特許第6706503号(P6706503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706503
(24)【登録日】2020年5月20日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】助手席用エアバッグ
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/205 20110101AFI20200601BHJP
   B60R 21/2338 20110101ALI20200601BHJP
   B60R 21/239 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   B60R21/205
   B60R21/2338
   B60R21/239
【請求項の数】2
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-12708(P2016-12708)
(22)【出願日】2016年1月26日
(65)【公開番号】特開2017-132325(P2017-132325A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年2月21日
【審判番号】不服2019-8467(P2019-8467/J1)
【審判請求日】2019年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】三浦 渉
(72)【発明者】
【氏名】玉井 宏美
【合議体】
【審判長】 氏原 康宏
【審判官】 藤井 昇
【審判官】 一ノ瀬 覚
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/019923(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0225354(US,A1)
【文献】 特開2015−33986(JP,A)
【文献】 特開2015−9674(JP,A)
【文献】 特開2013−52716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R21/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
助手席前方のインストルメントパネルに設けられた収納部位内に収納され、内部に膨張用ガスを流入させて、後方に向かって展開膨張する構成とされるとともに、
膨張完了時の形状として、後端側に略上下方向に沿うように配置されて、助手席に着座した乗員を受け止め可能に構成される乗員側壁部と、
該乗員側壁部から収束するように前方に延びる形状として、前端側を、前記収納部位に取り付けられる周壁部と、
を備える構成とされ、
該周壁部において、膨張完了時に左右方向側で対向するように配置される左壁部及び右壁部に、余剰の膨張用ガスを排気させるためのベントホールを、配置させて構成される助手席用エアバッグであって、
前記ベントホールが、エアバッグの膨張完了時において、開口形状を、前記乗員の進入方向に略沿わせるように長軸を配置させた長穴状として、構成され、
前記エアバッグ内に、前記エアバッグの膨張完了時に略左右方向に沿って配置されるように、テザーが、配設され、
該テザーが、前記乗員側壁部による前記乗員の受止時に、前記ベントホールの周縁に前記乗員の進入方向と略直交する方向に張力を発揮させる位置に配置される構成であって、前記各ベントホールに対応して、それぞれ、配置されるとともに、一端側を、前記ベントホールの後縁近傍に連結させ、他端側を、前記乗員側壁部に連結させ、両端の連結部位間を結ぶ方向と直交する方向を幅方向として、帯状に構成され、一端側の幅寸法を、前記ベントホールにおける前記長軸と直交方向の寸法である開口幅寸法よりも大きく設定されていることを特徴とする助手席用エアバッグ。
【請求項2】
前記エアバッグに、可撓性を有したシート体から構成されて、前記エアバッグの膨張完了時に、前記ベントホールの開口領域の少なくとも一部を覆う構成とされるとともに、前記ベントホールの長軸方向に沿った方向側の両縁側のみを、前記周壁部に結合されるパッチが、配設されていることを特徴とする請求項1に記載の助手席用エアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、助手席前方のインストルメントパネルに設けられた収納部位内に折り畳まれて収納され、内部に膨張用ガスを流入させて、後方に向かって展開膨張する構成の助手席用エアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、助手席用エアバッグには、膨張完了時に後端側に配置される乗員側壁部から収束するように前方に延びる周壁部において、左右方向側で対向する左壁部及び右壁部に、内部に流入した余剰の膨張用ガスを排気させるベントホールが、形成されている。従来では、ベントホールとして、スリット状として、乗員側壁部に乗員が接触した際に、乗員側壁部が前方に押圧されることに伴って、口開きするように変形されることにより開口して、膨張用ガスを排気させる構成のものがあった(例えば、特許文献1参照)。詳細には、この従来の助手席用エアバッグでは、ベントホールを構成するスリットは、長手方向を、収納部位からの突出時に、周壁部におけるスリット近傍の部位に作用する引張力の作用方向に沿わせるように、配置されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−354108公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の助手席用エアバッグでは、周壁部に、単にベントホールを形成するスリットを形成しているのみであることから、周壁部に張力が作用した際等には、乗員受止前に、大きく開口してしまう虞れがあった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、乗員受止時に、ベントホールを確実に大きく開口させることができて、良好な膨張用ガス排気性能を確保することができ、乗員を的確に保護可能な助手席用エアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る助手席用エアバッグは、助手席前方のインストルメントパネルに設けられた収納部位内に収納され、内部に膨張用ガスを流入させて、後方に向かって展開膨張する構成とされるとともに、
膨張完了時の形状として、後端側に略上下方向に沿うように配置されて、助手席に着座した乗員を受け止め可能に構成される乗員側壁部と、
