【実施例】
【0026】
次に糖尿病患者に対して行った実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0027】
実施例1
(1)SCF、γ−セクレターゼ阻害剤、VEGF、FL及びTPO含有無血清培地の調製
培地に用いる無血清培地(Restoration culture ; 以下RC)は、stemline
TMII Hematopoietic Stem Cell Expansion Medium (Sigma-Aldrich, Cat No. S0192)を用いて表1に示す組成に基づいて作成した。即ち、表1に示す各成分を、所定の最終濃度となるように無血清培地に無菌的に添加した。
【0028】
【表1】
【0029】
表1中、「h」はヒト由来であることを示す。「r」は組み換え体であることを示す。それ以外の略語は上述の通りである。
【0030】
(2)各培地中での単核球の培養
1.単核球の入手
20〜80歳の糖尿病(DM)患者から、翼付採血セットを用いて末梢血を40〜65mL、EDTA−2NA入り真空採血管へ採取した。採取は順天堂大学医学部医学調査委員会の承認の下で行い、得られた末梢血サンプルの取り扱いはヒトサンプルに対する生物学的ガイドラインに沿って行った。末梢血からの単核球(PBMNC)単離は、末梢血を遠心後、バッフィーコート層を採取しHistopaque−1077(Sigma-Aldrich, #10771)を用いた密度勾配遠心分離法にて単離した。単離されたPBMNCはPBS−EDTAで洗浄し、緩衝液中に懸濁し、細胞懸濁液を調整した。単離されたPBMNCにおいて得られる細胞数は末梢血1mLあたり約0.82×10
6個細胞、CD34陽性率は0.06±0.04%、CD133陽性率は0.04±0.02%であった。
【0031】
2.培養条件
上記方法により単離されたPBMNCを、Primaria Tissue culture plate(6well Primaria
TM tissue culture plate, BD Falcon, #353846)を用い、1ウェル当たり2×10
6細胞/2mL RC培地の条件下、(1)で調整された無血清培地中で7日間培養した。
【0032】
3.培養細胞の種々の測定法
・RC細胞数
培養の結果、培養開始前のPBMNCに対する上記培養後の細胞(以下、RCCといい、上記培養法をRCCという場合がある)の数は、全ての糖尿病被験者において減少していた(平均で0.56倍;
図1)。血液100mLの末梢血に換算すると、血液100mLから平均で約4.6×10
7個のRC細胞が得られた。
【0033】
・フローサイトメトリー
上記培養条件により得られたRCCの特徴をより明らかにするため、フローサイトメトリーにより、血液血管系の幹細胞、血液系細胞、または血管系細胞の細胞表面マーカーの発現を調べた。フローサイトメトリー解析は下記の通りに行った。
MACS buffer中に懸濁した細胞(1.5×10
6細胞/300μL−MACS buffer)にFCブロッキング試薬を10μL添加し4℃で30分間培養する。その後染色反応用チューブに等量ずつ分注した(100μL/チューブ×3チューブ)。各アリコートに各一次抗体を2μL添加し4℃で20分間培養した。その後1mLのMACS bufferで2回洗浄し、染色した細胞をMACS buffer中に懸濁した(5×10
5細胞/200〜300μL−MACS buffer)。フローサイトメトリー計測はFACSAria
TMIIIセルソーター(BD)を用いて行った。なお、抗体はいずれも市販のものを使用した。
計測された細胞の解析はFlowJo
TMソフトウェア(Tomy Digital Biology)を用いて行った。PBMNCまたはRCCの散布図をそれぞれ、細胞サイズにより3つの集団、即ちリンパ球サイズ(Lymph gate)、単球サイズ(Mono gate)、および大型細胞サイズ(Large gate)にゲートした(
図2)。先ずPBMNCまたはRCC各々の生存細胞率を各ゲートにおいて推定する。次に、3つの細胞サイズ領域ごとに各細胞表面マーカー陽性細胞を測定し、ゲートした細胞集団中の生存細胞分画における陽性率(%)を計算した。
また、上記3集団にゲートした細胞の合計を100%とした場合の陽性率を算出し、さらにこの場合のRCC前後の細胞全体における各マーカー発現細胞の%変化も算出した。
