(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706634
(24)【登録日】2020年5月20日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】車両を操舵する方法、自動車用のコントローラおよび自動車
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20200601BHJP
B62D 7/15 20060101ALI20200601BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20200601BHJP
B60W 10/20 20060101ALI20200601BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20200601BHJP
B60W 10/184 20120101ALI20200601BHJP
B60W 30/12 20200101ALI20200601BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20200601BHJP
B62D 111/00 20060101ALN20200601BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20200601BHJP
B62D 137/00 20060101ALN20200601BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D7/15
B60W10/00 134
B60W10/00 132
B60W10/04
B60W10/184
B60W30/12
B62D101:00
B62D111:00
B62D113:00
B62D137:00
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-566705(P2017-566705)
(86)(22)【出願日】2016年5月23日
(65)【公表番号】特表2018-525263(P2018-525263A)
(43)【公表日】2018年9月6日
(86)【国際出願番号】EP2016061531
(87)【国際公開番号】WO2017001116
(87)【国際公開日】20170105
【審査請求日】2019年1月25日
(31)【優先権主張番号】102015212229.8
(32)【優先日】2015年6月30日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500045121
【氏名又は名称】ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(72)【発明者】
【氏名】シュトラートマン・ユリアン
(72)【発明者】
【氏名】ハルトマン・アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェストファル・オーリヴァー
【審査官】
飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−181625(JP,A)
【文献】
特開2012−121380(JP,A)
【文献】
特開2010−132100(JP,A)
【文献】
特開平05−178225(JP,A)
【文献】
特開平11−129927(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/136456(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0225914(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0114431(US,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第02253528(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B60W 10/00−50/16
B62D 7/15
B62D 101/00 −137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフロントアクスルステアリング(4)および特にリアアクスルステアリング(5)を有する車両(1)を操舵する方法において、
車両(1)の軌道(T)を保持するために、リアアクスル(HA)への介入を行い、