乗員側壁部から収束するように前方に延びる形状として、前端側を、収納部位に取り付けられる周壁部と、
を備える構成とされ、
周壁部において、膨張完了時に左右方向側で対向するように配置される左壁部及び右壁部に、余剰の膨張用ガスを排気させるためのベントホールを、配置させて構成される助手席用エアバッグであって、
ベントホールが、エアバッグの膨張完了時において、開口形状を、乗員の進入方向に略沿わせるように長軸を配置させた長穴状として、構成され、
エアバッグ内に、エアバッグの膨張完了時に略左右方向に沿って配置されるように、テザーが、配設され、
テザーが、乗員側壁部による乗員の受止時に、ベントホールの周縁に乗員の進入方向と略直交する方向に張力を発揮させる位置に、配置されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の助手席用エアバッグでは、ベントホールが、開口形状を、乗員の進入方向に略沿わせるように長軸を配置させた長穴状として、構成され、このベントホールは、乗員側壁部による乗員の受止時に、テザーにより、周縁に乗員の進入方向と略直交する方向に張力を作用させることとなって、変形することとなる。すなわち、本発明の助手席用エアバッグでは、乗員側壁部によって乗員を受け止めた際に、乗員の前進移動に伴って、ベントホールは、乗員の進入方向と略直交する上下方向側に延びるように変形することとなり、換言すれば、ベントホールは、乗員の進入方向に沿って配置される長軸方向側を接近させて、乗員の進入方向と略直交する方向側に広がることから、真円形に近似した形状に、変形することとなる。また、本発明の助手席用エアバッグでは、テザーは、乗員側壁部による乗員の受止時に、ベントホールの周縁に乗員の進入方向と略直交する方向に張力を発揮させる位置に、配置されていることから、換言すれば、乗員受止前の状態では、ベントホールの周縁にこのような張力は発揮されず、ベントホールは、長穴状として、大きく開口することを抑制された状態を維持されることとなる。すなわち、本発明の助手席用エアバッグでは、乗員受止前の状態では、ベントホールから多量の膨張用ガスが排気されることを抑制でき、乗員受止時には、略真円形として大きく開口したベントホールから、多量の膨張用ガスを排気させることができる。そのため、本発明の助手席用エアバッグは、膨張用ガスの排気を抑制されて膨張を完了させた状態から、多量の膨張用ガスを排気させつつ、乗員を受け止めることができることから、乗員を、乗員側壁部によって、ソフトに受け止めることができて、乗員を円滑に保護することができる。
【0008】
したがって、本発明の助手席用エアバッグでは、乗員受止時に、ベントホールを確実に大きく開口させることができて、良好な膨張用ガス排気性能を確保することができ、乗員を的確に保護することができる。
【0009】
また、本発明の助手席用エアバッグにおいて、テザーを、各ベントホールに対応して、それぞれ、配置させるとともに、一端側をベントホールの後縁近傍に連結させ、他端側を乗員側壁部に連結させて、構成することが、好ましい。
【0010】
上記構成の助手席用エアバッグでは、テザーは、エアバッグの膨張完了時に、ベントホールの後縁近傍と乗員側壁部とを結ぶように直線的に配置されて、このベントホールの後縁近傍に連結される部位と、乗員側壁部に連結される部位と、の間に張力を発生させることとなる。そして、乗員受止前の状態では、この張力が、ベントホールの周縁において、ベントホールの長軸に略沿う方向に作用することとなり、ベントホールは、変形を抑制されて長穴状を維持されることとなる。そして、乗員側壁部による乗員の受止時には、乗員が乗員側壁部と接触し、乗員側壁部を前方に向かって押圧すれば、このテザーの張った状態が解除されることから、ベントホールの周縁には、乗員側壁部の前方移動に伴って、乗員の進入方向と略直交する方向に張力が発揮されることとなって、ベントホールの長軸(乗員の進入方向)に沿う方向に作用する張力より進入方向と略直交する方向に作用する張力がベントホールに作用し易くなり、ベントホールが、大きく開口するように、変形することとなる。そのため、上記構成の助手席用エアバッグでは、テザーによって、乗員受止前のベントホールの長穴形状を的確に維持することも可能となり、乗員受止前の膨張用ガスの排気を、一層的確に抑制することができる。
【0011】
さらに、本発明の助手席用エアバッグにおいて、テザーを、エアバッグの膨張完了時に、左壁部と右壁部との離隔距離を規制するように、左壁部と右壁部とを連結して、配置させる構成としてもよく、このような構成とする場合には、乗員受止時において、乗員側壁部が前方に押圧されるように変形することとなっても、ベントホールの配設されている左壁部と右壁部とは、テザーにより離隔距離を規制されていることから、相互に離隔するように変形することを抑制できる。そして、周壁部において膨張完了時に上下方向側で対向するように配置される上壁部と下壁部とが、膨らもうとすることとなり、左壁部及び右壁部は、この膨らもうとする上壁部や下壁部に引っ張られて、上下方向側に伸びるように、変形することとなる。そのため、このような左壁部及び右壁部の変形による張力を、ベントホールの周縁に作用させることができて、ベントホールを、大きく開口するように円滑に変形させることができ、乗員受止時に、変形したベントホールから多量の膨張用ガスを排気させることができる。
【0012】
さらにまた、上記構成の助手席用エアバッグにおいて、エアバッグに、可撓性を有したシート体から構成されて、エアバッグの膨張完了時に、ベントホールの開口領域の少なくとも一部を覆う構成とされるとともに、ベントホールの長軸方向に沿った方向側の両縁側のみを周壁部に結合されるパッチを、配設させる構成とすれば、ベントホールは、少なくとも一部をパッチによって覆われることにより、乗員受止前の膨張用ガスの排気を抑制することができ、また、このパッチは、ベントホールの長軸方向に沿った方向側の両縁側のみを、周壁部に結合されていることから、エアバッグによる乗員受止時には、ベントホールの変形を妨げず、このベントホールの変形に伴ってたるむような態様となり、変形したベントホールから多量の膨張用ガスを排気させることができて、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態であるエアバッグを使用した助手席用エアバッグ装置を車両に搭載させた状態を示す概略縦断面図である。
図2】第1実施形態のエアバッグを単体で膨張させた状態の斜視図である。
図3図2のエアバッグの前後方向に沿った概略縦断面図である。
図4図2のエアバッグの前後方向に沿った概略横断面図である。
図5】第1実施形態のエアバッグを構成する基布を示す平面図である。
図6】第1実施形態のエアバッグを使用した助手席用エアバッグ装置において、エアバッグの膨張完了状態を示す側面図である。
