(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
<実施例>
【0013】
図1を参照する。本発明による感温式弁機構20は、例えば、オイルポンプ11に着脱自在に取り付けられる。オイルポンプ11は、エンジン10に直接又は間接的に設けられ、潤滑油Oiを循環させる。
【0014】
オイルポンプ11は、インナーギヤ12と、アウターギヤ13と、これらのギヤ12,13を収納するポンプハウジング14と、からなる。
【0015】
エンジン10の動力の一部でインナーギヤ12が回されると、アウターギヤ13が連れ回る。この回転中に、ギヤ12,13間のギャップGの間隔が変化する。矢印(1)に示されるように、ギャップGが広がる箇所では、潤滑油Oiが吸入される。矢印(2)のように、ギャップGが狭まる箇所では、潤滑油Oiが吐出される。
【0016】
ポンプハウジング14には、油路としての主油路15と、この主油路15に略平行にリターン油路16と、が設けられている。主油路15が高油圧時の場合、油路内に設けられる一般的なリリーフバルブにより潤滑油Oiはリターン油路16に戻される。
【0017】
さらに、ポンプハウジング14には、感温式弁機構20を挿入可能な弁挿入孔21が空けられている。弁挿入孔21は、主油路15を横断し、先端がリターン油路16近傍に達する。弁挿入孔21には、孔口に雌ねじ22が設けられ、先端近傍にポンプハウジング14の外に通じる排出ポート23が設けられている。
【0018】
図2(a)を参照する。
図2(a)には、弁挿入孔21に挿入された感温式弁機構20が示されている。感温式弁機構20は、周囲の温度に応じてロッドが伸縮するサーモエレメントを用いたタイプである。
【0019】
詳細には、感温式弁機構20は、ポンプハウジング14に固定されたプラグ31と、このプラグ31に一方(この例ではロッド51)が支持されるサーモエレメント32と、サーモエレメント32を囲うカバー33と、プラグ31側にサーモエレメント32を付勢するばね34と、サーモエレメント32の他方に固定されるバルブ35と、からなる。
【0020】
プラグ31は、鍔41を備えると共に六角穴42を備え、外周に雄ねじ43が形成されている。サーモエレメント32は、進退するロッド51と、このロッド51を囲う弾性膜52と、この弾性膜52を囲うケース53と、このケース53と弾性膜52との間に封入されるサーモワックス54と、からなる。
【0021】
カバー33は、円筒形状を呈し、主油路15を流れる潤滑油Oiがサーモエレメント32に接触するための一対の貫通穴33a,33aが空けられている(
図4も併せて参照)。バルブ35には、複数の通孔36,36が空けられている。
【0022】
感温式弁機構20の固定方法を説明する。感温式弁機構20を弁挿入孔21に挿入し、六角レンチを用いてプラグ31を回転させる。雄ねじ43と雌ねじ22が係合し、感温式弁機構20は、ポンプハウジング14に固定される。
【0023】
潤滑油Oiの温度が低い場合、サーモワックス54は収縮しており、バルブ35は、排出ポート23を閉じていない。排出ポート23が全開する場合と全開しない場合が存在する。そのため、矢印(3)に示されるように、主油路15を流れてきた潤滑油Oiは、サーモエレメント32に接触し、通孔36,36、排出ポート23の順に流れる。
【0024】
図2(b)を参照する。潤滑油Oiの温度が上昇すると、サーモワックス54が膨張し、体積が増加する。ロッド51はプラグ31側に前進する(出代が伸びる)。ロッド51は、プラグ31に接触しているため、ケース53が排出ポート23側へ移動する。結果、バルブ35は、例えば、排出ポート23の開口面積の約半分を閉じる。
【0025】
潤滑油Oiの温度が更に上昇すると、サーモワックス54が更に膨張し、体積が更に増加する。バルブ35は、排出ポート23を完全に閉じる方向に移動する。一方、潤滑油Oiの温度が下がると、サーモワックス54が収縮し、バルブ35は、プラグ31側に移動する。
【0026】
図3(a)を参照する。
図3には、一般的な乗用車について、エンジン始動後の時間と油温(主油路15における潤滑油Oiの温度)との関係が示されている。縦軸は、油温(℃)であり、横軸は、時間(分)である。実線は、大気温度が25℃での油温、破線は大気温度が0℃での油温を示す。
【0027】
例示の乗用車では、エンジン始動時に25℃であった潤滑油Oiは約15分後には80℃に達し、以降は約80℃で一定になる。点P1でエンジンが停止した場合、潤滑油Oiは0.2℃/分の割合で徐々に冷却された。エンジン始動時に0℃であった潤滑油Oiは20分後には80℃に達し、以降は約80℃で一定になる。点P1でエンジンが停止した場合、潤滑油Oiは0.5℃/分の割合で徐々に冷却された。
【0028】
計測の結果、起動時と停止時を除くと、潤滑油Oiの常用温度は約80℃であることが判明した。
