(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706480
(24)【登録日】2020年5月20日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】輸液チューブの巻取装置及び輸液装置
(51)【国際特許分類】
A61M 39/08 20060101AFI20200601BHJP
A61M 5/14 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
A61M39/08
A61M5/14 500
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-208418(P2015-208418)
(22)【出願日】2015年10月22日
(65)【公開番号】特開2017-79824(P2017-79824A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】591165447
【氏名又は名称】カナエ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081385
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 修治
(72)【発明者】
【氏名】清 行雄
【審査官】
北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−515613(JP,A)
【文献】
実開昭60−185599(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3102209(JP,U)
【文献】
特表2005−514095(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0178836(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00、1/14、5/14、
25/01、39/08
A61J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸液チューブの巻取りと引出しを可能にする巻取体が、巻取ケースに内蔵され、該巻取ケースに設けた支軸に回転可能に枢着されてなる輸液チューブの巻取装置であって、
巻取体は、巻取ケースに設けてある支軸に嵌合する軸受孔を備えた中高部と、中高部の周辺のチューブ巻取部とを有し、
中高部は、チューブ巻取部に対し軸受孔の軸方向で一定高さだけ高段差状をなし、中高部の円形状をなす外周における直径上で相対する2位置と、軸受孔とを通るS字状をなす一定深さのチューブ装填溝部を備え、
輸液チューブの中間部は、中高部のチューブ装填溝部に嵌め込まれてS字状をなすように装填され、
中高部の外周における直径上で相対する2位置のチューブ装填溝部からチューブ巻取部の側に延出する輸液チューブの一端側部分と他端側部分は、チューブ巻取部の上で中高部の円形状をなす外周に沿い、かつ互いに相並ぶ周回状渦巻きをなすように巻き回され、
中高部に備えたチューブ装填溝部へ装填され、チューブ巻取部の上で巻き回された輸液チューブの巻取り状態は、巻取ケースに設けられる蓋体によって被覆されて保持され、
輸液チューブの一端側と他端側の両者が、巻取体の巻取方向回転により同時に巻取られ、又は巻取体の引き出し方向回転により同時に引き出される輸液チューブの巻取装置。
【請求項2】
前記巻取体の中高部に備えたチューブ装填溝部は溝深さxを輸液チューブの外径dより浅くし、溝幅yを輸液チューブの外径dより長くし、
チューブ装填溝部に押込まれる如くに装填されて蓋体によってその装填状態を保持される輸液チューブの横断面が該チューブ装填溝部の溝幅方向で長軸をなす楕円状とされる請求項1に記載の輸液チューブの巻取装置。
【請求項3】
前記巻取体が、該巻取体に巻取られる輸液チューブの曲率半径を、該輸液チューブに折れを生ずるおそれのある最小危険曲げ半径より大きく設定してなる請求項1又は2に記載の輸液チューブの巻取装置。
【請求項4】