図7】第1実施形態のエアバッグを使用した助手席用エアバッグ装置において、エアバッグの膨張完了状態を示す前後方向に沿った概略横断面図である。
図8】第1実施形態のエアバッグが膨張完了後に乗員を受け止めた状態を示す前後方向に沿った概略横断面図である。
図9】第1実施形態のエアバッグが膨張完了後に乗員を受け止めた状態を示す側面図である。
図10】第1実施形態のエアバッグにおいて、ベントホールの乗員受止前と乗員受止後との状態を示す概略斜視図である。
図11】本発明の第2実施形態のエアバッグを単体で膨張させた状態の斜視図である。
図12図11のエアバッグの前後方向に沿った概略縦断面図である。
図13図11のエアバッグの前後方向に沿った概略横断面図である。
図14図11のエアバッグの左右方向に沿った概略縦断面図である。
図15】第2実施形態のエアバッグを使用した助手席用エアバッグ装置において、エアバッグの膨張完了状態を示す側面図である。
図16】第2実施形態のエアバッグが膨張完了後に乗員を受け止めた状態を示す前後方向に沿った概略横断面図である。
図17】第2実施形態のエアバッグにおいて、ベントホールの乗員受止前と乗員受止後との状態を示す概略斜視図である。
図18】第2実施形態のエアバッグにおいて、パッチの変形例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。第1実施形態では、図1に示す助手席用エアバッグ装置Mに使用される助手席用エアバッグ(以下、単に「エアバッグ」と省略する)15を例に採り、説明をする。助手席用エアバッグ装置Mは、図1に示すように、車両における助手席の前方において、インストルメントパネル(以下「インパネ」と省略する)1の上面2の内部に配置されるトップマウントタイプとされている。なお、実施形態において、前後・上下・左右の方向は、特に断らない限り、車両Vの前後・上下・左右の方向と一致するものである。
【0015】
助手席用エアバッグ装置Mは、図1に示すように、折り畳まれたエアバッグ15と、エアバッグ15に膨張用ガスを供給するインフレーター8と、エアバッグ15及びインフレーター8を収納保持する収納部位としてのケース12と、エアバッグ15及びインフレーター8をケース12に取り付けるためのリテーナ9と、折り畳まれたエアバッグ15の上方を覆うエアバッグカバー6と、を備えて構成されている。
【0016】
エアバッグカバー6は、合成樹脂製のインパネ1と一体的に形成されて、エアバッグ15の展開膨張時に、前後二枚の扉部6a,6aをエアバッグ15に押されて開かせるように、構成されている。また、エアバッグカバー6における扉部6a,6aの周囲には、ケース12に連結される連結壁部6bが、下方に突出して形成されている。
【0017】
インフレーター8は、図1に示すように、複数のガス吐出口8bを有した略円柱状の本体部8aと、インフレーター8をケース12に取り付けるためのフランジ部8cと、を備えて構成されている。
【0018】
収納部位としてのケース12は、上端側に長方形状の開口を有した板金製の略直方体形状に形成され、インフレーター8を下方から挿入させて取り付ける略長方形板状の底壁部12aと、底壁部12aの外周縁から上方に延びてエアバッグカバー6の連結壁部6bを係止する周壁部12bと、を備えて構成されている。実施形態の場合、エアバッグ15とインフレーター8とは、エアバッグ15内に配置させたリテーナ9の各ボルト9aを取付手段として、エアバッグ15におけるガス流入口20の周縁部位、ケース12の底壁部12a、及び、インフレーター8のフランジ部8cを、貫通させて、ナット10止めすることにより、ケース12の底壁部12aに取り付けられている。また、ケース12の底壁部12aには、車両Vのボディ側に連結される図示しないブラケットが、配設されている。
【0019】
エアバッグ15は、図2〜4に示すように、内部に膨張用ガスを流入させて膨張するバッグ本体16と、バッグ本体16内に配置されてバッグ本体16の膨張完了形状を規制する前後テザー35と、バッグ本体16内に配置されてベントホール25(25L,25R)の形状を規制する規制テザー40(40L,40R)と、を備えて構成されている。
【0020】
バッグ本体16は、実施形態の場合、図1の二点鎖線及び図6に示すように、膨張完了時に、インパネ1の上面2とインパネ1上方のウィンドシールド4との間を塞ぐように配置可能な略袋状として構成されている。具体的には、バッグ本体16は、膨張完了時の形状として、後端側に略上下方向に沿うように配置される乗員側壁部28と、乗員側壁部28から収束するように前方に延びる形状の周壁部17と、を備える構成とされている。実施形態の場合、バッグ本体16は、膨張完了時の形状を、周壁部17の前端側を頂部とした略四角錐形状として、前端側を、収納部位としてのケース12に取り付けられる構成である。
【0021】
周壁部17は、エアバッグ15の膨張完了時に、主に、インパネ1の上面2とインパネ1上方のウィンドシールド4との間を塞ぐように配置される部位であり、上下方向側で対向するとともにそれぞれ略左右方向に沿って配置される上壁部18,下壁部19と、左右方向側で対向するとともにそれぞれ略前後方向に沿って配置される左壁部22,右壁部23と、を備えている。周壁部17において、下壁部19の前端近傍には、内部に膨張用ガスを流入可能なガス流入口20が、インフレーター8の本体部8aを挿入可能に、略円形に開口して形成されている。また、下壁部19におけるガス流入口20の周縁には、リテーナ9のボルト9aを挿通させて、ガス流入口20の周縁をケース12の底壁部12aに取り付けるための複数(実施形態の場合、4個)の取付孔21が、形成されている。
【0022】
周壁部17において、膨張完了時に左右方向側で対向するように配置される左壁部22及び右壁部23には、バッグ本体16内に流入した余剰の膨張用ガスを排気させるためのベントホール25(25L,25R)が、配置されている。ベントホール25(25L,25R)は、外形形状を略同一として、左右対称となる位置に配置されるもので、実施形態の場合、図3に示すように、バッグ本体16を単体で膨張させた状態において、前後方向の中央より後方であって、かつ、上下方向の略中央となる位置に、形成されている。詳細には、ベントホール25は、左右方向側から見た状態で、前後テザー35における後側部位37と重なるような位置に、配置されている。そして、各ベントホール25は、バッグ本体16の膨張完了時において、図6に示すように、開口形状を、車両の前面衝突時において助手席に着座している乗員MPの進入方向(前後方向)に略沿わせるように長軸を配置させた長穴状として、構成されている。詳細には、実施形態の場合、ベントホール25は、前後の全域にわたって開口幅寸法を略一定としたスリット状として、構成されるとともに、バッグ本体16の膨張完了時に、後縁25b側を前縁25a側より僅かに上方に位置させるように、前後方向に対して僅かに後上がりに傾斜して、配置される構成とされている(図6参照)。