その場合に前輪(2)のセルフアライニングを防ぐためにフロントアクスルステアリング(4)への介入を行うことで、フロントアクスルステアリング(4)および/または車輪(2)に、前輪(2)のセルフアライニングに抗する力或いはトルク(MH)を加えて、ドライバーに気付かれないようにそのときのステアリングホイール角ないし車輪操舵角を維持する一方、そのように維持されたステアリングホイール角ないし車輪操舵角がドライバーによりいつでも変更可能とされ、その保持位置からの解放が、ドライバーに気付かれないように行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
リアアクスルステアリング(5)を用いたリアアクスル(HA)への介入により、後輪(3)の車輪操舵角(δh)を変化させることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、
アクティブな後軸作動装置を用いるか又は車輪別の駆動部を用いてリアアクスル(HA)に介入することにより、駆動トルクおよび/または制動トルクによりヨーイングモーメントMGを操作することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1,2または3に記載の方法において、
車両ダイナミック制御、特にESCを用いてリアアクスル(HA)に介入することにより、制動トルクによりヨーイングモーメントMGを操作することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法において、
フロントアクスルステアリング(4)における介入により、所定の車輪操舵角(δv)をフロントアクスルステアリング(4)において少なくとも一時的に設定することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法において、
フロントアクスルステアリング(4)への介入および/またはリアアクスルステアリング(HA)への介入を、スパーインポーズドステアリングを用いるか又は電気的操舵(ステアバイワイヤ)を用いるか又は電気機械式操舵を用いるか又は電気油圧式操舵を用いることにより行うことを特徴とする方法。
【請求項7】
少なくともフロントアクスル(VA)において、特にはさらにリアアクスル(HA)において操舵可能な車両(1)、好ましくは自動車のためのコントローラ(SG)において、
車両(1)の車線を維持するために、少なくとも車両速度、ギヤ比、加速度に関する車両パラメータ並びに各車輪(2,3)の車輪操舵角(δv,δh)とは少なくとも独立に、リアアクスル(HA)および/またはフロントアクスル(VA)への介入を行うことができ、フロントアクスルステアリング(4)および/または車輪(2)に、前輪(2)のセルフアライニングに抗する力或いはトルク(MH)を加えて、ドライバーに気付かれないようにそのときのステアリングホイール角ないし車輪操舵角を維持する一方、そのように維持されたステアリングホイール角ないし車輪操舵角がドライバーによりいつでも変更可能とされ、その保持位置からの解放を、ドライバーに気付かれないように行うことを特徴とするコントローラ(SG)。
【請求項8】
コントローラ(SG)は、車両(1)の車線を維持するように、車線維持のために追加的に車両周辺認識部(F)の信号を評価する請求項7に記載のコントローラ。
【請求項9】
フロントアクスルステアリングおよびリアアクスルステアリング(4,5)並びに請求項7または8に記載のコントローラ(SG)を有する車両(1)、特に自動車において、
後輪操舵(5)および/またはアクティブな後軸作動装置によるヨーイングモーメントMGの操作および/または車両ダイナミック制御による操舵中に、フロントアクスルステアリング(4)が少なくとも一時的に固定され、これにより前輪(2)に設定された車輪操舵角(δv)が少なくとも一時的に固定可能とされていることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントアクスルステアリングおよび特にリアアクスルステアリングを有する車両の操舵ないし操縦のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景にある問題は、車両、特に自動車の車線維持ないし進路安定化にある。この問題を解決するために、現在の車両でも用いられている所謂先進運転支援システム、特に車線逸脱防止支援システム(レーン・キーピング・アシスト)が提案された。パッシブな車線逸脱防止支援システムでは、ドライバーは、車線から離れたときに視覚的、聴覚的或いは触覚による信号によって、例えばステアリングホイールやシートの振動によって、車線から離れたことに気付かせられる。