(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706472
(24)【登録日】2020年5月20日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】既存建物の免震改修方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20200601BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20200601BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
E04G23/02 D
E04H9/02 331A
E04H9/02 331B
F16F15/04 A
F16F15/04 P
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-177310(P2015-177310)
(22)【出願日】2015年9月9日
(65)【公開番号】特開2017-53131(P2017-53131A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】藤村 太史郎
(72)【発明者】
【氏名】豊田 祥之
(72)【発明者】
【氏名】松野 勇輝
【審査官】
西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−293328(JP,A)
【文献】
特開平10−121746(JP,A)
【文献】
特開2014−091977(JP,A)
【文献】
特開2017−053115(JP,A)
【文献】
特開平08−338155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04H 9/02
F16F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物を免震改修する方法において、免震装置を設置する免震層の床面が基礎梁上にある既存の床面であって、該床面の上面に補強梁を新設して免震装置を設置することを特徴とする免震改修方法。
【請求項2】
既存建物を中間階で免震改修する方法において、既存梁の上にある免震層の既存の床上面に補強梁を新設し、免震改修層の既存の上梁を補強し、免震改修階部分の既存柱を下側が長くなる位置が切断位置であり、切断される上下の既存柱を補強して、既存柱を切断した箇所に免震装置を設置することを特徴とする免震改修方法。
【請求項3】
既存の床上面に形成した補強梁の高さに床面を新設し、利用スペースとしての天井高さを十分に確保できない場合は、
既存建物の免震層上部部分を持ち上げて、免震装置設置階の天井高さを利用スペースとして改修後も室としての使用に支障がない程度に使用できる十分な高さに調整したことを特徴とする請求項1又は2記載の免震改修方法。
【請求項4】
既存建物であって、既存スラブの下面に既存の梁を備えた既存階の柱を切断して、免震装置を設置して免震層として改修した免震建物において、
切断された下側の柱が上側の柱より長く、また、切断された上下の既存柱が補強されており、
免震装置を設置する免震層の既存の床上面に免震装置を設置するに必要な補強梁を備えており、
上部に既存梁が補強された補強上部梁を備えていることを特徴とする免震建物。
【請求項5】
免震装置を設置する階は、利用スペースとして改修後も室としての使用に支障がない程度に十分な天井高さを備えていることを特徴とする請求項4記載の免震建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の免震改修技術に関する。
【背景技術】
【0002】
大規模地震に対する建物の安全性を確保するために、既存建物に対して、その躯体を補強することにより耐震性を向上させたり、あるいは免震層を形成して免震化を図ったりする方策が採られている。
既存建物を免震化する免震改修方法で、例えば、地下部分が地下1階まである建物の地下1階を免震層として、B1F柱頭免震を行う場合、地震時の地下1階の柱や上下の梁に免震化前になかった大きな曲げモーメントがかかることが想定され、免震層上の梁と免震層下の基礎梁にも補強する必要があることが多い。
基礎梁の補強手段としては、(1)既存梁側増し打ち、(2)梁下端増し打ち等の方法がある。
既存ピットがある場合に「既存梁側増し打ち」を適用すると、汚水槽や排水槽を兼ねているピットを床側から施工することとなり、床の破壊を伴い、建物を使いながら工事を進めることが難しくなる。「梁下端増し打ち」では、基礎の下を掘削するので、地下の掘削が必要となる。
【0003】
特許文献1(特開2008−156930号公報)には、既存梁下を掘削して、既存梁の下方に免震装置を設置する免震改修方法に関する発明が開示されている。土間の下部に基礎梁を有する既存建物の土間下地盤を掘削して免震層を形成し、同既存建物を免震化する免震改修工法において、 土間下地盤の掘削を行い、同掘削場所に耐圧底版と擁壁を構築して免震層を形成し、既存建物の基礎部分に免震装置を設置して免震化する既存建物の免震改修工法が開示されている。
特許文献2(特開2014−125807号公報)には、既存基礎をジャッキアップして、既存基礎の下方に免震装置を導入した免震改修方法が開示されている。基礎スラブ側からアクセスすることにより、掘削量を少なくする方法である。
特許文献3(特開2014−91977号公報)には、中間階免震改修方法において、免震層の柱と上部側の梁を補強して、柱上部側を切断し、施工階の階高を上げて、免震装置を導入して、免震装置の設置階における有効スペースの減少を抑制する方法が開示されている。
特許文献4(特許第5456461号公報)には、中間階免震において、垂れ壁と腰壁を用いて既存梁や既存柱を補強して免震装置を導入する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−156930号公報
【特許文献2】特開2014−125807号公報
【特許文献3】特開2014−91977号公報
【特許文献4】特許第5456461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基礎梁の下方の工事をせずに、免震装置を設置する既存建物の免震改修方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.既存建物を免震改修する方法において、免震装置を設置する
免震層の床面が基礎梁上にある既存の床面であって、該床面の上面に補強梁を新設して免震装置を設置することを特徴とする免震改修方法。
2.