【0023】
乗員側壁部28は、助手席に着座した乗員MPを受け止め可能に構成されるもので、バッグ本体16の膨張完了時に、助手席に着座した乗員MPと対向するように、乗員MP側となるバッグ本体16の後端側において略上下方向に沿うように配設される。実施形態の場合、乗員側壁部28は、バッグ本体16の膨張完了時において、左右方向の略中央となる位置に、前方側に凹ませるような凹部29を、上下方向に略沿って配設させた構成とされている(図2〜4参照)。この凹部29は、実施形態の場合、乗員側壁部28の上下の略全域にわたって、配設されている。そして、乗員側壁部28における凹部29の左右両側には、相対的に後方に突出する突出部30L,30Rが、配設されている。すなわち、実施形態のバッグ本体16の乗員側壁部28には、バッグ本体16の膨張完了時に、左右方向の中央で凹む凹部29と、凹部29の左右両側に配置される突出部30L,30Rと、が、上下方向に沿って連続的に配設されている(図3,4参照)。この左右の突出部30L,30Rの隆起した状態と凹部29の凹んだ状態とは、乗員側壁部28の上下の略全域にわたって、略同一として、周壁部17における上壁部18,下壁部19の領域内において、前方にかけて凹凸を収束させるような形状とされている。実施形態のバッグ本体16では、凹部29における凹みの先端29aは、乗員側壁部28を構成する後述する内左パネル53,内右パネル54の内周縁53b,54b相互を縫着(結合)させて形成される縫合部位44から構成され、各突出部30L,30Rにおける突出頂部30aは、後述する外左パネル50,外右パネル51の後縁50d,51dと、内左パネル53,内右パネル54の外周縁53a,54aと、を、それぞれ縫着(結合)させて形成される縫合部位45L,45Rから構成されている(図3,4参照)。
【0024】
バッグ本体16内に配置されて、バッグ本体16の膨張完了形状を規制する前後テザー35は、ガス流入口20付近と乗員側壁部28とを連結するように、配置されている。この前後テザー35は、バッグ本体16の膨張完了時に前後方向に略沿って配置されるもので、実施形態の場合、ガス流入口20の周縁から延びる前側部位36と、乗員側壁部28側から延びる後側部位37と、を連結させるようにして、構成されている。
【0025】
前側部位36は、実施形態の場合、図5に示す前側部位用素材56を折って構成されるもので、ガス流入口20の中心を中心とした左右対称形として、バッグ本体16の膨張完了時における外形形状を、前端側を略左右方向に沿わせ、後端側を略上下方向に沿わせるような略三角錐形状に近似した立体形状とされている(図3,4参照)。実施形態の場合、前側部位36は、図5に示すように、前端側の領域を、バッグ本体16への連結部36aとして、この連結部36aにガス流入口20及び取付孔21に対応する開口(図符号省略)を配置させて、ガス流入口20の周縁部位で、全周にわたって、下壁部19に縫着されている(図2,3参照)。そして、前側部位36において、ガス流入口20から後方に延びる領域が、本体部36bを構成し、この本体部36bの外形形状を、略三角錐形状に近似した立体形状としている(図3,4参照)。本体部36bは、後側部位37の前端37a側に縫着される後端36c側の部位の上下の幅寸法を、後側部位37における前端37a側の部位の上下の幅寸法と、略一致させるように構成されている。
【0026】
後側部位37は、シート状として、実施形態の場合、バッグ本体16における乗員側壁部28を構成する内左パネル53,内右パネル54の内周縁53b,54bから延びて、内左パネル53,内右パネル54と一体的に構成される延設部53c,54cから、構成されている(図3〜5参照)。換言すれば、後側部位37は、二枚重ね状として、それぞれ、内左パネル53,内右パネル54と一体的に構成されている。詳細には、実施形態の場合、後側部位37は、前側部位36に連結される前端37a側を狭幅として、後端37b側にかけて上下に拡開されるような略台形状として、構成されている。
【0027】
この前後テザー35は、バッグ本体16の膨張完了時に、乗員側壁部28の左右の略中央(すなわち、凹部29)のガス流入口20周縁部位からの離隔距離を規制するもので、エアバッグ15の膨張初期に、凹部29の先端29aを構成している部位が、乗員MP側となる後方に大きく突出するのを抑制し、かつ、バッグ本体16の膨張完了時に、乗員側壁部28における凹部29の凹んだ状態を的確に保持するために、配置されている。
【0028】
ベントホール25(25L,25R)の形状を規制する規制テザー40(40L,40R)は、バッグ本体16内において、バッグ本体16の膨張完了時に、略左右方向に沿って配置されている。実施形態の場合、規制テザー40L,40Rは、図4に示すように、各ベントホール25L,25Rに対応して、2個配設されるもので、それぞれ、一端側を、ベントホール25L,25Rの後縁25b近傍に連結させ、他端側を、乗員側壁部28に連結させて、構成されている。詳細に説明すれば、各規制テザー40L,40Rは、左右方向の外方側に位置する外端部40aを、左壁部22若しくは右壁部23におけるベントホール25L,25Rの後側となる位置に、連結させ、左右方向の内方側に位置する内端部40bを、乗員側壁部28における凹部29の先端29a側となる位置に、連結させている。各規制テザー40は、実施形態の場合、バッグ本体16の膨張完了時に、上下方向側から見て、内端部40bを外端部40aより僅かに後方に位置させるように、左右方向に略沿った直線状に配置されるもので、長さ寸法を、バッグ本体16の膨張完了時に、外端部40aと内端部40bとの間に、長手方向(左右方向)に沿ってテンションT1を発生可能な寸法に、設定されている。すなわち、各規制テザー40は、外端部40a,内端部40bの連結部位間を結ぶ方向と直交する方向を幅方向として、帯状に構成されている。また、各規制テザー40は、幅寸法を、ベントホール25における長軸と直交方向の寸法である開口幅寸法より大きく設定されている。実施形態の場合、各規制テザー40は、幅寸法を、ベントホール25長さ寸法より大きく設定されて(図3参照)、外端部40aを左壁部22若しくは右壁部23に縫着させている縫合部位46(46L,46R)を、ベントホール25から上下に大きく延ばすようにして、配設される構成である(図2参照)。すなわち、実施形態の場合、各規制テザー40は、外端部40aを縫着させている縫合部位46を、ベントホール25の後縁25b近傍において上下に広い範囲にわたって、配設させている構成であることから、バッグ本体16の膨張完了時において長手方向に沿ったテンションT1を発揮させている状態では、ベントホール25は、後縁25b側のみならず、上縁25c側と下縁25d側とを含めた広い範囲の外周縁側を、規制テザー40によって、後方に向かって引っ張られるような態様となる(図7参照)。そのため、このテンションT1によって、バッグ本体16の膨張完了時における乗員受止前の状態では、ベントホール25は、上縁25cと下縁25dとを離隔させるような口開きを抑制されて、長軸を前後方向側に略沿わせた長穴状を維持されることとなる(図6,10のA参照)。また、実施形態では、各規制テザー40の内端部40bは、凹部29の先端29aを構成する縫合部位44の形成時に、共縫いされて、凹部29の先端29a側に連結されている(図7参照)。
