【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電気通信回線を通じた公開/ウェブサイトの掲載日:平成27年07月20日 ウェブサイトのアドレス:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejmcs/71/3/71_248/_article/−char/ja/
【文献】
安保知紀 外3名,JES構造の曲げ特性に関する実験的検討,コンクリート工学年次論文集,日本,コンクリート工学協会,2014年,Vol.36,No.2,第1099−1104頁
【文献】
松岡 茂 外3名,鋼繊維補強コンクリートを用いたトンネル覆工解析に関する研究,土木学会論文集,日本,社団法人土木学会,1998年 2月,No.585/V−38,第189−198頁
【文献】
松岡 茂 外3名,鋼繊維補強コンクリートの引張特性試験法に関する研究,土木学会論文集,日本,社団法人土木学会,1997年 5月,No.564/V−35,第145−153頁
【文献】
清水満 外4名,鋼製エレメントを用いた線路下横断トンネルの設計法,トンネル工学研究論文・報告集,日本,社団法人土木学会,1998年11月,第8巻,第407−412頁
【文献】
コンクリート委員会・鋼コンクリートサンドイッチ構造研究小委員会,鋼コンクリートサンドイッチ構造設計指針(案)について,土木学会論文集,日本,社団法人土木学会,1992年 8月,No.451/V-17,第33−37頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明は、変形量を適切に算定し、所望の変形量を満足することができる鋼コンクリートサンドイッチ構造及びその設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、所定間隔を隔てて配置した主鋼板と、該主鋼板同士を連結する複数のせん断補強鋼板と、該主鋼板及び前記せん断補強鋼板との間に充填した
複数のコンクリートとで構成する鋼コンクリートサンドイッチ構造の設計方法であって、
前記主鋼板が、所定長さの部分主鋼板を応力伝達可能な噛み合わせ継手で連結した連結鋼板であり、2枚の前記部分主鋼板と、前記せん断補強鋼板とで断面コ字状の鋼製エレメントが構成するとともに、前記鋼製エレメントを連結して構成し、前記部分主鋼板とせん断補強鋼板とに囲まれた複数のブロック状のコンクリートにおける各コンクリートのひび割れ断面におけるひび割れ先端を各々の中立軸とし、維ひずみは断面の中立軸からの距離に比例するとともに、複数の前記ブロック状のコンクリートにおける各コンクリート内での曲率が一定であると仮定し、前記中立軸からyだけ離れた位置の
前記ブロック状のコンクリートの圧縮応力σ’
c (y)、部材幅b、圧縮側鋼板に発生する圧縮力T
c、引張側鋼板に発生する引張力T、前記
ブロック状のコンクリートの断面高さに対するひび割れ深さの比α、断面高さh、圧縮側コンクリートの圧縮変形量dx、及び
ブロック状のコンクリートの回転角λに対して、前記
部分主鋼板と前記せん断補強鋼板とに囲まれた複数の前記ブロック状のコンクリートのそれぞれに発生する曲げモーメントM、及び各コンクリートに発生する軸力N
から求まる力のつり合いの関係式は式(1)及び式(2)で表すことができ、
【数10】
【数11】
前記鋼製エレメントの弾性係数を、各材料の弾性係数を用いて算出した平均弾性係数とし、式(9)に示す平均ひずみから式(10)を用いて算出するとともに、
【数12】
前記鋼製エレメントの応力ひずみ関係を、2次勾配比が1/100となるような二直線関係とし、
コンクリートの応力ひずみ関係はコンクリート標準示方書に示す曲線に準拠することで、前記中立軸からyだけ離れた位置における
前記ブロック状のコンクリートの圧縮ひずみε’
c(y)、
前記圧縮側コンクリートの縁ひずみε’
cm、
前記中立軸からの距離y、
前記せん断補強鋼板の間隔L、及び前記回転角λが式(3)乃至式(5)の関係となり、
