(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706500
(24)【登録日】2020年5月20日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3204 20160101AFI20200601BHJP
【FI】
F16J15/3204 201
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-4227(P2016-4227)
(22)【出願日】2016年1月13日
(65)【公開番号】特開2017-125530(P2017-125530A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2018年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】谷田 昌幸
【審査官】
羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−249168(JP,A)
【文献】
特開2009−068687(JP,A)
【文献】
特開2006−046551(JP,A)
【文献】
特開2013−160303(JP,A)
【文献】
特開2011−122723(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102012016559(DE,A1)
【文献】
中国実用新案第203189533(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/00−57/12
F16J 15/00−15/3296
F16J 15/46−15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングの内周面と前記ハウジングに挿通される回転軸の外周面との間の環状空間に装着されるオイルシールと、前記オイルシールの機外側で前記回転軸の外周面に取り付けられるダストカバーと、を備え、前記オイルシールには、前記ダストカバーにおけるフランジ部と摺動自在に接触するサイドリップが形成されている密封装置において、
前記ダストカバーには、前記フランジ部と前記サイドリップとの摺動部より内径側に位置して前記摺動部に連絡する機内側に向けて開口し、前記回転軸の回転による遠心力が作用したときにしみだすように潤滑剤をしみこませた多孔質材を収容する潤滑剤収納部が設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1に記載の密封装置において、
前記ダストカバーには、前記潤滑剤収納部から前記摺動部に向けて潤滑剤を供給する潤滑剤供給部が形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項2に記載の密封装置において、
前記潤滑剤供給部は、周方向に所定の間隔をもって複数が配置されていることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に係り、例えば、車両のトランスファー装置や車輪軸受等といった機外側からの泥水等にさらされやすい環境で使用される密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、機外A側からの泥水等にさらされやすい環境下で用いられる一般的な密封装置として、例えば、
図5に示すようなものが知られている。この密封装置100は、ハウジング700の内周面710とハウジング700に挿通される回転軸800の外周面810との間の環状空間820に装着されるオイルシール200と、オイルシール200の機外A側で回転軸800の外周面810に取り付けられるダストカバー300と、を備え、オイルシール200には、ダストカバー300におけるフランジ部320と摺動自在に接触するサイドリップ400が形成されている。また、サイドリップ400の内周面には、フランジ部320及びサイドリップ400の摺動部900を潤滑するグリース等の潤滑剤(図示せず)が塗布されている。
【0003】
この密封装置100によれば、オイルシール200は、回転軸800の外周面810と摺動自在に接触することで機内B側の密封流体(図示せず)が機外A側へ漏洩することを防止する。また、ダストカバー300は、回転軸800とともに回転することで、サイドリップ400の先端部400aがフランジ部320の端面320aと摺動自在に接触し、かつ、ダストカバー300における遠心力の振り切り作用が発揮されることで、機外A側の泥水等が機内B側へ侵入することを防止する。