【文献】
M.B.CORTIE et al.,Thermal Stability of (KxNayH1-x-y)2Ti6O13 Nanofibers,Eur.J.Inorg.Chem.,2011年11月,Vol.2011 No.33,Pages5087-5095 ISSN 1434-1948,特に「Chemical Composition」項
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
先ず、本発明のチタン酸アルカリについて説明する。
本発明のチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを0.5〜2.2モル、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを0.05〜1.4モル、リチウム原子換算で酸化リチウムを0〜1.4モル含み、
6チタン酸1モルに対する、カリウム原子換算した酸化カリウム、ナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよびリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が1.8〜2.3モルであり、
単相化率が85〜100%、ファイバー率が0〜10体積%、含水率が0〜1.0質量%である
ことを特徴とするものである。
【0011】
本発明のチタン酸アルカリは、6チタン酸(Ti
6O
12)1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを0.5〜2.2モル、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを0.05〜1.4モル、リチウム原子換算で酸化リチウムを0〜1.4モル含むものである。
【0012】
本発明のチタン酸アルカリは、6チタン酸(Ti
6O
12)1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを0.5〜2.2モル含み、カリウム原子換算で酸化カリウムを0.9〜2.2モル含むことが好ましく、カリウム原子換算で酸化カリウムを1.2〜2.2モル含むことがより好ましい。
【0013】
本発明のチタン酸アルカリは、6チタン酸(Ti
6O
12)1モルに対し、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを0.05〜1.4モル含み、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを0.05〜1.1モル含むことが好ましく、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを0.05〜0.8モル含むことがより好ましい。
【0014】
本発明のチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対し、リチウム原子換算で酸化リチウムを0〜1.4モル含み、リチウム原子換算で酸化リチウムを0〜0.2モル含むことが好ましく、リチウム原子換算で酸化リチウムを0モル含む(含まない)ことがより好ましい。
【0015】
本発明のチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対する、カリウム原子換算した酸化カリウム、ナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよびリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が1.8〜2.3モルであるものであり、同合計含有量が1.8〜2.2モルであるものが好ましく、同合計含有量が1.9〜2.2モルであるものがより好ましい。
【0016】
本発明のチタン酸アルカリにおいては、6チタン酸1モルに対するカリウム原子換算した酸化カリウムの含有量、6チタン酸1モルに対するナトリウム原子換算した酸化ナトリウムの含有量および6チタン酸1モルに対するリチウム原子換算した酸化リチウムの含有量が各々上記範囲内にあるとともに、6チタン酸1モルに対するカリウム原子換算した酸化カリウム、6チタン酸1モルに対するナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよび6チタン酸1モルに対するリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が上記範囲内にあることにより、付着性度を所望範囲に容易に制御することができる。
本発明のチタン酸アルカリは、チタン酸アルカリの調製時において、原料混合物中における、チタン化合物とアルカリ金属化合物との混合割合を調整することにより、その組成を容易に制御することができる。
【0017】
本出願書類において、チタン酸アルカリを構成する、6チタン酸の含有量、6チタン酸1モルに対するカリウム原子換算した酸化カリウムの含有量、6チタン酸1モルに対するナトリウム原子換算した酸化ナトリウムの含有量および6チタン酸1モルに対するリチウム原子換算した酸化リチウムの含有量は、以下の方法により測定される値を意味する。
すなわち、チタン酸アルカリとNa
2O
2とNaOHをジルコニア坩堝に入れて、加熱して溶融する。その後放冷し、水とHClを加えて溶解する。溶解した液分を分取し、Tiについてはアルミニウム還元−硫酸アンモニウム鉄(III)滴定法により定量して6チタン酸の含有量を決定することができ、その他の金属元素(カリウム、ナトリウム、リチウム)についてはICP発光分光法により定量することにより、その含有量を決定することができる。
【0018】
本発明のチタン酸アルカリは、主結晶が6チタン酸カリウムと同様にトンネル構造を採るものであり、通常は全ての酸化カリウム、酸化ナトリウムおよび酸化リチウムが結晶構造内に存在するものであるが、一部が結晶構造外に存在するものも含むものとする。
また、本発明のチタン酸アルカリは、主結晶が6チタン酸カリウムと同様にトンネル構造を採るものであるが、不純物として、二酸化チタン等を含むものであってもよい。
本発明のチタン酸アルカリの主結晶は、下記一般式
K
aNa
bLi
cTi
6O
13
(ただし、0.5≦a≦2.2、0.05≦b≦1.4、0≦c≦1.4、1.8≦a+b+c≦2.3である。)
により表すことができる。上記一般式において、a、b、cおよびa+b+cの好ましい範囲やより好ましい範囲等は、上述したとおりである。
【0019】
本発明のチタン酸カリウムは、単相化率が、85〜100%であるものであり、87〜100%であるものが好ましく、89〜100%であるものがより好ましい。
【0020】
本出願書類において、チタン酸アルカリの単相化率は、以下の方法により算出される値を意味する。
