数が200枚以下である。
3:損紙枚数が201枚以上、500枚以下である。
2:損紙枚数が501枚以上、800枚以下である。
1:損紙枚数が801枚以上である。
【0104】
【表4】
【0105】
表4に示すように、本発明の実施形態に対応する実施例1〜9のインキは、硬化性、耐溶剤性、耐摩耗性、光沢性、密着性、及び初期濃度安定性の全ての評価において、使用可能なレベルであり、優れた印刷被膜適性と印刷適性とを両立できることが分かる。一方、比較例A〜Cのインキでは、印刷被膜適性と印刷適性との両立は困難であることが分かる。
より詳細には、実施例1〜9のインキに見られるように、バインダー樹脂として使用されたロジン変性樹脂における構造単位(ab)と構造単位(c)との重量比が100:80〜100:350の範囲内にある実施形態では、硬化性などの印刷被膜の特性において良好な結果が得られた。
一方、比較例A及びBのインキでは、特に耐溶剤性が著しく低下する結果となった。これは、上記比較例A及びBのインキでは、バインダー樹脂として使用されたロジン変性樹脂は、上記構造単位(ab)と構造単位(c)との重量比が上記範囲外となるため、ロジン変性樹脂において適切な分子量分布が得られなかったことに起因すると考えられる。特に、比較例Bは、ロジン変性樹脂の製造において、共役系ロジン酸(A)とα,β−不飽和カルボン酸無水物(B)を、反応工程の後半で配合して得た樹脂を使用している。このような実施形態で得た樹脂は、ディールスアルダー付加反応が十分に進行せず、ロジン酸中に含まれる共役二重結合が残留することで、硬化阻害が生じると考えられる。
また、比較例Cでは、インキ中のバインダー樹脂として使用されたロジン変性樹脂が上記重量比の範囲を満たすことで優れた硬化性が得られる結果となった、しかし、密着性については著しく低下する結果となった。これは、ロジン変性樹脂が、脂肪族系多塩基酸無水物(D)に由来する構造単位(d)ではなく、剛直な芳香族構造を有する無水フタル酸に由来する構造単位を有することに起因すると考えられる。
【0106】
実施例1〜9の中でも、耐溶剤性及び耐摩擦性については、ロジン変性樹脂の分子量が大きい実施例1、5、7、及び9のインキで特に良好な結果が得られた。これは、バインダーとして使用したロジン変性樹脂の分子量が大きくなることで被膜強度が増すためと考えられる。
【0107】
また、光沢値及び初期濃度安定性については差が見られ、特に、実施例1〜3、及び5で良好な結果が得られた。これは、ロジン変性樹脂が、原料となる単量体を適切な配合量で使用して製造されたことに起因すると考えられる。具体的に、上記実施形態は、ロジン変性樹脂の製造において、共役系ロジン酸(A)に対して、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)の配合量が100モル%〜200モル%の範囲であり、かつ有機一塩基酸(C)の配合量が150重量〜300重量%の範囲となるように調整して製造したロジン変性樹脂を使用している。このようなロジン変性樹脂を使用することによって、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキの良好な流動性を保持することが可能になると考えられる。
【0108】
また、密着性については、ポリプロピレン(PP)フィルム及びポリエチレン(PE)フィルムの両方の基材に関して、実施例1〜9で良好な結果が得られた。特に、実施例3、4、5、7、及び8は、どちらの基材に対しても評価が「4」であり、極めて良好な結果が得られた。これは、脂肪族系多塩基酸無水物(D)として、より柔軟な構造を有する無水コハク酸、及びテトラデシルコハク酸無水物を使用したことに起因すると考えられる。
これに対し、先に記載したように、比較例Cのインキは、脂肪族系多塩基酸無水物(D)ではなく、剛直な芳香族構造をもつ無水フタル酸を使用したことにより、密着性が著しく低下している。また、比較例A及びBのインキは、PPフィルムへの密着性の結果は良好であるが、PEフィルムへの密着性については使用可能なレベルには至らなかった。これは、比較例A及びBのインキでは、構造単位(ab)のカルボキシル基と結合する構造単位(c)の量が多いため、構造単位(ab)に起因するPEフィルムへの密着性の発現が阻害され、密着性が低下したと考えられる。