(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜3のいずれか1項に記載のエラストマー粒子、請求項7若しくは8に記載のエラストマー組成物又は請求項9に記載のエラストマー粒子分散液を成形加工した成形体。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
図1は本発明の実施形態のエラストマー粒子の全体像の一例を示す電子顕微鏡写真であり、
図2はその断面を示す電子顕微鏡写真である。なお、
図1,2に示すエラストマー粒子は、後述する撹拌工程をホモジナイザーにより回転数を500rpmにして行い、製造したものである。
【0014】
<エラストマー粒子>
図1及び
図2に示すように、本発明の実施形態に係るエラストマー粒子は、ガラス転移点が−100〜0℃であるエラストマーからなり、少なくとも1つの空隙を有する中空粒子又は多孔粒子である。エラストマーは、軟質で応力によって弾性変形する有機物である。ポリマー分子が自由運動可能であり、応力に対応して分子鎖の絡み合いが変化することで弾力性が発現する。
【0015】
ここで、本実施形態のエラストマー粒子を形成するエラストマーは、ガラス転移点が0℃以下であり、好ましくは−5℃以下であり、より好ましくは−10℃以下である。エラストマーのガラス転移温度が高いと、柔軟性が不足し、得られるエラストマー粒子のゴム弾性が低下する。一方、エラストマーのガラス転移点の下限値は、特に制限されるものではないが、極端な低温でも分子運動する物質は特殊なものとなるため、本実施形態のエラストマー粒子では−100℃を下限値とする。
【0016】
なお、ガラス転移点は、測定法や測定条件によって変化する。そこで、本実施形態のエラストマー粒子におけるガラス転移点は、示差走査熱量測定法(DSC)により、大気圧下、昇温速度10℃/分で、−100℃から100℃まで変化させた時の熱容量変化の変極点とする。
【0017】
ここでいうガラス転移点は、JIS K 7121に準拠し、中間点ガラス転移温度T
mg、補外ガラス転移開始温度T
ig、補外ガラス転移終了温度T
egから算出することができる。その際、T
mgは各ベースラインを延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とし、T
igは、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線のこう配が最大になる点で引いた接線との交点の温度とし、T
egは、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線のこう配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度と定義される。なお、本実施形態のエラストマー粒子におけるガラス転移点は、前述した示差走査熱量測定法(DSC)により直接T
mgを測定した値である。
【0018】
そして、本実施形態のエラストマー粒子を形成するエラストマーの具体例としては、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ノルボルネンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム及び多硫化ゴムなどが挙げられる。なお、前述した各エラストマーは、単独で使用してもよいが、複数種を組み合わせた複合物として使用することもできる。
【0019】
これらのエラストマーの中でも、特に、クロロプレン(2−クロロ−1,3−ブタジエン)の単独重合体及びクロロプレンと他の単量体との共重合体(以下、これらを合わせて「クロロプレンゴム」という。)が好適である。クロロプレンゴムは、クロロプレンを主成分とする原料単量体を乳化重合して得られ、重合反応の生成物であるクロロプレン単独重合体又はクロロプレンと他の単量体との共重合体の他に、重合時に添加された乳化剤、分散剤、触媒、触媒活性化剤、連鎖移動剤及び重合禁止剤などが含まれている場合がある。
【0020】
ここで、クロロプレンと共重合可能な単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル及びメタクリル酸2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸エステル類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ(メタ)アクリレート類、並びに2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、スチレン及びアクリロニトリルがある。
