特許第6706898号(P6706898)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706898
(24)【登録日】2020年5月21日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】視力矯正機具
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20200601BHJP
   A61F 9/00 20060101ALI20200601BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20200601BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20200601BHJP
【FI】
   G02C7/04
   A61F9/00
   G02C7/02
   B82Y30/00
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-206525(P2015-206525)
(22)【出願日】2015年10月20日
(65)【公開番号】特開2017-78778(P2017-78778A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2018年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】591048597
【氏名又は名称】株式会社三城ホールディングス
(73)【特許権者】
【識別番号】514091105
【氏名又は名称】株式会社セルモエンターティメントジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】多根 裕詞
【審査官】 後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−516268(JP,A)
【文献】 特開平08−203765(JP,A)
【文献】 特開平05−265249(JP,A)
【文献】 特開平10−221504(JP,A)
【文献】 特開2017−120868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子化した磁性材料からなる透明磁性体層がレンズ表面に形成されており、該透明磁性体層は、波長380〜500nmのブルーライトおよび波長589nmのD線の少なくとも一部を遮光すると共に、レンズ表面近傍に磁場を形成して眼球に酸素および酸素を含む水分を供給可能にされてなり、
ブルーライトおよびD線を遮光することにより生ずるノイズをアースするノイズアース電極を有することを特徴とする視力矯正機具。
【請求項2】
上記ノイズアース電極が、磁性材料からなることを特徴とする請求項1に記載の視力矯正機具。
【請求項3】
上記磁性材料が、無機磁性材料からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の視力矯正機具。
【請求項4】
記磁性材料が、有機磁性材料からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の視力矯正機具。
【請求項5】
記磁性材料が、有機磁性材料および無機磁性材料を含む有機無機複合磁性材料からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の視力矯正機具。
【請求項6】
有機無機複合磁性材料が、平均粒子径100nm以下の有機磁性材料と平均粒子径100nm以下の無機磁性材料とを含む磁性材料の焼結体から形成されていることを特徴とする請求項5に記載の視力矯正機具。
【請求項7】
上記有機磁性体が、分子性磁性体であるフラーレン類、d電子および/またはf電子を有する原子をスピン源として配位子と結合させたフラーレン類、金属内包フラーレン類、金属フタロシアニン、ニトロニルニトロキシド(TCNQ)、および、TCNQアニオンよりなる群から選ばれるいずれかの有機化合物を含むことを特徴とする請求項6に記載の視力矯正機具。
【請求項8】
上記視力矯正機具が、メガネであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の視力矯正機具。
【請求項9】
上記視力矯正機具が、視力矯正機具に、透明光触媒膜を形成して湿度向上により水分の減少を抑制するものであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の視力矯正機具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーソナルコンピュータ(パソコン)、スマートフォンなどから出る電磁波およびブルーライトなどの光成分を吸収、低減すると共に、眼に酸素および水分を供給可能にした光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