前記巻取体が、輸液チューブを該巻取体に巻取る巻取力を常に該輸液チューブに付与する巻取力付与手段を有してなる請求項1〜3のいずれかに記載の輸液チューブの巻取装置。
【請求項5】
前記巻取体は、
輸液チューブに引き出し外力が付与されない状態下で、巻取力付与手段が付与する巻取力による輸液チューブの巻取りを阻止する巻取ロック手段を有してなる請求項4に記載の輸液チューブの巻取装置。
【請求項6】
前記巻取体は、
輸液チューブに付与されていた引き出し外力が解除された状態下で、巻取力付与手段が付与する巻取力によって輸液チューブを一定長だけ巻取り、その後、巻取力付与手段が付与する巻取力による輸液チューブの巻取りを阻止する巻取ロック手段を有してなる請求項5に記載の輸液チューブの巻取装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の輸液チューブの巻取装置が用いられてなる輸液装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の体内へ各種の栄養剤、薬剤等の薬液を投与したり、血液を輸血する等の輸液装置において用いられる輸液チューブの巻取装置及び輸液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、輸液装置では、点滴台に吊るした輸液バッグに輸液チューブの一端側を接続し、輸液チューブの他端側に設けた針を患者の血管等に挿入し、輸液バック内の輸液を患者の体内に点滴等することとしている。
【0003】
従来の輸液装置を構成している輸液チューブは検査等の都合により予め長めにされている。従って、検査以外のときには輸液チューブが長すぎて煩雑に絡み易い。また、患者が不用意に点滴台から離れる等によって不測の外力が輸液チューブに及ぶと、患者の血管等に挿入してあった針が血管から抜けたり、針周囲の血管や組織等をキズ付けるおそれもあった。
【0004】
特許文献1に記載の輸液チューブの保持具では、点滴台支柱に、数個のチューブ止めを有する止め具受台を取付けることにより、輸液チューブの長めの中間部を止め具受台のチューブ止めに止め、輸液チューブを適度の長さに保持するものを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平7-33348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の輸液チューブの保持具にあっても、輸液チューブは長めの中間部を止め具受台のチューブ止めに止められるに過ぎない。
【0007】
従って、輸液チューブの中間部の余分となる長い部分は、止め具受台が取付けられた点滴台支柱の周囲に引き掛けられてたるんだり、下に垂れていて煩雑な状況の解消にはなっていない。
【0008】
また、輸液チューブの中間部が止め具受台のチューブ止めに止められたり、点滴台支柱の周囲に引っ掛け保持されている状態下で、輸液チューブに不測の外力が及ぶと、その不測の外力によって輸液チューブが自在に引き出される等がなく、外力が輸液チューブの他端側の針に及ぶのを回避する緩衝機能を期待し得ない。
【0009】
本発明の課題は、輸液チューブを適度な長さで取り回し可能にし、かつ輸液チューブに作用する不測の外力を緩衝させ得る輸液チューブの巻取装置、及び輸液装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、
輸液チューブの巻取りと引出しを可能にする巻取体が、巻取ケースに内蔵され、該巻取ケースに設けた支軸に回転可能に枢着されてなる輸液チューブの巻取装置であって、
巻取体は、巻取ケースに設けてある支軸に嵌合する軸受孔を備えた中高部と、中高部の周辺のチューブ巻取部とを有し、中高部は、チューブ巻取部に対し軸受孔の軸方向で一定高さだけ高段差状をなし、中高部の円形状をなす外周における直径上で相対する2位置と、軸受孔とを通るS字状をなす一定深さのチューブ装填溝部を備え、輸液チューブの中間部は、中高部のチューブ装填溝部に嵌め込まれてS字状をなすように装填され、中高部の外周における直径上で相対する2位置のチューブ装填溝部からチューブ巻取部の側に延出する輸液チューブの一端側部分と他端側部分は、チューブ巻取部の上で中高部の円形状をなす外周に沿い、かつ互いに相並ぶ周回状渦巻きをなすように巻き回され、中高部に備えたチューブ装填溝部へ装填され、チューブ巻取部の上で巻き回された輸液チューブの巻取り状態は、巻取ケースに設けられる蓋体によって被覆されて保持され、輸液チューブの一端側と他端側の両者が、巻取体の巻取方向回転により同時に巻取られ、又は巻取体の引き出し方向回転により同時に引き出されるようにしたものである。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、