【数13】
【数14】
【数15】
せん断補強鋼板とコンクリートは付着していないことから、前記ひび割れ深さの比α、前記断面高さh、及び前記圧縮変形量dxに基づく式(6)の関係となる前記
ブロック状のコンクリートの回転角λ
であるとともに、曲率が一定であるとの仮定によって回転変形によるひび割れはコンクリートの左右で対称となり、片側に発生するひび割れの回転角度がλ/2となり、せん断補強鋼板位置に発生する回転角は隣り合うコンクリートの回転角の半分の和となることから、せん断補強鋼板位置の回転角θを式(7)のように表すことができ、並びに式(7)の関係となる隣り合う
前記ブロック状のコンクリートとの回転角θ
nに基づ
く回転変形を累加する式(8)に示す
スパン中央におけるたわみである変形量δが所望の変形量を満足する
ように設計することを特徴とする。
【数16】
【数17】
【数18】
【0009】
上述の鋼コンクリートサンドイッチ構造は、所定間隔を隔てて配置した主鋼板と、該主鋼板同士を連結する複数のせん断補強鋼板と、該主鋼板及び前記せん断補強鋼板との間に充填したコンクリートとで構成する構造部材、及び当該構造物材を用いた構造物を含むものとする。
【0010】
また、上述の鋼コンクリートサンドイッチ構造は、所定間隔を隔てて配置した主鋼板と、該主鋼板同士を連結するせん断補強鋼板複数で構成する鋼製エレメントを連結して内部空間を形成するとともに、内部空間にコンクリートを充填して構成した鋼コンクリートサンドイッチ構造、あるいは、所定間隔を隔てて配置した主鋼板に対して複数のせん断補強鋼板を配置し、内部空間にコンクリートを充填して構成した鋼コンクリートサンドイッチ構造を含むものとする。
上述の断面コ字状の鋼製エレメントは、鋼コンクリートサンドイッチ構造の少なくとも一部のみを構成すればよい。
【0011】
この発明により、変形量を適切に算定することができる。
詳述すると、本発明の鋼コンクリートサンドイッチ構造に対して行った載荷試験の結果によると、内部空間に充填したコンクリートにおけるせん断補強鋼板近傍にひび割れが集中することから、曲げひび割れはせん断補強鋼板の位置でのみ発生し、せん断補強鋼板とコンクリートは付着せず、主鋼板とせん断補強鋼板とに囲まれたブロック状のコンクリートの曲率は一様であるため、鋼コンクリートサンドイッチ構造部材の変形は、主鋼板とせん断補強鋼板とに囲まれたブロック状のコンクリートに発生する回転変形の和となる。
【0012】
また、せん断補強鋼板とコンクリートは付着していないことから、ひび割れ断面における中立軸はひび割れの先端とし、断面高さに対するひび割れ深さの比をα、圧縮縁の圧縮変形量をdxとすると、回転角λは数式6のように表わすことができる。
【0013】
なお、主鋼板とせん断補強鋼板とに囲まれたブロック状のコンクリートの曲率は一様とし、回転変形によるひび割れはコンクリートの左右で対称となっているため、片側に発生するひび割れの回転角度をλ/2とする。
【0014】
また、維ひずみは断面の中立軸からの距離に比例するとし、コンクリートの応力ひずみ関係はコンクリート標準示方書に示す曲線とすることで、中立軸からyだけ離れた位置におけるコンクリートの圧縮ひずみε’
c(y)及び圧縮縁の変形量dxは数式3及び数式4のように表わせるとともに、回転角λを数式5のように表わすことができる。
さらに、主鋼板とせん断補強鋼板とに囲まれたブロック状のコンクリートに発生する断面力から求まる力のつり合いの関係式は、数式1及び数式2のように表わすことができる。
【0015】
以上の関係から、主鋼板とせん断補強鋼板とに囲まれた各コンクリートに発生する断面力から回転角λを算出するが、せん断補強鋼板位置に発生する回転角は隣り合うコンクリートの回転角の半分の和となることから、せん断補強鋼板位置の回転角θを数式7のように表すことができる。
【0016】
以上より、数式8のように各コンクリートにおける回転変形を累加することにより、鋼コンクリートサンドイッチ構造のたわみ量を正確に算出することができる。したがって、所望の変形量を満足できる鋼コンクリートサンドイッチ構造を構築することができる。
