特許第6706840号(P6706840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706840
(24)【登録日】2020年5月21日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】画像データ処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04N 19/467 20140101AFI20200601BHJP
   H04N 1/387 20060101ALI20200601BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20200601BHJP
   H04N 1/41 20060101ALI20200601BHJP
   H04N 1/46 20060101ALI20200601BHJP
   H04N 1/60 20060101ALI20200601BHJP
   H04N 19/85 20140101ALI20200601BHJP
   H04N 19/63 20140101ALI20200601BHJP
【FI】
   H04N19/467
   H04N1/387
   G06T1/00 510
   H04N1/41 C
   H04N1/46 Z
   H04N1/40 D
   H04N19/85
   H04N19/63
【請求項の数】7
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2016-73754(P2016-73754)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-188707(P2017-188707A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年3月20日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [開催日] 平成28年3月2日 [集会名] 2015年度第6回ハイデイング・エンリッチメント研究会 [開催場所] 屋久島環境文化村センター(鹿児島県熊毛郡屋久島町宮之浦823番地1) [主催者名] マルチメディア情報ハイデイング・エンリッチメン研究専門委員会(電子情報通信学会)
(73)【特許権者】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】篠田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】番沢 和茂
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 まどか
【審査官】 岩井 健二
(56)【参考文献】
【文献】 渡邉彩、篠田一馬、長谷川まどか、加藤茂夫,電子透かしを用いたRGB画像へのマルチスペクトル情報埋め込みに関する一検討,IMPS IMAGE MEDIA PROCESSING SYMPOSIUM 2014,2014年11月14日
【文献】 中村高雄、山本奏、北原亮、宮武隆、片山淳、安野貴之、曽根原登,リアルタイム検出可能な動画向けモバイル電子透かし,画像電子学会誌,2007年 7月25日,第36巻 第4号,p426〜434
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N19/00−H04N19/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも4以上の色情報を有するオリジナルのマルチスペクトル画像をRGBの画素特徴量を有するRGB画像に変換してRGB画像データを生成する第1変換手段と、
前記変換されたRGB画像の各画素の画素特徴量から前記マルチスペクトル画像を推定して推定マルチスペクトル画像データを生成する推定手段と、
前記推定されたマルチスペクトル画像と、前記オリジナルのマルチスペクトル画像と、の間の差分画像を算出する算出手段と、
前記算出された差分画像に対応する差分画像データを圧縮して圧縮差分画像を生成する第1圧縮手段と、
前記圧縮差分画像の情報を前記生成されたRGB画像データ又は当該RGB画像データを変換した画像データに埋め込むことによって、前記マルチスペクトル画像を復号する際に用いる復号情報を有するRGB画像データを重畳RGB画像データとして生成する生成手段と、
前記生成された重畳RGB画像データを所定の量子化ステップ値に基づいて圧縮することができる第2圧縮手段と、
を備え、
前記生成手段が、
前記量子化ステップ値を超える範囲で画素値の変更を行うことで、前記圧縮差分画像の情報を埋め込むことを特徴とする画像データ処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像データ処理装置において、
前記RGB画像データを色差画像データに変換する第2変換手段と、
前記色差画像データに含まれる各画素の色差情報を予め定められた周波数帯域を有する複数のサブバンドに分割する分割手段と、
を更に備え、
前記生成手段が、
前記色差情報において、前記量子化ステップ値を超える範囲の前記サブバンドに、前記圧縮差分画像の情報を埋め込む、画像データ処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像データ処理装置において、
前記分割手段が、
前記色差画像データにおける各画素の色差情報に離散ウェーブレット変換を施すことによって、当該各画素における色差特徴量を複数の前記サブバンドに分割する、画像データ処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の画像データ処理装置において、
前記変換されたRGB画像データに対して、離散コサイン変換を施す第3変換手段を更に有し、
前記生成手段が、
前記RGB画像データを変換して得られたDCT係数において、前記量子化ステップ値を超える範囲の周波数帯域に、前記圧縮差分画像の情報を埋め込む、画像データ処理装置。
【請求項5】
少なくとも4以上の色情報を有するオリジナルのマルチスペクトル画像をRGBの画素特徴量を有するRGB画像に変換して生成されたRGB画像データ又は当該RGB画像データを変換した画像データに、圧縮差分画像の情報が埋め込まれた重畳RGB画像データであって、前記圧縮差分画像の情報が、前記重畳RGB画像データを圧縮可能な圧縮手段の量子化ステップ値を超える範囲で画素値の変更を行うことで埋め込まれた重畳RGB画像データを取得する取得手段と、
前記重畳RGB画像データから4以上の色情報を有するマルチスペクトル画像を推定して推定マルチスペクトル画像データを生成する生成手段と、
前記重畳RGB画像データに埋め込まれた情報であって、前記推定されたマルチスペクトル画像と、前記オリジナルのマルチスペクトル画像と、の差分を示す圧縮差分画像の情報を当該重畳RGB画像データから抽出する抽出手段と、
前記抽出された圧縮差分画像の情報と、前記推定マルチスペクトル画像データに基づき、前記オリジナルのマルチスペクトル画像を復元する復元手段と、
を具備することを特徴とする画像データ処理装置。
【請求項6】
画像データ処理装置としてのコンピュータを、
少なくとも4以上の色情報を有するオリジナルのマルチスペクトル画像をRGBの画素特徴量を有するRGB画像に変換してRGB画像データを生成する第1変換手段、
前記変換されたRGB画像の各画素の画素特徴量から前記マルチスペクトル画像を推定して推定マルチスペクトル画像データを生成する推定手段、
前記推定されたマルチスペクトル画像と、前記オリジナルのマルチスペクトル画像と、の間の差分画像を算出する算出手段、
前記算出された差分画像に対応する差分画像データを圧縮して圧縮差分画像を生成する第1圧縮手段、
前記圧縮差分画像の情報を前記生成されたRGB画像データ又は当該RGB画像データを変換した画像データに埋め込むことによって、前記マルチスペクトル画像を復号する際に用いる復号情報を有するRGB画像データを重畳RGB画像データとして生成する生成手段、
前記生成された重畳RGB画像データを所定の量子化ステップ値に基づいて圧縮することができる第2圧縮手段、
として機能させるとともに、
前記生成手段が、
前記量子化ステップ値を超える範囲で画素値の変更を行うことで、前記圧縮差分画像の情報を埋め込むことを特徴とプログラム。
【請求項7】
画像データ処理装置としてのコンピュータを、
少なくとも4以上の色情報を有するオリジナルのマルチスペクトル画像をRGBの画素特徴量を有するRGB画像に変換して生成されたRGB画像データ又は当該RGB画像データを変換した画像データに、圧縮差分画像の情報が埋め込まれた重畳RGB画像データであって、前記圧縮差分画像の情報が、前記重畳RGB画像データを圧縮可能な圧縮手段の量子化ステップ値を超える範囲で画素値の変更を行うことで埋め込まれた重畳RGB画像データを取得する取得手段、
前記重畳RGB画像データから4以上の色情報を有するマルチスペクトル画像を推定して推定マルチスペクトル画像データを生成する生成手段、
前記重畳RGB画像データに埋め込まれた情報であって、前記推定されたマルチスペクトル画像と、前記オリジナルのマルチスペクトル画像と、の差分を示す圧縮差分画像の情報を当該重畳RGB画像データから抽出する抽出手段、
前記抽出された圧縮差分画像の情報と、前記推定マルチスペクトル画像データに基づき、前記オリジナルのマルチスペクトル画像を復元する復元手段、
