(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記メモリー部材の外端部が結合される前記ラチェットホイール又は該ラチェットホイールと一体化されるスプリングカバーには、前記肉厚部が通り抜けず、且つ、該肉厚部以外の部分が通過可能な幅の溝部を有する抜け止め部が設けられる請求項7または8に記載のシートベルトリトラクタ。
前記メモリー部材の内端部が固定される前記スピンドルに結合されたリテーナには、前記肉厚部が通り抜けず、且つ、該肉厚部以外の部分が通過可能な幅の溝部を有する抜け止め部が設けられる請求項7〜9のいずれか1項に記載のシートベルトリトラクタ。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に装備されているシートベルト装置は、車両衝突時等の車両に大きな減速度が生じた緊急時にシートベルトで乗員を拘束して乗員のシートからの慣性移動を阻止することにより、乗員を保護している。このシートベルト装置には、スピンドルによりシートベルトの巻き取り・引き出しを行うと共に、緊急時にシートベルトの引き出しを阻止するシートベルトリトラクタが設けられている。
【0003】
このようなシートベルトリトラクタでは、乗員がシートに座ってシートベルトを引き出し、タングをバックルに挿入係合した際に、その余分な引き出し分を吸収し、通常装着状態で乗員の胸部等に不必要な圧迫感を与えないようにすることが好ましい。しかし、一般のシートベルトリトラクタでは、一定の力を発揮するスプリングの付勢力でスピンドルがベルト巻取方向に常時付勢されているため、通常装着時において乗員が圧迫感を抱くことがある。
【0004】
そこで、シートベルトの通常装着時にシートベルトを巻き取るスプリングの付勢力を軽減するテンションレデューサ(TRD)機能を備えたシートベルトリトラクタが提供されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0005】
図19及び
図20は、特許文献1に記載されたテンションレデューサ(TRD)機能を備える各シートベルトリトラクタの模式図である。このシートベルトリトラクタでは、シートベルトを巻取方向に付勢するスプリング手段を、予め主スプリングと付加スプリングとに分けて構成し、通常のベルト巻取時には、両スプリングの合成付勢力により充分なベルト巻取力を作り出すと共に、シートベルトの正常装着時には、主スプリングの付勢力のみによる弱い巻取力でシートベルトに張力を付与するようにしている。
【0006】
まず、
図19に示すシートベルトリトラクタについて述べる。
図19(a)〜(c)に示すように、このシートベルトリトラクタでは、主スプリング521と付加スプリング522とが並列に設置されている。主スプリング521は、ベルトBを巻回したスピンドル510に常時連結されており、スピンドル510に対して常時ベルト巻取方向の付勢力FAを付与する。付加スプリング522は、ラチェットホイール540に連結されており、ラチェットホイール540に対してベルト巻取方向の付勢力FBを付与する。そして、ラチェットホイール540がスピンドル510と一体に回転するときは、付加スプリング522の付勢力がスピンドル510に加わり、ラチェットホイール540が回転をロックされているときには、付加スプリング522の付勢力がスピンドル510に加わらないようになっている。
【0007】
ラチェットホイール540のラチェット歯543には、ロックレバー560の爪562が対向しており、ソレノイド570の切り替えによりTRDの機能をON(以下、「TRD=ON」という)にすると、ロックレバー560の爪562がラチェット歯543に係合して、ラチェットホイール540のベルト巻取方向の回転を阻止する。その際、ラチェットホイール540のラチェット歯543とロックレバー560の爪562は一方向クラッチを構成しており、ラチェットホイール540は、ベルト引出方向にのみ回転できる状態に保たれる。また、ソレノイド570の反対方向への切り替えによりTRDの機能をOFF(以下、「TRD=OFF」という)にすると、ロックレバー560の爪562がラチェット歯543から外れて、ラチェットホイール540が、ベルト巻取方向とベルト引出方向の両方向に自由に回転できる状態になる。
【0008】
また、スピンドル510とラチェットホイール540の間には、ラチェットホイール540がベルト巻取方向に回転したときに互いに係合する係合部581、582が設けられている。
【0009】
そして、
図19(a)に示すように、TRD=OFFのとき、ラチェットホイール540は自由に回転できる状態とされ、係合部581、582が互いに係合することで、主スプリング521と付加スプリング522の双方の付勢力の合計FA+FBがベルトBに加えられる。つまり、TRD=OFFのとき、シートベルトを巻き取るときも引き出すときも、ベルト巻取方向の付勢力FA+FBが作用する。
【0010】
次に
図19(b)に示すように、乗員がタングをバックルに装着するために、ベルトBを十分に長く引き出してタングをバックルに装着すると、バックルの検知スイッチに応答した指令によりTRD=ONとなる。つまり、ラチェットホイール540がベルト巻取方向に一方向回転阻止される。この状態から、ベルトBを巻取方向に巻き戻すと、
図19(c)に示す状態になる。このとき、ラチェットホイール540は止まったまま保持されているので、ラチェットホイール540の止まった位置からベルトBが巻取方向に巻き戻された位置までの区間H2において、主スプリング521の付勢力FAだけがベルトBに加わる。つまり、付加スプリング522の付勢力FBが無効とされることで、弱い力(主スプリング521の付勢力FAだけ)で乗員が拘束されることになり、圧迫感が軽減される。
【0011】