前記巻取体の中高部に備えたチューブ装填溝部は溝深さxを輸液チューブの外径dより浅くし、溝幅yを輸液チューブの外径dより長くし、チューブ装填溝部に押込まれる如くに装填されて蓋体によってその装填状態を保持される輸液チューブの横断面が該チューブ装填溝部の溝幅方向で長軸をなす楕円状とされるようにしたものである。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において更に、前記巻取体が、該巻取体に巻取られる輸液チューブの曲率半径を、該輸液チューブに折れを生ずるおそれのある最小危険曲げ半径より大きく設定してなるようにしたものである。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに係る発明において更に、前記巻取体が、輸液チューブを該巻取体に巻取る巻取力を常に該輸液チューブに付与する巻取力付与手段を有してなるようにしたものである。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項4に係る発明において更に、前記巻取体は、輸液チューブに引き出し外力が付与されない状態下で、巻取力付与手段が付与する巻取力による輸液チューブの巻取りを阻止する巻取ロック手段を有してなるようにしたものである。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明において更に、前記巻取体は、輸液チューブに付与されていた引き出し外力が解除された状態下で、巻取力付与手段が付与する巻取力によって輸液チューブを一定長だけ巻取り、その後、巻取力付与手段が付与する巻取力による輸液チューブの巻取りを阻止する巻取ロック手段を有してなるようにしたものである。
【0016】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の輸液チューブの巻取装置が用いられてなる輸液装置である。
【発明の効果】
【0017】
(請求項1
、2)
(a)巻取装置の巻取体は輸液チューブの巻取りと引き出しを可能にする。従って、検査等の都合により予め長めにされている輸液チューブが検査以外のときには長すぎる部分を巻取体に巻取られて整然とされ、検査のときには巻取体から引き出されて都合の良い長さで用いることができる。即ち、輸液チューブを適度な長さで取り回しできる。
【0018】
また、患者が不用意に点滴台から離れる等によって不測の外力が輸液チューブに作用したときには、その不測の外力によって輸液チューブを巻取体から自在に引き出し、外力が輸液チューブの他端側の針に及ぶ等を回避する。患者の血管等に挿入してあった針が血管から抜けたり、針周囲の血管や組織等をキズ付けるおそれがなくなる。不測の外力がなくなれば、輸液チューブの当該外力によって引き出された部分を再び巻取体に巻取るものになる。即ち、輸液チューブに作用する不測の外力を緩衝できる。
【0019】
(b)前記巻取体が、輸液チューブの一端側部分と他端側部分の両者を、同時に巻取り、又は同時に引き出し可能にする。即ち、巻取体は巻取方向回転により輸液チューブの両端側部分のそれぞれを同時に巻取り可能にする。また、巻取体は引き出し方向回転により輸液チューブの両端側部分のそれぞれを同時に引出し可能にする。
【0020】
(請求項3)
(c)前記巻取体が、該巻取体に巻取られる輸液チューブの曲率半径を、該輸液チューブに折れを生ずるおそれのある最小危険曲げ半径より大きく設定してある。従って、輸液チューブは巻取体に巻かれた曲げ状態において、折れて通液を遮断するおそれがなく、常に安定した送液性能を維持できる。
【0021】
(請求項4)