として機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像データ処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リモートセンシングやディジタルアーカイブ、医療機器などの分野においては、画像の色再現性が非常に重要になるため、RGB画像よりも忠実な色再現が可能なマルチスペクトル画像(以下、「MSI」という。)の利用が進みつつある。
【0003】
このMSIは,RGB以外の色成分に対応する情報を有し、忠実な色再現が可能である一方で、現在普及しているRGB画像用のディスプレイやインターフェース(伝送路を含む)などは、MSIの画像データ(以下、「MSIデータ」という。)の表示及び伝送等に利用できないケースが多く、MSI普及の障害となっている。
【0004】
このMSIデータをRGB用のディスプレイ等において利用する方法の1つとして、MSIデータをRGB画像データに変換して、当該変換後のRGB画像データをRGB用ディスプレイ及びインターフェースを用いて、表示等する方法が考えられる。
【0005】
しかしながら、MSIデータをRGB画像データに変換した場合には、MSIデータに含まれるRGB以外の色成分に関する情報がほとんど失われてしまうため、MSIデータをRGB画像データに変換した時点で、MSI本来の色再現性が損なわれてしまう可能性が高くなっている。
【0006】
このため、最近では、例えば、Wiener推定法などの不良設定問題の解決手法を用いることによってRGB画像データからMSIデータを復元する方法が用いられている。
【0007】
しかしながら、Wiener推定法などの手法は、3つの色成分を有するRGB画像データからより多くの色成分を有するMSIデータを推定しつつ、MSIデータを復元するめ、復元精度には限界があり、推定したMSIデータにおいては、画質が劣化する可能性が高くなる。
【0008】
そこで、近年では、MSIデータを変換して得られるRGB画像データにMSIデータを復元する際に必要な情報(以下、「補完情報」という。)を付加し、当該付加された補完情報を用いてRGB画像データからMSIデータを復元する際の復元精度を向上させる方法も提案されている(例えば、非特許文献1)。
【0009】
この方法においては、MSIデータをRGB画像データに変換するとともに、当該RGB画像からWiener推定法によって推定されるMSIデータと、オリジナルのMSIデータと、の差分値に対応する補正情報を算出して、RGB画像データに付加する方法が採用されており、RGB画像データから、MSIデータを復元する際には、この補正情報を用いることによって、MSIの復元精度を向上させる構成が採用されている。
【0010】
また、この方法においては、符号化されたデータのデータ量を調節することで、RGB画像データと復元されるMSIデータの画質を調節することが可能となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kazuma Shinoda,Yuri Murakami,Masahiro Yamaguchi and Nagaaki Ohyama ”Lossless and lossy coding for multispectral image based on sRGB standard and residual components”、 Journal of Electronic Imaging20(2) 02003 023003−1, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の方法において生成される補正情報の付加されたRGB画像データは、通常のRGB形式の画像データではないため、従来の一般的なRGB用ディスプレイ及びインターフェース等をそのまま利用することができず、設計上の制約が発生してしまう。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、通常のRGB画像用のディスプレイ等を利用することが可能であって、かつ、MSIデータを高精度に復元可能な画像データを生成することが可能な画像データ処理装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するため、本発明の画像データ処理装置は、少なくとも4以上の色情報を有するオリジナルのマルチスペクトル画像をRGBの画素特徴量を有するRGB画像に変換してRGB画像データを生成する第1変換手段と、前記変換されたRGB画像の各画素の画素特徴量から前記マルチスペクトル画像を推定して推定マルチスペクトル画像データを生成する推定手段と、前記推定されたマルチスペクトル画像と、前記オリジナルのマルチスペクトル画像と、の間の差分画像を算出する算出手段と、前記算出された差分画像に対応する差分画像データを圧縮して圧縮差分画像を生成する第1圧縮手段と、前記圧縮差分画像の情報を前記生成されたRGB画像データ又は当該RGB画像データを変換した画像データに埋め込むことによって、前記マルチスペクトル画像を復号する際に用いる復号情報を有するRGB画像データを重畳RGB画像データとして生成する生成手段と、前記生成された重畳RGB画像データを所定の量子化ステップ値に基づいて圧縮することができる第2圧縮手段と、を備え、前記生成手段が、前記量子化ステップ値を超える範囲で画素値の変更を行うことで、前記圧縮差分画像の情報を埋め込む構成を有している。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、差分画像の情報を補完情報として含む重畳RGB画像データをRGB形式のデータとして生成できるので、重畳RGB画像データの表示等に一般的なディスプレイ等を利用することができ、かつ、差分画像の情報を用いてMSIデータを高精度に復元することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態における画像データ生成システムの構成を示すシステム構成図である。
図2】第1実施形態の画像データ生成システムにおいて重畳RGB画像データを生成する際の動作原理を説明する概念図である。
図3】第1実施形態の画像データ生成システムにおいてMSIデータを復元する際の動作原理を説明する概念図である。
図4】第1実施形態の画像データ処理装置の構成を示すブロック図である。
図5】第1実施形態の画像データ処理装置において実行される重畳RGB画像データの生成処理を示すフローチャートである。
図6】第1実施形態の画像データ処理装置において重畳RGB画像データからMSIデータを復元する際に実行される処理を示すフローチャートである。
図7】第2実施形態の画像データ生成システムにおいてCr信号にDWTを施した際に得られるサブバンドの構成を示す図である。
図8】第2実施形態の画像データ生成システムにおいて重畳RGB画像データを生成する際の動作原理を説明する概念図である。
図9】第2実施形態の画像データ生成システムにおいてMSIデータを復元する際の動作原理を説明する概念図である。
図10】第2実施形態の画像データ生成システム1においてCr信号のサブバンドに圧縮差分画像データを埋め込みつつ、重畳RGB画像データを生成した場合における画像の変化状態を示す図(その1)である。
図11】第2実施形態の画像データ生成システム1においてCr信号のサブバンドに圧縮差分画像データを埋め込みつつ、重畳RGB画像データを生成した場合における画像の変化状態を示す図(その2)である。
図12】第2実施形態の画像データ処理装置の構成を示すブロック図である。
図13】第2実施形態の画像データ処理装置において実行される重畳RGB画像データの生成処理を示すフローチャート(その1)である。
図14】第2実施形態の画像データ処理装置において実行される重畳RGB画像データの生成処理を示すフローチャート(その2)である。
図15】第2実施形態の画像データ処理装置において重畳RGB画像データからMSIデータを復元する際に実行される処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、被写体を撮像するカメラと、当該カメラから画像データを取得して、当該画像データに処理を施す画像データ処理装置と、を有する画像データ生成システムに対し、本発明に係る、画像データ処理装置及びプログラムを適用した場合の実施形態である。
【0018】
[1]第1実施形態
はじめに、図1図8を用いて本発明に係る画像データ生成システム1の第1実施形態について説明する。
【0019】
[1.1]画像データ処理システムの概要
まず、図1を用いて、本実施形態の画像データ生成システム1の概要について説明する。なお、図1は、本実施形態の画像データ生成システム1の全体構成を示すシステム構成図である。
【0020】
本実施形態の画像データ生成システム1は、図1に示すように、被写体Oに対して、所定の距離を持って設置される複数台のカメラ10と、各カメラ10によって供給される画像データに対して、画像処理を施す画像データ処理装置20Aと、を備え、少なくとも4以上の色成分に対応する色情報を有し、被写体Oを画像化してそのMSIデータを生成するためのシステムである。
【0021】
