【実施例1】
【0013】
[全体構成]
図1は、実施例1にかかるシステムの全体構成例を示す図である。
図1に示す運行管理システムは、運行管理装置10と、デジタルタコグラフ、いわゆるデジタコ1a、2a、3aを有する。なお、
図1には、疲労等に関する警告を行う車載装置の一例として、デジタコを例示するが、後述するように、デジタコはあくまで一例であり、他の車載装置であってもよく、また、運行管理システムに収容される車載装置でなくともかまわない。
【0014】
デジタコ1a、2a、3aのそれぞれは、車両A、車両B、車両Cに搭載される。これらデジタコ1a、2a、3aと運行管理装置10との間は、ネットワークNを介して相互に通信可能に接続される。かかるネットワークNには、有線または無線を問わず、インターネット(Internet)を始め、LAN(Local Area Network)やVPN(Virtual Private Network)などの任意の種類の通信網を採用できる。
【0015】
各デジタコは、車両に搭載される車載装置の一種であり、デジタルタコグラフ、あるいは運行記録計とも呼ばれる。以下では、デジタコ1a、2a、3aの各装置を総称する場合に単に「デジタコ」と記載する場合がある。
【0016】
一実施形態として、各デジタコは、図示しない車両のデジタコ専用コネクタやECU(Electronic Control Unit)などを介して接続されることにより、速度や距離などの走行記録を取得できる。例えば、各デジタコは、速度や距離などの法定の走行パラメータの時系列変化を始め、これと共に、図示しないGPS(Global Positioning System)受信機などを介して、緯度および経度を含む位置情報の時系列データを走行データとして取得することもできる。なお、各デジタコは、一例として、所定のサンプリング周期、例えば0.5秒以下の間隔で走行データを取得できる。
【0017】
より詳細には、各デジタコは、プローブカーである各車両に関する各種走行データを定期的に運行管理装置10に送信する。例えば、デジタコ1aは、1秒ごとに、車両Aの識別子(ID)、位置座標、速度、加速度、エンジン回転数、車間距離などを運行管理装置10に送信する。なお、位置座標は、車両Aの外部アンテナを設置しているGPS(Global Positioning System)レシーバーから0.1秒単位のデータを取得する。速度については、車両のパルス信号から瞬時値を0.1km/h単位で取得する。
【0018】
なお、各デジタコは、これらの情報以外にも、例えばエンジン起動から停止までの1トリップにおけるサービスエリアやパーキングエリアの利用履歴などを送信することもできる。また、各デジタコは、加速度について、加速度(a
i)=(V
i−V
i−1)/t
(i)と計算して通知することができる。ここで、「a
i」は、区間iにおける加速度[m/s
2]を指し、また、「V
i」は、区間iにおける速度[m/s]を指し、また、「t
i」は、区間i−1に流入してから区間iに流入するまでに要した時間[s]を指す。
【0019】
運行管理装置10は、デジタコ1a、2a、3aにより取得される走行データを用いて、安全運転の自己診断または運行管理者等による安全運行の指導、エコドライブの促進や労務管理などの運行管理を支援する運行管理支援サービスを提供するコンピュータである。
【0020】
一実施形態として、運行管理装置10は、パッケージソフトウェアやオンラインソフトウェアとして上記の運行管理支援サービスを実現する運行管理支援プログラムを所望のコンピュータにインストールさせることによって実装できる。例えば、運行管理装置10は、上記の運行管理支援サービスを提供するWebサーバとして実装することとしてもよいし、アウトソーシングによって上記の運行管理支援サービスを提供するクラウドとして実装することとしてもかまわない。
【0021】
ここで、運行管理装置10は、疲労に関する警告を行う機能は既存の同様の運行管理支援サービスを提供することに変わりないので、以下では、疲労等に関する警告に関する部分に焦点を絞って説明を行う。また、本実施例では、サグ部とクレスト部のいずれにも適用することができるが、ここでは一実施例としてサグ部に焦点を絞って説明する。なお、本実施例では、サグ部をサグと記載し、クレスト部をクレストと記載する場合がある。
【0022】
例えば、運行管理装置10は、ドライバー毎のサグ区間通行時における走行挙動の変化に着目して分析を行う。ここでは、走行挙動を示す指標として、減速走行距離に着目する。
図2は、走行挙動を説明する図である。
図2に示すように、運行管理装置10は、サグ底(kp
1)通過後に始めて加速を開始した地点(kp
2)を特定し、両地点間の距離を以て走行挙動を示す指標とする。減速走行距離は、各車両が高速道路のサグ部走行時に、サグ底を通過後に上り勾配を走行する際、サグ底から初めて加速した地点までの走行距離のことであり、減速走行距離(L)=kp
