特許第6706569号(P6706569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706569
(24)【登録日】2020年5月20日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】電磁界シールドシート
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/28 20060101AFI20200601BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   H01F1/28
   H05K9/00 W
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-226308(P2016-226308)
(22)【出願日】2016年11月21日
(65)【公開番号】特開2018-85391(P2018-85391A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小山 治雄
(72)【発明者】
【氏名】春日 信二郎
(72)【発明者】
【氏名】上釜 健児
(72)【発明者】
【氏名】菅 武
【審査官】 鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−212079(JP,A)
【文献】 特開2016−006822(JP,A)
【文献】 特開平08−018271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/28
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界シールド性及び磁界シールド性を兼ね備えた電磁界シールドシートであって、
可撓性を有する絶縁性の樹脂シート体の主面に沿って電界シールド性を付与する導電性材料からなる網状体が埋設されているとともに、開口率を60〜85%とする前記網状体の網目内外であって前記樹脂シート体に前記主面と略平行となるように磁界シールド性を付与する扁平な軟磁性金属粉末が配向分散されていることを特徴とする電磁界シールドシート。
【請求項2】
前記樹脂シート体は100質量部中に前記軟磁性金属粉末を80〜90質量部含むことを特徴とする請求項1記載の電磁界シールドシート。
【請求項3】
前記樹脂シート体はウレタン樹脂からなることを特徴とする請求項2記載の電磁界シールドシート。
【請求項4】
前記軟磁性金属粉末は、平均粒径D50を20μm以上100μm以下とし、扁平度を20以上とした扁平形状を有し、前記網状体の前記網目は前記平均粒径D50よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の電磁界シールドシート。
【請求項5】
前記網状体は目開き0.05mm以上1mm以下であることを特徴とする請求項記載の電磁界シールドシート。
【請求項6】
前記軟磁性金属粉末はFe−Ni系合金、Fe−Si系合金、Fe−Si−Cr系合金、又は、Fe−Si−Al系合金からなることを特徴とする請求項1乃至5のうちの1つに記載の電磁界シールドシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界シールド性及び磁界シールド性を兼ね備えた電磁界シールドシートに関し、特に、薄いながらも高いシールド性を与える電磁界シールドシートに関する。
【背景技術】
【0002】
通過する電磁波のエネルギーを吸収してこれを減衰させるシールド部材において、これをシート状に形成することで電子機器の筐体の内面に沿って与えることができて、電子機器内部の基板等からの電磁波を筐体外部へ漏出することを防ぎ、あるいは電子機器を筐体外部の電磁波から保護できる。このような電磁界シールドシートをより薄型にすることで、小型の電子機器の内部に取り付けることも可能となり、また、大面積を覆うこともより容易となって、実用的に高い汎用性を有することになる。
【0003】
例えば、特許文献1では、金属被覆繊維を含む薄布の表面に軟磁性合金粉末を含む塗料を塗布した電磁波に対する作業用防護衣などに用いるための電磁波シールド布地を開示している。かかる電磁波シールド布地は、塩化ビニール系接着材に混和させたFe−Al−SiやFe−Niからなる軟磁性合金粉末を銀の被覆された繊維からなる不織布の表面に塗布し、さらに塩化ビニール系接着剤で軟質塩化ビニールシートに張り合わせて製造されるとしている。
【0004】
また、特許文献2では、軟磁性体粉末と結合剤による磁性シートを導電性シートの両面に貼り付けた積層シートからなる電磁干渉抑制体を開示している。磁性シートで電磁波を吸収するとともに、磁性シートを通過した電磁波を導電性シートで磁性シートに向けて反射させて高い電磁波吸収能を有するとしている。磁性シートは、塩素化ポリエチレン等のエラストマを有機結合剤として、この有機結合剤に軟磁性体粉末を分散させたものを圧延ロール等でシート化して得ている。ここで、導電性シートはNiメッキされたメッシュ状の織物であり、複数の孔を有するために磁性シートとの圧延積層における接着強度が増すとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−186966号公報
