【実施例】
【0064】
図1及び
図2を用いて、本発明の一実施形態に係る浴槽用手摺り1の主な構成を説明する。
図1には、本実施形態に係る浴槽用手摺り1の全体概要が示されており、
図2には、
図1に示された浴槽用手摺り1を主な部品に分解した態様が示されている。
【0065】
図1,2に示されているように、本実施形態の浴槽用手摺り1は、主として、上部グリップ60と脚部5が取り付けられており側面視において下向きに略L字型の固定フレーム2と、側部グリップ61が取り付けられており側面視において下向きに略コの字型の可動フレーム3と、可動フレーム3を固定フレーム2に対して近接又は離間させるための移動装置4とから構成されている。
【0066】
固定フレーム2は、浴槽側壁の上面に対向するように配置される水平部22と、水平部22に連結しており且つ浴槽側壁の側面に対向するように配置される垂直部20とから構成されており、浴槽側壁の側面と上面に当接するように直接載置される。
【0067】
可動フレーム3は、浴槽側壁の側面に対向するように配置される引込み部30と、引込み部30に対向するように配置される引込み操作部31と、引込み部30と引込み操作部31とを連結する連結部32とから構成されており、固定フレーム2に対して移動可能に取り付けられる。
【0068】
移動装置4は、固定フレーム2の垂直部20と可動フレーム3の引込み部30とへ連結されており、可動フレーム3を固定フレーム2に対して進退可能に移動させる。
【0069】
図11には、本実施形態の浴槽用手摺り1を浴槽側壁10へ仮装着した状態(a)および本装着した状態(b)が示されている。また、
図12には、
図11に示された本実施形態の浴槽用手摺り1の比較例として、浴槽側壁10を洗い場側から押圧するタイプの従来型の浴槽用手摺り1xを浴槽側壁へ仮装着した状態(a)および本装着した状態(b)が示されている。
【0070】
上述したように、本実施形態の浴槽用手摺り1では、固定フレーム2は浴槽側壁の上面に直接載置され、可動フレーム3は固定フレーム2の上で進退するのみである。このため、手摺り本体6(特に上部グリップ60)は、浴槽側壁の上面及び外壁面と当接させてその位置において固定される固定フレーム2に設けられており、引き圧部33は、固定フレーム2に連結された可動フレーム3の浴槽側に配置されているので、固定フレーム2は、可動フレーム3及び引き圧部33を前進及び後退させても浴層側壁に対して不動である。そのため、本実施形態の浴槽用手摺り1は、
図11(a)(b)に示されているように、可動フレーム3及び引き圧部33を浴槽側壁10へ引き込んでも固定フレーム2と浴槽側壁10の上面との間に位置ズレや応力(摩擦力)を生じることがなく(例えば、手摺り4の中心と浴槽側壁10の中心との距離L
0は不変で一定)、極めて安定した状態で取り付けることができる。
【0071】
図3には、本実施形態に係る浴槽用手摺り1の側面図が示されており、
図4には、本実施形態に係る浴槽用手摺り1をボルト軸40に沿って切り取った断面図が示されている。
【0072】
図3,4を参照して理解されるように、本実施形態の浴槽用手摺り1では、浴槽側壁のクランプは、移動装置4により、可動フレーム3の引込み部30及び引き圧部33を固定フレーム2に対して引き込むことにより行われる。このため、移動装置4は、浴槽側壁をクランプする時は、可動フレーム3の引込み操作部31を固定フレーム2の垂直部20に対して離間させることにより、可動フレーム3の連結部32を介して引込み部30の引き圧部33を垂直部20の当接部21へ近接させるように機能し、そして浴槽側壁のクランプを解放する時は、引込み操作部31を垂直部20に対して近接させることにより、連結部32を介して引込み部30の引き圧部33を垂直部20の当接部21から離間させるように機能する。
【0073】
このため、本実施形態では、可動フレーム3を引き込むための移動装置4は、引込み操作部31を介して浴槽側壁の側面に配置することが可能となり、浴槽側壁の上面に配置される水平部22や連結部32に設ける必要がなくなるので、特許文献5に記載されているような可動フレームを固定フレーム側へ引き込むタイプの浴槽用手摺りであるにも関わらず、浴槽側壁の上面に配置される水平部22や連結部32の構造を単純化することができ、水平部22や連結部32の厚みを極めて薄くすることができる。その結果、本実施形態の浴槽用手摺り1は、浴槽側壁へ取り付けた場合においても、可動フレーム3や固定フレーム2が浴槽側壁と蓋との間に浴温が低下させるような隙間等を生じさせることがなく、高い密閉性を有する該蓋の浴槽への取り付けを可能にする。
【0074】
図5には、
図2に示される可動フレーム3のうち、引込み操作部31を有する側の第1の可動フレーム3xの分解図が示されており、そして