解析の結果、CD34陽性幹細胞の比率が、PBMNCでは約0.06%であるのに対してRCCでは約1.02%となり、RCC前後で比較するとCD34陽性細胞の割合は17倍と大幅に増加していた(
図3)。内皮系細胞マーカーの陽性率はCD31で0.93倍となりわずかに減少がみられた。
更に、抗炎症性M2型マクロファージのパラメーターであるCD206は、PBMNCでは1.31%、RCCでは22.91%で、RCC前後比較は17.4倍に増加していた。CD34陽性細胞の増加と同程度に増加していた(
図4)。
この結果は上記3集団にゲートした細胞の合計を100%とした場合の陽性率でも同様の傾向であった。
【0034】
・EPCコロニー形成アッセイ
PBMNCおよびRCCの血管形成能を調べるため、EPCコロニー形成アッセイ(EPC−CFA)によりEPCコロニーを定量した。EPC−CFAは、Masuda H.et al.,Circulation research,109:20−37(2011)に記載される方法を元に実施した。具体的には、35mm Primaria
TM dish(BD Falcon)中、表2に示す組成に基づいて作製した半固形培地中でPBMNC/RCCを培養し(2×10
5細胞/1ディッシュ)、培養開始から16日前後に位相差光学顕微鏡(Eclipse Ti−U,Nikon)下にて、1ディッシュあたりのEPCコロニー数を測定した。形成されるEPCコロニーの種類として未分化型EPCコロニー(PEPC−CFU(primitive EPC colony forming unit);
図5左)と、分化型EPCコロニー(DEPC−CFU(definitive EPC colony forming unit);
図5右)があり、これらをそれぞれカウントした。
【0035】
【表2】
【0036】
EPC−CFAの結果、PBMNCと比較してRCCでは、ディッシュあたりの形成されたEPCコロニーの総コロニー(total−CFU)数、および特に分化型EPCコロニー(DEPC−CFU)数について優位な増加が観察された(
図6)。分化型EPCコロニーは未分化型EPCコロニーよりも更に強力な血管形成活性を持ち、また未分化型EPCコロニー(PEPC−CFU)数も増加傾向にあることで総コロニー数が更に増幅し血管再生能を持つ細胞数の増加を示している。この結果はPBMNCに対してRCCは顕著に優れた血管再生能を有する細胞集団であることを実証している。EPCコロニー形成細胞分化度(総コロニー数に占めるPEPC−CFUとDEPC−CFUの割合(%))についても、PBMNCではEPCコロニー形成細胞全体のうち未分化型コロニー形成細胞が87.1%、分化型コロニー形成細胞が12.9%であったのに対し、RCCでは未分化型コロニー形成細胞が35.0%、分化型コロニー形成細胞が65.0%と、分化型コロニー形成細胞の比率が大きく増加していた。
更に本発明のRC培養(本RC)と前記特許文献4記載の培地成分を元にした培養(特4)を行ったRCCをEPCコロニー形成アッセイにて比較したところ、特4に比べ本RCCはDEPC−CFU及びtotal−CFUが優位に増加した(
図7)。
以上のことから、本発明のRC培養は、血管形成能を有する細胞が量的にも機能的(質的)にも大いに向上することが実証された。
【0037】
(3)健常人との比較
本発明のRC培養が虚血性疾患(この場合、特に糖尿病患者を示す)に対してより有効であるのを示すため、糖尿病患者と健常者のPBMNCおよびRCCでEPCコロニー形成アッセイ(EPC−CFA)を行いEPCコロニーを定量し血管形成能を比較した。
その結果、RCCにおけるEPCコロニー形成頻度はPBMNCに対して、各コロニーいずれにおいても健常者(Healthy)より糖尿病患者(DM)で増加していた(
図8)。(PEPC−CFUはDM:1.57倍、Healthy:1.08倍、DEPC−CFUはDM:23.32倍、Healthy:18.91倍、total−CFUはDM:7.43倍、Healthy:5.29倍。)。
故に、本発明のRC培養が健常者よりもむしろ糖尿病患者においてより優れた効果を発揮することを示している。EPC機能障害の生じている各疾患由来の血液からでも血管形成能を高めた細胞集団を培養することが可能である。