【0029】
図3(b)を参照する。次に、サーモエレメント32(
図2参照)の駆動源であるサーモワックス54の熱的性質を説明する。縦軸は、ロッド移動量(mm)であり、横軸は、サーモワックスの温度(℃)である。サーモワックス54は、低温で固相、中温で固液混合相、高温で液相になる。
【0030】
詳細には、サーモワックス54は、点P3未満では固相、点P3から点P4までの間で固液混合相、点P4以上で、液相になるように設定した。点P3は、45℃、点P4は、48℃〜56℃の範囲、好ましくは、点P4は、50℃〜54℃の範囲、さらに好ましくは、52℃である。この設定は、特性の異なる複数のサーモワックスを混ぜることにより得られる。点P4は、固液混合相と液相の境界温度に相当する。
【0031】
次に、感温式弁機構20の製造方法について説明する。
【0032】
図4(a)を参照する。始めに、プラグ31と、ばね34の一端34aを支持するサーモエレメント32と、カバー33と、を準備する。プラグ31の下面には、円筒形状の壁部44が設けられている。さらに、プラグ31の下面には、壁部44に沿って、環状の差込溝45が形成されている。プラグ31の下面の中央には、円筒状の差込孔46が形成されている。サーモエレメント32の下部には、バルブ35(
図2参照)が差し込まれる被差込部55が形成されている。被差込部55は、円筒形状を呈する。一対の貫通穴33a,33aは、筒体の軸方向と直交するように、カバー33に大きく空けられている。
【0033】
差込孔46には、ロッド51を差し込む。差込溝45には、カバー33を差し込む。
【0034】
図4(b)を参照する。次に、プラグ31にサーモエレメント32とカバー33が取り付けられた状態で、プラグ31の壁部44をかしめる。サーモエレメント32とカバー33は、プラグ31に固定され、ばね34の他端34bは、カバー33に支持される。これにより、プラグ付きサーモエレメント81が得られる。
【0035】
図5(a)を参照する。次に、温水61(流体61)が入った恒温液槽を準備し、温水61内に、バルブ保持台62、かしめ機63、サーモエレメント保持台64を置く。温水61の温度は、潤滑油Oiの常用温度であり且つサーモワックス54が液相である80℃に設定する。なお、恒温液槽には、油を入れても良い。恒温液槽に浸される製品に発生する錆を抑制できる。
【0036】
バルブ35は、排出ポート23(
図2参照)を開閉する本体部71と、サーモエレメント32に差し込まれる差込部72と、からなる。バルブ保持台62には、本体部71を載置する。サーモエレメント保持台64には、プラグ付きサーモエレメント81を載置する(準備工程、載置工程)。
【0037】
図5(b)を参照する。温水61内に、プラグ付きサーモエレメント81を載置すると、温水61の熱により、サーモエレメント32内のサーモワックス54(
図2参照)は膨張し、ロッド51が前進する。矢印(4)に示されるように、サーモエレメント32は、バルブ35に向かって変位する。これにより、サーモエレメント32は、バルブ35に取り付けられる(バルブ取付工程)。
【0038】
なお、差込部72は、円筒形状を呈する。即ち、差込部72は、中空体であり、差込の際において、温水の抜け口となる。そのため、差込部72は、サーモエレメント32に容易に取り付けることができる。
【0039】
図6を参照する。バルブ35の差込部72と、サーモエレメント32の被差込部55について説明する。バルブ35の板厚は、例えば、0.6mm〜1.4mm程度が好ましい。バルブ35に適度なスプリングバック量を確保させるためである。理由は後述する。
【0040】
バルブ35の差込部72の外周面73には、凹部74が形成されている。この凹部74は、外周面73の全周に沿って環状に連続的に形成されている。なお、例えば、外周面73の全周に沿って複数の凹部74を軸方向に離間して形成してもよく、さらには、外周面73をローレット加工してもよい。
【0041】
図7(a)を参照する。次に、ロッド51が前進した状態のまま、差込部72が差し込まれた被差込部55をかしめる(かしめ工程)。バルブ35は、プラグ付きサーモエレメント81に固定される。これにより、感温式弁機構20(バルブ付きサーモエレメント82)が得られる。
【0042】
なお、少なくともかしめ工程において、サーモエレメント32内のサーモワックス54(
図2参照)は、液相状態である。
【0043】
図7(b)を参照する。次に、温水61から感温式弁機構20を取り出す。サーモエレメント32は、大気にさらされ、ばね34の付勢力によりロッド51は後退する。矢印(5)に示されるように、バルブ35は、カバー33側に移動し、感温式弁機構20は、収縮状態となる。
【0044】
次に本発明の作用及び効果について説明する。
【0045】
図6,