図6には、引込み部30を有する側の第2の可動フレーム3yの分解図が示されている。
【0075】
本実施形態では、可動フレーム3は、引込み部30と引込み操作部31との間の離間距離を調節できるように、下向きに略L字型の第1の可動フレーム3x(
図5)と、第1の可動フレーム3xとは分離独立している、下向きに略L字型の第2の可動フレーム3y(
図6)とから構成されており、第1の可動フレーム3xと第2の可動フレーム3yとはそれぞれの連結部32x,32yを介して連結されている。また、図示しないが、引込み部30と引込み操作部31との間の離間距離の調節可能化は、例えば連結部32に対して引込み部30及び/又は引込み操作部31を分離独立した部品として構成し、連結部32に対して取り付け位置を変更できるようにすることによっても達成することができる。
【0076】
引込み部30と引込み操作部31との間の離間距離を調節可能にしておくと、引込み部30と引込み操作部31との離間距離を予め浴槽側壁の厚みに合わせておくことにより、可動フレーム3を、浴槽側壁をクランプするのに必要にして最小の幅寸法としておくことができる。そのため、移動装置4によるクランプ操作を少なくし取付け時間を短縮することができると共に、取り付けた後の可動フレーム3の浴槽側壁からのはみ出し部分も最小限に抑えることができるようになる。
【0077】
図示しないが、本実施形態の浴槽用手摺り1のように、連結部32が水平部22の上側に配置されている場合、可動フレーム3は固定フレーム2に対して水平方向の連結角度を変えられるように首振り可能に取り付けてもよい。可動フレーム3を固定フレーム2に対して首振り可能に取り付けると、可動フレーム3及び固定フレーム2のクランプ部分が湾曲して厚みが一定でない浴槽側壁に対してスムーズに追従し、浴槽用手摺り本体を浴槽側壁に強固に取り付けることができるようになる。
【0078】
また、可動フレーム3自体を首振り可能に取り付けると、同じ湾曲して厚みが一定でない浴槽側壁に対しても、引き圧部33が分担すべき首振り角度が小さくなるので、固定フレーム2や可動フレーム3の大きさ又は浴槽用手摺り本体の大きさをコンパクトにできる。
【0079】
本実施形態では、
図5に示されているように第1の可動フレーム3xは片状体であって、略垂直に配置される引込み操作部31と、引込み操作部31と連結し且つ略水平に配置される第1の連結部32xを含んでいる。引込み操作部31には、移動装置4を取り付けるための円形の開口310が設けられており、第1の連結部32xには、第2の可動フレーム3yの第2の連結部32yをスライド可能に取り付けるための2つのネジ穴320とスリット状の長穴321とが設けられている。また、スリット状の長穴321は、固定フレーム2の水平部22のネジ穴221(
図2)に取り付けられたネジと係合することにより、可動フレーム3を固定フレーム2に対しスライド可能に取り付ける役割も果たしている。
【0080】
図6に示されているように、第2の可動フレーム3yも片状体であって、略垂直に配置される引込み部30と、引込み部30と連結し且つ略水平に配置される第2の連結部32yを含んでいる。引込み部30の外側には側部グリップ61がネジ止めされており、引込み部30の内側には2つの引き圧部23が首振り可能に取り付けられている。また、第2の連結部32yには、第1の連結部32xのネジ穴320と整列させて、ネジによりネジ止めするための2つの平行に並んだ係止溝付きスリット322と、さらに第1の連結部32xの長穴321、及び固定フレーム2の水平部22に設けられたネジ穴221(
図2)と整列させて、可動フレーム3を固定フレーム2に対して任意の位置でネジ止め可能にする切込み323とが設けられている。
【0081】
第2の連結部32yの係止溝付きスリット322のそれぞれには、スリットから横方向へ突出した3つの係止溝324が形成されている。このため、第1の連結部32xのネジ穴320に固定されたネジ(図示せず)の胴部が係止溝324以外のスリットの中に配置されている時は、第2の可動フレーム3yの第2の連結部32yは、第1の可動フレーム3xの第1の連結部32xに対して円滑にスライド移動させることができる。一方、第1の連結部32xのネジ穴320に固定されたネジの胴部が係止溝324の中に係止されている時は、第2の可動フレーム3yの第2の連結部32yは、第1の可動フレーム3xの第1の連結部32xに対してスライドさせることができず、ネジを締めることにより強固に固定される。
【0082】
上述したように、第1の可動フレーム3xと第2の可動フレーム3yは、第1の連結部32xのネジ穴320を第2の連結部32yの係止溝324とを整合させてネジ止めすることにより相互に固定される。さらに、第1の可動フレーム3xと第2の可動フレーム3yは、第1の連結部32xの長穴321と第2の連結部32yの切込み323を固定フレーム2の水平部22のネジ穴221(