すなわち、粉末X線回折装置(X線源:CuKα線、パナリティカル社製 型式名:X’Part−ProMPD)により、得られたチタン酸アルカリの回折パターンを測定し、得られた回折パターンのチタン酸アルカリと不純物のメインピークの高さから、以下の計算式により算出される単相化率を意味する。
単相化率(%)=I/(I+S)×100
(ただし、I:チタン酸アルカリ(一般式K
aNa
bLi
cTi
6O
13(0.5≦a≦2.2、0.05≦b≦1.4、0≦c≦1.4、1.8≦a+b+c≦2.3))の2θ=0〜50°における最強ピークの高さ、S:全ての不純物のメインピークの高さの和である。)
なお、不純物としては、TiO
2等を挙げることができる。
【0021】
本発明のチタン酸カリウムは、ファイバー率が、0〜10体積%であるものであり、0〜7体積%であるものであることが好ましく、0〜5体積%であるものであることがより好ましい。
【0022】
本発明のチタン酸カリウムは、特定の組成からなるものであるために上記のとおりファイバー率が低く、成形性に優れるとともに、流動性が高いために摩擦材中に容易に均一分散させることができる。
【0023】
本出願書類において、チタン酸アルカリのファイバー率は、以下の方法により算出される値を意味する。
すなわち、チタン酸アルカリ0.001〜0.01gを水10gに投入し、水を5分間撹拌してチタン酸アルカリを分散させながら0.3g分取する。分取したチタン酸カリウムを含んだ水を水10gに投入し、孔径0.2μmのメンブランフィルターに通す。フィルターを乾燥し、イオンスパッター((株)日立サイエンスシステムズ製)により白金を蒸着後、走査型電子顕微鏡 型式名:S−4700((株)日立ハイテクノロジーズ製)により一視野に粒子数が100以上程度となるような倍率で撮影を行い、得られた画像(5視野以上)を基に、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア 型式名:Mac−View Ver.4((株)マウンテック製)を用いて、各結晶粒子を最小の長方形で囲み、直交する二つの軸のうち短い方を太さ(短径)、長い方を長さ(長径)として500個以上の粒子を各々測定する。
次いで、測定された各結晶粒子を円柱状とみなし、短径を円柱の直径、長径を円柱の長さ(高さ)として、以下の計算式よりチタン酸アルカリの総体積とファイバー状物の体積を求める。ファイバー状物は、長径5μm以上、短径3μm以下、アスペクト比(上記方法で測定される「長径/短径」の比)が3以上の粒子である。
チタン酸アルカリの総体積(cm
3)=(短径(cm)/2)
2×3.14×長径(cm)
ファイバー状物の体積(cm
3)=(ファイバー状粒子の短径(cm)/2)
2×3.14×ファイバー状粒子の長径(cm)
上記式により算出したチタン酸アルカリの総体積とファイバー状物の体積を用いて以下の計算式よりファイバー率を算出する。
ファイバー率(体積%)=(ファイバー状物の体積/チタン酸アルカリの総体積)×100
【0024】
本発明のチタン酸カリウムは、含水率が、0〜1.0質量%であるものであり、0〜0.8質量%であるものが好ましく、0〜0.6質量%であるものがより好ましい。
【0025】
本発明のチタン酸カリウムは、含水率が上記範囲内にあることにより、付着性を容易に低減することができる。
【0026】
本出願書類において、含水率は、以下の方法により測定される値を意味する。
すなわち、乾燥させたビーカーにチタン酸アルカリを約10g投入し、105℃で1時間加熱した後、デシケーターで室温まで冷却して質量を測定し、下記式により含水率を算出する。
含水率(質量%)=(加熱後のチタン酸アルカリの質量(g)/加熱前のチタン酸アルカリの質量(g))×100
【0027】
本発明のチタン酸カリウムは、付着性度が、0〜7.0g/m
2であるものがより好ましく、0〜6.0g/m
2であるものがさらに好ましく、0〜4.0g/m
2であるものが特に好ましい。
【0028】
本発明のチタン酸カリウムは、特定の組成からなるものであるために上記のとおり付着性度が低く、このために歩留りの低下を大幅に抑制しつつ摩擦材を作製することができる。
【0029】
なお、本出願書類において、チタン酸カリウムの付着性度は、以下の方法により算出される値を意味する。
すなわち、マルチテスター(セイシン企業(株)社製 MT−1001)に、目開き2mm、線径0.9mmの篩、200ccのタッピングセル、高さ30mmのスペーサーを取り付け、フィーダーレベルを6に設定し、タッピングセルに摺り切りいっぱいまでチタン酸アルカリを充填する。チタン酸アルカリを充填したタッピングセルを縦に90°回転し、1分間保持することで、タッピングセル内のチタン酸アルカリを排出する。チタン酸アルカリを排出後、チタン酸アルカリ充填前のタッピングセルの質量とチタン酸アルカリ排出後のタッピングセルの質量(g)から、以下の計算式により算出される値を付着量とする。
付着量(g)=チタン酸アルカリ排出後のタッピングセルの質量(g)−チタン酸アルカリ充填前のタッピングセルの質量(g)
付着性度(g/m
2)=付着量(g)/タッピングセルの内側の表面積(m
2)
【0030】
本発明のチタン酸カリウムは、比表面積が、0.1〜20m
2/gであるものが好ましく、0.2〜18m
2/gであるものがより好ましく、0.3〜16m
2/gであるものがさらに好ましい。
【0031】
なお、本出願書類において、チタン酸アルカリの比表面積は、BET法により、比表面積測定機(カンタクローム・インスツルメンツ社製)を用い、脱気温度350℃、脱気時間45分で測定することにより求められる値を意味する。
【0032】
本発明のチタン酸カリウムは、平均粒径が、2〜100μmであるものが好ましく、5〜90μmであるものがより好ましく、8〜80μmであるものがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、チタン酸カリウムの平均粒径は、得られたチタン酸カリウム粒子10000個程度について、粒度・形状分布測定器((株)セイシン企業製 PITA−2型)を用いて各粒子の投影像の面積を測定し、その面積と同じ面積を有する円の直径と、当該直径を有する球に換算した時の体積頻度分布を求めたときの、累積体積が50%となる直径を意味するものとする。
【0033】
本発明のチタン酸カリウムとして、具体的には、比表面積が0.1〜16m
2/gで平均粒径が2〜100μmであるものが好適であり、比表面積が0.2〜14m
2/gで平均粒径が5〜90μmであるものがより好適であり、比表面積が0.3〜12m
2/gで平均粒径が8〜80μmであるものがさらに好適である。
本発明のチタン酸カリウムとして、より具体的には、比表面積が0.3〜1.4m
2/gで平均粒径が50〜80μmであるものや、比表面積が5.0〜16m
2/gで平均粒径が8〜40μmであるものを挙げることができ、中でも、ファイバー率を0〜10体積%に制御する上では、比表面積が0.3〜1.4m