また、TRD=ONの状態(タングをバックルに装着した状態)で更にベルトBを引き出すと、ラチェットホイール540がベルト引出方向に回転して、一方向クラッチを構成するラチェット歯543と爪562による一方向回転規制位置が変更(更新)される。そのベルトBの引き出し時には、主スプリング521と付加スプリング522の双方の付勢力の合計FA+FBがベルトBに加わる。このとき、
図19(b)に示すように、主スプリング521は、ベルト巻取方向にもベルト引出方向にも弾性変形可能であるが、付加スプリング522は、一方向クラッチ(ラチェット歯543と爪562)の働きにより、ベルト引出方向にのみ弾性変形可能となる。
【0012】
そして、ラチェットホイール540が位置変更された更新位置で一方向回転規制された状態から、ベルトBを巻取方向に巻き戻すと、再び
図19(c)に示す状態になる。従って、ラチェットホイール540の止まった位置からベルトBが巻取方向に巻き戻された位置までの区間H2において、主スプリング521の付勢力FAだけがベルトBに加わることになり、弱い力で乗員が拘束され、圧迫感が軽減される。
【0013】
また、
図19(c)の状態において、ソレノイド570の切り替えによりTRD=OFFにすると、ロックレバー560の爪562がラチェットホイール540のラチェット歯543から外れて、ラチェットホイール540の回転規制が解除される。そうすると、ラチェットホイール540は、付加スプリング522の付勢力によりベルト巻取方向に回転することで、
図19(a)に示すように、係合部582が係合部581に係合して、付加スプリング522の付勢力FBもベルトBに加わることになる。従って、ベルトBは力強くスピンドル510に巻き取られる。
【0014】
ところで、
図19(c)に示す状態からTRD=OFFにすると、OFFにした瞬間に付加スプリング522の付勢力でラチェットホイール540がベルト巻取方向に急回転することにより、係合部582が係合部581に強く当たって衝撃音を生じる懸念がある。
【0015】
そこで、
図20に示すシートベルトリトラクタでは、スピンドル510とラチェットホイール540とをテープ600を介して連結している。
【0016】
図20(a)に示すように、TRD=OFFの状態では、テープ600が付加スプリング522の付勢力によって引っ張られることにより緊張状態に保たれるので、スピンドル510には、主スプリング521と付加スプリング522のベルト巻取方向の合計付勢力が加わる。
【0017】
次に
図20(b)に示すように、乗員がタングをバックルに装着するために、ベルトBを十分に長く引き出してタングをバックルに装着すると、ソレノイド570の切り替えによりTRD=ONとなる。つまり、ラチェットホイール540がベルト巻取方向に一方向回転阻止される。この状態から、ベルトBを巻取方向に巻き戻すと、
図20(c)に示す状態になる。即ちテープ600は緊張状態が解かれて弛みを生じる。このとき、ラチェットホイール540は止まったまま保持されているので、ラチェットホイール540の止まった位置からベルトBが巻取方向に巻き戻された位置までの区間H2において、主スプリング521の付勢力だけがベルトBに加わる。従って、弱い力で乗員が拘束されることになり、圧迫感が少なくなる。
【0018】
また、TRD=ONの状態(タングをバックルに装着した状態)で更にベルトBを引き出すと、テープ600に引っ張られることで、ラチェットホイール540がベルト引出方向に回転して、一方向クラッチを構成するラチェット歯543と爪562による一方向回転規制位置が変わる。そのベルトBの引き出し時には、主スプリング521と付加スプリング522の双方の付勢力の合計がベルトBに加わる。このとき、
図20(b)に示すように、主スプリング521は、ベルト巻取方向にもベルト引出方向にも弾性変形可能であるが、付加スプリング522は、一方向クラッチの作用により、ベルト引出方向にのみ弾性変形可能となる。
【0019】
そして、ラチェットホイール540が変更された位置で一方向回転規制された状態から、ベルトBを巻取方向に巻き戻すと、再び
図20(c)に示す状態になる。従って、ラチェットホイール540の止まった位置からベルトBが巻取方向に巻き戻された位置までの区間H2において、主スプリング521の付勢力だけがベルトBに加わることになり、弱い力で乗員が拘束され、圧迫感が少なくなる。
【0020】
また、
図20(c)の状態において、ソレノイド570の切り替えによりTRD=OFFにすると(バックルからタングを抜くと)、ロックレバー560の爪562がラチェットホイール540のラチェット歯543から外れて、ラチェットホイール540の回転規制が解除される。そうすると、ラチェットホイール540は、付加スプリング522によってベルト巻取方向に回転し、それにより、
図20(a)に示すように、テープ600が再び緊張状態になって、付加スプリング522の付勢力もベルトBに加わることになる。従って、ベルトBは力強くスピンドル510に巻き取られる。
【0021】
このように、
図20(c)に示す状態において、TRDをONからOFFに切り替えた際に、テープ600を介して、付加スプリング522の付勢力がスピンドル510に伝達される。この際、テープ600が緊張した状態となるが、部材同志の衝突がないため、衝撃音が低減されている。
また、特許文献1のシートベルトリトラクタでは、テープ600の長手方向に20μm以上の凹凸を付して、テープ巻き取りの際の幅方向のズレを防止している。
【0022】
また、特許文献2では、テンションレデューサ機能の解除時に風車を回転させて、風車が発生する流体抵抗により衝撃的な巻取り動作を緩和して異音の発生を抑制している。特許文献3では、テンションレデューサ機能の解除時に、アダプタに巻き付いて回転抵抗を発生するブレーキスプリングを設けて、付加スプリングの回転速度を制限し、付加スプリングが衝撃的に全密閉状態にならないようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
