(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱可塑性樹脂製のカバーリング糸が緯編みされた編み構造を有するカバーにより、連続した複数の炭素繊維を含む炭素繊維糸の周囲が覆われており連続した複合糸を織成することによって少なくとも一つの複合糸構造体を製造する複合糸構造体形成工程と、
一つの前記複合糸構造体又は複数の前記複合糸構造体が積層されてなる積層体を、加熱及び加圧して、前記カバーリング糸を溶融することによって、前記炭素繊維糸が織成された状態の炭素繊維糸構造体を前記熱可塑性樹脂で埋設する加熱加圧工程と、
を備える、炭素繊維強化プラスチックの製造方法。
熱可塑性樹脂からなるカバーリング糸が緯編みされた編み構造を有するカバーにより、連続した複数の炭素繊維を含む炭素繊維糸の周囲が覆われた連続した複合糸が織成されてなる複合糸構造体を加熱及び加圧してなる成形体である、炭素繊維強化プラスチック。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CFRPでは、一定の強度を得るために、複数の炭素繊維間にマトリックス樹脂を含浸させる必要がある。マトリックス樹脂に熱硬化性樹脂を採用している場合、マトリックス樹脂を複数の炭素繊維間に含浸させると共に、硬化させるのに時間を要し、生産性が低かった。このような問題点を解決するために、マトリックス樹脂に熱可塑性樹脂を利用したものが開発されてきている。
【0005】
しかしながら、熱可塑性樹脂は、通常、熱硬化性樹脂より粘度が高いため、従来使用されている熱硬化性樹脂用のCFRP製造装置又は製造方法では、複数の炭素繊維間の含浸率が低下し(例えば、体積ボイド率が高くなり)、その結果、強度が低下することが考えられる。一方、熱可塑性樹脂を使用しながら含浸率を高めるためには、炭素繊維として短繊維を使用することが考えられるが、その場合、連続した炭素繊維を使用している場合より炭素繊維による強度補強が低下するため、その結果、CFRPの強度が低下する傾向にある。
【0006】
そこで、本発明は、強度を確保しながら生産性を向上可能な炭素繊維強化プラスチックの製造方法及び炭素繊維強化プラスチックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る炭素繊維強化プラスチックの製造方法は、熱可塑性樹脂製のカバーリング糸が緯編みされた編み構造を有するカバーにより、連続した複数の炭素繊維を含む炭素繊維糸の周囲が覆われており連続した複合糸を織成することによって少なくとも一つの複合糸構造体を製造する複合糸構造体形成工程と、一つの上記複合糸構造体又は複数の上記複合糸構造体が積層されてなる積層体を、加熱及び加圧し、上記カバーリング糸を溶融することによって、上記炭素繊維糸が織成された状態の炭素繊維糸構造体を上記熱可塑性樹脂で埋設する加熱加圧工程と、を備える。
【0008】
上記複合糸は、炭素繊維糸が、熱可塑性樹脂製のカバーリング糸が緯編みされた編み構造を有するカバ−により覆われているので、連続した複合糸を容易に織成して、複合糸構造体を形成できる。そして、上記製造方法では、複合糸構造体を加熱及び加圧することで炭素繊維強化プラスチックを得ているため、炭素繊維強化プラスチックの生産性の向上を図ることができる。また、複合糸のカバーを構成するカバーリング糸が緯編みされていることから、炭素繊維糸とカバーリング糸との密着性の向上も図れる。そのため、複合糸構造体を加熱及び加圧することで、カバーリング糸を構成する熱可塑性樹脂で炭素繊維糸を埋設した際に、炭素繊維強化プラスチックの体積ボイド率を低下可能である。同様の理由で、炭素繊維強化プラスチックの繊維体積含有率の向上も図れる。また、複合糸構造体は、連続した複合糸が織成されて構成されているので、カバーリング糸が加熱され溶融された後に残存する炭素繊維糸構造体も、連続した炭素繊維糸で構成される。よって、炭素繊維糸の強度を有効に利用可能である。その結果、強度を確保できる。
【0009】
一実施形態において上記製造方法は、上記複合糸構造体を洗浄する洗浄工程を更に備え、 上記洗浄工程前において、上記炭素繊維糸に含まれる複数の上記炭素繊維は、集束剤により集束されており、上記洗浄工程では、上記集束剤を除去し、上記加熱加圧工程では、上記洗浄工程で洗浄された一つの上記複合糸構造体又は上記積層体を加熱及び加圧してもよい。
【0010】
この場合、複数の炭素繊維を集束するための集束剤を、洗浄工程で除去することから、炭素繊維と熱可塑性樹脂が接する界面の密着性を向上可能である。その結果、炭素繊維強化プラスチックの強度の向上が図れる。
【0011】
