特許第6706988号(P6706988)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706988
(24)【登録日】2020年5月21日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】ボルテゾミブを含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/69 20060101AFI20200601BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20200601BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20200601BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20200601BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20200601BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20200601BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200601BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   A61K31/69
   A61K47/18
   A61K47/22
   A61K47/04
   A61K47/12
   A61K9/19
   A61P43/00 111
   A61P35/00
   A61P43/00 121
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-142610(P2016-142610)
(22)【出願日】2016年7月20日
(65)【公開番号】特開2018-12660(P2018-12660A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 晃
(72)【発明者】
【氏名】本山 順
【審査官】 六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−001995(JP,A)
【文献】 特表2013−522320(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/059023(WO,A1)
【文献】 特表2005−518434(JP,A)
【文献】 特開平05−246856(JP,A)
【文献】 特開2012−031151(JP,A)
【文献】 特開2002−201137(JP,A)
【文献】 特開平07−082149(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/198338(WO,A1)
【文献】 国際公開第96/016658(WO,A1)
【文献】 特開平08−040907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/69
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ボルテゾミブ又はその医薬的に許容される塩、若しくはボルテゾミブの誘導体、(b−1)グアニジノ基を有する化合物、及び(D)ピリジン誘導体を含有する医薬組成物又は、
(A)ボルテゾミブ又はその医薬的に許容される塩、若しくはボルテゾミブの誘導体、及び(b−2)ウレイド基を有する化合物を含有する医薬組成物であって、
前記ボルテゾミブの誘導体が、ボルテゾミブのボロン酸官能基とポリオール化合物とのエステル誘導体、ボルテゾミブのボロン酸官能基とα‐ヒドロキシ‐β‐カルボン酸化合物との酸無水物‐エステル混合誘導体、又はボルテゾミブのボロン酸官能基とジカルボン酸化合物との酸無水物誘導体であり、
(b−1)グアニジノ基を有する化合物がアルギニンであり、
(D)ピリジン誘導体がニコチン酸アミドであり、
(b−2)ウレイド基を有する化合物が尿素である、
医薬組成物。
【請求項2】
(C)pH調整剤を含み、(A)ボルテゾミブ濃度として1〜2.5mg/mLとしたときの医薬組成物水溶液のpHが4〜7である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
(A)ボルテゾミブ又はその医薬的に許容される塩、若しくはボルテゾミブの誘導体が1質量部に対し、(B)グアニジノ基を有する化合物及び/又はウレイド基を有する化合物が0.1〜25質量部を含有する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項の医薬組成物を含有する医薬製剤。