【0021】
また、クロロプレンと共重合する単量体は、1種類に限定されるものではなく、例えばクロロプレンを含む3種以上の単量体を共重合したものを使用することもできる。また、クロロプレン重合体のポリマー構造も、特に限定されるものではない。
【0022】
クロロプレンゴムは、硫黄変性クロロプレンゴムと非硫黄変性クロロプレンゴムに大別され、非硫黄変性のものは、分子量調整剤の種類によって、更に、メルカプタン変性クロロプレンゴムとキサントゲン変性クロロプレンゴムとに分類される。硫黄変性クロロプレンゴムは、クロロプレンを主成分とする原料単量体と硫黄を共重合し、得られた共重合体をチウラムジスルフィドで可塑化して、所定のムーニー粘度に調整したものである。
【0023】
メルカプタン変性クロロプレンゴムは、分子量調整剤に、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン及びオクチルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン類を使用することにより得られる。また、キサントゲン変性クロロプレンゴムは、分子量調整剤に、アルキルキサントゲン化合物を使用することにより得られる。そして、本実施形態のエラストマー粒子を形成するエラストマーとして使用するクロロプレンゴムは、前述した各種クロロプレンゴムのいずれでもよいが、特にメルカプタン変性クロロプレンゴムやキサントゲン変性クロロプレンゴムなどの非硫黄変性クロロプレンゴムが好適である。
【0024】
一方、クロロプレンゴムは、その結晶化速度に基づいて、例えば、結晶化速度が遅いタイプ、結晶化速度が中庸であるタイプ及び結晶化速度が速いタイプなどに分類することもできる。そして、本実施形態のエラストマー粒子を形成するエラストマーとして使用するクロロプレンゴムは、前述した各タイプのクロロプレンゴムのいずれを用いてもよく、用途などに応じて適宜選択して使用することができる。
【0025】
また、クロロプレンゴムを製造する方法は、特に限定するものではないが、原料単量体を、乳化剤、重合開始剤及び分子量調整剤などの存在下で、一般に用いられる乳化重合法により重合させればよい。その際、乳化剤には、例えば炭素数が6〜22の飽和又は不飽和の脂肪族のアルカリ金属塩、ロジン酸又は不均化ロジン酸のアルカリ金属塩及びβ−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物のアルカリ金属塩など、一般にクロロプレンの乳化重合に使用される乳化剤を用いることができる。
【0026】
重合開始剤は、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素及びtert−ブチルハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物類のように、一般にクロロプレンの乳化重合に使用される公知の重合開始剤を用いることができる。
【0027】
乳化重合する際の重合温度は、特に限定されるものではないが、生産性及び重合安定性の観点から、0〜50℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましい。また、単量体の最終転化率も、特に限定されるものはないが、生産性の観点から、60〜90%の範囲とすることが好ましい。
【0028】
最終転化率が所定の範囲に達した時点で、重合液に重合禁止剤を少量添加して重合反応を停止させるが、その際、重合禁止剤としては、例えば、チオジフェニルアミン、4−tert−ブチルカテコール及び2,2−メチレンビス−4−メチル−6−tert−ブチルフェノールなど、通常用いられるものを用いることができる。また、重合反応後は、例えば、スチームストリッピング法などによって未反応の単量体を除去した後、分散液のpHを調整し、常法の凍結凝固、水洗及び熱風乾燥などの方法により、重合体を単離することができる。
【0029】