【特許文献2】特開平10−79595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電磁界シールドシートにおいて、単純に、電界シールドシートと磁界シールドシートとを積層させると、その厚さは大きくなる。また、電磁界の透過減衰能を高めるには厚さをより大とすることが考慮できる。一方、厚さをより大きくすると、シートとしての可撓性を失い、更に、その内部に軟磁性金属粉末を分散させた場合には、曲げ加工等により該軟磁性金属粉末が脱落し、該シートの強度が低下することもある。逆に、可撓性を維持するためには、軟磁性金属粉の含有密度を低くせざるを得ず、結果として同じ透過減衰能を得るにはシートの厚さを大とすることになってしまう。
【0007】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、薄いながらも高いシールド性を与える電磁界シールドシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による電磁界シールドシートは、電界シールド性及び磁界シールド性を兼ね備えた電磁界シールドシートであって、可撓性を有する絶縁性の樹脂シート体の主面に沿って電界シールド性を付与する導電性材料からなる網状体が埋設されているとともに、前記網状体の網目内外であって前記樹脂シート体に前記主面と略平行となるように磁界シールド性を付与する扁平な軟磁性金属粉末が配向分散されていることを特徴とする。
【0009】
かかる発明によれば、電界シールド性を付与する導電性金属からなる網状体と磁界シールド性を付与する扁平な軟磁性金属粉末を複合させることで、高い電界シールド性及び磁界シールド性を与えるのである。また、磁界シールド性を付与する扁平な軟磁性金属粉末を分散させた樹脂シート体について、電界シールド性を付与する導電性金属からなる網状体が複合強化を与えるとともに、樹脂シート体の可撓性を維持するのである。
【0010】
上記した発明において、前記樹脂シート体は100質量部中に前記軟磁性金属粉末を80〜90質量部含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、軟磁性金属粉末の充填率をより高くして、より高い磁界シールド性を与え得る。
【0011】
上記した発明において、前記樹脂シート体はウレタン樹脂からなることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、網目内外において軟磁性金属粉末の充填率を高くし得るとともにその配向性を高くできて、より高い磁界シールド性を与え得る。つまり、ウレタン樹脂の追従変形能により、扁平な軟磁性金属粉末を充填率を高く樹脂中に配向分散させてもその脱落を防止でき、可撓性を維持できるのである。
【0012】
上記した発明において、前記軟磁性金属粉末は、平均粒径D50を20μm以上100μm以下とし、扁平度を20以上とした扁平形状を有し、前記網状体の前記網目は前記平均粒径D50よりも大きいことを特徴としてもよい。また、上記した発明において、前記網状体は開口率を20%以上とすることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、網目内における軟磁性金属粉末の配向性を高くできて、より高い磁界シールド性を与え得る。
【0013】
上記した発明において、前記網状体は目開き0.05mm以上1mm以下であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、電界シールド性を維持しつつ網目内における軟磁性金属粉末の配向性を高くできて、より高い電界シールド性及び磁界シールド性を与え得る。
【0014】
上記した発明において、前記軟磁性金属粉末はFe−Ni系合金、Fe−Si系合金、Fe−Si−Cr系合金、又は、Fe−Si−Al系合金からなることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、高い磁界シールド性を与え得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明による電磁界シールドシートの(a)斜視図及び(b)部分断面図である。
図2】電磁界シールドシートに用いられる網状体の部分平面図である。
図3】本発明による他の電磁界シールドシートの部分断面図である。
図4】軟磁性合金粉末に用いた合金の成分組成を示す表である。
図5】電磁波の電界についての減衰率の測定結果の図である。
図6】電磁波の磁界についての減衰率の測定結果の図である。
図7】10MHzの電磁波の減衰率の測定結果((a)電界シールド(b)磁界シールド)
図8】100MHzの電磁波の減衰率の測定結果((a)電界シールド(b)磁界シールド)
図9】電磁界シールドシートの構成及び減衰率の測定結果の一覧である。