特に、本実施形態の画像データ生成システム1は、MSIデータを高精度に復元可能なデータを埋め込むことによって、通常のRGB画像用のディスプレイ等において利用することが可能なRGB形式の画像データ(すなわち、RGB画像データ)を形成し、かつ、当該RGB画像データからMSIデータを復元することが可能なRGB画像データ(以下、「重畳RGB画像データ」という。)を生成するシステムである。
【0022】
各カメラ10は、例えば、モノクロのデジタルカメラであり、光学システムと、該光学システムから入力された光学画像を電気信号に変換するCCDI(Charge Coupled Device Image Sensor)と、CCDIにおいて生成された電気信号に基づいて画像データを生成する生成部と、を有している。
【0023】
各カメラ10には、各々、異なる波長の光を透過するカラーフィルタFが設けられている。また、各カメラ10は、このカラーフィルタFを介して、被写体Oを撮像することによって、自機に設けられたカラーフィルタFを透過した光に対応する画像を撮像し、当該撮像した画像に対応する画像データを画像データ処理装置20Aに供給する。
【0024】
すなわち、各カメラ10は、光学システムのレンズの全面に設けられたカラーフィルタFを透過した光をCCDIセンサによって受光することによって、被写体Oを撮像し、カラーフィルタFに対応する色成分の画像データを生成する。
【0025】
例えば、本実施形態においては、図1に示すように、「赤外光」と、「赤」と、「黄色」と、「緑」と、「青」と、「紫」と、の6つの色成分に対応する色情報(例えば、階調値)を有するMSIデータを生成するため、各カメラ10−1〜10−6は、それぞれ、各色成分に対応する波長の光のみを透過するカラーフィルタF1〜F6を有している。
【0026】
なお、本実施形態においては、6つの色成分の場合について説明するが、これだけに限らず、4以上の色成分の場合であれば、MSIを構成する色成分数のカメラ10を用意すれば、本実施形態は成立する。
【0027】
画像データ処理装置20Aは、例えば、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置であり、各カメラ10によって各々異なる色にて同一の被写体Oが撮像された画像化された画像データを各カメラ10から取得し、当該各カメラ10から供給される画像データを合成する。
【0028】
具体的には、画像データ処理装置20Aは、
(1)カメラ10から供給される各色成分に対応する画像データを合成することによって、MSIデータを生成するMSIデータ生成機能と、
(2)上記手法により、当該MSIデータから重畳RGB画像データRGBwを生成する重畳RGB画像データ生成機能と、
(3)上記手法によって重畳RGB画像データRGBwからMSIデータを復元するMSIデータ復元機能と、
を有している。
【0029】
[1.2]重畳RGB画像データの生成原理
次に、本実施形態における重畳RGB画像データ生成原理について説明する。
【0030】
通常、MSIデータは、R(赤)、G(緑)、B(青)の三原色に追加して、三原色以外の色成分(色特徴量)を有するものであるため、ディスプレイやVGA(ビデオ・グラフィックス・アレイ)などの一般的なRGB対応機器やインターフェースを利用して画像を再生することができない。
【0031】
そして、MSIデータに、RGB画像の変換手順を適用するだけでは、MSIデータに含まれるRGB以外の色情報が失われてしまうため、単にRGB画像の情報だけでは、オリジナルのMSIデータを復元することが難しい。
【0032】
一方、オリジナルのMSIを復元するために、変換したRGB画像データに補完情報をRGB画像データに、電子透かし技術を適用して、埋め込むことも可能であるが、RGB画像データは伝送過程や表示過程において情報量の関係で高い頻度で圧縮される可能性があるため、当該補完情報の成分が圧縮処理により削除されない、もしくは、圧縮処理による欠損が生じない周波数領域やビットに埋め込む必要がある。
【0033】
例えば、補完情報が埋め込まれたRGB画像データ(以下、「重畳RGB画像データ」という。)が、JPEG(Joint Photographic Experts Group)2000方式などの所定の圧縮方式によって画像圧縮(符号化)された場合には、量子化の過程において、重畳RGB画像データの高周波成分が量子化されてしまう。
【0034】
このため、例えば、重畳RGB画像データの最下位ビットに補完情報を埋め込んだとしても、重畳RGB画像データを圧縮する際に、所定の量子化ステップ以下の周波数帯域に埋め込まれた補完情報に関しては、高周波数成分として量子化されてしまい、MSIデータの復元に利用することができなくなる可能性が高い。なお、この最下位ビットに補完情報を埋め込む手法(以下、「最下位ビットの埋め込み手法」という。)については、後述の実験結果に比較例として示す。
【0035】
そこで、本実施形態の画像データ生成システム1は、オリジナルMSIを復元するために必要な補完情報を電子透かしとしてRGB画像データに埋め込まれた、通常のRGB画像として機能を有する重畳RGB画像データを生成するとともに、当該補完情報を、量子化の影響を受けない領域に埋め込む構成を有している。
【0036】
具体的には、本実施形態の画像データ生成システム1は、重畳RGB画像データの圧縮を行う際の量子化ステップをαとした場合に、当該量子化ステップαよりも大きな値となる領域(すなわち、±(α+1)以上となる領域)に補完情報として圧縮差分画像データecを埋め込む構成を有している。
【0037】
例えば、重畳RGB画像データをJPEG2000方式で圧縮する場合には、重畳RGB画像データに離散ウェーブレット変換(以下、「DWT」という。)を施して、当該DWTによって得られるウェーブレット変換係数を量子化する場合には、スカラー量子化、ポスト量子化のいずれの場合においても帯域ごとに最大となる量子化ステップαを定められるため、α+1以上の領域に圧縮差分画像データecが埋め込まれることとなる。この結果、重畳RGB画像データを圧縮した場合においても、量子化の過程において、圧縮差分画像データecが量子化されることを防止することが可能となる。
【0038】
そして、本実施形態の画像データ生成システム1は、このような構成を有することによって、重畳RGB画像データを通常のRGB画像データとして利用可能であって、たとえ伝送過程や表示過程において画像圧縮されたとしても、オリジナルMSIデータを復元する際の色再現性を向上させることができるようになっている。
【0039】
また、量子化ステップαを大きく設定した場合には、圧縮耐性を強化できるものの、それに伴い、重畳RGB画像の画質劣化が大きくなるというトレードオフの関係となる。
【0040】
例えば、重畳RGB画像データにおいて高ビットプレーンに補完情報を埋め込む場合には、圧縮耐性を強化できる一方で、画質に影響を与えることになる。
【0041】
そこで、本実施形態の画像データ生成システム1は、重畳RGB画像の画質に与える影響を小さくすることが可能な範囲内で重畳RGB画像データに補完情報を埋め込む構成を有している。
【0042】
具体的には、本実施形態の画像データ生成システム1は、例えば各階調値が24ビットで規定される重畳RGB画像においては、JPEG2000などの圧縮方式によって1/10のデータ量に圧縮されることを想定すると、量子化ステップとして下位2ビットが量子化される可能性が高いため、画素値に4程度の変動を与えることで補完情報を埋め込む、もしくは、下位3ビット目に電子透かしとして補完情報を埋め込むようになっている。
【0043】
[1.3]画像データ生成システムの概要動作
次に、図2及び図3を用いて、本実施形態の画像データ生成システム1において、RGB画像データに補完情報を埋め込み、重畳RGB画像データRGBwを生成する際の概要動作及び重畳RGB画像データRGBwからMSIデータを復元する際の概要動作について説明する。
【0044】
なお、図2は、本実施形態の画像データ生成システム1において重畳RGB画像データRGBwを生成する際の動作概要を説明する概念図であり、図3は、本実施形態の画像データ生成システム1においてMSIデータを復元する際の動作概要を説明する概念図である。
【0045】
(重畳RGB画像データの生成)
まず、画像データ処理装置20Aは、図2に示すように、各カメラ10から供給される画像データを合成しつつ、オリジナルのMSIデータを生成し(図2[1])、当該MSIデータをsRGB(スタンダードRGB)色空間のRGB画像に変換することにより、RGB画像データを生成する(図2[2])。
【0046】
このとき、画像データ処理装置20Aは、生成したRGBデータに含まれる各画素に対応する画素値において、例えば、上記量子化ステップα以下の係数値や,αによって影響を受けるビットプレーンを「0」に置換することによって、切り出しRGB画像データRGB’を生成する(図2[3])。
【0047】
そして、画像データ処理装置20Aは、切り出しRGB画像データRGB’に対して、Wiener推定法を適用することによって、RGB画像の各画素の画素値からMSIを推定し、当該推定したMSIに対応する推定MSIデータMSI’を生成する(図2[4])。
【0048】
また、画像データ処理装置20Aは、生成した推定MSIデータMSI’と、オリジナルのMSIデータと、に含まれる各画素の画素値の差分値を算出することによって差分画像データeを生成する(図2[5])。なお、この差分値は、RGB画像データに埋め込む補完情報の基礎となる情報である。
【0049】