【0029】
そして、実施形態のバッグ本体16では、乗員側壁部28が、左右の中央を凹ませて構成される凹部29と、凹部29の左右両側で相対的に突出している突出部30L,30Rと、を備える構成であることから、乗員側壁部28によって前進移動する乗員MPを受け止める際に、まず、凹部29よりも後方に突出している突出部30L,30Rが、乗員MPの肩部MSを受け止めることとなり、乗員MPは、突出部30L,30Rによって肩部MSを拘束されつつ、頭部MHを、凹部29に進入させるようにして、乗員側壁部28に拘束されることとなる(図7,8参照)。そして、実施形態のバッグ本体16では、各規制テザー40L,40Rは、内端部40bを凹部29の先端29a側に連結させていることから、図8に示すように、乗員側壁部28が凹部29内に乗員MPの頭部MHを進入させるようにして乗員MPを受け止め、前方に向かって押圧された際には、乗員側壁部28の前方移動に伴って、テンションを発揮させるような張った状態を、解除されることとなる。そして、このように規制テザー40が張った状態を解除されれば、ベントホール25の外周縁の領域の後方側への引張状態も解除されることから、図10のBに示すように、ベントホール25の周縁に乗員MPの進入方向と略直交する方向に張力T2が発生するような態様となり、ベントホール25が、長軸方向側(前縁25a側と後縁25b側と)を接近させて上縁25c側と下縁25d側を離隔させるように、口開きされつつ、大きく開口することとなる。
【0030】
バッグ本体16は、所定形状の基布の周縁相互を結合させて袋状に構成されるもので、実施形態の場合、図5に示すように、主に周壁部17側を構成する2枚の外左パネル50,外右パネル51と、主に乗員側壁部28側を構成する2枚の内左パネル53,内右パネル54と、を備えて構成されている。
【0031】
外左パネル50及び外右パネル51は、周壁部17を左右で2分割するように構成されるもので、図5に示すように、それぞれ、左右対称形とした略扇形状として、構成されている。外左パネル50及び外右パネル51は、それぞれ、ガス流入口20の周縁の部位を構成する突出部50a,51aを、備えている。外左パネル50は、左壁部22と、上壁部18における左前半分程度の領域と、下壁部19における左半分程度の領域と、乗員側壁部28における突出部30Lの突出頂部30aから左側の領域と、を構成している。外右パネル51は、右壁部23と、上壁部18における右前半分程度の領域と、下壁部19における右半分程度の領域と、乗員側壁部28における突出部30Rの突出頂部30aから右側の領域と、を構成している。そして、外左パネル50と外右パネル51とは、上縁50b,51b相互、下縁50c,51c相互を、それぞれ、縫着させることにより、略筒状の周壁部17を、構成している。
【0032】
内左パネル53及び内右パネル54は、乗員側壁部28において、各突出部30L,30Rにおける突出頂部30a間の領域を、構成している。詳細には、内左パネル53及び内右パネル54は、周壁部17における上壁部18の後端側の領域から、乗員側壁部28における各突出部30L,30Rの突出頂部30a間の部位にかけての領域を構成するもので、この領域を、凹部29の先端29aとなる位置で左右に2分割し、それぞれ、凹部29の先端29aから左側の突出部30Lの突出頂部30aまでの領域と、凹部29の先端29aから右側の突出部30Rの突出頂部30aまでの領域と、を構成するように、略半月状の左右一対とされている(図4,5参照)。また、実施形態の場合、内左パネル53,内右パネル54の内周縁53b,54b側には、図5に示すように、前後テザー35の後側部位37を構成する延設部53c,54cが、それぞれ、形成されている。また、内左パネル53,内右パネル54は、平らに展開した状態で、外周縁53a,54aを、それぞれ、外左パネル50,外右パネル51の後縁50d,51dの湾曲形状に略沿わせるように、構成されている。
【0033】
実施形態では、バッグ本体16を構成する外左パネル50,外右パネル51,内左パネル53,内右パネル54、前後テザー35を構成する前側部位用素材56、規制テザー40L,40Rは、それぞれ、ポリエステル糸やポリアミド糸等からなる可撓性を有した織布から形成されている。
【0034】
次に、第1実施形態のエアバッグ15の製造について説明をする。予め、内左パネル53と内右パネル54とを、平らに展開した状態で周縁相互を一致させるように重ね、さらに、各規制テザー40L,40Rを重ねた状態で、内左パネル53,内右パネル54の内周縁53b,54b相互を、各規制テザー40L,40Rの内端部40bとともに、縫合部位44を形成するようにして、縫合糸を用いて縫着させておく。まず、外左パネル50と外右パネル51とを平らに展開した状態で外周縁相互を一致させるように重ね、下縁50c,51c相互を縫合糸を用いて縫着させる。そして、突出部50a,51a相互を重ねるように、外左パネル50と外右パネル51とを開く。その後、突出部50a,51a上に、前後テザー35を構成する前側部位用素材56を重ね、ガス流入口20の周縁となる部位で、縫合糸を用いて縫着させ、その後、孔開け加工により、ガス流入口20と取付孔21とを形成する。次いで、外左パネル50と外右パネル51とを周縁相互を一致させるように重ね、上縁50b,51b相互を縫合糸を用いて縫着させる。その後、外左パネル50と外右パネル51とを、後縁50d,51d相互を離すように開き、外周縁53a,54a相互を離すように広げた内左パネル53,内右パネル54を重ねて、外左パネル50の後縁50dと内左パネル53の外周縁53aとを、縫合部位45Lを形成するように縫合糸を用いて縫着させ、同様に、外右パネル51の後縁51dと内右パネル54の外周縁54aとを、縫合部位45Rを形成するように、縫合糸を用いて縫着させる。次いで、各規制テザー40L,40Rの外端部40aを、外左パネル50,外右パネル51におけるベントホール25L,25Rの後側近傍となる位置に、縫合部位46L,46Rを形成するように、縫合糸を用いて縫着させる。その後、前後テザー35の前側部位36における本体部36bを二つ折りして、折り曲げた状態の後端36c側を、後側部位37の前端37a側(内左パネル53,内右パネル54の延設部53c,54cの前端側に縫着させ、前後テザー35を形成する。その後、外左パネル50,外右パネル51において未縫合部分である前縁50e,51e側の部位の開口を利用して、縁部の縫代が外部に露出しないように、バッグ本体16を反転させる。次いで、外左パネル50,外右パネル51の前縁50e,51eを、それぞれ、二つ折りするようにして重ね、縫合糸を用いて縫着させれば、エアバッグ15を製造することができる。