既存建物を中間階で免震改修する方法において、既存梁の上にある免震層の既存の床上面に補強梁を新設し、免震改修層の既存の上梁を補強し、免震改修階部分の既存柱を下側が長くなる位置が切断位置であり、切断される上下の既存柱を補強して、既存柱を切断した箇所に免震装置を設置することを特徴とする免震改修方法。
3.既存の
床上面に形成した補強梁の高さに床面を新設し、利用スペースとしての天井高さを十分に確保できない場合は、
既存建物の免震層上部部分を持ち上げて、免震装置設置階の天井高さを利用スペースとして
改修後も室としての使用に支障がない程度に使用できる十分な高さに調整したことを特徴とする1.又は2.記載の免震改修方法。
4.
既存建物であって、既存スラブの下面に既存の梁を備えた既存階の柱を切断して免震装置を設置し
て免震層として改修した免震建物において、
切断された下側の柱が上側の柱より長く、また、切断された上下の既存柱が補強されており、
免震装置を設置する
既存の床上面に免震装置を設置するに必要な補強梁を備えており、
上
部に既存梁が補強された補強上部梁を備えていることを特徴とする免震建物。
5.免震装置を設置する階は、利用スペースとして
改修後も室としての使用に支障がない程度に十分な天井高さを備えていることを特徴とする4.記載の免震建物。
【発明の効果】
【0007】
1.免震層の床上に梁を増し打ちして免震装置導入用の梁を既存床上に構築するので、作業し易い床上から補強工事を行うことができ、解体工事や掘削工事が少なくて済む。
増し打ちした梁によって免震層の床上に生じる凹凸は、必要に応じて、フラットな床を構築することができる。免震層のもとの階高が高い場合は、そのままでも十分な利用階高を確保することができ、低い場合は、免震層をジャッキアップして、必要な階高を確保することにより、利用スペースの減少を防止することができる。
2.本発明では、免震層の上部側に免震装置を設置する。免震装置の設置位置を高くすることにより、免震層上部の梁にかかる付加曲げを、下部側に免震装置を設置した場合よりも小さくすることができ、梁の補強量を抑制することができる。大きな補強をして、大きな梁成となると免震後のフロアの使用勝手が低下する。
3.解体工事や掘削工事を少なくすることにより低コストを実現でき、建物を使用状態で工事を進めることができるので工事期間中の建物の利用性の低下を防止し、免震改修後の建物の利用性の低下も防止することができる。例えば、免震層とする地下1階に機械室などの設備を設置している場合には、設備を天井側に吊り下げることにより、切り替えの作業時の中断はあるものの、機器を継続して使用することができる。
4.本発明は、中間階に免震装置を設ける免震改修に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、既存建物の基礎などより上方に免震装置を設置する免震改修に関する。
免震層の下方に影響を与えずに免震装置を設置する改修方法であって、免震層の床上側に梁補強を施し、柱及び上部梁を補強する。さらに、利用階高を確保するために必要に応じてジャッキアップ行う。床上補強梁に貫通孔を設けて通線可能にすることにより、補強梁上に仕上げ床を設けてフラットな利用床空間を設けることができる。
基礎梁の下方などを掘削する必要が無く、免震改修工事中も既存建物の利用を継続することができ、建物の使用性に大きな影響を与えることなく、迅速に免震改修工事を進めることができる。
【0010】
図1に免震改修前後の例について、説明する。
