特許第6706775号(P6706775)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706775
(24)【登録日】2020年5月21日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】ブレーキホース
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/08 20060101AFI20200601BHJP
【FI】
   F16L11/08 B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-249571(P2015-249571)
(22)【出願日】2015年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-115926(P2017-115926A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000233619
【氏名又は名称】株式会社ニチリン
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 健太
(72)【発明者】
【氏名】位田 伸一
【審査官】 藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−119892(JP,A)
【文献】 特開2010−106930(JP,A)
【文献】 特開2005−114135(JP,A)
【文献】 特開2002−181250(JP,A)
【文献】 特開昭60−220282(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0197372(US,A1)
【文献】 特開平01−238790(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0125470(US,A1)
【文献】 特開2004−108520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 9/00−11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート樹脂からなるとともに、曲げ弾性率が1500MPa以上2000MPa以下の一層のみからなる内層と、
前記内層の外周面にアラミド繊維からなる補強糸を編み組むことで構成される補強層と、
前記補強層の外周面に被覆され、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなるとともに、曲げ弾性率が300MPa以上500MPa以下の一層のみからなる外層と、
を備える三層構造とされ、
前記補強糸のホース軸に対する編組角度が、54度44分よりも大きく55度以下であり、
JIS D2601に規定されている加圧時膨張量試験において、雰囲気温度を100℃とし、試験圧力を10.3MPaとしたときの膨張量が、0.08cc/305mm以下であることを特徴とするブレーキホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧式のブレーキシステムにおいて、液圧を伝達するためのブレーキホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等の車両では、ブレーキ液に圧力を加えることでブレーキを作動させる液圧式ブレーキシステムが多く採用されている。ブレーキへの液圧の伝達は、例えば特許文献1、2に記載されているような可撓性のブレーキホースを介して行われるのが一般的である。このようなブレーキホースは、複数層で構成されるのが一般的であり、各層が膨張しやすいものであると、液圧が速やかにブレーキに伝達されず、ブレーキの応答性が悪化する。そこで、ブレーキホースの低膨張性を向上させることが重要となる。
【0003】
特許文献1のブレーキホースは、内層ゴム、第一補強繊維層、中間ゴム、第二補強繊維層、および外層ゴムを、この順番に内側から設けて構成されている。そして、第二補強繊維層にポリエチレン−2,6−ナフタレート繊維を採用することによって、ブレーキホースの低膨張性を確保できるものとされている。
【0004】
また、特許文献2のブレーキホースは、内面材層、第1補強層、中間材層、第2補強層、および外面被覆層を積層して構成されている。このブレーキホースでは、補強層に使用する補強糸を、加硫温度での乾熱収縮率が1%以上のものに規定することにより、加圧時におけるホースの膨張量の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−21068号公報