2−kp
1にて定義される。なお、
図2において、サービスエリア(SA)からサグ底までに要した時間が連続運転時間と定義でき、サグ底(kp
1)での速度v
1と加速地点(kp
2)での速度v
2との差(dv=v
1−v
2)を速度低下量と定義できる。
【0023】
そして、運行管理装置10は、例えば速度が一定値以上で自由走行できる高速道路の各サグについて、当該サグを通過した車両の減速走行距離を算出して保持し、減速走行距離を標準化して判定基準を生成する。例えば、運行管理装置10は、各サグを通過した車両の減速走行距離の平均値を判定基準に設定することもできる。また、運行管理装置10は、サグごとに取得された複数の減速走行距離を用いて、正規分布などの確率分布を生成し、確率分布に基づいた判定を行うこともできる。
【0024】
このようにして、運行管理装置10は、各サグについてリアルタイムに測定された複数の減速走行距離から判定基準を生成し、リアルタイムに測定される車両の減速走行距離と判定基準とを比較し、運転者の走行挙動の変化を特定する。そして、運行管理装置10は、運転者の走行挙動に変化が生じた場合に、疲労等によるパフォーマンスの低下と判定し、当該車両に警告を送信する。
【0025】
[機能構成]
図3は、実施例1にかかる運行管理装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
図3に示すように、運行管理装置10は、通信部11、記憶部12、制御部20を有する。
【0026】
通信部11は、各デジタコとの間の通信を制御する無線通信インタフェースの一例である。例えば、通信部11は、各種走行データを各デジタコから受信し、各デジタコに警告等のメッセージおよび当該メッセージの表示指示などを送信する。
【0027】
記憶部12は、メモリやハードディスクなどの記憶装置の一例であり、サグ標準DB13、走行情報DB14、過去情報DB15を記憶する。
【0028】
サグ標準DB13は、サグごとに、減速走行距離の判定基準を記憶するデータベースである。
図4は、サグ標準DB13に記憶される情報の例を示す図である。
図4に示すように、サグ標準DB13は、「サグ情報、位置情報(サグ底)、判定基準」を対応付けて記憶する。ここで記憶される「サグ情報」は、サグを特定する識別子等である。「位置情報(サグ底)」は、サグの位置、すなわち
図2におけるサグ底の位置座標である。
【0029】
「判定基準」は、当該サグを過去に走行した複数の車両の減速走行距離を用いて生成された判定基準である。例えば、判定基準としては、複数の車両の減速走行距離を用いて平均と標準偏差を算出し、当該平均と標準偏差で表される特定の確率分布に基づいて設定することができる。ここで格納される確率分布は、過去の走行履歴から生成することもでき、想定される確率分布を予め設定することもできる。
【0030】
別例としては、複数の車両の減速走行距離の平均値などを採用することができる。なお、
図4では、平均値を示している。
図4の例の場合、「サグ1」のサグ底の位置座標が(x1、y1)であり、「サグ1」を通過した後の減速走行距離の平均値が「200m」であることを示す。
【0031】
なお、判定基準の生成に用いる減速走行距離は、運行管理の管理対象である車両に応じて選択することもできる。例えば、管理対象である車両の同程度の車重の減速走行距離、管理対象の車両の運転者と同年代が運転する車両の減速走行距離、管理対象の車両の運転歴と同程度の運転者が運転する車両の減速走行距離、管理対象の車両が走行する昼夜に測定された車両の減速走行距離などのように、判定基準を生成するための元データを絞り込むことができる。ここで同程度や同年代と記載するのは、完全一致するものに限定されず、±10kgや±5才のようにある程度の幅を持たせることを示すためである。
【0032】
ここで、本実施例で想定するサグの一例について説明する。
図5A、
図5B、
図5Cはサグの一例を示す図である。
図5Aに示すサグは、サグ底S1に向かって下り坂であり、サグ底S1を通過した後に上り坂となる。
図5Bに示すサグは、サグ底S2に向かって平坦であるが、サグ底S2を通過した後に上り坂となる。
図5Cに示すサグは、サグ底S3に向かって勾配の小さい緩やかな上り坂であり、サグ底S3を通過した後に勾配の大きな急な上り坂となる。ここで示したいずれのサグについても、本実施例ではサグとして処理することができる。
【0033】
走行情報DB14は、各車両が各サグを通行した際の運行データを記憶するデータベースである。
図6は、走行情報DB14に記憶される情報の例を示す図である。
図6に示すように、走行情報DB14は、「サグ情報、加速地点、減速走行距離(実測値)、評価値(z値)」を対応付けて記憶する。