【0017】
所望の変形量とは、例えば、鋼コンクリートサンドイッチ構造で構成される構造物のスパン中央における変形量が当該構造物のスパン長の1/100などの所定量を満足することや、例えば、鋼コンクリートサンドイッチ構造で構成される構造物の下方に軌道が構築される場合における建築限界を侵さない量などとすることができる。
【0018】
また、前記主鋼板を、所定長さの部分主鋼板を応力伝達可能な噛み合わせ継手で連結した連結鋼板で構成する
ことにより、主鋼板に比べて小さな部分主鋼板を噛み合わせ継手で応力伝達可能に連結するため、施工性を向上することができる。
【0019】
また、2枚の前記部分主鋼板と、前記せん断補強鋼板とで断面コ字状の鋼製エレメントを構成する
ことにより、断面コ字状の鋼製エレメントは、所定間隔を隔てて配置した主鋼板と、該主鋼板同士を連結する複数のせん断補強鋼板が一体化した鋼コンクリートサンドイッチ構造に比べ、例えば地中部へ挿入する場合において、施工規模が小さくなり、施工性をさらに向上することができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、変形量を適切に算定し、所望の変形量を満足することができる鋼コンクリートサンドイッチ構造及びその設計方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明の鋼コンクリートサンドイッチ構造Sを用いた地下横断構造物300について
図1乃至4とともに説明する。
図1は軌道200の下方に構築する地下横断構造物300についての概略斜視図を示し、
図2は軌道200の下方に構築する地下横断構造物300についての概略正面図を示し、
図3は地下横断構造物300を構成する角型鋼製エレメント50についての説明図を示し、
図4は軌道200の下方に構築する地下横断構造物300についての概略縦断面図を示している。なお、本明細書の説明において、連結空間56に充填するコンクリートCについて断面を示すハッチングの図示を省略している。
【0023】
角型鋼製エレメント50を挿入して、下方に地下横断構造物300を構築する軌道200は、地山400の上部に、路床401aと路盤401bとを盛土して盛土部401を構成し、盛土部401の上にバラスト402を締め固め、枕木202を長さ方向に等間隔で載置し、枕木202の上に軌条201を固定して構成している。
【0024】
軌道200を横断する方向(
図4において左右方向)に構築する地下横断構造物300は、上床部300aが所定の土被りとなる位置で、地山400に構築される矩形断面のボックスである。なお、
図1,2,4において、連結した角型鋼製エレメント50がむき出したままの地下横断構造物300を図示しているが、地下横断構造物300の用途に応じて、地下横断構造物300の内部空間300bや端部に舗装やコンクリートを構築して地下横断構造物300を完成させる。
【0025】
このように、地下横断構造物300は、
図4に示すように軌道200の横断方向両側に予め建て込んだ土留め壁(図示省略)を用いて掘り下げて構築した立坑420(420a,420b)間の軌道200下の地山400を貫通する構造物である。
そして、地下横断構造物300は、
図1乃至3に示すように、正面視横長四角形状に配置した角型鋼製エレメント50を連結し、その内部を掘削して構築している。
【0026】
図2,3に示すように、角型鋼製エレメント50は、略四角形型に形成され、後述する連結継手53で連結方向Z1に連結可能に構成するとともに、所定の長さに形成している。そして、所定の長さに形成した角型鋼製エレメント50を複数、長さ方向(挿入方向)Xにおいて、接続部材(図示省略)で接続して、地下横断構造物300の長さを確保する構成である。
【0027】
詳述すると、
図3に示すように、地下横断構造物300を構成する角型鋼製エレメント50は、連結方向Z1に対して直交する交差方向Z2に所定の間隔を隔てて配置する2枚のフランジ鋼板51と、フランジ鋼板51における連結方向Z1の両側で交差方向Z2に向いたせん断補強鋼板52とで断面四角形に構成している。
