(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、本願発明者らが見出したマルトトリオース転移酵素の新規用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは上記課題の下、様々な検討を行う中で餅類の製造加工及び難消化性糖質の製造に着眼した。実験の結果、本酵素の耐熱性が予想以上に高く、餅生地の蒸煮前に酵素を添加した場合でさえ十分な作用を示し、餅の老化を効果的に抑制できることが示された。この事実は餅生地の蒸煮後に酵素を添加するという工程(酵素添加前に餅生地をある程度冷ますための温度管理工程を伴う)を省略できることを意味し、本酵素を用いれば、より簡便な製造工程によって老化抑制効果の高い餅類を製造できることになる。また麺類の製造方法においても餅類の製造方法と同様、本酵素が添加された生地(麺生地)を用いて、生地内の澱粉を糊化させる加熱処理工程を行うことにより、餅類の製造方法と同様の効果が得られる。一方、本発明者らの検討の結果、特に工業的スケールでの製造を可能にするという点から本酵素が難消化性糖質の製造においても有用であることが判明した。
【0009】
ところで、餅類は独特の食感(もちもち感)を有するが、でんぷん質の老化に伴い、時間の経過とともにその食感が損なわれる。このような餅類の品質劣化の問題に対して様々な取り組みが行われている。その中には酵素(βアミラーゼ(例えば特許文献3)、トランスグルコシダーゼ(例えば特許文献4)等)を利用したものも多い。酵素を利用する場合、酵素の作用性や失活の問題を考慮し、蒸し上がった餅生地の温度がある程度下がった段階で酵素を添加するのが通常である(例えば特許文献5)。しかしながら、このような製造方法は、蒸煮後に餅生地を冷却する工程(温度管理を必要とする)を必要とし(場合によっては、酵素添加後に酵素を反応させる工程も要する)、煩雑である。本願出願人の先の特許出願(特許文献2)においても、本酵素の用途の一例として上新粉を用いたモチの製造工程を示しているが、そこでも生地が約65℃になった段階で酵素を添加しており、同様の問題を伴う。これに対して、今回の検討によって創出された新たな製造方法では、酵素が添加された状態の餅生地を用いて蒸煮などの熱処理工程を行うことから、従来の製造方法における上記の如き蒸煮後の各工程が不要となる。これによって作業性が大幅に向上する。また、本発明の製造方法では、予め酵素を添加しておいた原料(プレミックス粉)の使用も可能であり、更なる作業性の向上を図ることもできる。
【0010】
一方、難消化性糖質についても、その有用性が注目されるに至り、様々な製造技術が開発されている。例えば、特許文献4には、α-グルコシル転移酵素を用いた難消化性糖質の製造方法が示されている。この製造方法では、使用する酵素の特性のためか、酵素を反応させる際の温度が低い(40℃)。このような比較的低温での反応では微生物汚染のリスクが高く、工業スケールでの製造には適さない。これに対して、今回の検討によって創出された新たな製造方法では耐熱性に優れる酵素を用いることから、高温での反応が可能であり、微生物汚染のリスクを軽減できる。従って、工業スケールでの難消化性糖質の製造にも適する。
【0011】
難消化性糖質に注目して更に検討を重ねた結果、ビール又はビール系飲料中の難消化性糖質の含量増大に本酵素が有効であることも明らかとなった。また、ヘテロオリゴ糖の製造及び配糖体の製造にも本酵素が極めて有効であることが判明した。更には、本酵素を用いれば、麺類の製造においても、餅類の製造の場合と同様の効果が得られることが示された。
【0012】
以下に示した本発明は、以上の説明から明らかなように、従来技術の問題点を克服するものであり、その有用性は高い。
[1]マルトトリオシル転移酵素が添加された生地を用いて、生地内の澱粉を糊化させる加熱処理工程を行うことを特徴とする、餅類又は麺類の製造方法。
[2]前記生地が、前記マルトトリオシル転移酵素が予め混合された原料粉を混練して得たもの、又は原料粉の混練の際に前記マルトトリオシル転移酵素を添加して得たもの、である、[1]に記載の製造方法。
[3]前記生地の主原料が上新粉である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記生地がpH調整剤を含む、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の製造方法。
[5]前記加熱処理工程が蒸煮による、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の製造方法。
[6]マルトトリオシル転移酵素を糖質に作用させる工程を行うことを特徴とする、難消化性糖質の製造方法。
[7]サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、α−アミラーゼ(糖転移能を有するものに限る)、プルラナーゼ及びイソアミラーゼからなる群より選択される一以上の酵素を前記マルトトリオシル転移酵素と併用して前記工程を行う、[6]に記載の製造方法。
[8]前記糖質がデキストリンである、[6]又は[7]に記載の製造方法。
[9]前記工程における反応温度が50℃〜70℃である、[6]〜[8]のいずれか一項に記載の製造方法。
[10]受容体基質の存在下で前記工程を行い、前記難消化性糖質としてヘテロオリゴ糖が生成する、[6]に記載の難消化性糖質の製造方法。
[11]前記糖質がマルトオリゴ糖、デキストリン及び澱粉からなる群より選択される一以上の糖質である、[10]に記載の難消化性糖質の製造方法。
[12]前記マルトオリゴ糖が、マルトテトラオース、マルトペンタオース又はマルトヘキサオースである、[11]に記載の難消化性糖質の製造方法。
[13]前記受容体基質が単糖及び/又は糖アルコールである、[10]〜[12]のいずれか一項に記載の難消化性糖質の製造方法。
[14]前記受容体基質がD-キシロース、D-フラクトース、D-グルコース、L-フコース、L-ソルボース、D-マンノース、D-ソルビトール、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、L-アラビノース、D-リボース及びL-ラムノースからなる群より選択される一以上の糖又は糖アルコールである、[10]〜[12]のいずれか一項に記載の難消化性糖質の製造方法。
[15]前記糖質が、ビール又はビール様飲料に使用される糖質原料の糖化で生じた糖質である、[6]に記載の難消化性糖質の製造方法。
[16]前記糖質原料が、麦芽、大麦、小麦、ライ麦、燕麦、トウモロコシ、米、こうりゃん、馬鈴薯、大豆、エンドウ豆、チックピー及びコーンスターチからなる群より選択される一以上の原料である、[15]に記載の難消化性糖質の製造方法。
[17]マルトトリオシル転移酵素が以下の酵素化学的性質を備える、[1]〜[16]のいずれか一項に記載の製造方法:
α-1,4グルコシド結合を有する多糖類及びオリゴ糖類に作用し、マルトトリオース単位を糖類に転移させる活性を有する酵素であって、マルトテトラオースを基質として作用させた場合、基質濃度が0.67%(w/v)〜70%(w/v)の全範囲において、マルトヘプタオース生成速度とマルトトリオース生成速度の比が9:1〜10:0となる。
[18]前記マルトトリオシル転移酵素が、微生物由来の酵素である、[1]〜[17]のいずれか一項に記載の製造方法。
[19]前記マルトトリオシル転移酵素が、ジオバチルス属の微生物由来の酵素である、[1]〜[17]のいずれか一項に記載の製造方法。
[20]前記ジオバチルス属の微生物がジオバチルス・エスピー APC9669(受託番号 NITE BP-770)である、[19]に記載の製造方法。
[21]前記マルトトリオシル転移酵素が下記の酵素化学的性質を備える、[1]〜[20]のいずれか一項に記載の製造方法:
(1)作用:結合様式としてα-1,4グルコシド結合を有する多糖類及びオリゴ糖類に作用し、マルトトリオース単位を糖類に転移させる;
(2)基質特異性:可溶性デンプン、アミロース、アミロペクチン、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースに作用し、α-サイクロデキストリン、β-サイクロデキストリン、γ-サイクロデキストリン、マルトトリオース、マルトースには作用しない;
