特許第6706474号(P6706474)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706474
(24)【登録日】2020年5月20日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20200601BHJP
   G01N 27/409 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   G01N27/416 331
   G01N27/416 371G
   G01N27/409 100
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-192840(P2015-192840)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-67587(P2017-67587A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 隆生
(72)【発明者】
【氏名】安居 将司
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−115784(JP,A)
【文献】 特開平10−232217(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/090064(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/090960(WO,A1)
【文献】 特開2002−168823(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/125476(WO,A1)
【文献】 特開平10−132779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/406−27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な板状体形状であり、長さ方向を上下方向、幅方向を左右方向、厚さ方向を前後方向として、前側の面である前面及び後側の面である後面に配設された複数の導通電極を有するセンサ素子と、
前記複数の導通電極の各々に接触して導通している複数の接触金具と、
を備え、
前記導通電極のうち前記センサ素子の上下方向に沿った中心軸の左前側に位置する2以上の導通電極を左前電極とし、
前記導通電極のうち前記中心軸の右前側に位置する2以上の導通電極を右前電極とし、
前記導通電極のうち前記中心軸の左後側に位置する2以上の導通電極を左後電極とし、
前記導通電極のうち前記中心軸の右後側に位置する2以上の導通電極を右後電極とし、
前記接触金具から前記左前電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMa[N・m]とし、
前記接触金具から前記右前電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMb[N・m]とし、
前記接触金具から前記左後電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMc[N・m]とし、
前記接触金具から前記右後電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMd[N・m]としたときに、
前記絶対値Maと前記絶対値Mcとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上1倍以下であり、
前記絶対値Mbと前記絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上1倍以下であ
前記複数の導通電極と前記複数の接触金具との各々の接触面積について、使用時の電圧及び電流が大きい導通電極における該接触面積が、使用時の電圧及び電流が小さい導通電極における該接触面積よりも大きい傾向となるように、各々の接触面積のうち少なくとも1つが他と異なっている、
ガスセンサ。
【請求項2】
前記絶対値Maと前記絶対値Mcとのうち小さい方が、大きい方の0.9倍以上であり、
前記絶対値Mbと前記絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.9倍以上である、
請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記絶対値Maと前記絶対値Mbとのうち小さい方が、大きい方の0.5倍以上1倍以下であり、
前記絶対値Mcと前記絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.5倍以上1倍以下である、
請求項1又は2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記絶対値Maと前記絶対値Mbとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上であり、
前記絶対値Mcと前記絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上である、
請求項3に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記絶対値Maと前記絶対値Mbとのうち小さい方が、大きい方の0.9倍以上であり、
前記絶対値Mcと前記絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.9倍以上である、
請求項3又は4に記載のガスセンサ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のガスセンサであって、
前記センサ素子が内部を軸方向に貫通しており、前記センサ素子を固定する固定部、
を備え、
前記複数の導通電極は、いずれも前記固定部に対して前記センサ素子の軸方向で同じ側に位置しており、
前記センサ素子のうち前記固定部に固定された最も前記導通電極側の部分の前後方向の中心を通り且つ左右方向に平行な軸を固定軸とし、
前記導通電極のうち前記センサ素子の前側に位置する4以上の導通電極を前側電極とし、
前記導通電極のうち前記センサ素子の後側に位置する4以上の導通電極を後側電極とし、
前記接触金具から前記前側電極の各々に作用する前記固定軸周りのモーメントの和の絶対値をMA[N・m]とし、
前記接触金具から前記後側電極の各々に作用する前記固定軸周りのモーメントの和の絶対値をMB[N・m]としたときに、
前記絶対値MAと前記絶対値MBとのうち小さい方が、大きい方の0.5倍以上1倍以下である、
ガスセンサ。
【請求項7】
前記絶対値MAと前記絶対値MBとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上である、
請求項6に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記絶対値MAと前記絶対値MBとのうち小さい方が、大きい方の0.9倍以上である、