ところで、特許文献1のシートベルトリトラクタでは、テンションレデューサ機能解除時にテープ600が巻き締めされるときに、ピシッという異音が発生しており、さらなる改善が求められている。特に、このようなテンションレデューサ機能付きのシートベルトリトラクタが乗員の耳に近い位置にある場合、乗員に与える不快感が大きい。
例えば、テープ600として、長手方向に真っ直ぐ延びる、弾性を持った伸びの大きな材料を使用することで、クッション機能を持たせることも考えられるが、この場合、テープの耐久性が不足することが懸念される。
【0025】
また、特許文献2,3のシートベルトリトラクタは、いずれも専用部材を配設して、テンションレデューサ機能解除時に付加スプリングによる回転速度を抑えることで異音を抑制しているが、構造が複雑であり、シートベルトリトラクタの体格が大きくなって、コストアップの要因となる。
【0026】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、テンションレデューサの解除時、メモリー部材が急激に巻き締められることで発生する不快な異音を低減することができるシートベルトリトラクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) シートベルトが巻き取り及び引き出し可能に巻回されるスピンドルと、
内端部が前記スピンドルに固定され、外端部が固定側部材に固定され、前記スピンドルに対してベルト巻取方向の付勢力を常時付与する、渦巻きバネで構成される主スプリングと、
前記主スプリングと並列に配置されるとともに、外端部が前記固定側部材に固定され、前記スピンドルに対してベルト巻取方向の付勢力を選択的に付与する、渦巻きバネで構成される副スプリングと、
長尺の帯状部材が渦巻き状に巻回されて構成され、前記副スプリングと直列に配置されるとともに、その内端部が前記スピンドルに固定されたメモリー部材と、
前記副スプリングの内端部及び前記メモリー部材の外端部が結合され、前記スピンドルと同軸に回転自在に設けられ、外周部に複数のラチェット歯部を有するラチェットホイールと、
前記ラチェットホイールの前記ラチェット歯部に係合可能な爪部を備え、前記ラチェットホイールのベルト引出方向の回転を許容しベルト巻取方向の回転を規制する規制状態と、前記ラチェットホイールのベルト引出方向及びベルト巻取方向の両方向の回転を許容する解除状態と、に選択的に切り換える切換え装置と、
を備えるシートベルトリトラクタであって、
巻き緩んだ状態の前記帯状部材は、長手方向に沿う板厚が変化し、前記メモリー部材が渦巻き状に巻回された状態で互いに対向する対向面の一方に、前記帯状部材の長手方向に沿って複数の突出する山部及び相対的に前記山部から凹んでいる複数の谷部が交互に形成される波形形状を有し、前記対向面の他方は、平面であることを特徴とするシートベルトリトラクタ。
(2) 前記帯状部材の前記山部は、曲面状に突出することを特徴とする(1)に記載のシートベルトリトラクタ。
(3) 前記帯状部材の前記山部は、先端が尖って突出することを特徴とする(1)に記載のシートベルトリトラクタ。
(4) 前記帯状部材の前記対向面の一方は、曲面状に突出する前記山部及び相対的に前記山部から凹んでいる前記谷部が前記帯状部材の長手方向に沿って交互に形成される波形形状と、先端が尖って突出する前記山部及び相対的に前記山部から凹んでいる前記谷部が前記帯状部材の長手方向に沿って交互に形成される他の波形形状とが、前記帯状部材の長手方向に沿って混在して形成されることを特徴とする(1)に記載のシートベルトリトラクタ。
(5) 前記谷部は、平面状であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のシートベルトリトラクタ。
(6) 前記帯状部材の隣接する前記山部間のピッチは、内側に巻回された部分が、外側に巻回された部分よりも小さいことを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のシートベルトリトラクタ。
(7) 前記メモリー部材は、樹脂材料で形成されることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載のシートベルトリトラクタ。
(8) 前記メモリー部材の外端部と内端部の少なくとも一方は、先端部分を折り返すことで対向する面同士を接合して形成される肉厚部を有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のシートベルトリトラクタ。
(9) 前記肉厚部は、前記先端部分を折り返すことで対向する面同士を超音波溶着または熱溶着で溶着して形成されることを特徴とする(8)に記載のシートベルトリトラクタ。
(10) 前記メモリー部材の外端部が結合される前記ラチェットホイール又は該ラチェットホイールと一体化されるスプリングカバーには、前記肉厚部が通り抜けず、且つ、該肉厚部以外の部分が通過可能な幅の溝部を有する抜け止め部が設けられる(8)または(9)に記載のシートベルトリトラクタ。
(11) 前記メモリー部材の内端部が固定される前記スピンドルに結合されたリテーナには、前記肉厚部が通り抜けず、且つ、該肉厚部以外の部分が通過可能な幅の溝部を有する抜け止め部が設けられる(8)〜(10)のいずれかに記載のシートベルトリトラクタ。
【0028】
なお、メモリー部材の「内端部が前記スピンドルに固定され」るとは、本発明の実施形態のように、スピンドルと結合されるリテーナに固定される場合を含む。
また、「前記メモリー部材の外端部が結合され」るラチェットホイールとは、本発明の第2実施形態のように、メモリー部材の外端部がスプリングカバーを介してラチェットホイールに固定されてもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明のシートベルトリトラクタによれば、巻き緩んだ状態の帯状部材は、長手方向に沿う板厚が変化し、メモリー部材が渦巻き状に巻回された状態で互いに対向する対向面の一方に、帯状部材の長手方向に沿って複数の突出する山部及び相対的に前記山部から凹んでいる複数の谷部が交互に形成される波形形状を有し、前記対向面の他方は、平面である。これにより、メモリー部材が有するクッション性により、テンションレデューサの解除時にメモリー部材が急激に巻き締められることで発生する不快な異音を低減することができるシートベルトリトラクタを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の各実施形態に係るシートベルトリトラクタを図面に基づいて詳細に説明する。