我々が生活して行く上で非常に重要な感性として視覚がある。視覚は眼筋によって支えられた眼球から取り込まれた光学的変化を認識することにより人が認知する感覚である。
この視覚を司る眼球は眼筋によって支えられると共に運動し、一般的に眼筋の運動は1日10万回以上であると言われている。従って眼筋に「酸素欠乏」状態が生ずると目の眼筋運動機能に影響を受けると言われており、酸素欠乏状態に陥ると、眼筋を形成する毛様体の筋力と水晶体の弾力とが低下し、近視あるいは老眼の進行が加速される原因の一因になっていると考えられている。さらに、水晶体の新陳代謝が衰えて、水分および酸素の供給量が低下すると、水晶体に濁りが生じ、白内障が生じ、また、眼球内の老廃物排泄機能が不充分となり、飛蚊症を発症する一因となると考えられている。
【0003】
さらにこうした状態が進行すると、眼球の角膜と虹彩との間、および、虹彩と水晶体の間を満たす房水という体液の排泄機能が不充分となり機能が滞ることで、酸素、水分あるいは栄養の供給量が減少し、眼圧の上昇、緑内障発症が危惧されると共に、さらに視神経の栄養不足が進行すると、視野狭窄の発症要因にもなりかねない。
【0004】
ところが、近時、液晶画面を用いたパソコン、スマートフォーンなどの光学表示装置の発達が著しく、このような光学表示装置からは、ブルーライト、D線のような電磁波など、眼にとって有害な光線が放出されており、長時間こうした光線に晒されるとVDT(Visual display terminal)症候群と言われる目の疲労が大きな問題になってきている。スマートフォンあるいはパソコンでは、画面の隅々から必要な情報を得て、その意味を咀嚼し、その情報に対しての指示、確認、実効並びにその結果の反応等、一連の動作が必要であり、結果として長時間、目を近地点の一点(画面上)に焦点を合わせ続けることになる。そのことは、長時間にわたって毛様体の筋を一定筋度に保つという、即ち毛様体を極めて過酷な条件で使用することであり、これはテレビ番組を見ることとは比較にならないほどの過酷な条件であり、目に極めて高い負担をかけていることになる。
【0005】
例えば、テレビゲームの及ぼす影響について次のような報告がある。
北里大学病院検査技師10人に対し、1日4時間の間テレビゲームをさせ、目にどのような影響を与えるかを実験した。その結果、テレビ画面からの電磁波被爆により、8人の人の眼、即ち16の眼に角膜上皮症が認められ、目の調節機能を減退させ、瞳孔の近見反応に異常があることが判明したことが「北里大学医学部眼科、宮田教授ほか、1998年眼科臨床医報」に公開されている(非特許文献1)。
【0006】
さらに、目に近い一点に焦点を合わせ続け、凝視することは結果として、まばたきの回数を激減させ、涙が蒸発し、ドライアイになり易くなり、目の疲労を大幅に増大させる環境に置かれていると考えられる。
【0007】
これとは別に、近年、コンタクトレンズの普及もドライアイの大きな要因と言われている。さらに近年においては、カラーコンタクトレンズの普及がファッション面で特に進み、ドライアイの要因となるコンタクトレンズの利用範囲がさらに広がってきている。
【0008】
目の角膜は周囲の空気から酸素および水分を直接吸収する器官であるが、コンタクトレンズには酸素透過率の高いものもあるが、その多くは酸素透過率に問題がある。いずれにしても、コンタクトレンズを装着すると角膜からの酸素および水分の吸収を妨げるため、装着時間を短く制限するなどの必要がある。酸素不足および水分の不足によって起こる角膜新生血管等の異常発生に起因する病気などに陥らないような手段を講じる必要がある。
【0009】
ところで、我々の周囲にある空気は,容積比で、窒素を約78%、酸素を約21%含有し、残部がアルゴン、水蒸気、二酸化炭炭素などによって組成されている。
窒素ガスは分子状態では反磁性体であるのに対して、酸素ガスは分子状態において常磁性体である。質量磁化率は、窒素ガスの場合、χN2=−0.4×10-6であるのに対して、酸素ガスでは、χO2=104×10-6であり、酸素ガスは空気中の気体では、かなり顕著に磁場に反応する磁性体である。
【0010】
従って、空気のような、窒素ガス(N2)および酸素ガス(O2)などが混在した気体中に永久磁石を置いた場合、反磁性体である窒素ガスは永久磁石に反発して遠ざかるが、質量磁化率が高く常磁性体である酸素ガスは永久磁石に吸い寄せられ、永久磁石周囲の酸素ガス濃度が高くなることが知られている。
【0011】