請求項6又は7に記載のガスセンサ。
【請求項9】
長尺な板状体形状であり、長さ方向を上下方向、幅方向を左右方向、厚さ方向を前後方向として、前側の面である前面及び後側の面である後面の少なくとも一方に配設された複数の導通電極を有するセンサ素子と、
前記複数の導通電極の各々に接触して導通している複数の接触金具と、
を備え、
前記導通電極のうち前記センサ素子の上下方向に沿った中心軸の左前側に位置する2以上の導通電極を左前電極とし、
前記導通電極のうち前記中心軸の右前側に位置する2以上の導通電極を右前電極とし、
前記導通電極のうち前記中心軸の左後側に位置する2以上の導通電極を左後電極とし、
前記導通電極のうち前記中心軸の右後側に位置する2以上の導通電極を右後電極とし、
前記接触金具から前記左前電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMa[N・m]とし、
前記接触金具から前記右前電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMb[N・m]とし、
前記接触金具から前記左後電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMc[N・m]とし、
前記接触金具から前記右後電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMd[N・m]としたときに、
前記絶対値Maと前記絶対値Mbとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上1倍以下であり、
前記絶対値Mcと前記絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上1倍以下であ
前記複数の導通電極と前記複数の接触金具との各々の接触面積について、使用時の電圧及び電流が大きい導通電極における該接触面積が、使用時の電圧及び電流が小さい導通電極における該接触面積よりも大きい傾向となるように、各々の接触面積のうち少なくとも1つが他と異なっている、
ガスセンサ。
【請求項10】
長尺な板状体形状であり、長さ方向を上下方向、幅方向を左右方向、厚さ方向を前後方向として、前側の面である前面及び後側の面である後面に配設された複数の導通電極を有するセンサ素子と、
前記複数の導通電極の各々に接触して導通している複数の接触金具と、
前記センサ素子が内部を軸方向に貫通しており、前記センサ素子を固定する固定部と、
を備え、
前記複数の導通電極は、いずれも前記固定部に対して前記センサ素子の軸方向で同じ側に位置しており、
前記センサ素子のうち前記固定部に固定された最も前記導通電極側の部分の前後方向の中心を通り且つ左右方向に平行な軸を固定軸とし、
前記導通電極のうち前記センサ素子の前側に位置する4以上の導通電極を前側電極とし、
前記導通電極のうち前記センサ素子の後側に位置する4以上の導通電極を後側電極とし、
前記接触金具から前記前側電極の各々に作用する前記固定軸周りのモーメントの和の絶対値をMA[N・m]とし、
前記接触金具から前記後側電極の各々に作用する前記固定軸周りのモーメントの和の絶対値をMB[N・m]としたときに、
前記絶対値MAと前記絶対値MBとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上1倍以下であ
前記複数の導通電極と前記複数の接触金具との各々の接触面積について、使用時の電圧及び電流が大きい導通電極における該接触面積が、使用時の電圧及び電流が小さい導通電極における該接触面積よりも大きい傾向となるように、各々の接触面積のうち少なくとも1つが他と異なっている、
ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガス濃度を検出するガスセンサが知られている。例えば、特許文献1には、センサ素子と、センサ素子の基端側を覆う大気側絶縁碍子と、大気側絶縁碍子内部に配置された電極取り出しバネと、を備えた、を備えたガスセンサが記載されている。このガスセンサでは、電極取り出しバネがセンサ素子の端子部と当接しており、電極取り出しバネを介してセンサ素子の出力を取り出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4670197号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなガスセンサでは、電極取り出しバネなどの接触金具とセンサ素子の端子部(電極)との接触を保つため、接触金具がセンサ素子の電極を押圧している。しかし、この押圧力により、センサ素子に過大な力がかかると、センサ素子にクラックなどの破損が生じる場合があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、センサ素子の破損を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、上述した主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の第1のガスセンサは、
長尺な板状体形状であり、長さ方向を上下方向、幅方向を左右方向、厚さ方向を前後方向として、前側の面である前面及び後側の面である後面に配設された複数の導通電極を有するセンサ素子と、
前記複数の導通電極の各々に接触して導通している複数の接触金具と、
を備え、
前記導通電極のうち前記センサ素子の上下方向に沿った中心軸の左前側に位置する1以上の導通電極を左前電極とし、
前記導通電極のうち前記中心軸の右前側に位置する1以上の導通電極を右前電極とし、
前記導通電極のうち前記中心軸の左後側に位置する1以上の導通電極を左後電極とし、
前記導通電極のうち前記中心軸の右後側に位置する1以上の導通電極を右後電極とし、
前記接触金具から前記左前電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMa[N・m]とし、
前記接触金具から前記右前電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMb[N・m]とし、
前記接触金具から前記左後電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMc[N・m]とし、
前記接触金具から前記右後電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMd[N・m]としたときに、
前記絶対値Maと前記絶対値Mcとのうち小さい方が、大きい方の0.5倍以上1倍以下であり、
前記絶対値Mbと前記絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.5倍以上1倍以下である、
ものである。
【0008】
また、本発明の第2のガスセンサは、
長尺な板状体形状であり、長さ方向を上下方向、幅方向を左右方向、厚さ方向を前後方向として、前側の面である前面及び後側の面である後面の少なくとも一方に配設された複数の導通電極を有するセンサ素子と、
前記複数の導通電極の各々に接触して導通している複数の接触金具と、
を備え、