一方、画像データ処理装置20Aは、算出した差分画像データを所定の圧縮手法(例えば、JPEG2000方式)で圧縮(すなわち、符号化)して、圧縮差分画像データecを生成する(図2[6])。
【0050】
なお、差分画像データを圧縮する方式については任意であり、JPEG、JPEG−XT、JPEG−XR、WebP等の方法を採用することも可能である。
【0051】
すなわち、差分画像データeのデータ量は、オリジナルのMSIデータに含まれる色数によって大きく変動し、MSIが多く色成分を有する場合には、差分画像データeのデータ量が、非常に大きくなってしまうため、画像データ処理装置20Aは、算出した差分画像データを圧縮する構成を有している。
【0052】
そして、画像データ処理装置20Aは、生成した圧縮差分画像データecを、生成した切り出しRGB画像データRGB’において量子化の影響を受けない領域に補完情報として埋め込み、重畳RGB画像データRGBwを生成する(図2[6])。
【0053】
(重畳RGB画像データからのMSIデータの復元)
一方、本実施形態においては、図3に示すように、画像データ処理装置20Aは、上述のように生成された重畳RGB画像データRGBwから圧縮差分画像データecを抽出する(図3[1])。
【0054】
そして、画像データ処理装置20Aは、重畳RGB画像データRGBwにおいて、圧縮差分画像データecの埋め込まれていた領域を「0」に置換しつつ、切り出しRGB画像データRGB’を生成し(図3[2])、当該生成した切り出しRGB画像データRGB’にWiener推定法を適用して推定MSIデータMSI’を生成する(図3[3])。
【0055】
次いで、画像データ処理装置20Aは、重畳RGB画像データRGBwから抽出した圧縮差分画像データecをJPEG2000方式にて伸張(すなわち、復号)して、差分画像データeを生成し(図3[4])、差分画像データeと、推定MSIデータと、に含まれる各画素の画素値を加算することによって、MSIデータ(以下、「復元MSIデータ」という。)を復元する(図3[5])。
【0056】
この結果、本実施形態の画像データ生成システム1は、重畳RGB画像データRGBwをJPEG2000等の方式によって圧縮した場合であっても、圧縮差分画像データecが欠損することを防止しつつ、当該圧縮差分画像データecを用いて、高精度にオリジナルのMSIデータを復元することができるようになっている。
【0057】
[1.4]画像データ処理装置の構成
次に、図4を用いて本実施形態の画像データ処理装置20Aの構成について説明する。なお、図4は、本実施形態の画像データ処理装置20Aの構成を示すブロック図である。
【0058】
本実施形態の画像データ処理装置20Aは、図4に示すように、各種の情報に対応するデータが記録される記録部200と、上記各機能を実現するための処理を実行するデータ処理部260と、キーボード、マウス、タッチパネル等により構成される操作部270と、装置管理制御部280と、を有し、上記の各部は、バスBによって相互に接続されている。
【0059】
記録部200は、例えば、HDD(ハードディスクドライブ)又はSSD(ソリッドステートドライブ)により構成され、その記録領域内に、少なくとも、アプリケーション記録部201と、生成されたMSIデータ及び重畳RGB画像データRGBwを記録するための画像データ記録部202と、各カメラ10を管理するための情報が記録されるカメラ管理情報記録部203と、ワークエリア及び画像バッファとして機能するRAM204と、が設けられている。
【0060】
アプリケーション記録部201には、(1)各カメラ10によって生成された画像データに基づき、MSIデータを生成するための処理と、(2)上記手法によってMSIデータから重畳RGB画像データRGBwを生成する処理と、(3)重畳RGB画像データに基づき、MSIデータを復元する処理と、を実現するためのアプリケーションが記録される。
【0061】
カメラ管理情報記録部203には、各カメラ10を管理するための情報として、カメラ管理テーブルTBLが記録される。
【0062】
このカメラ管理テーブルTBLには、例えば、各カメラ10を識別するためのカメラIDと、当該カメラ10によって撮像される画像の色成分を示す色成分情報と、が対応付けて格納される。
【0063】
例えば、図1に示すように6台のカメラ10を利用する場合には、カメラ10−1〜10−6の各々を識別するためのカメラIDと対応付けて、当該カメラ10によって撮像される画像に対応する色成分情報として、「赤外」、「赤」、「黄」、「緑」、「青」、「紫」の各色成分を示す色成分情報が記録されることになる。
【0064】
なお、カメラ管理テーブルTBLに格納されるデータは、画像データ生成システム1によって生成するMSIデータの色成分数に応じて変化し、画像データ生成システム1を構成するカメラの台数分のデータが格納されることとなる。
【0065】
I/Oインターフェース部210は、例えば、USB(Uuniversal Serial bus)、無線LAN(IEEE802.11a、b、n、ac)、HDMI(High Definition Multimedia Interface:登録商標)等の入出力用インターフェースであり、各カメラ10と有線又は無線にて通信接続され、各カメラ10とバスBとの間におけるデータの授受を中継する。
【0066】
なお、I/Oインターフェース部210には、VGA規格に従ってデータの授受を行うインターフェースを介して、RGB用のディスプレイを接続するようにしてもよい。
【0067】
データ処理部260は、独立した中央演算処理装置(CPU)によって構成され、又は、装置管理制御部280の中央演算処理装置(CPU)を用いて構成される。
【0068】
そして、データ処理部260は、装置管理制御部280による制御の下、アプリケーション記録部201に記録されたアプリケーションを実行することにより、上記手法にて、MSIデータから重畳RGB画像データRGBwを生成するとともに、重畳RGB画像データRGBwからMSIデータを復元するための処理を実行する。
【0069】
具体的には、データ処理部260は、MSIデータを生成するMSIデータ生成部261と、MSIデータをRGB画像データに変換するRGB画像データ生成部262と、RGB画像からMSIを推定するMSI推定部263と、差分画像データeを生成する差分画像データ生成部264と、画像データ圧縮・伸張部265と、埋め込み処理部266と、圧縮画像データ抽出部267と、MSI復元部268と、を実現する。
【0070】
なお、例えば、RGB画像データ生成部262、MSI推定部263、差分画像データ生成部264、画像データ圧縮・伸張部265及び埋め込み処理部266は、各々、本発明の「第1変換手段」、「推定手段」、「算出手段」及び「生成手段」を構成し、圧縮画像データ抽出部267及びMSI復元部268は、各々、本発明の「抽出手段」及び「復元手段」を構成する。
【0071】
MSIデータ生成部261は、I/Oインターフェース部210を介して、カメラ10から供給される各色成分に対応する画像データを合成することにより、オリジナルのMSIデータを生成して、差分画像データ生成部264に供給する。
【0072】
このとき、MSIデータ生成部261は、カメラ管理テーブルTBLに格納されたデータに基づいて、各カメラ10から供給される画像データに対応する色成分を特定しつつ、カメラ10から供給される画像データを合成して、MSIデータを生成する。
【0073】
なお、MSIデータ生成部261においてMSIデータを生成する際の処理は、任意であり、例えば、各色成分に対応する画像データを重ね合わせることによって、MSIデータを生成するようにしてもよい。
【0074】
RGB画像データ生成部262は、MSIデータを例えば、sRGB(スタンダードRGB)色空間のRGB画像に変換することにより、RGB画像データを生成する。
【0075】
例えば、RGB画像データ生成部262は、Wiener推定法によりMSIデータから推定した分光反射率に、人間の目に対応する分光感度である等色関数と,標準のD65光源における再現照明光を掛け合わせることで,XYZ三刺激値を求め、さらに、そのXYZ三刺激値からRGB値を算出する。
【0076】
なお、分光反射率の算出方法、XYZ三刺激値からRGB値を算出する方法については、従来と同様であるため、詳細を省略する。
【0077】
また、本実施形態においては、説明を具体化するため、RGB画像データ生成部262が、上記構成を有するものとして説明を行うが、RGB画像データ生成部262は、MSIデータの任意の3チャネルの色情報を、それぞれ、R、G、Bに対応する色チャネルに割り当てることによって、RGB画像データを生成することも可能である。
【0078】
さらに、RGB画像データ生成部262が生成する画像データの形式は任意であり、RGB形式以外の形式で3つの色チャネルを有する画像データを生成するようにしてもよい。
【0079】
MSI推定部263は、Wiener推定法を用いることによって、RGB画像データからMSIを推定し、当該推定されたMSIに対応する推定MSIデータMSI’を生成する。
【0080】
特に、MSI推定部263は、このMSIの推定に際して、RGB画像データに含まれるRGB画像の各画素に対応する画素値に基づいて、MSIを推定するようになっている。
【0081】