本発明の他の側面に係る炭素繊維強化プラスチックは、連続した炭素繊維を含む炭素繊維糸が織成された状態の炭素繊維糸構造体と、上記炭素繊維糸構造体を埋設する熱可塑性樹脂からなる樹脂部と、を備える。
【0012】
この炭素繊維強化プラスチックは、上記本発明に係る炭素繊維強化プラスチックの製造方法で好適に製造できる。その結果、上記炭素繊維強化プラスチックの製造方法と同様の作用効果を有する。
【0013】
一実施形態に係る炭素繊維強化プラスチックは、複数の上記炭素繊維糸構造体を備え、複数の上記炭素繊維糸構造体は、積層されており、上記樹脂部は、積層された複数の上記炭素繊維糸構造体が埋設されてもよい。
【0014】
一実施形態において、上記炭素繊維強化プラスチックにおけるボイド率が実質的に0%であり得る。この場合、炭素繊維強化プラスチックの強度を確保し易い。
【0015】
一実施形態において、上記炭素繊維強化プラスチックにおける繊維体積含有率が20体積%以上であり得る。この場合、炭素繊維の強度をより有効に活用できることから、炭素繊維強化プラスチックの強度を向上し得る。
【0016】
本発明の更に他の側面に係る炭素繊維強化プラスチックは、熱可塑性樹脂からなるカバーリング糸が緯編みされた編み構造を有するカバーにより、連続した複数の炭素繊維を含む炭素繊維糸の周囲が覆われた連続した複合糸が織成されてなる複合糸構造体を加熱及び加圧してなる成形体である。
【0017】
複合糸構造体を構成する複合糸において、炭素繊維糸は、緯編みされたカバーリング糸で構成されるカバーで覆われている。よって、複合糸構造体を加熱及び加圧してなる成形体である上記炭素繊維強化プラスチックは、連続した炭素繊維糸からなる織成構造が、カバーリング糸が溶融された熱可塑性樹脂で埋設された構造を有する。上記複合糸では、熱可塑性樹脂製のカバーリング糸が緯編みされた編み構造を有するカバ−により炭素繊維糸が覆われていることから、連続した複合糸を容易に織成して、複合糸構造体を製造できる。そして、その複合糸構造体を加熱及び加圧することで、炭素繊維強化プラスチックを製造できるため、炭素繊維強化プラスチックの生産性の向上を図ることができる。また、複合糸のカバーを構成するカバーリング糸が緯編みされていることから、炭素繊維糸とカバーリング糸との密着性の向上も図れる。そのため、複合糸構造体を加熱及び加圧することで、カバーリング糸を構成する熱可塑性樹脂で炭素繊維糸を埋設した際に、炭素繊維強化プラスチック体積ボイド率を低下できる。同様の理由で、炭素繊維強化プラスチックの繊維体積含有率の向上も図れる。また、複合糸構造体は、連続した炭素繊維糸が織成されて構成されているので、炭素繊維強化プラスチックは、炭素繊維糸の強度を有効に利用可能である。その結果、強度を確保可能できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、強度を確保しながら生産性を向上可能な炭素繊維強化プラスチックの製造方法及び炭素繊維強化プラスチックを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。各図面において同一要素に対しては同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
(第1の実施形態)
図1は、一実施形態に係る炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic:CFRP)を製造するために使用される複合糸の構成を一部破断して複合糸の構成を模式的に示す図面であり、
図2は、
図1に示した複合糸の端面を模式的に示す図面である。
図1及び
図2に示した複合糸10は、炭素繊維糸12と、カバー14とを備える。
【0022】
炭素繊維糸12は、複合糸10における芯糸であり、多数本の連続した炭素繊維12aの炭素繊維束である。炭素繊維束としては、例えば、1K(1000フイラメント)、3K(3000フイラメント)などを用いることができる。以下、断らない限り、複合糸10における炭素繊維糸12に含まれる複数の炭素繊維12aは、集束剤で集束されている。炭素繊維糸12の周囲は、カバー14によって覆われている。
【0023】
カバー14の展開図である
図3に示したように、カバー14は、編成糸であるカバーリング糸14aが緯編み(ニット)された編み構造を有し、炭素繊維糸12の周囲を覆う。カバー14は、炭素繊維糸12を保護するためのものである。
【0024】
一実施形態において、カバー14におけるウェール数、すなわち同一コースの編み目の数は、例えば、2個以上6個以下である。カバー14における自然長1cmあたりのコース数、すなわち同一ウェールの自然長1cmあたりの編み目の数は、例えば、6個以上14個以下である。
