特許第6706852号(P6706852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6706852-細胞老化抑制剤 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706852
(24)【登録日】2020年5月21日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】細胞老化抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/351 20060101AFI20200601BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20200601BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200601BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200601BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   A61K31/351
   A61K31/715
   A61P43/00 105
   A61P35/00
   A61P17/16
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-10965(P2016-10965)
(22)【出願日】2016年1月22日
(65)【公開番号】特開2017-128550(P2017-128550A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2019年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100169579
【弁理士】
【氏名又は名称】村林 望
(72)【発明者】
【氏名】丸山 征郎
(72)【発明者】
【氏名】川原 幸一
【審査官】 榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−154425(JP,A)
【文献】 特開2014−227403(JP,A)
【文献】 Journal of Applied Glycoscience,1999年,Vol.46, No.4,pp.439-444
【文献】 農林水産技術研究ジャーナル,1987年,Vol.10, No.10,pp.5-12
【文献】 BioMed Research International,2014年,Vol.2014, ,Article ID 831841(13 pages)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,5-D-アンヒドロフルクトース及び/又は式:G-(G)n-AF(式中、AFは1,5-D-アンヒドロフルクトース残基であり、Gはグルコース残基であり、且つnは0〜20の整数であり、但し、前記グルコース残基には側鎖として他のグルコース単位がグリコシド結合していてもよい)で示される化合物を有効成分として含有し、且つSASPを抑制するためのものである細胞老化抑制剤。
【請求項2】
1,5-D-アンヒドロフルクトース及び/又は式:G-(G)n-AF(式中、AFは1,5-D-アンヒドロフルクトース残基であり、Gはグルコース残基であり、且つnは0〜20の整数であり、但し、前記グルコース残基には側鎖として他のグルコース単位がグリコシド結合していてもよい)で示される化合物を有効成分として含有し、且つSASPを抑制するためのものである老化予防又は治療剤。
【請求項3】
1,5-D-アンヒドロフルクトース及び/又は式:G-(G)n-AF(式中、AFは1,5-D-アンヒドロフルクトース残基であり、Gはグルコース残基であり、且つnは0〜20の整数であり、但し、前記グルコース残基には側鎖として他のグルコース単位がグリコシド結合していてもよい)で示される化合物を有効成分として含有し、且つSASPを抑制するためのものである発癌予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば1,5-D-アンヒドロフルクトース及び/又はその誘導体を有効成分として含有する細胞老化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
1,5-D-アンヒドロフルクトース(以下、「1,5-AF」と称する)は、ある種の子嚢菌や紅藻由来の酵素であるα-1,4-グルカンリアーゼを澱粉又は澱粉分解物に作用させることで生産することができる。1,5-AFは、その分子間内に二重結合を有しており、他の単糖類と比較して反応性に富む糖である。
【0003】
従来において、1,5-AFの様々な用途が知られている。例えば、特許文献1は、1,5-AF及び/又はその脱水産物であるアスコピロンを含有する抗腫瘍剤を開示する。特許文献2は、1,5-AFを有効成分として含有する、アポトーシス関連スペック様カード蛋白質(ASC)の機能阻害薬及びASCが関与する疾患又は症状の治療薬、並びに1,5-AFを有効成分として含有する、インフラマソーム経路阻害薬及びインフラマソーム経路が関与する疾患又は症状の治療薬を開示する。