本実施形態のエラストマー粒子は、内部に少なくとも1つの空隙を有する。この空隙には、エラストマー粒子を製造する際に用いた水難溶性有機溶剤やその蒸散気体、水又は比重1以下の水溶性媒体などが含まれていてもよい。このように、粒子内部に空隙が形成されていることにより、このエラストマー粒子を用いて製造される成形体の軽量化、断熱性及び遮音性を向上することができる。また、本実施形態のエラストマー粒子は、自身がエラストマー特有の弾性を有しているため、これを添加して形成されたエラストマー製品は、柔軟性が損なわれることがない。
【0030】
本実施形態のエラストマー粒子の数平均粒子径は、100nm〜2000μmの範囲であることが好ましい。数平均粒子径が100nmに満たない場合は、得られるエラストマー粒子内に空隙が形成されない場合がある。一方、数平均粒子径が2000μmを超えてしまうと、得られるエラストマー粒子が不安定となり粒子形状を保持できなくなる場合がある。本実施形態のエラストマー粒子の数平均粒子径は、より好ましくは200nm〜1000μmであり、特に好ましくは300nm〜800μmである。なお、エラストマー粒子の数平均粒子径は、後述するエラストマー粒子の製造工程において、エラストマー溶液の微粒液滴の径を調整することにより制御することができる。
【0031】
ここでいう「数平均粒子径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)写真を用いて、画像解析により算出した値であり、100個の粒子を観察し、平均した値である。顕微鏡観察は、例えば、測定する粒子を前処理して、例えば電界放出形走査電子顕微鏡(SU6600/株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、加速電圧5kVにて行うことができる。
【0032】
SEM観察するエラストマー粒子の前処理は、以下のとおりである。
(i)6mlのスクリュー管瓶(アズワン製)に純水0.5mlを入れ、ここにエラストマー粒子分散液をスポイトで2滴滴下し、混合する。
(ii)コロジオン膜貼り付けメッシュ上に、(i)で混合した液を1滴乗せて、2%OsO
4水溶液を用いて1時間蒸気固定を行う。
(iii)室温で風乾後、OsO
4コート(コート厚7nm)をする。
【0033】
一方、本実施形態のエラストマー粒子は、空隙の直径が50nm〜1000μmとする。空隙の直径が50nmに満たない場合は、軽量化(低比重化)、断熱性や遮音性といった基本特性が発揮されない場合がある。空隙の直径が1000μmを越えてしまうと、エラストマー微粒子の外膜が薄くなりすぎて外力に耐えられず圧壊してしまう。空隙の直径は好ましくは50nm〜500μm、特に好ましくは50nm〜100μmである。
【0034】
なお、エラストマー粒子における空隙の直径は、後述するエラストマー粒子の製造工程において、加圧時のガスの圧力や減圧操作の方法によって調整することができる。また、空隙の直径は、前述した数平均粒子径と同様に、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測定することができる。
【0035】
<エラストマー粒子の製造方法>
本実施形態のエラストマー粒子を製造する場合は、ガラス転移点が−100〜0℃であるエラストマーを、水難溶性有機溶剤に溶解させて、エラストマー溶液を得る工程(ステップS1)と、エラストマー溶液を水又は比重1以下の水溶性媒体に投入して混合撹拌し、前記水又は比重1以下の水溶性媒体に前記エラストマー溶液を、微粒液滴として分散させて、分散液を得る工程(ステップS2)と、分散液を加圧した後、減圧して前記微粒液滴に空隙核を生成させる工程(ステップS3)を、少なくとも行う。
【0036】
[ステップS1:溶解工程]
ステップS1は、エラストマーを水難溶性有機溶剤に溶解させてエラストマー溶液を得る工程である。水難溶性有機溶剤は、溶解させるエラストマーの親溶剤であることが好ましく、25℃における水への溶解度が3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下であることが望ましい。水難溶性有機溶剤の具体例としては、ジクロルメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンなどのハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などから選ばれる少なくとも1つ(各単独又は2種以上の混合物)がある。
【0037】