前記導通電極のうち前記センサ素子の上下方向に沿った中心軸の左前側に位置する1以上の導通電極を左前電極とし、
前記導通電極のうち前記中心軸の右前側に位置する1以上の導通電極を右前電極とし、
前記導通電極のうち前記中心軸の左後側に位置する1以上の導通電極を左後電極とし、
前記導通電極のうち前記中心軸の右後側に位置する1以上の導通電極を右後電極とし、
前記接触金具から前記左前電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMa[N・m]とし、
前記接触金具から前記右前電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMb[N・m]とし、
前記接触金具から前記左後電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMc[N・m]とし、
前記接触金具から前記右後電極の各々に作用する前記中心軸周りのモーメントの和の絶対値をMd[N・m]としたときに、
前記絶対値Maと前記絶対値Mbとのうち小さい方が、大きい方の0.5倍以上1倍以下であり、
前記絶対値Mcと前記絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.5倍以上1倍以下である、
ものである。
【0009】
また、本発明の第3のガスセンサは、
長尺な板状体形状であり、長さ方向を上下方向、幅方向を左右方向、厚さ方向を前後方向として、前側の面である前面及び後側の面である後面に配設された複数の導通電極を有するセンサ素子と、
前記複数の導通電極の各々に接触して導通している複数の接触金具と、
前記センサ素子が内部を軸方向に貫通しており、前記センサ素子を固定する固定部と、
を備え、
前記複数の導通電極は、いずれも前記固定部に対して前記センサ素子の軸方向で同じ側に位置しており、
前記センサ素子のうち前記固定部に固定された最も前記導通電極側の部分の前後方向の中心を通り且つ左右方向に平行な軸を固定軸とし、
前記導通電極のうち前記センサ素子の前側に位置する1以上の導通電極を前側電極とし、
前記導通電極のうち前記センサ素子の後側に位置する1以上の導通電極を後側電極とし、
前記接触金具から前記前側電極の各々に作用する前記固定軸周りのモーメントの和の絶対値をMA[N・m]とし、
前記接触金具から前記後側電極の各々に作用する前記固定軸周りのモーメントの和の絶対値をMB[N・m]としたときに、
前記絶対値MAと前記絶対値MBとのうち小さい方が、大きい方の0.5倍以上1倍以下である、
ものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1〜第3のガスセンサでは、接触金具からセンサ素子の導通電極に対して作用する複数種類のモーメント(力のモーメント)の和の絶対値の相互の関係が、上記の所定の条件を満たすようにすることで、センサ素子の破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ガスセンサ10が配管90に取り付けられた様子を示す概略説明図。
図2】ガスセンサ10の縦断面図。
図3図2のB−B断面図。
図4】導通電極22に作用する力と中心軸Cからの距離の説明図。
図5】第1〜第4電極22a〜22dに作用する力と固定軸Pからの距離の説明図。
図6】第5〜第8電極22e〜22hに作用する力と固定軸Pからの距離の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ10が配管90に取り付けられた様子を示す概略説明図である。図2は、ガスセンサ10の縦断面図であり、図1のA−A断面図である。図3は、図2のB−B断面図である。なお、図3では、大気側カバー74の図示を省略している。図4は、図3のセンサ素子20周辺の拡大図であり、導通電極22に作用する力と中心軸Cからの距離の説明図である。図5は、第1〜第4電極22a〜22dに作用する力と固定軸Pからの距離の説明図である。なお、図5は、センサ素子20のうち素子封止体40よりも上方部分を前方から見た状態を示した模式図である。図6は、第5〜第8電極22e〜22hに作用する力と固定軸Pからの距離の説明図である。なお、図6は、センサ素子20のうち素子封止体40よりも上方部分を後方から見た状態を示した模式図である。なお、本実施形態において、上下方向,左右方向及び前後方向は、図2〜6に示した通りとする。なお、上下方向はセンサ素子20の長さ方向であり、左右方向はセンサ素子20の幅方向であり、前後方向はセンサ素子20の厚さ方向である。
【0013】
図1に示すように、ガスセンサ10は、例えば車両の排ガス管などの配管90に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO2等の特定ガスの濃度(特定ガス濃度)を測定するために用いられる。本実施形態では、ガスセンサ10は特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。
【0014】
図2に示すように、ガスセンサ10は、センサ素子20と、センサ素子20の表面の少なくとも一部を被覆する保護層25と、センサ素子20の先端面20aを含む先端側(図2の下端側)を保護する保護カバー30と、センサ素子20を封止固定する素子封止体40(固定部)と、センサ素子20の基端面20bを含む基端側(図2の上端側)の保護やセンサ素子20からの電気信号の取り出しを行う組立体50と、を備えている。
【0015】
センサ素子20は、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層を複数積層した構造を有している。センサ素子20は、長尺な板状体形状(直方体形状)の素子であり、下端側の先端面20aと、上端側の基端面20bと、前側の面である前面21aと、後側の面である後面21bと、左側の面である左面21cと、右側の面である右面21dと、を備えている。なお、センサ素子20において、直方体の3辺のうち最も長い辺に沿った方向を長さ方向とする。直方体の3辺のうち最も短い辺に沿った方向を厚さ方向とする。直方体の3辺のうち残りの1辺に沿った方向を幅方向とする。センサ素子20の寸法は、例えば長さが25mm以上100mm以下、幅が2mm以上10mm以下、厚さが0.5mm以上5mm以下としてもよい。センサ素子20は、被測定ガスを自身の内部に導入する図示しない被測定ガス導入口を先端面20aに有しており、被測定ガス導入口から内部に流入した被測定ガス中の特定ガス濃度を検出可能に構成されている。また、センサ素子20は、素子封止体40よりも基端面20b側(上側)に、複数の導通電極22を備えている。導通電極22は、前面21a及び後面21bに配設されている。図3,4に示すように、本実施形態では、センサ素子20は導通電極22として第1〜第8電極22a〜22hを備えている。第1,第2電極22a,22bは、前面21aのうちセンサ素子20の中心軸Cよりも左側に配設されている。なお、中心軸Cは、センサ素子20の長手方向に沿った軸であり、前面21a及び後面21bの中心を通り且つ前面21a及び後面21bに垂直な軸である。第3,第4電極22c,22dは、前面21aのうち中心軸Cよりも右側に配設されている。第5,第6電極22e,22fは、後面21bのうち中心軸Cよりも左側に配設されている。第7,第8電極22g,22hは、後面21bのうち中心軸Cよりも右側に配設されている。複数の導通電極22の各々は、センサ素子20の表面や内部に配設された図示しない電極と導通している。複数の導通電極22は、各々が接触金具60と接触して電気的に導通している。複数の導通電極22は、検出した特定ガス濃度に応じてセンサ素子20が発生させる電気信号を接触金具60を介して外部に取り出したり、センサ素子20を駆動するための電力を接触金具60を介して外部から供給したりするために用いられる。