図1(a)に、免震改修前の既存建物の部分構成を示し、
図1(b)に同部分に免震改修を施した部分構成が示されている。
既存建物Aは、地下1階を備えており、基礎梁5の上に既存スラブ6が設けられており、基礎梁から既存柱41が地上へ立設されて、上部既存梁31、1F床が設けられさらに2F等上部が構築されている。図示の例では、中2階が設けられており、既存建物Aの地下外壁は地山に接している。
この既存建物Aの地下1階を免震層として改修し、免震装置1を設けた免震改修建物Bが
図1(b)に示されている。既存スラブ6の上方で基礎梁5の上部に梁を新設して床上新設梁2を構築し、既存柱41を補強した補強柱4、上部既存梁31を補強した補強上部梁3を設け、補強柱4を切断して免震下部補強柱42と免震上部基礎12との間に免震装置1を設けている。免震改修建物Bの外周には、外周免震ピット7を設ける。
既存スラブ6の上方での工事が中心であって、基礎梁の下方を掘削する必要がないので、工事に伴う搬出物も少なく、工事量を抑えて、既存建物の使用を継続しながら迅速に免震改修工事を行うことができる。
【0011】
本発明の地下1階を備えた既存建物Aの地下1階を免震層に改修する例について、免震改修工程を
図2を参照して説明する。
第1工程(a):既存建物Aから外周免震ピットの分だけ離れた位置にシートパイル72を打設して、擁壁などの外周免震ピット躯体を構築するための山留めとし、掘削する。
第2工程(b):シートパイルと外壁の間に外周免震ピット7の躯体を構築する。
第3工程(c):既存スラブ6上面で基礎梁5の上側箇所に床上新設梁2を設ける他、免震装置下部側の補強を行う。
なお、床上新設梁の構築に先立ち、床上から撤去できる物は撤去し、ビルの稼働に必要な設備類は、仮の設置台あるいは天井側から吊り下げる等の回避措置を施す。
第4工程(d):既存柱41を地下部分及び1階部分に対して補強して、補強柱4を構築する。上部側の上部既存梁31も補強して、補強上部梁3を構築する。なお、既存柱41において、免震装置を設置するために切除する部分には補強は行わない。柱の非補強部の下方は、免震下部補強柱42、上方は免震上部基礎12に構成される。
第5工程(e):軸力を仮受けする支保工100を設けて、柱を切断し、支保工に軸力を移行する。
第6工程(f):柱の切断箇所110に免震装置1を設置して、免震装置に軸力を移行し、支保工を撤去し、さらに仕上げ工事を行う。
床上新設梁2が露出した状態では、免震フロアは凹凸になっており、平坦にした方が使い勝手が良い場合は、床を新設してフラットにすることができる。床上新設梁2に貫通孔を設けることにより隣接区画間に通線や通管することができ、床下を有効に利用することができる。
【0012】
図3は、免震改修を施した建物の一部分を示した例である。
この建物は、地下1階地上5階建てで、中2階を備え、地下1階を免震層としている。基礎杭の上方に基礎梁5、既存スラブ6の上方に床上新設梁2が構築されており、柱を地下階と1階部分まで補強して、補強柱4を構築している。免震層上部の梁を補強して補強上部梁3を設け、補強柱4を切断して、積層ゴムなどの免震装置1を設置している。
免震装置は免震層の上部側に設けられており、下側の免震下部補強柱42の長さは、上側の免震上部基礎12よりも長くなっている。柱の上方に設けることにより、免震上部の梁にかかる付加曲げが大きくなることを抑制でき、上部側の補強梁成の大きさも抑制でき、天井側の使い勝手の低下を防止できる。特に、この建物の例では、免震層下部に梁成の大きな基礎梁となっているので、下方の補強量も抑えられるので、全体として、免震層をフロアとして利用する場合の、有効面積の低下を防止できる。