図2)に取り付けたネジと係合させることができるので、可動フレーム3を固定フレーム2に対しスライド可能に取り付けることが可能になると共に、3箇所でネジ止め(3点支持)することができるので(
図1参照)、第2の可動フレーム3yが第1の可動フレーム3xに対して水平方向へ回転してしまうのを強力に防止することができる。
【0083】
図7には、固定フレーム2の当接部21を、当接基部210、ブロック211及び弾性ラバー214へ分解した状態が示されており、
図8には、固定フレーム2の当接基部210、サブブロック212a〜212c、213a〜213c及び弾性ラバー214a〜214cを2つの異なる態様の当接部21、21aへ組み立てた状態が示されている。
【0084】
なお、本実施形態の当接部21では、滑り止めによるグリップ力の向上や浴槽側壁の損傷防止を目的として、当接基部210の表面及びブロック211の表面に弾性ラバー214(214a〜214c)が着脱可能に取り付けられている。また、弾性ラバー214は、弾性ラバー214の裏面に設けられた円形の凸部220をブロック211及び当接基部210の表面に設けられた円形の凹部230へ嵌め込むことにより着脱自在に取り付けられる。
【0085】
例えば、
図8(b)を参照して理解されるように、本実施形態の浴槽用手摺り1では、固定フレーム2の当接部21aは、その上部領域及び下部領域の厚みを残りの中間領域の厚みよりも厚肉化又は薄肉化できるようになっている。
【0086】
当接部21、21aの一部領域の厚みの厚肉化又は薄肉化は、当接部21、21aを固定フレーム2に設けられた当接基部210と、当接基部210へ着脱可能であり、そして所定の厚みを有し且つ当接基部210の当接面より小さな面積を有するサブブロック212a〜212c、213a〜213cとから構成することにより達成される(
図8参照)。すなわち、本実施形態では、ブロック211a〜211c及び/又はサブブロック212a〜212c、213a〜213cを当接基部210の上部領域及び下部領域へ装着することにより、例えば
図8(b)に示されるように、当接部21aの一部領域の厚みを残りの中間領域の厚みよりも厚肉化又は薄肉化することができる。
【0087】
また、本実施形態では、ブロック211を、当接基部210の当接面全体を上下方向に分割するように複数のブロック211a(212a、213a)、211b(212b、213b)、211c(212c、213c)から構成しているので、当接基部210の当接面より小さな面積を有する複数のブロック211a(212a、213a)、211b(212b、213b)、211c(212c、213c)のうち、例えば
図8(a)に示されるように、全部のブロック211a〜211cを一様に装着する(又は取り外す)ことにより当接部21の全部領域の厚みを変更することができれば、例えば
図8(b)に示されるように、中間のブロック211b(212b、213b)を取り外すことにより、当接部21aの上部領域の厚み(ブロック211aの部分)と下部領域の厚み(ブロック211cの部分)を中間領域の厚み(当接基部210が露出している部分)よりも厚肉化することもできる。また、図示しないが、上部のブロック211a(212a及び/又は213a)及び下部のブロック211c(212c及び/又は213c)を取り外すことにより、当接部21aの中間領域の厚みを上部領域及び下部領域の厚みよりも厚肉化することもできる。
【0088】
図7を参照してよく理解されているように、本実施形態の当接部21のブロック211は上下方向において異なる幅を有している3つのブロック211a(212a、213a)、211b(212b、213b)、211c(212c、213c)へ分割されている。このため、本実施形態の浴槽用手摺り1は、
図9及び
図10に示されているように浴槽側壁9a及び9bが上下方向に幅(高さ)の異なる様々な形状の段差を有している場合においても、当接部21を段差部分に局部的に当接させることもできれば(
図9(a)〜(c)参照)、段差形状に追従させて外壁全体に当接させることもできる(
図10(a)〜(c)参照)。
【0089】
このように、本実施形態の浴槽用手摺り1では、当接部21のブロック211a、211b、211cを、同一又は異なる大きさ、厚みを有する他のブロック212a〜212c、213a〜213cと入れ換えたり、或いは既に装着済みのブロック211の上へ、さらに同一又は異なる大きさ、厚みを有する他のブロック212a〜212c、213a〜213cを取り付けることで、当接部21の全部領域の厚みを変更したり(
図8(a))、又は当接部21aの上部領域及び下部領域の厚みを残りの中間領域の厚みよりも厚肉化又は薄肉化することができる(