アクティブな斜線逸脱防止支援システムでは、コントローラが前輪操舵に介入する。具体的には、ステアリングホイールと前輪の旋回角度が生成される。ドライバーはこれに気付いて多くは不快な干渉として感じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許第112004001258号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、車両の車線維持と進路安定化におけるさらなる可能性を引き出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この解決手段は、独立特許請求項の特徴部に記載されている。有利な実施形態は、下位請求項に与えられている。
【0006】
特許文献1より公知のステアリングシステムでは、二つのステアリングの一方が機能不全のときに、その働かないステアリングがオフにされ、ゼロに設定され(直進走行)、他方の動作可能なステアリングだけが引き続き使用される。例えばフロントアクスルステアリングが効かなくなると、フロントアクスルステアリングは中心に揃えられてオフにされ、車両はリアアクスルステアリングだけで操舵される。
【0007】
本発明により、車両の進路安定化または車線維持ないし軌道の保持のために、リアアクスルへの介入が行なわれ、前輪のセルフアライニングを防ぐためにフロントアクスルステアリングへの介入が行なわれる。
【0008】
リアアクスルへの介入とは、車輪操舵角の変更を伴う個別的ないし包括的な後輪の操舵だけでなく、リアアクスルにおける車輪の意図に沿った減速と加速をも意味する。いずれの場合も、上記の介入により、車両の垂直軸周りのヨーイングモーメントと、それに伴うフロントアクスルないし前輪に働く横力とが生じる。
【0009】
前輪は、キャスター(キャスタートレール)を有してフロントアクスルに連結されているので、後部が或る方向に向きを変えるときには、フロントアクスルでは、その反対方向に横力が発生する。後輪を後方の外方右側に操舵する際には、前輪は、前輪のキャスターのために概ね後輪と同じ方向に揃おうとする。こうして車両は、最終的には一種の横平行移動(蟹の横ばい)の状態になる。リアアクスルにおいて車両の向きを変える効果が低減する。このことは、前輪の車輪操舵角が少なくとも一時的に固定されれば回避することができる。
【0010】
キャスターつまりキャスタートレールとは、キャスター点(Spurpunkt)(キングピン軸(Lenkungsdrehachse)が路面を通る通過点)と車輪接地点との間の縦方向における距離をいう。キングピン軸の車輪が追従するように、車輪接地点はキャスター点の走行方向後方にある(正のキャスター)のが普通である。こうして、ちょうどショッピングカートを押すときのように、車輪は自ずから所望の方向に回動することになる。このキャスターによって、ステアリング操作の際にセルフアライニングモーメントが発生する。カーブ走行中のセルフアライニングモーメントは、操舵の際に感じることができる。ドライバーは、それによって横方向加速度とともにコーナリングとタイヤ‐道路間接触についての手応えを得る。
【0011】
得られる利点は従って、この介入により車線が維持されつつも実際にはドライバーに気付かれない点にある。つまり、ドライバーは、ステアリングホイールによって自分が決めた走行方向ないし軌道(車両の移動経路または行路)を走行しつつも何の変動も感じず、そのため、通常であればアクティブな操舵の際には感じるようなステアリングホイールにおけるトルクをほぼ何も感じない。リアアクスルへの介入が運転者支援として一層作用するとともに、フロントアクスルにおけるステアリング介入のおかげで干渉として気付かれることがない。これにより操舵の疲れの少ない走行ができ、快適で車線信頼性のある走行として認識される。車両が(少なくとも不慣れなドライバーにとって)コントロール不能なオーバーステアとなるときは、この介入はまた車両を安定させるように働く。
【0012】
この方法の好ましい変形例によれば、専らリアアクスルへの介入は後輪における車輪操舵角の変更により行なわれる。つまり、ボディに対する後輪の車輪旋回角(Radeinschlag)を変更することにより行なわれる。後輪の車輪旋回角(Radeinschlag)を直接的あるいはタイロッドを介して生じさせる少なくとも一つの駆動部ないしアクチュエータは、制御装置ないしコントローラから然るべき信号を得て所望の後輪操舵角を設定する。ここで、この少なくとも一つのアクチュエータは、各車輪を回転可能に支持する一つの或いは複数のハブキャリア(Radtraeger)(このハブキャリアに車輪操舵角が設定されなければならない。)にそれぞれ連結されている。