溶解工程において、エラストマーと水難溶性有機溶剤は、エラストマー100質量部に対して水難溶性有機溶剤100質量部以上となるように混合させることが好ましく、より好ましくはエラストマー100質量部に対して水難溶性有機溶剤200質量部以上の範囲である。水難溶性有機溶剤の量が100質量部に満たないと、得られるポリマー溶液の増粘が激しくハンドリング性に劣る場合がある。
【0038】
エラストマーを水難溶性有機溶剤に溶解させるには、例えば攪拌翼を有する攪拌装置を用いて水難溶性有機溶剤を攪拌し、これにエラストマーを投入して溶解させればよい。
【0039】
[ステップS2:撹拌工程]
ステップS2は、ステップS1で得られたエラストマー溶液を水溶性媒体中に微粒液滴として分散させた分散液を得る工程である。具体的には、前述した溶解工程で得たエラストマー溶液を、水又は比重1以下の水溶性媒体中に投入し、スターラーやホモジナイザーなどで混合撹拌したり、超音波分散させる。これにより、水又は比重1以下の水溶性媒体中に、エラストマー溶液が微粒液滴として分散した分散液が得られる。
図3は微粒液滴の状態の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【0040】
図3に示すように、微粒液滴の径は、100nm〜5000μmの範囲に調整することが好ましい。微粒液滴の径が100nmに満たない場合は、後述する製造工程で液滴中に空隙核が形成されない場合がある。一方、微粒液滴の径が5000μmを超える場合は、該液滴の分散安定性が低下し、凝集などにより形状を保持できなくなる場合がある。
【0041】
ここで、微粒液滴の径は、スターラーやホモジナイザーなどの攪拌数や超音波の出力や周波数を調整して上述の範囲に調整することができる。また、微粒液滴の径は、光学顕微鏡画像を市販される画像処理ソフト(Mac−View)で解析することにより算出することができる。比重1以下の水溶性媒体としては、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン類、ジメチルスルホキシドなどがあり、必要に応じて2種以上の混合媒体とすることもできる。ここで、比重が1を超える水溶性媒体を用いると、分散液中の微粒液滴の径を制御できなくなる場合がある。
【0042】
水又は比重1以下の水溶性媒体には種々の界面活性剤や、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の金属塩などの高分子系分散剤を含有させることもできる。界面活性剤は特に制限されるものではなく、公知の界面活性剤を用いればよく、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などがあり、具体的には、アニオン性界面活性剤として、ロジン酸塩、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、高級脂肪酸アミドのスルホン酸塩、ノニオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリビニルアルコール、カチオン性界面活性剤として、アルキルアミン塩、四級アンモニウム塩がある。
【0043】
[ステップS3:加圧・減圧工程]
ステップS3は、ステップS2で得られた微粒液滴中に空隙核を生成させる工程である。具体的には、前述した撹拌工程で得た分散液を密封容器に入れ、更にガスを封入して密封容器内を加圧した後、急激に減圧することにより、微粒液滴中に溶解したガスが発泡したり、水又は比重1以下の水溶性媒体が微粒液滴中に取り込まれたり、或いはその両方の現象が発生して微粒液滴中に空隙核が生成される。
【0044】
ガス加圧及び減圧操作は、必要に応じて多段階に繰り返し行うこともできる。その際、加圧用ガスは、特に限定されるものではなく、O
2、N
2又はSF
6などを用いることができる。また、ガスの封入圧も特に制限されるものではないが、実用性の観点から、0.2MPa(2気圧)〜2.0MPa(20気圧)とすることが好ましい。
【0045】
内部に空隙核が生成された微粒液滴は、エラストマーを溶解させていた水難溶性有機溶剤を蒸散させることにより凝集固化してエラストマー粒子となる。その際に微粒液滴中で発泡したガス(空隙核)がエラストマー粒子内部に空隙として固定されるため、得られるエラストマー粒子は中空のものとなる。また、微粒液滴中に取り込まれた水又は比重1以下の水溶性媒体(空隙核)も、得られたエラストマー粒子を風乾させることで蒸散する。このため、水又は比重1以下の水溶性媒体を空隙核として有していた微粒液滴も中空のエラストマー粒子として生成される。水難溶性有機溶剤を蒸散させる際や、エラストマー粒子を風乾させる際の温度にも制限はなく、より効果的に蒸散や風乾を行うために加温することもできる。