なお、上述の角型鋼製エレメント50の長さ方向Xは、角型鋼製エレメント50の挿入方向Xと一致する方向であるため、本明細書において同じ符号Xで示している。
【0028】
フランジ鋼板51の両端には、略C型断面の連結継手53を備えている。詳しくは、フランジ鋼板51の連結方向Z1の基端側に配置した基端側連結継手53aは、フランジ鋼板51より交差方向Z2の外側に突出態様で略逆C型に形成されている。これに対し、フランジ鋼板51の連結方向Z1の先端側に配置した先端側連結継手53bは、フランジ鋼板51より交差方向Z2の内側に突出態様で略C型に形成されている。したがって、隣接する角型鋼製エレメント50同士は、既に挿入された挿入済みの角型鋼製エレメント50の先端側連結継手53bと、後で挿入する角型鋼製エレメント50の基端側連結継手53aとを嵌合させて連結している。
【0029】
また、せん断補強鋼板52は、フランジ鋼板51の先端側及び基端側において、連結継手53より連結方向Z1の適宜の間隔を隔てて配置されている。したがって、隣接する角型鋼製エレメント50同士の間には、挿入済みの角型鋼製エレメント50のせん断補強鋼板52と、後で挿入する角型鋼製エレメント50のせん断補強鋼板52と、フランジ鋼板51の連結継手53によって囲まれた連結空間56を構成している。
【0030】
このように構成した角型鋼製エレメント50は、仮設構造物ではなく、地下横断構造物300の本体の構造部材として本設利用される。したがって、フランジ鋼板51の交差方向Z2の間隔、つまりせん断補強鋼板52の交差方向Z2の長さは、連結空間56に充填するコンクリートCとともに、地下横断構造物300の上床部、下床部あるいは側壁として、作用する荷重に耐える間隔で構成されている。また、角型鋼製エレメント50の幅、つまりフランジ鋼板51の連結方向Z1の長さは、構築する地下横断構造物300の高さや幅寸法に応じて割り付けて決定する。
【0031】
なお、基端側連結継手53aと先端側連結継手53bとは同断面形状であり、点対称配置され、基端側連結継手53aと先端側連結継手53bとが噛み合わせ可能な形状である。また、基端側連結継手53aと先端側連結継手53bとの噛み合わせ状態において、施工性を考慮した遊間が設けられているため、角型鋼製エレメント50の地中への挿入完了後、噛み合わせ状態の角型鋼製エレメント50同士の間に鋼板の応力伝達や漏水防止のためのセメントグラウト材G(以下においてグラウトGという)を充填する。そのため、基端側連結継手53aと先端側連結継手53bのそれぞれには、噛み合わせ状態において他方に被さって、充填するグラウトGの漏出を防止するグラウト鋼板54を備えている。さらに、基端側連結継手53aの外側には防錆シート55を備えている。
【0032】
また、上述の角型鋼製エレメント50の説明では、地下横断構造物300を構成する一般部の一般エレメント50aについて説明したが、
図2,3に示すように、最初に地山400に挿入する基準エレメント50c、地下横断構造物300の隅角部を構成する隅角部エレメント50b、最後に挿入し、環状に閉合する調整エレメント50dは、以下に説明するように、上述の一般部の一般エレメント50aとわずかに構成が異なる。
【0033】
最初に、地山400に挿入する基準エレメント50cは、基準エレメント50cを基準として左右両側に角型鋼製エレメント50を連結するため、
図3(c)に示すように、フランジ鋼板51の両端に先端側連結継手53bを備えるとともに、せん断補強鋼板52が連結方向Z1の両側に配置される(図示省略)。
【0034】
逆に、最後に挿入し、環状に閉合する調整エレメント50dは、左右両側に挿入されている挿入済みの角型鋼製エレメント50の間において、両方の挿入済みの角型鋼製エレメント50に連結するため、
図3(d)に示すように、フランジ鋼板51の両側に基端側連結継手53aを備えるとともに、せん断補強鋼板52が連結方向Z1の両側に配置される(図示省略)。
