特許第6706468号(P6706468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706468
(24)【登録日】2020年5月20日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/42 20060101AFI20200601BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20200601BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   F16J15/42
   F16C33/78 C
   F16C19/36
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-168980(P2015-168980)
(22)【出願日】2015年8月28日
(65)【公開番号】特開2017-44302(P2017-44302A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】下原 干城
【審査官】 羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−256965(JP,A)
【文献】 特開昭50−032351(JP,A)
【文献】 実開昭58−065446(JP,U)
【文献】 特開2002−228006(JP,A)
【文献】 特開2005−220940(JP,A)
【文献】 特開2004−278696(JP,A)
【文献】 実開平04−041158(JP,U)
【文献】 特開平09−159033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/82
F16J 15/3204−15/3236
F16J 15/40−15/453
F16J 15/54−15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車軸軸受部に用いられる密封装置であって、軸受の外輪に取り付けられる外環と、前記外環の内周側に嵌合される内環とを有する密封装置において、
前記外環の内周面に、カシメ突起よりなる両環位置決め構造を設け、
前記外環の内周側に前記内環を前記カシメ突起で軸方向に係合させ、
前記内環は、前記外環の内周面に嵌合される外周筒部と、前記外周筒部の軸受内部側端部から径方向内方へ向けて設けられた端面部と、前記端面部の内周端部から軸受内部側へ向けて設けられ、回転側部品との間に微小間隙を形成して非接触式のラビリンスシールを構成する内周筒部と、を一体に備えることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1記載の密封装置において、
前記カシメ突起を、円周上複数個所に設けたことを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール技術に係る密封装置に関し、更に詳しくは、鉄道車両の車軸軸受部に用いられる密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車軸軸受部に用いられる密封装置として従来から図3に示すように、軸受61の外輪62に取り付けられる外環52と、外環52の内周側に嵌合される内環53とを有する密封装置51が知られている。内環53は、回転側部品63との間に微小間隙cを形成して非接触式のラビリンスシールを構成し、これにより軸受外部Oの異物が軸受内部Iへ侵入したり軸受内部Iのグリースが軸受外部Oへ飛散したりするのを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−220940号公報
【特許文献2】特開2011−256965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記外環52および内環53は別部材であるため、外環52に内環53を嵌合する組立て作業が必要となる。よって最適なシール機能を発揮させるべく組立てに際しては、内環53を規定の位置(設定どおりの正確な軸方向位置)に挿入する必要があり、また組立て後、外環52に対し内環53が軸方向に位置ずれしないようにする必要がある。
【0005】
組立て後、外環52に対し内環53が軸方向に位置ずれしないようにするには、内環53の嵌合力を強く設定することが考えられる。しかしながらこのように内環53の嵌合力を強く設定すると、挿入時の抵抗力が増大するため、組立て作業性が悪化することが懸念される。
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて、組立て後、外環に対し内環が軸方向に位置ずれするのを抑制することができ、しかも内環の嵌合力を強く設定する必要もない密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するため、以下の手段を採用した。
すなわち本発明の密封装置は、鉄道車両の車軸軸受部に用いられる密封装置であって、軸受の外輪に取り付けられる外環と、前記外環の内周側に嵌合される内環とを有する密封装置において、前記外環の内周面に、カシメ突起よりなる両環位置決め構造を設け、前記外環の内周側に前記内環を前記カシメ突起で軸方向に係合させ、前記内環は、前記外環の内周面に嵌合される外周筒部と、前記外周筒部の軸受内部側端部から径方向内方へ向けて設けられた端面部と、前記端面部の内周端部から軸受内部側へ向けて設けられ、回転側部品との間に微小間隙を形成して非接触式のラビリンスシールを構成する内周筒部と、を一体に備えることを特徴とする(請求項1)。