【0046】
<エラストマー組成物>
エラストマー組成物は、前述した方法で得られたエラストマー粒子を、凝集・固化させてエラストマー組成物として得られるものである。エラストマー組成物も従来のエラストマーの成形加工で用いられている方法と同様に、プレス成形、押し出し成形、インフレーション成形などを行って成形物とすることができる。
【0047】
<エラストマー粒子分散液>
エラストマー粒子分散液は、前述した方法で得られたエラストマー粒子を、水又は比重1以下の水溶性媒体に分散したものである。本実施形態のエラストマー粒子分散液は、前述したステップS1〜S3の工程を経て生産される。また、加圧・減圧工程で得たエラストマー粒子が、水又は比重1以下の水溶性媒体に分散した分散液をそのまま用いてもよい。
【0048】
エラストマー粒子と水又は比重1以下の水溶性媒体は、エラストマー粒子100質量部に対して水又は比重1以下の水溶性媒体が50質量部以上となるように混合させることが好ましく、より好ましくは、エラストマー粒子100質量部に対して水又は水溶性媒体100質量部以上の範囲である。水又は水溶性媒体が50質量部に満たないと、得られるエラストマー粒子分散液中のエラストマー粒子の分散安定性が得られない場合がある。
【0049】
エラストマー粒子分散液は、通常のエラストマー分散液と同様に、浸漬成形することで浸漬成形製品を得たり、塗工加工することで製膜製品を得たりすることができる。
【0050】
<成形体>
前述した方法によって得られたエラストマー粒子は、水又は比重1以下の水溶性媒体中から遠心分離などの常用の手段で取り出し、従来のエラストマーの成形加工で用いられている方法と同様に、プレス成形、押し出し成形、インフレーション成形などを行って成形体とすることができる。
【0051】
本実施形態のエラストマー粒子は、常温以下の環境でも柔軟性を有するエラストマーからなり、内部に1以上の空隙が形成されているため、この粒子をそのまま、又は組成物や分散液として用いることにより、従来の製造工程を変更せずに、柔軟性を維持しつつ、軽量化などの効果を付与した成形体を得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
<エラストマー粒子及びエラストマー粒子分散液の作製>
(溶解工程)
クロロプレンゴム(電気化学工業株式会社製 A−90)を10質量%の濃度で溶解させたトルエン(和光純薬工業株式会社製 和光1級)0.2mlに、塩化メチレン(和光純薬工業株式会社製 和光1級)5mlを添加して撹拌しポリマー溶液を調製した。
【0054】
(撹拌工程)
250mlのトールビーカーに、1質量%の濃度のポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製 ゴーセナールT−330)水溶液100mlに、溶解工程で調製したポリマー溶液を加え、ホモジナイザーによって7500rpmの回転数で撹拌し、ポリビニルアルコール水溶液中にポリマー微粒液滴を生成させた。
【0055】
(加圧・減圧工程)
ポリマー溶液液滴が分散したポリビニルアルコール水溶液を耐圧ガラスボトル(アズワン製)に移し替え、酸素を圧入して0.5MPa(5気圧)の圧力まで加圧し、酸素をポリマー溶液液滴が分散したポリビニルアルコール水溶液に溶解させた。次に、30分間静置して充分に酸素を溶解させた後、大気圧まで急激に減圧し、過飽和状態の酸素をポリマー溶液液滴及びポリビニルアルコール水溶液中に気泡として発生させた。
【0056】
(分散液作製工程)
加圧・減圧工程で調製したポリマー溶液液滴中のトルエン及び塩化メチレンを、ポリビニルアルコール水溶液中で2日間かけて蒸散させ、水に不溶のエラストマー粒子及び水性媒体との混合からなるエラストマー粒子分散液を生成した。
【0057】
前述した方法で作製した実施例1のエラストマー粒子分散液を用いて、以下に示す評価を行った。
【0058】
<SEM解析>
(1)6mlのスクリュー管瓶(アズワン製)に純水0.5mlを入れ、ここにエラストマー粒子分散液を、スポイトで2滴滴下し、混合した。
(2)(1)で調整した処理液に、2%OsO