2/gで平均粒径が50〜80μmであるものが好適である。
【0034】
本発明によれば、ファイバー状のチタン酸カリウムの含有割合が高度に低減されるとともに、付着性が大幅に低減されたチタン酸アルカリを提供することができる。
【0035】
次に、本発明のチタン酸アルカリを製造する方法について説明する。
本発明のチタン酸アルカリを製造する方法は、本発明のチタン酸アルカリの組成、物性を有するものを製造し得る方法であれば特に制限されない。
本発明のチタン酸アルカリを製造する方法としては、例えば、チタン化合物およびアルカリ金属化合物を含む原料混合物を、昇温し、特定の条件で加熱、焼成した後、冷却し、得られた冷却物を粉砕処理する方法を挙げることができる(以下、本製造方法を、適宜、本発明のチタン酸アルカリの製法と称する)。
【0036】
本発明のチタン酸アルカリの製法において、チタン化合物は、焼成によりチタン酸アルカリを生成するチタン源となるものであり、6チタン酸アルカリを好適に調製し得るものであることが好ましい。
チタン化合物としては、例えば、二酸化チタン、亜酸化チタン、オルトチタン酸またはその塩、メタチタン酸またはその塩、水酸化チタン、ペルオクソチタン酸またはその塩等の化合物や、イルメナイト等のチタン鉱石から選ばれる一種以上を挙げることができ、これ等のチタン化合物のうち二酸化チタンが好ましい。二酸化チタンは、アルカリ金属化合物との混合性および反応性に優れ、また安価であることから、チタン化合物として好適に使用することができる。
【0037】
二酸化チタンとしては、結晶型がルチル型の二酸化チタンまたはアナターゼ型の二酸化チタンが好ましく、アナターゼ型の二酸化チタンがより好ましい。
チタン化合物としてルチル型の二酸化チタンを使用することにより、結晶径が大きい(比表面積が小さい)チタン酸カリウムを容易に得ることができる。
【0038】
チタン化合物の平均粒径は、取扱いが容易なことから、0.1〜10mmであることが好ましく、0.5〜10mmであることがより好ましく、0.5〜1mmであることがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、チタン化合物の平均粒径は、JIS K 0069の化学製品のふるい分け試験方法に従って測定した値を意味する。
【0039】
チタン化合物の形態は、凝集体または造粒体であることが好ましく、チタン化合物が凝集体または造粒体の形態を採ることにより、アルカリ金属化合物と均一に混合することができる。
チタン化合物の凝集体または造粒体としては、二酸化チタンの凝集体(顆粒を含む)または造粒体が好ましい。
【0040】
本出願書類において、チタン化合物の凝集体とは、チタン化合物の一次粒子が凝集した二次粒子や、チタン化合物の二次粒子が凝集した三次粒子等、チタン化合物のn次粒子が凝集したn+1次粒子(nは1以上の整数)と表現される粗大粒子(顆粒を含む)であって、平均粒径が0.1mm以上であるものを意味する。
また、本出願書類において、チタン化合物の造粒体とは、チタン化合物を造粒してなる平均粒径が0.1mm以上であるものを意味する。
【0041】
本発明のチタン酸アルカリの製法において、チタン化合物の凝集体または造粒体は、平均粒径が、0.1mm以上であるものであり、0.5〜10mmであるものが適当であり、0.5〜1mmであるものがより適当である。
【0042】
なお、本出願書類において、チタン化合物の凝集体または造粒体の平均粒径は、JISK0069の化学製品のふるい分け試験方法に従って測定した値を意味する。
【0043】
二酸化チタンの凝集体としては、硫酸チタンや硫酸チタニルから製造されるもの(硫酸法酸化チタン)や、四塩化チタンを気相で酸化あるいは加水分解して製造されるもの(気相法酸化チタン)や、四塩化チタン水溶液あるいはアルコキシチタンを中和または加水分解して製造されるものを挙げることができる。
【0044】
上記硫酸法酸化チタン、気相法酸化チタン、四塩化チタン水溶液あるいはアルコキシチタンを中和または加水分解して製造される二酸化チタンは、通常、製造過程で得られた凝集粒子(クリンカー)を粉砕、解砕あるいは分級処理等して粒度調整を行い、粗大粒子を除去した上で、顔料用酸化チタン等の最終製品を調製しているが、本発明の製造方法において、チタン化合物として二酸化チタンの凝集体を使用する場合は、上記クリンカーをそのまま使用することが好ましい。
【0045】
二酸化チタンの凝集体として上記クリンカーを使用した場合、上記クリンカーは、カリウム化合物と混合する際に混合物の固着を抑制して均一混合することができ、その結果、成分調整等の処理を行うことなく目的とするチタン酸カリウムを製造することができる。
【0046】
二酸化チタンの造粒体としては、市販の微粒酸化チタンをスプレードライにより造粒したものや、市販の微粒酸化チタンにバインダーを添加して混練し造粒したもの等を挙げることができる。
【0047】
チタン化合物として二酸化チタンの造粒体を採用することにより、振動ミル等の粉砕エネルギーの大きい機械的な混合装置を用いてカリウム化合物と混合した場合であっても、振動ミル等の混合装置の内壁への混合物の付着や固着等を効果的に抑制することができ、均一に混合することができる。
【0048】
アルカリ金属化合物としては、焼成により本発明のチタン酸アルカリを生成する際にアルカリ金属源(K、NaまたはLi)となるものであり、本発明の6チタン酸アルカリを好適に調製し得るものであることが好ましい。
【0049】
アルカリ金属化合物としては、カリウム化合物、ナトリウム化合物、リチウム化合物が挙げられる。
カリウム化合物としては、例えば、酸化カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、シュウ酸カリウム等から選ばれる一種以上を挙げることができ、炭酸カリウムであることが好ましい。
ナトリウム化合物としては、例えば、酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、シュウ酸ナトリウム等から選ばれる一種以上を挙げることができ、炭酸ナトリウムであることが好ましい。
リチウム化合物としては、例えば、酸化リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、シュウ酸リチウム等から選ばれる一種以上を挙げることができ、炭酸リチウムであることが好ましい。
【0050】
これ等のアルカリ金属化合物は、焼成反応時に溶融あるいは分解してチタン化合物と反応を生じ易く、また分解後も炭酸ガスや水等を生成するだけで製品中に不純物を残存させ難い。
【0051】
チタン化合物およびアルカリ金属化合物を含む料混合物は、一般式K
aNa
bLi
cTi
6O
