【実施例】
【0046】
(実施例1〜5)
次に、実施の形態1にかかる希土類コバルト系永久磁石についての実施例1〜5及び比較例1〜5について行った実験について説明する。
【0047】
実施例1〜5は、上記した製造方法と同じ製造方法を用いて、製造した。詳細には、原料配合ステップS1(
図5参照)では、目標組成は、質量%で、Sm:25.0%、Cu:4.5%、Fe:20.0%、Zr:2.4%として、残部がCoとした。Zrを含む母合金として、Fe20%Zr80%合金を使用した。また、インゴット鋳造ステップS2では、雰囲気条件は、1×10
−2Torr以下の真空雰囲気下とした。また、インゴット鋳造ステップS2で得られたインゴットを1170℃で15時間加熱保持して、熱処理を施した。また、粉末生成ステップS3では、ジェットミルを用いて、粗粉砕したインゴットを不活性雰囲気中で微粉砕し、平均粒径(d50)6μmの粉末を生成した。また、プレス成形ステップS4では、磁場15kOe、プレス成形の圧力1.0ton/cm
2の条件で、金型を用いてプレス成形を行ない、粉末を長さ100mm、幅50mm、高さ50mmの直方体に成形した。また、焼結ステップS5では、1×10
−2Torr以下の真空雰囲気下において焼結温度1200℃で焼結を行なった。また、溶体化処理ステップS6では、降温速度1℃/minで溶体化温度まで降温させて、溶体化温度1170℃、4時間の条件で溶体化処理を行った。また、急冷ステップS7では、冷却速度は100℃/minとした。時効処理ステップS8では、焼結体を不活性雰囲気中で850℃の温度で10時間加熱保持して等温時効処理を行い、その後0.5℃/minの冷却速度で350℃まで連続時効処理を行い、永久磁石体を得た。
【0048】
次いで、製品形状加工ステップS9では、得られた永久磁石体を切断して、曲げ圧縮強度の測定用試験片の形状に加工した。曲げ圧縮強度の測定用試験片の形状は、長さ16.2mm、幅12.6mm、高さ0.75mmの直方体であり、磁化容易軸は、磁化方向である。
【0049】
最後に、酸化物層形成熱処理ステップS10では、雰囲気条件は大気中とし、熱処理温度条件は表1に示す熱処理温度とした。各熱処理温度条件のn数は、5とした。
【0050】
以上の工程を経ることによって、実施例1〜5及び比較例1〜5に係る磁石片を得た。得られた磁石片を熱処理後にパルス着磁機を用いて着磁し、フラックスメーターを用いて表面磁束Φmを測定した。測定した磁石片について曲げ圧縮強度試験を行い、3点曲げ圧縮強度を測定した。その測定結果を表1に示す。
【表1】
表面磁束Φm[×10
-5Wb・T]の良好な値は、445以上とし、曲げ圧縮強度[N]の良好な値は、50以上とした。表1に示すように、熱処理温度が310℃以上である場合、曲げ圧縮強度が顕著に改善され、良好な値に到達する。また、熱処理温度が510℃を越えると、曲げ圧縮強度がさらに向上することなく、表面磁束Φmが低下し、良好な値に該当しなくなることが観察された。従って大気中で熱処理する場合は、少なくとも熱処理温度310℃〜510℃の範囲内で熱処理することによって、良好な曲げ圧縮強度を備え磁気特性の劣化の小さい磁石が得られた。
【0051】
(SEM断面組織観察)
続いて、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いて、実施例1〜3及び比較例1について断面組織観察を行った。断面組織観察による写真を
図6〜8、
図18に示す。
図6は、実施例1の永久磁石の表面近傍における断面のミクロ組織を示す写真である。
図7は、実施例2の永久磁石の表面近傍における断面のミクロ組織を示す写真である。
図8は、実施例3の永久磁石の表面近傍における断面のミクロ組織を示す写真である。
図18は、比較例1の永久磁石の表面近傍における断面のミクロ組織を示す写真である。
【0052】
図6に示すように、実施例1の永久磁石のミクロ組織断面では、ベース層1aと、表面酸化物層2aと、亀裂5aと、内部酸化物層6aとが観察された。表面酸化物層2aの厚みT2aは、50〜100nm(=0.05〜0.10μm)であった。表面酸化物層2aは、ベース層1aを覆い、内部酸化物層6aは、亀裂5aを埋めている。