【0035】
そして、このように製造したエアバッグ15を、リテーナ9を内部に収納させた状態で、ケース12内に収納可能に折り畳み、折り畳んだエアバッグ15の周囲を、折り崩れしないように、破断可能な図示しないラッピングシートによりくるむ。次いで、折り畳んだエアバッグ15を、ケース12の底壁部12aに載置させるように、ケース12内に収納させ、インフレーター8の本体部8aを、底壁部12aの下方からケース12内に挿入させるとともに、底壁部12aから下方に突出している各ボルト9aを、インフレーター8のフランジ部8cに挿通させる。その後、インフレーター8のフランジ部8cから突出した各ボルト9aにナット10を締結させれば、ケース12に、折り畳んだエアバッグ15とインフレーター8とを取り付けることができる。
【0036】
そして、車両に搭載されたインパネ1におけるエアバッグカバー6の連結壁部6bに、ケース12の周壁部12bを係止させ、ケース12の図示しないブラケットを、車両のボディ側に固定させれば、助手席用エアバッグ装置Mを車両に搭載することができる。
【0037】
助手席用エアバッグ装置Mの車両への搭載後、車両の前面衝突時、インフレーター8のガス吐出口8bから膨張用ガスが吐出されれば、エアバッグ15が、内部に膨張用ガスを流入させて膨張し、エアバッグカバー6の扉部6a,6aを押し開かせることとなる。そして、エアバッグ15は、エアバッグカバー6の扉部6a,6aを押し開いて形成される開口を経て、ケース12から上方に突出するとともに、車両後方側に向かって突出しつつ展開膨張して、図1の二点鎖線及び図6,7に示すように、膨張を完了させることとなる。
【0038】
そして、第1実施形態のエアバッグ15では、左壁部22及び右壁部23に形成されるベントホール25L,25Rが、図6に示すように、開口形状を、乗員MPの進入方向に略沿わせるように長軸を配置させた長穴状として、構成され、このベントホール25L,25Rは、乗員側壁部28による乗員MPの受止時に、規制テザー40L,40Rにより、周縁に乗員MPの進入方向と略直交する方向に張力T2を作用させることとなって、変形することとなる。すなわち、第1実施形態のエアバッグ15では、乗員側壁部28によって乗員MPを受け止めた際に、乗員MPの前進移動に伴って、ベントホール25L,25Rは、図9及び図10のBに示すように、乗員MPの進入方向と略直交する上下方向側に延びるように変形することとなり、換言すれば、ベントホール25L,25Rは、乗員MPの進入方向に沿って配置される長軸方向側(前縁25a側と後縁25b側と)を接近させて、乗員MPの進入方向と略直交する方向側に広がることから、真円形に近似した形状に、変形することとなる。また、第1実施形態のエアバッグ15では、規制テザー40L,40Rは、乗員側壁部28による乗員MPの受止時に、ベントホール25L,25Rの周縁に乗員MPの進入方向と略直交する方向に張力T2を発揮させる位置に、配置されていることから、換言すれば、乗員受止前の状態では、ベントホール25L,25Rの周縁にこのような張力は発揮されず、ベントホール25L,25Rは、長穴状として、大きく開口することを抑制された状態を維持されることとなる。すなわち、第1実施形態のエアバッグ15では、乗員受止前の状態では、ベントホール25L,25Rから多量の膨張用ガスが排気されることを抑制でき、乗員受止時には、略真円形として大きく開口したベントホール25L,25Rから、多量の膨張用ガスGを排気させることができる。そのため、第1実施形態のエアバッグ15は、膨張用ガスの排気を抑制されて膨張を完了させた状態から、多量の膨張用ガスGを排気させつつ、乗員MPを受け止めることができることから、乗員MPを、乗員側壁部28によって、ソフトに受け止めることができて、乗員MPを円滑に保護することができる。
【0039】
したがって、第1実施形態のエアバッグ15では、乗員受止時に、ベントホール25L,25Rを確実に大きく開口させることができて、良好な膨張用ガス排気性能を確保することができ、乗員MPを的確に保護することができる。
【0040】
また、第1実施形態のエアバッグ15では、規制テザー40L,40Rが、各ベントホール25L,25Rに対応して、それぞれ、配置されるとともに、外端部40aをベントホール25L,25Rの後縁25b近傍に連結させ、内端部40bを乗員側壁部28に連結させて、構成されている。すなわち、第1実施形態のエアバッグ15では、規制テザー40L,40Rは、エアバッグ15の膨張完了時に、ベントホール25L,25Rの後縁25b近傍と乗員側壁部28とを結ぶように直線的に配置されて、このベントホール25L,25Rの後縁25b近傍に連結される部位(外端部40a)と、乗員側壁部28に連結される部位(内端部40b)と、の間に張力(テンション)T1を発生させることとなる(図7参照)。そして、乗員受止前の状態では、この張力T1が、図10のAに示すように、ベントホール25L,25Rの周縁において、ベントホール25L,25Rの長軸に略沿う方向(前後方向)に作用することとなり、ベントホール25L,25Rは、変形を抑制されて長穴状を維持されることとなる。そして、乗員側壁部28による乗員MPの受止時には、乗員MPが乗員側壁部28と接触し、乗員側壁部28を前方に向かって押圧すれば、図8に示すように、この規制テザー40L,40Rの張った状態が解除されることから、ベントホール25L,25Rの周縁には、乗員側壁部28の前方移動に伴って、乗員MPの進入方向と略直交する方向に張力T2が発揮されることとなって、ベントホール25L,25Rの長軸(乗員MPの進入方向)に沿う方向に作用する張力T1より進入方向と略直交する方向に作用する張力T2がベントホール25L,25Rに作用し易くなり、ベントホール25L,25Rが、前縁25aと後縁25bとを接近させ、上縁25cと下縁25dとを離隔させつつ、大きく開口するように、変形することとなる(図9及び図10のB参照)。そのため、第1実施形態のエアバッグ15では、規制テザー40L,40Rによって、乗員受止前のベントホール25L,25Rの長穴形状を的確に維持することも可能となり、乗員受止前の膨張用ガスの排気を、一層的確に抑制することができる。