図8(b))。また、本実施形態では、予めブロック211a〜211c及び/又はサブブロック212a〜212c、213a〜213cを当接基部210の上部領域又は下部領域へ固定又は一体成形することにより、当接部21の一部領域の厚みが残部領域の厚みよりも予め厚肉化又は薄肉化されている浴槽用手摺りを準備してもよい。
【0090】
本実施形態では、ブロック211a、211b、211cは、それぞれが着脱可能に積層された同一又は異なる大きさ、厚みを有するサブブロック212a〜212c、213a〜213cから構成されている。このため、本実施形態では、サブブロック212a〜212c、213a〜213cの積層数や積層するサブブロック212a〜212c、213a〜213cの組み合わせを変えることにより、当接部21の全部領域又は一部領域を様々な厚みに変更することができる。その結果、本実施形態の浴槽用手摺り1は、
図9及び
図10に示されているように浴槽側壁9a及び9bが様々な凹凸の段差を有している場合においても、当接部21を段差の凹凸に合わせて局部的に当接させることもできれば(
図9(a)〜(c)参照)、段差の凹凸に追従させて外壁全体に当接させることもできる(
図10(a)〜(c)参照)。なお、サブブロックを212a〜212cのサブブロックようにより薄い板状の部品として構成すると、当接部21の厚みをより細かく調節できるようになる。
【0091】
本実施形態では、ブロック211(211a〜211c及び212a〜212c、213a〜213c)と固定フレーム2の当接基部210との連結、ブロック211(211a〜211c及び212a〜212c、213a〜213c)と他のブロック211(211a〜211c及び212a〜212c、213a〜213c)との連結は、当接基部210及び/又はブロック211の表面に円形の凸部240を設け、図示しないが、ブロック211の裏面には凸部240と嵌合する凹部を設け、そしてブロック211の凹部を当接基部210又は他のブロック211の凸部240へ嵌め込むことにより達成される。なお、凹部は、凸部240を略完全に収容する開口部だけでなく、例えば複数の短い突起物により凸部240を周囲から部分的に囲むような構造を有するものであってもよい。
【0092】
本実施形態では、当接基部210及び/又はブロック211の表面に設けられる凸部240及びブロック211の裏面に設けられる凹部は複数個配置されている。また、図示しないが、凸部240及び凹部は、前述の構成とは逆に凹部を当接基部210及び/又はブロック211の表面に設け、凸部240をブロック211の裏面に設けてもよい。なお、本実施形態では、各ブロック211にはビス止めするための孔又は長穴250が形成されており、各ブロック211は、位置ズレや脱落を完全に防止する目的で、ネジ260を用いて当接基部210のネジ孔270へビス止めされる。このため、各ブロック211に設けられた孔又は長穴250は、ネジ260の胴部を通過させるが頭部は通過させないように、下向き凸形の断面を有する2段幅の開口部を形成している。
【0093】
このように、本実施形態では、ブロック211と当接基部210との連結およびブロック211と他のブロック211との連結は、嵌合方向と直交する方向には物理的に移動できない円形の凸部240と凹部による嵌合構造を利用しているので、例えば手摺り本体6へ傾転させるような横方向の力が加えられても、ブロック211と当接基部210との間でおよびブロック211と他のブロック211との間では位置ズレを生じることがない。
【0094】
図9には、本実施形態の浴槽用手摺り1を、内壁は強度を有するが、リム部90a以外のエプロン91aは強度を有さない3つの異なる形状の浴槽側壁9aへ取り付けた状態が示されている。
図9(a)の浴槽側壁9aは、リム部90aがエプロン91aよりも奥まっており、
図9(b)の浴槽側壁9aはリム部90aがエプロン91aと略面一であり、そして、
図9(c)の浴槽側壁9aはリム部90aがエプロン91aよりも出張っている形状を有している。また、
図10には、本実施形態の浴槽用手摺り1を、内壁も外壁も強度を有する3つの異なる形状の浴槽側壁9bへ取り付けた状態が示されている。
図10(a)の浴槽側壁9bは、リム部90bがリム部90b以外の外壁91bよりも奥まっており、
図10(b)の浴槽側壁9bはリム部90bがリム部90b以外の外壁91bと略面一であり、そして、
図10(c)の浴槽側壁9bはリム部90bがリム部90b以外の外壁91bよりも出張っている形状を有している。
【0095】
図9、10に示されているように、本実施形態の浴槽用手摺り1は、浴槽の外壁と当接する固定フレーム2の当接部21がその一部領域の厚みを残部領域の厚みよりも厚肉化又は薄肉化できるので、原則として浴槽の形状や形式を選ばず、浴槽の内壁も外壁も強度を有する部材から製作されている浴槽(
図10)であっても、浴槽の内壁は強度を有するがリム部90a以外の外壁は強度を有さない浴槽(