(3)分子量:約83,000(SDS-PAGE)。
[22] 前記マルトトリオシル転移酵素が、配列番号3のアミノ酸配列、配列番号3のアミノ酸配列と70%以上同一であり且つマルトトリオシル転移酵素活性を示すアミノ酸配列、又はマルトトリオシル転移酵素活性を示す配列番号3のアミノ酸配列の断片からなる、[1]〜[20]のいずれか一項に記載の製造方法。
[23][6]〜[16]のいずれか一項に記載の製造方法で製造した難消化性糖質を含有する組成物。
[24]医薬組成物、医薬部外品組成物又は食品組成物である、[23]に記載の組成物。
[25]食品組成物がビール又はビール様飲料である、[24]に記載の組成物。
[26]受容体基質の存在下、マルトトリオシル転移酵素を供与体基質に作用させる工程を行うことを特徴とする、配糖体の製造方法。
[27]受容体基質がコウジ酸、アスコルビン酸、ハイドロキノン又はグリセロールである、[26]に記載の配糖体の製造方法。
[28]供与体基質が可溶性デンプン、アミロース、アミロペクチン、マルトテトラオース、マルトペンタオース又はマルトヘキサオースである、[26]又は[27]に記載の配糖体の製造方法。
[29]前記マルトトリオシル転移酵素が、[17]〜[22]のいずれか一項で定義されるマルトトリオシル転移酵素である、[26]〜[28]のいずれか一項に記載の配糖体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(用語)
本発明において「タンパク質をコードするDNA」とは、それを発現させた場合に当該タンパク質が得られるDNA、即ち、当該タンパク質のアミノ酸配列に対応する塩基配列を有するDNAのことをいう。従ってコドンの縮重も考慮される。
【0015】
本明細書において用語「単離された」は「精製された」と交換可能に使用される。本発明の酵素(マルトトリオシル転移酵素)に関して使用する場合の「単離された」とは、本発明の酵素が天然材料に由来する場合、当該天然材料の中で当該酵素以外の成分を実質的に含まない(特に夾雑タンパク質を実質的に含まない)状態をいう。具体的には例えば、本発明の単離された酵素では、夾雑タンパク質の含有量は重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。一方、本発明の酵素が遺伝子工学的手法によって調製されたものである場合の用語「単離された」とは、使用された宿主細胞に由来する他の成分や培養液等を実質的に含まない状態をいう。具体的には例えば、本発明の単離された酵素では夾雑成分の含有量は重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。尚、それと異なる意味を表すことが明らかでない限り、本明細書において単に「マルトトリオシル転移酵素」と記載した場合は「単離された状態のマルトトリオシル転移酵素」を意味する。マルトトリオシル転移酵素の代わりに使用される用語「本酵素」についても同様である。
【0016】
(マルトトリオシル転移酵素の用途1:餅類又は麺類の製造方法)
本発明の第1の局面は、マルトトリオシル転移酵素の用途として、餅類又は麺類の製造方法を提供する。本発明では、好ましくは、本願出願人が先の特許出願(詳細は特許文献2を参照)で開示したマルトトリオシル転移酵素(本酵素)を用いる。先の特許出願に示した通り、ジオバチルス・エスピー APC9669がマルトトリオシル転移酵素を産生することが見出され、その酵素化学的性質が決定された。以下、決定された酵素化学的性質を列挙する。
【0017】
(1)作用
本酵素はマルトトリオシル転移酵素であり、結合様式としてα-1,4グルコシド結合を有する多糖類及びオリゴ糖類に作用し、マルトトリオース単位を糖類に転移させる。
【0018】
(2)基質特異性
本酵素は可溶性デンプン、アミロース、アミロペクチン、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースに良好に作用する。これに対して、α-サイクロデキストリン、β-サイクロデキストリン、γ-サイクロデキストリン、マルトトリオース、マルトースには作用しない。
【0019】
(3)分子量
本酵素の分子量は約83,000(SDS-PAGEによる)である。
【0020】
(4)至適温度
本酵素の至適温度は約50℃である。本酵素は約45℃〜約55℃において高い活性を示す。至適温度は、後述のマルトトリオシル転移酵素活性測定方法(10mmol/L MES緩衝液(pH6.5)中)による測定で算出された値である。
【0021】
(5)至適pH
本酵素の至適pHは約7.5である。本酵素はpH約6.5〜約8.0において高い活性を示す。至適pHは、例えば、ユニバーサル緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
【0022】
(6)温度安定性
本酵素は65℃以下で安定した活性を示す。10mmol/L MES緩衝液(pH6.5)中、65℃の条件で30分間処理しても、本酵素は90%以上の活性を維持する。
【0023】
(7)pH安定性
本酵素はpH5.0〜10.0という広いpH域で安定した活性を示す。即ち、処理に供する酵素溶液のpHがこの範囲内にあれば、40℃、30分間の処理後、85%以上の活性を維持する。
【0024】
(8)等電点
本酵素の等電点は約4.5(アンフォライン含有電気泳動法による)である。
【0025】
先の特許出願に示す通り、ジオバチルス・エスピー APC9669が産生するマルトトリオシル転移酵素は、マルトテトラオースを基質として作用させた場合、基質濃度が0.67%(w/v)〜70%(w/v)の全範囲において、糖転移生成物であるマルトヘプタオースの生成速度と分解生成物であるマルトトリオースの生成速度の比が9:1〜10:0になることが判明した。換言すると、広範な基質濃度範囲に亘って糖転移反応の速度の方が圧倒的に大きく、マルトヘプタオース生成速度とマルトトリオース生成速度の合計を100%とすると、前者が90%以上となった。尚、生成物のモル比を基準に速度を比較した。
【0026】
本酵素は好ましくはジオバチルス・エスピーAPC9669(Geobacillus sp. APC9669)に由来するマルトトリオシル転移酵素である。ここでの「ジオバチルス・エスピーAPC9669に由来するマルトトリオシル転移酵素」とは、ジオバチルス・エスピーAPC9669(野生株であっても変異株であってもよい)が生産するマルトトリオシル転移酵素、或いはジオバチルス・エスピーAPC9669(野生株であっても変異株であってもよい)のマルトトリオシル転移酵素遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られたマルトトリオシル転移酵素であることを意味する。従って、ジオバチルス・エスピーAPC9669より取得したマルトトリオシル転移酵素遺伝子(又は当該遺伝子を改変した遺伝子)を導入した宿主微生物によって生産された組み換え体も、「ジオバチルス・エスピーAPC9669に由来するマルトトリオシル転移酵素」に該当する。
【0027】
本酵素の由来であるジオバチルス・エスピーAPC9669のことを、説明の便宜上、本酵素の生産菌という。APC9669株は以下の通り所定の寄託機関に寄託されており、容易に入手可能である。
寄託機関:NITEバイオテクノロジー本部 特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)
寄託日(受領日):2009年6月2日
受託番号:NITE BP-770
【0028】
上記のジオバチルス・エスピーAPC9669を培養した後、培養液及び/又は菌体より本酵素を回収することによって、本酵素を得ることができる。培養法としては液体培養、固体培養のいずれでも良いが、好ましくは液体培養が利用される。液体培養を例にとり、その培養条件を説明する。
【0029】