【請求項5】
凍結乾燥製剤である、請求項に記載の医薬製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルテゾミブを含有する医薬組成物について、ボルテゾミブの安定性を保持し類縁物質の生成を抑制した医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルテゾミブは、化学名(N‐(2‐ピラジンカルボニル)‐L‐フェニルアラニン‐L‐ロイシンボロン酸)とするプロテアソーム阻害作用を有する抗悪性腫瘍剤であり、現在、多発性骨髄腫及びマントル細胞リンパ腫の治療剤として用いられている。臨床に供されているボルテゾミブの医薬製剤は、有効成分であるボルテゾミブと添加剤のD−マンニトールを含む凍結乾燥製剤であって、ボルテゾミブ注射用製剤(ベルケイド(Velcade)(登録商標))として提供されている。該製剤は、静脈内投与と皮下投与で承認がなされており、その投与方法によって溶解液の量が異なる。静脈内投与を行う場合は生理食塩水3mLに、皮下投与を行う場合は生理食塩水1.2mLに溶解して用いられている。
【0003】
アミノアルキルボロン酸であるボルテゾミブは、酸化や化学的な分解を受けやすく、不安定な物性であることが知られている。また、ボロン酸自体が脱水的に反応して酸無水物化をして多量体化する物性である。このため、ボルテゾミブを有効成分とする医薬製剤を調製する場合、酸化や分解に対する安定化、酸無水物化による多量体化を抑制するための対策が必要である。
例えば、特許文献1には、ボルテゾミブのボロン酸とマンニトール等の糖類とのボロン酸エステル誘導体を開示しており、これを用いた医薬製剤が教唆されている。これは、ボルテゾミブ及びマンニトールのtert−ブタノール溶液又はtert−ブタノール含水溶液を凍結乾燥することで調製されている。また、特許文献2には、ボルテゾミブとトロメタミンを含む凍結乾燥製剤が記載されている。これは、強いB−N結合を有するボルテゾミブのトロメタミン塩であることが記載されている。特許文献3には、ボルテゾミブ誘導体の凍結乾燥製剤であって、シクロデキストリン及び単糖を有する増量剤と界面活性剤とからなる群から選択される医薬製剤が記載されている。
ボルテゾミブは安定性に問題があるため、通常は凍結乾燥製剤を検討されているが、特許文献4には、プロピレングリコールを添加することにより安定化された水溶液製剤が開示されている。また、特許文献5には、クエン酸等のα‐ヒドロキシ‐β‐カルボン酸とボルテゾミブとの酸無水物‐エステル誘導体が開示されており、それを医薬製剤にできることが記載されている。
このように、ボロン酸はアルコールやカルボン酸と反応してボロン酸エステルや酸無水物を形成することが知られている。このようなボロン酸エステルや酸無水物は、水溶液中で加水分解を受けてボルテゾミブが再構成される。そこで、このボロン酸物性を利用して、投与時にボルテゾミブを再生し得るボルテゾミブ誘導体を製剤時の化学種として用いる試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4162491号公報
【特許文献2】特許第5689816号公報
【特許文献3】特許第5722871号公報
【特許文献4】特許第5661912号公報
【特許文献5】国際公開WO2009/154737号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、類縁物質の生成が抑制されたボルテゾミブを含む医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ボルテゾミブ又はその医薬的に許容される塩、若しくはボルテゾミブの誘導体と共に、グアニジノ基を有する化合物及び/又はウレイド基を有する化合物を用いることで、有効成分であるボルテゾミブの分解を抑制した医薬製剤を提供できることを見出した。本願は、以下の[1]〜[7]に記載の発明を要旨とする。
[1] (A)ボルテゾミブ又はその医薬的に許容される塩、若しくはボルテゾミブの誘導体、(B)グアニジノ基を有する化合物及び/又はウレイド基を有する化合物、を含有する医薬組成物。
[2] (C)pH調整剤を含み、(A)ボルテゾミブ濃度として1〜2.5mg/mLとしたときの医薬組成物水溶液のpHが4〜7である、前記[1]に記載の医薬組成物。
[3] (A)ボルテゾミブ又はその医薬的に許容される塩、若しくはボルテゾミブの誘導体が1質量部に対し、(B)グアニジノ基を有する化合物及び/又はウレイド基を有する化合物が0.1〜25質量部を含有する、前記[1]又は[2]に記載の医薬組成物。
[4] (B)グアニジノ基を有する化合物がアルギニンであって、ウレイド基を有する化合物が尿素である、前記[1]〜[3]の何れか一項に記載の医薬組成物。
[5] (D)ピリジン誘導体を含有する、前記[1]〜[4]の何れか一項に記載の医薬組成物。