また、潤滑剤は、フランジ部320及びサイドリップ400の摺動部900を潤滑することで、回転軸800の回転によりサイドリップ400が摩耗することを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−113319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、回転軸800の回転によってサイドリップ400の内周面に塗布された潤滑剤に遠心力が作用すると、この潤滑剤は、サイドリップ400の先端部400aとフランジ部320の端面320aとの間から機外A側へ飛散し、又は流出することで潤滑剤の量が減少する。潤滑剤の量の減少は、サイドリップ400及びダストカバー300の摺動部900の摺動抵抗を増加させることで、サイドリップ400の摩耗を促進させ、ひいては、密封装置100の泥水等への耐久性の低下を招く。これに対して従来は、サイドリップ400の内周面に塗布する潤滑剤の量を増やすことで潤滑剤が減少するまでの時間に猶予を与えていた。
【0006】
しかし、従来技術に係る密封装置100は、サイドリップ400の内周面の面積が一定であるため、塗布することができる潤滑剤の量も一定である。そのため、サイドリップ400の内周面に塗布することができる潤滑剤の量には、限界があった。
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、フランジ部及びサイドリップの摺動部より内径側の潤滑剤の量を増やすことでフランジ部及びサイドリップの摺動部を長期間にわたって潤滑することができる密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ハウジングの内周面と前記ハウジングに挿通される回転軸の外周面との間の環状空間に装着されるオイルシールと、前記オイルシールの機外側で前記回転軸の外周面に取り付けられるダストカバーと、を備え、前記オイルシールには、前記ダストカバーにおけるフランジ部と摺動自在に接触するサイドリップが形成されている密封装置において、前記ダストカバーには、前記フランジ部
と前記サイドリップ
との摺動部より内径側に位置し
て前記摺動部に連絡する機内側に向けて開口し、
前記回転軸の回転による遠心力が作用したときにしみだすように潤滑剤をしみこませた多孔質材を収容する潤滑剤収納部が設けられている
。
【発明の効果】
【0011】
ダストカバーに設けられた潤滑剤収納部に潤滑剤を充填することで、フランジ部及びサイドリップの摺動部より内径側の潤滑剤の量を増やすことができる。したがって、潤滑剤収納部に充填された潤滑剤は、フランジ部及びサイドリップの摺動部を長期間にわたって潤滑することで、サイドリップの摩耗を抑制し、密封装置の泥水等への耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
実施形態に係る密封装置の要部拡大断面図である。
【
図3】
実施形態に係る密封装置を
図2におけるX方向から見たときの図である。
【
図4】(C)は、
図2におけるC−C断面図であり、(D)は、
図2におけるD−D断面図である。
【
図5】従来技術に係る密封装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態に係る密封装置10について図面に基づき詳細に説明する。
図1は
、実施形態に係る密封装置10の断面図であり、
図2は
、実施形態に係る密封装置10の要部拡大断面図であり、
図3は
、実施形態に係る密封装置10を
図2におけるX方向から見たときの図であり、
図4(C)は、
図2におけるC−C断面図であり、
図4(D)は、
図2におけるD−D断面図である。
【0014】
本実施形態に係る密封装置10は、
図1に示すようにハウジング70の内周面71とハウジング70に挿通される回転軸80の外周面81との間の環状空間82に装着されるオイルシール20と、オイルシール20の機外A側で回転軸80の外周面81に取り付けられるダストカバー30と、を備える。
【0015】
オイルシール20は、金属からなり断面略L字状を呈する金属環21にゴム状弾性材22が一体に成形されたものであって、ハウジング70の内周面71に嵌合される外周シール部23と、金属環21の内径方向の端部から機内B側へ延び、回転軸80の外周面81と摺動自在に接触する対油リップ24と、金属環21の内径方向の端部から機外A側へ延び、回転軸80の外周面81に接触するダストリップ25とを備え、対油リップ24の外周面には、内径方向へ向けて緊迫力を付与するためのガータスプリング26が装着されている。また、オイルシール20には、ダストリップ25の根元の外周側から対油リップ24の反対方向へ延び、先端部40aに向かうに従って大径となる円錐筒状を呈し、先端部40aがフランジ部32の端面32aと摺動自在に接触するサイドリップ40が設けられている。さらに、サイドリップ40の内周面には、従来技術と同様にフランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90を潤滑するグリース等よりなる潤滑剤(図示せず)が塗布されている。