図10】電磁界シールドシートの断面の顕微鏡観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による1つの実施例としての電磁界シールドシートについて、図1乃至図3を用いて説明する。
【0017】
図1に示すように、電磁界シールドシートであるシート体10は、その厚さ方向の全域にわたって配置される絶縁性の樹脂シート体である樹脂2の内部に網状体1を埋設し、さらに網状体1の網目内外であって樹脂シート体の全体に軟磁性合金からなる軟磁性合金粉末の粉体3が分散されている。粉体3は扁平形状を有し、シート体10の主面に略平行になるように配向されている。これにより、網状体1のシート体10主面方向では、網目間に配置される粉体3によって主面方向の導電性を向上させ、網状体1が本来有する電界シールド性をより向上させることになる。また、網目内を含んでシート体10の全体に配向分散された粉体3は、樹脂2によって互いに適度に絶縁され、シート体10の全体に発生する渦電流を抑えることができる。特に、周波数の高い領域でより高い磁界シールド性を得ることができる。
【0018】
図2を併せて参照すると、網状体1は、導電性の金属からなる金属線11を平織にして、金属線11同士の各接点を互いに導通させている。つまり、網状体1は、網目12による開口以外については導通が確保されている。金属線11としては、銅やアルミニウム、ステンレスの如き鋼系の合金なども用い得て、その磁性に関わらず使用できる。なお網状体1はこれに限らず、金属線11を他の織り方としたものでもよいし、パンチングメタルの如き金属シートに多数の孔を開口させたものであってもよく、また、導電性金属を被覆させた樹脂や導電性フィラーを含有させた樹脂等からなる繊維を織ったものなどでもよい。繊維に含有させる導電性フィラーとしては、カーボンブラックや銅やアルミなどの導電性金属粉を用い得る。このようにして、網状体1は、導電性材料を用いて網目12などの開口部以外の導通を確保される。
【0019】
網状体1は、主に電界シールド性を付与するため、通過する電磁波のエネルギーを減衰させられるようにその網目12を細かくされる。また、網目12内にも粉体3を配向分散させて磁界シールドの効果を得る必要がある。そのため、網目12は後述する粉体3の平均粒径D50よりも大きいことが好ましい。つまり、粉体3をシート体10の主面に略平行に配向させて網目12内に配置する観点からは、網目12を大きくすることが好ましい。これらを考慮して、例えば、網目12の目開きは円相当径で0.05mm以上1mm以下の範囲内であることが好ましく、開口率は、20%以上85%以下の範囲内であることが好ましい。
【0020】
樹脂2は、シート体10に成形する前に粉体3をシート体10内に分散配向させるバインダーである。このような樹脂2として、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂及びシリコーン樹脂などを使用し得る。網状体1や粉体3への密着性の高いことも好ましい。
【0021】
特に、ウレタン樹脂であると粉体3の配向性を高くできて好ましい。例えば、シート体10の製造時において、粉体3を含むウレタン樹脂による軟磁性塗料を網状体1に塗布すると、扁平な形状の粉体3が自然にシート体10の主面に沿った方向に配向することが確認されている。さらにウレタン樹脂の追従変形能により、網状体1や粉体3への密着性を高くしてシート体10の変形時の破断を抑制できて好ましい。また、扁平な粉体3を充填率高く配向分散させてもその脱落を防止できる。なお、樹脂2についてのその他詳細は、特開2016−21490号公報に述べられているものと同様であり、以下の通りである。
【0022】
ウレタン樹脂は、ポリオールとポリイソシアネート化合物とを反応させることにより得られる。ウレタン樹脂としては、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタンが挙げられる。中でも、破断伸度が高く柔軟性に優れる点で、ポリエステル系ポリウレタンが好ましく、シート体10に高い可撓性を付与し得る。
【0023】
ポリエーテル系ポリウレタンは、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネート化合物との反応物である。ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
【0024】
ポリカーボネート系ポリウレタンは、ポリカーボネートポリオールとポリイソシアネート化合物との反応物である。ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ジオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等)と、カーボネート(ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ホスゲン等)とを反応させて得られるポリカーボネートジオールなどが挙げられる。
【0025】