図9)であっても取り付けることができる。
【0096】
具体的には、
図10(a)〜(c)に示されているように、浴槽の外壁が、リム部90b付近に段差がある場合を含み且つ強度を有する外壁の場合、本実施形態の浴槽用手摺り1は、壁面形状に追従するように当接部21の一部の厚みを調整することにより当接部21の押付け力(反力)を、引き圧部33の押付け力と略鏡面対称の位置で対向するように当接面全体へ分散させることができる。このため、本実施形態の浴槽用手摺り1は、浴槽用手摺り1に回転モーメントを生じさせることなく浴槽側壁9bの内外において釣り合いのとれたクランプ状態を形成することができる。また、当接部21の押付け力(反力)が分散されると単位面積当たり押付け力(反力)も低減されるので、浴槽側壁9bを損傷するリスクが低減されると共に、浴槽用手摺り1の取り付けが許容される浴槽側壁9bの強度範囲(適用範囲)も拡大される。
【0097】
なお、
図10(a)〜(c)に示されているように、浴槽の内壁及び外壁が一体的に製作されていても、その内部が空洞である場合は外壁が十分に強度を有していないことがあるので、その場合は
図1,2に示される脚部5を固定フレーム2へ取り付ければ、浴槽用手摺り1の転倒や浴槽側壁からの脱落を効果的に防止することができ、浴槽用手摺り1のより高い安全性が確保される。
【0098】
また、浴槽の外壁が、
図9(a)〜(c)に示されているように、リム部90a付近に段差がある場合を含み且つリム部90a以外で強度を有さない外壁の場合、本実施形態の浴槽用手摺り1は、当接部21の一部の厚みを調整することにより当接部21の押付け力(反力)を浴槽外壁のリム部90aのみへ加えられるように集中させることができる。このため、本実施形態の浴槽用手摺り1は、リム部90a以外の外壁が強度を有さない浴槽についても強固に取り付けることが可能となり、また、リム部90a以外の強度を有さないエプロン91aの損傷を防止することもできる。
【0099】
また、本実施形態の浴槽用手摺り1では、上述のような浴槽内壁は強度を有するがリム部90a以外の外壁(エプロン91a)は強度を有さない浴槽へ取り付ける場合は、浴槽用手摺り1の転倒や浴槽側壁9aからの脱落を防止するために、
図9(a)〜(c)に示されているような端部のゴム脚56が床面と当接する脚部5を固定フレーム2に取り付けることが好ましい。この場合、使用者により横方向へ荷重が加えられても或いは浴槽内外のクランプ力の中心位置に偏心が生じていても、浴槽用手摺り1が傾転又は転倒するのを極めて効果的に防止することができる。
【0100】
近年のユニットバスはデザイン性やメンテナンス性を考慮して、浴槽外壁の上部が内壁と連続する強度を有するリム部として構成され、リム部の下部が強度を有さない取り外し可能なエプロンとして構成されていることが多い。そのため、本実施形態の浴槽用手摺り1のように、固定フレーム2の当接部21をその上部領域の厚みがその下部領域の厚みよりも厚肉化又は薄肉化されているように構成すると、浴槽外壁の上部(リム部とエプロンの接続部分)に生じる段差を容易に吸収することができるので、殆どのユニットバスに適用させることができるようになる。
【0101】
可動フレーム3の内側に取り付けられている引き圧部33(
図6)は、特に浴槽内の壁面を的確に押圧し、グリップ力を高めるために設けられている。そのため、引き圧部33の縦方向の長さは、当接部21の縦方向の長さと同等かそれよりも長く、その表面には滑り止めラバー34が装着されている。また、引き圧部33は、湾曲、傾斜等した浴槽側壁の形状に柔軟に追従できることを重視して固定フレーム2の内側に首振り可能に取り付けられているが、当接部21のように、可動フレーム3の内側に首振り不能に固定されていてもよい。また、引き圧部33の個数も1つであっても、図示されているように2つ以上であってもよく、さらに、引き圧部33を2つ以上取り付ける場合は、一部を首振り可能とし一部を固定式としてもよい。
【0102】
図6を参照して理解されるように、2つの引き圧部33はそれぞれに固定ピンにより連結プレート35へ軸支されており、連結プレート35は固定ピンにより第2の可動フレーム3yの引込み部30へ軸支されている。各固定ピンを用いた2つの引き圧部33の固定および連結プレート35の固定には遊びが設けられているので、2つの引き圧部33はそれぞれに連結プレート35に対して首を振ることが可能であり、そして連結プレート35も引込み部30に対して首を振ることができる。
【0103】
引き圧部33は、浴槽側壁との摩擦力を増大させるために樹脂や金属からなる平板、硬質/軟質ラバー又はそれらの組み合わせ部品から形成することができ、そして引込み部30の一体的な部位として構成してもよいし、或いは本実施形態のように引込み部30から分離した別体の部品として構成してもよい。また、引き圧部33を引込み部30とは別体の部品として構成した場合は、上述したように、湾曲、傾斜等した浴槽側壁にスムーズに追従できるように、引き圧部33を引込み部30に対して首振り可能に取り付けてもよい。