【0013】
さらに他の好ましい方法の変形例によれば、介入は、様々な駆動トルクないし制動トルクが後輪に作用することでヨーイングモーメントに影響を与えることにより行なわれる。
【0014】
これは例えば、少なくとも一つの後輪における駆動モーメントを増加させることで、或いは、少なくとも一つの後輪を制動することで得ることができる。駆動モーメントの個別配分(トルクベクタリング或いはアクティブ・ヨー・コントロールとも呼ばれる。)は、アクティブ後軸作動装置を用いて可能であるが、このアクティブ後軸作動装置は、そのために例えば特別に切替え可能なクラッチを有している。
【0015】
この種の後軸作動装置の代わりに、車輪別の駆動部、例えば電気モータを用いても同じ作用を得ることができる。このようにして、独立懸架式サスペンション内に或いはトーションビーム式サスペンション内に構成されている個別車輪駆動部を設けてもよい。
【0016】
代替的または追加的に、リアアクスルへの介入は、例えばESC/ESP(エレクトリック・スタビリティ・コントロール(横滑り防止装置)(Electronic Stability Control)/エレクトリック・スタビリティ・プログラム)といった車両ダイナミック制御を用いても可能である。これにより、少なくとも一つの車輪を意図に沿って制動できるようになる。
【0017】
トルクベクタリングを用いたリアアクスルでの介入は、ESC/ESPによるのと同様、垂直軸周りのヨーイングモーメントを生じさせ、車輪トルク(Radmoment)のコントロールされた再配分を通して車両に操舵作用をもたらす。リアアクスルにおける車輪のステアリング動作の作用は、これとは異なっている。しかしながら結局は、所望ないし自在の車両操舵が可能である。
【0018】
前輪は、後輪の操舵の際に或いは車両にヨーイングモーメントが働く際に、フロントアクスルの幾何学的構造ないし従来のサスペンションに起因して、キャスターを持つ前輪において、この前輪がセルフアライニング、つまりは逆の車輪操舵角変化をしようとするように反応することが知られている。これが、リアアクスルへの介入をあまり効果のないものにしている。
【0019】
好ましくは、前輪のセルフアライニングを回避するために、フロントアクスルステアリングへの介入が行なわれ、逆向きのモーメント或いは反対方向の力をフロントアクスルステアリングに加え、この力が、前輪のセルフアライニングとは逆向きに作用し、それによりそのときのステアリングホイール角ないし車輪操舵角が変るのを防ぐ。
【0020】
他の好ましい実施例によれば、フロントアクスルステアリングへの介入は、前輪において、少なくとも一時的に、目下設定されている車輪操舵角を維持したり或いは一つの車輪操舵角を設定したりするようにして行なわれる。これにより、リアアクスルへの上述の介入による前輪ないしステアリングホイールへのセルフアライニングの効果は遮断される。
【0021】
とはいえこの方法は、いかなる場合であっても、ドライバーがフロントアクスルにおいて少なくとも一時的に維持された車輪操舵角をいつでもオーバーステアできる、つまり車両に他の方向をいつでも設定できるものとされている。その場合、少なくとも一時的な上記の保持位置からの解放は、ドライバーに気付かれないように行われるのが理想である。
【0022】
他の好ましい方法の変形例によれば、フロントアクスルステアリングへの介入は、ステアリングホイールおよび/またはステアリングロッドおよび/またはタイロッドの経路または角度位置について前輪が位置調節されることにより行なわれる。これにより介入の種類にさらなる選択肢が与えられ、その場合、追加的ないし代替的に、一時的な固定のために舵角が変更される。この変更は、現状の舵角に対して舵角を減らしたり増やしたりするものにでき、この増減が一時的な固定の前か或いは後に行なわれる。
【0023】
他の好ましい方法の変形例によれば、フロントアクスルステアリングへの介入は、スパーインポーズドステアリング或いは電気的操舵(ステアバイワイヤ)を用いて行なわれる。スパーインポーズドステアリングは、公知であり、今の車両に搭載されているものであるが、このスパーインポーズドステアリングでは、ハンドルの旋回角(Einschlagwinkel)ないしステアリングホイールでの設定値と車輪における実際の車輪操舵角との間の変換比が変る。電気的操舵(ステアバイワイヤ)では、ステアリングホイールと車輪との間にはもはや機械的な接続はなく、スパーインポーズドステアリングの場合のように、車輪操舵角は、ステアリングホイールにおける入力とは違っていることがあり得る。