13(0.5≦a≦2.2、0.05≦b≦1.4、0≦c≦1.4、1.8≦a+b+c≦2.3)で表される組成に相当する量を混合工程に供することが効率的であるが、次工程である焼成工程における揮発を考慮して、アルカリ金属化合物を、上記一般式から算出されるアルカリ原子の理論量よりも、0〜15モル%過剰になるように含むことが好ましく、5〜15モル%過剰に含むことがより好ましく、10〜14モル%過剰に含むことがさらに好ましい。
【0052】
原料混合物は、後述するように、チタン化合物とアルカリ金属化合物とともに、さらに金属チタン粉あるいは水素化チタン粉を含むものであってもよいが、上記金属チタン粉あるいは水素化チタン粉は酸化され、チタン酸アルカリを構成する二酸化チタンとなるため、本発明のチタン酸アルカリの製法においては、後述する金属チタン粉あるいは水素化チタン粉も得られるチタン酸アルカリのチタン源に含めて、上記混合比率を調整する。
【0053】
本発明のチタン酸アルカリの製法において、原料混合物中における、チタン化合物とアルカリ金属化合物との混合割合を調整することにより、最終製造物であるチタン酸アルカリの組成を容易に制御することができる。
【0054】
原料混合物は、固形分換算したときに、チタン化合物およびアルカリ金属化合物を、85〜100質量%含むものであることが好ましく、85〜97質量%含むものであることがより好ましい。
【0055】
原料混合物は、チタン化合物およびアルカリ金属化合物に加えて、マグネシウム化合物やバリウム化合物などのアルカリ土類金属化合物をさらに含むものであってもよい。
【0056】
原料混合物が、マグネシウム化合物やバリウム化合物などのアルカリ土類金属化合物を含有するものであることによっても、後述する焼成処理時に繊維状結晶の生成を抑制しつつ、得られるチタン酸カリウムの形状を容易に所望形状に制御することができる。
【0057】
本発明のチタン酸アルカリの製法において、原料混合物は、チタン酸カリウムの生成に影響しない程度に、チタン化合物およびアルカリ金属化合物に加えて、さらに他の化合物、例えば無機酸化物などを微量含有するものであってもよい。
【0058】
ここで無機酸化物としては、例えば、Fe
2O
3、Al
2O
3、SiO
2、CeO
2、WO
3、ZrO
2、Zr(CO
3)
2、CaCO
3等から選ばれる一種以上が挙げられる。
【0059】
原料混合物が、チタン化合物およびアルカリ金属化合物に加えて、さらに上記無機酸化物を含有するものである場合、混合物中における上記無機酸化物の含有割合は、固形分換算したときに、合計で、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0060】
また、原料混合物は、調製時に所定量のアルコール類を添加してなるものであることが好ましい。
上記アルコール類としては、メタノール、エタノール、アミルアルコール、アリルアルコール、プロパギルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エリトロール、2−プテン−1,4−ジオール、グリセリン、ペンタエリトリット、アラビット、ソルビット、ペプチット、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン等から選ばれる一種以上を挙げることができ、これらのなかでも沸点の比較的低いメタノールまたはエタノールが好ましい。
【0061】
原料混合物は、前述したように所望量のチタン化合物、アルカリ金属化合物および必要に応じて上記無機酸化物等を混合することにより調製することができるが、チタン化合物とアルカリ金属化合物とを粉砕・混合する際に、混合装置内部の温度を添加するアルコール類の沸点以上に加熱して行い、アルコール類を気化させながら粉砕混合することが好ましい。これにより装置内部におけるチタン化合物等の付着や固着を抑制しつつ、チタン化合物とアルカリ金属化合物とがより均一に分散した原料混合物を得ることができる。
【0062】
また、原料混合物は、所定量の凝集防止剤や潤滑剤等の添加剤をさらに含むものであることが好ましい。
【0063】
上記添加剤としては、チタン化合物およびカリウム化合物を含む原料混合物を焼成する際に、分解、燃焼あるいは気化することにより、得られるチタン酸カリウム中に残存しないものが好ましく、このような添加剤としては、例えば、セルロース類、脂肪酸類、糖類、穀物物、尿素類、ポリマー等を挙げることができる。
【0064】
上記添加剤として、具体的には、メチルセルロース、リグニン、木粉、パルプ粉、天然繊維粉、ステアリン酸、ステアリン酸アンモニウム、ソルビタンジステアレート、キシロース、ブドウ糖、ガラクトース、ショ糖、澱粉、デキストリンなどの糖類、小麦粉、大豆粉、米粉、糖、尿素、ビウレア、セミカルバジッド、炭酸グアニジン、アミノグアニジン、アゾジカルボンアミド、アクリル樹脂粉、ポリプロピレン粉末、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末等から選ばれる一種以上を挙げることができ、特に固体粉末状あるいは固体ペレット状である木粉、パルプ粉、天然繊維粉から選ばれる一種以上が好ましい。
【0065】
本発明のチタン酸アルカリの製法において、原料混合物が、チタン化合物およびアルカリ金属化合物以外に、上記アルコール類や添加剤をさらに含有するものである場合、上記アルコール類および添加剤の混合物中の含有割合は、その合計が、0.1〜3.0質量%であることが好ましく、0.3〜1.0質量%であることがより好ましい。
【0066】
原料混合物は、必要により、さらに金属チタン粉あるいは水素化チタン粉を含むものであってもよい。
原料混合物中における金属チタン粉または水素化チタン粉の含有量は、チタン化合物中のチタン原子1モルに対して0.01〜0.2モルであることが好ましく、0.03〜0.1モルであることがより好ましい。
【0067】
原料混合物が金属チタン粉や水素化チタン粉を含むものであることにより、後述する焼成時に反応容器内で同時に燃焼して反応容器内部における温度分布の偏りを抑制し、反応をより均一に行うことができ、結果として目的組成のチタン酸カリウムを容易に得ることができる。
【0068】
原料混合物は、チタン化合物、アルカリ金属化合物および必要に応じて上記無機酸化物等を混合することにより調製することができ、これ等の成分を混合する方法としては、乾式混合法または湿式混合法のいずれも採用することができるが、工程簡略化の観点から乾式混合法が好ましい。
【0069】
チタン化合物およびアルカリ金属化合物と、必要に応じて加えられる無機酸化物等の混合は、公知の混合手段を用いて行うことが好ましく、当該混合手段としては、振動ミル、振動ロッドミル、振動ボールミル、ビーズミル、ターボミル、遊星ボールミル等の機械的粉砕手段から選ばれる一種以上が好ましく、粉砕メディアとして棒状のロッドを充填した振動ロッドミルがより好ましい。
【0070】
振動ロッドミルを用いて混合する場合、混合条件は、振幅幅が2mm〜6mm、処理時間が10分〜120分であることが好ましい。
【0071】