培地としては、使用する微生物が生育可能な培地であれば、如何なるものでも良い。例えば、グルコース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等の炭素源、更に硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、あるいは、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等の窒素源、更にカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等の無機塩を添加したものを用いることができる。使用する微生物の生育を促進するためにビタミン、アミノ酸などを培地に添加してもよい。培地のpHは例えば約3〜10、好ましくは約7〜8程度に調整し、培養温度は通常約10〜80℃、好ましくは約30〜65℃程度で、1〜7日間、好ましくは2〜4日間程度好気的条件下で培養する。培養法としては例えば振盪培養法、ジャー・ファーメンターによる好気的深部培養法が利用できる。
【0030】
以上の条件で培養した後、培養液又は菌体より本酵素を回収する。培養液から回収する場合には、例えば培養上清をろ過、遠心処理等することによって不溶物を除去した後、限外ろ過膜による濃縮、硫安沈殿等の塩析、透析、イオン交換樹脂等の各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて分離、精製を行うことにより本酵素を得ることができる。
【0031】
他方、菌体内から回収する場合には、例えば菌体を加圧処理、超音波処理などによって破砕した後、上記と同様に分離、精製を行うことにより本酵素を得ることができる。尚、ろ過、遠心処理などによって予め培養液から菌体を回収した後、上記一連の工程(菌体の破砕、分離、精製)を行ってもよい。
【0032】
尚、発現の確認や発現産物の確認は、マルトトリオシル転移酵素に対する抗体を用いて行うことが簡便であるが、マルトトリオシル転移酵素活性を測定することにより発現の確認を行うこともできる。
【0033】
本発明におけるマルトトリオシル転移酵素は一態様において配列番号3のアミノ酸配列を含む。当該アミノ酸配列は配列番号2のアミノ酸配列からシグナルペプチド部分を除いたものである。尚、配列番号2のアミノ酸配列は、ジオバチルス・エスピーAPC9669からクローニングして得られた遺伝子の塩基配列(配列番号1)から推定されたアミノ酸配列である。ここで、一般に、あるタンパク質のアミノ酸配列の一部に改変を施した場合において改変後のタンパク質が改変前のタンパク質と同等の機能を有することがある。即ちアミノ酸配列の改変がタンパク質の機能に対して実質的な影響を与えず、タンパク質の機能が改変前後において維持されることがある。そこで本発明では、配列番号3に示すアミノ酸配列と等価なアミノ酸配列からなり、マルトトリオシル転移酵素活性を有するタンパク質(以下、「等価タンパク質」ともいう)を使用することも想定される。ここでの「等価なアミノ酸配列」とは、配列番号3に示すアミノ酸配列と一部で相違するが、当該相違がタンパク質の機能(ここではマルトトリオシル転移酵素活性)に実質的な影響を与えていないアミノ酸配列のことをいう。「マルトトリオシル転移酵素活性を有する」とは、結合様式としてα-1,4グルコシド結合を有する多糖類及びオリゴ糖類に作用し、マルトトリオース単位を糖類に転移させる活性を意味するが、その活性の程度は、マルトトリオシル転移酵素としての機能を発揮できる限り特に限定されない。但し、配列番号3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質と同程度又はそれよりも高いことが好ましい。
【0034】
「アミノ酸配列の一部の相違」とは、典型的には、アミノ酸配列を構成する1〜数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1〜数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変異(変化)が生じていることをいう。ここでのアミノ酸配列の相違はマルトトリオシル転移酵素活性が保持される限り許容される(活性の多少の変動があってもよい)。この条件を満たす限りアミノ酸配列が相違する位置は特に限定されず、また複数の位置で相違が生じていてもよい。ここでの複数とはたとえば全アミノ酸の約30%未満に相当する数であり、好ましくは約20%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。即ち等価タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列と例えば約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、より一層好ましくは約95%以上、最も好ましくは約99%以上の同一性を有する。
【0035】
好ましくは、マルトトリオシル転移酵素活性に必須でないアミノ酸残基において保存的アミノ酸置換を生じさせることによって等価タンパクを得る。ここでの「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
【0036】
「等価タンパク質」が、付加的な性質を有していてもよい。かかる性質として、例えば、配列番号3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質に比べて安定性に優れているという性質、低温及び/又は高温においてのみ異なる機能を発揮するという性質、至適pHが異なるという性質などが挙げられる。
【0037】
ここで、二つのアミノ酸配列の同一性(%)は例えば以下の手順で決定することができる。まず、最適な比較ができるよう二つの配列を並べる(例えば、第一の配列にギャップを導入して第二の配列とのアライメントを最適化してもよい)。第一の配列の特定位置の分子(アミノ酸残基)が、第二の配列における対応する位置の分子と同じであるとき、その位置の分子が同一であるといえる。配列同一性は、その二つの配列に共通する同一位置の数の関数であり(すなわち、同一性(%)=同一位置の数/位置の総数 × 100)、好ましくは、アライメントの最適化に要したギャップの数およびサイズも考慮に入れる。二つの配列の比較及び同一性の決定は数学的アルゴリズムを用いて実現可能である。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、KarlinおよびAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68に記載され、KarlinおよびAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77において改変されたアルゴリズムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。例えば、XBLASTプログラムでscore = 50、wordlength = 3としてBLASTポリペプチド検索を行えば、同一性の高いアミノ酸配列を得ることが可能である。比較のためのギャップアライメントを得るためには、Altschulら (1997) Amino Acids Research 25(17):3389-3402に記載のGapped BLASTが利用可能である。BLASTおよびGapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくは例えばNCBIのウェブページを参照されたい。配列の比較に利用可能な他の数学的アルゴリズムの例としては、MyersおよびMiller (1988) Comput Appl Biosci. 4:11-17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えばGENESTREAMネットワークサーバー(IGH Montpellier、フランス)またはISRECサーバーで利用可能なALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用する場合は例えば、PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ=12、ギャップペナルティ=4とすることができる。二つのアミノ酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、Blossom 62マトリックスまたはPAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重=12、10、8、6、又は4、ギャップ長加重=2、3、又は4として決定することができる。
