特許第6706492号(P6706492)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706492
(24)【登録日】2020年5月20日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫金型及びタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20200601BHJP
   B29C 33/10 20060101ALI20200601BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20200601BHJP
   B29K 21/00 20060101ALN20200601BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20200601BHJP
【FI】
   B29C33/02
   B29C33/10
   B29C35/02
   B29K21:00
   B29L30:00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-237014(P2015-237014)
(22)【出願日】2015年12月3日
(65)【公開番号】特開2017-100406(P2017-100406A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 将明
【審査官】 塩見 篤史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−016609(JP,A)
【文献】 特開昭56−127439(JP,A)
【文献】 特開2012−240233(JP,A)
【文献】 特開2001−205638(JP,A)
【文献】 特開2015−009544(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0095406(US,A1)
【文献】 特開2014−210356(JP,A)
【文献】 特開2004−291615(JP,A)
【文献】 特開2013−252713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C33/00−33/76,
B29C35/00−35/18,
B29C39/26−39/36,
B29C41/38−41/44,
B29C43/36−43/42,43/50,
B29C45/26−45/44,45/64−45/68,45/73,
B29C49/48−49/56,49/70,
B29C51/30−51/40,51/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティにセットされたタイヤの外表面に接する成形面と、前記成形面で開口する排気孔に装着されたベントプラグとを備えるタイヤ加硫金型において、
前記ベントプラグが、排気路を内部に有する筒状のハウジングと、前記ハウジングに挿入され、前記排気路を開閉する弁体となるステムと、前記排気路を開放するように前記ステムを前記キャビティに向けて付勢する付勢部材とを備え、
前記ステムが、前記ハウジングの軸方向に延びる柱状の胴部と、前記ハウジングの開口部の内面に接することにより前記排気路を閉鎖する頭部とを有し、
前記ハウジングの開口部の頂面と、前記ステムの頭部の頂面とが、それぞれ平面により形成され、
前記ハウジングの開口部の頂面と、前記排気路が閉鎖される状態における前記ステムの頭部の頂面とが、いずれも前記成形面よりも反キャビティ側に配置され
前記成形面の法線方向に沿って、前記成形面から前記ハウジングの前記開口部の頂面までの距離である、前記ハウジングの埋設深さは、0.3mm以上、かつ、0.8mm以下であり、
前記ハウジングの軸方向は、前記成形面の法線方向に対して傾斜しておらず、
前記排気孔の内周面と前記成形面とを連ねるエッジ部が湾曲面または傾斜面により形成されていることを特徴とするタイヤ加硫金型。
【請求項2】
前記排気路が閉鎖される状態における前記ステムの頭部の頂面が、前記ハウジングの開口部の頂面と面一に配置される請求項1に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項3】
前記排気路が開放される状態における前記ステムの頭部の頂面が、前記成形面と面一に配置されている、または前記成形面よりも反キャビティ側に配置されている請求項1または2に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項4】
前記ハウジングの開口部の頂面が、前記排気孔の内周面と前記湾曲面もしくは前記傾斜面との境界と一致している、または前記境界よりも反キャビティ側に配置されている請求項1〜3いずれか1項に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項5】