振動ロッドミルを用いて混合することにより、チタン化合物とアルカリ金属化合物とを共粉砕しながら混合することができ、ロッド間である程度粒径の大きい粉末を粉砕できる一方、ボールミルで処理した場合のようにより細かい粉末の過粉砕を抑制することができる。
【0072】
特にチタン化合物として酸化チタンを使用する場合、酸化チタンは、元来、表面に存在する水酸基のために付着性が強く、また粒径が小さくなるほど比表面積も大きくなるため、過粉砕されると装置内部に粉砕物が固着され易くなるが、振動ロッドミルを用いて混合することにより、このような粉砕物の固着が抑制され、他の混合方法に比較して均一に粉砕混合することができる。
【0073】
また、振動ロッドミルを用いて混合することにより、チタン化合物として二酸化チタンの凝集体または造粒体を用いた場合においても、二酸化チタンの粗大粒子を粉砕して解砕し、一次粒子等の微細粉末の過粉砕が抑制されるため、二酸化チタンの装置内部での固着が抑制され、均一に混合することができる。
【0074】
また、チタン化合物、アルカリ金属化合物、および必要に応じて無機酸化物等を湿式混合法により混合して原料混合物を調製する場合、混合溶媒としては、純水、アルコール、アセトン、MEK、THF等の通常使用される有機溶媒等から選ばれる一種以上が挙げられるが、混合粉末の分散性を向上させて均一に混合させるために、界面活性剤や分散剤を併用することが好ましい。
【0075】
チタン化合物およびアルカリ金属化合物を含む原料混合物を、好適には、焼成温度950℃〜1050℃、もしくは1150℃〜1400℃で加熱、焼成する。
上記焼成温度が950℃〜1050℃であれば、チタン酸アルカリの長手方向(長径方向)の粒子成長が阻害され、アスペクト比が小さく球形状のチタン酸アルカリを製造することができ、また、上記焼成温度が1150℃〜1400℃であれば粒成長が促進され、得られる焼成粉の太さ(短径)がさらに太く(長く)なる。
比表面積が0.3〜1.4m
2/gで平均粒径が50〜80μmのチタン酸カリウムを収率良く得る上では、上記焼成温度が1150℃〜1400℃であることが好ましい。
【0076】
焼成を行う方法としては、反応容器内に原料混合物を装入した状態で焼成する方法、原料混合物にバインダーなどを添加して所望形状の成型体に成形した上で焼成する方法や、原料混合物をロータリーキルン等に導入して流動状態で焼成する方法を挙げることができ、焼成プロファイルを考慮した場合、ロータリーキルン等のような流動状態で焼成する方法が好ましい。
【0077】
焼成時に用いられる反応容器や炉材としては、セラミックス製のものが好ましく、具体的には、アルミナ等のセラミックス材料からなるものを挙げることができる。上記焼成時に用いられる反応容器や炉材の形状としては、円筒状物、凹部を有する円柱状物、凹部を有する方形状物、皿状物等が挙げられる。
【0078】
上記セラミックス製反応容器や炉材に原料混合物を接触させるにあたり、セラミックス製反応容器や炉材との接触部に焼成時に炭化する材質からなるシート材を介在させることが好ましい。
【0079】
焼成時に炭化する材質からなるシート材は、焼成時に焼失すると共に軟化物または流動物を生成しない材質からなるものが好ましく、具体的には、紙、天然繊維、樹皮または熱硬化性樹脂等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0080】
焼成時に炭化する材質からなるシート材が紙である場合、例えば、塩化ビニール等のように炭化し難く軟化するものが張り合わされていないものが好ましく、いわゆる未晒クラフト紙、両更晒クラフト紙、片艶晒などの包装用紙、段ボール原紙、新聞用紙、上質紙、中質紙、再生紙、書籍用紙、キャストコート紙、アート紙、PPC用紙などの情報用紙等が挙げられる。
【0081】
また、焼成時に炭化する材質からなるシート材が天然繊維である場合、例えば、綿、麻、絹等が挙げられ、焼成時に炭化する材質からなるシート材が熱硬化性樹脂である場合、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
【0082】
焼成時に炭化する材質からなるシート材の形態は、シート、織布、不織布または袋等を挙げることができる。
【0083】
混合物の焼成時に、セラミックス製反応容器や炉材との接触部に焼成時に炭化する材質からなるシート材を介在させることにより、焼成時に原料混合物中のアルカリ金属化合物が溶融して原料ロスを生じたり、セラミックス製反応容器や炉材に溶融したアルカリ金属化合物が浸透することを回避することができる。
【0084】
上記シート材は、例えば、セラミックス製反応容器に設けられる凹部内側の底部に静置した上で混合物を導入することにより、カリウム化合物のロスや、カリウム化合物のセラミックス製反応容器への浸透を好適に回避することができる。
また、上記シート材は、例えば、セラミックス製反応容器に設けられる凹部の内壁全体に設置した上で混合物を導入することにより、カリウム化合物のロスや、カリウム化合物のセラミックス製反応容器への浸透をより好適に回避することができる。
【0085】
本発明のチタン酸アルカリの製法において、最高焼成温度は、970℃〜1040℃であることが好ましく、1200℃〜1350℃であることがより好ましい。
【0086】
最高焼成温度を上記範囲内に制御することにより、得られるチタン酸アルカリの単相化率が向上するとともに、ファイバー率を低減することができる。
【0087】
また、上記最高焼成温度までの昇温速度は、特に限定されないが、2℃/分〜70℃/分であることが好ましい。
最高焼成温度の焼成時間は、10分間以上であることが好ましく、20〜480分間であることがより好ましい。
また、上記最高焼成温度から500℃までの降温速度は、2℃/分〜300℃/分であることが好ましい。
最高焼成温度からの降温速度を上記のとおり規定することにより、得られるチタン酸アルカリのファイバー率を一層低減することができる。
【0088】
上記焼成処理によって得られたチタン酸アルカリ焼成物を粉砕する。
上記粉砕を行う粉砕手段としては、上記チタン化合物およびアルカリ金属化合物の混合時に使用する混合手段と同様のものを挙げることができ、振動ミル(振動ロッドミル、振動ボールミル等)、衝撃型粉砕機(高速回転ミル、分級機内蔵型高速回転ミル、容器駆動媒体ミル、媒体攪拌式ミル、気流式粉砕機等)等から選ばれる一種以上を挙げることができ、振動ロッドミルが好ましい。より好ましくは、上記焼成工程で得られた焼成粉を振動ミルおよび衝撃型粉砕機を組み合わせて粉砕すると、チタン酸アルカリ中のファイバー率を低減しやすくなる。
【0089】
振動ロッドミルを用いて焼成物を粉砕する場合、粉砕条件は、振幅幅2〜6mm、焼成物の投入速度が20〜100kg/時間、処理時間が1.5〜7.5時間であることが好ましい。
【0090】
分級機内蔵型高速回転ミルを用いて焼成物を粉砕する場合、粉砕条件は、回転数が40000〜100000rpm、焼成粉の投入速度が20〜100kg/時間、処理時間が1.5〜7.5時間であることが好ましい。