【0032】
(第1実施形態)
図1に示すように、第1実施形態のシートベルトリトラクタは、巻き取り及び引き出し可能にシートベルトB(
図9参照)が巻回されるスピンドル10と、スピンドル10を左右側壁8a、8b間に回転自在に支持するフレーム8と、スピンドル10に対しベルト巻取方向RAの付勢力を常時付与する主スプリング21と、主スプリング21と並列に配置され、スピンドル10に対してベルト巻取方向RAの付勢力を選択的に付与する副スプリング22と、副スプリング22と直列に配置され、長尺の帯状部材が渦巻き状に巻回されてなるメモリー部材23と、ラチェットホイール40と、ラチェットホイール40を選択的に一方向回転ロックするロックアーム60と、ロックアーム60をロック位置とロック解除位置に切り替え変位させる電磁ソレノイド70と、車両衝突時等の車両に大きな減速度が生じた緊急時を検出してシートベルトの引き出しを阻止するセンサ機構5と(
図3参照)、を有している。
【0033】
主スプリング21及び副スプリング22は、渦巻き方向が同じ方向の渦巻きバネ(ゼンマイバネとも言われる)によって構成されている。主スプリング21及び副スプリング22の渦巻きバネは、巻き締め方向に巻かれることでエネルギー(トルク)を蓄え、巻き緩め方向(巻き締め方向と逆方向)にエネルギー(トルク)を解放する機能を有するものである。
【0034】
一方、メモリー部材23は、例えば、耐衝撃性能の高いポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリエステル、ポリカーボネートなどの樹脂で形成された長尺のテープ(帯状部材)であり、主スプリング21及び副スプリング22と同じ方向に渦巻き状に巻かれている。即ち、メモリー部材23は、エネルギー(トルク)の蓄積機能は有しておらず、テンションレデューサのOFF時には、主スプリング21及び副スプリング22のばね力により、径方向に隣接するテープ同士が密着する巻き締められた形状となっている。
【0035】
主スプリング21と副スプリング22のトルク(回転付勢力)は、任意に設定することができ、例えば、互いに等しく設定してもよい。また、テンションレデューサのON/OFF時に、スピンドル10に加わる巻取力に大きな差を付与するため、副スプリング22のトルクを、主スプリング21のトルクより大きく設定してもよい。
【0036】
スピンドル10の軸端11は、センサ機構5を配した側と反対側の左側壁8aの中心孔8cから外部に突出しており、その軸端11側に、テンションレデューサ(TRD)機能を備えた巻取機構2が配置されている。前述の主スプリング21、副スプリング22、メモリー部材23、ラチェットホイール40、ロックアーム60、電磁ソレノイド70は、巻取機構2の構成要素として備わっている。TRDは、以上の要素のうち主スプリング21を除いた要素で構成されている。
【0037】
巻取機構2は、その他のハウジング類として、第1ハウジング31と、第2ハウジング32と、第3ハウジング33と、を有している。これらのハウジング31、32、33は、主スプリング21、副スプリング22、メモリー部材23、ラチェットホイール40などを支持したり収容したりするもので、固定側部材として、フレーム8に対して直接または間接に固定されている。これら第1ハウジング31、第2ハウジング32、第3ハウジング33は、
図3に示すように、この順に、スピンドル10の軸線方向の外側(フレーム8の左側壁8aから遠い側)から内側(フレーム8の左側壁8aに近い側)に向かって並んでいる。なお、
図2に示すように、第1ハウジング31には、ロックアーム60や電磁ソレノイド70などを収容するカバー部31sが一体に設けられている。
【0038】
第3ハウジング33は、フレーム8の左側壁8aの外面に固定されており、その第3ハウジング33の中にラチェットホイール40が収容されている。ラチェットホイール40は、円形基板41の第3ハウジング33側(内側)の側面に大径の筒壁42を突設し、その筒壁42の外周部に、周方向に一定間隔でラチェット歯部43を配列したものである。ラチェット歯部43を外周に形成した筒壁42の内部にはメモリー部材23が収容されており、そのメモリー部材23を覆うように、スプリングカバー48が、ラチェットホイール40の第3ハウジング33側(内側)の側面に固定されている。スプリングカバー48は、その周囲に設けた取付爪48aを、ラチェットホイール40の円形基板41に形成した取付孔46に係合させることで、ラチェットホイール40に一体化されている。また、ラチェットホイール40の円形基板41の反対側(外側)の側面の中央孔の周囲には、外周にバネ係止部45の付いた小径のボス筒部44が形成されている。
【0039】
ラチェットホイール40の軸線方向外側には副スプリング22が配設されている。また、その軸線方向外側には第2ハウジング32が配置され、その軸線方向外側には主スプリング21が配設され、その軸線方向外側には第1ハウジング31が配設されている。従って、主スプリング21は、第1ハウジング31と第2ハウジング32の間に配設され、副スプリング22は、第2ハウジング32とラチェットホイール40と間に配設されている。
【0040】