【0016】
ダストカバー30は、金属からなり、軸方向一方に延び、オイルシール20の機外A側で回転軸80の外周面81に嵌合されることでダストカバー30を固定する円筒状の固定部31と、固定部31の機外A側の端部から外径方向に向けて円盤状に展開し、サイドリップ40の先端部40aと摺動自在に接触する端面32aを有するフランジ部32と、フランジ部32の外径方向端部から軸方向他方に向けて延びる折り曲げ部33と、によって形成されている。
【0017】
また、ダストカバー30のフランジ部32には、フランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90を潤滑する潤滑剤(図示せず)を充填するための潤滑剤収納部50が設けられており、本実施形態では、機内B側に向けて開口する断面U字状を呈する。詳しく説明すると、潤滑剤収納部50は、軸方向一方に向けて延び、オイルシール20の機外A側で回転軸80の外周面81に嵌合されるとともに、ダストカバー30における固定部31の一部を兼ねる円筒状の内径側円筒部51と、内径側円筒部51の機外A側の端部から外径方向に延びる内径側端面部52と、内径側端面部52の外径方向端部から軸方向他方に延びる外径側円筒部53と、によって形成される。そして、潤滑剤は、内径側円筒部51、内径側端面部52、及び外径側円筒部53に囲まれた環状の空間に充填される。
【0018】
また、本実施形態に係るダストカバー30のフランジ部32には、潤滑剤収納部50からフランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90に向けて潤滑剤を供給するための潤滑剤供給部60が周方向に所定の間隔をもって複数が配置されている。潤滑剤供給部60は、
図2及び
図3に示すように、潤滑剤収納部50における外径側円筒部53の内面53aからフランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90に向けて放射状に形成されている。
【0019】
さらに、
図2及び
図3に示すように、本実施形態に係るフランジ部32をX方向から見たときに、潤滑剤供給部60は、外径側円筒部53の内面53aを底辺とし、この底辺より外径側に位置する潤滑剤供給部60の外径側先端部61を頂点とすることで、外径側円筒部53の内面53aから外径側先端部61に向けて周方向の幅が徐々に縮小する三角状を呈する。さらに、潤滑剤供給部60は、
図4(C)に示す外径側の幅αと外径側の深さγとが、
図4(D)に示す内径側の幅βと内径側の深さδに対して小さくなっており断面三角状を呈する。
【0020】
なお、
図3に示すように潤滑剤供給部60の外径側先端部61と、フランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90との間には、一定の径方向距離が設定されている。
【0021】
また、潤滑剤収納部50には、ファブリック、綿、フェルトなどの繊維集合体や、連続気泡を有する発泡樹脂(スポンジ)などを成形した連続気孔を有する多孔質材54が収納されている。多孔質材54は、接着剤等の固定手段で潤滑剤収納部50の内面に固定され、また、この多孔質材54には一部の潤滑剤がしみこませてある。
【0022】
上記構成を備える密封装置10は、オイルシール20における対油リップ24が回転軸80の外周面81と摺動自在に接触することで、機内B側の密封流体(図示せず)が機外A側へ漏洩することを防止する。
【0023】
また、サイドリップ40の先端部40aと、フランジ部32の端面32aとが摺動自在に接触することで、サイドリップ40は、機外A側から浸入しようとする泥水等を堰き止め、泥水等が対油リップ24側へ侵入することを防止する。
【0024】
また、ダストカバー30は、回転軸80とともに回転することで遠心力による振り切り作用が生じ、機外A側の泥水等が機内B側へ浸入することを防止する。
【0025】
また、本実施形態に係るサイドリップ40の内周面に塗布された潤滑剤は、回転軸80の回転による遠心力が作用することで、サイドリップ40の内周面を伝ってフランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90へ向かう。さらに、本実施形態に係る潤滑剤収納部50に充填される潤滑剤は、回転軸80の回転による遠心力が作用することで外径方向へ移動しようとする。その後、潤滑剤収納部50に収まりきらなくなった潤滑剤は、外径側円筒部53の内面53aから溢れ出し、フランジ部32の端面32aを伝ってフランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90へ向かう。
【0026】
したがって、本実施形態に係る密封装置10は、