(d)前記巻取体が、輸液チューブを該巻取体に巻取る巻取力を常に該巻取チューブに付与する巻取力付与手段を有する。従って、輸液チューブは巻取力付与手段の巻取力によって常に巻取方向に付勢される。輸液チューブは、上記巻取力を上回るように使用者が加える引き出し外力によって引き出され、その引き出し外力が解除されると上記巻取力によって巻取り可能な状態になる。
【0022】
(請求項5)
(e)前記巻取体は、輸液チューブに引き出し外力が付与されない状態下で、巻取力付与手段が付与する巻取力による輸液チューブの巻取りを阻止する巻取ロック手段を有する。
【0023】
(請求項6)
(f)前記巻取体は、輸液チューブに付与されていた引き出し外力が解除された状態下で、巻取力付与手段が付与する巻取力によって輸液チューブを一定長だけ巻取り、その後、巻取力付与手段が付与する巻取力による輸液チューブの巻取りを阻止する巻取ロック手段を有する。
【0024】
(請求項7)
(g)輸液装置において、上述(a)〜(f)を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は輸液装置の適用例を示す模式図である。
【
図2】
図2は輸液チューブの巻取装置の一実施例を示す模式図である。
【
図3】
図3は巻取体のチューブ装填溝部に装填された輸液チューブの横断面を示す模式図である。
【
図4】
図4は輸液チューブの巻取装置の他の例を示す模式図である。
【
図6】
図6は輸液チューブの巻取装置の分解斜視図である。
【
図9】
図9は巻取体が備えるチューブ装填構造の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に示した輸液装置100は、輸液チューブ101の一端側を点滴台102に吊るした輸液バッグ103に接続し、輸液チューブ101の他端側に設けた針104を患者Mの血管等に挿入し、輸液バッグ103内の輸液を患者Mの体内に点滴等して送液するものである。ここで、輸液装置100は、輸液チューブ101のための巻取装置10を具備する。
【0027】
尚、輸液チューブ101は、いかなる材質、サイズのものでも良いが、例えばポリブタジエンからなり、外径4.5mm、内径3.2mmのものを採用できる。
【0028】
巻取装置10は、
図2、
図6に示す如く、巻取ケース20の内部に円盤状の巻取体30を内蔵し、この巻取体30に巻取力付与手段40と、巻取ロック手段50を付帯して備える。
【0029】
巻取ケース20は、ケース本体21と、ケース本体21に固定される枠体22と、枠体22にヒンジ結合される蓋体23(蓋枠23Aと蓋板23Bからなる)とを有して構成される。
【0030】
巻取体30は、ケース本体21の中心部に設けてある支軸24の外周に軸受孔31を嵌合し、止ねじ32により支軸24の端面に取着されたカラー33により該支軸24から抜け止めされて該支軸24に枢着される。巻取体30が支軸24に枢着されたケース本体21の正面側外周部に枠体22を固定することにより、ケース本体21と枠体22は巻取体30の外周部を正面側と背面側の両方から挟み、該巻取体30を回転可能状態にして保持する。
【0031】
巻取体30は、正面の中央部を正面視で円形状をなす中高部34とし、中高部34の周辺をチューブ巻取部35としている。中高部34はチューブ巻取部35の平面に対し
軸受孔31の軸方向で一定高さ(概ね輸液チューブ101の外径と同等)だけ高段差状をなし、中高部34の外周における直径上の相対する2位置と、軸受孔31とを通るS字状をなす一定深さ(概ね輸液チューブ101の外径と同等)のチューブ装填溝部34Aを備える。
【0032】
巻取体30に対し、輸液チューブ101は中間部を中高部34のチューブ装填溝部34Aに嵌め込まれてS字状をなすように装填され、中高部34の外周における直径上で相対する2位置のチューブ装填溝部34Aからチューブ巻取部35の側に延出する輸液チューブ101の一端側部分と他端側部分が、チューブ巻取部35の上で中高部34の外周に沿い、かつ互いに相並ぶ2条の周回状渦巻きをなすように巻き回される。輸液チューブ101の一端側は巻取ケース20の枠体22の上部に設けてある左右一対のガイドローラ25A、25Bの間を通って上方に引き出され、輸液チューブ101の他端側は巻取ケース20の枠体22の下部に設けてある左右一対のガイドローラ26A、26Bの間を通って下方に引き出される。