スピンドル10の軸端11は、フレーム8の左側壁8aに固定された第3ハウジング33の中央孔33aを貫通しており、その軸端11にリテーナ12がスピンドル10と一体回転するように結合されている。また、第3ハウジング33に設けられたアーム支持軸部33bには、クランク形状のロックアーム60の中央部が揺動自在に装着されている。ロックアーム60は、先端に、ラチェット歯部43と係合する爪部62を有したもので、電磁ソレノイド70により、ロック位置とロック解除位置とに選択的に切替変位させられる。
【0041】
この場合、
図6や
図9に示すように、電磁ソレノイド70のプランジャ71にロックアーム60の基端63が連結され、プランジャ71に配設した復帰スプリング72の付勢力で、電磁ソレノイド70が非通電状態にある時(OFF時)、ロックアーム60は、ロック解除位置(ロックアーム60の爪部62がラチェットホイール40のラチェット歯部43から離れる位置)に保持される。また、電磁ソレノイド70が通電状態に切り替えられると(ON時)、プランジャ71が復帰スプリング72の付勢力に抗して引き込まれることで、ロックアーム60が、ロック解除位置からロック位置(ロックアーム60の爪部62がラチェットホイール40のラチェット歯部43に係合する位置)に変位するようになっている。
【0042】
ロックアーム60の爪部62は、ラチェットホイール40のラチェット歯部43と対向する関係にある。ロックアーム60がロック位置に操作されることで、ロックアーム60の爪部62がラチェットホイール40のラチェット歯部43に係合する。その係合状態にあるとき、ロックアーム60の爪部62は、ラチェットホイール40のベルト引出方向RBの回転のみを許し、ベルト巻取方向RAの回転を阻止する。つまり、ロックアーム60の爪部62とラチェットホイール40のラチェット歯部43によって、ラチェットホイール40のベルト引出方向RBのみの回転を許す一方向クラッチが構成されている。
【0043】
ここでは、ロックアーム60がロック位置に操作された状態(即ち、ラチェットホイール40がベルト巻取方向に一方向回転規制された状態)を「TRD=ON」といい、ロック解除位置に操作された状態(即ち、ラチェットホイール40がベルト巻取方向及び引出方向の両方向に回転自由な状態)を「TRD=OFF」と言う。
【0044】
図1に示すように、スピンドル10の軸端11にスピンドル10と一体回転するように連結されたリテーナ12には、ラチェットホイール40を回転自在に支持する円筒支持部12aと、ラチェットホイール40の中心孔を貫通してコネクタ13の角孔に嵌合される角軸部12bと、コネクタ13を貫通して第1ハウジング31の内面の軸受孔(図示せず)に回転自在に支持される先端突部12cと、が設けられている。
【0045】
リテーナ12の円筒支持部12aには、ラチェットホイール40がスピンドル10と同軸に回転自在に嵌合されており、ラチェットホイール40の筒壁42の内部に収容されたメモリー部材23は、
図6及び
図7に示すように、外端部23aがラチェットホイール40の抜け止め部40aに係止され、内端部23bがリテーナ12に直線部分と曲線部分とで形成された抜け止め溝(抜け止め部)12dによって係止されている。
【0046】
メモリー部材23は、
図8に示すように、例えば、長手方向に垂直なウェーブ量がA=0.5mm〜0.8mm、板厚がt=0.3mm〜0.4mmで、長手方向に沿って略一定の長尺のテープであり、複数の山部23c及び複数の谷部23dが、ピッチP=3mm〜8mmでテープの長手方向に沿って緩やかに湾曲された略正弦波状の波形形状Sとなっている。
【0047】
従って、メモリー部材23は、TRD=OFFの状態において、副スプリング22の付勢力により、内周端部側に巻き締められる状態に維持されている(
図6参照)。また、メモリー部材23は、TRD=ONの状態において、
図7に示すように、巻き緩んだ状態となっている。即ち、巻回されたメモリー部材23の少なくとも一部は、メモリー部材23の持つ弾性力により原形形状(略正弦波状の波形形状S)に復帰している。
【0048】
なお、ウェーブ量Aが0.8mmより大きいと、メモリー部材23が巻き緩められたときの巻き外径が大きくなり、ウェーブ量Aが0.5mmより小さいと、メモリー部材23の持つクッション機能が十分に得られなくなる。
本実施形態では、山部23cと谷部23dとの高さの差Hは、メモリー部材23の板厚tと略同じに設計されることが好ましい。
【0049】
また、ラチェットホイール40の外側に配設された副スプリング22は、
図5に示すように、外端部22aが第2ハウジング(固定側部材)32に係止され、内端部22bがラチェットホイール40のボス筒部44のバネ係止部45に係止されている。そして、これにより、副スプリング22は、第2ハウジング32を基準にした状態で、そのベルト巻取方向RAの付勢力を、ラチェットホイール40に付与している。
【0050】
また、第2ハウジング32の軸線方向外側に配設された主スプリング21は、
図4に示すように、外端部21aが第1ハウジング(固定側部材)31に係止され、内端部21bが、スピンドル10の軸端11に、リテーナ12を介してスピンドル10と一体回転するように結合されたコネクタ13のバネ係止部13aに係止されている。これにより、主スプリング21は、第1ハウジング31を基準にした状態で、そのベルト巻取方向RAの付勢力を、コネクタ13及びリテーナ12を介してスピンドル10に常時付与している。
【0051】
ロックアーム60及び電磁ソレノイド70は、ラチェットホイール40の状態を、ラチェットホイール40のベルト引出方向RBの回転を許容し、ベルト巻取方向RAの回転を規制した規制状態(TRD=ONの状態)と、ラチェットホイール40のベルト引出方向RB及びベルト巻取方向RAの両方向の回転を許容する解除状態(TRD=OFFの状態)と、に選択的に切り替える切換え装置80を構成する。
【0052】
即ち、電磁ソレノイド70は、ロックアーム60をロック解除位置に切り替えたとき、副スプリング22によるベルト巻取方向RAの付勢力のスピンドル10への伝達を有効とし、ロックアーム60をロック位置に切り替えたとき、副スプリング22によるベルト巻取方向RAの付勢力のスピンドル10への伝達を無効とする。