ポリエステル系ポリウレタンは、ポリエステルポリオールとポリイソシアネート化合物との反応物である。ポリエステルポリオールとしては、例えば、ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸等)と、多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等)とを反応させて得られるものなどが挙げられる。
【0026】
ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネートの3量体、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0027】
ウレタン樹脂は、その重量平均分子量を、1000〜100000とすることが好ましく、5000〜50000とすることがより好ましい。ウレタン樹脂の重量平均分子量が1000未満であると、シート体1の耐久性を低下させ、絶縁性の低下による磁界シールド性の低下を誘引する傾向にある。一方、ウレタン樹脂の重量平均分子量が100000を超えると、シート体1の柔軟性や、網状体1との密着性を低下させ、粉体3の配向性を低下させる傾向にある。
【0028】
粉体3は、シート体10に配向分散された軟磁性合金粉末の粒子であり、シート体10に主として磁界シールド性を付与する。粉体3は、上記したように扁平形状を有する軟磁性体であり、シート体10の主面に沿った方向に高い透磁率を付与できることが好ましい。そのため、樹脂2への充填率を高くできることが好ましい。また、上記したように粉体3は網目12の内部においても配向される。これらを考慮して、粉体3の平均粒径D50は20μm以上100μm以下であることが好ましく、後述する扁平度は20以上であることが好ましい。また、樹脂シート体である樹脂2との合計の100質量部中に、粉体3が80〜90質量部含まれることが好ましい。
【0029】
さらに、粉体3の材料である軟磁性合金としては、Fe−Ni系合金、Fe−Si系合金、Fe−Si−Cr系合金、又は、Fe−Si−Al系合金などが好ましい。これらを混合して用いることもできる。これらの合金であれば、上記したような高い透磁率をシート体10に付与し得るとともに、扁平形状への加工も容易である。また、粉体3は、導電性を有すると、網状体1との相乗効果によって電界シールド性を高め得て好ましい。
【0030】
なお、扁平度は、次のように測定され、定義される。まず、粉体3を樹脂に埋め込んで研磨し、粉体3の厚さ方向を光学顕微鏡で観察して、最大厚さtmaxと最小厚さtminとを求め、その平均値である(tmax+tmin)/2を平均厚さtaとする。100個の粉体3についてtaを求め、それらの平均値を平均粒径D50で除して得た値を扁平度とした。
【0031】
このようなシート体10は、粉体3による軟磁性合金粉末を樹脂2の原材料と混合した軟磁性塗料を網状体1に塗布し、乾燥させて得ることができる。樹脂2の原材料としては、例えば、ウレタン樹脂に分散剤、有機溶剤、消泡剤などを混合して得られる。塗布の方法としては、スプレー法、スクリーン印刷法、はけによる塗布、浸漬法などが挙げられる。
【0032】
図1を再び参照すると、シート体10は、その製造時において、樹脂2の原材料及び粉体3を混合した軟磁性塗料を網状体1の片側の面から塗布しており、網状体1の下方に樹脂2及び粉体3が配置されていない部分がある。
【0033】
これに対して、図3に示すように、シート体11は、その製造時において、軟磁性塗料を網状体1の両面から塗布しており、網状体1の両面側に樹脂2及び粉体3が配置される。電磁界シールドシートは、このような両面塗布によるシート体11としてもよい。
【0034】
以上のような、シート体10又は11からなる電磁界シールドシートによれば、主として導電性の網状体1による電界シールド性と、主として粉体3による磁界シールド性とを付与できて、電磁界シールドとして用い得る。特に、粉体3は、網状体1の網目12内部にも配向分散されているため、シート体10に薄いながらも高いシールド性を与えることができるのである。また、樹脂2に粉体3を分散させた樹脂シート体について、内部に網状体1を埋設したことで複合強化され、得られた可撓性に基づき、シート体10の適用範囲を広くできる。このように、シート体10又は11は、高いシールド性を付与されて、例えば、電子機器の筐体の内面に沿って与えられて、かかる電子機器から発する電磁波が外部に与える影響を小さくしつつ外部からの電磁波による電子機器内部への影響を小さくする、いわゆる電磁両立性を高め得る。
【実施例】
【0035】
図4乃至図10を用いて、電磁界シールドシートとしてシート体11を製造した具体例を説明する。
【0036】
まず、図4に示すような成分組成の合金溶湯を窒素雰囲気中で噴霧するアトマイズ法により原料粉末を製造した。
【0037】
次いで、FeSiAl合金の原料粉末には、水素雰囲気中で900〜1000℃の温度で5時間保持する熱処理を行って結晶粒径を調整する。なおFeSiCr合金の原料粉末には熱処理しない。
【0038】