4水溶液をスポイトで2滴滴下した後、スクリュー管瓶に蓋をし、加振した。その後、室温で10分間静置し、エラストマー粒子を沈降させた。
(3)更に、管瓶内に純水を入れ、加振した後、30分間静置した。容器底にエラストマー粒子が沈降した後、上澄み液をスポイトで抜き、再び純水を入れて30分間静置した。これを3回繰り返し、液中のOsO4濃度を低減させた。
(4)次に、樹脂包埋用の容器を準備し、容器底部に沈降したエラストマー微粒子をスポイトで滴下した。
(5)粒子を入れた容器の上にアルミホイルをかぶせ、室温で24時間乾燥させた。
(6)充分乾燥させた試料に、光硬化性樹脂を入れ、包埋処理を行った。
(7)包埋した樹脂を取り出し、ミクロトームにてガラスナイフを用いて断面出しを行った。
(8)断面出し後、OsO4をコートし、走査型電子顕微鏡SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 SU6600)観察を行い、エラストマー粒子径及びエラストマー微粒子内部の空隙径を測定した。
【0059】
<DSC測定によるガラス転移温度の測定>
DSC測定は、BRUKER axs社製のDSC3100SAを用い、窒素気流下で実施した。具体的には、実施例1のエラストマー粒子10mgを用い、室温から降温速度10℃/minで−100℃まで冷却し、−100℃で10minホールド後、次いで昇温速度20℃/minで100℃まで加温してDSC曲線を得、解析した。
【0060】
<粒子径分布>
実施例1のエラストマー粒子分散液を用いて、Microtrac UPA(日機装株式会社製)によって粒子径分布を測定し、平均粒子径を求めた。ここで、分散液の平均粒子径は、レーザー回折散乱法によるD50%粒子径(体積基準による累積粒子分布が50%となる粒子径、中位径又はメディアン径とも呼ぶ)を指す。
【0061】
<成形品の作製>
実施例1のポリマー溶液中のクロロプレンゴム濃度を5倍、ポリビニルアルコール水溶液に対するポリマー溶液濃度を7倍とし、さらに製造スケールを100倍にしてエラストマー粒子分散液を製造し、得られたエラストマー粒子分散液を濃縮して固形分を50%に調整した。
【0062】
このエラストマー粒子分散液100質量部、硫黄0.5質量部、酸化亜鉛(2種)2質量部、ジ−n−ブチル−ジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業株式会社製 ノクセラーBZ)0.5質量部、酸化チタン1.5質量部、ラウリル硫酸ナトリウム(花王株式会社製 エマール10)0.2質量部を添加した後、水を加えて、固形分を30質量%とし、エラストマー粒子分散液の調整液を得た。
【0063】
次いで、外径50mmの陶器製の筒を、水70質量部と硝酸カルシウム四水和物30質量部を混合した凝固液に30秒間浸して取り出し、2分間乾燥させた後、エラストマー粒子分散液の調整液に4分間浸した。その後、流水で1分間洗浄し、23℃の雰囲気下で1日乾燥させて陶器製の筒から剥離して、未加硫フィルムとしての成形品を得た。
【0064】
<成形品の加硫物の評価>
前述したエラストマー組成物を120℃、30分で熱処理してエラストマー組成物からなる加硫フィルムとし、JIS−6268に準拠しフィルム密度を、またJIS−K6251に準拠して破断伸び、破断強度を測定した。
【0065】
[実施例2]
クロロプレンの代わりに、天然ゴム(RSS#3 Tg=−75℃)を使用し、それ以外は前述した実施例1と同様の条件及び方法で、実施例2のエラストマー粒子及びエラストマー粒子分散液を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0066】
[実施例3]
クロロプレンの代わりに、ニトリルゴム(日本ゼオン株式会社製HF01 Tg=−20℃)を使用し、それ以外は前述した実施例1と同様の条件及び方法で、実施例3のエラストマー粒子分散液を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0067】
[実施例4〜7]
水溶性媒体の種類を変えた以外は前述した実施例1と同様の条件及び方法で、実施例4〜7のエラストマー粒子及びエラストマー粒子分散液を作製し、実施例1と同様の評価を行った。なお、実施例4〜7で用いた水溶性媒体の種類は、以下のとおりである。
・水溶接媒体A:エタノール(和光純薬工業製)比重(20℃):0.81
・水溶性媒体B:メタノール(和光純薬工業製)比重(20℃):0.79