【0033】
巻取体30において、中高部34のチューブ装填溝部34Aへ装填され、チューブ巻取部35の上で巻き回された輸液チューブ101の巻取り状態は、ケース本体21及び枠体22に対して蓋体23を閉鎖したとき、蓋体23によって被覆されて保持される。閉鎖した蓋体23は、巻取体30に巻取られている上述の輸液チューブ101との間に一定の小隙間を介することにより、巻取体30の回転及び輸液チューブ101の巻取り/引き出しに対する抵抗力を付与しない。
【0034】
これにより、巻取体30は輸液チューブ101の巻取りと引き出しを可能にし、巻取体30の巻取方向回転により輸液チューブ101の一端側部分と他端側部分の両者を同時に巻取り、巻取体30の引き出し方向回転(巻取方向回転に対する逆方向回転)により輸液チューブ101の一端側部分と他端側部分の両者を同時に引き出し可能にする。
【0035】
尚、巻取装置10において、
図2(A)は巻取体30に巻取られる前段階の輸液チューブ101を示し、
図2(B)は巻取体30に巻取られた輸液チューブ101を示している。巻取装置10は工場生産段階で輸液チューブ101を巻取体3に巻取済としても良く、又は医療現場での使用段階で輸液チューブ101を巻取体30に装填して巻取るものとしても良い。
【0036】
ここで、巻取体30は、巻取体30に巻取られる輸液チューブ101の曲率半径rを、該輸液チューブ101に折れを生ずるおそれのある最小危険曲げ半径KR(例えば15mm、好適には15mm〜25mm)より大きく設定してある(r>R)。本実施例において、輸液チューブ101は巻取体30におけるS字状のチューブ装填溝部34Aに装填された部分でその曲率半径r(
図2(B))を最小値rminとし、このチューブ装填溝部34Aの曲率半径rminを最小危険曲げ半径KRより大きく設定している(rmin>R)。チューブ装填溝部34Aの曲率半径rminを最小危険曲げ半径KRに可及的に近い値とすることにより、輸液チューブ101による安定した送液性を確保しながら、巻取体30及び巻取装置10の小形化(小径化)を実現できる。
【0037】
図3(A)に示したチューブ装填溝部34Aは溝幅wを輸液チューブ101の外径dと同等としたものであるが、
図3(B)に示したチューブ装填溝部34Aは溝深さxを輸液チューブ101の外径dより浅くし、溝幅yを輸液チューブ101の外径dより長くした。
図3(B)のチューブ装填溝部34Aによれば、チューブ装填溝部34Aに押込まれる如くに装填されて蓋体23によってその装填状態を保持される輸液チューブ101の横断面が該チューブ装填溝部34Aの溝幅方向で長軸をなす楕円状とされ、輸液チューブ101に折れを生ずる最小危険曲げ半径KRをより小さくすることができ、巻取体30ひいては巻取装置10の小形化を促進できる。
【0038】
尚、
図8(A)、(B)に示した巻取体30は、中高部34に備えるチューブ装填溝部34Aに
図3(B)に示した溝深さx(x<d)、溝幅y(y>d)を形成したとき、このチューブ装填溝部34Aに押込まれる如くに装填された輸液チューブ101の楕円状横断面を保持する押さえ板36を付帯的に有するものである。押さえ板36は、
図9の(A)から(B)に示す如くに、巻取体30の中高部34の表面に密着する如くに合わされて被着される。中高部34の表面に対する押さえ板36の合わせ面の複数カ所に設けた係止爪36Kが、中高部34の表面の対応カ所に設けた係止凹部34Kに係脱される。押さえ板36は、巻取体30の中高部34にヒンジ結合され、中高部34の表面に密着する位置と、中高部34の表面から離隔する位置との間で開閉可能にされても良い。
【0039】
図9(C)に示した押さえ板36は、中高部34の表面に対する合わせ面に、中高部34が備えるチューブ装填溝部34AのS字状に合致するS字状のチューブ嵌合溝部36Aを備える。更に、チューブ装填溝部34Aとチューブ嵌合溝部36Aの溝底形状を楕円状にする。これにより、中高部34のチューブ装填溝部34Aと押さえ板36のチューブ嵌合溝部36Aに挟圧されてそれらの両溝部34A、36Aに装填される輸液チューブ101は、それらの楕円状溝底に倣う楕円状の横断面を付与され、かつ保持される。