【0034】
ここで記憶される「サグ情報」は、サグを特定する識別子等である。「加速地点」は、サグを通過した後に初めて加速された地点、すなわち
図2における加速地点(kp
2)の位置座標である。「減速走行距離(実測値)」は、車両が高速道路のサグ部走行時に、サグ底を通過後に上り勾配を走行する際、サグ底から初めて加速した地点までの走行距離の実測値である。「評価値」は、当該サグに対応する判定基準との比較結果を示す。例えば、判定基準が平均値である場合には、「評価値」として、平均値と実測値との差が記憶される。
【0035】
別例として、判定基準が正規分布などの確率分布である場合には、「評価値」として、z値が記憶される。なお、
図6は、車両Aの運行情報の例であり、評価値としてz値を用いた例を示す。
【0036】
図6の例では、「サグ1」を通過した後の加速地点が(x2、y3)であり、サグ1のサグ底から加速地点までの減速走行距離の実測値が「180m」であり、この実測値がサグ1に対する正規分布ではz値「55」に該当することが示されている。
【0037】
過去情報DB15は、車両ごと、運転者ごと、または道路ごとに、サグを通行した際の通行情報を記憶するデータベースである。つまり、過去情報DB15は、サグの通行履歴を記憶する。記憶する情報は、
図6と同様、「サグ情報、加速地点、減速走行距離(実測値)、評価値」などである。
【0038】
制御部20は、運行管理装置10全体の処理を司る処理部であり、取得部21、評価値算出部22、傾向推定部23、判定部24、警告部25を有する。この制御部20は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などによって実現できる。また、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードワイヤードロジックによっても実現できる。例えば、取得部21、評価値算出部22、傾向推定部23、判定部24、警告部25は、プロセッサなどが有する電子回路の一例やプロセッサが実行するプロセスの一例などである。
【0039】
取得部21は、各車両からプローブデータを取得する処理部である。具体的には、取得部21は、例えば1秒間隔で、各車両から受信したプローブデータを受信し、受信したプローブデータから車両の識別子(ID)、位置座標、速度、加速度、エンジン回転数、車間距離などの走行データを抽出する。そして、取得部21は、取得した走行データを評価値算出部22に通知する。
【0040】
評価値算出部22は、サグの走行が検出された場合に、実測値や評価値を算出して、走行情報DB14に格納する処理部である。具体的には、評価値算出部22は、サグ標準DB13に記憶される情報と、取得した走行データとにしたがって、走行情報DB14を生成する。
【0041】
例えば、評価値算出部22は、車両Aのプローブデータからサグ1の位置情報と一致する位置座標を取得した場合に、車両Aがサグ1を走行中と判定し、このプローブデータから取得される各走行データを開始地点として保持する。その後、評価値算出部22は、車両Aから随時送信されるプローブデータから加速度と位置座標とを取得して監視し、所定値以上の加速度が含まれるプローブデータの位置座標を終了地点として保持する。
【0042】
そして、評価値算出部22は、開始地点の位置座標から終了地点の位置座標までの距離を減速走行距離(実測値)として算出する。その後、評価値算出部22は、走行情報DB14において、算出した減速走行距離(実測値)を、車両Aのサグ1の実測値として格納する。このようにして、取得部21は、各車両について、各サグの実測値を算出して格納する。なお、減速走行距離(実測値)は、公知の様々な手法を用いて算出することができ、例えば開始地点の座標と終了地点の座標を用いて算出でき、開始地点から終了地点までにかかった時間と速度や加速度などを用いて算出することもできる。
【0043】
なお、終了地点の検出には様々な手法を採用できる。例えば、評価値算出部22は、プローブデータに含まれる加速度の絶対値が所定値以上となった地点、前回の加速度から今回の加速度の変化の絶対値が所定値以上となった地点、前回の加速度から加速度の符号が変化した地点、減速から加速に変化した地点などを、終了地点と特定することができる。
【0044】
続いて、評価値算出部22は、減速走行距離(実測値)を格納すると、当該実測値と判定基準とを用いて評価値を算出して、走行情報DB14に格納する。例えば、評価値算出部22は、サグ1の判定基準として正規分布などの確率分布がサグ標準DB13に格納されている場合、当該確率分布を用いて、サグ1に対する減速走行距離(実測値)のz値を算出する。そして、評価値算出部22は、走行情報DB14におけるサグ1の評価値にz値を格納する。
【0045】