・水溶性媒体C:アセトン(和光純薬工業製)比重(20℃):0.79
・水溶性媒体D:エチレングリコール(和光純薬工業製)比重(20℃):1.11
【0068】
[実施例8、9]
ホモジナイザーの回転数を変えた以外は前述した実施例1と同様の条件及び方法で、実施例8、9のエラストマー粒子及びエラストマー粒子分散液を作製し、実施例1と同様の評価を行った。実施例8はホモジナイザーの回転数を5000rpmに、実施例9では20000rpmに変化させてサンプルを作製して評価した。
【0069】
[実施例10、11]
酸素圧力を変えた以外は前述した実施例1と同様の条件及び方法で、実施例10、11のエラストマー粒子及びエラストマー粒子分散液を作製し、実施例1と同様の評価を行った。実施例10は酸素圧力を0.2MPaに、実施例11では0.8MPaに変化させてサンプルを作製して評価した。
【0070】
[比較例1]
比較例1は、実施例1におけるエラストマー粒子及びエラストマー粒子分散液を作製する際に、加圧・減圧工程を行わずにサンプルを作製した例である。実施例1と同様に評価を行った。
【0071】
[比較例2]
クロロプレンゴムの代わりに、スチレン・ブタジエン共重合体(日本ゼオン株式会社製LX430のポリマー成分 Tg=12℃)を使用し、それ以外は前述した実施例1と同様の条件及び方法で、比較例2のエラストマー粒子及びエラストマー粒子分散液を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0072】
以上の結果を下記表1に、まとめて示す。
【0073】
【表1】
【0074】
上記表1に示すように、加圧・減圧工程を実施しなかった比較例1は、粒子内部に空隙が形成されなかった。また、ガラス転移点が0℃を超えているスチレン・ブタジエン共重合体を用いた比較例2は、常温環境下でゴム弾性がなかった。これに対して、実施例1〜11は、常温環境下でゴム弾性を有し、内部に1以上の空隙を有し、密度が低く、軽量で、機械的強度にも優れた成形体が得られた。
【0075】
以上の結果から、本発明によれば、内部に少なくとも1つの空隙を有し、常温環境下において柔軟性を有するエラストマー粒子及びその製造方法、エラストマー組成物、エラストマー粒子分散液が実現できることが確認された。
【0076】
本発明は、以下のような形態もとることができる。
(1)ガラス転移点が−100〜0℃であるエラストマーからなり、少なくとも1つの空隙を有するエラストマー粒子。
(2)数平均粒子径が100nm〜2000μmであり、前記空隙の直径が50nm〜1000μmである上記(1)に記載のエラストマー粒子。
(3)前記エラストマーが、クロロプレンの単独重合体又はクロロプレンと他の単量体との共重合体である上記(1)又は(2)に記載のエラストマー粒子。
(4)ガラス転移点が−100〜0℃であるエラストマーを、水難溶性有機溶剤に溶解させて、エラストマー溶液を得る工程と、前記エラストマー溶液を、水又は比重1以下の水溶性媒体に投入し、前記水又は比重1以下の水溶性媒体に前記エラストマーを微粒液滴として分散させて、分散液を得る工程と、前記分散液を加圧した後、減圧して、前記微粒液滴中に空隙核を生成させる工程と、を有するエラストマー粒子の製造方法。
(5)前記微粒液滴中に空隙核を生成させる工程において、加圧ガスとして、O
2、N
2又はSF
6を用いる上記(4)に記載のエラストマー粒子の製造方法。
(6)前記エラストマーがクロロプレンの単独重合体又はクロロプレンと他の単量体との共重合体である上記(4)又は(5)に記載のエラストマー粒子の製造方法。
(7)上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のエラストマー粒子を含むエラストマー組成物。
(8)前記エラストマー粒子を凝集固化して得た上記(7)に記載のエラストマー組成物。
(9)上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のエラストマー粒子100質量部を、水又は比重1以下の水溶性媒体50〜1000質量部に分散させたエラストマー粒子分散液。
(10)上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のエラストマー粒子、上記(7)若しくは(8)に記載のエラストマー組成物又は上記(9)に記載のエラストマー粒子分散液を成形加工した成形体。