具体的には、MSI推定部263は、重畳RGB画像データRGBwの生成に際しては、RGB画像データ生成部262から供給されるオリジナルのMSIデータを変換したRGB画像データに含まれる各画素に対応する画素値に基づき、MSIを推定するとともに、当該推定されたMSIに対応する推定MSIデータMSI’を生成する。
【0082】
また、MSI推定部263は、重畳RGB画像データからMSIデータを復元する際には、重畳RGB画像データRGBwから圧縮差分画像データecを抽出して得られる切り出しRGB画像データRGB’に含まれる各画素に対応する画素値、例えば,下位nビットまでを圧縮差分画像データの埋め込みに使用した場合には、下位nビットが0に置換されている画素値に基づきMSIを推定して、対応する推定MSIデータMSI’を生成する。
【0083】
差分画像データ生成部264は、MSI推定部263によって生成される推定MSIデータMSI’と、オリジナルのMSIデータと、の差分値を算出することによって、上記差分画像データeを生成する。
【0084】
特に、差分画像データ生成部264は、オリジナルのMSIデータに含まれる各画素に対応する画素値と、推定MSIデータMSI’に含まれる各画素に対応する画素値と、の差を取って、画素毎に画素値の差分値を算出しつつ、各画素の画素値の差分値からなる差分画像データeを生成する。
【0085】
画像データ圧縮・伸張部265は、JPEG2000方式のコーデックを搭載しており、供給される画像データをJPEG2000方式で符号化(圧縮)及び復号(伸張)する。
【0086】
特に、画像データ圧縮・伸張部265は、重畳RGB画像データRGBwを生成する際には、差分画像データ生成部264から供給される差分画像データeをJPEG2000などの方式で符号化して圧縮差分画像データecを生成する。
【0087】
また、画像データ圧縮・伸張部265は、重畳RGB画像データRGBwからMSIデータを復元する際には、後述する圧縮画像データ抽出部267によって抽出される圧縮差分画像データecを復号して、差分画像データeを生成する。
【0088】
さらに、画像データ圧縮・伸張部265は、上記重畳RGB画像データRGBwの符号化及び復号を行う機能を有している。
【0089】
埋め込み処理部266は、RGB画像データ生成部262によって生成されたRGB画像データに対して、圧縮差分画像データecを埋め込むための処理を実行する。
【0090】
特に、埋め込み処理部266は、RGB画像データに含まれる画素値において、上記量子化ステップα以下のビットプレーンを「0」に置換して、切り出しRGB画像データRGB’を生成するとともに、量子化ステップαよりも値の大きい領域(例えばαのmost significant bitより一つ上位のビットプレーン)に圧縮差分画像データecを埋め込んで、重畳RGB画像データRGBwを生成する。
【0091】
圧縮画像データ抽出部267は、重畳RGB画像データRGBwから圧縮差分画像データecを抽出し、画像データ圧縮・伸張部265に供給する。
【0092】
MSI復元部268は、
(1)MSI推定部263によって生成された推定MSIデータMSI’と、
(2)圧縮画像データ抽出部267によって抽出された圧縮差分画像データecを画像データ圧縮・伸張部265により伸張して得られる差分画像データeと、
を加算することによって、MSIデータを復元する。
【0093】
[1.5]画像データ生成システムにおける動作
[1.5.1]重畳RGB画像データの生成処理
次に、図5を参照しつつ、本実施形態の画像データ生成システム1において重畳RGB画像データRGBwを生成する生成処理の動作について説明する。なお、図5は、本実施形態の画像データ処理装置20Aにおいて実行される重畳RGB画像データRGBwの生成処理を示すフローチャートである。
【0094】
まず、MSIデータ生成部261は、I/Oインターフェース部210を介して、カメラ10から供給される画像データを合成して、被写体Oに関するオリジナルのMSIデータを生成する(ステップSa100)。
【0095】
次いで、RGB画像データ生成部262は、当該生成されたMSIデータをsRGB色空間のRGB画像に変換することにより、RGB画像データを生成する(ステップSa101)。
【0096】
次いで、埋め込み処理部266は、生成されたRGB画像データの画素値において、上記量子化ステップα以下の周波数領域のビットプレーンを「0」に置換して、切り出しRGB画像データRGB’を生成する(ステップSa102)。
【0097】
そして、MSI推定部263は、切り出しRGB画像データRGB’に対してWiener推定法を適用することによって、切り出しRGB画像データRGB’からMSIを推定し、推定MSIデータMSI’を生成する(ステップSa103)。
【0098】
次いで、差分画像データ生成部264は、MSIデータ生成部261から供給されるオリジナルのMSIデータと、MSI推定部263から供給される推定MSIデータMSI’と、の差分値を算出することによって、差分画像データeを生成する(ステップSa104)。
【0099】
次いで、画像データ圧縮・伸張部265は、当該生成された差分画像データeをJPEG2000方式で符号化することによって、圧縮差分画像データecを生成する(ステップSa105)。
【0100】
次いで、埋め込み処理部266は、切り出しRGB画像データRGB’に含まれる画素値において、量子化ステップαよりも値の大きい領域に当該生成された圧縮差分画像データecを埋め込むことによって重畳RGB画像データRGBwを生成する(ステップSa106)。
【0101】
次いで、画像データ圧縮・伸張部265は、当該生成された重畳RGB画像データRGBwをJPEG2000方式で圧縮して(ステップSa107)、処理を終了する。
【0102】
[1.5.2]MSIデータの復元処理
次に、図6を用いて、本実施形態の画像データ生成システム1おいて、重畳RGB画像データRGBwからMSIデータを復元する際の動作について説明する。なお、図6は、本実施形態の画像データ処理装置20Aにおいて実行される重畳RGB画像データRGBwからMSIデータを復元する処理を示すフローチャートである。
【0103】
まず、画像データ圧縮・伸張部265は、重畳RGB画像データRGBwを復号する(ステップSb100)。
【0104】
次いで、圧縮画像データ抽出部267は、重畳RGB画像データRGBwから圧縮差分画像データecを抽出し、当該ビットプレーンを「0」に置換することによって切り出しRGB画像データRGB’に変換する(ステップSb101)。
【0105】
次いで、画像データ圧縮・伸張部265は、圧縮差分画像データecをJPEG2000方式で復号して、差分画像データeに変換する(ステップSb102)。
【0106】
次いで、MSI推定部263は、切り出しRGB画像データRGB’に対して、Wiener推定法を適用することによって、MSIを推定し、当該推定したMSIに対応する推定MSIデータMSI’を生成する(ステップSb103)。
【0107】
次いで、MSI復元部268は、得られた推定MSIデータ MSI’に差分画像データeを加算することにより、MSIデータを復元して(ステップSb104)、処理を終了する。
【0108】
以上説明したように、本実施形態の画像データ生成システム1においては、オリジナルのMSIデータをRGBデータに変換して、当該RGB画像データに含まれる各画素に対応する画素値において、量子化の影響を受けないビットプレーンを圧縮差分画像データecに置換することによって重畳RGB画像データRGBwを生成することができる。
【0109】
したがって、本実施形態の画像データ生成システム1は、一般的なRGB用ディスプレイ等を利用しつつ、MSIデータに対応する画像を表示させることができるとともに、重畳RGB画像データRGBwを伝送する際には、VGA等のRGB用のインターフェースを利用することができるので、MSIの普及を促進することができる。
【0110】
また、オリジナルのMSIデータに赤外領域等の不可視項領域の画像が含まれる場合においても、当該赤外領域の画像を差分画像データとして抽出できるので、本実施形態の手法によれば、赤外領域の画像を高画質に復元することができる。
【0111】
なお、圧縮差分画像データecは、重畳RGB画像データRGBwのデータ圧縮時に量子化の過程で量子化されない領域に埋め込まれるため、重畳RGB画像データRGBwをJPEG2000等の方式によって圧縮した場合であっても、圧縮差分画像データecが量子化されることを防止しつつ、当該圧縮差分画像データecを用いて、高精度にオリジナルのMSIデータを復元することができる。
【0112】
[2]第2実施形態
次に、図7図15を用いて本発明に係る画像データ生成システム1の第2実施形態について説明する。
【0113】
[2.1]画像データ生成システムの特徴
まず、図7を用いて本実施形態の画像データ生成システムの特徴について説明する。なお、図7は、色差信号であるCr信号に離散ウェーブレット変換(DWT)を施した際に得られるサブバンド構成を示す図である。
【0114】
本実施形態においては、MSIデータを変換して得られるRGB画像を更にYCbCr形式の色差画像に変換し、当該色差画像のCr信号に圧縮差分画像データecを埋め込む点に特徴がある。
【0115】
ここで、本実施形態において、Cr信号に圧縮差分画像データecを埋め込む手法を採用することとしたのは、色差画像データの輝度信号であるY信号を圧縮差分画像データecの埋め込みに利用した場合には、画像の輝度に影響が生じるため、逆色変換した際に、RGBのすべての信号に圧縮差分画像データecの埋め込みによる値の変化の影響を与えることになるのに対して、色差信号であれば、画質の劣化を小さくすることができるからである。