それぞれの合金粉末には扁平化処理が施される。詳細には、アトライター装置に原料粉末約35kgとともに、ナフテン系溶剤からなる溶媒50リットルと、高炭素クロム軸受鋼からなる直径4.8mmの粉砕メディア550kgと、原料粉末に対する重量比で0.08〜1.6質量%のステアリン酸亜鉛からなる潤滑剤とを投入し、攪拌して原料粉末を平たく変形させながら粉砕させ、扁平化させる。FeSiAl合金については扁平度20又は40の軟磁性合金粉末とし、FeSiCr合金については扁平度40の軟磁性合金粉末とした。
【0039】
扁平化された軟磁性合金粉末は、810〜830℃の温度で3時間保持する熱処理で乾燥される。また、FeSiAl合金からなる軟磁性合金粉末にのみリン酸被膜処理する。なお、得られた軟磁性合金粉末はレーザー回折・散乱方式粒度分布測定装置によって測定し、体積分布を50%とする粒径D50を求めた。
【0040】
軟磁性合金粉末は、これを38.28質量部として、ウレタン樹脂(ポリエステル系ポリウレタン、重量平均分子量30,000)22.97質量部、リン酸ポリエステル系分散剤0.31質量部、有機溶剤としてトルエン38.28質量部、及び、消泡剤として非シリコーン系消泡剤0.15質量部とともに、ディスパーを用いて混合し、軟磁性塗料を得た。かかる軟磁性塗料を、ガン口径1.5mmのスプレーガンを用いて4.0kg/cmの圧力で導電性の網状体に片面、又は両面から塗布し乾燥させた。網状体は、厚さ50μm、開口率60%、目開き190μmの市販品を用いた。軟磁性塗料の不揮発分は45%、粘度は5.0dPa・sであり、乾燥後の固形分は、ウレタン樹脂によるバインダー16質量部及び軟磁性合金粉末84質量部からなる。以上のようにして、電磁界シールドシートを製造した。
【0041】
次に、得られた電磁界シールドシートのそれぞれについて、電界シールド性及び磁界シールド性をそれぞれ評価するため、KEC法を用いて電磁波の周波数毎の電界及び磁界の減衰率をそれぞれ測定した。測定結果を図6及び図7に示す。なお、かかる減衰率の測定には、比較例として、磁界シールドシートである厚さ100、200、300μmのノイズ抑制シート(市販品)、電磁界シールドシートの製造に用いた網状体の単体を併せて用いた。
【0042】
図5に示すように、電界シールド性については、「ノイズ抑制シート300μm厚」に比べ、網状体の単体である「導電性網状シート50μmのみ」の方において減衰率が高く、さらに電磁界シールドシートである「導電性網状シート50μm+軟磁性塗料80μm」及び「導電性網状シート+軟磁性塗料(両面塗布135+135μm)」の方においてより減衰率が高い結果となった。
【0043】
図6に示すように、磁界シールド性については、網状体の単体である「導電性網状シート50μmのみ」に比べて、電磁界シールドシート(シート体10又は11)が幅広い周波数帯域において同等以上の減衰率を有していた。「ノイズ抑制シート300μm厚」に比べると、10MHz付近から高周波数領域において電磁界シールドシート(シート体10又は11)の方においてより減衰率が高かった。
【0044】
つまり、厚さ130μm又は270μmの電磁界シールドシート(シート体10又は11)が、幅広い周波数帯域において高い電界シールド性及び磁界シールド性を示した。
【0045】
また、10MHzの周波数の電磁波の減衰率について、a.網状体(単体)、b.厚さ300μmのノイズ抑制シート、c.これらを重ねた積層体、d.電磁界シールドシート(両面塗布、厚さ270μm)のそれぞれにおいて、電界シールド性及び磁界シールド性を測定した結果を図7に示す。同様に、100MHzの電磁波の減衰率についての測定結果を図8に示す。なお、「a」「b」「d」についてはそれぞれ対応する測定結果を上記した図5及び図6の測定結果から抽出している。なお、電磁波の周波数である10MHz及び100MHzは、いわゆる電磁両立性の向上のために評価する代表的な数値である。
【0046】
図7及び図8に示すように、いずれにおいても、電磁界シールドシート(d)は、網状体とノイズ抑制シートとの積層体(c)と同等以上の減衰率を得られた。つまり、単純に積層された350μm厚さの積層体(c)に比べ、より薄い270μm厚さの電磁界シールドシート(d)の方が同等以上の高い電界シールド性及び磁界シールド性を有する。つまり、本実施例における電磁界シールド(シート体)は、薄いながらも高い電磁界シールド性を有するのである。
【0047】
また、図9にはノイズ抑制シート、網状体、及び、両者の積層体をそれぞれ比較例1、2及び3として、実施例1〜10までの電磁界シールドシートとともに電界シールド性及び磁界シールド性について評価するために減衰率を測定した。実施例1〜10のいずれにおいても比較例と同等以上の減衰率を得られている。
【0048】
なお、図10には実施例1のシート体について、その断面を顕微鏡観察した写真を示す。特に、左右の網状体1の網目内に粉体3が分散配置されていることが観察される。
【0049】
以上、本発明の代表的な実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0050】
1 網状体
2 樹脂
3 粉体(軟磁性金属粉末)
10 シート体(電磁界シールドシート)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10