【0035】
隅角部エレメント50bは、
図3(b)に示すように、連結方向が基端側連結継手53aのある基端側に対して直交するため、先端側連結継手53bがせん断補強鋼板52の延長上に配置される。
【0036】
なお、上述の説明では、一般部の一般エレメント50a、基準エレメント50c、隅角部エレメント50b及び調整エレメント50dで断面横長四角形状の地下横断構造物300を構築することについて説明しているが、基準エレメント50cと隅角部エレメント50bとで横一文字状配置、または縦一列配置、あるいは角型鋼製エレメント50、基準エレメント50c、及び隅角部エレメント50bでT字状配置、門型配置またはL型配置にして地下横断構造物300を構築してもよい。
さらには、台形断面や帯状円弧型の一般エレメント50a、基準エレメント50c及び調整エレメント50dを用いて、円形断面や円弧状断面の地下横断構造物300を構築してもよい。
【0037】
このような構成の角型鋼製エレメント50(50a,50b,50c,50d)は、刃口や掘削装置を角型鋼製エレメント50の長さ方向Xの先端に装着し、刃口や掘削装置で前方の地山400を掘削しながら、到達側立坑420bから1次けん引ワイヤー(図示省略)でけん引あるいは、発進側立坑420aから元押しして地山400に挿入して地下横断構造物300を構築する。
【0038】
このようにして、地山400に構築する地下横断構造物300を構成する複数の角型鋼製エレメント50を連結させて鋼コンクリートサンドイッチ構造Sを構成している。
【0039】
しかしながら、フランジ鋼板51、せん断補強鋼板52及び連結継手53で構成する角型鋼製エレメント50を連結し、連結空間56にコンクリートCを充填して構成した鋼コンクリートサンドイッチ構造Sは、鋼板に囲まれたコンクリートが鋼板と一体となって挙動する合成構造として評価するため、鋼板とコンクリートの一体性を確保するための適切なずれ止めを適切な間隔で設けている一般的な鋼コンクリートサンドイッチ構造に対して、角型鋼製エレメント50を構成するフランジ鋼板51やせん断補強鋼板52とコンクリートCとを一体化するためのずれ止めを設けていない。
【0040】
このように、ずれ止めを設けていない鋼コンクリートサンドイッチ構造の場合、一般的な鋼コンクリートサンドイッチ構造の曲げ特性に関するこれまでの研究において、鋼板とコンクリートの間にずれが生じ、たわみの計算値は梁理論による計算値に比較して大きくなることがわかっており、複数の角型鋼製エレメント50を連結し、連結空間56にコンクリートCを充填して構成した地下横断構造物300の鋼コンクリートサンドイッチ構造Sについて、一般的な鋼コンクリートサンドイッチ構造として構造解析した場合、例えば地下横断構造物300の上床部300aの中央付近が大きくたわみ、想定以上の変形量となるおそれがある。
【0041】
そこで、2枚のフランジ鋼板51と、せん断補強鋼板52とで断面コ字状に構成した角型鋼製エレメント50を、フランジ鋼板51の両端に設け、応力伝達可能な連結継手53で連結して構成した鋼コンクリートサンドイッチ構造Sについて以下のように評価する。
なお、鋼コンクリートサンドイッチ構造Sにおいて、連結継手53によって応力伝達可能に連結した複数のフランジ鋼板51を連結主鋼板51sとする。
【0042】
まず、フランジ鋼板51とせん断補強鋼板52に囲まれたコンクリートCの回転変形による圧縮変形とひび割れの概要を
図5(a)に示す。ここで、せん断補強鋼板52とコンクリートCは付着していないことから、ひび割れ断面における中立軸はひび割れの先端とする。
【0043】
このとき、断面高さに対するひび割れ深さの比をα、圧縮縁の圧縮変形量をdxとすると、回転角λは、数式6のように表わすことができる。ここで、フランジ鋼板51とせん断補強鋼板52に囲まれたコンクリートCの曲率は一様であると仮定していることから、回転変形によるひび割れはコンクリートCの左右で対称となるため、片側に発生するひび割れの回転角度をλ/2としている。