【0116】
なお、本実施形態においては、説明を具体化するため、色差画像データのCr信号に圧縮差分画像データecを埋め込む場合を例に説明を行うが、Cb信号に圧縮差分画像データを埋め込む構成としてもよく、この場合であっても、画質劣化を抑えつつ、圧縮差分画像データecを埋め込み、画質の劣化を抑えつつ、当該圧縮差分画像データecを用いて、MSIデータを高精度に復元することが可能である。
【0117】
また、この場合においては、以下に説明する、Cr信号に圧縮差分画像データを埋め込む場合と、同様の原理、構成及び処理を実行することによって、本実施形態と同様の効果を実現することが可能であり、圧縮差分画像データecの埋め込み対象がCr信号からCb信号に変化する点のみが、以下の実施形態と異なってくる。
【0118】
具体的には、本実施形態においては、色差信号であるCr信号に離散ウェーブレット変換(DWT)を施すとともに、当該Cr信号の中間周波数サブバンドであるLH2、HL2、HH2に補完情報、すなわち、圧縮差分画像データecを埋め込むようになっている。
【0119】
通常、DWT後のCr信号における低周波数サブバンドであるLL1やLL2に圧縮差分画像データecを埋め込むと,圧縮耐性は強くなるが、画質は大きく劣化すること分かっている。
【0120】
その一方、Cr信号の高周波数サブバンドであるLH1、HL1、HH1に圧縮差分画像データecを埋め込むと、画質の劣化を抑えることはできるが、高周波数成分は、重畳RGB画像データを圧縮する際に量子化過程において量子化される可能性があるので、圧縮耐性が弱くなる。
【0121】
そこで、本実施形態においては、圧縮耐性を持たせつつ、画質劣化を小さくするために、当該Cr信号の中間周波数サブバンドであるLH2、HL2及びHH2に、補完情報、すなわち、圧縮差分画像データecを埋め込むようになっている。
【0122】
なお、いずれの周波数帯域であっても、その帯域におけるスカラー量子化又はポスト量子化による量子化ステップαを規定できるため、量子化ステップαの影響を受けないビットプレーン等に情報を埋め込むことで、後述する重畳RGB画像データgwを圧縮した場合であっても、圧縮差分画像データecが欠損することはなく、MSIデータの復元に当該圧縮差分画像データecを用いることが可能となる。
【0123】
すなわち、本実施形態においては、Cr信号においてRGB画像を圧縮する際の量子化ステップαの影響を受けない領域に補完情報、すなわち、圧縮差分画像データecを埋め込むようになっている。
【0124】
なお、本実施形態におけるその他の構成は、第1実施形態と同様であり、同一の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0125】
具体的には、本実施形態は、基本的に上記図1と同様の構成によって、実現されるものであるが、重畳RGB画像データの生成手法及びMSIデータの復元処理が、上記第1実施形態と異なっており、これに伴って、画像データ処理装置の構成及び動作が、第1実施形態と異なる。そこで、本実施形態は、第1実施形態と異なる点を中心にその説明を行う。
【0126】
[2.2]画像データ生成システムの基本原理
次に、図8及び図9を用いて、本実施形態の画像データ生成システムにおける概要動作及び原理について説明する。
【0127】
なお、図8は、本実施形態における画像データ生成システムの重畳RGB画像データgwの生成処理における動作原理を説明する概念図であり、図9は、本実施形態における画像データ生成システムにおいて重畳RGB画像データgwからMSIデータを復元する復元処理における動作原理を説明する概念図である。
【0128】
(重畳RGB画像データの生成処理)
本実施形態の画像データ処理装置20は、図8に示すように、オリジナルのMSIデータfをRGB画像データgに変換し(図8の[1])、当該RGB画像データの各画素に対応する画素値に基づき、YCbCr形式の色差画像データを生成する(図8の[2])。
【0129】
そして、画像データ処理装置20Bは、RGB画像データから変換した色差画像データのCr信号に対して、DWT(離散ウェーブレット変換)を施して、Cr信号を、上述のように、複数の周波数サブバンドの周波数帯域毎に分割する(図8の[3])。
【0130】
このとき、画像データ処理装置20Bは、Cr信号のLH2、HL2及びHH2の変換係数を「0」に置換するとともに(図8[4])、逆離散ウェーブレット変換(IDWT)を施して、切りだしCr信号Cr’を生成する(図8[5])。
【0131】
一方、画像データ処理装置20Bは、切りだしCr信号Cr’をY信号とCb信号とともに逆色変換を行い、RGB画像データg’を得る(図8[6])。
【0132】
そして、画像データ処理装置20Bは、RGB画像データg’に対してWiener推定法を用いて、MSIを推定し、推定MSIデータf’を生成する(図8の[7])。
【0133】
特に、画像データ処理装置20Bは、推定MSIデータf’を生成するにあたり、ガンマ補正前のRGB画素値に戻すため、本実施形態においては、RGB画像データg’に逆ガンマ補正を行う。なお、逆ガンマ補正の処理については、従来と同様であるため詳細を省略する。
【0134】
また、画像データ処理装置20Bは、オリジナルのMSIデータfと、推定MSIデータf’と、の各画素の画素値の差分値を算出して差分画像データeを生成する(図8の[8])。
【0135】
さらに、画像データ処理装置20Bは、差分画像データeをJPEG2000方式で圧縮することによって、圧縮差分画像データecを生成し(図8の[9])、Cr信号のサブバンドLH2、HL2及びHH2に対応する変換係数に対し、圧縮差分画像データecの画素値に置換することによって、Cr信号に圧縮差分画像データecを埋め込む(図8の[10])。
【0136】
他方、画像データ処理装置20Bは、このCr信号にIDWTを施して、埋め込みCr信号Crwを生成し(図8の[11])、この埋め込みCr信号Crwと、輝度信号Yと、色差信号Cbと、からなる色差画像をRGB画像に変換して、重畳RGB画像データgwを生成する(図8の[12])。
【0137】
このような処理を実行することよって、本実施形態の画像データ処理装置20Bは、重畳RGB画像データgwを圧縮する際に圧縮差分画像データecが欠損することを防止して、重畳RGB画像データgwの圧縮耐性を向上させつつ、圧縮差分画像データecの埋め込みによる重畳RGB画像の画質劣化を抑えることが可能な重畳RGB画像データgwを生成することができる。
【0138】
そして、本実施形態の画像データ処理装置20Bは、このように生成した重畳RGB画像データgwに対して、JPEG2000方式などの画像圧縮を実行する。
【0139】
(MSIの復元処理)
本実施形態の画像データ処理装置20Bは、JPEG2000方式などによって伸張された重畳RGB画像データgwを取得すると、当該取得した重畳RGB画像データgwを色差画像に変換し、輝度信号Yと、色差信号Cbと、差分画像データが埋め込まれた埋め込みCr信号Crwと、を生成する(図9の[1])。
【0140】
そして、画像データ処理装置20Bは、埋め込みCr信号Crwに対して、DWTを施し(図9の[2])、埋め込みCr信号CrwのサブバンドLH2、HL2及びHH2から圧縮差分画像データecを抽出する(図9の[3])。
【0141】
一方、画像データ処理装置20Bは、圧縮差分画像データecを抜き出したサブバンドLH2、HL2及びHH2の変換係数を「0」に置換した後(図9の[4])、IDWTを施すことによって(図9の[5])、切りだしCr信号Cr’を生成する。
【0142】
そして、画像データ処理装置20Bは、切りだしCr信号Cr’と、輝度信号Yと、色差信号Cbと、からなる色差画像をRGB画像に変換してRGB画像データg’を生成し(図9の[6])、当該RGB画像データg’にWiener推定法を適用しつつ、推定MSIデータf’を生成する(図9の[7])。
【0143】
他方、画像データ処理装置20Bは、埋め込みCr信号Crwから抽出された、圧縮差分画像データecについては、JPEG2000方式で復号することによって、差分画像データeに変換し(図9の[8])、当該差分画像データeと、推定MSIデータf’と、の各画素に対応する画素値を加算して、復元MSIデータfRを復元する(図9の[9])。
【0144】
このような処理を実行することよって、本実施形態の画像データ処理装置20Bは、重畳RGB画像データgwを圧縮する際に圧縮差分画像データecが欠損することを防止して、重畳RGB画像データgwから高精度にMSIデータfRを復元することができるようになっている。
【0145】
[2.2]実験結果
次に、図10及び図11を用いて、本実施形態の画像データ生成システム1における実験結果について説明する。なお、図10及び図11は、本実施形態の画像データ生成システム1において、Cr信号のサブバンドLH2、HL2及びHH2に圧縮差分画像データecを埋め込みつつ、重畳RGB画像データgwを生成した場合における画像の変化状態を示す図である。
【0146】
本実験結果においては、
(A)特定の被写体O(やかん)を撮像して得られたMSIデータからRGB画像データを生成し、
(B)当該生成したRGB画像データを変換した色差画像データのCr信号におけるサブバンドLH2、HL2及びHH2に、圧縮差分画像データを埋め込み、