【0016】
保護層25は、センサ素子20の表面の少なくとも一部を覆う多孔質体である。保護層25は、センサ素子20の先端面20aを含む素子室37内に位置する部分のほとんどを覆っている。保護層25は、例えば被測定ガス中の水分やオイル成分等からセンサ素子20を保護する役割を果たす。保護層25は、例えばアルミナなどのセラミックスの多孔質体からなる。
【0017】
保護カバー30は、例えばステンレス鋼などの金属からなり、外部から内部の素子室37への被測定ガスの流入を許容する円筒状の部材である。保護カバー30は、センサ素子20の先端側を覆う有底筒状の内側保護カバー31と、この内側保護カバー31を覆う有底筒状の外側保護カバー32とを備えている。内側保護カバー31は、内側に素子室37を有している。素子室37は、内側保護カバー31の内周面に囲まれた空間である。素子室37内には、センサ素子20の先端面20aを含む先端側が配置されている。内側保護カバー31と外側保護カバー32との間には、両カバーに囲まれた空間であるガス室38が存在する。内側保護カバー31には、側面(外周面)に位置する複数の素子室入口33と、底面に位置する素子室出口34とが配設されている。外側保護カバー32には、側面(外周面)に位置する複数の外側入口35と、底面に位置する外側出口36とが配設されている。
【0018】
素子封止体40は、センサ素子20を固定すると共に、センサ素子の先端側(下側)である保護カバー30内の空間(素子室37及びガス室38)と、基端側(上側)である大気側カバー74内の空間との間を封止するものである。センサ素子20は、素子封止体40の軸方向(上下方向)に素子封止体40を貫通している。素子封止体40は、ハウジング41と、第1絶縁碍子45と、封止部材48と、シール材49と、を備えている。センサ素子20と素子封止体40とは、同軸に位置している。センサ素子20の中心軸Cは、素子封止体40やガスセンサ10の中心軸と一致している。ハウジング41は、円筒状の金属部材であり、下端には保護カバー30の上端が取付けられている。ハウジング41は、配管90に溶接され内周面に雌ネジ部が設けられた固定用部材91内に挿入されている。これにより、ガスセンサ10のうちセンサ素子20の先端側や保護カバー30が配管90内に突出した状態で、ガスセンサ10が配管90に固定されている。第1絶縁碍子45は、ハウジング41の内部に挿入された円柱状の部材である。センサ素子20は、第1絶縁碍子45の内部を貫通している。第1絶縁碍子45は、例えばアルミナ、ステアタイト、ジルコニアなどの絶縁性のセラミックスからなる。封止部材48は、例えばステンレス,ニッケル,又は銅などの金属などからなるリング状の部材である。封止部材48は、ハウジング41と第1絶縁碍子45とに上下から押圧されており、ハウジング41と第1絶縁碍子45との隙間を気密に封止している。シール材49は、タルクやアルミナ粉末、ボロンナイトライドなどのセラミックス粉末の成型体である。シール材49は、第1絶縁碍子45の内周面とセンサ素子20との間に充填されて、両部材間を気密に封止している。
【0019】
組立体50は、第2絶縁碍子55と、複数の接触金具60と、複数の接続端子71と、複数のリード線72と、ゴム栓73と、大気側カバー74と、外側カバー75と、皿バネ77とを備えている。第2絶縁碍子55は、有底筒状の部材であり、第1絶縁碍子45と同様に絶縁性のセラミックスからなる。第2絶縁碍子55は、下面が第1絶縁碍子45の上面と接触しており、第1絶縁碍子45と同軸に位置している。第2絶縁碍子55は、内部に空間56を有し、この空間56内にセンサ素子20の基端側と複数の接触金具60とが配置されている。第2絶縁碍子55は、接触金具60からの押圧力の反力により複数の接触金具60を前後両側から押圧して、接触金具60を支持している。また、第2絶縁碍子55は、図3に示すように内部には前後方向に向かい合うように空間56に突出した仕切り部57を複数有している。この仕切り部57は、複数の接触金具60の左右方向の移動を規制して、左右に隣接する接触金具60が互いに接触しないようにする役割を果たしている。
【0020】
接触金具60は、複数配設され、各々がセンサ素子20の複数の導通電極22と接触して導通している。接触金具60は、センサ素子20の前方及び後方に配設されている。図3,4に示すように、本実施形態では、組立体50は、接触金具60として第1〜第8接触金具60a〜60hを備えている。第1,第2接触金具60a,60bは、センサ素子20の左前側に配設されている。第3,第4接触金具60c,60dは、センサ素子20の右前側に配設されている。第5,第6接触金具60e,60fは、センサ素子20の左後側に配設されている。第7,第8接触金具60g,60hは、センサ素子20の右後側に配設されている。接触金具60の各々は、複数箇所で屈曲した金属板であり、内側に折り曲げられた状態の板バネとして構成され、外側に突出した突起部62(図3図4参照)を備えている。第1〜第8接触金具60a〜60hの各々は、この突起部62により、第1〜第8電極22a〜22hと1対1に接触して導通している。この複数の接触金具60は、自身の板バネの弾性力の反力によって第2絶縁碍子55の内側の面に支持されると共に、センサ素子20を前後両側から押圧している。より具体的には、第1〜第4接触金具60a〜60dは、前面21aに垂直な方向に第1〜第4導通電極22a〜22dを前方から押圧している。第5〜第8接触金具60e〜60hは、後面21bに垂直な方向に第5〜第8導通電極22e〜22hを後方から押圧している。この押圧力により、接触金具60と導通電極22との接触が保たれるようになっている。複数の接触金具60の各々の端部は、図2に示すように、第2絶縁碍子55の上側の底部の孔を貫通して引き出され、接続端子71を介してリード線72と導通している。
【0021】
リード線72は、大気側カバー74及び外側カバー75の上端を塞ぐゴム栓73を上下に貫通して外部(配管90の外部であり、大気中)に引き出されている。大気側カバー74は、素子封止体40の外周面のうちセンサ素子20の基端側(上側)の部分を覆っている。また、大気側カバー74は、第2絶縁碍子55及びゴム栓73を覆っている。外側カバー75は大気側カバー74の上側の外周面を覆っている。大気側カバー74及び外側カバー75には、それぞれ複数の大気導入孔76が形成されている。この大気導入孔76を介して、センサ素子20の基端面20bに配設された図示しない基準ガス導入口内に、特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガス(大気)が導入される。大気側カバー74及び外側カバー75は、上端付近に、縮径状に加締められた加締め部を有しており、この加締め部により、ゴム栓73が固定されている。皿バネ77は、上下で大気側カバー74と第2絶縁碍子55とに挟まれており、第2絶縁碍子55を下方に押圧することで第2絶縁碍子55及び第1絶縁碍子45を固定している。