【0025】
一実施形態において、カバーリング糸14aには、例えば、容易にカバーリングできる太さである33dtex(デシテックス)から250dtex(デシテックス)の繊維糸が用いられる。カバーリング糸14aの材料は熱可塑性樹脂である。すなわち、カバーリング糸14aは、熱可塑性の繊維糸である。上記熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン(ポリアミド)樹脂、ポリプロピレン樹脂などが挙げられる。
【0026】
上記複合糸10は、炭素繊維糸12をカバー14で覆うことによって製造され得る。具体的には、連続するカバーリング糸14aを緯編み(ニット)することによって、炭素繊維糸12の周囲をカバー14で覆う。これにより、連続した複合糸10が製造される。
図4は、炭素繊維糸12の周囲を、カバーリング糸14aを緯編みしたカバー14で被覆して製造された複合糸10を示す図面である。
【0027】
次に、複合糸10を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の製造方法について説明する。
図5は、CFRPの製造方法のフローチャートである。CFRPの製造方法は、複合糸構造体形成工程S10と、熱プレス成形工程(加熱加圧工程)S14と、を備える。CFRPの製造方法は、
図5に示したように、洗浄工程S12を備えてもよい。更に、CFRPの製造方法は、前述したようにして複合糸10を製造する複合糸製造工程を備えてもよい。次に、複合糸10の製造方法が有する各工程について説明する。以下で述べるCFRPの製造方法は、断らない限り、洗浄工程S12を備える形態についての説明である。
【0028】
[複合糸構造体形成工程]
この工程では、複合糸10を織ることで、
図6に模式的に示したように、複合糸構造体16を形成する。
図6では、複合糸構造体16を一部拡大して模式的に示している。
図6では、炭素繊維糸12を模式的に示しており、炭素繊維糸12に含まれる炭素繊維12aなどの図示は省略している。
図6以降の他の図でも同様である。
【0029】
複合糸構造体16は、連続した複合糸10を、縦糸及び緯糸にそれぞれ用いて織成された織物である。
図6では、複合糸10が平織りされたシート状(又は布状)の複合糸構造体16を示している。複合糸10が織成されてなる複合糸構造体16は、例えば、織機により形成され得る。
図7は、複合糸10を平織りすることで実際に製造された複合糸構造体16の一例を示す図面である。複合糸構造体形成工程S10では、CFRP24の製造に使用する数の複合糸構造体16を製造すればよい。例えば、1枚、4枚又は8枚の複合糸構造体16を製造する。以下では、断らない限り、複数枚の複合糸構造体16を用いたCFRP24の製造工程を説明する。
【0030】
[洗浄工程]
この工程では、複合糸構造体形成工程S10で形成した複合糸構造体16を集束剤除去剤で洗浄し、炭素繊維糸12に含まれる複数の炭素繊維12aの集束に用いられていた集束剤を除去する。集束剤除去剤としては、集束剤の種類に応じたものを使用すればよい。集束剤除去剤の例としては、アセトン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。洗浄方法としては、集束剤除去剤を含む溶液に複合糸構造体16を浸漬する方法、シャワー洗浄、スプレー洗浄、超音波洗浄などが挙げられる。洗浄工程S12で複合糸構造体16を洗浄した後は、複合糸構造体16を乾燥させる。
【0031】
[熱プレス成形工程]
熱プレス成形工程S14では、
図8に模式的に示したように、複数の複合糸構造体16を積層してなる積層体18を、熱プレス成形する。
【0032】
積層体18を形成する際には、複数の複合糸構造体16を、炭素繊維糸で縫い合わせることによって固定してもよい。熱プレス成形は、熱プレス装置20で実施される。具体的には、熱プレス装置20が有する一対のプレス板22A,22Bの間に、被成形部材である積層体18を配置し、一対のプレス板22A,22Bで積層体18に所定の温度条件で温度を付与しながら所定の加圧条件で圧力を印加して熱プレス成形を行う。
【0033】
図9は、熱プレス成形を実施する際の熱プレス条件の一例を示す模式図であり、熱プレス成形工程S14における温度変化及び圧力変化の一例を示している。
図9において、横軸は、積層体18の加熱開始時からの時間を示しており、縦軸の一方は積層体18の厚さ方向における中央部での温度を示しており、縦軸の他方は、積層体18に印加した圧力を示している。
【0034】
熱プレス成形を実施する際、まず、一対のプレス板22A,22Bで積層体18を保持する。一対のプレス板22A,22Bから積層体18に作用する第1の圧力P1の例は、0MPa〜5MPaである。