[6] 前記[1]〜[5]の何れか一項の医薬組成物を含有する医薬製剤。
[7] 凍結乾燥製剤である、前記[6]に記載の医薬製剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明のボルテゾミブ又はその医薬的に許容される塩、若しくはボルテゾミブの誘導体を有効成分とする医薬組成物は、ボルテゾミブの分解に伴う類縁物質の生成を抑制することができ、保存安定性に優れたボルテゾミブの医薬組成物を提供することができる。したがって、ボルテゾミブの効能および安全性を長期に亘って保持することができる医薬製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、(A)ボルテゾミブ又はその医薬的に許容される塩、若しくはボルテゾミブの誘導体、(B)グアニジノ基を有する化合物及び/又はウレイド基を有する化合物、を含有する医薬組成物である。以下に、その詳細について説明する。
【0009】
本発明は、ボルテゾミブ又はその誘導体を有効成分とする医薬組成物に関する。ボルテゾミブは、プロテアソーム阻害活性を有する化学名(N‐(2‐ピラジンカルボニル)‐L‐フェニルアラニン‐L‐ロイシンボロン酸)である。当該化合物は、特許第3717934号にて開示されるボロン酸誘導体であって、それに記載の方法により入手可能である。
本発明のボルテゾミブは、医薬的に許容される適当な塩であっても良い。医薬的に許容される塩とは、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム、カリウムなど)、アルカリ土類金属塩(マグネシウム、カルシウムなど)、アンモニウム塩及び医薬的に許容可能なアミンの塩(テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミン、メチルアミン、ジエチルアミン、シクロペンチルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピペリジンモノエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミン、リジン、アルギニン及びN−メチル−D−グルカン)が含まれる。
【0010】
また、本発明は有効成分としてボルテゾミブの誘導体であっても良い。当該誘導体とは、ボルテゾミブのボロン酸官能基とのエステル誘導体、酸無水物誘導体、酸無水物‐エステル混合誘導体であって、水溶液中で、加水分解的に開裂してボルテゾミブを再生する物性である誘導体である。すなわち、1,2−ジオールを含むポリオール化合物、α‐ヒドロキシ‐β‐カルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物とボルテゾミブとの反応生成物が挙げられる。例えば、ボルテゾミブとグリセリン、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、グルコース、マルトース、スクロース、トレハロース、ラクトース、フルクトース、メグルミン、イノシトール、グルコン酸ナトリウム、シクロデキストリン等のポリオール化合物とのボロン酸エステル誘導体。クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、サリチル酸、マンデル酸、3−ヒドロキシ酪酸等のα‐ヒドロキシ‐β‐カルボン酸とボルテゾミブとの酸無水物‐エステル混合誘導体、シュウ酸、マロン酸、コハク酸等のジカルボン酸との酸無水物等が挙げられる。
本発明において、ボルテゾミブ又はその医薬的に許容される塩、若しくはボルテゾミブの誘導体(A)は、ボルテゾミブ、ボルテゾミブの塩、又はボルテゾミブの誘導体の何れか1種の化学種であっても良く、2種以上の混合物であっても良い。また、一部が、ボルテゾミブの3量体等の自己脱水縮合体を含んでいても良い。しかしながら、該3量体は難溶性であり、水溶液として投与する際に不溶性異物となるため、該3量体等の自己脱水縮合物は含まないことが好ましい。当該(A)成分としては、医薬品用の有効成分として用いることができる品質レベルである事が好ましい。
【0011】
本発明は(B)グアニジノ基を有する化合物(b−1)及び/又はウレイド基を有する化合物(b−2)、を用いる。
グアニジノ基を有する化合物(b−1)とは、例えばグアニジン又はその塩、クレアチン、クレアチニン、アルギニン等を挙げることができる。好ましくはアルギニンである。
【0012】
ウレイド基を有する化合物(b−2)とは、例えば、尿素、エチル尿素等を挙げることができる。好ましくは尿素である。
【0013】