2006年2月6日に東京大学にて開催された低温工学協会「新規磁場応用に関する調査研究会」第2回研究会において、物質・材料研究機構の若山信子氏は、磁気力が気体の流れあるいは対流に与える影響、すなわち磁気空気力学に関する実験について「磁気力の新規利用に関する研究」と題して講演している(非特許文献2)。
【0012】
その報告によると、酸素ガスを図1に示すような磁場中に、位置Aの下方から上向きに向かって流すと、磁場印加時には酸素ガスは上方に吸い寄せられ、位置Bの辺りに留まり、磁場なしの場合は、酸素ガスは空気より重いので下方に流れる現象が観察される。これは酸素ガスが気体としては比較的大きな常磁性を有しているため、位置Aの磁場勾配により、上向きの磁気力が作用した結果であると報告されている。
【0013】
同様に、窒素ガスについては、位置Cの下方から上向きに向かって流すと、磁場印加時には勢いよく上方に噴出する様子が観察されたが、磁場を印加しない時には、このような現象は観察されなかった。この実験から、窒素ガスは反磁性であるため、位置Cの磁場勾配により、上向きの磁気力が作用すると同時に、空気中の酸素ガスは下向きの磁気力を受けて磁場中に吸い込まれることによって対流が生じ、ジェット気流のように噴出して行くというメカニズムを解明している。
【0014】
このことは、実際に、磁気式酸素濃度計がこの理論、原理に基づき製造されていることからも明らかである。以下、簡単にその原理を説明する。
測定ガス中に酸素ガスがあると、酸素ガスが磁界に引き付けられるために、図2にあるように、B方向に流れる補助ガスの流量が減少する。この絞りの効果によって生ずるB方向とA方向との流量比の差異は、測定ガス中の酸素濃度に比例しており、この部分濃度を検出して酸素ガス濃度として表示されている。
【0015】
酸素ガスは、磁場勾配中において磁気強度に影響を受けるので、永久磁石の極付近では、酸素ガス濃度が高くなることは原理的にも当然のこととして予測される。また、常磁性体と反磁性体の気体の磁場における分離に関しても多くの研究発表がされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】北里大学医学部眼科、宮田ほか、眼科臨床医報;1998年
【非特許文献2】「磁気力の新規利用に関する研究」第2回研究会、「新規磁場応用に関する調査研究会」物質・材料研究機構、若山信子;2006年2月6日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述のようにこの酸素ガスは空気中に21容量%もの量で含有されている。そして、その一部は空気中の水分(水蒸気)に溶存して水クラスタを形成して存在する。水は本質的には液体の状態では非磁性であるが、気体となった水、即ち水クラスタは、溶存する気体の磁性に従うため、酸素を溶存する水クラスタは、酸素の磁性に従って磁性体となる。本発明者は、このように磁性体となった水クラスタおよび酸素を選択的に取り込むことができれば、ドライアイを予防することができると共に眼筋の酸素欠乏をも防止できることを見出した。
【0018】
即ち、本発明はドライアイ予防および角膜からの酸素吸収を補助する方法を提供するものであり、スマートフォンあるいはパソコンが社会生活に不可欠となった現代において差し迫った重要な課題を解決する手段を提供することを目的としている。さらに詳しくは本発明は、場所を選ばず通常の日常生活、業務等を行いながら、特に目の安全と目の疲労を軽減、しいては除去する手段を提供することを目的としている。
【0019】
さらに本発明は、眼球全体に水分および酸素を供給すると共に、VDT症候群の発症の原因となっているブルーライトおよびD線の少なくとも一部を吸収する手段を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の視力矯正機具は、ナノ粒子化した磁性材料からなる透明磁性体層がレンズ表面に形成されており、該透明磁性体層は、波長380〜500nmのブルーライトおよび波長589nmのD線の少なくとも一部を遮光すると共に、レンズ表面近傍に磁場を形成して眼球に酸素および酸素を含む水分を供給可能にされてなることを特徴としている。
【0021】
本発明の視力矯正機具は、レンズ表面に磁性体からなる透明磁性体層が形成されており、この透明磁性体層によって波長380〜500nmのブルーライトおよび波長589nmのD線(正確には589.995nmと589.592nmの二本のスペクトル)の少なくとも一部を遮蔽することができる。さらに、この透明磁性体層によりレンズ表面近傍に磁場が形成されることで、質量磁化率の異なる透明磁性体層近傍の空気中の酸素(O2)濃度を上昇させることができると共に、酸素の溶存した水クラスタの濃度を上昇させることができる。
【0022】