【0035】
このように積層体18を保持した状態で、加熱開始から時間t1までの間に一対のプレス板22A,22Bの温度を上昇させ、積層体18の厚さ方向における中央部における温度を温度Taまで上昇させる(加熱工程)。
【0036】
時間t1は、例えば1分〜30分であり、熱プレス装置20の性能、サイズなどに応じて決定され得る。時間t1は、熱プレス装置20の性能、サイズなどで可能な範囲内で、積層体18を構成する複合糸構造体16の枚数などに応じて適宜設定されてもよい。例えば、積層体18が4枚の複合糸構造体16を有する場合、時間t1は、14分であり、積層体18が6枚の複合糸構造体16を有する場合、時間t1は、15分であり、積層体18が8枚の複合糸構造体16を有する場合、時間t1は、16分であり得る。
【0037】
温度Taは、カバーリング糸14aを構成する熱可塑性樹脂の融点Mp(度)より高い温度であればよい。温度Taは、通常、Mp+75度以下である。カバーリング糸14aがナイロン6からなる場合、ナイロン6の融点は225度であることから、温度Taの一例は、230度である。
【0038】
積層体18の内部温度を温度Taまで上昇させた後、温度及び圧力を一定に保つ。その状態を時間t2まで維持しながらカバーリング糸14aを溶融させる(溶融工程)。(t2−t1)の例は、0分〜30分である。時間t2において、積層体18に印加する圧力を、第1の圧力P1より高い第2の圧力P2まで上げる。第2の圧力P2の例は、1MPa〜15MPaである。その後、温度Taで積層体18を加熱すると共に第2の圧力P2で積層体18を加圧して積層体18を時間t3まで熱プレスする(プレス工程)。(t3―t2)の例は、1分〜30分であり、例えば、15分である。時間t3以降、一対のプレス板22A,22Bの温度を順次下げることによって、積層体18を冷却し、積層体18内部の温度を、カバーリング糸14aを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以下まで下げ、熱可塑性樹脂を固化する(冷却工程)。冷却時間は、例えば1分〜300分である。
【0039】
図9に示したような熱プレス条件に基づいて、積層体18を熱プレス成形することによって、
図10(a)及び
図10(b)に模式的に示したCFRP24を得る。CFRPの製造工程における時間t1,t2,t3と、第1及び第2の圧力P1,P2とは、製造するCFRP24の所望の特性(強度など)に応じて最適化されればよく、上記例示した値に限定されない。
【0040】
次に、上記のように製造されたCFRP24の構成につい
図10(a)及び
図10(b)を利用して説明する。
図10(a)は、一実施形態に係るCFRPの概略構成を示す平面図であり、
図10(a)では、CFRPを一部拡大して示している。
図10(b)は、
図10(a)のX(b)−X(b)線に沿った断面構成の模式図である。
【0041】
CFRP24は、複数の炭素繊維糸構造体26と、それを埋設する熱可塑性樹脂からなる樹脂部28とを有する。
【0042】
炭素繊維糸構造体26は、複合糸構造体16において、カバーリング糸14aが溶融して残存する炭素繊維糸12から構成されている。複合糸構造体16は、連続した複合糸10の織成体であるため、炭素繊維糸構造体26は、連続した炭素繊維糸12の織成体に対応する。本実施形態において、炭素繊維糸構造体26は、連続した炭素繊維糸12が平織りされた構造を有する。
【0043】
上記製造方法では、洗浄工程S12を備えるため、CFRP24では、複数の炭素繊維12aを集束するための集束剤は除去されている。しかしながら、炭素繊維糸12を構成していた複数の炭素繊維12aは、樹脂部28を構成する熱可塑性樹脂で一体化されているため、CFRP24の説明においても、
図1に示した複合糸10を構成する炭素繊維糸12に含まれる複数の炭素繊維12aの集まりを、炭素繊維糸12と称する。
【0044】
樹脂部28は、CFRP24においてマトリックスとして機能する。樹脂部28は、カバーリング糸14aが溶融・固化して形成されている。よって、樹脂部28は、カバーリング糸14aを構成する熱可塑性樹脂からなる。
【0045】
一実施形態において、CFRP24の体積ボイド率は、実質的に0%である。「実質的に0%以下」とは、体積ボイド率が0.1%以下であることを意味している。本明細書において、「ボイド」とは、樹脂部28における空隙と共に、炭素繊維12a間における未含浸領域も含む概念である。CFRP24の体積ボイド率は、0.00000%以下で有り得る。CFRP24におけるボイドが占める体積をV1、樹脂部28が占める体積をV2、炭素繊維12aが占める体積をV3とし、体積ボイド率をα(%)としたとき、体積ボイド率α(%)は、式(1)で定義される。体積ボイド率α(%)は、マイクロCTスキャナーで計測され得る。本明細書における体積ボイド率(%)はマイクロCTスキャナーとして、BRUKER micro CT社製のMicro−CT Scan(型番:BRUKER SKYSCAN 1172)を使用した場合の数値である。