【0041】
次に、第2実施形態のエアバッグ60について、説明をする。第2実施形態のエアバッグ60も、前述の第1実施形態のエアバッグ15と同様に、トップマウントタイプの助手席用エアバッグ装置に使用されるもので、図11〜14に示すように、内部に膨張用ガスを流入させて膨張するバッグ本体16Aと、バッグ本体16A内に配置されてバッグ本体16Aの膨張完了形状を規制する前後テザー35A及び左右テザー62,64と、ベントホール25A(25AL,25AR)を覆うように配置されるパッチ68(68L,68R)と、を備える構成とされている。第2実施形態のエアバッグ60において、バッグ本体16Aと前後テザー35Aとは、前述のエアバッグ15におけるバッグ本体16及び前後テザー35と同一の構成であることから、同一の図符号の末尾に「A」を付して、詳細な説明を省略する。
【0042】
バッグ本体16A内に配置されて、バッグ本体16Aの膨張完了形状を規制する左右テザー62,64は、実施形態の場合、図12,14に示すように、前後テザーの上方となる領域と下方となる領域との2箇所に、配置されている。各左右テザー62,64は、それぞれ、バッグ本体16Aの膨張完了時において、左壁部22と右壁部23とを連結するように、左右方向に略沿って配置されている。詳細には、実施形態では、左右テザー62,64は、ベントホール25AL,25ARを間に挟むように、ベントホール25AL,25ARの上下の領域に配置されている。具体的には、ベントホール25AL,25AR(前後テザー35A)の上側に配置される左右テザー62は、幅方向を前後方向に略沿わせるように配置される帯状として、バッグ本体16Aの膨張完了時に、長手方向を水平方向に略沿わせるように、配置されている。詳細には、左右テザー62は、バッグ本体16Aの膨張完了時に、後縁側を前縁側より上方に位置させるように、前後方向に対して後上がりに傾斜して配置されている。また、ベントホール25AL,25AR(前後テザー35A)の下側に配置される左右テザー64は、幅方向を上下方向に略沿わせるように配置される帯状として、バッグ本体16Aの膨張完了時に、長手方向を水平方向に略沿わせるように、配置されている。この左右テザー64は、図12に示すように、バッグ本体16Aの膨張完了時に、左右方向側から見て左右テザー62と略直交するように、下縁側を上縁側より後方に位置させるように上下方向に対して傾斜して配置されている。実施形態の場合、各左右テザー62,64は、ともに、図14に示すように、左右方向側で並設される2枚のテザー用基布63L,63R,65L,65Rの縁部相互を、それぞれ、結合させて、構成されている。
【0043】
これらの左右テザー62,64は、左端62a,64aを左壁部22に連結させ、右端62b,64bを右壁部23に連結させることにより、バッグ本体16の膨張完了時に、左壁部22と右壁部23との離隔距離を規制している。また、これらの左右テザー62,64をバッグ本体16A内に配置させることにより、バッグ本体16Aの膨張完了時における乗員受止時において、乗員側壁部28Aが前方に押圧されるように変形することとなっても、ベントホール25Aの配設されている左壁部22Aと右壁部23Aとは、左右テザー62,64により離隔距離を規制されていることから、相互に離隔するように変形することを抑制できる。そしてこのとき、上壁部18Aと下壁部19Aとが、図14の二点鎖線に示すように、相互に離隔するように膨らむこととなり、左壁部22A及び右壁部23Aは、この膨らむ上壁部18Aや下壁部19Aに引っ張られて、上下方向側に伸びるように、変形することとなる。すなわち、実施形態のエアバッグ60では、左右テザー62,64によって、乗員側壁部28Aによる乗員MPの受止時に、ベントホール25Aの周縁に、乗員MPの進入方向と略直交する方向(上下方向)に張力T3が、発揮されることとなる(図17のB参照)。
【0044】
ベントホール25A(25AL,25AR)を覆うパッチ68(68L,68R)は、可撓性を有したシート体から構成されるもので、実施形態の場合、バッグ本体16Aと同様に、ポリエステル糸やポリアミド糸等からなる可撓性を有した織布から形成されている。各パッチ68は、実施形態の場合、ベントホール25Aの開口領域を全域にわたって覆い可能な略長方形状として構成されている。具体的には、各パッチ68は、長手方向をベントホール25Aの長軸方向(前後方向)に略沿わせた略長方形状とされるもので、長手方向側の幅寸法と短手方向側との幅寸法とを、ともに、ベントホール25Aの開口幅寸法及び長さ寸法より大きく設定されて、ベントホール25Aを全面にわたって覆い可能に、構成されている(図17のA参照)。実施形態の場合、各パッチ68は、バッグ本体16Aの外表面側において、ベントホール25A全体を覆うように配置されるもので、ベントホール25Aの長軸方向に沿った方向側の両縁側のみ、すなわち、前縁68aと後縁68bのみを、左壁部22A若しくは右壁部23Aにおけるベントホール25Aの前縁25a側と後縁25b側となる部位に、縫合糸を用いて縫着(結合)されている(図13,15参照)。
【0045】
この第2実施形態のエアバッグ60も、前述のエアバッグ15と同様に製造して、車両に搭載することができる。
【0046】
そして、この第2実施形態のエアバッグ60においても、図15及び図17のAに示すように、ベントホール25Aが、開口形状を、乗員MPの進入方向に略沿わせるように長軸を配置させた長穴状として、構成され、このベントホール25Aは、乗員側壁部28Aによる乗員MPの受止時に、左右テザー62,64により、周縁に、乗員MPの進入方向と略直交する方向に張力T3が作用することとなって、変形することとなる(図17のB参照)。すなわち、第2実施形態のエアバッグ60においても、乗員側壁部28Aによって乗員MPを受け止めた際に、乗員MPの前進移動に伴って、ベントホール25Aは、乗員MPの進入方向と略直交する上下方向側に延びるように変形することとなり、換言すれば、ベントホール25Aは、乗員MPの進入方向に沿って配置される長軸方向側を接近させて、乗員MPの進入方向と略直交する方向側に広がることから、真円形に近似した形状に、変形することとなる。また、第2実施形態のエアバッグ60においても、左右テザー62,64が、乗員側壁部28Aによる乗員MPの受止時に、ベントホール25Aの周縁に乗員MPの進入方向と略直交する方向に張力T3を発揮させる位置に、配置されていることから、換言すれば、乗員受止前の状態では、ベントホール25Aの周縁にこのような張力は発揮されず、ベントホール25Aは、長穴状として、大きく開口することを抑制された状態を維持されることとなる。すなわち、第2実施形態のエアバッグ60においても、乗員受止前の状態では、ベントホール25Aから多量の膨張用ガスが排気されることを抑制でき、乗員受止時には、略真円形として大きく開口したベントホール25Aから、多量の膨張用ガスGを排気させることができる(図17参照)。そのため、第2実施形態のエアバッグ60は、膨張用ガスの排気を抑制されて膨張を完了させた状態から、多量の膨張用ガスGを排気させつつ、乗員MPを受け止めることができることから、乗員MPを、乗員側壁部28Aによって、ソフトに受け止めることができて、乗員MPを円滑に保護することができる。