さらに本発明の視力矯正機具は、視力矯正機具であるめがねのレンズあるいはフレーム、コンタクトレンズ(ハード、ソフト)に、透明光触媒膜を形成して湿度向上による涙液(泪)水分の減少を抑制することを特徴としている。さらに本発明は、この視力矯正機具に使用する透明光触媒材料及びこの透明光触媒を用いた製膜加工方法にある。
こうして濃度の上昇した酸素および水クラスタ(水蒸気)は、眼の角膜から眼球内に吸収可能になる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の視力矯正機具は、空気から、磁性体である酸素ガスを視力矯正機具に備えられた透明磁性体層によって強制的に酸素ガスのジェット気流を形成させ、他方で磁性体でない窒素はこの視力矯正機具に備えられた透明磁性体から遠ざけてジェット気流に巻き込まれにくい状況を形成すると共に、酸素のジェット気流と共に水蒸気量の多い空気を流すことにより、水蒸気はジェット気流中に酸素を溶存する水クラスタを形成して安定に存在すると考えられる。
【0024】
このようにして形成された酸素ガスのジェット気流およびこれに伴う水クラスタを含む水蒸気のジェット気流によって眼球表面近傍は常に酸素リッチで湿潤した状態になり、毛様体は常に酸素に満ち、眼球全体にも水分が供給されドライアイの発生を防止することができる。
【0025】
即ち、本発明の視力矯正機具であるメガネあるいはコンタクトレンズによれば、空気組成の主な要素であり、それぞれの質量磁化率が異なる窒素(N2)、酸素(O2)に、ナノ粒子化した磁性材料からなる透明磁性体層の磁場を印加することにより、透明磁性体層の周囲の窒素および酸素の濃度変化を得ることで、安価かつ簡便、効率的に眼球近傍の酸素(O2)の濃度を上昇させることができる。
【0026】
さらに詳細に説明すれば、ナノ粒子化した磁性材料からなる透明磁性体層の磁力線によって酸素ガスの濃度が増加することにより、空気の密度変化が発生し、水蒸気、即ち水クラスタが酸素ガスを取り込みながら透明磁性体層の周囲に集められると考えられる。なお、水は液体の状態では反磁性であるが、気体の状態の水蒸気を形成する水クラスタの磁性は、溶存するガスの磁性に従うため、酸素ガスを多く溶存する水蒸気、即ち気体の水クラスタは、酸素ガスと同様に磁性体になり、ナノ粒子化した磁性材料からなる透明磁性体層の周囲の濃度が上昇すると考えられる。ナノ粒子化した磁性材料からなる透明磁性体層を、メガネの表面に形成すると、形成しない場合よりは、明らかに10〜30%の水蒸気量の増加が確認できる。このことにより、ナノ粒子化した磁性材料からなる透明磁性体層を設置したメガネは、目の表面とその周囲の湿度を高めることができ、気温25℃、湿度30%程度の室内においてもメガネ周辺の相対湿度を40〜60%程度に保つことが可能にする。
【0027】
さらに、このようにして形成された透明磁性体層は、波長380〜500nmのブルーライトおよび波長589nmのD線(正確には589.995nmと589.592nmの二本のスペクトル)の少なくとも一部を遮蔽することができる。
【0028】
このように眼に有害なブルーライトおよびD線の少なくとも一部をカットし、眼球に酸素および水分が吸収されることにより、眼球の疲労を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、実験の電磁石の配置と磁場の様子を示す斜視図である。
図2図2は、磁気式酸素濃度測定器の原理を示す図である。
図3図3は、本発明のナノ粒子化した有機無機複合磁性材料からなる磁性体付きメガネの一実施例の概略図を示す斜視図である。
図4図4は、有機磁性体の分子性磁性体の概略を示す斜視図である。
図5図5は、有機磁性体の有機ラジカルアニオンによる磁性体の概略を示す図である。
図6図6は、本発明のナノ粒子化した有機無機複合磁性材料からなる磁性体近傍と離れた位置での水蒸気量(水クラスタ量)の比較実験の特性曲線を示すグラフの例である。
図7図7は、本発明のナノ粒子化した有機無機複合磁性材料からなる磁性体を適用した酸素透過性コンタクトレンズの断面の構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の視力矯正機具は、ナノ粒子化した磁性材料からなる磁性体により形成された薄膜がレンズ表面に形成され、この薄膜状の磁性体により磁極が形成されている。
本発明において、薄膜状の磁性体を形成する磁性材料としては有機系の磁性材料、無機系の磁性材料あるいは有機無機複合磁性材料がある。
【0031】
本発明で使用される磁性材料である有機系の磁性体として、分子性磁性体を用いることができ、分子性磁性体としては、遷移金属あるいはランタノイドなどのようにd電子あるいはf電子を有する原子をスピン源とし,配位子と結合させ磁性錯体としたもの(例:フラーレン類、金属内包フラーレンあるいは金属フタロシアニンなど)、ニトロニルニトロキシド(TCNQ)、テトラシアノキノジメタン、TCNQアニオンなどのような安定な有機ラジカルを分子種として用いることができる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0032】