別例として、評価値算出部22は、サグ1の判定基準として平均値がサグ標準DB13に格納されている場合、サグ1に対する減速走行距離(実測値)と平均値の差分を算出する。そして、評価値算出部22は、走行情報DB14におけるサグ1の評価値に、算出した差分を格納する。
【0046】
このようにして、評価値算出部22は、各サグについて、減速走行距離(実測値)を格納するたびに、判定基準と実測値とを比較した評価値を算出して、走行情報DB14に格納する。
【0047】
傾向推定部23は、各車両の運転者の減速走行距離の傾向を推定する処理部である。具体的には、傾向推定部23は、走行情報DB14のサグについて、所定回数分の評価値が格納された場合に、各車両のその日の減速走行距離の傾向を推定する。つまり、傾向推定部23は、各車両について、当該車両が起動してからのリアルタイムな実測値から、その日の減速走行距離の傾向を推定する。
【0048】
例えば、傾向推定部23は、車両Aについて、サグ1からサグ30までのそれぞれについてz値が算出された場合に、合計30個のz値それぞれを走行情報DB14から取得する。そして、傾向推定部23は、取得した30個のz値を用いて平均と標準偏差を算出し、当該平均と標準偏差で表される正規分布などの確率分布を生成する。その後、傾向推定部23は、生成した確率分布を、車両Aについての減速走行距離の傾向として判定部24に通知する。
【0049】
別例として、傾向推定部23は、車両Aについて、サグ1からサグ30までのそれぞれについて平均値が算出された場合に、合計30個の平均値それぞれを走行情報DB14から取得する。そして、傾向推定部23は、取得した30個の平均値のさらに平均値を算出する。その後、傾向推定部23は、算出した平均値を、車両Aについての減速走行距離の傾向として判定部24に通知することもできる。
【0050】
判定部24は、傾向推定部23によって特定された傾向と、リアルタイムに測定される実測値とを用いて、運転能力(以下では、「パフォーマンス」と記載する場合がある)の低下を判定する処理部である。上記例で説明すると、判定部24は、車両Aについてサグ1からサグ30までの減速走行距離(実測値)を用いて傾向が特定されたことから、サグ31からの減速走行距離(実測値)を用いて運転能力の低下を判定する。
【0051】
図7は、パフォーマンスの低下判定を説明する図である。例えば、傾向推定部23によって、傾向として、
図7の(a)に示すように、平均(μ)、標準偏差(σ)とする正規分布が仮定されたとする。このとき、判定部24は、サグ31に対するz値が発生する確率を算出し、その確率が閾値以下である場合に、
図7の(a)の正規分布とは異なる分布に遷移したと推定して、運転能力の低下と判定する。
【0052】
例えば、判定部24は、確率密度関数f(x)にしたがって、サグ31に対する評価値をZ値とした場合の面積φ(z)を算出する。そして、判定部24は、この面積φ(z)が閾値より大きい場合に、運転能力が低下している可能性が低いと判定し、この面積φ(z)が閾値以下の場合に、運転能力が低下している可能性が高いと判定して警告部25に通知する。
【0053】
具体的には、サグ31に対する評価値(Z=1.0z値)であったとする。この場合、
図7の(b)に示すように、判定部24は、確率密度関数f(x)にしたがって、Z値=1.0とする面積φ(z)を算出する。この場合、判定部24は、φ(z)が閾値(0.025)より大きくなることから、運転能力が低下している可能性が低いと判定する。
【0054】
一方、サグ31に対する評価値(Z=2.5z値)であったとする。この場合、
図7の(c)に示すように、判定部24は、確率密度関数f(x)にしたがって、Z値=2.5とする面積φ(z)を算出する。この場合、判定部24は、φ(z)が閾値(0.025)より小さくなることから、運転能力が低下している可能性が高いと判定する。
【0055】
このように、判定部24は、リアルタイムな走行データから生成した正規分布における発生確率が低くなる走行データを検出した場合に、運転能力が低下している可能性が高いと判定する。つまり、判定部24は、極端に長い減速走行距離(実測値)が検出された場合や極端に短い減速走行距離(実測値)が検出された場合に、運転能力が低下している可能性が高いと判定する。
【0056】
別例としては、判定部24は、リアルタイムに測定される実測値と、傾向として推定された平均値との差分が閾値以上である場合に、運転能力が低下していると判定することもできる。
【0057】
なお、判定部24は、運動能力の低下を1回検出した場合に、警告部25に警告の報知を指示することもでき、運転能力の低下を複数回連続して出した場合に、警告部25に警告の報知を指示することもできる。つまり、警告のタイミングは、任意に設定変更することができる。
【0058】