【0044】
【数19】
また、フランジ鋼板51とせん断補強鋼板52に囲まれたコンクリートCのひずみ分布及び力のつり合いを
図5(b)に示すようなモデルとした。ここで、維ひずみは断面の中立軸からの距離に比例すると仮定し、コンクリートCの応力ひずみ関係はコンクリート標準示方書に示す曲線に準拠した
図8(b),(c)に示す図より、中立軸からyだけ離れた位置におけるコンクリートCの圧縮ひずみε’
c(y)及び圧縮縁の変形量dxは、数式3及び数式4のように表わすことができる。
【0045】
【数20】
また、数式6、数式3及び数式4に基づき、回転角λは、数式5のように表わすことができる。
【0046】
【数21】
さらに、フランジ鋼板51とせん断補強鋼板52に囲まれたコンクリートCに発生する断面力から求まる力のつり合いの関係式は、数式1及び数式2のように表わすことができる。
【0047】
【数22】
以上の関係から、フランジ鋼板51とせん断補強鋼板52に囲まれた各コンクリートCに発生する断面力から回転角λを算出する。ここで、せん断補強鋼板52の位置に発生する回転角は隣り合うコンクリートCの回転角の半分の和となることから、せん断補強鋼板52の位置における回転角θを数式7のように表すことができる。
【0048】
【数23】
以上より、フランジ鋼板51とせん断補強鋼板52に囲まれたコンクリートCの回転変形を
図6(a)に示すようにモデル化し、数式8のように各コンクリートCにおける回転変形を累加することにより、地下横断構造物300を構成する鋼コンクリートサンドイッチ構造Sのスパン中央におけるたわみ量δを正確に算出することができる。
【0049】
【数24】
したがって、鋼コンクリートサンドイッチ構造Sで構成する地下横断構造物300について構造解析する場合、数式8で算定する変形量δが地下横断構造物300の要求性能である所望の変形量を満足するように、角型鋼製エレメント50の諸元や、角型鋼製エレメント50を連結して構成する地下横断構造物300の諸元を決定する。
【0050】
所望の変形量とは、例えば、地下横断構造物300において鋼コンクリートサンドイッチ構造Sで構成する上床部300aのスパン中央における変形量が上床部300aのスパン長の1/100などの所定量を満足することや、内部空間300bに軌道が構築される場合の建築限界を侵さない量などとすることができる。
【0051】
このようにして、上述の数式1乃至数式8を用いて諸元が定められた角型鋼製エレメント50を連結して構築した鋼コンクリートサンドイッチ構造Sの地下横断構造物300は、所望の要求性能を満足することができる。
【0052】
なお、所望の要求性能とは、地下横断構造物300において鋼コンクリートサンドイッチ構造Sで構成する上床部300aのスパン中央におけるたわみなどの変形量やせん断耐力など、地下横断構造物300の上床部300aに対して求められる性能である。
【0053】
次に、上述の数式1乃至数式8による算定結果(以下において、本願算定結果という)について、その算定精度を検証するために行った確認試験について述べる。
角型鋼製エレメント50で構成する鋼コンクリートサンドイッチ構造Sを評価するため、
図7に示す試験体S1及びS2を用い、載荷試験を実施した。
【0054】
詳述すると、部材軸直角方向にのみせん断補強鋼板52を配置した鋼コンクリートサンドイッチ構造Sの荷重と変位の関係や破壊形態、曲げ耐力を確認することを目的に載荷試験を実施するため、連結継手53により連結された複数の角型鋼製エレメント50を模した鋼コンクリートサンドイッチ構造の梁試験体(試験体S1,S2)を用いて静的曲げ載荷試験を実施した。
【0055】
載荷は、2種類の試験体(試験体S1,S2)に対して、油圧ジャッキを用いた変位制御による2点単調載荷とした。ここで、載荷試験に用いた試験体(S1,S2)は寸法効果の影響を避けるために実構造物を忠実に再現し、試験体S1は、本工法の最も標準的な形状とし、断面高さを850mm、せん断補強鋼板52同士の間隔を1035mmとするとともに、試験体S2は、断面高さを1000mm、せん断補強鋼板52同士の間隔を1160mmとし、試験体S1と試験体S2との結果の比較をおこなった。