また、図4に示すRu(acac)2(CN)2)-は、中心に金属が結合して錯体を形成した化合物の例であるが、この錯体を形成している部分にπ電子が共有され、この化合物が集積した化合物はこのπ電子により強固な結晶が形成されて強い磁性を示すようになる。
【0033】
有機化合物であるスピンが局在化した化合物あるいはニトロニルニトロキシド(TCNQ)のようにスピンが局在化していない化合物の例を図5に示す。図5の左に示す化合物(磁性錯体[Cr(NCS)4Phen]-)は、ニトロニルニトロキシド(TCNQ)とは異なり、スピンが局在化しているが、配位子を通して相互作用により、スピンが局在化しているにも拘わらず強固な結晶を形成する化合物の例である。また、ニトロニルニトロキシド(TCNQ)は左右対称の構造を有しており、この化合物が集積すると図5に示すようにπ電子により規則正しい結晶が形成される。このように結晶化したニトロニルニトロキシド(TCNQ)は強い磁性を示す。
【0034】
本発明では、上記のようにπ電子を共有することができる構造を有する有機化合物を有機系の磁性体として使用することが好ましい。
本発明では、上記のような分子種が結晶構造を採るときに強い磁性を発現するとの特性を有する。特に分子性磁性体であるC60フラーレンのようなフラーレン類および金属フタロシアニンを組み合わせて使用することが好ましい。
【0035】
一方、本発明で使用することができる無機物の磁性物質としては、アルニコ磁石、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジム鉄ボロン磁石、サマリウムテク窒素磁石、ハードフェライト磁石等に代表される硬質磁性体、さらにソフトフェライト、鉄、ケイ素鋼、パーマロイ、センダスト、パーメンジュール、アモルファス磁性合金、クリスタル磁性合金等に代表される軟質磁性体を挙げることができる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0036】
これらの物質からなる磁性物質は、何れもハンマーミル、ホモジナイザーなどの粉砕装置で粗粉砕を行い、ボールミル、ビーズミルなど湿式あるいは乾式粉砕装置によって、粒径100nm以下のナノ粒子を形成して、必要により分級して、平均粒子径が好ましくは10〜50nmの範囲内のナノ粒子を形成して使用する。このような微粒子状の磁性粒子を使用することにより強い磁性体を形成することができる。
【0037】
有機無機複合磁性体とする場合には、上記無機磁性材料をボールミルあるいはビーズミルの工程の終盤において上記の有機磁性材料を添加し、粉砕と同時に合成(成形)を行うことで、有機無機複合磁性材料を得ることができる。有機磁性体と無機磁性体との配合比は、前述の粉砕・合成工程で配合する成分を配合量によって調整することができる。なお、本発明では、有機磁性体を単独で、あるいは無機磁性体を単独で調製して,次の工程で無機磁性体と混合して有機無機複合磁性体を調製することもできる。
【0038】
本発明では、有機無機複合磁性体を使用することが特に好ましい。
本発明において、レンズ表面には上記のような薄膜状の磁性体からなる磁極が形成されているが、この磁極は、上記の磁性体の他に、必要により、以下のような成分をさらに加えてもよい。
【0039】
本発明では、上記のような有機無機複合磁性体と共に、高分子ポリマー、非磁性金属および金属酸化物セラミックスよりなる群から選ばれる少なくとも一種の非磁性体を使用して磁性体混合物を製造し、この磁性混合物から、磁極を形成することができる。
【0040】
ここで使用することができる高分子ポリマーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン:PVDFを挙げることができ、非磁性金属としては、例えば、銅、アルミニウム、マンガン、クロム、銀、白金、金などを挙げることができ、さらに金属酸化物セラミックスとしては、例えばコバルトドープ酸化チタン、亜鉛マンガン酸化物、ネオジム鉄酸化物などを挙げることができる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0041】