【0053】
また、電磁ソレノイド70は、シートベルトBのタング(図示せず)がバックルにロックされていないとき、TRD=OFF、つまりロックアーム60をロック解除位置に保持し、シートベルトBのタングがバックルにロックされているとき、TRD=ON、つまりロックアーム60をロック位置に保持する。この切り替え信号は、バックルに内蔵された不図示の検知スイッチの検知信号に応じて発せられる。即ち、バックルにタングが挿入されて係合されたとき、TRD=ONとするべく電磁ソレノイド70に通電信号(ON信号)が供給され、バックルにタングが挿入されてないとき、または係合が外れたとき、TRD=OFFとするべく電磁ソレノイド70に非通電信号(OFF信号)が供給される。
【0054】
次に、
図9〜
図13を参照してシートベルトリトラクタの作用について説明する。
図9〜
図12は、各使用状況におけるシートベルトリトラクタの模式図であり、
図13は、横軸にベルトの巻き取り・引き出し量をとり、縦軸にベルトの巻き取り・引き出し力(巻取トルク)をとって、ベルト引出量とベルトに作用する巻取力の関係を示す。
【0055】
先ず、
図9を用いて、乗員がベルト装着のためにシートベルトを引き出して、タングをバックルに差込係合させるまでに状況について説明する。
【0056】
シートベルトBのタングがバックルに係合されていないときは、
図9に示すように、TRD=OFFであり、ラチェットホイール40が何ら拘束されていない(回転規制されていない)ので、スピンドル10には、主スプリング21と副スプリング22による合成付勢力FA+FBが作用する。
【0057】
なお、メモリー部材23は、ラチェットホイール40を介して副スプリング22と直列配置され、副スプリング22と渦巻き方向を同一方向とし、自由状態において完全に巻き締められた形状となっている。このため、TRD=OFFの状態では、メモリー部材23は完全に巻き締められた状態に保たれ、ラチェットホイール40とリテーナ12とは一体に回転する。したがって、TRD=OFFの状態では、副スプリング22の付勢力FBが、主スプリング21の付勢力FAに加算されて、スピンドル10に作用する。
【0058】
従って、この状況でのシートベルトBの引き出しや巻き取りの際には、主スプリング21と副スプリング22による大きな合成付勢力FA+FBがベルト巻取方向に作用することになる。乗員が主スプリング21及び副スプリング22の合成付勢力FA+FBに抗してシートベルトBを引き出して行くと、スピンドル10がベルト引出方向(
図1の矢印RB方向)に回転して、主スプリング21及び副スプリング22を巻き締めて行く(メモリー部材23は完全に巻き締められた状態を維持したまま、主スプリング21及び副スプリング22がエネルギーを蓄えて行く)。また、シートベルトBの巻き取りの際には、主スプリング21及び副スプリング22の合成付勢力FA+FBによって、スピンドル10を迅速に回転させることができる。
図13の(1)で示す特性線がそのときのシートベルトBに作用する巻取力の変化を示している。
【0059】
次に、乗員が、引き出したシートベルトBのタングをバックルに差込係合させる。そうすると、バックルの検知スイッチからON信号が出て、
図10に示すように、電磁ソレノイド70がONされ、電磁ソレノイド70が復帰スプリング72の付勢力に抗してプランジャ71を引き込んで、ロックアーム60を動かす。それにより、ロックアーム60の爪部62がラチェットホイール40のラチェット歯部43に係合して、ラチェットホイール40が、ベルト巻取方向(
図1の矢印RA方向)に一方向回転規制される。つまり、この状態がTRD=ONの状態(規制状態)である。
図10は、TRD=OFFからONにした直後の状態を示している。
図13の(2)で示す点が、このタイミングを示している。
【0060】
そして、電磁ソレノイド70がONした状態(TRD=ON)から、シートベルトBの弛みをとるべくベルト巻取方向にシートベルトBを戻そうとすると、
図11に示すように、ラチェットホイール40がベルト巻取方向に回転規制されているので、副スプリング22の付勢力FBのスピンドル10への伝達が無効とされる。
図13の(4)で示す点は、そのタイミングを示している。
【0061】
さらに、シートベルトBをベルト巻取方向に巻き戻すと、メモリー部材23の内端部23bが係止しているリテーナ12がスピンドル10と一体回転することで、巻き緩み始める。即ち、メモリー部材23は、完全に巻き締められた状態から、スピンドル10の巻取方向の回転により巻き緩められる。したがって、TRD=ONの状態においてスピンドル10に作用するベルト巻取方向の付勢力は、主スプリング21のベルト巻取方向の付勢力FAのみとなる。この状態は、乗員がフィットする位置にシートベルトBを巻き戻した状態に相当し、このときの巻取力の変化は、
図13の(5)の特性線で示すことができる。
【0062】
なお、TRD=ONの状態から
図13において(4)より右側の範囲でのシートベルトBの巻き取り、巻き戻しにおいてスピンドル10に作用する付勢力は、副スプリング22の付勢力FBが無効化されて、主スプリング21のベルト巻取方向の付勢力FAであるので、副スプリング22の付勢力FBを主スプリング21の付勢力FAより大きく設定しておけば(FB>FA)、TRD=ON時とTRD=OFF時とのシートベルトBの巻取力の差を大きく設定することができる。
【0063】
従って、タングをバックルに差込係合させたときの力よりも弱い力で乗員が拘束されることになり、乗員の圧迫感が少なくなり、自由感が増す。このように、TRD=OFF時(シートベルト装着のための巻取・引出時)とTRD=ON時(シートベルトの通常装着時)の巻取力の差を大きく設定することができるので、それにより、ベルト装着時の乗員の快適性の向上が図れる。
【0064】