請求項1〜いずれか1項に記載のタイヤ加硫金型のキャビティに未加硫タイヤをセットし、その未加硫タイヤに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含むタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの外表面に接する成形面の排気孔にベントプラグを装着したタイヤ加硫金型と、それを用いたタイヤの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ加硫金型では、タイヤの外表面に接する成形面に多数の排気孔が設けられ、タイヤと成形面との間の余分な空気を外部に排出するようにしている。特許文献1に開示されるように、排気孔にはベントプラグを装着する場合があり、これによってスピューと呼ばれるゴム突起の形成が低減される。また、特許文献2〜5に開示されるように、筒状のハウジングに挿入されたステムをスプリングが付勢することで開状態となり、そのステムをタイヤの外表面が押し下げることで閉状態となるベントプラグ(スプリングベント)が知られている。
【0003】
スプリングベントでは、ステムが押し下げられるよりも先に、側方から流れてきた未加硫ゴムがハウジングとステムとの隙間から内部に流入し、そのハウジング内の流入ゴムがスプリングに絡み付く、いわゆるゴム噛みと呼ばれる問題があった。ゴム噛みが発生すると、加硫成形を終えたタイヤを脱型する際に流入ゴムが除去されず、ハウジング内に残留した流入ゴムがスプリングの動きを妨げるため、ベントプラグの作動不良の原因になる。このことから、ゴム噛みの発生を抑制しうる手法の提案が強く望まれていた。
【0004】
特許文献2には、ステムの頂面が凸面により形成されるとともに、閉状態におけるステムの頂面が成形面から少し沈んだ位置に配されるベントプラグ(スプリングベント)が記載されている。しかし、このベントプラグでは、その凸面に対応した凹面を頂面とする突起がタイヤの外表面に形成されるため、かかる形状の突起が目立つことでタイヤの外観に違和感を与える恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許第922788号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/070411号
【特許文献3】特開2015−009544号公報
【特許文献4】特開2015−024501号公報
【特許文献5】特開2015−051611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ゴム噛みの発生を抑制してタイヤの外観品質を確保できるタイヤ加硫金型と、それを用いたタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係るタイヤ加硫金型は、キャビティにセットされたタイヤの外表面に接する成形面と、前記成形面で開口する排気孔に装着されたベントプラグとを備えるタイヤ加硫金型において、前記ベントプラグが、排気路を内部に有する筒状のハウジングと、前記ハウジングに挿入され、前記排気路を開閉する弁体となるステムと、前記排気路を開放するように前記ステムを前記キャビティに向けて付勢する付勢部材とを備え、前記ステムが、前記ハウジングの軸方向に延びる柱状の胴部と、前記ハウジングの開口部の内面に接することにより前記排気路を閉鎖する頭部とを有し、前記ハウジングの開口部の頂面と、前記ステムの頭部の頂面とが、それぞれ平面により形成され、前記ハウジングの開口部の頂面と、前記排気路が閉鎖される状態における前記ステムの頭部の頂面とが、いずれも前記成形面よりも反キャビティ側に配置されているものである。
【0008】
この金型では、ハウジングの開口部の頂面と、閉状態におけるステムの頭部の頂面とが、いずれも成形面よりも反キャビティ側に配置されているため、側方から流れてきた未加硫ゴムが、側方からではなく上方(キャビティ側)からステムの頭部に接触しやすい。その結果、流入ゴムを減らして、ゴム噛みの発生を抑制することができる。それでいて、ハウジングの開口部の頂面とステムの頭部の頂面とが、それぞれ平面により形成されているので、タイヤの外表面に形成される突起が目立たない形状となり、タイヤの外観品質の確保に資する。
【0009】
前記排気路が閉鎖される状態における前記ステムの頭部の頂面が、前記ハウジングの開口部の頂面と面一に配置されるものが好ましい。かかる構成によれば、タイヤの外表面に形成される突起の頂面に段差や筋が形成されないので、タイヤの外観品質をより良好に確保できる。
【0010】
前記排気路が開放される状態における前記ステムの頭部の頂面が、前記成形面と面一に配置されている、または前記成形面よりも反キャビティ側に配置されているものが好ましい。かかる構成によれば、側方から流れてきた未加硫ゴムが、より確実に上方(キャビティ側)からステムの頭部に接触するようになるため、ゴム噛みの発生を効果的に抑制できる。
【0011】