【0040】
図9(D)に示した巻取体30は、中高部34に備えるチューブ状装填溝部34Aの溝断面を楕円状にするとともに、その楕円状溝断面の短軸方向に位置する狭幅部(輸液チューブ101の外径より小さい)に中高部34の表面に開口するS字状のチューブ装填口34Bを設けた。これにより、輸液チューブ101はチューブ装填口34Bから押込まれてチューブ装填溝部34Aに装填された後、チューブ装填溝部34Aの楕円状溝断面によって囲み保持され、楕円状の横断面を付与される。
【0041】
図4に示した巻取体30は、輸液チューブ101の一端側部分と他端側部分のそれぞれがチューブ巻取部35の平面上において中高部34の外周に沿い、かつ互いに相並ぶ2条の周回状渦巻きをなして巻き回されるように、チューブ巻取部35の上面に予め2条をなす渦巻き状のチューブ着座凹部35Aを刻設したものである。チューブ着座凹部35Aは輸液チューブ101の横断面の周方向の一部のみが着座し得る程度の浅い円弧状凹部にて形成される。
【0042】
巻取体30は、
図5、
図6に示す如く、輸液チューブ101を巻取体30に巻取る巻取力を常に輸液チューブ101に付与する巻取力付与手段40を有する。
【0043】
巻取力付与手段40は、巻取体30の背面に固定されるゼンマイばねケース41を巻取ケース20の支軸24まわりに配置して備え、このゼンマイばねケース41の内部にゼンマイばね(渦巻ばね)42を収容する。ゼンマイばね42は、内周端を巻取ケース20の支軸24に係止し、外周端をゼンマイばねケース41のケース内周部に係止するように設けられる。ゼンマイばね42は、巻取体30に巻き回された輸液チューブ101に引き出し外力が付与されて巻取体30が引き出し方向に回転されると、巻取体30に固定さえているゼンマイばねケース41を介して巻き上げられ、弾性エネルギーを保存する。巻取力付与手段40は、ゼンマイばね42が保存した弾性エネルギーに起因する付勢力を巻取体30のための巻取方向回転力(巻取力という)とし、巻取体30に巻き回された輸液チューブ101にこの巻取力を常に付与し、輸液チューブ101を巻取り可能にする。
【0044】
巻取体30は、
図5〜
図7に示す如く、輸液チューブ101に引き出し外力が付与されない状態下で、巻取力付与手段40が付与する巻取力による輸液チューブ101の巻取りを阻止する巻取ロック手段50を有する。
【0045】
巻取ロック手段50は、巻取ケース20におけるケース本体21の内側面においてゼンマイばねケース41の裏面に相対する部分に設けた、半径方向に延在する凹溝51に、板ばね52とボール53を配置している。ボール53は、板ばね52によってゼンマイばねケース41の裏面に設けた引き出し方向回転許容溝54Aと、巻取方向回転阻止溝54Bに向けて弾発されるとともに、凹溝51に沿うケース本体21の半径方向に転動自在に該凹溝51に収容されている。
【0046】
巻取ロック手段51は、巻取体30に巻き回された輸液チューブ101に引き出し外力が付与されて巻取体30が引き出し方向に回転されるときには、ボール53をゼンマイばねケース41の引き出し方向回転許容溝54Aに対して巻取体30の引き出し方向回転の周回正方向に相対移動させ、巻取体30及びゼンマイばねケース41をボール53によって回転阻止されずに連続的に引き出し方向回転可能にされる。
【0047】
巻取ロック手段50は、巻取体30に巻き回された輸液チューブ101に付与されていた引き出し外力が解除されると、巻取力付与手段40が付与する巻取力によって巻取体30を巻取方向に回転させるとともに、ボール53がゼンマイばねケース41の引き出し方向回転許容溝54Aに対して一定長だけ反引き出し方向に相対移動し、輸液チューブ101を巻取体30に一定長だけ巻取る。輸液チューブ101が巻取体30に一定長だけ巻き取られた後、ボール53がゼンマイばねケース41の巻取方向回転阻止溝54Bに対して巻取方向にて衝合するに至ると、巻取体30及びゼンマイばねケース41がボール53と巻取方向回転阻止溝54Bとの上述の衝合によって回転阻止され、巻取ロック付与手段40が付与する巻取力による輸液チューブ101の巻取りを阻止する。