次に、シートベルトBのタングをバックルから抜くと、バックル内の検知スイッチのOFF信号に応答して、電磁ソレノイド70がOFFに切り替わる。その結果、プランジャ71が復帰スプリング72の付勢力により突出位置へと復帰し、ロックアーム60が回転して、ラチェットホイール40のラチェット歯部43とロックアーム60の爪部62の係合が外れる。そして、
図13の(6)で示すタイミングで、TRD=OFFの状態になる。この状態になると、ラチェットホイール40に作用している副スプリング22の付勢力FBがメモリー部材23に伝達され、メモリー部材23が巻き締められた形状に戻ろうとする。そして、メモリー部材23が完全に巻き締められた状態となると、副スプリング22の付勢力FBが、ラチェットホイール40及びメモリー部材23を介してスピンドル10に伝達され、
図9に示す状態に戻る。
【0065】
図13の上向き点線矢印は、
図9の状態に戻ることを示している。シートベルトBのタングをバックルから抜くタイミングは任意であり、最初にタングをバックルに差し込んだ位置((2)の位置)である場合もあるし、その前後のタイミングである場合もある。このように、
図9に示す状態に戻ると、シートベルトBには、主スプリング21の付勢力FAと副スプリング22の付勢力FBの合成付勢力FA+FBが作用し、強い巻取力によって迅速にシートベルトBがスピンドル10に巻き取られる。
【0066】
TRD=ONからTRD=OFFになると、副スプリング22の付勢力FBがラチェットホイール40を介してメモリー部材23に伝達され、巻き緩められていたメモリー部材23が巻き締められる。ここで、本実施形態のメモリー部材23は、巻回したときに対向するそれぞれの対向面に、複数の山部23c及び複数の谷部23dを有する略正弦波状の波形形状Sが形成されているので、先ず、山部23cの頂点が巻回されて径方向に対向する対向面に接触し、更に巻き締められることで、メモリー部材23の持つ弾性力に抗して略正弦波状の波形形状Sが引き延ばされながら次第に巻き締められる。これにより、メモリー部材23の巻き締め時にクッション効果が作用し、メモリー部材23の巻き締めに伴う異音の発生が抑制され、乗員に与える不快感が大幅に軽減される。
【0067】
なお、乗員が、シートベルトBのタングをバックルに差込係合させた状態で、シートベルトBを更に引き出して行く場合や、乗員が正常にベルト装着した後、大きく前傾姿勢をとったり、車をバックさせるために後方に大きく振り向く場合など、TRD=ONの状態でのシートベルトBの引き出し位置((2)の位置)を超えてシートベルトBが引き出される場合がある。この場合、
図12に示すように、メモリー部材23は完全に巻き締められた状態で、ベルト引出方向に回転規制されていないラチェットホイール40が、副スプリング22を巻き締めながらベルト引出方向に回転する。この際、ロックアーム60は、爪部62とラチェット歯部43が一方向クラッチを構成する関係で、ラチェットホイール40のラチェット歯部43から外れる方向に回転するので、シートベルトBの引き出しを邪魔することはない。
【0068】
そのときにスピンドル10に作用する巻取力は、主スプリング21のベルト巻取方向の付勢力FAと副スプリング22のベルト巻取方向の付勢力FBの合成付勢力FA+FBとなる。
図13の(3)は、このときの巻取力の変化を示している。
【0069】
したがって、ラチェットホイール40は、ロックアーム60の爪部62とのラチェット歯部43の噛み合い位置が変わった状態で回転規制される。この場合でも、更新されたロックアーム60とラチェットホイール40の噛み合い位置からシートベルトBがベルト巻取方向に巻き戻されることで、主スプリング21のベルト巻取方向の付勢力FAがスピンドル10に作用する。
【0070】
以上説明したように、本実施形態のシートベルトリトラクタによれば、スピンドル10と、スピンドル10に対してベルト巻取方向の付勢力を常時付与する主スプリング21と、主スプリング21と並列に配置され、スピンドル10に対してベルト巻取方向の付勢力を選択的に付与する副スプリング22と、副スプリング22と直列に配置され、長尺の帯状部材が渦巻き状に巻回されてなるメモリー部材23と、副スプリング22の内端部22b及びメモリー部材23の外端部23aが結合され、複数のラチェット歯部43を有するラチェットホイール40と、ラチェットホイール40を規制状態と解除状態とに選択的に切り換える切換え装置80と、を備える。メモリー部材23は、渦巻き状に巻回された状態で互いに対向する対向面の少なくとも一方の面に、メモリー部材23の長手方向に沿って複数の山部23c及び複数の谷部23dが湾曲形成された略正弦波状の波形形状Sとなっている。これにより、メモリー部材23が有するクッション性により、テンションレデューサの解除時にメモリー部材23が巻き締められるときに発生する不快な異音を低減することができる。更に、メモリー部材23の巻き締め完了時にメモリー部材23に作用する荷重が軽減されて耐久性が向上する。
【0071】
例えば、メモリー部材23の形状は、渦巻き状に巻回されたとき、互いに対向する対向面の少なくとも一方の面が波形形状に形成されていればよく、
図8に示す板厚一定の略正弦波状のものに限定されない。
例えば、
図14(a)に示すように、板厚tが一定であり、山部23c及び谷部23dの先端が尖って折り曲げられた略三角波状の波形形状Tを有するメモリー部材23Aであってもよい。
また、
図14(b)に示すように、略正弦波状の波形形状Sと略三角波状の波形形状Tとが、メモリー部材23の長手方向に沿って混在して形成されたメモリー部材23Bとすることもできる。
【0072】
また、
図14(c)に示すように、対向する一方の面に曲面状に突出する山部23c及び平面状の谷部23dがテープの長手方向に沿って交互に形成され、他方の面が平面23eとされて、板厚tが長手方向に沿って変化する片面凸曲面状の波形形状S1を有するメモリー部材23Cであってもよい。
また、