前記排気孔の内周面と前記成形面とを連ねるエッジ部が湾曲面または傾斜面により形成されているものが好ましい。かかる構成によれば、タイヤの外表面に形成される突起の根元を起点としたクラックの発生を予防し、タイヤの外観品質の悪化を防ぐことができる。
【0012】
前記ハウジングの開口部の頂面が、前記排気孔の内周面と前記湾曲面もしくは前記傾斜面との境界と一致している、または前記境界よりも反キャビティ側に配置されているものが好ましい。これにより、タイヤの外表面に形成される突起の側面が滑らかになって目立たない形状となるため、タイヤの外観品質を確保するうえで有益である。
【0013】
本発明に係るタイヤの製造方法は、上述したタイヤ加硫金型のキャビティに未加硫タイヤをセットし、その未加硫タイヤに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含むものである。かかる方法によれば、上述のようにゴム噛みの発生を抑制してベントプラグの作動不良を防ぎながら、良好なタイヤ外観を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るタイヤ加硫金型の一例を概略的に示す縦断面図
図2】ベントプラグが開状態にあるタイヤ加硫金型の要部を示す断面図
図3】ベントプラグが閉状態にあるタイヤ加硫金型の要部を示す断面図
図4】(a)別実施形態におけるタイヤ加硫金型の要部を示す断面図、及び、(b)タイヤの外表面に形成される突起の斜視図
図5】(a)別実施形態におけるタイヤ加硫金型の要部を示す断面図、及び、(b)タイヤの外表面に形成される突起の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、タイヤ子午線断面に沿ったタイヤ加硫金型10の断面を示しており、図2,3は、その要部を拡大して示している。
【0016】
図1に示すように、タイヤ加硫金型10は、キャビティ15にセットされたタイヤTの外表面に接する成形面1を備える。成形面1には、加硫成形時にタイヤと成形面1との間の余分な空気を排出するために、金型10の内部(キャビティ15)と外部とを連通させる多数の排気孔16が設けられている。図2に拡大して示すように、その成形面1で開口する排気孔16にベントプラグ2が装着されている。ベントプラグ2は、いわゆるスプリングベントとして構成されている。
【0017】
成形面1の素材としては、アルミニウム材が例示される。このアルミニウム材は、純アルミ系の素材のみならずアルミニウム合金を含む概念であり、例えばAl−Cu系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系、Al−Mn系、Al−Si系が挙げられる。後述するハウジング3とステム4は、それぞれステンレスやS45Cに代表される鋼材からなることが好ましく、これらは同種金属でもよいが異種金属でも構わない。
【0018】
本実施形態の金型10は、タイヤのトレッド部を成形するトレッド型部11と、タイヤのサイドウォール部を成形するサイド型部12,13と、タイヤのビード部が嵌合されるビードリング14とを備える。図示を省略しているが、トレッド型部11の内面には、タイヤのトレッド面に溝を形成するための凸状の骨部が設けられている。図1では、トレッド型部11の内面で開口する1つの排気孔16と、サイド型部13の内面で開口する1つの排気孔16を描いているが、実際には、トレッド型部11やサイド型部12,13の内面で開口する多数の排気孔16が設けられている。
【0019】
図2に示すように、ベントプラグ2は、排気路21を内部に有する筒状のハウジング3と、ハウジング3に挿入され、排気路21を開閉する弁体となるステム4と、排気路21を開放するようにステム4をキャビティ15に向けて付勢する付勢部材としてのスプリング5とを備える。ハウジング3は、円孔である排気孔16に嵌入され、成形面1に対して固定されている。ハウジング3の開口部31は、キャビティ15に面した頂面31aを有する。ハウジング3の下端部32には、貫通孔32aと内鍔状の支持部32bとが形成されている。
【0020】
ステム4は、ハウジング3の軸方向に延びる柱状の胴部41と、ハウジング3の開口部31の内面31bに接することにより排気路21を閉鎖する頭部42とを有する。胴部41は、スプリング5に挿入されており、その下端には貫通孔32aより大径のストッパー43が設けられている。ストッパー43は、スリット44を閉じるように弾性変形させることで、貫通孔32aを通過できる。頭部42は、胴部41の上端に一体的に連結されている。頭部42には、キャビティ15に面する頂面42aと、開口部31の内面31bに対向する側面42bとが形成されている。
【0021】
スプリング5は、胴部41を取り囲むようにして配置され、頭部42と支持部32bとの間に介在してステム4を付勢する。本実施形態では、付勢部材としてコイル状のスプリングを用いているが、これに限定されるものではなく、例えば皿バネや板バネなどを利用しても構わない。
【0022】