【0038】
本酵素が、より大きいタンパク質(例えば融合タンパク質)の一部であってもよい。融合タンパク質において付加される配列としては、例えば多重ヒスチジン残基のような精製に役立つ配列、組換え生産の際の安定性を確保する付加配列等が挙げられる。
【0039】
上記アミノ酸配列を有する本酵素は、遺伝子工学的手法によって容易に調製することができる。例えば、本酵素をコードするDNA(具体例は配列番号1の塩基配列を有するDNA)で適当な宿主細胞(例えば大腸菌)を形質転換し、形質転換体内で発現されたタンパク質を回収することにより調製することができる。回収されたタンパク質は目的に応じて適宜調製される。このように組換えタンパク質として本酵素を得ることにすれば種々の装飾が可能である。例えば、本酵素をコードするDNAと他の適当なDNAとを同じベクターに挿入し、当該ベクターを用いて組換えタンパク質の生産を行えば、任意のペプチドないしタンパク質が連結された組換えタンパク質からなる本酵素を得ることができる。また、糖鎖及び/又は脂質の付加や、あるいはN末端若しくはC末端のプロセッシングが生ずるような修飾を施してもよい。以上のような修飾により、組換えタンパク質の抽出、精製の簡便化、又は生物学的機能の付加等が可能である。
【0040】
本発明の餅類の製造方法では、本酵素が添加された餅生地を用いて、餅生地内の澱粉を糊化させる加熱処理工程を行う。即ち、餅生地を蒸煮やボイルした後に酵素を添加する従来の製造方法とは異なり、酵素が添加された状態の餅生地を蒸煮やボイル等に供する。この特徴を備える本発明の製造方法では、蒸煮やボイル等の後に所定の温度まで冷却した上で酵素を添加するという、温度管理を伴う煩雑な工程が不要となり、作業性が格段に向上する。また、従来の方法では、餅生地を冷ました後に酵素を添加せざるを得ないことから、酵素添加時の餅生地は流動性が低下し、酵素を均一に添加することは困難であり、柔らかさが不均一になるおそれがある。柔らかさの均一性を担保するためには、餅生地全体に酵素が行き渡るように十分な混合が必要となる。酵素が予め添加された餅生地を用いて加熱処理工程を行うという、本発明の好ましい態様によれば(詳細は後述する)、このような問題も生じない。尚、本発明の製造方法では、酵素添加後に加熱が行われることから、本酵素を含んだ状態の餅生地の温度が80℃以上になる。別の見方をすれば、本酵素の少なくとも一部は80℃以上の熱に曝されることになる。この点において本発明の製造方法は、餅生地を60℃程度まで冷却した後に酵素を添加する従来の方法(添加された酵素が80℃以上という高温に曝されることはない)とは明確に区別される。
【0041】
本発明の麺類の製造方法においても、餅類の製造方法と同様、本酵素が添加された生地(麺生地)を用いて、生地内の澱粉を糊化させる加熱処理工程を行う。この特徴によって、餅類の製造方法の場合と同様の効果が得られる。
【0042】
「餅類」とは、餅及び餅菓子並びに団子を総称する用語である。餅にはのし餅、まる餅、鏡餅など、様々な形状のものが含まれる。「餅菓子」の例は求肥餅、羽二重餅、大福餅、あんころ餅、安倍川餅、草餅、柏餅、桜餅、すあま、ゆべしである。同様に、「団子」の例はみたらし団子、草団子、白玉団子である。
【0043】
「餅生地」とは、生又は所定の処理(浸漬、乾燥、加熱処理等)後の粳米又は糯米を粉砕又は製粉したもの(上新粉、餅粉、白玉粉、団子粉、道明寺粉等)に水及び必要に応じてその他の材料を加え、混合ないし混練したものをいう。混合ないし混練後に成形されたものであってもよい。本発明の一態様では、餅生地にpH調整剤が添加されている。餅生地は通常、加熱処理の後、圧延、成形等の工程を得て餅類製品となる。
【0044】
「麺生地」とは、生又は所定の処理(浸漬、乾燥、加熱処理等)後の糯米、小麦、粟、ひえ、きび、そば、サトイモ、サツマイモ、ジャガイモ、モロコシ、トウモロコシ、緑豆、大豆等を粉砕又は製粉したものに水及び必要に応じてその他の材料を加え、混合ないし混練したものをいう。混合ないし混練後に成形されたものであってもよい。
【0045】
本酵素が添加された生地(餅生地又は麺生地)を用いた加熱処理工程が行われる限りにおいて、本酵素の添加時期は特に限定されない。例えば、加熱処理工程前にその他の材料を混練する際、本酵素も併せて混合する。このようにすれば、酵素を添加する工程を別途設ける必要がなくなり、作業性が向上することに加え、製造に要する時間の短縮化が達成される。一方、予めその他の材料の一つ以上と本酵素を混合しておくことにしてもよい(プレミックス粉の使用)。この場合についても、酵素が予め添加された原料(プレミックス粉)を混練及びその後の加熱処理等に供すればよいことから、作業性に優れた製造方法となる。以上の二つの例では、予め本酵素が添加された生地を用いて加熱処理工程が行われることになる。他方、その他の材料を混練して生地とし、加熱処理の際(即ち、加熱処理開始前、開始直後、或いは加熱処理中)に本酵素を添加することにしてもよい。
【0046】
本酵素の添加量は、意図される効果(老化防止)が発揮される限りにおいて特に限定されないが、例えば主原料1g当たり1U〜20Uである。ここでの主原料とは、生地(餅生地又は麺生地)の主たる成分を供給する原料ないし材料であり、例えば、白玉団子を製造する場合には上新粉(白玉粉)が主原料に該当する。
【0047】
本発明における加熱処理工程は従来の方法と同様の条件で行えばよく、蒸煮を採用する場合には例えば水蒸気で5分〜20分蒸せばよい。もっとも、処理時間は生地の成分や量等を考慮して適宜調節すればよく、この例に限定されるものではない。
【0048】
尚、いわゆる搗き餅の製造において、蒸煮工程の前又は蒸煮工程中にマルトトリオシル転移酵素を糯米に添加した場合も老化防止効果を期待できる。
【0049】
(マルトトリオシル転移酵素の用途2:難消化性糖質の製造方法及びその用途)
本発明の第2の局面は、マルトトリオシル転移酵素の用途として、難消化性糖質の製造方法を提供する。また、当該製造方法によって製造される難消化性糖質の用途を提供する。本発明の難消化性糖質の製造方法では、上記第1の局面と同様、好ましくは、本願出願人が先の特許出願(詳細は特許文献2を参照)で開示したマルトトリオシル転移酵素(本酵素)を用いる。より詳細には、本発明の難消化性糖質の製造方法では、基質となる糖質にマルトトリオシル転移酵素(好ましくは本酵素)を作用させる工程が行われる。
【0050】
酵素を作用させる「糖質」は、α-1,4グルコシド結合を有する多糖ないしオリゴ糖(例えばアミロース、アミロペクチン、各種オリゴ糖)である。2種類以上の多糖ないしオリゴ糖の混合物を本発明における「糖質」に用いてもよい。好ましくは、「糖質」としてデキストリン(澱粉加水分解物)を用いる。デキストリンは、通常、澱粉にα−アミラーゼを作用させるか、或いは澱粉を酸分解することによって得られる。原料となる澱粉は特に限定されない。澱粉の例を挙げるとコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、キャッサバ澱粉である。二種類以上の澱粉を併用してもよい。現状においては、供給面及び価格面からはコーンスターチが特に好ましい。尚、各種デキストリン(澱粉加水分解物)が市販されており、それらを使用することにしてもよい。
【0051】
本明細書において「難消化性糖質」とは、難消化性成分を含む糖質のことをいう。難消化性成分の含量は特に問わない。本発明の製造方法によれば、難消化性成分の濃度が比較的高い(50%〜60%以上)難消化性糖質を製造することも可能である。尚、本明細書において用語「難消化性糖質」は、用語「難消化性デキストリン」、用語「難消化性澱粉」及び用語「難消化性オリゴ糖」を包括する用語である。例えば、基質としてデキストリンを用いて製造されたものについては、原料である基質に注目し、「難消化性デキストリン」と呼ぶことができる。
【0052】
本酵素の添加量は特に限定されないが、例えば糖質1g当たり、1U〜40Uである。
【0053】
酵素反応時の温度条件も特に限定されないが、本酵素がその作用を十分に発揮できるように、30℃〜70℃に設定するとよい。一方、微生物汚染のリスクを軽減するためにはより高温の温度条件が好ましく、例えば50℃〜70℃の温度条件下で反応させる。
【0054】