α={V1/(V1+V2+V3)}×100・・・(1)
【0046】
一実施形態において、CFRP24の繊維体積含有率は、20体積%以上で有り得る。繊維体積含有率は、好ましくは、40体積%以上であり、更に好ましくは、50体積%以上である。繊維体積含有率は、90体積%以下で有り得る。CFRP24の繊維体積含有率をβ(体積%)としたとき、繊維体積含有率β(体積%)は、式(2)で定義され、JIS K7075に準拠して測定される。
β={V3/(V2+V3)}×100・・・(2)
式(2)における、V2及びV3は、体積ボイド率αの場合と同様に、CFRP24において、樹脂部28が占める体積及び炭素繊維12aが占める体積である。
【0047】
次に、CFRP24の製造方法及びCFRP24の作用効果について説明する。
【0048】
CFRP24の製造方法では、複合糸10を製造し、その複合糸10を織成することで、複合糸構造体16を形成している。その後、複合糸構造体16を熱プレス成形することによって、CFRP24を得ている。したがって、CFRP24は、複合糸構造体16の熱プレス成形体である。
【0049】
複合糸10は、炭素繊維糸12がカバー14により覆われることによって構成されている。よって、炭素繊維糸12が炭素繊維束であっても、複合糸10を通常の糸と同様に扱うことができるので、連続する複合糸10を織った織物としての複合糸構造体16の形成が容易である。また、複合糸10のカバーリング糸14aが熱可塑性樹脂製であることから、複合糸構造体16を熱プレス成形することでCFRP24が得られる。よって、CFRP24の生産性の向上が図れる。
【0050】
複合糸10において、炭素繊維糸12の周囲は、熱可塑性樹脂からなるカバーリング糸14aで覆われていることから、カバーリング糸14aを炭素繊維糸12に近接して配置できている。これにより、複合糸構造体16を熱プレス成形した際に、熱可塑性樹脂を炭素繊維束内部に含浸させやすい。そのため、CFRP24において、より低い体積ボイド率(例えば、実質的に0%)を実現できるので、CFRP24の強度を確保できる。上述したように、複合糸構造体16を熱プレス成形した際に、熱可塑性樹脂を炭素繊維束内部に含浸させやすいことから、熱可塑性樹脂の量が少なくても炭素繊維束内部に熱可塑性樹脂を含浸できる。よって、CFRP24における繊維体積含有率の向上が図れる。そのため、CFRP24の強度が向上する。
【0051】
また、複合糸構造体16が連続した複合糸10により構成されていることから、CFRP24における炭素繊維糸構造体26も連続した炭素繊維糸12で構成され得る。その結果、炭素繊維糸12を構成する連続繊維としての炭素繊維12aの強度を利用できるので、CFRP24の強度を確保できる。換言すれば、CFRP24は、短繊維としての炭素繊維により製造されるCFRPよりも高い強度を得られる。
【0052】
複合糸10が備えるカバー14は、カバーリング糸14aが緯編み(ニット)された編み構造を有する。編み構造が緯編みの場合、一方向に延在する炭素繊維糸12をカバーリング糸14aで巻き込むように編目を編成するため、カバー14のカバーリング糸14aによって炭素繊維糸12を比較的に強く締め付けることができ、炭素繊維糸12に対するカバー14の密着度又は締め付け力を高めることができる。編成の際にカバーリング糸14aのテンションの強弱を調節することで、炭素繊維糸12に対してカバーリング糸14aが適切に密着するように編成することができる。その結果、複合糸10が織成されてなる複合糸構造体16を熱プレス(加熱及び加圧)した際に、炭素繊維束内部への熱可塑性樹脂(カバーリング糸14aが溶融したもの)の浸透性(浸透度)を高めることができ、炭素繊維束と熱可塑性樹脂との密着度を高めることができる。その結果、CFRP24の強度向上が図れる。ただし、緯編みの場合、炭素繊維糸12を傷つけるほどの締結力はないので、炭素繊維糸12をカバーリング糸14aで覆っても、炭素繊維糸12を傷つけることを抑制することができる。
【0053】
CFRP24が複合糸構造体16を熱プレス成形して製造されていることから、CFRP24の構造は複合糸構造体16の構造に依存する。一方、複合糸構造体16は、炭素繊維束である炭素繊維糸12がカバー14で覆われた複合糸10を織って構成されていることから、複合糸構造体16を形成する際に、炭素繊維12aが切断されるなどの炭素繊維12aの損傷を防止しながら種々の構造の複合糸構造体16を形成できる。