警告部25は、判定部24によって運転能力の劣化や低下が検出されると、疲労に関するアラートを出力する処理部である。かかるアラートの一例としては、ビープ音を出力することとしてもよいし、音声または表示により次のようなメッセージを出力することもできる。例えば、「疲れていませんか?」や「疲労により運転に支障を来す可能性があるので休憩して下さい。」などのメッセージを出力することができる。また、アラートの出力先の一例としては、車載の表示装置や車載のスピーカなどとすることもできるし、運行管理者が使用する情報処理装置とすることもできる。
【0059】
このように疲労に関するアラートを出力することにより、適切なタイミングで休憩を促すことができる。さらに、各運転者が適切なタイミングで休憩をとった場合、各運転者が休養の十分な状態で運転に臨むことになるので、事故発生の確率を低減し、さらに、認知、判断、操作の一連の運転行動の所要時間が短縮される結果、サグやクレストにおける渋滞の緩和にも期待できる。
【0060】
[処理の流れ]
図8は、処理の流れを示すフローチャートである。なお、ここでは、上記平均値ではなく、正規分布を用いた例を説明する。ここで実行される処理は、車両ごと、つまり運転者ごとに実行される。
【0061】
図8に示すように、運行管理装置10の評価値算出部22は、取得部21によって取得されるプローブデータにしたがって、サグ位置での減速走行距離を算出すると(S101:Yes)、サグ標準DB13に記憶される該当サグの値の分布を用いてz値を算出して、走行情報DB14に格納する(S102)。
【0062】
そして、評価値算出部22は、所定回数分のz値が算出されるまで(S103:No)、S101以降を繰り返す。
【0063】
その後、所定回数分のz値が算出されると(S103:Yes)、傾向推定部23は、所定回数分のz値を用いて、当該z値の確率分布(正規分布)を生成する(S104)。続いて、傾向推定部23は、運転者の評価基準として、生成した確率分布を保持する(S105)。
【0064】
その後、評価値算出部22は、取得部21によって取得されるプローブデータにしたがって、サグ位置での減速走行距離を算出すると(S106:Yes)、サグ標準DB13に記憶される該当サグの基準値を用いてz値を算出して走行情報DB14に格納する(S107)。
【0065】
続いて、判定部24は、保持する確率分布とS107で算出されたz値とを用いて、当該z値の発生確率を算出する(S108)。そして、算出した発生確率が閾値より大きい場合(S109:No)、S106に戻って以降の処理が実行される。
【0066】
一方、判定部24は、算出した発生確率が閾値以下である場合(S109:Yes)、閾値以下の発生確率が所定回数連続して検出されたかを判定する(S110)。
【0067】
ここで、閾値以下の発生確率が所定回数未満である場合(S110:No)、S106に戻って以降の処理が実行される。一方、閾値以下の発生確率が所定回数連続して検出された場合(S110:Yes)、警告部25は、該当車両にアラートを通知する(S111)。
【0068】
[効果の一側面]
上述したように、運行管理装置10は、リアルタイムに取得した、サグ位置での減速走行距離にしたがって判定基準を生成して、当該判定基準を用いて運転能力の低下を検出することができる。したがって、運行管理装置10は、その日の運転手の状況を反映した判定基準をトリップごとに生成することができるので、運転者の健康状態や疲労状況に追従した運動能力の低下検出を実行することができる。この結果、運行管理装置10は、運転能力の低下の検出精度を向上させることができる。
【0069】
また、運行管理装置10は、瞬目、フリッカー、心拍数などの生体情報を用いることなく、運動能力の低下検出を実行することができるので、運転以外の負担を抑制することができる。また、センサなどの新たなハードウェアも用いないので、コストの削減も期待できる。
【0070】
ここで、上記実施例1では、リアルタイムに測定されたサグ位置での減速走行距離を用いて判定基準を生成する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、運転者が高速道路Xを走行する予定であり、過去に道路Xを通過した時の道路Xの各サグの走行記録が保存されている場合には、過去の走行記録を用いて判定基準を事前に生成することができる。
【0071】
例えば、傾向推定部23は、道路X内にあるサグX1からサグX90までのz値を用いて、正規分布を生成して判定基準として保持する。その後、判定部24は、道路Xの走行を開始した後にサグ位置での減速走行距離が算出されると、上記実施例と同様の手法により、当該減速走行距離の発生確率を算出する。このようにして、運行管理装置10は、道路Xの最初のサグ位置での運行から、運転能力の低下を判定することができる。この結果、運行管理装置10は、運転開始直後から運転能力の低下を判定することができるので、運転者の体調不良などを早期に検出することができる。
