【0024】
本発明では上記構造を有する化合物であれば公知の市販品を用いることのでき、これら市販品として具体的には、スリーエムジャパン株式会社製品のNovec 7100(化学式:C
4F
9OCH
3)、Novec 7200(化学式:C
4F
9OC
2H
5)、ダイキン工業株式会社製品の2,2,2−trifluoroethyl difluoromethyl ether(化学式:CF
3CH
2OCHF
2)、2,2,3,3,3−pentafluoropropyl difluoromethyl ether(化学式:CF
3CF
2CH
2OCHF
2)、T−1216(化学式:CF
3CF
2CH
2OCF
2CF
2H)、T−7301(化学式:(CF
3)
2CHOCH
3)、1,1,3,3,3−pentafluoro−2−trifluoromethylpropyl methyl ether(化学式:(CF
3)
2CHCF
2OCH
3)、1,1,2,3,3,3−hexafluoropropyl methyl ether(化学式:CF
3CHFCF
2OCH
3)、1,1,2,3,3,3−hexafluoropropyl ethyl ether(化学式:CF
3CHFCF
2OCH
2CH
3)、2,2,3,4,4,4−hexafluorobutyl difluoromethyl ether(化学式:CF
3CHFCF
2CH
2OCHF
2)等が挙げられ、これらから選ばれる2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、浸透性や揮発性の観点から、Novec 7100、Novec 7200、Novec 7300が特に好ましい。
【実施例】
【0035】
実施例及び比較例において使用した各硬化性組成物(以下、単に組成物ともいう)の原料は以下材料を用い、表1,2に示した組成量に基づき常温、窒素置換環境下にて混合攪拌を行うことで配合を行った。ここで、各表中に示した各組成物の組成量は質量部を表す。
【0036】
(A)
(A1)Z84;エトキシエチル−α−シアノアクリレート、株式会社アルテコ製品
(B)及びその比較
(B1)Novec 7100;常温液体、沸点が61℃の化合物、化学式=C
4F
9OCH
3、フッ素のみで置換された炭素の数が4、分子中の炭素数が5のハイドロフルオロエーテル、スリーエムジャパン株式会社製品
(B2)Novec 7200;常温液体、沸点が76℃の化合物、化学式=C
4F
9OC
2H
5、フッ素のみで置換された炭素の数が4、分子中の炭素数が6のハイドロフルオロエーテル、スリーエムジャパン株式会社製品
(B’1)Novec 7300;常温液体、沸点が98℃の化合物、化学式=C
2F
5CF(OCH
3)C
3F
7、フッ素のみで置換された炭素の数が5、分子中の炭素数が7のハイドロフルオロエーテル、スリーエムジャパン株式会社製品
(B’2)1−ブロモプロパン 試薬 和光純薬工業株式会社製品
(B’3)アセトン 株式会社ゴードー製品
(B’4)塩化メチレン 株式会社トクヤマ製品
(B’5)トルエン 株式会社ゴードー製品
(B’6)メチルエチルケトン(MEK) 株式会社ゴードー製品
(B’7)フタル酸ビス2−エチルヘキシル(DOP) 東京化成工業株式会社製品
(B’8)アセチルクエン酸トリブチル(ATBC) 旭化成ファインケム株式会社製品
(B’9)KF−96L−0.65CS;ポリシロキサンの側鎖、末端がすべてメチル基のジメチルシリコーンオイル、25℃における動粘度0.65mm
2/s 信越化学工業株式会社製品
(B’10)KF−96L−2CS;ポリシロキサンの側鎖、末端がすべてメチル基のジメチルシリコーンオイル、25℃における動粘度2.0mm
2/s 信越化学工業株式会社製品
(C)
(C1)BF3エチルエーテル錯塩(BF
3);森田化学工業株式会社製品、三フッ化ホウ素のモノエチルエーテル錯体
(D)
(D1)アデカスタブAO−60;ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート] 株式会社アデカ製品
(その他の成分)
・ピロガロール;密着性付与剤 米山薬品工業株式会社製品
【0037】
各組成物は以下試験方法により評価を行い、その特性を評価した。なお評価結果はそれぞれ表1,2中に記載した。
1.基本特性評価
[外観評価]
混合攪拌により製造した各組成物は、無色透明なガラス瓶に充填し、目視によりその外観を確認した。確認事項は色相、溶解性の二点で、色相は色見本と対比して最も近いと思われるものを選び、溶解性は液の濁り具合、沈殿物や分離の有無を確認して、いずれも無ければ「透明」と記載し、濁りのあるものは「懸濁」、沈殿物、分離が認められるものは「不溶」と記載した。なお不溶、懸濁が認められた組成物は評価に適さないと判断し、以降の評価は実施していない。
[粘度]
25℃環境下で各組成物をプラスチック製のカップに入れ、BL型粘度計(東機産業株式会社製品)を用い、60回転/分の回転速度にてローターを回し、30秒後に示された数値(mPa・s)を読むことで測定値とした。
[セットタイム]
ニトリルゴム製Oリング(Buna−N−Oring Cord 70 Duro 1/4inch)を2個を1セットとして準備し、これを被検体とする。被検体の一方の片側面全面に25℃環境下で各組成物を薄く塗布し、もう一方の被検体を該塗布面に重ね、10秒間指で押さえて固定し貼り合わせる。貼り合わせた後、Oリングを引き伸ばす方向に98N(10kgf)の荷重をかけて引っ張り、これが破断した時間を以てセットタイム(s)とした。多孔質基材の細部に浸透する上ではある程度のセットタイムを有することが好ましく、概ね60〜180s程度が良好な値である。