【0024】
代替的に、フロントアクスルステアリングへの介入は、自動車産業では知られている電気機械式或いはステアリングアシスト的、特には電気油圧式ないし電気的操舵によっても行なわれる。
【0025】
本発明はさらに、操舵可能な車両のためのコントローラに関し、当該車両は、通常のフロントアクスルステアリングの他に、特にリアアクスルステアリングを有し、代替的ないし追加的に、車両のヨーイングモーメントを操作する装置、トルクベクタリング或いはアクティブ・ヨー・コントロールが上述の如く装備されていてもよい。このコントローラは、当該コントローラが、方法に関して先に述べたように、フロントアクスルステアリングおよび/またはリアアクスルステアリングへの介入により、或いはヨーイングモーメント操作を用いて車両の車線維持を行なうべく、少なくとも車両速度、ギア比、加速度に関する車両パラメータ並びに各車輪の車輪操舵角の車両パラメータに少なくとも応じて、リアアクスルおよび/またはフロントアクスルへの介入を行なうことができる点に特徴がある。
【0026】
好ましくは、車線維持のためのコントローラは、さらに車両周辺の認識信号を評価して車両の車線維持を行なう。車両周辺の認識は、例えばカメラ、レーダまたはライダといった少なくとも一つのセンサを用いて、或いは補助的に加速度センサ(例えばESC/ESPセンサ類内)によって行なうことができる。
【0027】
最後に、本発明は、少なくともフロントアクスルステアリング、特に追加的なリアアクスルステアリング及び/又は車両のヨーイングモーメントを操作することによる操舵のための手段、並びに、先に述べたようなコントローラを有する車両、特に自動車に関する。アクティブな後軸作動装置によるヨーイングモーメント操作および/若しくは後輪操舵を用いた操舵並びに/又は車輪別モータおよび/若しくは車両ダイナミック制御(ESC/ESP)による操舵の間、コントローラによってフロントアクスルステアリングを少なくとも一時的に固定することができ、それにより、前輪において予め設定された車輪操舵角が少なくとも一時的に固定可能となる。その結果、前輪における車体の力学のセルフアライニングによるトルクに抗することができ、後輪操舵および/またはヨーイングモーメント操作による効果的な操舵が可能となる。
【0028】
コントローラは、別体の制御装置に変えてもよい。また、コントローラは、代替的に車両内にある制御装置に変えてもよい。センサ並びに制御装置は、このとき例えばCANバスといったようなバスシステムを介して互いに接続されているか或いはこの種のシステムを介して通信を行なう。
【0029】
以下に、図面を参照しながら好ましい実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】前輪においてセルフアライニングモーメントが影響しているときの車両を示す概略図である。
【
図2】前輪においてセルフアライニングモーメントを狙い通りに阻止しているときの車両を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1および
図2より、操舵される前方の二つの車輪2と後方二つの車輪3を有する概略的に示された一つの車両1がそれぞれ看取できる。前方の車輪2と後方の車輪3は、概略的に示されたステアリング4,5によって、中央アクチュエータないし中央パワーアシスト(Kraftunterstuetzung)介して操舵される。各車輪2,3の操舵は、例えば通常のタイロッドといった連動杆41,51を介して実現されるが、このときコントローラSGの制御信号がステアリングに導かれる。フロントアクスルステアリング4およびリアアクスルステアリング5は運動学的には互いに独立している。車両1では、車両の重心Sが真中にある。個々の車輪の加速、制動或いは操舵のように、フロントアクスルVAまたはリアアクスルHAに介入することによって、重心S周りにヨーイングモーメントMGが生じせしめられる。介入は、コントローラSGの信号(本例ではESC(エレクトリック・スタビリティ・プログラム)のデータに関する)に基づいて行われるが、これは例えば車速、加速、ギヤ比といったものである。
【0032】
図1には、次の状況が示されている:後方の車輪3は、コントローラSGの制御信号に基づき、ステアリング5によってタイロッド51を介して右側に操舵された状態にある。リアアクスルでは、後輪において車輪操舵角がδ
hになっている。これにより、ヨーイングモーメントM
Gが生じ、このモーメントが車両1に対して垂直軸周りつまり重心S周りに反時計回りで作用する。このヨーイングモーメントM
Gのために、前方の車輪2は、それにより生じた横力によるセルフアライニングモーメントM