図7を参照する。感温式弁機構20の製造方法では、サーモエレメント32とバルブ35とを温水61内に載置させた後に、温水61の熱によりロッド51を前進させて、前進させた状態のまま被差込部55にバルブ35を取り付ける。その後、被差込部55に取り付けられたバルブ35をかしめて、バルブ付きサーモエレメント82が得られる。
【0046】
この製造方法では、個々のサーモエレメント32について、ロッド51の前進の長さが異なる場合であっても、バルブ35を取り付けた時に、ロッド51の前進の長さのばらつきは吸収される。ばらつきが吸収された状態で、かしめられるため、バルブ付きサーモエレメント82は、鍔41の他端(下端)からバルブ35の他端(下端)までの距離L(
図7参照)が同一となる。結果、かしめ加工が行われた80℃周辺においてロッド51が伸縮するとき、バルブ35の変位の精度が高くなる。
【0047】
例えば、感温式弁機構20を、オイルポンプ11に取り付けると、温度変化に対するバルブ35による排出ポート23の開口面積が正確となる(
図2参照)。
【0048】
図3,
図7を参照する。潤滑油Oiの常用温度は約80℃であり、80℃のとき、サーモワックス54は、液相状態である。即ち、サーモワックス54が液相状態のときに、差込部72と被差込部55はかしめられる。液相状態のサーモワックス54は、固液混合相と比較すると、温度変化に対する体積変化率が小さい。温度の変化に対して体積変化率が小さいと、ロッド51の移動量が少なくなるため、かしめ工程時の温度が多少ばらついたとしてもバルブ35の変位の誤差も小さくなる。結果、温度変化に対する誤差が少ない弁の開閉が可能となる。
【0049】
なお、潤滑油Oiの変更範囲が60℃〜100℃である場合、いわゆるアイドリングストップでエンジンを停止すると、頻度は少ないが潤滑油Oiの温度が60℃以下になることがある。点P4が56℃であれば、余裕(マージン)が4℃あり、点P4が52℃であれば、余裕(マージン)が8℃あるため、固液混合相で使われる心配はない。また、点P4を48℃未満に設定すると点P3が下がる。すると、室温で固液混合相となるおそれがあり、取り扱いが難しくなる。よって、点P4は、48℃〜56℃の範囲に収めることが推奨される。
【0050】
図8を参照する。バルブ35の差込部72は、中空体のため、スプリングバックが生じやすい。差込部72のスプリングバック量V1は、被差込部55のスプリングバック量V2よりも大きい構成である(
図8(a)参照)。そのため、差込部72は、被差込部55に密着し、被差込部55とバルブ35の緩みを抑えることができる(
図8(b)参照)。
【0051】
加えて、差込部72は、被差込部55に比べて比例限度を大きくすると良い。これによっても差込部72のスプリングバック量V1は、被差込部55のスプリングバックV2よりも大きくできる。また、差込部72は、被差込部55に比べて材料の硬度を大きくすると良い。これによっても差込部72のスプリングバック量V1は、被差込部55のスプリングバック量V2よりも大きくできる。より一層サーモエレメント32とバルブ35の緩みを抑えることができる(
図8(b)参照)。
【0052】
加えて、差込部72の外周面73の一方には、凹部74が形成されている。差込部72が差し込まれた被差込部55がかしめられると、凹部74に対向する被差込部55の内周面56が凸部57となり、凸部57が、凹部74に入り込む。そのため、差込部72は、被差込部55から抜けにくくなり、バルブ35は、サーモエレメント32に強固に固定される。
【0053】
加えて、バルブ35がサーモエレメント32に強固に固定されると、かしめ深さを抑えることもできる。かしめによる被差込部55の変形量が少ないと、ロッド51の伸縮方向について(
図2参照)、バルブ35の取り付け位置が変化することを抑制できる。結果、排出ポート23の開口面積の精度を保つことができる。
【0054】
次に、本発明の変形例について説明する。
図9を参照する。実施例による感温式弁機構20(
図6参照)と比較すると、変形例では、差込部と被差込部が形成される部位が入れ替わっている。即ち、変形例の感温式弁機構20Aでは、サーモエレメント32Aに差込部84Aが設けられ、バルブ35Aに被差込部85Aが設けられている。さらに、凹部86Aは、被差込部85Aの内周面87Aに全周に沿って環状に連続的に形成されている。
【0055】
このように、差込部、被差込部、凹部を形成する部位が入れ替わっていてもよい。バルブとサーモエレメントについて、素材、板厚等の選択の自由度が高く、所定のスプリングバック量を確保するための設計がしやすい。
【0056】
なお、本実施例では、エンジンに設けられるオイルポンプに着脱可能な感温式弁機構を例に説明したが、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。例えばミッション、ブレーキ、パワーステアリング等の油路にも採用することができる。また感温式弁機構を直接エンジンに取り付けても良い。