実施例に示した通り、本酵素とサイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ及び/又はプルラナーゼを併用すると、難消化性成分の生成量の増大を認めた。併用した当該二つの酵素はそれ自体では難消化性成分を生成しないが、本酵素と組み合わせて使用された場合、相乗的な効果を示し、難消化性成分の増大をもたらした。この知見に基づき、本発明の一態様では、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、α−アミラーゼ(糖転移能を有するものに限る)、プルラナーゼ及びイソアミラーゼからなる群より選択される一以上の酵素を本酵素と併用して、デキストリンに作用させる。α−アミラーゼについては、糖転移能を有する限り、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼと同様の作用効果を発揮し得ると予想されるものであり、併用可能な酵素の一つとして挙げられる。同様に、イソアミラーゼは、プルラナーゼとの間に作用の共通性を認めることから、併用可能な酵素の一つとして示される。サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼとしては例えばトルザイム3.0L(ノボザイムズ製)、コンチザイム(天野エンザイム製)を用いることができる。ジオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)由来のサイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを用いてもよい。糖転移能を有するα−アミラーゼとしては例えばバチルス・サーキュランス由来アミラーゼ(特許文献4)を用いることができる。プルラナーゼとしてはクライスターゼPL45(天野エンザイム製)、プルラナーゼ「アマノ」3(天野エンザイム製)を用いることができる。イソアミラーゼとしては例えばシュードモナス・エスピー由来イソアミラーゼ(メガザイム社製)、GODO−FIA(合同酒精製)を用いることができる。尚、本酵素と併用する上記各酵素の使用量については、実施例に示した使用量を参考にし、予備実験等を通して設定すればよい。使用量の例として、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼの場合を示せば、基質1g当たり例えば0.1mg〜20mgであり、プルラナーゼの場合にあっては、基質1g当たり例えば0.1mg〜10mgである。
【0055】
本発明の製造方法はヘテロオリゴ糖の製造にも適用可能である。ヘテロオリゴ糖を製造する場合には、受容体基質の存在下、マルトトリオシル転移酵素(好ましくは本酵素)を糖質に作用させる。糖質は特に限定されないが、例えば、マルトオリゴ糖、デキストリン又は澱粉を用いることができる。マルトオリゴ糖としては例えば、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース等を用いることができる。受容体基質も特に限定されず、例えば単糖、糖アルコール等を用いることができる。単糖、糖アルコールの例として、D-キシロース、D-フラクトース、D-グルコース、L-フコース、L-ソルボース、D-マンノース、D-ソルビトール、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、L-アラビノース、D-リボース、L-ラムノース等を用いることができる。本酵素の添加量は特に限定されないが、例えば基質1g当たり、1U〜400Uである。酵素反応時の温度条件も特に限定されないが、本酵素がその作用を十分に発揮できるように、30℃〜70℃に設定するとよい。
【0056】
一態様では、本発明の製造方法はビール又はビール様飲料の製造工程の一部として実施される。典型的には、ビール又はビール様飲料の仕込工程(糖化工程)をマルトトリオシル転移酵素が添加された状態で行うか、或いは仕込工程で得られた糖化液にマルトトリオシル転移酵素を添加し、酵素反応を行う。このようにして、ビール又はビール様飲料に使用される糖質原料の糖化で生じた糖質に対してマルトトリオシル転移酵素が作用する状態を形成する。本発明におけるビール又はビール様飲料とは、酒税法上のビールに限定されず、いわゆる発泡酒、雑種などビール酵母を用いて醗酵させる醸造酒全般のことをいう。低アルコールビールやノンアルコールビール、第3のビール等も、「ビール又はビール様飲料」に該当する。糖質原料としては、麦芽、大麦、小麦、ライ麦、燕麦、トウモロコシ、米、こうりゃん、馬鈴薯、大豆、エンドウ豆、チックピー、コーンスターチ等が用いられる。必要に応じて、二種類以上の原料が併用される。この態様の製造方法によれば、最終的に難消化性糖質(食物繊維)の含量が多いビール又はビール様飲料が得られる。ビール又はビール様飲料の製造工程において、グルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、プルラナーゼ等の酵素を併用することにしてもよい。これらの酵素は、典型的には糖質の低減を目的として使用される。これらの酵素は、例えば、マルトトリオシル転移酵素による酵素反応の際に併せて添加される。
【0057】
本発明はさらに、本発明の製造方法によって製造した難消化性糖質を含有する組成物を提供する。本発明の組成物の用途は特に限定されないが、好ましくは医薬、医薬部外品又は食品である。即ち、本発明は好ましい態様として、本発明の製造方法によって製造した難消化性糖質を含有する医薬組成物、医薬部外品組成物及び食品組成物を提供する。
【0058】
本発明の医薬組成物及び医薬部外品組成物の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
【0059】
製剤化する場合の剤型も特に限定されず、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤などとして本発明の医薬組成物又は医薬部外品組成物を提供できる。
【0060】
本発明の医薬組成物には、期待される治療効果や予防効果を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。同様に本発明の医薬部外品組成物には、期待される改善効果や予防効果等を得るために必要な量の有効成分が含有される。本発明の医薬組成物又は医薬部外品組成物に含まれる有効成分量は一般に剤型や形態によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%〜約95重量%の範囲内で設定する。
【0061】
本発明での「食品組成物」の例として一般食品(穀類、野菜、食肉、各種加工食品、菓子類、牛乳、清涼飲料水、アルコール飲料(例えばビール又はビール様飲料)等、栄養補助食品(サプリメント、栄養ドリンク等)、食品添加物、愛玩動物用食品、愛玩動物用栄養補助食品を挙げることができる。栄養補助食品又は食品添加物の場合、粉末、顆粒末、タブレット、ペースト、液体等の形状で提供することができる。食品組成物の形態で提供することによって、本発明の有効成分(難消化性糖質)を日常的に摂取したり、継続的に摂取したりすることが容易となる。本発明の食品組成物には、治療的又は予防的効果が期待できる量の有効成分が含有されることが好ましい。添加量は、それが使用される対象となる者の病状、健康状態、年齢、性別、体重などを考慮して定めることができる。
【0062】
(マルトトリオシル転移酵素の用途3:配糖体の製造方法)
本発明の第3の局面は、マルトトリオシル転移酵素の用途として、配糖体の製造方法を提供する。本発明の配糖体の製造方法では、上記第1の局面と同様、好ましくは、本願出願人が先の特許出願(詳細は特許文献2を参照)で開示したマルトトリオシル転移酵素(本酵素)を用いる。より詳細には、本発明の配糖体の製造方法では、受容体基質の存在下、マルトトリオシル転移酵素(好ましくは本酵素)を供与体基質に作用させる工程が行われる。
【0063】