【0053】
なお、
図6に示される保護膜P9は、断面組織観察を行うために、実施例1の永久磁石の表面を保護することを目的として、形成されたものである。保護膜P9は、表面酸化物層2aと直接接触するカーボン保護膜と、当該カーボン保護膜を覆うPt保護膜とを備える。
図7、
図8及び
図18に示される保護膜P9も、同様の構成を備える。
【0054】
また、
図7に示すように、実施例2の永久磁石のミクロ組織断面でも、ベース層1bと、表面酸化物層2bと、亀裂5bと、内部酸化物層6bとが観察された。表面酸化物層2bの厚みT2bは、100〜200nm(=0.10〜0.20μm)であった。表面酸化物層2bは、ベース層1bを覆い、内部酸化物層6bは、亀裂5bを埋めている。
【0055】
また、
図8に示すように、実施例3の永久磁石のミクロ組織断面でも、ベース層1cと、表面酸化物層2cと、亀裂5cと、内部酸化物層6cとが観察された。表面酸化物層2cの厚みT2cは、200〜300nm(=0.20〜0.30μm)であった。表面酸化物層2cは、ベース層1cを覆い、内部酸化物層6cは、亀裂5cを埋めている。
【0056】
一方、
図18に示すように、比較例1では、ベース層91dと、亀裂95dとが観察された。しかし、ベース層91dを覆う表面酸化物層や、亀裂95dを埋める内部酸化物層を確認することができなかった。実施例1〜3の曲げ圧縮強度が、比較例1の曲げ圧縮強度と比較して高い理由の一つとして、実施例1〜3が、比較例1と異なり、表面酸化物層や内部酸化物層を備えることが挙げられる。
【0057】
(DF−STEM/EDX断面組織観察)
次に、実施例3の永久磁石について、DF−STEM/EDX(Dark Field - Scanning Transmission Electron Microscope / Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を用いて、これらの断面組織における各元素の組成(含有量)を計測し、元素マッピングを行なった。これらの計測した断面組織及びその元素マッピングによる像を
図9〜
図16に示す。
図9は、実施例3の永久磁石のDF−STEMによる像である。
図10〜
図16は、実施例3の永久磁石の表面の元素マッピングによる像である。
【0058】
図9に示すように、実施例3の永久磁石の表面近傍のミクロ断面組織では、縞状層3eと、縞状層3eを覆う表面酸化物層2eとが観察された。縞状層3eは、表面酸化物層2eとの境界面に沿って延びる縞状模様を示す。縞状層3eには、亀裂5eが生じている。亀裂5eは、内部酸化物層6eによって埋められている。
なお、カーボン保護膜P92は、保護膜P9(
図6参照)に含まれる一構成要素であり、断面組織観察のために形成したものである。
【0059】
(元素マッピング)
図10〜
図16を用いて、
図9に示す断面において、C(炭素)、O(酸素)、Fe、Co、Cu、Zr及びSm、についてそれぞれ元素マッピングした結果について説明する。なお、O(酸素)とC(炭素)は、製造する上で、含有することを避けることのできない不可避的不純物である。
図10〜
図16に示す像において、濃淡が、元素マッピングの対象となった元素について濃度の高低を示し、淡いほど、その元素について濃度が高いことを示す。
【0060】
図10に示すように、カーボン保護膜P92におけるC(炭素)の濃度は、他の部位におけるC(炭素)の濃度と比較して高い。
【0061】
図11に示すように、亀裂5e、内部酸化物層6e及び表面酸化物層2eにおけるO(酸素)の濃度は、他の部位におけるOの濃度と比較して高い。また、
図12に示すように、FeもOと同様の傾向が見られる。つまり、亀裂5e、内部酸化物層6e及び表面酸化物層2eにおけるFeの濃度は、他の部位におけるFeの濃度と比較して高い。
【0062】
図13に示すように、亀裂5e、内部酸化物層6e及び表面酸化物層2eの内部において、Coについて高い濃度を有する粒子状の濃縮部21aが観察された。また、