【0054】
また、炭素繊維糸12に対して熱可塑性のカバーリング糸14aの太さや密度を変えることによってその両者の比率を設定することができるため、目的に応じた混合比率をもったCFRP24を製造可能である。よって、例えば、CFRP24の強度なども容易に調整できる。
【0055】
CFRP24において、マトリックスは、熱可塑性樹脂からなることから、マトリックスが熱硬化性樹脂からなる場合より、CFRP24のリサイクル性に優れる。
【0056】
カバーリング糸14aの太さが33dtex以上250dtex以下である形態では、次の利点を有する。すなわち、カバー14におけるカバーリング糸14aの太さが33dtex以上であれば、炭素繊維糸12に対するカバーリング糸14aの被覆率を高めることができ、カバーリング糸14aが緯編みされたカバー14における隙間から炭素繊維糸12が外方へ飛び出てしまうことを好適に抑制することができる。カバーリング糸14aの太さが250dtex以下であれば、編み機を用いた編成がし易い。
【0057】
カバー14における同一コースの編み目の数が2個以上6個以下である形態では、カバー14の筒編みの直径を小さくすることができ、炭素繊維糸12に対するカバー14のカバーリング糸の密着度(締め付け力)を高めることができる。
【0058】
カバー14における同一ウェールの自然長1cmあたりの編み目の数が6個以上14個以下である形態では、次の利点を有する。すなわち、カバー14における同一ウェールの自然長1cmあたりの編み目の数が6個以上であれば、炭素繊維糸12に対するカバー14のカバーリング糸の被覆率を高めることができ、カバー14のカバーリング糸の隙間から炭素繊維糸12が外方へ飛び出てしまうことを十分に抑制することができる。
【0059】
カバー14における同一ウェールの自然長1cmあたりの編み目の数が14個以下であれば、カバー14編目が細かくなり過ぎることに起因して、カバーリング編目の目かぶり(タックキズ)不良が発生することを抑制することができ、また、複合糸10の柔軟性がなくなり、複合糸10で織成するのが困難になることを抑制することができる。
【0060】
(第2の実施形態)
第2の実施形態として複合糸の変形例及びそれを用いたCFRPについて説明する。第2の実施形態の説明では、複合糸を複合糸10Aと称する点以外は、第1の実施形態と対応する要素と同様の要素には、同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0061】
第2の実施形態における複合糸10Aは、
図16に模式的に示したように、複数本の炭素繊維糸12を有すると共に、複数本の熱可塑性樹脂からなる樹脂繊維糸36を更に有する点で、主に複合糸10の構成と相違する。この相違点を中心にして第2の実施形態を説明する。
図16は、複合糸10Aの端面の模式図である。
図16では、炭素繊維糸12、樹脂繊維糸36及びカバー14を模式的に示している。
【0062】
樹脂繊維糸36は、炭素繊維糸12の延在方向に延びており、炭素繊維糸12と平行に配置される。樹脂繊維糸36を構成する熱可塑性樹脂の例は、カバーリング糸14aについて説明した場合の熱可塑性樹脂の例と同様であり得る。樹脂繊維糸36及びカバーリング糸14aを構成する熱可塑性樹脂は同じでもよいし、又は、異なってもよい。複合糸10Aでは、カバーリング糸14aが緯編みされたカバー14で、引き揃えられた複数本の炭素繊維糸12と複数本の樹脂繊維糸36との束が被覆される。
【0063】
複合糸10Aにおいても、炭素繊維糸12は、カバー14で覆われている。したがって、第1の実施形態における複合糸10の代わりに複合糸10Aを織成して、第1の実施形態の場合と同様に、複合糸構造体16を形成した後、それを熱プレス成形することでCFRP24を製造しても、第1の実施形態の場合と少なくとも同様の作用効果を有する。複合糸10Aを用いることで更に次のような作用効果を有する。
【0064】
複合糸10Aが樹脂繊維糸36を有する場合には、熱プレス成形工程S14で樹脂繊維糸36も溶融してCFRP24を構成する樹脂部28となる。よって、樹脂繊維糸36の本数、サイズなどを調整することで、CFRP24の繊維体積含有率βを調整可能である。
【0065】
複合糸10Aでは、カバー14の内側に熱可塑性樹脂製の樹脂繊維糸36が配置されるので、複合糸10Aが複数本の炭素繊維糸12を有する場合、炭素繊維12aと熱可塑性樹脂との距離を短くすることが可能となる。その結果、炭素繊維12a間に熱可塑性樹脂を含浸させやすい。特に、