【特許文献2】特開2003−74760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えばマウンテンバイクやロードバイクといった、ブレーキの応答性に対する要求が厳しい製品においては、ブレーキホースの低膨張性を十分に確保する必要がある。特に、競技用のマウンテンバイクやロードバイク等では、下りの走行時にブレーキを多用することで摩擦熱によりブレーキキャリパが昇温し、その結果、ブレーキキャリパおよびブレーキホースが100℃以上の高温になることがある。したがって、このような高温条件下でも、ブレーキホースの低膨張性を維持できることが重要となる。
【0007】
この点、特許文献1、2に記載のブレーキホースでは、補強層の材料を規定することによりブレーキホースの低膨張化が図られているが、そもそもブレーキホースの主要部(内層、中間層および外層)がゴムからなっており、その低膨張化には限界があった。特に、特許文献1、2に記載のブレーキホースは、上記したような高温条件下における低膨張性の維持を考慮した仕様とはなっておらず、この点において改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、ブレーキホースの低膨張性を常温時だけでなく、高温条件下においても向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかるブレーキホースは、ポリエステル系樹脂からなる内層と、前記内層の外周面にアラミド繊維からなる補強糸を編み組むことで構成される補強層と、前記補強層の外周面に被覆され、ポリエステル系樹脂からなる外層と、を備えることを特徴とする。
【0010】
まず、本発明では、ブレーキホースの主要部を構成する内層および外層を、ゴムではなくポリエステル系樹脂とすることで、大きく低膨張性を向上させることができる。さらに、後で詳細に説明するように、補強層に用いる補強糸をアラミド繊維とすることで、100℃以上の高温条件下においても、十分な低膨張性を実現できる。つまり、本発明によれば、ブレーキホースの低膨張性を常温時だけでなく、高温条件下においても向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明にかかるブレーキホースの一実施形態を示す一部切欠斜視図である。
図2】補強糸の編み組みの態様を示す模式図である。
図3】低温屈曲耐久試験を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明にかかるブレーキホースの実施形態について説明する。図1は、本実施形態におけるブレーキホース1の一部切欠斜視図である。ブレーキホース1は、内側から順番に内層11、補強層12および外層13を積層してなる三層構造の可撓性ホースである。内層11の内部空間は、ブレーキ液等の内部流体で満たされており、当該内部流体に圧力が作用することで、不図示のブレーキが作動する。ブレーキホース1が搭載される車両は、特に限定されないが、ブレーキの応答性に対する要求が厳しい、競技用マウンテンバイク等において好適に使用できるものである。
【0013】
内層11は、ポリエステル系樹脂によって形成される一層のみからなる層である。内層11は、ブレーキ液等の内部流体が接する部分であり、内部流体の圧力が直接作用して膨張しやすいので、ブレーキホース1の低膨張性に及ぼす影響が大きい。そこで、ブレーキホース1においては、内層11をポリエステル系樹脂とし、さらに、その曲げ弾性率を1500MPa以上とすることで、ブレーキホース1の低膨張化を図っている。
【0014】
とは言え、曲げ弾性率を高くしすぎると、ブレーキホース1の柔軟性が悪化し、車両への取り付け等が困難となるおそれがある。そこで、内層11の曲げ弾性率を2000MPa以下に抑えることで、ブレーキホース1の低膨張性と柔軟性とのバランスを図っている。ただし、内層11の曲げ弾性率を1500MPa以上2000MPa以下とすることは必須ではなく、この範囲よりも曲げ弾性率を低くすることも高くすることも可能である。
【0015】
より具体的には、本実施形態のブレーキホース1では、内層11の材料としてポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)を採用している。PETを内層11に用いることで、1500MPa以上2000MPa以下という比較的高めの曲げ弾性率を、比較的低めのコストで実現することが可能である。ただし、内層11の材料は、PETに限定されず、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)等の他のポリエステル系樹脂としてもよい。
【0016】