(C)重畳RGB画像データを生成した。
【0147】
そして、当該生成した重畳RGB画像データgwを他の手法及びWinner推定によって得られた復元MSI画像と比較した結果を表1に示す。
【0148】
具体的には、表1には、
(1)被写体Oを撮像して得られたオリジナルMSIデータを変換したRGB画像データからWiener推定法によって、MSIデータを推定した場合のPSNR(表1の2列目)、
(2)被写体Oを撮像して得られたオリジナルのRGB画像の最下位ビットに圧縮差分画像データを埋め込んだ場合(上述の最下位ビットの埋め込み手法)における重畳RGB画像データから復元されるMSIデータのPSNR(表1の3列目)、
(3)被写体Oを撮像して得られたオリジナルのRGB画像の最下位ビットに圧縮差分画像データを埋め込んだ場合の重畳RGB画像データに対応するPSNR(表1の4列目)、
(4)本実施形態の方法を採用した場合における重畳RGB画像データのPSNR(表1の5列目)、及び、
(5)本実施形態の手法で生成された重畳RGB画像データから復元されるMSIデータのPSNR(表1の5列目)、
を示す。
【0149】
なお、表1において、「bpp」は、RGBの画素値のビットレートを示しており、「24bpp」で画像が圧縮されていない状態、「2.4bpp」で、10倍に圧縮されている状態を示している。
【0150】
【表1】
【0151】
表1に示すように、上記の(1)のWiener推定法によって推定されるMSIのPSNRは、約32.5dB(デシベル)〜34dB程度に留まっている。
【0152】
これに対して、上記の(2)及び(3)における重畳RGB画像及び当該重畳RGB画像から推定される復元MSIについては、未圧縮である「24bpp」の場合は、非常に高いPSNRが確保されているものの、この場合における復元MSIデータに対応するPSNRは、表1のWiener推定法におけるPSNRとほぼ同じ値になった。
【0153】
これは、所定の手法によって検討した結果、重畳RGB画像を圧縮した場合には圧縮差分画像データが変化したと考えられ、重畳RGB画像データRGBwを圧縮した際に圧縮差分画像データecが変化してしまい、上述のように圧縮差分画像データecを利用することができないことが原因であり、推定誤差を無視してWiener推定法によりRGB画像からMSIを推定した結果と考えられた。なお、これらのPSNRは、Wiener推定法におけるPSNRとほぼ同じ値になるため、表1においては、横線「−」で表記している。
【0154】
一方、本実施形態の手法により生成される重畳RGB画像データのPSNRについては、表1に示すようにいずれのビットレートにおいても39dB程度のPSNRが確保できていることが分かった。
【0155】
また、本実施形態の手法を採用して生成される重畳RGB画像データでは、10倍の圧縮を行った「2.4bpp」の場合であっても、当該重畳RGB画像データから復元されるMSIデータのPSNRは、34dB程度確保できており、いずれのビットレートにおいてもWiener推定法によってRGB画像から推定されるMSIデータよりも2〜5dB程度PSNRが向上していることが分かった。
【0156】
一方、本実施形態の手法によって生成した重畳RGB画像データの画質の評価結果を図10及び11に示す。
【0157】
なお、図10(A)は、「やかん」を被写体Oとして撮像して得られたオリジナルのMSIデータをRGB画像に変換した画像であり、図10(B)は、図10(A)のRGB画像データに圧縮差分画像データecを埋め込んだ重畳RGB画像データに対応する画像であり、(C)は、図10(B)の重畳RGB画像データをJPEG2000方式で1/10のデータ量に圧縮・伸長した画像データに対応する画像を示している。
【0158】
また、図11は、同一の被写体O(やかん)について撮像して得られたオリジナルMSIデータに含まれる波長720ナノメートルの画像における変化状態を示しており、図11(A)には、オリジナルのMSIデータに含まれる波長720ナノメートルの画像を示し、図11(B)には、オリジナルMSIを変換したRGB画像データに対応するRGB画像からWiener推定法により推定した波長720ナノメートルにおける画像を示し、図11(C)には、本実施形態の方法によって生成した重畳RGB画像データgwから復元した波長720ナノメートルにおける画像を示している。
【0159】
なお、図10及び図11に示すオリジナルのMSIデータは、色成分数16、512×512ピクセル、1つの色成分(すなわち、1バンド)あたり8bpp(ビット・パー・ピクセル)の画像を用いている。
【0160】
すなわち、RGB画像データの場合には、Rと、Gと、Bと、の3つの色成分の情報に各々に8ビットずつが振り当てられ、合計24ビット・パー・ピクセル(=8ビット×3)となるが、MSIの場合と、RGBの場合と、では、どちらも1バンド辺りのビット数は8ビットになっている。
【0161】
図10に示すように、本実施形態の手法を採用した場合には、重畳RGB画像データgwにおいては、10倍に圧縮した場合であっても、オリジナルのMSIから変換したRGB画像から大きく画質が劣化しないことが分かった。
【0162】
また、図11に示すように、波長720ナノメートルに対応する画像については、図11(B)に示すようにオリジナルのMSIデータを変換したRGB画像からWiener推定法によって推定される画像は、オリジナルMSIから大きく画質が劣化しているのに対して、本実施形態の手法によれば、図11(C)に示すように視覚上、オリジナルMSIから大きく画質が劣化していないことが分かった。
【0163】
[2.3]画像データ処理装置
次に、図12を用いて本実施形態の画像データ処理装置20Bの構成について説明する。なお、図12は、第2実施形態の画像データ処理装置20Bの構成を示すブロック図である。
【0164】
本実施形態の画像データ処理装置20Bは、図12に示すように、図4の構成に加えて、データ処理部260に色差画像生成部269Aと、DWT/IDWT処理部269Bと、が設けられている。なお、本実施形態の色差画像生成部269Aと、DWT/IDWT処理部269Bと、は、例えば、本発明の「第2変換部」及び「分割手段」を構成する。
【0165】
RGB画像データ生成部262は、重畳RGB画像データgwを生成する際には、MSIデータfに含まれる各画素の画素値に基づき、RGB画像データgを生成するとともに、色差画像生成部269によって生成された、輝度信号Yと、色差信号Cbと、切りだしCr信号Cr’と、に基づき、RGB画像データg’を生成する。
【0166】
また、RGB画像データ生成部262は、MSIデータfRを復元する際には、重畳RGB画像データgwに基づき、色差画像生成部269Aにより生成される輝度信号Yと、色差信号Cbと、埋め込みCr信号Crwから生成される切りだしCr信号Cr’と、に基づき、RGB画像データg’を生成する。
【0167】
画像データ圧縮・伸張部265は、供給される画像データをJPEG2000方式で圧縮及び伸張する機能を有している。
【0168】
埋め込み処理部266は、重畳RGB画像データgwを生成する際に、色差画像生成部269によって複数のサブバンドに分割されたCr信号のLH2、HL2及びHH2に対応する変換係数を「0」に置換しつつ、圧縮による量子化の影響を受けないようにα以上の強度を持った圧縮差分画像データecを埋め込むことによって、Cr信号に圧縮差分画像データecを埋め込むための処理を実行する。
【0169】
圧縮画像データ抽出部267は、埋め込みCr信号CrwのサブバンドLH2、HL2及びHH2から圧縮差分画像データecを抽出して、当該圧縮差分画像データecを抜き出したサブバンド領域の変換係数を「0」に置換する処理を実行するようになっている。
【0170】
色差画像生成部269Aは、RGB画像データに含まれる各画素に対応する画素値に基づいて、色差画像を生成する機能を有している。
【0171】
具体的には、色差画像生成部269Aは、重畳RGB画像データgwを生成する際には、オリジナルのMSIデータfを変換して得られるRGB画像データgに含まれる各画素に対応する画素値に基づき、輝度信号Yと、色差信号Cbと、色差信号Crを生成する。
【0172】
そして、色差画像生成部269Aは、MSIデータfRの復元に際しては、重畳RGB画像データgwを色差画像に変換して、輝度信号Yと、色差信号Cbと、埋め込みCr信号Crwを生成する。
【0173】
DWT/IDWT処理部269Bは、供給されるCr信号に対して、DWT及びIDWTを施す機能を有している。
【0174】
特に、DWT/IDWT処理部269Bは、重畳RGB画像データgwの生成及びMSIデータfR、の復元に際して、DWT後のCr信号において、LH2、HL2及びHH2に対応する変換毛数を「0」に置換しつつ、当該置換後のCr信号にIDWTを施して、切りだしCr信号Cr’を生成するようになっている。
【0175】
[2.4]第2実施形態の動作
[2.4.1]重畳RGB画像データの生成処理
次に、図13及び14を参照しつつ、本実施形態の画像データ生成システムにおいて重畳RGB画像データgwを生成する際の動作について説明する。なお、図13及び14は、本実施形態の画像データ処理装置20Bにおいて実行される重畳RGB画像データgwの生成処理を示すフローチャートである。
【0176】