図5に示すサイドリップ400の内周面にのみ潤滑剤を塗布する従来技術の密封装置100と比較して、摺動部90へ供給することができる潤滑剤の量を増やすことができる。よって、本実施形態に係る密封装置10における潤滑剤は、フランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90を長期間にわたって潤滑することで、サイドリップ40の早期摩耗を抑制し、密封装置10の耐泥寿命を向上させることができる。
【0027】
また、本実施形態に係る密封装置10の潤滑剤供給部60は、潤滑剤収納部50における外径側円筒部53の内面53aに対して所定の勾配を有する。これにより潤滑剤収納部50内の潤滑剤は、回転軸80の回転による遠心力によって、潤滑剤供給部60へ容易に導入され、潤滑剤供給部60に沿うように外径方向に向けて移動することで、外径側先端部61へ到達する。したがって、潤滑剤収納部50に充填された潤滑剤は、潤滑剤供給部60によってフランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90へ円滑に供給される。
【0028】
また、潤滑剤供給部60は、外径側先端部61とフランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90との間に一定の径方向距離を設けることで、潤滑剤供給部60をフランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90より内径側に確実に配置することができる。すなわち、潤滑剤供給部60は、フランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90と交差しないため、潤滑剤が先端部40aを通過して機外A側に流出するおそれがない。
【0029】
また、潤滑剤収納部50に多孔質材54を収容して、この多孔質材54に潤滑剤をしみこませた場合には、回転軸80の回転による遠心力が作用したときに多孔質材54から潤滑剤がしみだし、この潤滑剤がフランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90へ円滑に供給される。したがって、密封装置10に粘度の低い潤滑剤を採用する場合であっても、これを潤滑剤収納部50に保持し、長期間にわたって摺動部90へ供給することができる。
【0030】
なお、本実施形態に係る密封装置10における潤滑剤収納部50の形状は、本実施形態に開示されたものに限定されない。例えば、潤滑剤収納部50を断面V字状等にしてもよい。
【0031】
また、本実施形態に係る密封装置10における潤滑剤の種類、塗布又は充填する位置、潤滑剤の量等は、密封装置10の用途等に応じて適宜選択される。潤滑剤としては、摩擦を減少させることができるグリースが挙げられるほか、オイルやワックスであってもよい。また、潤滑剤収納部50における潤滑剤のみで、サイドリップ40とフランジ部32との摺動部90を十分に潤滑できる場合には、サイドリップ40の内周面に潤滑剤を塗布しなくてもよい。
【0032】
また、本実施形態に係る密封装置10におけるダストカバー30の固定部31は、潤滑剤収納部50における内径側円筒部51の一部を兼ねるが、潤滑剤収納部50の位置は、ダストカバー30におけるフランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90より内径側に位置する限りにおいて特に限定されない。例えば、内径側円筒部51とダストカバー30における固定部31との間にフランジ部32の一部が形成される場合が挙げられる。
【0033】
また、本実施形態に係る密封装置10における潤滑剤供給部60の形状、大きさ、範囲等は、ハウジング70及び回転軸80の形状等や、密封装置10の用途等に応じて適宜選択される。例えば、フランジ部32及びサイドリップ40の摺動部90に多くの潤滑剤を供給する必要がある場合には、潤滑剤供給部60の幅α,βを大きくすることで、供給する潤滑剤の量を増やすといったことが挙げられる。
【0034】
また、本実施形態に係る密封装置10における潤滑剤供給部60は、周方向に所定の幅を有するものに限られない。例えば、外径側円筒部53における機内B側の端部を全周にわたってテーパ状にカットすることで、テーパ状とすることが挙げられる。
【符号の説明】
【0035】
10 密封装置
20 オイルシール
21 金属環
22 ゴム状弾性材
23 外周シール部
24 対油リップ
25 ダストリップ
26 ガータスプリング
30 ダストカバー
31 固定部
32 フランジ部
32a 端面
33 折り曲げ部
40 サイドリップ
40a 先端部
50 潤滑剤収納部
51 内径側円筒部
52 内径側端面部
53 外径側円筒部
53a 内面
54 多孔質材
60 潤滑剤供給部
61 外径側先端部
α 外径側の幅
β 内径側の幅
γ 外径側の深さ
δ 内径側の深さ
70 ハウジング
71 内周面
80 回転軸
81 外周面
82 環状空間
90 摺動部
A 機外
B 機内