【0091】
上記焼成処理により得られた焼成物は、柱状の太さ(短径)方向の長さが増大したチタン酸カリウム結晶を含むものであるが、その多くが比較的強く密着した凝集体であることから、上記粉砕処理により、所望の粒径まで粉砕することができる。
【0092】
上記粉砕処理によって得られる粉砕物は、必要に応じてさらに分級処理または篩分け処理することにより、所望のチタン酸アルカリを得ることができる。
得られたチタン酸カリウムは、耐熱性に優れることから、摩擦調整剤等として好適に使用することができる。
【0093】
本発明によれば、ファイバー状のチタン酸カリウムの含有割合が高度に低減されるとともに、付着性が大幅に低減されたチタン酸アルカリを提供することができる。
【0094】
次に、本発明の摩擦材について説明する。
本発明の摩擦材は、本発明のチタン酸アルカリを含むことを特徴とするものである。
【0095】
本発明に係る摩擦材の具体例としては、例えば基材繊維、本発明のチタン酸アルカリ等からなる摩擦調整剤および結合剤を含む摩擦材を例示することができる。
【0096】
基材繊維としては、例えば、アラミド繊維等の樹脂繊維、スチール繊維、黄銅繊維等の金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ロックウール、木質パルプ等から選ばれる一種以上が挙げられる。
これ等の基材繊維は、分散性および結合剤との密着性向上のためにアミノシラン系、エポキシシラン系またはビニルシラン系等のシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤あるいはリン酸エステル等の表面処理を施して用いてもよい。
【0097】
摩擦調整剤としては、本発明のチタン酸アルカリに加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の摩擦調整剤を併用してもよい。
他の摩擦調整剤として、例えば、加硫または未加硫の天然ゴム、合成ゴム粉末、カシュー樹脂粉末、レジンダスト、ゴムダスト等の有機物粉末、カーボンブラック、黒鉛粉末、二硫化モリブデン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、タルク、ケイソウ土、アンチゴライト、セピオライト、モンモリロナイト、ゼオライト、三チタン酸ナトリウム、五チタン酸ナトリウム、8チタン酸カリウム等の無機質粉末、銅、アルミニウム、亜鉛、鉄等の金属粉末、アルミナ、シリカ、酸化クロム、酸化チタン、酸化鉄等の酸化物粉末等から選ばれる一種以上が挙げられる。
【0098】
結合剤としては、フェノール樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂、天然ゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリイソプレンゴム、アクリルゴム、ハイスチレンゴム、スチレンプロピレンジエン共重合体等のエラストマー、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性液晶ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂等の有機質結合剤およびアルミナゾル、シリカゾル、シリコーン樹脂等の無機質結合剤から選ばれる一種以上を例示できる。
【0099】
また、前記各成分に加えて、必要に応じて防錆剤、潤滑剤、研削剤等の成分を配合することができる。
【0100】
本発明の摩擦材を製造する方法は、特に制限されず、従来公知の摩擦材の製造方法に準じて適宜製造することができる。
【0101】
本発明の摩擦材を製造する方法の一例としては、基材繊維を結合剤中に分散させ、摩擦調整剤および必要に応じて配合されるその他の成分を組み合わせて配合して摩擦材組成物を調製し、次いで金型中に該組成物を注入し加圧加熱して結着成形する方法を例示できる。
【0102】
また、他の一例を挙げれば、結合剤を二軸押出機にて溶融混練し、サイドホッパーから基材繊維、摩擦調整剤および必要に応じて配合されるその他の成分を組み合わせて配合し、押出成形後、所望の形状に機械加工する方法を例示できる。
【0103】
また、他の一例を挙げれば、摩擦材組成物を水等に分散させ抄き網上に抄き上げ、脱水してシート状に抄造した後、プレス機にて加熱加圧し結着成形し、得られた摩擦材を適宜切削・研磨加工して所望の形状とする方法を例示できる。
【0104】
本発明の摩擦材は、本発明のチタン酸アルカリを摩擦材原料として使用していることから、安定した摩擦係数を有している。
従って、本発明の摩擦材は、自動車、鉄道車両、航空機、各種産業用機器類等に用いられる制動部材用材料、例えばクラッチフェーシング用材料およびブレーキライニングやディスクパッド等のブレーキ用材料等として、制動機能の向上、安定化の改善効果を発揮することができる。
【実施例】
【0105】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の例により何ら制限されるものではない。
【0106】
(実施例1)
1.原料
チタン原料(チタン化合物)として、比表面積9m
2/gの酸化チタン(COSMO CHEMICAL CO., LTD.社製 純度98.8%)54.27kgと、比表面積1.6m2/gの酸化チタン(Rio Tinto Fer et Titane inc.社製 94.7%)47.60kgとを使用した。
また、アルカリ原料(アルカリ金属化合物)として、炭酸カリウム(Unid Co., Ltd.社製、純度99.9%)27.09kg、炭酸ナトリウム(株式会社トクヤマ社製 純度99.5%)1.03kg、炭酸リチウム(Sichuan Tianqi lithium industries, inc.製 純度98.8%)0kgを各々使用した。
上記各原料の使用量を表1に示す。
【0107】
2.混合
振動ロッドミル(中央化工機(株)製)に、上記量の原料と、変性アルコール(三協化学株式会社製)を投入して、20分混合することにより、混合原料粉(原料混合物)を得た。
【0108】
3.焼成
上記混合原料粉(原料混合物)をコージライトとムライトの材質の匣鉢にいれ、箱型電気炉(株式会社モトヤマ社製)にて、表2に示すように、大気中、焼成温度980℃で0.5時間焼成処理を行った。
【0109】
4.粉砕
得られた焼成粉を、50kg/hの速度で、振動ロッドミル(中央化工機株式会社製)、引き続きACMパルベライザー(ホソカワミクロン社製)に投入し、粉砕を行った。
得られたチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを1.9モル、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを0.1モル含むものであり(6チタン酸1モルに対する、カリウム原子換算した酸化カリウム、ナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよびリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が2.0モルであるものであり)、主結晶が6チタン酸カリウムと同様にトンネル構造を採るものであった。
得られたチタン酸アルカリの単相化率、ファイバー率、含水率、付着性度、比表面積、平均粒径を表3に示す。これら物性の測定方法は、明細書本文に示した通りである。
【0110】
(実施例2)
「1.原料」において、それぞれの原料量を表1のとおり変更し、「3.焼成」の焼成条件を表2の通り変更した以外は実施例1と同じ方法でチタン酸アルカリを得た。
得られたチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを1.9モル、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを0.1モル含むものであり(6チタン酸1モルに対する、カリウム原子換算した酸化カリウム、ナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよびリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が2.0モルであるものであり)、主結晶が6チタン酸カリウムと同様にトンネル構造を採るものであった。
得られたチタン酸アルカリの単相化率、ファイバー率、含水率、付着性度、比表面積、平均粒径を表3に示す。
【0111】
(実施例3)
「1.原料」において、それぞれの原料量を表1のとおり変更した以外は実施例1と同じ方法でチタン酸アルカリを得た。
得られたチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを1.3モル、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを0.7モル含むものであり(6チタン酸1モルに対する、カリウム原子換算した酸化カリウム、ナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよびリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が2.0モルであるものであり)、主結晶が6チタン酸カリウムと同様にトンネル構造を採るものであった。
得られたチタン酸アルカリの単相化率、ファイバー率、含水率、付着性度、比表面積、平均粒径を表3に示す。
【0112】
(実施例4)
「1.原料」において、それぞれの原料量を表1のとおり変更した以外は実施例1と同じ方法でチタン酸アルカリを得た。
得られたチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを1.0モル、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを1.0モル含むものであり(6チタン酸1モルに対する、カリウム原子換算した酸化カリウム、ナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよびリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が2.0モルであるものであり)、主結晶が6チタン酸カリウムと同様にトンネル構造を採るものであった。
得られたチタン酸アルカリの単相化率、ファイバー率、含水率、付着性度、比表面積、平均粒径を表3に示す。
【0113】
(実施例5)
「1.原料」において、それぞれの原料量を表1のとおり変更した以外は実施例1と同じ方法でチタン酸アルカリを得た。
得られたチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを1.8モル、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを0.1モル、リチウム原子換算で酸化リチウムを0.1モル含むものであり(6チタン酸1モルに対する、カリウム原子換算した酸化カリウム、ナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよびリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が2.0モルであるものであり)、主結晶が6チタン酸カリウムと同様にトンネル構造を採るものであった。
得られたチタン酸アルカリの単相化率、ファイバー率、含水率、付着性度、比表面積、平均粒径を表3に示す。
【0114】
(実施例6)
「1.原料」において、それぞれの原料量を表1のとおり変更した以外は実施例1と同じ方法でチタン酸アルカリを得た。
得られたチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを0.8モル、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを0.6モル、リチウム原子換算で酸化リチウムを0.6モル含むものであり(6チタン酸1モルに対する、カリウム原子換算した酸化カリウム、ナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよびリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が2.0モルであるものであり)、主結晶が6チタン酸カリウムと同様にトンネル構造を採るものであった。
得られたチタン酸アルカリの単相化率、ファイバー率、含水率、付着性度、比表面積、平均粒径を表3に示す。
実施例1〜実施例6のチタン酸アルカリの主結晶は、K、Na、Liを含む不純物相が見られなかったことから、一般式K
aNa
bLi
cTi
6O
13(ただし、0.5≦a≦2.2、0.05≦b≦1.4、0≦c≦1.4、1.8≦a+b+c≦2.3である。)で示されるチタン酸アルカリに含まれるものであった。
【0115】
(比較例1)
「3.焼成」において、焼成条件を表2のとおり変更した以外は実施例1と同じ方法でチタン酸アルカリを得た。
得られたチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを1.9モル、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを0.1モル含むものであり(6チタン酸1モルに対する、カリウム原子換算した酸化カリウム、ナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよびリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が2.0モルであるものであり)、主結晶が6チタン酸カリウムと同様にトンネル構造を採るものであった。