【0022】
ここで、接触金具60から導通電極22に作用する中心軸C周りの力のモーメント(以下、単にモーメントと称する)について説明する。まず、導通電極22のうちセンサ素子20の上下方向に沿った中心軸Cの左前側に位置する導通電極22を左前電極とする。同様に、導通電極22のうち中心軸Cの右前側,左後側,右後側に位置する導通電極22を、それぞれ右前電極,左後電極,右後電極とする。本実施形態では、図3,4に示す第1〜第8電極22a〜22hの位置からわかるように、第1,第2電極22a,22bが左前電極に相当する。同様に、第3,第4電極22c,22dが右前電極に相当し、第5,第6電極22e,22fが左後電極に相当し、第7,第8電極22g,22hが右後電極に相当する。
【0023】
次に、接触金具60から左前電極の各々に作用する中心軸C周りのモーメントの和の絶対値をMa[N・m]とする。この絶対値Maは、以下の式(1)で導出することができる。
【0024】
Ma=|Fa1×La1+Fa2×La2+・・・+Fap×Lap| (1)
(ただし、
pは、左前電極の数(1以上の整数)、
Fa1,Fa2,・・・,Fapは、接触金具60からp個の左前電極の各々に作用する力[N]、
La1,La2,・・・,Lapは、p個の左前電極の各々における、接触金具60から左前電極への力の作用点と中心軸Cとの左右方向の距離[m])
【0025】
なお、式(1)は、左前電極の数がp個である場合に一般化したときの式である。本実施形態では、pは値2であるため、絶対値Maは、Ma=|Fa1×La1+Fa2×La2|として表すことができる。なお、より具体的には、図4に示すように、第1接触金具60aの突起部62から第1電極22aに作用する力が、力Fa1に相当する。第2接触金具60bの突起部62から第2電極22bに作用する力が、力Fa2に相当する。第1接触金具60aから第1電極22aへの力の作用点(すなわち第1電極22aのうち突起部62の先端に接する部分)と中心軸Cとの左右方向の距離が、距離La1に相当する。第2接触金具60bから第2電極22bへの力の作用点(すなわち第2電極22bのうち突起部62の先端に接する部分)と中心軸Cとの左右方向の距離が、距離La2に相当する。
【0026】
同様に、接触金具60から右前電極の各々に作用する中心軸C周りのモーメントの和の絶対値をMb[N・m]とし、接触金具60から左後電極の各々に作用する中心軸C周りのモーメントの和の絶対値をMc[N・m]とし、接触金具60から右後電極の各々に作用する中心軸C周りのモーメントの和の絶対値をMd[N・m]とする。絶対値Mb,Mc,Mdは、絶対値Maと同様に、それぞれ以下の式(2)〜(4)で導出することができる。
【0027】
Mb=|Fb1×Lb1+Fb2×Lb2+・・・+Fbq×Lbq| (2)
(ただし、
qは、右前電極の数(1以上の整数)、
Fb1,Fb2,・・・,Fbqは、接触金具60からq個の右前電極の各々に作用する力[N]、
Lb1,Lb2,・・・,Lbqは、q個の右前電極の各々における、接触金具60から右前電極への力の作用点と中心軸Cとの左右方向の距離[m])
【0028】
Mc=|Fc1×Lc1+Fc2×Lc2+・・・+Fcr×Lcr| (3)
(ただし、
rは、左後電極の数(1以上の整数)、
Fc1,Fc2,・・・,Fcrは、接触金具60からr個の左後電極の各々に作用する力[N]、
Lc1,Lc2,・・・,Lcrは、r個の左後電極の各々における、接触金具60から左後電極への力の作用点と中心軸Cとの左右方向の距離[m])
【0029】
Md=|Fd1×Ld1+Fd2×Ld2+・・・+Fds×Lds| (4)
(ただし、
sは、右後電極の数(1以上の整数)、
Fd1,Fd2,・・・,Fdsは、接触金具60からs個の右後電極の各々に作用する力[N]、
Ld1,Ld2,・・・,Ldsは、s個の右後電極の各々における、接触金具60から右後電極への力の作用点と中心軸Cとの左右方向の距離[m])
【0030】
なお、式(2)〜式(4)は、それぞれ右前電極の数がq個、左後電極の数がr個、右後電極の数がs個である場合に一般化したときの式である。本実施形態では、q,r,sはいずれも値2であるため、Mb=|Fb1×Lb1+Fb2×Lb2|、Mc=|Fc1×Lc1+Fc2×Lc2|、Md=|Fd1×Ld1+Fd2×Ld2|として表すことができる。なお、図4に示すように、第3〜第8接触金具60c〜60hの突起部62から第3〜第8電極22c〜hに作用する力の各々が、力Fb1,Fb2,Fc1,Fc2,Fd1,Fd2に相当する。第3〜第8接触金具60c〜60hから第3〜第8電極22c〜22hへの力の作用点(各電極のうち突起部62の先端に接する部分)と中心軸Cとの左右方向の距離が、距離Lb1,Lb2,Lc1,Lc2,Ld1,Ld2に相当する。
【0031】
なお、力(Fa1等)の向きは、前方から後方に向かう方向を正とする。また、左右方向の距離(La1等)は、中心軸Cよりも作用点が左に位置する場合を正とし、右に位置する場合を負とする。また、接触金具60(突起部62)と各電極(左前電極,右前電極,左後電極,右後電極)とが点接触ではなく面接触している場合、接触金具60から各電極への力の作用点は、接触部分(接触面)の中心とする。また、力(Fa1等)は、例えば1N〜100Nの範囲内としてもよい。左右方向の距離(La1等)は、例えば0mm超過5mm以下の範囲内としてもよいし、下限については0.1mm以上としてもよい。
【0032】
本実施形態では、こうして算出された絶対値Ma〜Mdが、以下の関係を満たしている。すなわち、絶対値Maと絶対値Mcとのうち小さい方が、大きい方の0.5倍以上1倍以下であり、且つ、絶対値Mbと絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.5倍以上1倍以下となっている(以下、条件1と称する)。この条件1を満たしていることで、互いに中心軸Cに対して左右の同じ側に作用点を有するモーメントの和の絶対値同士が、比較的近い値になる。より具体的には、中心軸Cに対して左側に作用点を有するモーメントの和(左前電極の各々に作用するモーメントの和、及び左後電極の各々に作用するモーメントの和)は、互いにセンサ素子20を反対向きに回転させるモーメントであるが、両者の絶対値Ma,Mcが互いに比較的近い値(0.5倍〜1倍の範囲内)になっている。同様に、中心軸Cに対して右側に作用点を有するモーメントの和(右前電極の各々に作用するモーメントの和、及び右後電極の各々に作用するモーメントの和)は、互いにセンサ素子20を反対向きに回転させるモーメントであるが、両者の絶対値Mb,Mdが互いに比較的近い値(0.5倍〜1倍の範囲内)になっている。これらにより、接触金具60からセンサ素子20に作用する力によってセンサ素子20が破損することを抑制できる。