図16に示したように、複数本の炭素繊維糸12の間に樹脂繊維糸36を配置することで、炭素繊維12aと熱可塑性樹脂との距離をより短くすることが可能となり、炭素繊維12a間に熱可塑性樹脂を更に含浸させやすい。
【0066】
複合糸10Aは、少なくとも一本の炭素繊維糸12と、少なくとも一本の樹脂繊維糸36を有していればよい。
【0067】
以下、実験結果を参照して、CFRP24の製造方法及びCFRP24の作用効果を具体的に説明する。
【0068】
[実験1]
実験1では、第1の実施形態で説明した複合糸10を用いた。複合糸10は、カバーリング糸14aを緯編みしてなるカバー14によって、1本の炭素繊維糸12の周囲を被覆して構成されていた。炭素繊維糸12には、東レ株式会社製のトレカ糸3K(T300B−3000−50B)を使用した。カバーリング糸14aには、ナイロン糸(東レ株式会社製のWN70d/2−24fーVF555−BC)を使用した。上記複合糸10を用いて、
図5に示したフローチャートに従ってCFRPを製造した。
【0069】
まず、複合糸構造体形成工程S10を実施した。すなわち、上記複合糸10を縦糸及び緯糸として用いて平織りすることで、シート状の複合糸構造体16を4枚製造した。
【0070】
その後、洗浄工程S12を実施した。洗浄工程S12では、形成した全ての複合糸構造体16をアセトンに漬けて60分洗浄した。
【0071】
続いて、熱プレス成形工程S14を実施した。熱プレス成形工程S14では、4枚の複合糸構造体16を積層して、積層体18を構成した。積層体18を構成する際、4枚の複合糸構造体16を炭素繊維糸で縫い合わせて固定した。その後、熱プレス装置20に積層体18をセットし、熱プレス成形を行った。温度条件及び圧力条件は、
図9に示したように設定した。
図9において、時間t1を14分とし、時間t2を19分とし、時間t3を34分とした。第1の圧力P1を0.83MPaとし、第2の圧力P2を3MPaとした。これにより、厚さ0.8mmの板状のCFRP24を製造できた。
【0072】
図11は、製造された板状のCFRP24を示す図面である。
図11より、CFRP板を製造できていることが実証された。また、
図12(a)は、製造されたCFRPをSEM(走査型電子顕微鏡)で観察したSEM画像を示す図面であり、
図12(b)は、製造されたCFRPのマイクロCTスキャン画像を示す図面である。マイクロCTスキャン画像の取得には、マイクロCTスキャナーとして、BRUKER micro CT社製のMicro−CT Scan(型番:BRUKER SKYSCAN 1172)を使用した。式(1)で定義されており、製造されたCFRP24を上記マイクロCTスキャナーで計測して得られた体積ボイド率αは、0.00000%であった。すなわち、体積ボイド率αが実質的に0%であるCFRP24を製造できていることが実証された。また、JIS K7075に準拠して測定され式(2)により算出された実験1のCFRP24の繊維体積含有率βは、45.6体積%であり、繊維体積含有率βが20体積%以上90体積%以下のCFRP24が製造できていることが実証された。
【0073】
製造したCFRP24に対して引張試験及び三点曲げ試験を実施した。引張試験及び三点曲げ試験の試験方法ついて説明する。
【0074】
[引張試験]
島津製作所製の万能試験機(型番:AUTOGRAPH AG−I)を用いて、CFRP24の引張試験を行った。具体的には、製造されたCFRP24から
図13に示したように矩形の試験片S1を切り出した。試験片S1の長手方向の長さtaは、150mmであり、幅方向の長さtbは、20mmであった。製造したCFRP24の厚さが0.8mmであったことから、試験片S1の厚さhaは、0.8mmであった。試験片S1の長手方向の一端における長さL1a(mm)の領域の表裏に長さL1a(mm)のアルミ板30Aを接着すると共に、試験片S1の長手方向の他端における長さL1a(mm)の領域の表裏に長さL1a(mm)のアルミ板30Bを接着した。長さL1aは、40mmであり、アルミ板30A,30Bの厚さhb(mm)は2.0mmであった。試験片S1の長手方向において、アルミ板30A,30Bの間の距離L1bは、70mmであった。アルミ板30A,30Bの部分をクランプで把持し、試験速度va(mm/min)で長手方向に試験片S1を引っ張った。試験速度va(mm/min)は、5mm/minであった。その結果、最大の引張応力σtは、約448MPaであった。引張応力σtは、荷重をPtとしたとき、式(3)で算出した。
σt=Pt/(tb×ha)・・・(3)
【0075】
[三点曲げ試験]