【0008】
上記構成を備える本発明の密封装置においては、外環の内周面に、カシメ突起よりなる両環位置決め構造が設けられているため、内環がカシメ突起に係合することで、内環が軸方向に位置ずれするのを抑制することが可能とされる。また、内環がカシメ突起に係合することで内環の位置ずれを抑制するため、内環の嵌合力を強く設定する必要がない。カシメ突起は、外環の内周側に内環を挿入した後、外環の一部を径方向内方へ向けカシメ加工することにより形成される。
【0009】
カシメ突起としては、外環の全周に亙って環状に設けても良いが、円周上複数個所に設ければ、その機能(位置ずれ抑制機能)を発揮することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、組立て後、外環に対し内環が軸方向に位置ずれするのを抑制することができ、しかも内環の嵌合力を強く設定する必要もない密封装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例に係る密封装置の要部断面図
図2】(A)は同密封装置に備えられるカシメ突起の拡大断面図、(B)はカシメ突起の他の例を示す断面図
図3】従来例に係る密封装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0013】
図1に示すように、当該実施例に係る密封装置11は、鉄道車両の車軸軸受部に用いられる密封装置であって、軸受の外輪62に取り付けられる外環21と、外環21の内周側に嵌合される内環31とを有している。
【0014】
外環21は、軸受の外輪62の内周面に嵌合される外周筒部22を有し、この外周筒部22の軸方向一方(軸受外部側、図では左方)の端部から径方向内方へ向けて端面部23が一体成形され、端面部23の内周端部から軸方向一方へ向けて筒状部24が一体成形され、筒状部24の軸方向一方の端部から軸方向一方かつ内径方向へ向けて円錐面状のテーパー部25が一体成形され、テーパー部25の軸方向一方の端部(小径側の端部)から軸方向一方へ向けて内周筒部26が一体成形され、内周筒部26の軸方向一方の端部から径方向内方へ向けて折り曲げ部27が一体成形されている。
【0015】
一方、内環31は、外環21の筒状部24の内周面に嵌合される外周筒部32を有し、この外周筒部32の軸方向他方(軸受内部側、図では右方)の端部から径方向内方へ向けて端面部33が一体成形され、端面部33の内周端部から軸方向他方へ向けて内周筒部34が一体成形されている。内環31は、回転側部品(図示せず)との間に微小間隙を形成して非接触式のラビリンスシールを構成し、これにより軸受外部の異物が軸受内部へ侵入したり軸受内部のグリースが軸受外部へ飛散したりするのを抑制する。
【0016】
外環21および内環31はともに金属環である。また、外環21および内環31は互いに別部材であるため、外環21の内周側に内環31を嵌合する組立て作業を行うことになり、組立てに際しては、内環31を規定の位置に挿入する必要があり、挿入後、外環21に対し内環31が軸方向に位置ずれするのは、上記微小間隙の大きさが変わってしまうこともあり、好ましくない。そこで当該実施例では、挿入後、外環21に対し内環31が軸方向に位置ずれするのを防止するための両環位置決め構造41が設けられている。
【0017】
両環位置決め構造41は、外環21の内周側に内環31を挿入した後、外環21の一部を径方向内方へ向けカシメ加工してカシメ突起28を形成することにより構成されており、一層詳細には、外環21の内周面における規定位置に内環31を挿入した後(挿入方向を矢印Sにて示す)、外環21の筒状部24の一部であって上記規定位置の軸方向他方に隣接する部位(軸受内部側の部位)を径方向内方へ向けカシメ加工して(カシメ方向を矢印Kにて示す)、カシメ突起28を形成することにより構成されている。
【0018】
カシメ加工は、カシメ治具(ポンチなど、図示せず)を用いて行い、カシメ治具を外環21の外周面に押し付けて外環21の全厚を径方向内方へ向けて凹ませる。カシメ突起28は円周上複数個所に形成され、例えば4〜8等配で形成される(図では1箇所のみを示している)。
【0019】
カシメ突起の断面形状は図2(A)に示すように断面円弧形(エンボス形)されるが、その他の形状であっても良く、例えば図2(B)に示すように断面三角形ないし略三角形状(クサビ形)であっても良い。
【0020】
また、その断面形状の如何を問わず、カシメ治具を用いて外環21の内周面にカシメ突起28を設けると、外環21の外周面には、対応してカシメ加工の加工痕29が凹部状のものとして形成される。
【0021】
上記構成の密封装置11においては、上記したようにカシメ突起28よりなる両環位置決め構造41が設けられているため、内環31がカシメ突起28に係合することで、外環21に対し内環31が軸方向他方へ向けて位置ずれすることがない。したがって、鉄道車両の走行に伴う振動などが入力しても内環31が外環21に対し軸方向に位置ずれすることがなく、前記微小間隙の大きさが変わらない。
【0022】
また、内環31がカシメ突起28に係合することで内環31が外環21に対し軸方向に位置ずれするのを抑制するために、内環31の嵌合力を強く設定する必要がない。したがって、挿入時の抵抗力が増大して組立て作業性が悪化するのを未然に防止することができる。
【符号の説明】
【0023】
11 密封装置
21 外環
22,32 外周筒部
23,33 端面部
24 筒状部
25 テーパー部
26,34 内周筒部
27 折り曲げ部
28 カシメ突起
29 加工痕
31 内環
41 両環位置決め構造
62 軸受外輪
図1
図2
図3