【0072】
なお、この例では、事前に判定基準を生成する場合に、走行予定の道路Xと全く同じ道路Xの走行履歴を用いて判定基準を生成する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、道路Xと形状が類似する道路の走行履歴、道路Xに含まれるサグの発生傾向が類似する道路の走行履歴、道路Xに含まれるサグと同じ数のサグを有する道路の走行履歴などを用いて、判定基準を生成することもできる。また、運行する時間帯、運行する車の車種などによって、採用する過去の走行履歴を絞りこむこともできる。このような場合であっても、運転開始直後から運転能力の低下を判定することができ、運転者の体調不良などを早期に検出することができる。
【実施例2】
【0073】
ところで、実施例1では、運転能力の低下をリアルタイムに検出することで、運転者に休憩のタイミングを適切に通知することができる例を説明したが、運行管理装置10は、例えば過去の運行履歴から、休憩のタイミングを算出して通知することもできる。
【0074】
そこで、実施例2では、過去の運行履歴から、休憩のタイミングを算出して通知する例を説明する。なお、全体構成は、
図1と同様なので、詳細な説明は省略する。
【0075】
[機能構成]
図9は、実施例2にかかる運行管理装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
図9に示すように、運行管理装置10は、通信部11、記憶部12、制御部20を有する。
【0076】
図9に示す運行管理装置10は、実施例1とは異なる点として、統計情報DB16と運行計画部26とを有する点である。その他の処理部等は、実施例1と同様なので、詳細な説明は省略する。
【0077】
統計情報DB16は、運転者や車両に関係なく、各道路のサグごとの走行履歴をまとめて記憶するデータベースであり、各サグについて連続運転時間と減速走行距離との関係を記憶する。例えば、統計情報DB16は、香川県の高松西インターチェンジ(IC)を起点とし、愛媛県の東西を横断する松山自動車道下り線のいよ西条ICから川内ICの各サグを走行した車両についての連続運転時間と減速走行距離との関係を記憶する。
【0078】
図10は、統計情報DB16に記憶される情報の例を示す図である。
図10に示すように、統計情報DB16は、サグA、サグBなどの各サグについて、連続運転時間と減速走行距離との関係を記憶する。より詳細には、統計情報DB16には、サグAについて、連続運転時間が0から100秒の車両がサグAを走行した時の減速走行距離として、50m、120mなどが履歴として登録されており、連続運転時間が101から500秒の車両がサグAを走行した時の減速走行距離として、150m、190mなどが履歴として登録されている。
【0079】
運行計画部26は、統計情報DB16に記憶される統計情報にしたがって、休憩タイミングとして推奨する連続運転時間を推定して、運行計画を生成する処理部である。ここでは、運行計画部26は、連続運転時間とドライバーの走行挙動を示す指標との関係を調べ、モデル化により連続運転時間が走行挙動に与える影響の把握を目的に分析を行う。
【0080】
ここで、連続運転時間と各走行挙動指標との関係について、時系列的な変化を考える。ドライバーに疲労がない運転早期では、走行挙動を示す指標は一定値を推移することが予想される。そして、次第に運転疲労の発現によって指標値が急激に変化する段階に達することが考えられる。つまり、連続運転時間が長くなることで、挙動の変化は大きくなるが、その増加は単調増加ではないと仮定し、変曲点までは車両挙動の反応は大きく変化しないと考え、ある変曲点を境に大きく変化することが予想される。
【0081】
そこで、運行計画部26は、折れ線回帰モデルを用いて分析を行う。同モデルは、説明変数はいくつかの異なるグループに分布し、分割された区間で異なる関係性を示すとき特に有効な手法である。ここで、線分の境界(閾値)を変曲点と呼ぶこととする。なお、パラメータの推定には最小二乗法を用いて、3本の回帰直線は従属変数の観測値と計算値の差(残差)の二乗和を最小にしながら、できる限りデータセットに適合するように作られ、分割されたそれぞれの区間で適用される。したがって、定式化すると式(1)のようになる。
【0082】
【数1】
【0083】
ここで、yは従属変数(減速走行距離(m))、xは連続運転時間(s)、kは変曲点(s)、αおよびβはパラメータであり、獲得されたデータに基づいて算定する。また、最適モデルの選定においては、連続運転時間を500(s)ごとに区切り、組み合わせ毎に推定を行い、その中で最小二乗誤差の値が最小となるモデルを最適モデルとして選択することとする。