【0104】
本実施形態の移動装置4は、
図5によく示されているように、引込み操作部31に取り付けられたナット41と、ナット41と螺合しているボルト軸40と、そしてナット41を回転させるためのハンドルノブ42とを含んでいる。ナット41は引込み操作部31の開口310に回動可能に連結されており、そしてボルト軸40の先端部分は垂直部20の取付穴200に対して回動不能に取り付けられている。
【0105】
移動装置4をナット41及びボルト軸40によって構成すると、ボルト軸40の螺進退により、引込み操作部31を垂直部20に対して容易に近接又は離間させることができ、さらにその状態も確実に保持することができる。また、図示しないが、ボルト軸40を垂直部20に対して首振り可能に連結すると、上述したように可動フレーム3を固定フレーム2に対して首振り可能に固定することができる。
【0106】
さらに、本実施形態の場合、ボルト軸40は、引込み操作部31に取り付けられたナット41を回転することにより螺進退されるため、ナット41を回転するためのハンドルノブ42の位置は引込み操作部31に対して不変であり、浴槽用手摺り1から突出する危険部位を減らすことができる。このため、ハンドルノブ42には、その内部に、ナット41を回転させることにより後退させたボルト軸40の後端部分を収容するための収納室420が設けられており、ハンドルノブ42はボルト軸40から使用者を保護する保護カバーとしても機能する。
【0107】
また、本実施形態では、ボルト軸40の先端部分は固定フレーム2に回動不能に連結されており、該ボルト軸40と螺合するナット4は可動フレーム3に回動自在に取り付けられている。このため、ハンドルノブ42で可動フレーム3に取り付けられたナット4を回転すると、該ナット4と螺合したボルト軸40が、可動フレーム3と固定フレーム2の相対位置を変化させ、そして該可動フレーム3に取り付けられた引き圧部33が浴槽側壁へ向けて引き込まれる。
【0108】
そのため、本実施形態の浴槽用手摺り1では、固定フレーム2を浴槽側壁へ当接させて載置した後は、引き圧部33を浴槽側壁へ引き込んでも、固定フレーム2及び該固定フレーム2に取り付けられた上部グリップ60が浴槽側壁から移動して離れてしまうという問題がなく(
図11参照)、その結果、上部グリップ60は洗い場側へ傾転され難い構造となっている。また、浴槽用手摺り1を固定するために、洗い場側から、固定フレーム2に対して近接離反する押圧板などを取り付ける必要もなくなる。
【0109】
本実施形態の移動装置4には、ハンドルノブ42とナット41との間に、所定の力未満では、ハンドルノブ42からナット41へ回動力を伝達し、そして所定の力以上では、ハンドルノブ42からナット41への回動力の伝達を遮断するトルク伝達・遮断手段43が組み込まれている。
【0110】
移動装置4がトルク伝達・遮断手段43が組み込まれていると、使用者がハンドルノブ42を回して引き込み部30を垂直部20へ向けて強力に引き込んでも浴槽側壁を破損することなく、必要にして十分な引き圧力(クランプ力)をもって浴槽用手摺り1を浴槽側壁へ取り付けることができる。
【0111】
本実施形態の浴槽用手摺り1では、ボルト軸40の先端部分はフランジ400を有する矩形形状に加工されており、固定フレーム2の垂直部20には、ボルト軸40の先端部分と嵌合する取付穴200が設けられている。このため、ボルト軸40の先端部分を垂直部20の取付穴200に挿通し、先端部分が露出した側から該取付穴200より大きな外径を有する止めカバー401をネジ止めすることにより、ボルト軸40の先端部分は固定フレーム2に回動不能に連結される。
【0112】
一方、第1の可動フレーム3xの垂直部20には開口310が設けられており、そしてナット41は、引込み操作部31の開口310へ挿通される胴部410と、胴部410に固着されており且つ一方の側から引込み操作部31へ当接させるために開口310より大きな外径を有する第1のフランジ部411と、そして他方の側から引込み操作部31へ当接させるために開口310より大きな外径を有し且つ胴部410へ着脱自在に取り付けられる第2のフランジ部412とを備えている。
【0113】
このため、ナット41は、胴部410が開口310へ挿通され、第1のフランジ部411とは反対側から第2のフランジ部412が装着されることにより、可動フレーム3へ回転自在に取り付けられる。また、第1のフランジ部411と引込み操作部31との間及び第2のフランジ部412と引込み操作部31との間には樹脂製のワッシャー413が挿入されており、ナット41のガタ付きを抑え、可動フレーム3の引込み操作部31に対するナット41の回転が円滑になるようにされている。