得られたチタン酸アルカリの単相化率、ファイバー率、含水率、付着性度、比表面積、平均粒径を表3に示す。
【0116】
(比較例2)
「3.焼成」において、焼成条件を表2のとおり変更した以外は、実施例1と同じ方法でチタン酸アルカリを得た。
得られたチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを1.9モル、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを0.1モル含むものであり(6チタン酸1モルに対する、カリウム原子換算した酸化カリウム、ナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよびリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が2.0モルであるものであり)、主結晶が6チタン酸カリウムと同様にトンネル構造を採るものであった。
得られたチタン酸アルカリの単相化率、ファイバー率、含水率、付着性度、比表面積、平均粒径を表3に示す。
【0117】
(比較例3)
「1.原料」において、それぞれの原料量を表1のとおり変更した以外は、実施例1と同じ方法でチタン酸アルカリを得た。
得られたチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを2.0モル含むものであり(6チタン酸1モルに対する、カリウム原子換算した酸化カリウム、ナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよびリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が2.0モルであるものであり)、主結晶が6チタン酸カリウムと同様にトンネル構造を採るものであった。
得られたチタン酸アルカリの単相化率、ファイバー率、含水率、付着性度、比表面積、平均粒径を表3に示す。
【0118】
(比較例4)
「1.原料」において、それぞれの原料量を表1のとおり変更した以外は、実施例1と同じ方法でチタン酸アルカリを得た。
得られたチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを0.4モル、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを1.6モル含むものであり(6チタン酸1モルに対する、カリウム原子換算した酸化カリウム、ナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよびリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が2.0モルであるものであり)、主結晶が6チタン酸カリウムと同様にトンネル構造を採るものであった。
得られたチタン酸アルカリの単相化率、ファイバー率、含水率、付着性度、比表面積、平均粒径を表3に示す。
【0119】
(比較例5)
「1.原料」において、それぞれの原料量を表1のとおり変更した以外は、実施例1と同じ方法でチタン酸アルカリを得た。
得られたチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを0.4モル、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを0.1モル、リチウム原子換算で酸化リチウムを1.6モル含むものであり(6チタン酸1モルに対する、カリウム原子換算した酸化カリウム、ナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよびリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が2.1モルであるものであり)、主結晶が6チタン酸カリウムと同様にトンネル構造を採るものであった。
得られたチタン酸アルカリの単相化率、ファイバー率、含水率、付着性度、比表面積、平均粒径を表3に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
(実施例7)
実施例1で得られたチタン酸アルカリを用いて摩擦材を作製した。
摩擦材原料として、実施例1で作製したチタン酸アルカリとともに、フェノール樹脂、人造黒鉛、硫酸バリウム、消石灰、三硫化アンチモン、ゼオライト、四三酸化鉄(Fe3O4)、銅繊維、カシューダスト、ゴムダスト、アラミド繊維、ロックウール、金雲母およびジルコニアを表4に示す混合割合で混合することにより、摩擦材原料混合粉とした。
得られた摩擦材原料混合粉を200kgf/cm
2で予備成形し、得られた予備成形物を70℃で2時間予熱した後、180℃、400kgf/cm
2で熱成形を行い、次いで、250℃で3時間熱処理することにより、縦20mm、横50mm、厚さ16mmの摩擦材を得た。
得られた摩擦材の摩擦係数を、摩擦材評価の欧州規格であるAK−MASTERに準拠して測定した。CHARACTERISTIC VALUE(AK−MASTER CHAPTER3)の摩擦係数の平均値を表5に示す。
【0124】
(実施例8)
実施例1で得られたチタン酸アルカリを実施例2で得られたチタン酸アルカリに変更した以外は、実施例7と同様にして摩擦材を作製し、実施例7と同様の方法で得られた摩擦材の摩擦係数の平均値を求めた。結果を表5に示す。
【0125】
【表4】
【0126】
【表5】
【0127】
表3より、実施例1〜実施例6で得られたチタン酸アルカリは、6チタン酸1モルに対し、カリウム原子換算で酸化カリウムを0.5〜2.2モル、ナトリウム原子換算で酸化ナトリウムを0.05〜1.4モル、リチウム原子換算で酸化リチウムを0〜1.4モル含み、6チタン酸1モルに対する、カリウム原子換算した酸化カリウム、ナトリウム原子換算した酸化ナトリウムおよびリチウム原子換算した酸化リチウムの合計含有量が1.8〜2.3モルであり、単相化率が85〜100%、ファイバー率が0〜10体積%、含水率が0〜1.0質量%であるものであることにより、ファイバー状のチタン酸カリウムの含有割合が高度に低減されるとともに、付着性が大幅に低減されたチタン酸アルカリを提供できることが分かる。
また、表5より、上記チタン酸アルカリを用いて得られた摩擦材は、良好な摩擦材評価結果を示し、実用化されている摩擦材にくらべ、遜色ない摩擦係数を示すことが分かる。
【0128】
一方、表3より、比較例1〜比較例5で得られたチタン酸アルカリは、特定組成を有するものでなかったり(比較例3、比較例4)、単相化率が低かったり(比較例2)、ファイバー率が高かったり(比較例1)、含水率が高い(比較例2、比較例4および比較例5)ものであるために、ファイバー状のチタン酸カリウムの含有割合が高く成形性や分散性に劣るものであったり、付着性に劣るものであることが分かる。