図14(d)に示すように、対向する一方の面に先端が尖って突出する三角形状の山部23c及び平面状の谷部23dがテープの長手方向に沿って交互に形成され、他方の面が平面23eとされて、板厚tが長手方向に沿って変化する片面三角凸状の他の波形形状T1を有するメモリー部材23Dとすることもできる。
さらに、
図14(e)に示すように、片面凸曲面状の波形形状S1と片面三角凸状の他の波形形状T1とが、長手方向に沿って混在して形成されたメモリー部材23Eとすることもできる。
なお、
図14(c)〜
図14(e)において、谷部23dは、平面状に限定されず、相対的に山部23cから凹んでいるものであれば、他の形状であってもよい。
【0073】
また、
図14(c)〜
図14(e)のメモリー部材23C〜23Eにおいて、長手方向に垂直な最大高さA´は、A´=0.5mm〜0.8mmに設定されている。
さらに、この変形例においても、山部23cと谷部23dとの高さの差Hは、メモリー部材23C〜23Eの最小板厚tと略同じであることが好ましい。
また、他方の面が平面とされたメモリー部材23C〜23Eでは、凸状を有する一方の面を外径側、他方の面を内径側としてテープを巻回するほうが好ましい。
【0074】
また、
図15に示すように、メモリー部材23Fは、渦巻き状に巻回された状態において、内側に巻回されたメモリー部材23Fの波形形状のピッチ(隣接する山部間のピッチ)P1は、外側に巻回されたメモリー部材23Fの波形形状のピッチ(隣接する山部間のピッチ)P2よりも小さく設定されてもよい。
【0075】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るシートベルトリトラクタについて、
図16〜
図18を参照して説明する。なお、第1実施形態のものと同一または同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0076】
第1実施形態では、メモリー部材23の外端部23aは、ラチェットホイール40の抜け止め部40aに係止されていたが、本実施形態では、ラチェットホイール40と一体化されるスプリングカバー48の抜け止め部48bに係止されている。なお、メモリー部材23の内端部23bは、第1実施形態と同様に、リテーナ12の抜け止め溝12dによって係止されている。
【0077】
また、
図17及び
図18に示すように、本実施形態では、メモリー部材23の外端部23a及び内端部23bには、帯状部材の先端から4〜5mmまでの先端部分の位置で折り返され、該先端部分と該先端部分と重なる部分の互いに対向する面同士を超音波溶着または熱溶着で溶着することで形成される肉厚部23f、23gがそれぞれ設けられている。
【0078】
スプリングカバー48の抜け止め部48bは、それぞれの側面間にスリット(溝部)48c、48dを形成する係止凸部48e,48f,48gを備える。スリット48c、48dのうち、スリット48cは、メモリー部材23の肉厚部23f以外の部分を通す一方、肉厚部23fを通り抜けない幅w1に設定されている。
【0079】
したがって、メモリー部材23をスリット48c、48dに通過させると共に、肉厚部23fをメモリー部材23で押さえるようにして、メモリー部材23の外端部23aを係止凸部48e,48fの側面に沿って1周半巻く。なお、係止凸部48gの外側面は、メモリー部材23が所定の方向に引き出されるように案内する。
これにより、メモリー部材23の外端部23aは、スプリングカバー48の抜け止め部49bによって抜け止め保持される。
なお、外端部23aは、帯状部材がスリット48cを越えてから係止凸部48e、48fの回りに1周以上巻かれているので、肉厚部23fに直接荷重が作用するのを防ぐことができる。
【0080】
また、リテーナ12の抜け止め溝12dの奥側部分には、メモリー部材23の肉厚部23gを収容する肉厚溝12d1が段差部12d2を介して形成されており、抜け止め溝12dの肉厚溝12d1以外の溝部12d3は、メモリー部材23の肉厚部23g以外の部分を通す一方、肉厚部23gが通り抜けない幅w2に設定されている。
これにより、メモリー部材23の内端部23bも、リテーナ12の抜け止め溝12dによって抜け止め保持される。
なお、内端部23bは、メモリー部材23が巻き締まることによって、肉厚部23gにかかる荷重が低減される。
【0081】
したがって、本実施形態のシートベルトリトラクタによれば、メモリー部材23の外端部23a及び内端部23bに金属ピンや樹脂ブロックのような別部品を設けて、スプリングカバー48やリテーナ12に固定する必要がなく、部品点数の低減と省スペース化を図ることができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0082】
なお、スプリングカバー48の抜け止め部48bや、リテーナ12の抜け止め溝12dの形状は、肉厚部23f、23gが通り抜けない溝部を有する構造であれば、変更可能である。
また、本実施形態の肉厚部23f、23gを有するメモリー部材23は、ラチェットホイール40及びリテーナ12に本実施形態と同じような抜け止め部及び抜け止め溝を設けることで、第1実施形態にも適用することができる。
また、肉厚部23f、23gは、本実施形態のように、折り返して2枚を重ね合わせるものに限らず、2枚以上の複数枚が重ね合さる構成であってもよい。
【0083】
また、肉厚部23f、23gは、本実施形態のように、超音波溶着または熱溶着で溶着するものに限らず、剥がれないように他の方法で接合して形成されてもよい。
【0084】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば 、第2実施形態のメモリー部材の端部に肉厚部を有する構成は、複数の山部及び複数の谷部が交互に形成される本発明の帯状部材以外、例えば、ストレート形状の帯状部材にも適用されてもよい。
【0085】
本出願は、2015年8月31日出願の日本特許出願2015−171490に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。