【0084】
図11は、減速走行距離と連続運転時間のパラメータの推定結果を示す図である。
図12は、減速走行距離と連続運転時間の関係を示す図であり、得られた回帰式によるグラフである。
【0085】
図11および
図12に示すように、運行計画部26は、分析の結果、連続運転時間の第1変曲点がk
1=5000秒および第2変曲点がk
2=5500秒の組み合わせのとき、最も高い決定係数値(R2=0.080)が得られた。結果に示すように、連続運転時間が5000秒となった時に、減速走行距離の増加量、言い換えると回帰直線の傾きに変化が生じることが示された。具体的には、5000〜5500秒の区間においては、係数値β
2は有意に正の値を示した。そして、5500秒以上の区間では負の係数値を示す結果が得られた。
【0086】
これらの推定結果から、運行計画部26は、連続運転時間が一定時間を超えた場合には、運転時間の増加に伴って減速走行距離が増加する傾向にあることを特定する。すなわち、連続運転時間が一定時間を超えると、走行挙動に変化が生じることが特定できる。したがって、運行計画部26は、連続運転時間が5000秒を超えたときに、警告部25に警告の通知を指示する。この結果、警告部25は、サービスエリア等に寄らずに、連続運転時間が5000秒を超えたときに、休憩等を促すメッセージを出力する。
【0087】
[効果の一側面]
このように、運行管理装置10は、適切なタイミングで休憩を促すことが可能になる。各運転者により適切なタイミングで休憩がとられた場合、各運転者が休養の十分な状態で運転に臨むことになるので、事故発生の確率を低減し、さらに、認知、判断、操作の一連の運転行動の所要時間が短縮される結果、サグやクレストにおける渋滞の緩和にも期待できる。
【0088】
なお、実施例2では、統計情報DB16が、該当区間の各サグを走行した車両についての連続運転時間と減速走行距離との関係を記憶する例を説明したが、さらに細分化して記憶することで、連続運転時間の閾値の算出精度を向上させることもできる。例えば、統計情報DB16は、該当区間の各サグを走行した車両の重量、運転者の運転歴、昼夜などを対応付けて記憶し、運転予定の状況に合わせて走行データを選択することができる。
【実施例3】
【0089】
さて、これまで本発明の実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。
【0090】
[デジタコ]
上記の実施例では、運行管理装置10が疲労等に関するパフォーマンスの低下を判定する例を説明したが、これに限定されるものではなく、
図1に示した各車両のデジタコや他の車載装置が実行することもできる。すなわち、位置情報および速度情報を取得できる車載装置であればよく、ドライブレコーダ、いわゆるドラレコに
図3や
図9に示した各機能部を搭載することにより上記各処理を実行することとしてもよい。また、車載装置は、必ずしも業務車両用のものでなくともかまわず、ナビゲーション装置等に
図3や
図9に示した各機能部を搭載することにより上記各処理を実行することとしてもかまわない。
【0091】
[クレスト]
上記実施例では、サグを例にして説明したが、これに限定されるものではなく、クレストなどでも同様に処理することができる。クレストの場合は、クレスト通過後から加速するまでの距離ではなく、クレスト通過後から減速するまでの距離になる点が、上記実施例とは異なるが、同様の処理内容を採用することができる。
【0092】
図13A、
図13B、
図13Cは、クレストの一例を示す図である。
図13Aに示すクレストは、クレスト頂C1に向かって上り坂であり、クレスト頂C1を通過した後に下り坂となる。
図13Bに示すクレストは、クレスト頂C2に向かって平坦であるが、クレスト頂C2を通過した後に下り坂となる。
図13Cに示すクレストは、クレスト頂C3に向かって勾配の小さい緩やかな下り坂であり、クレスト頂C3を通過した後に勾配の大きな急な下り坂となる。ここで示したいずれのクレストについても、本実施例ではクレストとして処理することができる。
【0093】
[対象履歴]
上記実施例では、一例として30個の減速走行距離(実測値)のz値が算出された場合に、傾向を特定する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、走行を開始してから所定時間経過したときに算出済みの減速走行距離(実測値)のz値を用いて、傾向を特定することもできる。また、運行管理装置10は、z値に代わり、偏差値を用いて処理を実行することも可能である。
【0094】
[標準化]