[引張りせん断接着接着強さ]
SPCC−SD(1.6×25×100mm、アサヒビーテクノ製品)をトルエンで洗浄し、プレス抜きされた面でない方の面を#240の研磨布で十分に研磨した後、トルエン浴中で超音波振動にかけたもの2個を1セットとして準備し、これを被検体とする。25±2℃、50±10%RH環境下で前記被検体の一方の研磨面の端から10mmの範囲に各組成物を2滴スポイトで滴下し、もう一方の研磨面の端から10mmの範囲を前記の滴下箇所に重ね合わせ、軽くならして重ね合わせた箇所全体に組成物を行き渡らせてから5秒間指で押さえて固定し貼り合わせる。然る後、同環境下で24時間静置養生し、万能引張り試験機(テンシロンRTF、オリエンテック製品)にて10mm/minの引張り速度で引張りせん断接着接着強さを測定する。測定条件はJIS−K−6861(シアノアクリレート系接着剤の試験方法)に準拠する。接着強さは基材への密着性の指標であり、高い値であるほど望ましい。
【0038】
2.施工性評価
市販のインクジェット方式粉末積層型3Dプリンター(ProJet x60;登録商標、キヤノン製品)を用いて50×50×2mmの形状に石膏を形成し、これを被検体とした。施工性は以下5つの試験を行っており、本発明における良否の基準としては、×が0個、△が2個未満のものを合格として判定した。
[浸透性]
25℃環境下にて各組成物で満たした浴槽中に前記被検体を浸漬し、10秒経過した後に該被検体を引き上げ、これの表面を目視で観察することで組成物の浸透度合いを評価した。評価の基準は以下の通り。
◎;表面の凹凸に満遍なく浸透している
○;表面の凹凸に浸透しているが、一部液溜まり、未浸透箇所が存在している
△;液溜まり、未浸透箇所が表面全体の1割程度以上、3割程度未満存在している
×;液溜まり、未浸透箇所が表面全体の3割程度以上存在している
[硬化性]
前記浸透性評価で浸漬を行った被検体を25℃環境下で24時間静置養生し、これの表面を目視で観察することで塗膜の状態を評価した。なお浸透性評価が◎以外の被検体にあっては、表面の平滑になっている範囲に印を付け、養生後は該目印を付けた範囲について観察した。評価の基準は以下の通り。
○;塗膜は均質で、白化も認められない
△;塗膜表面に不均質な箇所か白化のいずれかが観察箇所全体の1割程度以上、3割程度未満認められる
×;塗膜表面に不均質な箇所か白化のいずれかが観察箇所全体の3割程度以上認められる
[補強強度]
前記硬化性評価を行った被検体表面の任意の箇所を、アルコールで脱脂した指先で擦り、表面の崩落の有無を観察した。はじめに被検体表面を弱い力で3往復程度擦り、この時点で表面の崩落がなければ被検体表面を強めの力で3往復程度擦り、補強強度を評価した。評価の基準は以下の通り。
○;強く擦っても崩落しない
△;強く擦ると崩落が認められる
×;弱く擦っても崩落が認められる
[作業性]
未硬化の状態の各組成物を攪拌した際の攪拌しやすさ、及び刷毛にて塗布を行う際の塗りやすさについての作業性を官能試験で評価した。攪拌は、25℃環境下で各組成物をプラスチック製のカップに入れ、ポリプロピレン製の攪拌棒を用いて手で掻き混ぜ、その際の掻き混ぜやすさを抵抗として評価した。刷毛での塗布は、各組成物を刷毛を用いて平滑な石膏ボードにゆっくりと塗布する際の滑らかさを抵抗として評価した。評価の基準は以下の通り。
◎;攪拌、刷毛塗りとも殆ど抵抗を感じず、スムーズに行える
○;攪拌、刷毛塗りいずれかで僅かに抵抗を感じる
△;攪拌、刷毛塗りいずれかで抵抗を感じる
[臭気]
未硬化の状態の各組成物を上部が開放した容器に入れ、30cm離れた距離からにおいを嗅いで臭気について官能試験で評価した。評価の基準は以下の通り。
○;殆どにおいを感じない
△;僅かににおいを感じる
×;明らかににおいを感じる
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表1の実施例の結果より、本発明の組成物は、いずれも液状態では均一に混合分散しており、硬化時には適度なセットタイムを有し、また硬化後の引張りせん断接着強さにおいても十分なものであることが確認された。さらに施工性における特に重要な特性である浸透性に関しては、実施例1〜3の組成が優れた結果を示し、その他の特性においても実施例1〜3はいずれも好ましい評価結果となった。なお実施例4に示すように、(B)の組成量を増量するに伴って、実用上問題はないものの硬化性、作業性が低下していくことが確認された。
【0042】
表2の比較例の結果より、本発明の範囲に含まれない組成、例えば(B)を含まないものである比較例1〜4においては、いずれも液状態こそ均一に混合分散しているものの、セットタイムが短く、引張りせん断接着強さ及び施工性の中でも特に重要な浸透性において、実施例の結果より劣ったものとなることが確認された。ここで(C)を増量することでセットタイムを大きくすると、その背反で補強強度が低下してしまうため、(B)を含まない組成では実用に耐えるものではなかった。他方、本発明で規定した(B)に該当しない構造の化合物を用いた比較例5〜15においては、それぞれ系が均一に混合分散していないか、均一であっても基本特性、施工性のいずれかに問題があるものであった。均一に混合分散していないと、均質な塗膜を形成することができないためにコーティング剤として難があり、基本特性や施工性に問題があるものも、実用に耐えうるものとはならない。