まず、MSIデータ生成部261は、I/Oインターフェース部210を介して、カメラ10から供給される画像データを合成して、被写体Oに関するオリジナルのMSIデータfを生成する(ステップSc100)。
【0177】
次いで、RGB画像データ生成部262は、当該生成されたMSIデータをsRGB色空間のRGB画像に変換することにより、RGB画像データgを生成する(ステップSc101)。
【0178】
次いで、色差画像生成部269は、RGB画像データgに含まれる各画素に対応する画素値に基づき、RGB画像データをYCbCr形式の色差画像データに変換する(ステップSc102)。
【0179】
次いで、DWT/IDWT処理部269Bは、当該色差画像データに含まれるCr信号に対して、DWTを施すことによって、Cr信号を複数のサブバンドに分割する(ステップSc103)。
【0180】
次いで、埋め込み処理部266は、このサブバンドに分割されたCr信号のLH2,HL2及びHH2の各サブバンドに対応する変換係数を「0」に置換する(ステップSc104)。
【0181】
次いで、DWT/IDWT処理部269Bは、一部のサブバンドに対応する変換係数を「0」に置換した後のCr信号に対して、IDWTを施すことによって、当該Cr信号を切りだしCr信号Cr’に変換する(ステップSc105)。
【0182】
次いで、RGB画像データ生成部262は、当該切りだしCr信号Cr’と、ステップSc102において生成した輝度信号Y及び色差信号Crからなる色差画像データをRGB画像データg’に変換する(ステップSc106)。
【0183】
次いで、MSI推定部263は、当該RGB画像データg’に基づき、推定MSIデータf’を生成する(ステップSc107)。
【0184】
次いで、差分画像データ生成部264は、当該生成された推定MSIデータf’と、オリジナルのMSIデータfに含まれる各画素の画素値の差分値を算出することによって、差分画像データeを算出する(ステップSc108)。
【0185】
次いで、画像データ圧縮・伸張部265は、当該差分画像データeをJPEG2000方式で圧縮して、圧縮差分画像データecを生成する(ステップSc109)。
【0186】
次いで、埋め込み処理部266は、ステップSc104において「0」に置換されたCr信号サブバンドの変換係数を圧縮による量子化の影響を受けないようにα以上の強度を持った圧縮差分画像データecを埋め込むことによって、Cr信号に圧縮差分画像データecを埋め込む(ステップSc110)。
【0187】
次いで、DWT/IDWT処理部269Bは、当該埋め込み後のCr信号に対してIDWTを施すことによって、埋め込みCr信号Crwを生成する(ステップSc111)。
【0188】
次いで、RGB画像データ生成部262は、当該埋め込みCr信号Crwを含む色差画像データを重畳RGB画像データgwに変換する(ステップSc112)。
【0189】
次いで、画像データ圧縮・伸張部265は、当該生成されたRGB画像データgをJPEG2000方式で圧縮して(ステップSc113)、本動作を終了する。
【0190】
[2.4.2]MSIデータの復元処理
次に、図15を参照しつつ、本実施形態の画像データ生成システムにおいてMSIデータfRを復元する復元処理について説明する。なお、図15は、本実施形態の画像データ処理装置20Bにおいて実行されるMSIデータfRを復元する復元処理を示すフローチャートである。
【0191】
まず、画像データ圧縮・伸張部265は、圧縮された重畳RGB画像データgwをJPEG2000方式で復号する(ステップSd101)。
【0192】
次いで、色差画像生成部269は、当該重畳RGB画像データgwに含まれる各画素の画素値に基づき、輝度信号Yと色差信号Cb及び埋め込みCr信号Crwを含む色差画像データを生成する(ステップSd102)。
【0193】
次いで、DWT/IDWT処理部269Bは、当該色差画像データに含まれる埋め込みCr信号CrwにDWTを施す(ステップSd103)。
【0194】
次いで、圧縮画像データ抽出部267は、当該DWT後のCr信号におけるサブバンドLH2、HL2及びHH2から圧縮差分画像データecを抽出する(ステップSd104)。
【0195】
次いで、圧縮画像データ抽出部267は、当該サブバンドの変換係数を「0」に置換する(ステップSd105)。
【0196】
次いで、DWT/IDWT処理部269Bは、当該置換後のCr信号にIDWTを施すことによって、切りだしCr信号Cr’を生成する(ステップSd106)。
【0197】
次いで、RGB画像データ生成部262は、切りだしCr信号Cr’と、輝度信号Yと、色差信号Cbと、からなる色差画像データをRGB画像データg’に変換する(ステップSd107)。
【0198】
次いで、MSI推定部263が、RGB画像データg’の各画素に対応する画素値に基づきMSIを推定し、対応する推定MSIデータf’を生成する(ステップSd108)。
【0199】
次いで、画像データ圧縮・伸張部265は、ステップSd104において抽出した圧縮差分画像データecをJPEG2000方式で復号して差分画像データeを生成する(ステップSd109)。
【0200】
次いで、MSI推定部263は、当該差分画像データeと、推定MSIデータf’を加算して、MSIデータfRを復元して(ステップSd110)、本動作を終了する。
【0201】
以上説明したように、本実施形態の画像データ生成システムにおいては、オリジナルのMSIデータをRGB画像データに変換した後、色差画像データに変換し、当該色差画像データのCr信号又はCb信号において、サブバンドLH2、HL2及びHH2おいて量子化による影響が生じない領域に圧縮差分画像データec埋め込むことによって重畳RGB画像データgwを生成することができる。
【0202】
したがって、本実施形態の画像データ生成システムは、一般的なRGB用ディスプレイ等を利用しつつ、MSIデータに対応する画像を表示させることができるとともに、重畳RGB画像データgwを伝送する際には、VGA等のRGB用のインターフェースを利用することができるので、MSIの普及を促進することができる。
【0203】
また、オリジナルのMSIデータに赤外光などの不可視領域の画像が含まれる場合においても、当該画像を差分画像データとして抽出できるので、本実施形態の手法によれば、不可視領域の画像を高画質に復元することができる。
【0204】
[3]変形例
[3.1]変形例1
上記第1実施形態及び第2実施形態におけるRGB画像データに圧縮差分画像データecを埋め込む方法に代えて、
(1)RGB画像データにDCT(離散コサイン変換)を施し、DCT係数において、周波数帯域によって規定される量子化ステップαを超える範囲で画素値の変更を行うことによって、又は、
(2)量子化ステップαのmost significant bitより上位のビットプレーンに、
圧縮差分画像データecを埋め込む構成を採用するようにしてもよい。
【0205】
この方法を採用した場合であっても、上記第1実施形態と同様に重畳RGB画像データの画質劣化を抑えつつ、圧縮差分画像データecを埋め込んだ重畳RGB画像データを生成できるとともに、重畳RGB画像データから高精度にMSIデータを復元できる。
【0206】
[3.2]変形例2
上記第2実施形態においては、RGB画像データをYCbCr形式の色差画像データに変換する構成を採用したが、Lab、XYZ等の別の色変換を用い、又は、色変換しない場合についても上記第2実施形態は適用可能であり、その場合においても、変換後のいずれかの色成分に圧縮差分画像データecを埋め込むようにすればよい。
【0207】
[3.3]変形例3
上記第2実施形態においては、HL2、LH2、HH2のサブバンドに圧縮差分画像データecを埋め込む構成を採用したが、これ以外のサブバンドを圧縮差分画像データecの埋め込みに利用することも可能である。
【0208】
また、この場合における圧縮差分画像データecを埋め込み方法は、量子化ステップαに対して±(α+1)以上の変動を持たせればよく、サブバンド上で±(α+1)以上に相当するビットプレーンに埋め込むようにすればよい。
【0209】
[3.4]変形例4
上記第1実施形態および第2実施形態においては一律に、重畳RGB画像データRGBの圧縮及び復号を行う構成を採用したが、重畳RGB画像データの圧縮及び復号については、ユーザが任意に設定することも可能であるし、圧縮及び復号をしなくてもよい。
【0210】
そして、ユーザによって、画像圧縮が必要と設定されている場合には、重畳RGB画像データの圧縮及び復号を行うのに対して、画像の圧縮が不要と設定されている場合には、重畳RGB画像データの圧縮及び復号を実施しなくてもよい。
【符号の説明】
【0211】
1 … 画像データ生成システム
10 … カメラ
20A、20B … 画像データ処理装置
200 … 記録部
201 … アプリケーション記録部
202 … 画像データ記録部
203 … カメラ管理情報記録部
204 … RAM
210 … I/Oインターフェース部
260 … データ処理部
261 … MSIデータ生成部
262 … RGB画像データ生成部
263 … MSI推定部
264 … 差分画像データ生成部
265 … 画像データ圧縮・伸張部
266 … 埋め込み処理部
267 … 圧縮画像データ抽出部
268 … MSI復元部
269A… 色差画像生成部
269B… DWT/IDWT処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15