内層11の外側には、補強層12が設けられる。補強層12は、内層11の外周面にアラミド繊維からなる補強糸12aを編み組むことによって構成されている。補強糸12aの具体的な材料としては、パラ系アラミド繊維のケブラー(登録商標)、トワロン(登録商標)、テクノーラ(登録商標)等、またはメタ系アラミド繊維のノーメックス(登録商標)、コーメックス(登録商標)等を採用することができる。
【0017】
図2は、補強糸12aの編み組みの態様を示す模式図である。本実施形態の補強層12は、複数の補強糸12aを一方向と他方向との両方向から、同一円周上で互いをクロスさせて編み組まれた、いわゆる「ブレード編組」によって構成されている。しかしながら、図2においては、図が煩雑となることを避けるため、一方向の一部の補強糸12aのみを図示している。
【0018】
図2に示すように、内層11に編み組まれた補強糸12aのホース軸Aに対する傾斜角度θは、編組角度と呼ばれる。この編組角度θを54度44分(以下、この角度を「静止角」と称する)とすれば、ブレーキホース1が加圧された時に、ブレーキホース1の長さおよび径がほとんど変化しないとされている。したがって、一般的には、編組角度θが静止角となるように、補強糸12aの編み組みが行われる。
【0019】
しかしながら、本実施形態のブレーキホース1では、編組角度θが静止角よりも大きくなるように、補強糸12aが編み組まれている。これによって、補強糸12aがホース軸Aに沿った方向において密に編み組まれ、内層11の膨張を抑える効果を高めることができる。ただし、補強糸12aを密に編み組みすぎると、補強糸12a同士が互いに乗り上げる部分が多くなり、補強糸12aの張力を内層11に及ぼしにくくなる(内層11の膨張を抑えにくくなる)という弊害が生じ得る。そこで、本実施形態では、編組角度θを55度以下としている。
【0020】
補強層12の外側には、補強層12を被覆する外層13が設けられる。外層13も、内層11と同様に、例えばPETやPBN等のポリエステル系樹脂によって形成され、一層のみからなる層である。このように、内層11に加えて、外層13もポリエステル系樹脂で構成することによって、ブレーキホース1のさらなる低膨張化が可能となる。なお、ブレーキホース1の低膨張性と柔軟性とのバランスを図るため、外層13の曲げ弾性率は300MPa以上500MPa以下とされることが好ましいが、この範囲に限定されるわけではない。
【0021】
(検証試験)
本実施形態のブレーキホース1の低膨張性を検証するため、表1に示す比較例1、2とともに、ブレーキホース1の実施例に対して、加圧時膨張量試験を行った。ブレーキホース1の実施例は、PETからなる内層11、アラミド繊維からなる補強糸12aが内層11に編み組まれた補強層12、およびPETからなる外層13を有する三層構造である。
【0022】
一方、比較例1は、特許文献2に開示されている主要部がゴムからなるブレーキホースであり、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)からなる内層、ポリビニルアルコール繊維(PVA)からなる補強糸が内層に編み組まれた補強層、EPDMからなる中間層、PVAからなる補強糸が中間層に編み組まれた補強層、およびEPDMからなる外層を有する五層構造である。また、比較例2は、実施例と同様に三層構造であり、内層および外層がPETからなる点も実施例と同じであるが、補強層の補強糸がPVAからなる点が実施例と異なる。
【0023】
加圧時膨張量試験は、JIS D2601に基づいて、試験圧力が6.86MPaおよび10.3MPaのそれぞれの場合について行った。また、常温時(25℃)および高温時(100℃)のそれぞれの雰囲気温度について試験を行った。試験結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0024】
本発明者らは、競技用マウンテンバイク等に適用された場合でも、使用に耐え得るブレーキホースの開発過程で、まず、内層や外層といった主要部をゴム(比較例1)からポリエステル系樹脂(比較例2)に変更することで、ブレーキホースの低膨張性を向上させることを試みた。その結果、表1に示すように、常温時および高温時のいずれにおいても膨張量を大幅に小さくすることができたものの、高温条件下では膨張量の目標値をクリアすることができなかった。
【0025】
そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、補強層12の補強糸12aとして、温度依存性の低いアラミド繊維を採用することによって、高温時における膨張量の低減を試みた。その結果、表1の実施例の欄に示すように、ブレーキホース1の膨張量を常温時だけでなく、高温条件下でも低減させることができ、高温条件下でも目標値をクリアすることができた。