例えば、絶対値Maが絶対値Mcの0.5倍未満であると、両者のバランスが悪く、中心軸Cを中心として左回りにセンサ素子20を回転させる比較的大きなモーメント(McとMaとの差分に相当するモーメント)が、センサ素子20に作用する。しかし、センサ素子20は素子封止体40によって固定されているため、センサ素子20全体が回転することはない。これにより、センサ素子20に対して左回りにねじる力が働き、センサ素子20が破損する場合がある。条件1を満たすことで、このような中心軸Cを中心にセンサ素子20をねじるような力が働くことを抑制でき、センサ素子20のクラックなどの破損を抑制できる。なお、互いに中心軸Cに対して左右の同じ側に作用点を有するモーメントの和の絶対値同士がより近い値であるほど、センサ素子20の破損を抑制する効果は高まる傾向にある。例えば、絶対値Maと絶対値Mcとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上であることが好ましく、0.9倍以上であることがより好ましく、1倍であることがさらに好ましい。同様に、絶対値Mbと絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上であることが好ましく、0.9倍以上であることがより好ましく、1倍であることがさらに好ましい。
【0033】
また、絶対値Ma〜Mdが、以下の関係を満たしていることが好ましい。すなわち、絶対値Maと絶対値Mbとのうち小さい方が、大きい方の0.5倍以上1倍以下であり、且つ、絶対値Mcと絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.5倍以上1倍以下であることが好ましい(以下、条件2と称する)。この条件2を満たしていることで、互いに中心軸Cに対して前後の同じ側に作用点を有するモーメントの和同士が、比較的近い値になる。より具体的には、中心軸Cに対して前側に作用点を有するモーメントの和(左前電極の各々に作用するモーメントの和、及び右前電極の各々に作用するモーメントの和)は、互いにセンサ素子20を反対向きに回転させるモーメントであるが、両者の絶対値Ma,Mbが互いに比較的近い値(0.5倍〜1倍の範囲内)になっている。同様に、中心軸Cに対して後側に作用点を有するモーメントの和(左後電極の各々に作用するモーメントの和、及び右後電極の各々に作用するモーメントの和)は、互いにセンサ素子20を反対向きに回転させるモーメントであるが、両者の絶対値Mc,Mdが互いに比較的近い値(0.5倍〜1倍の範囲内)になっている。これらにより、接触金具60からセンサ素子20に作用する力によってセンサ素子20が破損することをより抑制できる。例えば、中心軸Cを中心にセンサ素子20をねじるような力が働くことを抑制でき、センサ素子20のクラックなどの破損を抑制できる。なお、互いに中心軸Cに対して前後の同じ側に作用点を有するモーメントの和の絶対値同士がより近い値であるほど、センサ素子20の破損を抑制する効果は高まる傾向にある。例えば、絶対値Maと絶対値Mbとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上であることが好ましく、0.9倍以上であることがより好ましく、1倍であることがさらに好ましい。同様に、絶対値Mcと絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上であることが好ましく、0.9倍以上であることがより好ましく、1倍であることがさらに好ましい。
【0034】
次に、接触金具60から導通電極22に作用する固定軸P周りの力のモーメントについて説明する。なお、固定軸P(図2,5参照)は、センサ素子20のうち素子封止体40に固定された最も導通電極22側(基端側)の部分の前後方向の中心を通り且つ左右方向に平行な軸とする。本実施形態では、センサ素子20のうち素子封止体40の上端(シール材49の上端)と一致する部分が、「センサ素子20のうち素子封止体40に固定された最も導通電極22側(基端側)の部分」に相当する。そして、センサ素子20のうちこの部分(素子封止体40の上端と一致する部分)の前後方向の中心を通り且つ左右方向に平行な軸が、固定軸Pとなる。固定軸Pは、接触金具60から導通電極22に作用する力によってセンサ素子20が回転(曲げ)しようとする場合の、回転の起点になる軸である。
【0035】
まず、素子封止体40に対してセンサ素子20の軸方向(中心軸Cに沿った方向)で同じ側(上側)に位置している複数の導通電極22のうち、センサ素子20の前側に位置する導通電極22を前側電極とする。同様に、導通電極22のうちセンサ素子20の後側に位置する導通電極22を後側電極とする。本実施形態では、図3,4に示す第1〜第8電極22a〜22hの位置からわかるように、第1〜第4電極22a〜22dが前側電極に相当する。同様に、第5〜第8電極22e〜22hが後側電極に相当する。
【0036】
次に、接触金具60から前側電極の各々に作用する固定軸P周りのモーメントの和の絶対値をMA[N・m]とする。この絶対値MAは、以下の式(5)で導出することができる。
【0037】
MA=|FA1×LA1+FA2×LA2+・・・+FAt×LAt| (5)
(ただし、
tは、前側電極の数(1以上の整数)、
FA1,FA2,・・・,FAtは、接触金具60からt個の前側電極の各々に作用する力[N]、
LA1,LA2,・・・,LAtは、t個の前側電極の各々における、接触金具60から前側電極への力の作用点と固定軸Pとの上下方向の距離[m])
【0038】
なお、式(5)は、前側電極の数がt個である場合に一般化したときの式である。本実施形態では、tは値4であるため、絶対値MAは、MA=|FA1×LA1+FA2×LA2+FA3×LA3+FA4×LA4|として表すことができる。なお、より具体的には、図5に示すように、第1接触金具60aの突起部62から第1電極22aに作用する力が、力FA1に相当する。同様に、第2〜第4接触金具60b〜60dの突起部62から第2〜第4電極22b〜22dに作用する力の各々が、力FA2〜FA4に相当する。なお、力FA1〜FA4の向きは、図5では紙面手前から奥に向かう向きである。また、本実施形態では、力FA1は、図4に示した力Fa1と名称が異なるのみで、同じ力である。同様に、力FA2,FA3,FA4は、それぞれ、力Fa2,Fb1,Fb2と名称が異なるのみで、同じ力である。また、第1接触金具60aから第1電極22aへの力の作用点と固定軸Pとの上下方向の距離が、距離LA1に相当する。同様に、第2〜第4接触金具60b〜60dから第2〜第4電極22b〜22dへの力の作用点と固定軸Pとの上下方向の距離が、距離LA2〜LA4に相当する。
【0039】
同様に、接触金具60から後側電極の各々に作用する固定軸P周りのモーメントの和の絶対値をMB[N・m]とする。この絶対値MBは、絶対値MAと同様に、以下の式(6)で導出することができる。
【0040】
MB=|FB1×LB1+FB2×LB2+・・・+FBu×LBu| (6)
(ただし、
uは、後側電極の数(1以上の整数)、
FB1,FB2,・・・,FBuは、接触金具60からu個の後側電極の各々に作用する力[N]、