各種受容体基質を採用できる(後述の実施例を参照)。受容体基質の具体例を挙げれば、コウジ酸、アスコルビン酸、ハイドロキノン、グリセロール、モノグリセリド、ジグリセリドである。2種類以上の受容体基質を併用してもよい。使用するマルトトリオシル転移酵素が作用可能な限りにおいて供与体基質も特に限定されない。供与体基質の具体例を挙げれば、可溶性デンプン、アミロース、アミロペクチン、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースである。2種類以上の供与体基質を併用してもよい。本酵素の添加量は特に限定されないが、例えば供与体基質1g当たり、1U〜100Uである。酵素反応時の温度条件も特に限定されないが、本酵素がその作用を十分に発揮できるように、30℃〜70℃に設定するとよい。
【実施例】
【0064】
<マルトトリオシル転移酵素活性測定方法>
マルトトリオシル転移酵素の活性は以下の通り測定した。即ち、1%マルトテトラオース(林原生物化学研究所製)を含む10mmol/L MES緩衝液(pH6.5)2mLに酵素溶液0.5mLを添加して、40℃で60分間放置した。放置後、沸騰水浴中で5分間加熱した後、流水中で冷却した。生成したグルコースをグルコース CII-テスト ワコー(和光純薬製)で定量した。本条件下、1分間に反応液2.5mL中に1μmolのグルコースを生成する酵素量を1単位とした。
【0065】
<マルトトリオシル転移酵素活性確認方法>
マルトトリオシル転移酵素の活性は上記<マルトトリオシル転移酵素活性測定方法>と共に、以下の通り確認した。即ち、10.3mmol/L マルトテトラオース(林原生物化学研究所製)を含む5mmol/L 酢酸緩衝液(pH6.0)985μLに1.0u/mL酵素溶液15μLを添加し、50℃で1,2,3時間放置した。放置後、沸騰水浴中で5分間加熱した後、流水中で冷却した。冷却した反応液をカチオン樹脂、アニオン樹脂を用いて適宜脱塩し、HPLCにて反応液の分析を行った。HPLC装置は島津製作所製「Prominence UFLC」、カラムは三菱化学製「MCI GEL CK04S」、溶離液は水を流速0.4mL/分で、検出は示差屈折計で分析した。得られた基質及び生成物の面積%をモル量に換算し、消費速度及び生成速度を計算した。精製したマルトトリオシル転移酵素の場合、例えば生成速度比が7糖:3糖=約92:約8となった。
【0066】
先の特許出願(特許文献2)に示した通り、ジオバチルス・エスピーAPC9669由来マルトトリオシル転移酵素の取得に成功した。以下、特許文献2に示した、当該酵素の取得方法及び諸性質を引用する。
1.ジオバチルス・エスピーAPC9669由来マルトトリオシル転移酵素の生産および精製
ジオバチルス・エスピーAPC9669を表1に示す組成の液体培地を用いて45℃、2日間振とう培養した。得られた培養上清液をUF膜(AIP-1013D、旭化成製)にて5倍に濃縮後、50%飽和濃度になるよう硫酸アンモニウムを添加した。沈殿画分を5mmol/L 塩化カルシウムを含む20mmol/L トリス-塩酸緩衝液(pH8.0)に再度溶解し、続いて終濃度0.5mol/Lとなるように硫酸アンモニウムを添加した。生じた沈殿を遠心分離にて除去した後、0.5mol/L 硫酸アンモニウム及び5mmol/L 塩化カルシウムを含む20mmol/L トリス-塩酸緩衝液(pH8.0)にて平衡化したHiLoad 26/10 Phenyl Sepharose HPカラム(GEヘルスケア製)に供し、0.5mol/Lから0mol/Lの硫酸アンモニウム直線濃度勾配により、吸着したマルトトリオシル転移酵素タンパク質を溶離させた。
【表1】
【0067】
集めたマルトトリオシル転移酵素活性画分をUF膜にて濃縮後、5mmol/L 塩化カルシウムを含む20mmol/L トリス-塩酸緩衝液(pH8.0)にバッファー交換を行った。バッファー交換サンプルを5mmol/L 塩化カルシウムを含む20mmol/L トリス-塩酸緩衝液(pH8.0)にて平衡化したHiLoad 26/10 Q Sepharose HPカラム(GEヘルスケア製)に供し、0mol/Lから1mol/LのNaCl直線濃度勾配により、吸着したマルトトリオシル転移酵素タンパク質を溶離させた。
【0068】
さらに、集めたマルトトリオシル転移酵素活性画分をUF膜にて濃縮後、0.15MのNaClを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.2)にバッファー交換した後、0.15MのNaClを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.2)で平衡化したHiLoad 26/60 Superdex 200pgカラム(GEヘルスケア製)に供し、同緩衝液で溶離した。マルトトリオシル転移酵素活性画分を集め、限外ろ過膜にて脱塩濃縮をし、精製酵素標品を得た。得られた本精製酵素は下記の諸性質の検討に供した。
【0069】
なお、各段階における精製の結果を表2に示した。最終段階の比活性は粗酵素に比較して約41倍となった。
図5に、精製工程における各ステップのサンプルを10-20%のグラジエントゲルにてSDS-PAGE(CBB染色)した結果を示す。本精製酵素標品(レーン2)はSDS-PAGEにおいて単一なタンパク質であることがわかる。
【表2】
【0070】
2.マルトトリオシル転移酵素の諸性質
(1)至適反応温度
上記マルトトリオシル転移酵素活性測定法に準じ、反応温度を30℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃及び75℃で反応させた。最高活性を示した温度での値を100%とした相対活性で示した。至適反応温度は50℃付近であった(
図1)。
【0071】
(2)至適反応pH
上記マルトトリオシル転移酵素活性測定法に準じ、各緩衝液(ユニバーサル緩衝液pH4.0、pH4.5、pH5.0、pH5.5、pH6.0、pH6.5、pH7.0、pH7.5、pH8.0、pH9.0、pH10.0、pH11.0)中、40℃、60分間の反応条件下で測定した。最大活性値を示したpHの値を100%とした相対活性で示した。至適反応pHは約7.5付近であった(
図2)。
【0072】
(3)温度安定性
6u/mLの酵素液を30℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃及び75℃の各温度下、10mmol/L MES緩衝液(pH6.5)中、30分間熱処理した後、残存活性を上記マルトトリオシル転移酵素活性測定法にて測定した。熱に対して未処理の活性を100%とした残存活性で示した。65℃、30分間の熱処理では、90%以上の残存活性を有しており、65℃まででは安定であった(
図3)。
【0073】
(4)pH安定性
6u/mLの酵素液を各緩衝液(ユニバーサル緩衝液pH3.0、pH4.0、pH4.5、pH5.0、pH5.5、pH6.0、pH6.5、pH7.0、pH7.5、pH8.0、pH9.0、pH10.0、pH11.0)中、40℃で30分処理後、上記マルトトリオシル転移酵素活性測定法にて活性を測定した。pH5.0からpH10.0の範囲では、85%以上の残存活性を有しており、pH5.0からpH10.0の範囲では安定であった(
図4)。
【0074】
(5)SDS-PAGEによる分子量測定
SDS-PAGEはLaemmliらの方法に従い行った。なお、用いた分子量マーカーは、Low Molecular Weight Calibration Kit for Electrophoresis(GEヘルスケア製)であり、標準タンパク質としてPhosphorylase b(97,000Da)、Albumin(66,000Da)、Ovalbumin(45,000Da)、Carbonic anhydrase(30,000Da)、Trypsin inhibitor(20,100Da)、α-Lactalbumin(14,400Da)を含んでいた。ゲル濃度10-20%のグラジエントゲル(和光純薬製)を用いて、20mA/ゲルで約80分間電気泳動を行い、分子量を求めた結果、分子量は約83kDaであった(
図5)。
【0075】
(6)等電点
アンホラインを用いた等電点集積(600V、4℃、48時間通電)により測定したところ、本酵素の等電点は約4.5であった。
【0076】
(7)基質特異性
各基質に対するマルトトリオシル転移酵素活性を調べた。
a)マルトオリゴ糖に対する基質特異性