図14に示すように、亀裂5e、内部酸化物層6e及び表面酸化物層2eの内部において、Cuについて高い濃度を有する粒子状の濃縮部21bが観察された。表面酸化物層2e直下からCuの規則的な格子状模様が観察され、この上記した化学組成を備える永久磁石に特有のセル構造が縞状層3eに形成されていることがわかる。セル構造とは、希土類コバルト系永久磁石10のベース層1(
図1参照)と同様に、結晶粒を備え、当該結晶粒は、Sm
2Co
17を含むセル相を備える構造である。この結晶粒は、さらに、このセル相を囲み、SmCo
5を含むセル壁と、Zr含有板状相とを含む。
【0063】
図15に示すように、試料表面、つまり表面酸化物層2eに略平行でかつ規則的な、Zr濃度の高い縞状模様が観察され、これも上記した化学組成を備える永久磁石に特有のZrリッチ層である。
図12を再び参照すると、Zrリッチ層と同じ方位でそれよりは間隔の広い縞状模様が見られるが、STEM像の縞状模様及びO(酸素)マッピングの縞状模様と一致しており、縞状模様はFeの酸化物層であることが分かる。
図16に示すように、縞状層3eは、他の部位、例えば、表面酸化物層2e、亀裂5e、内部酸化物層6eと比較して、高いSm濃度を有する。
【0064】
(各部位の化学組成分析)
次に、
図17を参照して、実施例3の表面近傍における断面のミクロ組織において、各部位の各組成分析の結果について説明する。
図17は、実施例3の表面近傍における断面のミクロ組織、及び、化学組成を測定した各部位を示す断面写真である。
【0065】
表2に、
図17に示された各分析位置の化学組成分析の測定結果を示す。
【表2】
【0066】
図17に示すように、ベース層1fと、表面酸化物層2fと、縞状層3fと、遷移層4fとが観察された。ベース層1f、遷移層4f、縞状層3f、及び表面酸化物層2fは、希土類系コバルト永久磁石の内側から外側に向かって、この順に積層するよう形成されている。これらは、希土類系コバルト永久磁石の内側から外側に向かってなだらかに遷移している。
【0067】
表面酸化物層2fは、FeとCoとOとを主成分として含有している。表面酸化物層2fは、分析位置004及び005を備える。両方の分析位置における分析結果は、大きく異なった。分析位置004において、Fe及びOの含有量が高く、分析位置005において、Coの含有量が高い。表面酸化物層2fは、特定の化学組成を有する化合物からなるものではなく、例えば、Coの含有量が高い粒状の濃縮部を備える。
【0068】
縞状層3fは、分析位置006、007及び012を備える。分析位置006及び007には、縞状組織が位置しており、分析位置012には、縞、つまり、線状部が位置する。縞状組織は、線状部とセル構造とを備え、線状部とセル構造とは、当該縞状組織が示す縞模様を構成する。分析位置012における分析結果は、O及びFeの含有量が高かったため、線状部は、酸化物層と考えられる。分析位置006、007における分析結果は、分析位置012における分析結果と比較して、合金組成に近く、酸素濃度も低い。
【0069】
遷移層4fは、縞状層3fと接触しており、縞状層3fとの界面に沿うように延びる複数の線状部と、ベース層1fに含まれるセル相と同じ構成を有するセル相とを含む。遷移層4fが含む線状部の量は、縞状層3fが含む線状部の量と比較して少ない。遷移層4fは、縞状層3fとベース層1fとの間に位置しており、遷移層4fにおける線状部の量は、縞状層3f側からベース層1f側へ向かって減じるように遷移する傾向にある。また、隣り合う線状部同士の間隔は、広い。
【0070】
ベース層1fでは、希土類コバルト系永久磁石10のベース層1(
図1参照)と同じ構成のセル構造が観察された。
【0071】
表面酸化物層2fの厚みが0.3μm程度、縞状層3fの厚みが0.7μm程度、遷移層4fの厚みが2μm程度であった。
【0072】
(実施例6〜11)
次に、実施例6〜11の磁気特性及び機械的強度などを測定した結果について説明する。
【0073】
実施例6〜11は、実施例1〜5と同様に、上記した製造方法と同じ製造方法を用いて、製造した。詳細には、原料配合ステップS1(