【0114】
図5に示されているように、本実施形態で使用されるトルク伝達・遮断手段43は、ハンドルノブ42の回転と同調し、且つハンドルノブ42の回転軸に対して直交するトルク伝達面431を備えた伝達部430と、ナット41の回転と同調し、且つトルク伝達面431に当接されるトルク伝受面433を備えた伝受部432とを有しており、そしてトルク伝達面431及びトルク伝受面433はそれぞれに、伝達される回動力が所定の値未満では、トルク伝達面431とトルク伝受面433とを相互に係止し、そして伝達される回動力が所定の値以上では、トルク伝達面431とトルク伝受面433との間で滑りを生じさせる傾斜面を備えた凹部または凸部を含んでいるという特徴を有している。
【0115】
また、トルク伝達・遮断手段43は、伝達部430がハンドルノブ42の回転軸方向に移動可能に取り付けられており、そして移動可能に取り付けられた伝達部430を、伝達部430と対向する伝受部432へ向けて付勢する伝達部付勢手段434を備えている。また、伝達部付勢手段434の端部は、ネジ435によってナット41の端部に装着されるストッパー436によって固定されている。
【0116】
トルク伝達・遮断手段43のトルク伝達面431の中心及びトルク伝受面433の中心は、ハンドルノブ42及びナット41の回転軸と同軸上に配置されている。またトルク伝達面431上及びトルク伝受面433上には、それぞれにトルク伝達面431又はトルク伝受面433から傾斜した斜面を含む凹部/凸部が形成されている。トルク伝達面431の傾斜面及びトルク伝受面433の傾斜面は、可動フレーム3の引き圧板33を浴槽側壁へ向けて引き込むようにハンドルノブ42を回す時、互いに対向する相手側の傾斜面を昇るように勾配が付けられている。
【0117】
そして、トルク伝達面431を有する環状の伝達部430はハンドルノブ42及びナット41の回転軸に沿ってスライド可能に装着されており、且つ弾性体(伝達部付勢手段)434によってトルク伝受面433に向けて付勢されている。弾性体434は、コイルバネ、皿バネ、弾性樹脂材料など弾性変形可能なものであれば特に限定されることなく公知のものを使用することができる。
【0118】
このため、トルク伝達面431の傾斜面とトルク伝受面433の傾斜面との間には常に一定の摩擦力が生じている。そしてハンドルノブ42からナット41へ伝達されるトルクが所定の値未満である時、トルク伝達面431の傾斜面はトルク伝受面433の傾斜面を乗り越えることができず、互いに噛み合った状態で係合している。そしてこの係合により、ハンドルノブ42のトルクがナット41へ伝達され、該ナット41と螺合するボルト軸40が可動フレーム3と固定フレーム2の相対位置を変化させ、そして該可動フレーム3に取り付けられた引き圧板33を浴槽側壁へ向けて引き寄せる。
【0119】
一方、ハンドルノブ42からナット41へ伝達されるトルクが所定の値以上になると、トルク伝達面431の傾斜面はトルク伝受面433の傾斜面との間に滑りが生じる。その結果、トルク伝達面431を備えた環状の伝達部430は弾性体434に抗して後退し、トルク伝達面431の傾斜面がトルク伝受面433の傾斜面を乗り越えることによって両者の係合が解除される。このため、この状態でハンドルノブ42を回してもハンドルノブ42はナット41に対して空回りするのみであり、ハンドルノブ42からナット41へトルクが伝達されることはない。
【0120】
また、トルク伝達面431の傾斜面の後端にはトルク伝達面431に略直交する垂直面が形成されており、トルク伝受面433の傾斜面の後端にはトルク伝受面433に略直交する垂直面が形成されている。トルク伝達面431の垂直面とトルク伝受面433の垂直面は、可動フレーム3の引き圧板33を浴槽の側壁から離間させるようにハンドルノブ43を回す時、互いに当接し係合する。そのため、ハンドルノブ42を、引き圧板33を浴槽の側壁から離間させるように回す時は、伝達されるトルクの大きさに拠らず、常にハンドルノブ42とナット41は同調して回転する。
【0121】
このように、トルク伝達・遮断手段43において、ナット41の回転と同調して回動するトルク伝受面433は、ナット41の外周面に取り付けられている。このため、トルク伝達・遮断手段43は、ナット41本体と一部重複して配置することができるので、トルク伝達・遮断手段43及び該トルク伝達・遮断手段43を備えたハンドルノブ42の可動フレーム3からの突出長さを抑えることができる。
【0122】
図1、2を参照して、本実施形態の浴槽用手摺り1において、上部グリップ60と脚部5が取り付けられており、側面視において下向きに略L字型の固定フレーム2について説明する。
【0123】