【0026】
このように、本実施形態のブレーキホース1によれば、常温時に限らず高温条件下でも低膨張性を向上させることができるが、一方で、ブレーキホース1が弾性変形しにくくなることにより、屈曲耐久性が低下し、特に低温環境において、十分な屈曲耐久性が得られないという問題が発生し得る。そうすると、実車走行時の使用環境に耐えられなくなり、ブレーキホース1が破損するおそれがある。そこで、上記実施例の低温屈曲耐久性を検証するための試験を行った。
【0027】
図3は、低温屈曲耐久試験を説明するための模式図である。この低温屈曲耐久試験は、図3に示すように、ブレーキホース1の両端が口金具101を介して、試験装置に取り付けられたブレーキホースアセンブリ100を用いて行われる。まず、図3のb図に示すように、ブレーキホースアセンブリ100を屈曲時最小曲げ半径が25mmとなるように試験装置に取り付け、雰囲気温度を−30℃±2℃に調整する。次に、所定のブレーキ液(例えばJIS−K2233に規定されたもの)を、液圧が0MPaから9.8MPaまでの繰り返し加圧となるように、42cpm(0.7Hz)のサイクルで加圧するとともに、a図の状態とb図の状態を交互に実現するように、150mmの屈曲ストロークおよび150cpm(2.5Hz)の屈曲サイクルで50万回試験を行い、その後にブレーキホース1に破裂や異常がないかを確認した。
【0028】
このような低温屈曲耐久試験を上記実施例に対して実施したところ、目標値である50万回の屈曲を繰り返した後においても、特に破損や異常は見られず、ブレーキホース1が十分な低温屈曲耐久性を有することが検証された。つまり、本実施形態のブレーキホース1は、高温条件下における低膨張性を向上させることができるだけでなく、同時に低温屈曲耐久試験にも耐え得るものとなっており、ブレーキの応答性に対する要求が厳しい競技用マウンテンバイク等において、好適に使用できるものとなっていることが示された。
【0029】
(効果)
本実施形態のブレーキホース1のように、ポリエステル系樹脂からなる内層11と、内層11の外周面にアラミド繊維からなる補強糸12aを編み組むことで構成される補強層12と、補強層12の外周面に被覆され、ポリエステル系樹脂からなる外層13とを備える構成とすることで、ブレーキホース1の低膨張性を常温時だけでなく、高温条件下においても向上させることができるとともに、低温環境においても十分な屈曲耐久性を有することができる。
【0030】
また、本実施形態のブレーキホース1は、内層11が一層のみからなる。内層11には、ブレーキ液等の内部流体の圧力が直接作用し膨張しやすいが、内層11を一層構造(薄肉構造)とすることによって、補強糸12aの張力を内層11に直接的に及ぼすことができ、内層11の低膨張化を効果的に実現できる。また、内層11を一層構造とすることで、ブレーキホース1の小径化や軽量化にも有利となる。
【0031】
また、本実施形態のブレーキホース1では、補強糸12aのホース軸Aに対する編組角度θが、54度44分(静止角)よりも大きく55度以下とされている。編組角度θを静止角よりも大きくすることによって、補強糸12aがホース軸Aに沿った方向において密に編み組まれ、内層11の膨張をより効果的に抑えることができる。と同時に、編組角度θを55度以下にすることで、補強糸12aが過密となり、補強糸12a同士が互いに乗り上げることを抑え、補強糸12aの張力を直接的に内層11に及ぼしやすくなる(内層11の膨張を抑えやすくなる)。
【0032】
また、本実施形態のブレーキホース1のように、JIS D2601に規定されている加圧時膨張量試験において、雰囲気温度を100℃とし、試験圧力を10.3MPaとしたときの膨張量が、0.08cc/305mm以下であれば、高温時におけるブレーキの応答性に対する要求が厳しい競技用マウンテンバイク等においても、好適に使用することができる。
【0033】
[他の実施形態]
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、上記実施形態の要素を適宜組み合わせまたは種々の変更を加えることが可能である。
【0034】
例えば、上記実施形態では、ブレーキホース1を構成する内層11、補強層12および外層13をそれぞれ一層のみで構成し、全体で三層構造とすることで、ブレーキホース1の小径化や軽量化に有利なものとなっている。しかしながら、ブレーキホース1を三層構造とすることは、本発明にとって必須の要件ではなく、ブレーキホース1を全体として、四層以上の構造とすることも可能である。
【符号の説明】
【0035】
1:ブレーキホース
11:内層
12:補強層
12a:補強糸
13:外層
図1
図2
図3