Rを受け、同方向の車輪操舵角δ
v変化(本例では右側に向かうように示されている。)を生じせしめられる。このために、コントローラSGを介して入力して意図したリアアクスルHAにおける舵角補正の作用は、ほぼ効果が無いか或いは少なくとも効果が低減する。
【0033】
図2に概ね同じ状況が示されているが、前方の車輪は、連動杆41と協働したステアリング4により位置が保たれる。この一時的な状況、つまりリアアクスルHAにおける介入(ステアリング補正) (ステアリング5を用いてコントローラSGによってリアアクスルHAにおいて行われる。)の間、その際にフロントアクスルVAに設定されている車輪操舵角δ
vが変わらないままである。
【0034】
図1を
図2と比較すると、さらに、図示された半径rv1及びrv2並びにrh1及びrh2が分かる。ここで、半径“rv”は、前輪2のホイール面から出る垂線である。ここで、半径“rh”は、後輪3のホイール面から出る垂線である。半径“rv”と“rh”は、一点で交わる。
図1において車輪操舵角δ
vが維持されないときに、
図2のときよりも大きな旋回半径rv,rhが生じるが、これは
図2においては車輪操舵角δ
vが維持されるからである。簡単のために一本の轍に絞って旋回半径rv,rhに注目している。
【0035】
以下に、本発明の実施例として、車両1の軌道の保持/車線維持のための本発明によるリアアクスルステアリングHAを用いた運転操作について述べる:車両1内にある加速度センサと車両周辺認識部Fとによって(例えば、カメラ、レーダないしライダ等といった少なくとも一つのセンサによって)、ドライバーが最初に設定した軌道Tから逸れ始めたことが特定される。コントローラSGはセンサ信号を評価し、ステアリング装置5によって車輪操舵角δ
hが後輪3に設定(リアアクスルに介入)されることで、軌道Tが維持されることになる。同時に、リアアクスルHAにおける介入による効果的な作用を働かせることができるように、フロントアクスルステアリングVA、より好ましくはステアリングホイールまたは前輪2に、前輪2における車輪操舵角δ
vを少なくとも一時的に保つためのトルクM
Hが設定される。
【0036】
仮にこういったフロントアクスルステアリングVAにおける介入が行われないとすると、前輪2においてトルクM
Rを発生させる前輪のセルフアライニングが(キャスターにより運動学的に支配されて)生じることになり、前輪が、極端な場合には車両1が所謂“蟹歩き”の斜めの姿勢になって外を向いてしまうことになろう(
図2参照)。車両1は、たとえ後輪操舵角δ
hが設定されていても、ほぼそのまま軌道Tに沿う、つまりは真直ぐ、或いはカーブ走行時であれば、前輪2の実際の車輪操舵角δ
vに応じてそのまま同じ旋回半径rv,rhを走行することになろう。リアアクスルHAに介入する作用はほとんど効かないか、そうでなくともほんの僅かに不本意にしか効かないことになろう。
【0037】
所望の方向転換を実現するには、フロントアクスル車輪操舵角δ
vの一時的な保持が行われなければならない。そうすることで、フロントアクスルステアリング4にかかるトルクM
Hが前輪2の運動学的なセルフアライニングを防ぎ、その結果、ステアリングホイール角が実際に設定された位置に留まって、ドライバーに何の変化も感じさせないようになる。トルクを生成することに代えて、同じ作用が得られるような反力によっても介入を行うことができる。
【0038】
トルクに代えて或いは反力に代えて、介入は、好ましくはステアリングホイール、ステアリングロッド、タイロッドまたは車輪における角度位置或いは経路を設定することで、フロントアクスルステアリングVAにおける所定の車輪操舵角δ
vを設定することによっても行うことができる。こうすることによっても、フロントアクスルステアリングVAをリアアクスルステアリングHAの影響から切り離すことができる。
【0039】
本発明の先に述べた特徴は、記載された各々の組合せでだけでなく、本発明の範囲を逸脱することなく他の組合せで、或いは単独でも用いることが可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0040】
1 車両
2 前輪
3 後輪
4 フロントアクスルステアリング
41 連動杆
5 リアアクスルステアリング
51 連動杆
rv 旋回半径
rh 旋回半径
S 重心
VA フロントアクスル
HA リアアクスル
M
G ヨーイングモーメント
M
R セルフアライニングモーメント
M
H 保持トルク
SG コントローラ
ESC 横滑り防止装置
δ
v 前方車輪操舵角
δ
h 後方公報車輪操舵角
F 車両周辺認識部
T 軌道、軌跡、走行車線