LB1,LB2,・・・,LBuは、u個の後側電極の各々における、接触金具60から後側電極への力の作用点と固定軸Pとの上下方向の距離[m])
【0041】
なお、式(6)は、後側電極の数がu個である場合に一般化したときの式である。本実施形態では、uは値4であるため、絶対値MBは、MB=|FB1×LB1+FB2×LB2+FB3×LB3+FB4×LB4|として表すことができる。なお、図6に示すように、第5〜第8接触金具60e〜60hの突起部62から第5〜第8電極22e〜22hに作用する力の各々が、力FB1〜FB4に相当する。なお、力FB1〜FB4の向きは、図6では紙面手前から奥に向かう向きである。また、本実施形態では、力FB1,FB2,FB3,FB4は、それぞれ、図4に示した力Fc1,Fc2,Fd1,Fd2と名称が異なるのみで、同じ力である。また、第5〜第8接触金具60e〜60hから第5〜第8電極22e〜22hへの力の作用点と固定軸Pとの上下方向の距離が、距離LB1〜LB4に相当する。
【0042】
なお、力(FA1等)の向きは、前方から後方に向かう方向を正とする。また、上下方向の距離(LA1等)は、固定軸Pよりも作用点が上方に位置する場合を正とする。また、接触金具60(突起部62)と各電極(前側電極,後側電極)とが点接触ではなく面接触している場合、接触金具60から各電極への力の作用点は、接触部分(接触面)の中心とする。また、力(FA1等)は、例えば1N〜100Nの範囲内としてもよい。上下方向の距離(LA1等)は、例えば3mm〜40mmの範囲内としてもよい。
【0043】
本実施形態では、こうして算出された絶対値MA,MBが、以下の関係を満たしていることが好ましい。すなわち、絶対値MAと絶対値MBとのうち小さい方が、大きい方の0.5倍以上1倍以下であることが好ましい(以下、条件3と称する)。この条件3を満たしていることで、互いに固定軸Pに対して同じ側(上方)に作用点を有するモーメントの和の絶対値同士が、比較的近い値になる。より具体的には、固定軸Pに対して上側に作用点を有するモーメントの和(前側電極の各々に作用するモーメントの和、及び後側電極の各々に作用するモーメントの和)は、互いにセンサ素子20を反対向きに回転させるモーメントであるが、両者の絶対値MA,MBが互いに比較的近い値(0.5倍〜1倍の範囲内)になっている。これらにより、接触金具60からセンサ素子20に作用する力によってセンサ素子20が破損することを抑制できる。例えば、絶対値MAが絶対値MBの0.5倍未満であると、両者のバランスが悪く、固定軸Pを中心としてセンサ素子20を回転させる比較的大きなモーメント(MAとMBとの差分に相当するモーメント)が、センサ素子20に作用する。しかし、センサ素子20は素子封止体40によって固定されているため、センサ素子20全体が回転することはない。これにより、固定軸Pを支点としてセンサ素子20を曲げる力が働き、センサ素子20が例えば固定軸P付近で破損する場合がある。条件3を満たすことで、このような固定軸Pを中心にセンサ素子20を曲げるような力が働くことを抑制でき、センサ素子20のクラックなどの破損を抑制できる。なお、互いに固定軸Pに対して同じ側(上方)に作用点を有するモーメントの和同士がより近い値であるほど、センサ素子20の破損を抑制する効果は高まる傾向にある。例えば、絶対値MAと絶対値MBとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上であることが好ましく、0.9倍以上であることがより好ましく、1倍であることがさらに好ましい。
【0044】
なお、上述した絶対値Ma〜Md,MA,MBは、以下のように測定する。まず、ガスセンサ10を樹脂などに埋め込み、ガスセンサ10(特にセンサ素子20,素子封止体40,第2絶縁碍子55,及び接触金具60)を樹脂で固定する。そして、固定したガスセンサ10を、接触金具60と導通電極22との接点の位置や、接点と素子封止体40との位置関係が特定できるような任意の1以上の断面で切断する。そして、この断面に基づいて、接触金具60と導通電極22との接点(接触金具60から導通電極22への押圧力の作用点)を特定して、上述した距離La1等や距離LA1等の各距離を測定する。また、ガスセンサ10を切断した断面に基づいて、接触金具60の各々の変形の程度(板バネの変形の程度)を測定する。そして、予め測定しておいた接触金具60の変形と押圧力との関係と、断面に基づいて測定した接触金具60の変形の程度とに基づいて、上述した力Fa1等やFA1等の各力(押圧力)の大きさを測定する。これにより、上述した絶対値Ma〜Md,MA,MBを導出することができる。
【0045】
また、絶対値Ma〜Mdが条件1を満たすようにするためには、例えば力(Fa1等),距離(La1等),及び各電極(左前電極,右前電極,左後電極,右後電極)の数、のうち少なくとも1以上を調整すればよい。力(Fa1等)を調整するには、例えば、予め接触金具60の変形の程度と押圧力との関係を測定しておき、ガスセンサ10の組立状態での各接触金具60から各電極への押圧力が適切な値になるように調整してもよい。具体的には、例えば、複数の接触金具60のうち1以上をヤング率が異なる別の材料に変更したり、接触金具60や第2絶縁碍子55の内部の空間56の寸法などを調整して組立状態での接触金具60の変形の程度を調整したりすることで、複数の接触金具60の各々から各電極への押圧力を調整できる。左右方向の距離(La1等)を調整するには、例えば、各電極の位置を変更したり、接触金具60の寸法を変更したり、第2絶縁碍子55の空間56や仕切り部57の形状を調整して接触金具60を支持する位置を変更したりしてもよい。条件2,3を満たすようにする場合も、同様である。なお、上下方向の距離(LA1等)を調整するには、センサ素子20の長さを変更したり、素子封止体40がセンサ素子20を固定する位置を上下に変更したりすることもできる。
【0046】
次に、こうして構成されたガスセンサ10の使用例を以下に説明する。ガスセンサ10が図1図2のように配管90に取り付けられた状態で、配管90内を被測定ガスが流れると、被測定ガスは保護カバー30内を流通する。具体的には、配管90内の被測定ガスは、外側入口35からガス室38に流入し、ガス室38から素子室入口33を経て素子室37に流入する。そして、被測定ガスは素子室37内を素子室入口33から素子室出口34に向かって流れ、素子室出口34から外側出口36を経て外部(配管90内)に流出する。そして、被測定ガスが、素子室37内を流通する際に被測定ガス導入口からセンサ素子20内に流入すると、この被測定ガス中の特定ガス濃度(例えばNOx濃度)に応じた電気信号(電圧又は電流)をセンサ素子20が発生させる。なお、センサ素子20は、大気側カバー74内に位置する基準ガス導入口から内部に導入された基準ガスに基づいて、被測定ガス中の特定ガス濃度に応じた電気信号を発生させる。この電気信号を導通電極22,接触金具60,接続端子71,及びリード線72を介して取り出すことで、電気信号に基づき特定ガス濃度が検出される。
【0047】