【0056】
なお、載荷は、
図7に示すようにスパン中央のせん断補強鋼板52に挟まれた区間が等曲げ区間となる位置に載荷点を設け、載荷点から支点の間に上下3箇所ずつの連結継手53を配置する形状とした。また、載荷点と支点間のせん断スパンは、部材高におけるせん断スパン比が3程度となるように設定した。
【0057】
これらの試験体(S1,S2)を構成する角型鋼製エレメント50は、標準的に使用されている板厚16mmのSM400材を使用し、角型鋼製エレメント50の連結空間56に充填するコンクリートCとして一軸圧縮強度が30N/mm
2程度の普通コンクリートを使用し、角型鋼製エレメント50を横にした状態で全ての連結継手53を嵌合させ、嵌合した連結継手53同士の遊間に設計基準強度が30N/mm
2となるセメントミルク(グラウトG)を充填した。
【0058】
セメントミルクの硬化後、角型鋼製エレメント50の連結空間56に普通コンクリートを打設してコンクリートCを構成し、試験体(S1,S2)を製作した。なお、コンクリートCと接する角型鋼製エレメント50の表面は目粗し等をおこなわず無処理の状態とした。
【0059】
載荷試験から得られた荷重と変位の関係を
図8(b)及び
図8(c)に示す。いずれの試験結果も載荷荷重1300kN付近までは直線的な関係を示し、その後、荷重の増加傾向は非常に緩やかになった。
【0060】
試験体(S1,S2)に発生した最初のひび割れは、いずれの試験体(S1,S2)も載荷点直近の引張側の連結継手53から発生した。その後は、鉄筋コンクリート構造の曲げひび割れとは異なり、載荷荷重の増加に伴って分散することなく、せん断補強鋼板52の近傍にのみひび割れが発生し、伸展していることが確認できた。それに伴い、引張側の角型鋼製エレメント50とコンクリートCの間に滑りが発生しており、
図9(a)に示すようにせん断補強鋼板52の近傍のひび割れ幅が増大していった。
【0061】
試験体S1は、載荷荷重が1431kNに達した時点で載荷点間の圧縮側鋼板の座屈が発生し荷重が急激に低下し、その後、
図9(b)に示すように圧縮側のコンクリートCが破壊していき、荷重は緩やかに減少した。これに対し、試験体S2は、載荷荷重が約1450kN付近で載荷点間の圧縮側鋼板が降伏しはじめ、載荷荷重が約1800kNに達した時点で
図9(c)に示すような局部座屈が発生し、その後もコンクリートCは大きな破壊をせず荷重は緩やかに増加し続けた。
【0062】
以上のように、これらの破壊の進行状況を見ると、いずれの試験体(S1,S2)も曲げひび割れが分散せずにせん断補強鋼板52の近傍でひび割れが局所化することで変形が増大していることが分かる。さらに、せん断補強鋼板52の近傍では引張側の角型鋼製エレメント50とコンクリートCの間に滑りが発生しており、平面保持が成立していないと考えられ、平面保持を仮定して曲げ変形を算定する鉄筋コンクリート構造とは異なる変形挙動になることが確認できた。
【0063】
上述の載荷試験結果と、上述の本願算定結果とを比較するにあたり、角型鋼製エレメント50の弾性係数について、以下のように設定した。
角型鋼製エレメント50は、
図6(b)に示すように連結継手53でフランジ鋼板51を連結して、応力伝達する連結主鋼板51sを構成している。しかしながら、連結主鋼板51sを構成するフランジ鋼板51と連結継手53は、表1に示すように引張特性が異なる部材を繋ぎ合わせた合成部材となっており、その引張特性を適切に評価する必要がある。なお、連結継手53の特性値は標点間距離(
図6(b)のL
j)を220mmとして測定した実験結果の平均値を用いた。
【0064】
【表1】
ここで、合成部材である角型鋼製エレメント50の弾性係数は、各材料の弾性係数を用いて算出した平均弾性係数とし、数式9に示す平均ひずみから数式10を用いて算出した。
【0065】