また、この免震改修では、ダンパーも併用されている。
なお、基礎梁の間にはピットが設けられている。
【0013】
図4に免震層の床上に設けた床上新設梁2及び免震下部補強柱42の配置例が示されている。免震改修建物の外周には擁壁などの外周免震ピット7が形成されている。
柱を補強して太くし、梁は床上側に新設してあり、柱側端部を中間部よりも太く形成している。既存スラブの上に梁を新設するので、免震装置の下方を支える梁の設置に伴う既存スラブ側から下方に掘削する必要もなく、基礎梁の下方を掘削する必要も無い。
【0014】
図5に免震層の上部の梁補強と免震装置の配置例が示されている。
各柱に免震装置1が設置されており、免震層上部の柱部分は免震上部基礎12となっている。補強上部梁3は、上部既存梁に補強部分を増し打ちして補強上部梁3を形成する。増し打ちは、既存梁の下方にも形成されており、梁成が拡張されている。
補強柱4に免震装置1が設置されている。
【0015】
図6に外周部に設けた免震装置について説明する。免震装置を設けた部分の基本構成は、この構成と同様である。
既存スラブ6の上に基礎梁5に対応する箇所に床上新設梁2、免震層とその上階の既存柱を太く補強した補強柱4、1階床下の梁を増し打ちした補強上部梁3、補強柱4を上部で切断して免震装置1が設置されている。
この例では、床上新設梁2と補強上部梁3が増し打ちされることによって、既存階高が低くなる。階高が低くなりすぎるとフロアとしての利用性が低下する場合は、有効な階高を確保するためにジャッキアップして免震装置を導入し、必要な高さを確保する。
この例では、床上新設梁2と補強上部梁3の間は階高H1となっている。ジャッキアップしない場合は、改修前の階高は、階高H1に床上新設梁高さhbと補強上部梁増し打ち長haを加えた長さ(H1+hb+ha)である。なお、床上新設梁2の上面に床を新設する場合は、新設床の厚さ分、階高は低くなる。
【0016】
免震機構は、通常使用されている免震用の設備を採用することができる。例示は、積層ゴムである。ダンパーなどを併用してもよい。
この例では、免震層となった地下1階部分が最下階で、ビルの設備機器が設置されており十分な高さの階高を免震改修後も確保できたので、ジャッキアップする必要は無い例である。
【0017】
図7に、貫通孔23を設けた床上新設梁2と床上新設梁2の上面に新設床61を形成した例を示している。これによって、新設床面はフラットになり、かつ、貫通孔によって床上新設梁があっても床下配線等を行うことができ、床下の空間を有効利用できることとなるので、十分な階高が確保できれば、フロアの使用性を改善することになる。
【0018】
本発明は、作業しやすい床上から補強工事を行うことができ、解体工事や掘削工事を少なくすることができるので、工事期間が短く、既存建物を使用しながら行う免震改修に適している。また、十分な階高を確保して、使い勝手の良いフロアを形成することができるので、中間階に免震装置を設ける中間階免震改修に適した改修方法である。
【符号の説明】
【0019】
1 免震装置
12 免震上部基礎
2 床上新設梁
23 貫通孔
3 補強上部梁
31 上部既存梁
32 補強部分
4 補強柱
41 既存柱
42 免震下部補強柱
5 基礎梁
6 既存スラブ
61 新設床
7 外周免震ピット
72 シートパイル
100 支保工
110 切断箇所
A 既存建物
B 免震改修建物