図2に示したベントプラグ2は、排気路21が開放される状態(以下、「開状態」と呼ぶ)にある。ベントプラグ2が開状態にある間は、タイヤの外表面が成形面1に接近する動作に伴って、キャビティ15内の空気が排気路21を介して金型10の外部へ排出される。タイヤの外表面がステム4を押し下げると、図3のように頭部42がハウジング3の開口部31の内面31bに接して排気路21が閉鎖される。図3に示したベントプラグ2は、排気路21が閉鎖される状態(以下、「閉状態」と呼ぶ)にある。
【0023】
図2,3のように、ハウジング3の開口部31の頂面31aと、ステム4の頭部42の頂面42aは、それぞれ平面により形成されている。また、ハウジング3の開口部31の頂面31aと、排気路21が閉鎖される状態におけるステム4の頭部42の頂面42aとが、いずれも成形面1よりも反キャビティ側(図2,3の下側)に配置されている。このため、側方から流れてきた未加硫ゴムが、側方からではなくキャビティ15側(図2,3の上側)から頭部42に接触しやすくなり、流入ゴムを減らしてゴム噛みの発生を抑制できる。しかも、タイヤの外表面に形成される突起が目立たない形状となるので、外観品質の確保に資する。
【0024】
また、上記のように、頂面31aと、閉状態における頂面42aとが、成形面1よりも反キャビティ側に配置されているので、タイヤの外表面が成形面1に接する段階では、まだステム4を押し下げる余地が残される。即ち、成形面1に接したタイヤの外表面が更に反キャビティ側に押し込まれることにより、ステム4が完全に押し下げられて閉状態となる。それ故、従来のタイヤ加硫金型に比べて空気を排出する効果が長く得られ、残留空気を低減できることにより、タイヤの外観品質の向上に資する。
【0025】
ハウジング3の埋設深さDは、成形面1の法線方向(図3の上下方向)に沿って、成形面1からハウジング3の開口部31の頂面31aまでの距離として測定される。埋設深さDは、例えば0.1mm以上に設定されるが、ゴム噛みの抑制効果を高めるうえで0.3mm以上にすることが好ましい。また、突起がタイヤの外観に違和感を与えないようにするため、埋設深さDは1mm以下であることが好ましい。突起の根元を起点としたクラックの発生を抑えるうえでは、埋設深さDを0.8mm以下にすることが好ましく、0.6mm以下にすることがより好ましい。
【0026】
本実施形態では、図3のように、排気路21が閉鎖される状態におけるステム4の頭部42の頂面42aが、ハウジング3の開口部31の頂面31aと面一に配置される。即ち、閉状態では、頂面42aと頂面31aとが同一平面上に配置される。また、閉状態では、ステム4の頭部42とハウジング3の開口部31とがテーパ状の接触領域を形成し、その接触領域の外縁6が開口部31の頂面31a上に設定される。かかる構成によれば、タイヤの外表面に形成される突起の頂面に段差や筋が形成されないので、タイヤの外観品質をより良好に確保できる。
【0027】
本実施形態では、図2のように、排気路21が開放される状態におけるステム4の頭部42の頂面42aが、成形面1よりも反キャビティ側に配置されている。これにより、側方から流れてきた未加硫ゴムが、頭部42に横当たりすることなく、より確実にキャビティ15側からステム4の頭部42に接触するようになり、ゴム噛みの発生を効果的に抑制できる。開状態での頂面42aが成形面1と面一に配置されることでも同様の効果が得られるが、上記のような反キャビティ側への配置の方がゴム噛みの抑制効果に優れる。
【0028】
この金型10では、開口部31の頂面31aと、閉状態における頭部42の頂面42aとが成形面1よりも反キャビティ側に配置されるため、成形面1には図3に描いているような窪みが形成される。加硫成形後のタイヤの外表面には、その窪みに充填されたゴムによって突起が形成されるものの、突起は比較的目立たない形状となるため、タイヤの外観品質は確保される。
【0029】
しかし、ゴムの配合によっても左右されるが、走行時の変形が繰り返し作用することにより突起に応力が集中すると、その突起の根元を起点とした微細なクラックが発生し、それに起因してタイヤの外観品質が損なわれる場合がある。特に、サイドウォール面のようなタイヤの非接地面に形成された突起は、走行に伴って消失するものではないため、クラックの発生が懸念される。かかる事情により、本発明のタイヤ加硫金型では、突起の根元を起点としたクラックの発生を予防しうる構成を備えることが望ましい。
【0030】
図4(a)は、排気孔16の内周面と成形面1とを連ねるエッジ部が湾曲面7により形成されている例を示す。湾曲面7は、排気孔16の内周面と成形面1の双方に対して滑らかに連なっている。湾曲面7の曲率半径rは、例えば0.2〜1.0mm(R0.2〜R1.0)である。かかる構成によれば、図4(b)のように根元が湾曲した形状の突起70がタイヤの外表面に形成され、その突起70の根元に対する応力集中が緩和されることから、クラックの発生を予防してタイヤの外観品質の悪化を防ぐことができる。
【0031】