本発明において、有機無機複合磁性体を製造する際の有機磁性材料と無機磁性材料との配合重量比率は、通常は50:50〜20:80の範囲内に設定される。このような重量比で有機磁性材料および無機磁性材料を使用することにより、高い磁性を有する磁極を形成することが可能になる。また、この複合無機有機磁性体100重量部に対して、高分子ポリマーは通常は0〜15重量部、好ましくは3〜5重量部の範囲内の量で、非磁性金属は通常は0〜20重量部、好ましくは10〜20重量部、特に好ましくは10〜15重量部の範囲内の量で、そして、金属酸化物セラミックスは、通常は0〜50重量部、好ましくは30〜50重量部、特に好ましくは40〜45重量部の範囲内の量で使用される。このようにすることにより、レンズ表面に均一性の高い薄膜を形成することができる。
【0042】
上記のようにして調製された無機磁性材料と有機磁性材料との混合物は、有機磁性材料が熱分解しない温度で焼成することができる。具体的には、無機磁性材料と有機磁性材料との混合物を、通常は200〜350℃の温度、好ましくは250〜320℃の温度で5〜7時間焼成することにより有機無機複合磁性体を得ることができる。
【0043】
レンズ表面に上記のような磁性材料からなる薄膜を形成する方法に特に制限はなく、塗布法等の湿式法、気相法など、公知の方法を採用することができる。例えば気相法の例としては、真空蒸着法、EB蒸着法、CVD法、スッパッタリング法、収束イオンビーム蒸着法などを挙げることができる。
【0044】
特に本発明では気相法を採用し、気相法の中でもスッパッタリング法を採用することが好ましい。
蒸着の条件に特に制限はなく、通常の条件で行うことができる。
【0045】
こうして形成される磁性材料からなる薄膜の厚さは、通常は2〜100nm、好ましくは15〜50nmの範囲内に設定される。薄膜の厚さが2nm,多くの場合5nmより薄いとブルーライトおよびD線を遮蔽することがほとんど不可能であり、また、形成される磁界も弱くて酸素および水クラスタ(水蒸気)の対流はほとんど発生しない。他方、100nmより厚いと、レンズの全光線透過率が低くなり過ぎてメガネあるいはコンタクトレンズとしての機能を失う。
【0046】
本発明では全光線透過率が、95%以上、好ましくは95〜99%の範囲になるように磁性材料からなる薄膜を形成することが望ましい。
上記のように全光線透過率を高くしたとしても、レンズの表面には上記特定の磁性材料からなる薄膜が形成されており、この薄膜により波長380〜500nmのブルーライトおよび波長589nmのD線の一部を効率よく遮蔽することができる。即ち、本発明によれば、波長380〜500nmのブルーライトおよび波長589nmのD線の少なくとも50%を吸収することができるが、このブルーライトおよびD線以外の可視光線の透過率は、通常は80%以上であり、色調感はほとんど変化しないので、通常の作業に何等影響を及ぼすことはない。
【0047】
上記のような薄膜を形成するレンズは、ガラスレンズであってもプラスチックレンズであってもよい。また、コンタクトレンズの場合には従来の酸素透過性レンズ材料であるシロキサニルメタクリレート(SMA)あるいはフルオロメタクリレート(FMA)などを使用して製造することができる。
【0048】
メガネレンズに上記薄膜を形成する場合には、レンズの表面および裏面のいずれの面に薄膜を形成してもよく、両面に形成してもよい。
しかしながら、コンタクトレンズの後面706はレンズの凹部が眼球と接触していることから、磁気による水クラスタ(水蒸気)の対流は起りにくいと考えられ、従って、コンタクトレンズの前面705の表面に薄膜を形成することが好ましい。
【0049】
なお、ここでコンタクトレンズの構成を簡単に説明する。
本発明のコンタクトレンズの断面を図7に示す。図7において、付番701は前面光学部であり、付番702は、フロントベゼルであり、付番703は後面光学部であり、付番705は前面であり、付番706は後面であり、付番707はフロントブレンドであり、付番708はブレンドであり、付番709はエッジであり、付番710は透明磁性体コーティング層であり、そして、付番711は、酸素透過性レンズ材料である。
【0050】
本発明では、図7に示すように、酸素透過性レンズ材料711に、透明磁性体710を真空蒸着あるいはスパッタリング法などによって、コーティングしたコンタクトレンズである。図7においては、薄膜(コーティング)は前面708にのみ形成された態様が示されている。
従来の酸素透過性レンズ材料711であるシロキサニルメタクリレート(SMA)あるいはフルオロメタクリレート(FMA)などを使用して製造することができる。
【0051】