【0004】
一方、細胞老化の基本像として、Senescence-Associated Secretory Phenotype (SASP)と呼ばれる現象が注目されている(非特許文献1)。細胞老化の現象としては、細胞周期の停止、細胞形態の変化(巨大化等)、ヘテロクロマチン、細胞老化特異的βガラクトシダーゼ(Senescence-Associated β-galactosidase;以下、「SA-βgal」と称する)発現又は活性等が挙げられる。
【0005】
細胞老化は、個体の老化や発癌の基盤を成すものであり、細胞老化を抑制できる薬剤が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/040147号
【特許文献2】国際公開第2015/016178号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Francis Rodier and Judith Campisi, J Cell Biol., 2011年, 192(4), pp. 547-556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した実情に鑑み、細胞老化を抑制できる薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、1,5-AF又はその誘導体が細胞老化の指標であるSA-βgal発現を抑制し、且つ細胞の変形と巨大化をも抑制することで、1,5-AF又はその誘導体が細胞老化を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)1,5-AF及び/又は式:G-(G)n-AF(式中、AFは1,5-AF残基であり、Gはグルコース残基であり、且つnは0〜20の整数であり、但し、前記グルコース残基には側鎖として他のグルコース単位がグリコシド結合していてもよい)で示される化合物を有効成分として含有する細胞老化抑制剤。
(2)1,5-AF及び/又は式:G-(G)n-AF(式中、AFは1,5-AF残基であり、Gはグルコース残基であり、且つnは0〜20の整数であり、但し、前記グルコース残基には側鎖として他のグルコース単位がグリコシド結合していてもよい)で示される化合物を有効成分として含有する老化予防又は治療剤。
(3)1,5-AF及び/又は式:G-(G)n-AF(式中、AFは1,5-AF残基であり、Gはグルコース残基であり、且つnは0〜20の整数であり、但し、前記グルコース残基には側鎖として他のグルコース単位がグリコシド結合していてもよい)で示される化合物を有効成分として含有する発癌予防剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、細胞老化を抑制し、且つ細胞老化が関与する老化を予防又は治療でき、また細胞老化が関与する発癌を予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(A)1,5-AF又はGAFによるSA-βgal発現の抑制を示すグラフ、及び(B)1,5-AF又はGAFによる細胞形態変化の抑制を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る細胞老化抑制剤は、1,5-AF及び/又はその誘導体を有効成分として含有するものである。
【0014】
ここで、細胞老化とは、細胞において不可逆的な細胞周期の停止が生じる現象をいう。細胞老化に伴う現象としては、例えば増殖因子、サイトカイン、プロテアーゼ等の分泌を伴うSASP、細胞周期の停止、細胞形態の変化(巨大化等)、ヘテロクロマチン、SA-βgal発現又は活性等が挙げられる。また、細胞老化は、臓器や個体レベルの老化の基盤を成す。さらに、細胞老化によれば、発癌促進作用を有する細胞老化関連分泌因子(SASP因子)が分泌されることから、周辺組織の癌化を促進する。
【0015】
本発明に係る細胞老化抑制剤によれば、細胞老化の指標であるSA-βgal発現を抑制し、且つ細胞の変形と巨大化をも抑制することで、細胞老化を有意に抑制することができる。また、本発明に係る細胞老化抑制剤によれば、細胞老化を抑制することで、老化を予防又は治療することができ、また発癌を抑制することができる。従って、本発明に係る細胞老化抑制剤は、老化予防又は治療剤、又は発癌予防剤ということもできる。
【0016】
本発明に係る細胞老化抑制剤における有効成分である1,5-AFは、特表平9-505988号公報に記載の方法等の公知の方法に準じて調製することができる。具体的には、紅藻オゴノリより抽出した酵素α-1,4-グルカンリアーゼを澱粉に作用させることで1,5-AFを得ることができる。また、当該酵素を30重量%のマルトデキストリン溶液に作用させ、1,5-AF及び未分解のデキストリンから成る、例えば1,5-AFを40%含有する溶液を使用することもできる。さらに、この溶液を噴霧乾燥することで得られる、1,5-AF含有粉末を使用することも可能である。
【0017】