マルトオリゴ糖類については、以下の方法により基質特異性を調べた。10mmol/Lの各マルトオリゴ糖に対して0.002u/mLとなるようにの酵素を添加し、50℃、1、2、3時間放置した。放置後、沸騰水浴中で5分間加熱した後、流水中で冷却した。冷却した反応液をカチオン樹脂、アニオン樹脂を用いて適宜脱塩し、HPLCにて反応液の分析を行った。HPLC装置は島津製作所製「Prominence UFLC」、カラムは三菱化学製「MCI GEL CK04S」、溶離液は水を流速0.4mL/分で、検出は示差屈折計で分析した。得られた基質及び生成物の面積%をモル量に換算し、消費速度及び生成速度を算出した。各マルトオリゴ糖に対する反応速度は以下のように算出した。マルトテトラオースに対する速度は、7糖生成速度と3糖生成速度の和とした。マルトペンタオースに対する速度は、8糖生成速度と3糖生成速度の和とした。マルトヘキサオースに対する速度は、3糖生成速度と9糖生成速度の差の1/2を求め、さらにその値と9糖生成速度の和とした。
【表3】
マルトース、マルトトリオースに対しては反応生成物は認められなかった。マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースに対してはよく作用した。
【0077】
b)多糖類に対する基質特異性
シクロデキストリン、可溶性デンプン、アミロース、アミロペクチンについては、以下の方法により基質特異性を調べた。10mmol/Lの各マルトオリゴ糖に対して0.002u/mLとなるように酵素を添加し、0.1u/mLの酵素を50℃、0、1、2、3時間放置した。放置後、沸騰水浴中で5分間加熱した後、流水中で冷却した。その液200μLに対して、リゾプス由来グルコアミラーゼ(和光純薬)を1.0単位0.03mgとなるように添加し、50℃で1晩静置した。静置後、沸騰水浴中で5分間加熱した後、流水中で冷却した。冷却した反応液をカチオン樹脂、アニオン樹脂を用いて適宜脱塩し、HPLCにて反応液の分析を行った。HPLC装置は島津製作所製「Prominence UFLC」、カラムは三菱化学製「MCI GEL CK04S」、溶離液は水を流速0.4mL/分で、検出は示差屈折計で分析した。酵素(マルトトリオシル転移酵素)処理区に無処理区と比較して、3糖以上のピークに経時的な増加が認められた場合、生成物有り(+)、増加が認められない場合、生成物無し(−)と判定した。
【表4】
シクロデキストリンについては反応生成物が認められなかった。可溶性デンプン、アミロース、アミロペクチンについては、3糖以上のピークに経時的な増加が認められた。これらの多糖類は基質となることが分かった。グルコアミラーゼはα-1,4結合、α-1,6結合を加水分解することから、これらの結合様式以外でも糖転移生成物が生成していることが分かった。
【0078】
(8)基質濃度が酵素反応生成物に及ぼす影響
基質濃度が酵素反応生成物に及ぼす影響について、マルトテトラオースを基質として調べた。0.67、1.0、3.0、10、30、70%(w/v)のマルトテトラオースに対して、3時間反応後のマルトテトラオース残存量が85%以上となるように酵素を添加し、50℃、1、2、3時間放置した。放置後、沸騰水浴中で5分間加熱した後、流水中で冷却した。冷却した反応液をカチオン樹脂、アニオン樹脂を用いて適宜脱塩し、HPLCにて反応液の分析を行った。HPLC装置は島津製作所製「Prominence UFLC」、カラムは三菱化学製「MCI GEL CK04S」、溶離液は水を流速0.4mL/分で、検出は示差屈折計で分析した。得られた基質及び生成物の面積%をモル量に換算し、生成速度を算出した。その結果、全ての基質濃度条件下(0.67〜70%(w/v))で糖転移反応が90%以上であった。
【表5】
【0079】
3.モチの製造
3−1.モチの製造
上新粉250g及び酵素(マルトトリオシル転移酵素、ビオザイムM5(ダイズ由来、天野エンザイム製)又はα−グルコシダーゼ「アマノ」SD(天野エンザイム製))に水200gを加えて混合し、水蒸気で15分間蒸した。マルトトリオシル転移酵素の添加量は8u又は12u/g(基質)とした。また、ビオザイムM5の添加量は1.2mg/g(基質)、α−グルコシダーゼ「アマノ」SDの添加量は1.2mg/g(基質)とした。
【0080】
次いで、蒸したものをミキサー(キッチンエードKSM5(エフ・エム・アイ製))にとって撹拌した後、プラスチック製シャーレに詰めて成形し、放冷、5℃で保存した。1日あるいは2日保存した後、モチの中央部を直径25mmの円柱状に型抜きした。モチの硬さを、レオメーター(COMPAC-100II(サン科学製))を使用して、圧縮スピード60mm/分で50%圧縮した場合の最大荷重を測定した。各試験区の2時間保存のモチの硬さを100%とした時のモチの硬さを比較した。
【0081】
対照試験区(蒸煮後酵素酵素添加区)ではまず、上新粉250g、水200gを加えて混合し、水蒸気で15分間蒸した。次いで、蒸したものをミキサー(キッチンエードKSM5(エフ・エム・アイ製))にとって撹拌しながら生地が約65℃になったところで、ビオザイムM5(ダイズ由来、天野エンザイム製)300mgを添加・混合し、プラスチック製シャーレに詰めて成形し、放冷、5℃で保存した。
【0082】
比較評価の結果、マルトトリオシル転移酵素12u/g(基質)酵素添加区は対照試験区と同等のソフトネス維持効果を示した。さらにモチの過剰なべたつきも認められず、好ましい物性を維持していた。このことから、マルトトリオシル転移酵素は既存のダイズ由来β−アミラーゼ、α-グルコシダーゼ(トランスグルコシダーゼ)とは異なり、蒸煮前添加やプレミックス粉への配合も可能であるといえる。
【表6】
G3転移酵素:マルトトリオシル転移酵素
×:硬すぎて測定不能
【0083】
3−2.モチ(pH調整剤添加)の製造
上新粉250g及び酵素(マルトトリオシル転移酵素、ビオザイムM5(ダイズ由来、天野エンザイム製)又はα−グルコシダーゼ「アマノ」SD(天野エンザイム製))に50mmol/L酢酸緩衝液(pH5.3)200gを加えて混合し、水蒸気で15分間蒸した。マルトトリオシル転移酵素の添加量は8u又は12u/g(基質)とした。また、ビオザイムM5の添加量は1.2mg/g(基質)、α−グルコシダーゼ「アマノ」SDの添加量は1.2mg/g(基質)とした。
【0084】
次いで、蒸したものをミキサー(キッチンエードKSM5(エフ・エム・アイ製))にとって撹拌した後、プラスチック製シャーレに詰めて成形し、放冷、5℃で保存した。1日あるいは2日保存した後、モチの中央部を直径25mmの円柱状に型抜きした。モチの硬さを、レオメーター(COMPAC-100II(サン科学製))を使用して、圧縮スピード60mm/分で50%圧縮した場合の最大荷重を測定した。各試験区の2時間保存のモチの硬さを100%とした時のモチの硬さを比較した。
【0085】
対照試験区(蒸煮後酵素酵素添加区)ではまず、上新粉250gに50mmol/L酢酸緩衝液(pH5.3)200gを加えて混合し、水蒸気で15分間蒸した。次いで、蒸したものをミキサー(キッチンエードKSM5(エフ・エム・アイ製))にとって撹拌しながら生地が約65℃になったところで、ビオザイムM5(ダイズ由来、天野エンザイム製)300mgを添加・混合し、プラスチック製シャーレに詰めて成形し、放冷、5℃で保存した。
【0086】
比較評価の結果、マルトトリオシル転移酵素8及び12u/g(基質)酵素添加区は対照試験区と同等のソフトネス維持効果を示した。さらにモチの過剰なべたつきも認められず、好ましい物性を維持していた。このことから、マルトトリオシル転移酵素は既存のダイズ由来β−アミラーゼ、α-グルコシダーゼ(トランスグルコシダーゼ)とは異なり、pH調整剤を使用する条件においても、蒸煮前添加やプレミックス粉への配合も可能であるといえる。
【表7】
G3転移酵素:マルトトリオシル転移酵素
×:硬すぎて測定不能
【0087】
4.難消化性糖質の製造
(1)難消化性成分含量の測定方法
測定方法は下記の「難消化性成分の定量法」(澱粉科学、第37巻、第2号、107頁、平成2年)の改良法によって測定した。ます、試料1mLを50mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.0)で15mLに定容し、α−アミラーゼ(和光純薬工業製、ターマミル120L相当品)30μLを添加し、95℃で30分間反応させる。冷却後、pH4.5に再調整し、アミログルコシダーゼ(シグマ製)30μLを添加し、95℃で30分間反応させる。沸騰水浴中で5分間煮沸することにより反応を停止する。反応液を30mLに定容し、ピラノース・オキシダーゼ法により、次式により難消化性成分の含量を産出した。