島津製作所製の万能試験機(AUTOGRAPH AG−I)を用いて、CFRP24の三点曲げ試験を行った。具体的には、製造されたCFRP24から
図14に示したように矩形の試験片S2を切り出した。試験片S2の長手方向の長さtaは、100mmであり、幅方向の長さtbは、10mmであった。試験片S2の両端からL2a(mm)の位置にそれぞれ支持棒32を配置して、試験片S2を支持した。長さL2a(mm)は、試験片S2の端から支持棒32の軸線までの長さである。長さL2a(mm)は、30mmであり、一対の支持棒32,32の軸線間の距離L2b(mm)は、40mmであった。一対の支持棒32,32の間の中点位置(試験片S2の長手法方向における中点位置)において、棒状の圧子34で、試験片S2の上面を試験速度vb(mm/min)で押圧した。試験速度vb(mm/min)は、5mm/minであった。その結果、最大の曲げ応力σbは、543MPaであった。曲げ応力σbは、荷重をPbとしたとき、式(4)で算出した。
σb=(3×Pb×L2b)/{2×tb×(ha)
2}・・・(4)
【0076】
[実験2]
実験2では、実験1と同様の構成の複合糸10を用いて、複合糸構造体形成工程S10において実験1の場合と同様にして8枚の複合糸構造体16を形成した。洗浄工程S12は、実験1の場合と同様であるため説明を省略する。熱プレス成形工程S14では、8枚の複合糸構造体16を積層した積層体18を、実験1の場合と同様の熱プレス装置20にセットし、
図9に示した温度条件及び圧力条件で熱プレス成形を行った。実験2では、
図9における時間t1を16分とし、時間t2を21分とし、時間t3を36分とし、第1の圧力P1を0.83MPaとし、第2の圧力P2を3MPaとした。これにより、厚さ1.5mmの板状のCFRP24を製造した。
【0077】
図15(a)は、製造された板状のCFRP24をSEM観察したSEM画像を示す図面であり、
図15(b)は、製造されたCFRP24のマイクロCTスキャン画像を示す図面である。マイクロCTスキャン画像の取得には、実験1で使用したマイクロCTスキャナーを使用した。式(1)で定義されており、製造されたCFRP24を上記マイクロCTスキャナーで計測して得られた体積ボイド率αは、0.00000%であった。すなわち、体積ボイド率αが実質的に0%であるCFRP24を製造できていることが実証された。また、JIS K7075に準拠して測定され式(2)により算出された実験2のCFRP24の繊維体積含有率βは、51.1体積%であり、繊維体積含有率βが20体積%以上90体積%以下のCFRP24が製造できていることが実証された。
【0078】
実験2で製造されたCFRP24に対して、実験1と同様に引張試験及び三点曲げ試験を実施した。引張試験は、試験片S1の厚さhaが1.5mmであった点以外は、実験1と同じ試験条件で行った。その結果、最大の引張応力σtは、約559MPaであった。三点曲げ試験は、距離L2b(mm)を60mmに変更した点及び試験片S2の厚さhaが1.5mmであった点以外は、実験1と同様の試験条件で行った。その結果、最大の曲げ応力σbは、613MPaであった。
【0079】
実験1,2において、体積ボイド率αは、何れも実質的に0%であった。すなわち、CFRP24を製造する際の複合糸構造体16の数に依存せずに、体積ボイド率αが実質的に0%のCFRP24を製造できていることがわかる。実験1,2では連続した複合糸10を用いてCFRP24を製造しているため、CFRP24のマトリックス内には連続した炭素繊維12aが埋設されており、炭素繊維12aの強度を有効に利用できている。よって、強度向上が図れたCFRP24を製造できていることがわかる。
【0080】
以上、本発明の実施形態及び実験例について説明したが、本発明は上記実施形態及び実験例に示した形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形され得る。例えば、上記実施形態では、主に、複数の複合糸構造体16を積層した積層体18を熱プレス成形してなるCFRP(熱プレス成形体)24について説明した。しかしながら、CFRP24は、一つの複合糸構造体16が熱プレス成形された熱プレス成形体であってもよい。すなわち、CFRP24が備える炭素繊維糸構造体26は一つでもよい。
【0081】
複合糸構造体は、複合糸が平織されたものに限らず、他の織り方、例えば、綾織、朱子織などで形成されてもよい。
【0082】
上記実施形態及び実験例では、複合糸構造体を加熱及び加圧してCFRPを得る方法として熱プレスを例示した。しかしながら、複合糸構造体を加熱及び加圧してなる成形体としてのCFRPが得られれば、加熱及び加圧の方法は熱プレスに限定されない。