【0047】
したがって、第2実施形態のエアバッグ60においても、乗員受止時に、ベントホール25Aを確実に大きく開口させることができて、良好な膨張用ガス排気性能を確保することができ、乗員MPを的確に保護することができる。
【0048】
この第2実施形態のエアバッグ60では、左右テザー62,64が、エアバッグ60の膨張完了時に、左壁部22Aと右壁部23Aとの離隔距離を規制するように、左壁部22Aと右壁部23Aとを連結して、配置される構成である。そのため、バッグ本体16Aの膨張完了時における乗員受止時において、乗員側壁部28Aが前方に押圧されるように変形することとなっても、ベントホール25Aの配設されている左壁部22Aと右壁部23Aとは、左右テザー62,64により離隔距離を規制されていることから、相互に離隔するように変形することを抑制できる。そして、周壁部17Aにおいて膨張完了時に上下方向側で対向するように配置される上壁部18Aと下壁部19Aとが、図14の二点鎖線に示すように、膨らもうとすることとなり、左壁部22A及び右壁部23Aは、この膨らもうとする上壁部18Aや下壁部19Aに引っ張られて、上下方向側に伸びるように、変形することとなる。そのため、このような左壁部22A及び右壁部23Aの変形による張力T3を、ベントホール25Aの周縁に作用させることができて、ベントホール25Aを、前縁25aと後縁25bとを接近させ、上縁25cと下縁25dとを離隔させつつ大きく開口するように、円滑に変形させることができ、乗員受止時に、変形したベントホール25Aから多量の膨張用ガスGを排気させることができる。特に、第2実施形態のエアバッグ60では、2つの左右テザー62,64を、ベントホール25Aを挟むように、ベントホール25Aの上下に配置させている構成であることから、乗員受止時に、左壁部22Aおよび右壁部23Aにおけるベントホール25A周縁の領域が、相互に離隔するように変形することを、確実に抑制することができる。なお、このような左右テザーは、2箇所に配置させなくともよく、1箇所のみに配置させる構成としてもよいが、ベントホールの近傍に配置させることが、好ましい。
【0049】
また、第2実施形態のエアバッグ60では、バッグ本体16Aの膨張完了時に、ベントホール25Aを覆う構成とされるとともに、ベントホール25Aの長軸方向に沿った方向側の両縁側のみを、周壁部17A(左壁部22A,右壁部23A)に結合されるパッチ68が、配設されている。すなわち、第2実施形態のエアバッグ60では、ベントホール25Aは、パッチ68によって覆われることにより、乗員受止前の膨張用ガスの排気を抑制することができ、また、このパッチ68は、ベントホール25Aの長軸方向に沿った方向側の両縁側のみ(前縁68aと後縁68b)を、左壁部22A,右壁部23Aに結合されていることから、エアバッグ60(バッグ本体16A)による乗員受止時には、前縁25aと後縁25bとを接近させ、上縁25cと下縁25dとを離隔させるようなベントホール25Aの変形を妨げず、この前縁25aと後縁25bとを接近させるようなベントホール25Aの変形に伴って、図16及び図17のBに示すように、中間部位68cをたるませるような態様となり、変形したベントホール25Aから多量の膨張用ガスGを排気させることができる。特に、第2実施形態のエアバッグ60では、パッチ68が、ベントホール25Aの開口領域を全域にわたって覆っていることから、乗員受止前のベントホール25Aからの膨張用ガスの排気を的確に抑制することができる。なお、この第2実施形態のエアバッグ60では、パッチ68は、ベントホール25Aの開口領域を全域にわたって覆う構成であるが、図18に示すパッチ68Bのように、幅寸法を、ベントホール25Bの開口幅寸法より狭幅とした帯状として、ベントホール25Bの一部のみを覆う構成のものを使用してもよい。さらに、このような点を考慮しなければ、ベントホールを覆うパッチを配設させない構成としてもよい。なお、第1実施形態のエアバッグ15では、ベントホール25にパッチを配置させていないが、第1実施形態のエアバッグのベントホールの外周側にも、パッチを配置させる構成としてもよい。また、実施形態では、パッチ68,68Bは、バッグ本体16A,16Bの外周面側に配置されているが、パッチは、バッグ本体の内周面側に配置させる構成としてもよい。しかしながら、パッチをバッグ本体の内周面側に配置させる構成とする場合、乗員受止時におけるベントホールの変形時に、パッチは、中間部位を、ベントホールを挿通させて、外部に突出させるようにたるむことから、ベントホールの変形時に、ベントホールを円滑に大きく開口させる点からは、実施形態のごとく、パッチをバッグ本体の外周面側に配置させる構成とすることが、好ましい。
【0050】
なお、実施形態のエアバッグ15,60では、ベントホール25,25Aの外形形状を、前後の略全域にわたって一定の開口幅寸法を有するスリット状としているが、ベントホールの外形形状は、これに限られるものではなく、単に周壁部に切れ目を形成した構成や、楕円形状としてもよい。また、実施形態のエアバッグ15,60では、乗員側壁部28,28Aが、凹部29,29Aと、凹部29A,29Aの左右両側で突出する突出部30L,30R,30AL,30ARと、を備える構成であるが、本発明を適用可能なエアバッグは、これに限られるものではなく、乗員側壁部を平面状としたエアバッグに、本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…インストルメントパネル(インパネ)、6…エアバッグカバー、8…インフレーター、12…ケース(収納部位)、15,60…エアバッグ(助手席用エアバッグ)、16,16A…バッグ本体、17,17A…周壁部、22,22A…左壁部、23,23A…右壁部、25(25L,25R),25A(25AL,25AR),25B…ベントホール、28,28A…乗員側壁部、40(40L,40R)…規制テザー、62,64…左右テザー、68(68L,68R),68B…パッチ、G…膨張用ガス、MP…乗員、M…助手席用エアバッグ装置。
図1
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