難消化性成分含量(%)=100−生成グルコース量(%)×0.9
【0088】
(2)マルトトリオシル転移酵素による難消化性糖質の調製1
マルトトリオシル転移酵素をデキストリンに添加して難消化性糖質を製造した。マルトトリオシル転移酵素と、デンプン加水分解物(パインデックス#100(松谷化学工業製)、終濃度30%(w/v))を10mmol/L MES緩衝液(pH6.0)に添加し、液量を20mLに調整した。他の酵素を併用した場合の効果も調べるため、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(トルザイム3.0L(ノボザイムズ製))及び/又はプルラナーゼ(クライスターゼPL45(天野エンザイム製))を併用添加する試験区も設けた。
【0089】
60℃で66時間反応させた後、沸騰水浴中で10分間煮沸することにより反応を停止した。冷却した反応液を上記「(1)難消化性成分含量の測定方法」を行った。
【表8】
G3転移酵素:マルトトリオシル転移酵素
CGTase:サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ
【0090】
表8より、生成物の難消化性成分含量は、マルトトリオシル転移酵素単独(20u/g(基質)添加)で49.5%、マルトトリオシル転移酵素(20u/g(基質)添加)とサイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(10mg/g(基質)添加)の併用で57.9%、マルトトリオシル転移酵素(20u/g(基質)添加)、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(10mg/g(基質)添加)及びプルラナーゼ(1mg/g(基質)添加)の3酵素を併用した場合で63.5%であった。
【0091】
以上の通り、マルトトリオシル転移酵素によれば、高温下での反応によっても難消化性糖質を製造できることが示された。高温下での反応は微生物汚染のリスクの軽減に有効であり、特に工業的スケールでの製造の場合に要求される。また、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ又はプルラナーゼを併用すれば、難消化性糖質の含量を高められることが判明した。特に、マルトトリオシル転移酵素、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ及びプルラナーゼの3酵素を併用した場合、マルトトリオシル転移酵素単独に比較して10%以上も難消化性糖質の含量が増大した。
【0092】
5.ビール又はビール様飲料中の食物繊維増量効果
糖化反応は自動糖化槽LB-8(LOCHNER製)を使用した。各糖化槽に320gの1.2mmol/L硫酸カルシウム水溶液を注入し、撹拌しながら50℃まで昇温した後、麦芽8g、粉砕大麦72g、マルトトリオシル転移酵素を添加した。マルトトリオシル転移酵素の添加量は0、96u又は480uとした。原料及び酵素添加後、50℃で1時間処理した。更に、昇温し65℃で1時間保持した後、再び昇温し76℃で10分保持した。得られた糖化液をろ紙ろ過し、ろ液を得た。ろ液中の水溶性食物繊維含量を酵素-HPLC法により求めた。その結果、水溶性食物繊維含量は、酵素無添加区で1.7%(w/v)、酵素96u添加区で2.6%(w/v)、480u添加区で3.2%(w/v)であった。食物繊維はその後の発酵工程においてビール酵母に資化されないため、糖化工程での食物繊維増量により、ビール中の食物繊維を増量することが出来る。尚、マルトトリオシル転移酵素の添加により、原料の麦芽配合率に関わらず麦汁中の食物繊維が増量した。
【0093】
6.麺の製造
米粉(新潟製粉製「パウダーライスD」)100gに対し、マルトトリオシル転移酵素300uを含む市水90mL(酵素無添加区は市水のみ)をよく混合した。約66℃で10分保持した後、十分に混捏したものを製麺機(インペリア製「パスタマシン インペリア SP-150」)で圧延し、更に同製麺機で7mm幅に麺線化した。麺線を蒸し器で15分間蒸し、麺サンプルを得た。2分後、及び5℃保存60分後に本品を試食したところ、酵素無添加と比較して、粘りが向上し、60分保存後のソフトネスが維持されていた。このように、マルトトリオシル転移酵素添加による、麺類の食味の保持効果が認められた。
【0094】
7.ヘテロオリゴ糖の製造
供与体基質としてマルトテトラオース、受容体基質として各種基質(D-キシロース、D-フラクトース、D-グルコース、L-フコース、L-ソルボース、D-マンノース、D-ソルビトール、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、L-アラビノース、D-リボース又はL-ラムノース)をそれぞれ終濃度3.0%(w/v)、10.0%(w/v)となるように10 mmol/LのMES緩衝液(pH6.5)に溶解した。基質溶液1 mLに対して、マルトトリオシル転移酵素を1u添加し、50℃の水槽中で24時間静置反応させた。続いて10分間煮沸し、反応を停止させた。反応液をHPLC分析に供した。HPLC分析では、カラムとしてCK04S(三菱化学製)、カラム温度80℃、移動相として超純水、流速0.4mL/min、検出器として示差屈折計を使用した。反応前の受容体基質量を100%とした時の生成物量を算出した。表9に示す通り、マルトトリオシル転移酵素を使用することにより、多様な受容体基質を用いて多様なヘテロオリゴ糖を製造することができた。これらのヘテロオリゴ糖は、抗う蝕作用、整腸作用など、市販の機能性オリゴ糖のように多様な機能を持つと推測される。尚、供与体基質としては、マルトテトラオースの他、デキストリンやデンプンなども使用できる。
【表9】
【0095】
8.配糖体の製造1
供与体基質としてアミロースEX-1、受容体基質として各種基質(コウジ酸、アスコルビン酸又はハイドロキノン)を終濃度で各2.5%(w/v)となるように5 mmol/LのMES緩衝液(pH6.0)に溶解した。基質溶液1 mLに対して、マルトトリオシル転移酵素を1u添加し、50℃の水槽中で24時間静置反応させた。続いて10分間煮沸し、反応を停止させた。反応液をHPLC分析に供した。HPLC分析では、カラムとしてTSKgel ODS-100V 3μm(4.6mm X 7.5cm; 東ソー製)、カラム温度50℃、流速1.0 mL/min、検出はUV検出器を使用した。移動相はA液が0.1%リン酸、B液がメタノール:超純水=7:3を使用し、0分(B:0%)→4分(B:0%)→8分(B:100%)→10分(B:100%→B:0%)→15分(B:0%)のパターンで溶出した。反応前の受容体基質モル量を100%とした時の生成物量を算出した。マルトトリオシル転移酵素を使用することにより、種々の配糖体を製造することができた。マルトトリオシル転移酵素による配糖化によって、溶解性の向上や物質の安定化など、機能や性質が改善された配糖体を製造できる。
【表10】
【0096】
9.配糖体の製造2
供与体基質としてマルトテトラオース、受容体基質としてグリセロールをそれぞれ終濃度3.0%(w/v)、10.0%(w/v)となるように10 mmol/LのMES緩衝液(pH6.5)に溶解した。基質溶液1 mLに対して、マルトトリオシル転移酵素を1u添加し、50℃の水槽中で24時間静置反応させた。続いて10分間煮沸し、反応を停止させた。反応液をHPLC分析に供した。HPLC分析では、カラムとしてCK04S(三菱化学製)、カラム温度80℃、移動相として超純水、流速0.4mL/min、検出器として示差屈折計を使用した。反応前の受容体基質量を100%とした時の生成物量を算出した。マルトトリオシル転移酵素を使用することにより、対受容体基質7.3%のモル量のグリセロール配糖体が製造できた。グリセロール配糖体は、酒もろみ、みりん、味噌などに含まれる非還元性の配糖体であり、日本酒にはキレの良い甘味とボディ感を付与するといわれている。また、この配糖体は、甘味度が砂糖の半分で低褐変性、低メイラード反応性、熱安定性、非う蝕性、難消化性、低吸湿性、高保湿性などの性質を有する甘味料として、食品や飲料などへ利用できる。