図5参照)では、目標組成は、質量%で、Sm:25.9%、Cu:4.5%、Fe:15.0%、Zr:3.1%として、残部がCoとした。Zrを含む母合金として、Fe20%Zr80%合金を使用した。また、インゴット鋳造ステップS2、及び粉末生成ステップS3では、実施例1〜5と同じ条件を用いた。また、プレス成形ステップS4では、磁場15kOe、プレス成形の圧力1.0ton/cm
2の条件で、金型を用いてプレス成形を行なった。また、焼結ステップS5では、1×10
−2Torr以下の真空及び不活性雰囲気下において焼結温度1210℃で焼結を行なった。また、溶体化処理ステップS6では、降温速度1℃/minで溶体化温度まで降温させて、溶体化温度1180℃で溶体化処理を行った。また、急冷ステップS7では、冷却速度は100℃/minとした。時効処理ステップS8では、焼結体を不活性雰囲気中で800℃の温度で5時間加熱保持して等温時効処理を行い、その後1℃/minの冷却速度で350℃まで連続時効処理を行い、永久磁石体を得た。
【0074】
次いで、製品形状加工ステップS9では、実施例1〜5と同じ製造条件を用いて、得られた永久磁石体を切断して、曲げ圧縮強度の測定用試験片の形状に加工した。
【0075】
最後に、酸化物層形成熱処理ステップS10では、雰囲気条件は、表3に示す酸素分圧とし、熱処理温度条件は、表3に示す熱処理温度とした。
【0076】
以上の工程を経ることによって、実施例6〜11及び比較例6〜9に係る磁石片を得た。実施例1〜5と同じ方法を用いて、表面磁束Φm及び3点曲げ圧縮強度を測定した。その結果を表3に示す。
【表3】
【0077】
表3に示すように、実施例6〜10では、表面磁束Φm及び曲げ圧縮強度がいずれも良好な値であった。実施例6では、酸化物層形成熱処理ステップS10において酸素分圧100%であったのにもかかわらず、表面磁束Φm及び曲げ圧縮強度がいずれも良好な値であった。したがって、酸化物層形成熱処理ステップS10において、酸素分圧の上限値は、100%である。
【0078】
一方、比較例6では、表面磁束Φmが良好な値(445×10
-5Wb・T以上)であるものの、曲げ圧縮強度が小さく、良好な値(50N以上)に該当しなかった。この一因として、比較例6では、酸化物層形成熱処理ステップS10が無く、酸化物層が形成されないためと考えられる。
【0079】
また、比較例7では、表面磁束Φmが良好な値であるものの、曲げ圧縮強度が小さく、良好な値に該当しなかった。この一因として、比較例7では、酸化物層形成熱処理ステップS10において熱処理温度180℃が、実施例6の同ステップにおける熱処理温度200℃よりも小さいことが考えられる。酸化物層形成熱処理ステップS10において、熱処理温度は200℃以上であると好ましい。
【0080】
また、比較例8では、曲げ圧縮強度が低下し、良好な値に該当しなかった。この一因として、比較例8では、酸化物層形成熱処理ステップS10ステップにおける酸素分圧が0.8%と、実施例11の同ステップにおける酸素分圧1%と比較して低いことが考えられる。そのため、酸化物層形成熱処理ステップS10において、酸素分圧が1%以上であることが好ましい。
【0081】
また、比較例9では、表面磁束Φmが低下し、良好な値に該当しなかった。この一因として、比較例9では、酸化物層形成熱処理ステップS10における熱処理温度が620℃と、実施例11の同ステップにおける熱処理温度600℃と比較して高いことが考えられる。そのため、熱処理温度が600℃以下であることが好ましい。
【0082】
以上より、酸化物層形成熱処理ステップS10では、酸素分圧が1%以上、100%以下であることが好ましく、熱処理温度が200℃以上、600℃以下の範囲内にあることが好ましい。
【0083】
なお、実施例6〜10のミクロ組織断面を観察したが、実施例1〜5と同じ構成を有することを確認した。
【0084】
以上、本発明を上記実施の形態および実施例に即して説明したが、上記実施の形態および実施例の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。