本実施形態では、上部グリップ60は、後述するスリーブ201の挿通孔202及びロックピン204と整列する複数のピン孔601を備えた2本の支持脚600を有しており、固定フレーム2の垂直部22は、該支持脚600をスライド可能に受け入れるための2つのスリーブ201を備えている。また、それぞれのスリーブ201には挿通孔202が設けられており、該挿通孔202には、バネ203によりスリーブ201の内部へ向けて付勢されたロックピン204が取り付けられている。
【0124】
このため、本実施形態の浴槽用手摺り1では、バネ203の付勢に抗する方向へロックピン204のつまみ205を動かし、ロックピン204による支持脚600の係止を解除することにより、上部グリップ60は上下方向に簡単に高さ調節ができるようになる。一方、支持脚600のピン孔601がスリーブ201の挿通孔202と整列した位置において、つまみ205を自由にすると、バネ203により、ロックピン204は挿通孔202を通ってピン孔601の中に挿入されるので、支持脚600は簡単にスリーブ201の中に係止され、上部グリップ60は固定フレーム2に固定される。
【0125】
また、本実施形態の浴槽用手摺り1では、固定フレーム2の垂直部20には、長さ調節自在の脚部5が取り付けられている。
図2に示されているように、脚部5は、ネジ52により固定フレーム2へネジ止めされる外筒体50と、外筒体50とスライド可能に嵌合する内筒体51とから構成されている。詳細は図示しないが、内筒体51は外筒体の貫通孔と整列する複数の貫通孔を有しており、内筒体51の貫通孔を外筒体50の貫通孔と整列させてロックピンを差し込むことにより脚部5の長さを調節することができる。また、外筒体50の下端には縦方向に延びた複数のスリットが設けられており、該スリットが設けられた外筒体50のテーパー面上をリング53を回転移動させることにより、外筒体50の下端を縮径又は拡径させて脚部5の長さを調節することもできる。さらに、内筒体51の下端にはナット54と螺合するボルト軸55によって支持された円錐台形のゴム脚56が設けられているので、脚部5の長さを微調節することもできる。
【0126】
このように、本実施形態の浴槽用手摺り1では、固定フレーム2に取り付けられた脚部5の長さを調節することにより、先端部のゴム脚56を洗い場の床面と当接させることができるので、浴槽用手摺り1の使用により、固定フレーム2や可動フレーム3に、固定フレーム2や可動フレーム3を当接部21側へ向けて倒そうとする回転モーメントが働いても十分に対向することができ安全である。
【0127】
また、本実施形態では、脚部5は1本であるので、固定フレーム2や可動フレーム3に、固定フレーム2や可動フレーム3を浴槽側壁の壁面に沿って倒そうとする回転モーメントが働いても、脚部が複数本配置されている時のように、一部の脚部に床面との間に隙間が生じてガタ付くようなことがない。なお、図示しないが、使用者により付加される力も脚部によって支えられるようにするため、上部グリップ60の支持脚600を脚部と直接連結させる構造としてもよい。
【0128】
以下に、本実施形態の浴槽用手摺り1の浴槽側壁への取り付け方法を簡単に説明する。本実施形態の浴槽用手摺り1では、先ず可動フレーム3の引込み部30と引込み操作部31との離間距離が浴槽の厚みに適合するように第1の可動フレーム3xと第2の可動フレーム3yとの連結状態を調節し固定する。
【0129】
次に、水平部22を浴槽側壁の上面に直接載置し且つ垂直部20の当接部21を浴槽側壁の側面に当接させた位置へ固定フレーム2を仮置きし、その状態にて脚部5の先端部が洗い場の床面と当接するように脚部5の長さを調節する。特に浴槽側壁がリム部とエプロン部を有している場合は、当接部21はリム部へ当接させるとよい(
図9参照)。
【0130】
ハンドルノブ42を回すことにより可動フレーム3の引込み部30に取り付けられた引き圧部33を浴槽側壁の側壁に当接させ、さらにトルク伝達・遮断手段43によりハンドルノブ42が空回りする(ハンドルノブ42からナット41への回動力の伝達を遮断される)までハンドルノブ42を回す。
【0131】
この結果、本実施形態の浴槽用手摺り1は、浴槽側壁を破損することなく、固定フレーム2と浴槽側壁の上面との間に位置ズレや摩擦力(残留応力)も生じさせることなく、さらに湾曲、傾斜等した形状を有する浴槽側壁であっても柔軟に追従させながら強固に浴槽用側壁に取り付けることができる。
【0132】
上記のように本実施形態の浴槽用手摺り1を浴槽用側壁に取り付けた後は、ロックピン204のつまみ205を動かし、ロックピン204による支持脚600の係止を解除することにより上部グリップ60の高さ調節を行い、そして支持脚600のピン孔601がスリーブ201の挿通孔202と整列した位置においてつまみ205を自由にすることにより上部グリップ60の位置を調節する。