本発明のコンタクトレンズにおいては磁性材料として上述の有機系の磁性材料、無機系の磁性材料および有機無機系複合磁性体を使用することも可能であるが、特に透明度の高い磁性材料を使用することが望ましい。ここで好適に使用することができる透明磁性体710としては、無機磁性体の酸化亜鉛(ZnO)と二酸化マンガン(MnO2)による化合物が透明性および磁力の面で好適である。他に酸化チタン(TiO2、および、鉄(Fe))、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびモリブデン(Mo)などの酸化物、あるいはこれらを含む化合物を用いることができる。本発明によって製造したコンタクトレンズは、その前面705から透明磁性体710の磁界によって集められた酸素(O2)が、多孔質である透明磁性体710を通過して、更に同じく多孔質の酸素透過性レンズ材料711を透過し、角膜と涙の膜を介して接触するブレンド708から角膜に酸素(O2)を供給することができる。
【0052】
一方、メガネについて見ると、図3に本発明の視力矯正機具の一例であるメガネの例を示す。
図3において付番1はメガネのレンズを固定するフレームであり、付番2はレンズ止めねじであり、付番3はブリッジであり、付番6はテンプルであり、テンプル6の後部先端は耳に係るように下方に湾曲して先セル(モダン)を形成している。ブリッジ3の下方には、鼻を挟むように一対のノーズパット7が係止具5によってブリッジ3に係止されている。
【0053】
このメガネのレンズには、ナノ粒子化した磁性材料からなる透明磁性体層がレンズ表面に形成されている。この透明磁性体層はレンズの一方の面に形成されていても良いし、レンズの両面に形成されていてもよい。
【0054】
上記のようにレンズに磁性体からなる透明薄膜を形成すると、この透明薄膜によって吸収されたブルーライトおよびD線は、この磁性体によって電気信号に変換される。
本発明の視力矯正機具には、こうして発生した電気信号からなるノイズをアースするためのノイズアース電極が形成されていることが好ましい。
このノイズアース電極は金属片から形成することもできるし、また、上述の磁性材料、特に有機無機複合磁性材料から形成することもできる。
【0055】
このノイズアース電極は、例えば図3の付番4および付番9に示すようにテンプル6に形成することもできるし、ノイズパット7の表面に貼着するか、ノイズパット7自体をノイズアース電極とすることもできる。
【0056】
なお、ノイズアース電極を磁性材料で形成した場合には、このノイズアース電極によって形成される磁場によって酸素および水クラスタ(水蒸気)が対流し、レンズ表面に形成された磁性材料からなる磁性を有する薄膜によって形成された磁場に生ずる酸素および水クラスタの対流とは別に、新たな対流を形成し、眼球に酸素および水クラスタを供給することができ、毛様体および眼球に充分な酸素と水分を供給することができ、毛様体および眼球を健全な状態に維持することができる。
【0057】
角膜あるいは皮膚は、表面の涙あるいは汗などの水分を介して酸素を吸収することから、水クラスタに溶存した酸素は、角膜や皮膚からの酸素吸収に効果的であり、気体である酸素分子(O2)を角膜や皮膚に直接的に吹き付けるような方法に比べて、保湿と酸素供給を提供する方法としてより効果的である。
【0058】
なお、本発明の磁性材料は、空気組成の主な要素であり、それぞれの質量磁化率が異なる窒素(N2)、酸素(O2)に、磁性体の磁場を印加することにより、磁性体周囲の濃度変化を得ることで、安価かつ簡便、効率的に酸素(O2)の濃度を増加させる利点がある。
【0059】
さらに本発明の視力矯正機具は、視力矯正機具であるめがねのレンズあるいはフレーム、コンタクトレンズ(ハード、ソフト)に、透明光触媒膜を形成して湿度向上による涙液(泪)水分の減少を抑制することを特徴としている。
【0060】
即ち、本発明で使用される磁性材料は光触媒の機能も有しており、活性酸素(OH−:ヒドロキシルラジカル)を紫外光で発生した電子とホールの対の内のホール(h+)によって、還元して分解し水(H2O)と酸素(O2)を生成するとの効果を有し、これにより、メガネ周囲(眼の周囲)の湿度を向上させるとの機能を有する。そして、本発明は、この視力矯正機具に使用する透明光触媒材料及びこの透明光触媒を用いた製膜加工方法をも提供するものである。
【0061】
なお、本発明の視力矯正機具は、クリップ、ストラップあるいはチェーンの形状に加工してメガネのアクセサリーとしてノイズアース電極を形成してメガネに付帯させることができる。
また、本発明の視力矯正機具は、素通しのメガネレンズあるいはコンタクトレンズの表面に磁性材料からなる透明磁気薄膜を形成してもよいことは勿論である。
【実施例】
【0062】
次に本発明の実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらによって限定されるものではない。
〔実施例1〕
図6に、有機磁性体としてニトロニルニトロキシド(TCNQ)を選択し、無機磁性体としてコバルトドープ酸化チタンを選択して有機磁性体:無機磁性体=3:7の比率で混合し、粉砕し平均粒子径50nmの粒子を形成し、これを300℃で焼成して有機無機複合磁性体からなる磁性体を形成した磁性体の結晶を模式的に示す。