【数25】
上記の数式9及び数式10から求められた角型鋼製エレメント50の平均弾性係数を表2に示す。ここで、角型鋼製エレメント50の応力ひずみ関係は降伏点以降のひずみ硬化を考慮し、2次勾配比が1/100となるような二直線関係とした。また、角型鋼製エレメント50は降伏強度が異なる合成部材であり、降伏点が2箇所となる三直線関係となるが、連結継手53が降伏強度に達する点が支配的であり、その後フランジ鋼板51が降伏強度に達する影響は非常に小さいことから、簡略化のために連結継手53が降伏強度に達した時点で平均弾性係数の2次勾配比が1/100となる二直線関係とし、試験体S1における角型鋼製エレメント50の応力とひずみの関係を
図8(a)に示す。
試験体S1における荷重と変位の関係を
図8(b)に、試験体S2の関係を
図8(c)に示す。
【0066】
【表2】
ここで、図中に示すY
1点はスパン中央に最も近い引張側の連結継手53のひずみが表1に示す連結継手53の降伏強度(256N/mm
2)から求めた降伏ひずみに達した点、Y
2点はスパン中央のフランジ鋼板51の引張ひずみが表1に示す降伏強度(294N/mm
2)から求めた降伏ひずみに達した点、M点はスパン中央の圧縮縁ひずみが3500μに達した点としている。これらの点は、平面保持を仮定して鉄筋コンクリート構造と同様に曲げ理論を用いて断面力を算出し、その断面力から荷重に換算して図中に記載した。
【0067】
図8(b)及び
図8(c)に示すように、継手降伏荷重の半分程度の応力領域までは、荷重と変位の関係が直線的に推移しており、その荷重勾配は本願算定結果と同じとみなすことができ、本願算定結果は、曲げ変形を精度良く近似すると考えられる。
【0068】
その後は変位の増加に伴い、本願算定結果から得られた荷重勾配はY
1点まで直線的に推移しているのに対し、実験から得られた荷重勾配は変位が進むにつれてその傾きが緩くなり、本願算定結果との乖離が見られるようになった。さらに変位が増加するにつれて、実験から得られた荷重勾配は非常に緩やかになっていくことが分かる。これに対し、本願算定結果では連結継手53の降伏点(Y
1点)以降に荷重勾配が非常に緩やかになり、スパン中央の角型鋼製エレメント50が降伏する点(Y
2点)までの荷重勾配が実験結果と同様とみなせることから、本願算定結果は、この範囲における曲げ変形を近似できたと考える。
【0069】
スパン中央の角型鋼製エレメント50が降伏する点(Y
2点)以降は、実験から得られた荷重の増加が非常に緩やかになり、特に試験体S1では圧縮側のコンクリートが破壊した時点から緩やかに荷重の低下が見られた。これに対し、本願算定結果から得られた荷重勾配は直線的な増加傾向を示し、実験結果との荷重勾配に若干の乖離が生じている。
【0070】
以上のことから、部材軸直角方向にせん断補強鋼板52を配置した鋼コンクリートサンドイッチ構造Sの曲げ変形に対して、初期の曲げ剛性及びスパン中央が降伏する付近までの曲げ変形については、本願算定結果は精度良く評価できることが確認できた。
【0071】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、この発明の主鋼板、連結鋼板は連結主鋼板51sに対応し、
以下同様に、
噛み合わせ継手は連結継手53に対応し、
部分主鋼板はフランジ鋼板51に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0072】
上述の説明では、角型鋼製エレメント50を連結した鋼コンクリートサンドイッチ構造Sを構成し、地下横断構造物300を構築したが、所定間隔を隔てて配置した主鋼板と、主鋼板同士を連結する複数のせん断補強鋼板と、主鋼板及び前記せん断補強鋼板との間に充填したコンクリートとで構成する鋼コンクリートサンドイッチ構造で地下横断構造物300を構成してもよい。しかし、角型鋼製エレメント50を連結した鋼コンクリートサンドイッチ構造Sの方が地山400へ挿入する際の施工規模が小さくなり、施工性をさらに向上することができる。