本発明において、(B)グアニジノ基を有する化合物及び/又はウレイド基を有する化合物の適用量は、有効成分である(A)ボルテゾミブ又はその医薬的に許容される塩、若しくはボルテゾミブの誘導体が1質量部に対し、(B)グアニジノ基を有する化合物及び/又はウレイド基を有する化合物が0.1〜25質量部を含有することが好ましい。(A)成分1質量部に対して(B)成分が0.1質量部より少ない場合、所望のボルテゾミブの類縁物質生成抑制効果が奏功し得ない懸念がある。一方、(B)グアニジノ基を有する化合物及び/又はウレイド基を有する化合物は、医薬品として容認できる範囲において用いることができる。より好ましくは、(A)成分1質量部に対して(B)成分は0.25〜20質量部である。グアニジノ基を有する化合物(b−1)成分の適用量は、0.25〜5質量部であることが更に好ましい。ウレイド基を有する化合物(b−2)成分の適用量は、1〜20質量部であることが更に好ましい。
【0014】
本発明の医薬組成物は、(C)pH調整剤を含むことが好ましい。なお、pH調整剤を含み、有効成分であるボルテゾミブ(A)の濃度として1.0〜2.5mg/mLとした本発明の医薬組成物水溶液において、pHが4〜7である、医薬組成物であることが好ましい。該ボルテゾミブの誘導体は、水溶液中にてボルテゾミブが再生される物性であることから、有効成分であるボルテゾミブの濃度として1.0〜2.5mg/mLの水溶液において、pHが4.0〜7.0である、医薬組成物であることが好ましい。好ましくは、前記水溶液としてpH4.5〜6.5である医薬組成物である。更に好ましく、pH5.0〜6.0の範囲に調整するのが特に好ましい。
【0015】
(C)pH調整剤とは、医薬製剤において一般的に使用されているものであり、本発明の医薬組成物に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されない。例えば、塩酸、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、乳酸及び酢酸等の有機酸、といった酸性剤が挙げられる。また、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機酸のアルカリ土類金属塩等といったアルカリ性剤を挙げることができる。また、前記酸性剤及びアルカリ性剤を混合してpH調整した緩衝剤を用いても良い。緩衝剤としては、リン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、乳酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、TRIS緩衝剤、グリシン緩衝剤及びヒスチジン緩衝剤等が挙げられる。これらのpH調整剤は単独で用いても良く、また二種以上を組み合わせて用いても良い。
本発明における(C)pH調整剤としては、好ましくは塩酸、リン酸又はその塩(リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム等)及び水酸化ナトリウムである。すなわちリン酸又はリン酸緩衝液を用いることが好ましい。
(C)pH調整剤は、医薬組成物を製造する際に、溶液のpHを目的のpHに調整することができればよく、適量で使用される。本発明の医薬組成物の製造に使用されるpH調整剤の配合量は、pHを上記の範囲に調整できれば特に限定されない。通常、pH調整剤はpHを目的の範囲に調整できるように適量使用される。
【0016】
本発明の医薬組成物はピリジン誘導体(D)を含有することが好ましい。ピリジン誘導体は有効成分である(A)ボルテゾミブ又はその医薬的に許容される塩、若しくはボルテゾミブの誘導体の溶解性を向上させることができる。例えば、本発明の医薬組成物が凍結乾燥製剤の態様であって、投与時に例えば生理食塩水を用いて水溶液を再構成する場合、該ピリジン誘導体(D)を含む製剤は水溶性が向上しているため、速やかに溶解して投与用の水溶液を容易に調製することができる。
ピリジン誘導体(D)としてはニコチン、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン等を挙げることができる。好ましくはニコチン酸、ニコチン酸アミドがあげられる。より好ましくはニコチン酸アミドである。
本発明の医薬組成物にピリジン誘導体(D)を用いる場合、有効成分である(A)ボルテゾミブ又はその医薬的に許容される塩、若しくはボルテゾミブの誘導体が1質量部に対し、(D)ピリジン誘導体が0.1〜30質量部を含有することが好ましい。好ましくは、(A)成分が1質量部に対して、(D)ピリジン誘導体は1〜15質量部である。
【0017】
本発明の(A)ボルテゾミブ又はその医薬的に許容される塩、若しくはボルテゾミブの誘導体を有効成分とする医薬組成物は、(B)グアニジノ基を有する化合物(b−1)及び/又はウレイド基を有する化合物(b−2)、並びに任意の添加成分である(C)pH調整剤、(D)ピリジン誘導体以外に、通常の医薬製剤に用いられる他の添加剤を含有していても良い。他の添加剤としては、ボルテゾミブの安定性を維持する範囲において通常の医薬製剤に用いられる等張化剤、賦形剤、溶解補助剤、抗酸化剤等を添加しても良い。