【0063】
この磁性体をターゲットとして用いて、ポリカーボネート製のレンズの両面に、スパッタリングにより、厚さ10nmの薄膜を形成した。このレンズを図3に示すメガネのレンズとして使用しメガネの左右のテンプル前縁部の左右同じ位置に湿度センサを配置し、比較のために、レンズから離れた位置にも、温湿度センサを取り付け、パーソナルコンピュータを用いた自動計測機によって、約3700分(61時間以上)連続で、1分間隔の計測を行った結果を集計した。
【0064】
メガネの左右で値が異なるが、メガネから離れた位置での値と比較すると、メガネレンズ左右のセンサの方が、レンズから離れた位置のセンサに対し、明らかに変動が少なく、かつ高い値を示している。
【0065】
前述の比較実験によって確認された、本発明のメガネレンズによる磁性材料の磁界による酸素分子と酸素を主に溶存していると考えられる水蒸気(水クラスタ)の増加現象は、目の表面と周囲の湿度を高める効果があると言え、目の潤いのために理想的な湿度条件とされる湿度40〜60%程度に保つことが可能である。
【0066】
本発明の方法によれば、自然に存在している水蒸気(水クラスタ)を利用するため、従来の方法である水タンク等の容器に入れた水を体温で揮発させる方法に比べて、水の補充や水タンク等の容器の洗浄が必要なく、取扱いが容易であり、かつ常に衛生的であると言える。
【0067】
また、このメガネに装着されたレンズは、波長380〜500nmのブルーライトおよび波長589nmのD線の50%をカットすることができたが、その他の可視光線に対して全光透過率は80%以上であり、メガネと通して見た色調と、メガネを用いないで見た色調に変化は感じられなかった。
【0068】
〔実施例2〕
本発明による磁性材料を有機磁性体として、C60フラーレン誘導体と金属(銅)フタロシアニンとの錯体を選択し、無機磁性体として、ネオジム鉄ボロンを選択して、有機磁性体:無機磁性体=3:7の比率で混合し、300℃以下の低温での粉体焼結を行い、有機無機複合磁性体として試作した。
【0069】
この有機無機複合磁性体をターゲットとして用いてポリカーボネート製レンズの両面に厚さ10nmの磁性体薄膜を形成した。
これを用いて実環境に設置した試験を行った結果、磁性体から離れた位置の湿度が40%、気温が25℃の時に、磁性体近傍の湿度は58%、気温は25℃となり、式1によって、水蒸気量(水クラスタ量)を算出すると、約12.7g/cm3を得られた。
【0070】
【数1】
※飽和水蒸気量は、その環境の気温と大気圧から算出した。
【0071】
結果を図6に示す。
図6から明らかなように上記式1によって、磁性体から離れた位置の水蒸気量(水クラスタ量)を算出すると、約9.2g/cm3となり、明らかに磁性体近傍の水蒸気量(水クラスタ量)は、磁性体から離れた位置よりも高い値であると言える。
【0072】
また、このメガネに装着されたレンズは、波長380〜500nmのブルーライトおよび波長589nmのD線の50%をカットすることができたが、その他の可視光線に対して全光透過率は80%以上であり、メガネと通して見た色調と、メガネを用いないで見た色調に変化は感じられなかった。
【0073】
〔実施例3〕
本発明の実施例2で製造した有機無機複合磁性体からなる厚さ10nmの磁性薄膜を有するメガネレンズ設置したメガネを試作し、被験者を募った官能検査による評価試験を行ったので、その結果を以下に記載する。
【0074】
評価方法:官能検査法
被験者数:100名
性別:男性50名、女性:50名
年齢:20〜50代
試験方法:本発明のメガネ使用及び未使用状態で、各2時間パソコンによる業務処理
(表計算ソフトへのデータ入力作業)
評価 :アンケート集計結果
効果あり:37名
効果なし:6名
不明 :57名
結果として、不明を除くと43名中37名(約85%)に効果が確認できた。
【0075】
また、このメガネに装着されたレンズは、波長380〜500nmのブルーライトおよび波長589nmのD線の50%をカットすることができたが、その他の可視光線に対して全光透過率は80%以上であり、メガネと通して見た色調と、メガネを用いないで見た色調に変化は感じられなかった。
【符号の説明】
【0076】
1・・・フレーム
2・・・レンズ止めねじ
3・・・ブリッジ
4、9・・・ノイズアース電極
5・・・係止具
6・・・テンプル
7・・・ノーズパット
701・・・前面光学部
702・・・フロントベゼル
703・・・後面光学部
705・・・前面
706・・・後面
707フロントブレンド
708・・・ブレンド
709・・・エッジ
710・・・透明磁性体コーティング層
711・・・酸素透過性レンズ材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7