【0048】
従って、輸液装置100にあっては、巻取装置10において巻取体30に巻き回されている輸液チューブ101の一端側部分(輸液バッグ103の側)と他端側部分(針104の側)の一方に引き出し外力を付与し、又はそれらの両者に引き出し外力を付与することにより、それらの両者を同時に巻取体30から引き出しできる。そして、この引出し外力が解除されると、巻取力付与手段40Bの巻取力によって輸液チューブ101の一端側部分と他端側部分の両者が同時に一定長だけ巻取体30に巻取られ、その後、巻取ロック手段50によって輸液チューブ101の巻取りが阻止される。
【0049】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)巻取装置10の巻取体30は輸液チューブ101の巻取りと引き出しを可能にする。従って、検査等の都合により予め長めにされている輸液チューブ101が検査以外のときには長すぎる部分を巻取体30に巻取られて整然とされ、検査のときには巻取体30から引き出されて都合の良い長さで用いることができる。即ち、輸液チューブ101を適度な長さで取り回しできる。
【0050】
また、患者Mが不用意に点滴台102から離れる等によって不測の外力が輸液チューブ101に作用したときには、その不測の外力によって輸液チューブ101を巻取体30から自在に引き出し、外力が輸液チューブ101の他端側の針104に及ぶ等を回避する。患者Mの血管等に挿入してあった針104が血管から抜けたり、針周囲の血管や組織等をキズ付けるおそれがなくなる。不測の外力がなくなれば、輸液チューブ101の当該外力によって引き出された部分を再び巻取体30に巻取るものになる。即ち、輸液チューブ101に作用する不測の外力を緩衝できる。
【0051】
(b)前記巻取体30が、輸液チューブ101の一端側部分と他端側部分の両者を、同時に巻取り、又は同時に引き出し可能にする。即ち、巻取体30は巻取方向回転により輸液チューブ101の両端側部分のそれぞれを同時に巻取り可能にする。また、巻取体30は引き出し方向回転により輸液チューブ101の両端側部分のそれぞれを同時に引出し可能にする。
【0052】
(c)前記巻取体30が、該巻取体30に巻取られる輸液チューブ101の曲率半径を、該輸液チューブ101に折れを生ずるおそれのある最小危険曲げ半径KRより大きく設定してある。従って、輸液チューブ101は巻取体30に巻かれた曲げ状態において、折れて通液を遮断するおそれがなく、常に安定した送液性能を維持できる。
【0053】
(d)前記巻取体30が、輸液チューブ101を該巻取体30に巻取る巻取力を常に該巻取チューブに付与する巻取力付与手段40を有する。従って、輸液チューブ101は巻取力付与手段40の巻取力によって常に巻取方向に付勢される。輸液チューブ101は、上記巻取力を上回るように使用者が加える引き出し外力によって引き出され、その引き出し外力が解除されると上記巻取力によって巻取り可能な状態になる。
【0054】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、巻取体による輸液チューブの巻取方式は、上記実施例のものに限定されない。
【0055】
また、巻取体は、輸液チューブの一端側部分と他端側部分の両者を同時に巻取り、又は同時に引き出し可能にすることを必須としない。巻取体は、輸液チューブの一端側部分と他端側部分の一方だけを巻取り、又は引き出し可能にするものでも良い。
【0056】
また、巻取体は、巻取ロック手段を有することを必須としない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、輸液チューブを適度な長さで取り回し可能にし、かつ輸液チューブに作用する不測の外力を緩衝させ得る輸液チューブの巻取装置、及び輸液装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 巻取装置
20 巻取ケース
23 蓋体
24 支軸
30 巻取体
31 軸受孔
34 中高部
34A チューブ装填溝部
35 チューブ巻取部
40 巻取力付与手段
50 巻取ロック手段
100 輸液装置
101 輸液チューブ