この場合、ハウジング3の開口部31の頂面31aは、排気孔16の内周面と湾曲面7との境界7Bと一致しているか、または境界7Bよりも反キャビティ側に配置されていることが好ましく、どちらかと言えば前者の方が望ましい。これにより、タイヤの外表面に形成される突起の側面が滑らかになって目立たない形状となるため、タイヤの外観品質を確保するうえで有益である。図4(a)は、頂面31aが境界7Bと一致している例を示す。境界7Bは、排気孔16の径寸法が変化しない部分と変化する部分との境界でもある。
【0032】
図5(a)は、排気孔16の内周面と成形面1とを連ねるエッジ部が傾斜面8により形成されている例を示す。傾斜面8は、排気孔16の内周面と成形面1の双方に対して傾斜している。傾斜面8は、例えばC0.2〜C1.0のC面取りに相当する大きさで形成される。かかる構成によれば、図5(b)のように根元が傾斜した形状の突起80がタイヤの外表面に形成され、その突起80の根元に対する応力集中が緩和されることから、クラックの発生を予防してタイヤの外観品質の悪化を防ぐことができる。
【0033】
この場合も、ハウジング3の開口部31の頂面31aは、排気孔16の内周面と傾斜面8との境界8Bと一致しているか、または境界8Bよりも反キャビティ側に配置されていることが好ましく、どちらかと言えば前者の方が望ましい。これにより、タイヤの外表面に形成される突起の側面が滑らかになって目立たない形状となるため、タイヤの外観品質を確保するうえで有益である。図5(a)は、頂面31aが境界8Bと一致している例を示す。境界8Bは、排気孔16の径寸法が変化しない部分と変化する部分との境界でもある。
【0034】
この金型10を用いたタイヤの製造方法は、金型10のキャビティ15に未加硫タイヤをセットし、その未加硫タイヤに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含む。タイヤは、ブラダーと呼ばれるゴムバッグの膨張によって拡張変形し、その外表面が成形面1に押し当たる。その過程で、タイヤと成形面1との間の空気が、ベントプラグ2の排気路21を通じて外部に排出される。このとき、排気孔16内の空間を吸引機により吸引し、排気性能を高めてもよい。
【0035】
上述したタイヤ加硫金型は、ベントプラグの周辺構造を上記の如く構成したこと以外は、通常のタイヤ加硫金型と同等であり、従来公知の形状や材質、機構などが何れも本発明に採用することができる。
【0036】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。前述の実施形態では、トレッド型部と一対のサイド型部とを備えた金型構造であったが、本発明は、これに限定されず、例えばトレッド型部の中央部で上下に二分割された金型構造にも適用できる。
【実施例】
【0037】
本発明の構成と効果を具体的に示すために、タイヤの加硫成形を実施してベア、クラック及び表面凹凸の発生状況を確認した。
【0038】
ベアの発生状況
複数のパネラーによる官能評価に基づき、加硫成形後のタイヤの外表面にベアと呼ばれるゴム欠損が確認されて外観品質が許容レベルにない場合を「×」、若干のベアが確認されて外観品質が許容レベルにある場合を「△」、ベアが確認されず外観品質に問題がない場合を「○」と評価した。ゴム噛みによりベントプラグが作動不良を起こした場合は、残留空気によってベアが形成されるため、このベアの発生状況はゴム噛みの抑制効果の指標となり得る。
【0039】
クラックの発生状況
加硫成形後のタイヤに規格荷重及び規格空気圧を負荷し、オゾン濃度0.03ppmの下、ドラム上で30000kmを走行させる台上試験を行った。この試験後のタイヤにおいて、タイヤの外表面に形成された突起の根元に微細なクラックが発生している場合を「×」、微細なクラックの兆候となる皺の発生が確認された場合を「△」、微細なクラックも皺も確認されない場合を「○」と評価した。
【0040】
表面凹凸の状況
10人のパネラーによる官能評価に基づき、加硫成形後のタイヤの外表面の凹凸(突起に起因した凹凸)に明確な違和感がある場合を「×」、指摘されたならば違和感がある場合を「△」、凹凸が気にならない場合を「○」と評価した。
【0041】
表1に示した仕様を除いて各例の構成は共通であり、何れの例でも図2のように閉状態でのステムの頭部の頂面がハウジングの開口部の頂面と面一に配置されるスプリングベントを使用した。また、実施例1〜4では、それぞれ、開状態におけるステムの頭部の頂面が成形面よりも反キャビティ側に配置される構成とした。評価結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示すように、実施例1〜4では、比較例1,2に比べてベアの発生が低減されており、ゴム噛みの発生が抑制されたものと評価できる。また、実施例1では、突起の根元に微細なクラックが確認されたが、エッジ部の形状を工夫した実施例2〜4ではそれが改善されている。
【符号の説明】
【0044】
1 成形面
2 ベントプラグ
3 ハウジング
4 ステム
5 スプリング(付勢部材の一例)
7 湾曲面
8 傾斜面
10 タイヤ加硫金型
15 キャビティ
16 排気孔
21 排気路
31 開口部
41 胴部
42 頭部
図1
図2
図3
図4
図5