以上詳述した本実施形態のガスセンサ10によれば、上述した条件1を満たしていることで、センサ素子20の破損を抑制できる。また、絶対値Maと絶対値Mcとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上であり、絶対値Mbと絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上であることで、センサ素子20の破損をより抑制できる。絶対値Maと絶対値Mcとのうち小さい方が、大きい方の0.9倍以上であり、絶対値Mbと絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.9倍以上であることで、センサ素子20の破損をさらに抑制できる。また、条件1を満たしていることで、条件1を満たしていない場合と比較してセンサ素子20の破損が抑制されるため、その分だけ接触金具60から導通電極22への個々の押圧力を高くすることもできる。そのため、接触金具60から導通電極22への押圧力を高くして両部材をより確実に導通させることができる。
【0048】
また、上述した条件2を満たしていることで、センサ素子20の破損をより抑制できる。絶対値Maと絶対値Mbとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上であり、絶対値Mcと絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上であることで、センサ素子20の破損をさらに抑制できる。絶対値Maと絶対値Mbとのうち小さい方が、大きい方の0.9倍以上であり、絶対値Mcと絶対値Mdとのうち小さい方が、大きい方の0.9倍以上であることで、センサ素子20の破損をいっそう抑制できる。また、条件2を満たしていることで、条件2を満たしていない場合と比較してセンサ素子20の破損が抑制されるため、その分だけ接触金具60から導通電極22への個々の押圧力を高くすることもできる。そのため、接触金具60から導通電極22への押圧力を高くして両部材をより確実に導通させることができる。
【0049】
さらに、上述した条件3を満たしていることで、センサ素子20の破損をより抑制できる。絶対値MAと絶対値MBとのうち小さい方が、大きい方の0.8倍以上であることで、センサ素子20の破損をさらに抑制できる。絶対値MAと絶対値MBとのうち小さい方が、大きい方の0.9倍以上であることで、センサ素子20の破損をいっそう抑制できる。また、条件3を満たしていることで、条件3を満たしていない場合と比較してセンサ素子20の破損が抑制されるため、その分だけ接触金具60から導通電極22への個々の押圧力を高くすることもできる。そのため、接触金具60から導通電極22への押圧力を高くして両部材をより確実に導通させることができる。
【0050】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0051】
例えば、上述した実施形態では、ガスセンサ10は少なくとも条件1を満たしていたが、これに限られない。条件1を満たさず条件2を満たしていてもよいし、条件1を満たさず条件3を満たしていてもよい。条件1〜3の少なくとも1つを満たしていれば、センサ素子20の破損を抑制する効果が得られる。また、満たしている条件の数が多いほど、センサ素子20の破損を抑制する効果は高まる。
【0052】
上述した実施形態では、導通電極22は8個であり、そのうちの2個ずつが左前電極,右前電極,左後電極,右後電極に相当したが、導通電極22の数はこれに限られない。条件1又は条件2を満たす場合、左前電極,右前電極,左後電極,及び右後電極がそれぞれ1以上存在すればよい。同様に、条件3を満たす場合、前側電極及び後側電極がそれぞれ1以上存在すればよい。また、導通電極22の配置位置、形状も上述した実施形態に限られない。例えば、上述した実施形態では、力の作用点と固定軸Pとの上下方向の距離(LA1〜LA4,LB1〜LB4)は略同一としたが、同一とする必要はなく、距離LA1〜LA4,LB1〜LB4の少なくとも1つが他と異なる寸法であってもよい。距離LA1〜LA4,LB1〜LB4が全て異なっていてもよい。導通電極22の数,配置位置,形状にかかわらず、条件1〜3の少なくともいずれかを満たしていれば、センサ素子20の破損を抑制する効果が得られる。換言すると、条件1〜3の少なくともいずれかを満たすようにすることで、導通電極22や接触金具60の設計の自由度が増す。例えば、上述した実施形態では、複数の導通電極22は、いずれも左前電極,右前電極,左後電極,右後電極のいずれかに相当したが、これに限られない。例えば、左右の位置が中心軸Cと一致している導通電極を備える場合、その導通電極は中心軸Cとの左右方向の距離が0mであり、左前電極,右前電極,左後電極,右後電極のいずれにも相当しない。このように、センサ素子が、左前電極,右前電極,左後電極,右後電極のいずれにも相当しない導通電極を1以上有してしていてもよい。また、導通電極22のうち、左前電極,右前電極,左後電極,右後電極のいずれかに相当する電極の合計数が、本実施形態では8個すなわち偶数であったが、奇数であってももよい。例えば、上述した実施形態においてセンサ素子20が第2電極22bを備えなくてもよい。この場合でも、条件1〜3の少なくとも1つを満たすようにすることはでき、それによりセンサ素子20の破損を抑制する効果が得られる。
【0053】
上述した実施形態では、複数の接触金具60の突起部62の形状はいずれも同じであり、導通電極22と突起部62との接触面積も同じとしたが、これに限られない。接触面積の大小に関わらず、条件1〜3の少なくともいずれかを満たしていれば、センサ素子20の破損を抑制する効果が得られる。換言すると、条件1〜3の少なくともいずれかを満たすようにすることで、導通電極と接触金具との接触面積に関しても設計の自由度が増す。例えば、接触金具と使用時の電圧及び電流が大きい導通電極との接触面積が、接触金具と使用時の電圧及び電流の小さい導通電極との接触面積よりも大きい傾向にあってもよい。
【0054】
上述した実施形態では、接触金具60自身の変形により生じる弾性力によって突起部62が導通電極22に接触していたが、これに限られない。例えば、接触金具60自体は板ばね等の弾性体ではなく、他の弾性体からの弾性力により接触金具60が導通電極22に押圧されて接触金具60と導通電極22とが接触していてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 ガスセンサ、20 センサ素子、20a 先端面、20b 基端面、21a 前面、21b 後面、21c 左面、21d 右面、22 導通電極、22a〜22h 第1〜第8電極、25 保護層、30 保護カバー、31 内側保護カバー、32 外側保護カバー、33 素子室入口、34 素子室出口、35 外側入口、36 外側出口、37 素子室、38 ガス室、40 素子封止体、41 ハウジング、45 第1絶縁碍子、48 封止部材、49 シール材、50 組立体、55 第2絶縁碍子、56 空間、57 仕切り部、60 接触金具、60a〜60h 第1〜第8接触金具、62 突起部、71 接続端子、72 リード線、73 ゴム栓、74 大気側カバー、75 外側カバー、76 大気導入孔、77 皿バネ、90 配管、91 固定用部材、C 中心軸、P 固定軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6