また、1,5-AFの誘導体としては、式:G-(G)n-AF(式中、AFは1,5-AF残基であり、Gはグルコース残基であり、且つnは0〜20の整数であり、但し、前記グルコース残基には側鎖として他のグルコース単位がグリコシド結合していてもよい)で示される化合物(以下、「GAF(glucosyl AF)」と称する)が挙げられる。GAFは、例えば特開2001-204490号公報に記載の方法に準じて調製することができる。具体的には、酵素α-1,4-グルカンリアーゼをマルトデキストリンに作用させて、全糖中の1,5-AFが40%である反応液を調製し、酵素失活後、さらにサイクロデキストリン合成酵素を作用させ1,5-AFに糖鎖を転移させる。反応終了後、これをグルコアミラーゼで極限まで分解し、全糖中の10%がGAFである反応液を得ることができ、さらにクロマト分離に供することで、高純度のGAFを得ることが可能である。
【0018】
本発明に係る細胞老化抑制剤は、その剤形に応じてそれ自体公知の種々の方法で投与することが可能であり、その投与量、投与部位、投与する間隔、期間等は、患者の年齢や体重、病状あるいは他の薬剤や治療法と併用した場合等を考慮して適宜決定することができる。投与方法としては、速やかに体内、あるいは病巣局所に1,5-AF及び/又はGAFを送達することができる限り特に制限されないが、例えば、経口投与、注射や点滴等の方法、あるいは貼付、塗布等が挙げられる。
【0019】
本発明に係る細胞老化抑制剤の投与量は、その剤形、投与方法、又は予防若しくは治療しようとする症状により異なるが、例えば、体重1kg当たりの投与量として有効成分(1,5-AF及び/又はGAF)換算で1mg〜500mg、好ましくは10mg〜100mgとすることができ、1日1回又は数回、あるいは持続点滴等、さらには数日毎に1回というような、適当な投与頻度によって投与することが可能である。
【0020】
本発明に係る細胞老化抑制剤の形態としては、例えば、点滴、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、坐剤、注射剤、経皮吸収剤、クリーム、ペースト、ゲル、スプレー等が挙げられるが、特に制限されない。また、本発明に係る細胞老化抑制剤は、例えば製剤担体、賦形剤、安定剤等の成分を含有することもできる。
【0021】
さらに、本発明に係る細胞老化抑制剤は、医薬品用途に限られるものではなく、医薬部外品、化粧品、食品、飲料、飼料等に配合することも可能である。例えば、本発明に係る細胞老化抑制剤を食品に添加して、各種疾患における症状の予防又は治療を目的とした機能性食品のような形態をとることもできる。
【0022】
あるいは、本発明に係る細胞老化抑制剤は、例えば老化に伴う皮膚症状の治療を目的とする医薬部外品又は化粧品等の形態をとることも可能である。
【0023】
また、本発明は、1,5-AF及び/又はGAFをヒトや動物等の被験体(患者)に投与することを含む、細胞老化の抑制方法、老化の予防若しくは治療方法、又は発癌予防方法に関する。1,5-AF及び/又はGAFの剤形、投与様式、投与量等は、上述の本発明に係る細胞老化抑制剤に準じて決定することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
〔実施例1〕1,5-AF又はGAFによる細胞老化抑制の評価
1,5-AF又はGAFによる細胞老化抑制の評価を、代表的なSA-βgal誘導法であるH2O2刺激(200μM(3時間刺激)、5日間培養)による培養血管内皮細胞のSA-βgal発現に対する1,5-AF又はGAFの効果の測定と、同時に細胞形態変化の観察により行った。
【0026】
1.材料及び方法
本実施例で使用した1,5-AFは、純度が90%以上であった。また、本実施例で使用したGAFは、純度が90%以上であった。
【0027】
細胞老化の現象としては、細胞周期の停止、細胞形態の変化(巨大化など)、ヘテロクロマチン、細胞老化特異的βガラクトシダーゼ(Senescence-Associated β-galactosidase; SA-βgal)活性などが挙げられる。このSA-βgal活性は最も簡便で鋭敏な指標であり、多くの老化研究者が使用している。
【0028】
そこで、代表的なSA-βgal誘導剤のH2O2(200μM)を用いた。培養血管内皮細胞にH2O2刺激(3時間)後にH2O2を完全に除去した。除去後、1,5-AF又はGAF(10μg/ml)を添加し、5日後にSA-βgalの発現細胞を顕微鏡下により計測した。
【0029】
2.結果及び考察
結果を図1に示す。図1において、「cont(control)」は、H2O2刺激も1,5-AF又はGAFの添加も行わずに培養した培養血管内皮細胞の結果であり;「H2O2」は、H2O2刺激のみを行い培養した培養血管内皮細胞の結果であり;「H2O2-GAF10(H2O2 GAF 10μg/ml)」は、H2O2刺激後、GAFを添加して培養した培養血管内皮細胞の結果であり;「H2O2-AF10(H2O2AF 10μg/ml)」は、H2O2刺激後、1,5-AFを添加して培養した培養血管内皮細胞の結果である。
【0030】
図1に示すように、本実施例の実験において、H2O2刺激による培養血管内皮細胞において、1,5-AF又はGAFがSA-βgalの発現を有意な差をもって抑制した。したがって、1,5-AF又はGAFは、細胞老化抑制剤になり得ると示唆される。
図1