また、上記実施例では、各サグの判定基準を用いて該当車両の減速走行距離(実績値)を評価した後、当該評価値を用いて判定基準を生成する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、各サグの判定基準を用いることなく、該当車両の減速走行距離(実績値)だけを用いて判定基準を生成することもできる。
【0095】
また、運行管理装置10は、車両がサグを走行した時の減速走行距離(実績値)や車両がクレストを走行してから加速するまでの加速走行距離(実績値)を、車両が走行中に随時算出する。そして、運行管理装置10は、閾値を超える減速走行距離(実績値)や加速走行距離(実績値)を算出したときに、アラートを送信することもできる。
【0096】
また、運行管理装置10は、過去の履歴からサグごとに正規分布などの確率分布を生成し、当該確率分布にしたがって、サグ通過時に算出された距離が発生する確率を算出する。そして、運行管理装置10は、当該確率が閾値以下であるときに、運転能力が低下していると判定することもできる。また、運行管理装置10は、実測値に限らず、サグを走行する度に算出されるz値が第1の閾値以下または第2の閾値以上である場合に、運転能力が低下していると判定することもできる。
【0097】
[分散および統合]
また、図示した各装置の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されておらずともよい。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、取得部21、評価値算出部22、傾向推定部23、判定部24、警告部25又は運行計画部26を運行管理装置10の外部装置としてネットワーク経由で接続するようにしてもよい。また、取得部21、評価値算出部22、傾向推定部23、判定部24、警告部25又は運行計画部26を別の装置がそれぞれ有し、ネットワーク接続されて協働することで、上記の運行管理装置10の機能を実現するようにしてもよい。
【0098】
[判定プログラム]
また、上記の実施例で説明した各種の処理は、予め用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。そこで、以下では、
図14を用いて、上記の実施例と同様の機能を有する判定プログラムを実行するコンピュータの一例について説明する。
【0099】
図14は、ハードウェア構成例を示す図である。
図14に示すように、コンピュータ100は、操作部110aと、スピーカ110bと、カメラ110cと、ディスプレイ120と、通信部130とを有する。さらに、このコンピュータ100は、CPU150と、ROM160と、HDD170と、RAM180とを有する。これら110〜180の各部はバス140を介して接続される。
【0100】
HDD170には、
図14に示すように、上記の実施例1で示した取得部21、評価値算出部22、傾向推定部23、判定部24、警告部25、運行計画部26と同様の機能を発揮する判定プログラムが記憶される。この判定プログラムは、
図3や
図9等に示した取得部21、評価値算出部22、傾向推定部23、判定部24、警告部25、運行計画部26の各構成要素と同様、統合又は分散してもかまわない。すなわち、HDD170には、必ずしも上記の実施例1や実施例2で示した全てのデータが格納されずともよく、処理に用いるデータがHDD170に格納されればよい。
【0101】
このような環境の下、CPU150は、HDD170から判定プログラムを読み出した上でRAM180へ展開する。この結果、判定プログラムは、
図14に示すように、判定プロセスとして機能する。この判定プロセスは、RAM180が有する記憶領域のうち判定プロセスに割り当てられた領域にHDD170から読み出した各種データを展開し、この展開した各種データを用いて各種の処理を実行する。例えば、判定プロセスが実行する処理の一例として、各実施例で説明した処理などが含まれる。なお、CPU150では、必ずしも上記の実施例1で示した全ての処理部が動作せずともよく、実行対象とする処理に対応する処理部が仮想的に実現されればよい。
【0102】
なお、上記の判定プログラムは、必ずしも最初からHDD170やROM160に記憶されておらずともかまわない。例えば、コンピュータ100に挿入されるフレキシブルディスク、いわゆるFD、CD−ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」に判定プログラムを記憶させる。そして、コンピュータ100がこれらの可搬用の物理媒体から判定プログラムを取得して実行するようにしてもよい。また、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータ100に接続される他のコンピュータまたはサーバ装置などに判定プログラムを記憶させておき、コンピュータ100がこれらから判定プログラムを取得して実行するようにしてもよい。