等張化剤としては塩化ナトリウム等の塩類、マンニトール、ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース等の糖又は糖アルコールが挙げられる。
また、賦形剤としても、塩化ナトリウム等の塩類、マンニトール、ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース等の糖又は糖アルコールを用いることができる。
溶解補助剤としては、グリセリン、チオグリセリン、プロピレングリコール等のポリオール類、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンヒマシ油等のポリエーテル系化合物等を挙げることができる。
抗酸化剤としては、ブチル化ヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、α‐トコフェロール、トコフェロールポリエチレングリコールスクシナート、L‐システイン等が挙げられる。
他の添加剤の含有量は、ボルテゾミブの安定性を考慮して適切な量を適宜設定して用いられるが、有効成分であるボルテゾミブ又はその誘導体(A)1質量部に対し、それぞれ30質量部以下で添加して用いることが好ましい。より好ましくは、ボルテゾミブ1質量部に対し、それぞれ15質量部以下の適用量である。
【0018】
本発明の医薬組成物は、それを含む適当な医薬製剤形に調製することにより医薬製剤として提供することができる。ボルテゾミブを有効成分とする医薬品は、注射剤の製剤形で静脈内投与又は皮下投与にて抗腫瘍剤として提供されていることから、本発明の医薬製剤も注射用製剤であることが好ましい。すなわち凍結乾燥製剤若しくは注射液製剤等の製剤型であることが好ましい。
【0019】
本発明の医薬製剤は、所定量の(A)ボルテゾミブ又はその医薬的に許容される塩、若しくはボルテゾミブの誘導体、(B)グアニジノ基を有する化合物(b−1)及び/又はウレイド基を有する化合物(b−2)、並びに任意の添加成分である(C)pH調整剤、(D)ピリジン誘導体、その他の添加剤を含有する溶液を調製し、これをメンブランフィルターにて濾過し、カラス製バイアルに分注することで調製できる。注射液製剤の場合は、これを無菌的に封止することで調製することができ、凍結乾燥製剤の場合は、溶液を分注したバイアルを凍結乾燥して無菌的に封止すれば良い。
前記成分(A)及び(B)、並びに任意の成分(C)、(D)及びその他の添加剤を含有する溶液を調製するための溶剤は、これらの成分を溶解できて、医薬的に許容される溶剤であれば特に限定されるものではなく、適宜選択して適当な溶剤を用いて良い。例えば、水、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール、グリセリン、プロピレングリコール、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ポリエチレングリコール(マクロゴール)、ポリソルベート(Tween)、クレモホール等が挙げられ、これらの単独使用若しくは、2種以上の混合溶剤として用いても良い。
【0020】
本発明の医薬製剤は、凍結乾燥製剤であることを含む。
凍結乾燥製剤を調製する場合、本発明の医薬組成物を含む溶液を調製するための前記溶剤は、製剤調製工程を考慮すると融点−40℃以上であることが好ましい。例えば、水、tert−ブタノール、グリセリン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等を用いることが好ましい。水又は水と有機溶剤の水系混合溶剤を用いることがより好ましい。この溶剤を用いた当該溶液を凍結乾燥し、無菌的に封止することで凍結乾燥製剤を調製することができる。
【0021】
本発明の医薬組成物及びそれを用いた医薬製剤は、ボルテゾミブの自己縮合による多量体形成が抑制されている。したがって、当該医薬製剤を投与のために溶液調製しても、ボルテゾミブ三量体といった不溶性成分の生成の問題を解決できている。したがって、投与時の溶液調製の課題を解決した安全な医薬製剤を提供することができる。
【0022】
本発明の医薬製剤は、ボルテゾミブを有効成分とする医薬として使用することができる。ボルテゾミブ製剤は、プロテアソーム阻害作用に基づく多発性骨髄腫やマントル細胞リンパ腫といった悪性腫瘍治療剤として用いられていることから、同様に抗腫瘍剤として適用することができる。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
[実施例1]
ニコチンアミド500mgを24mLの注射用水に溶かし、アルギニン40mgを加えて溶解し、水溶液のpHを10.5とした液にボルテゾミブ60mgを加えて溶解した。この水溶液を適量のリン酸溶液および適量の水酸化ナトリウム溶液を用いてpH5.5に調整し、注射用水を加えて全量を60mLとした。その溶液はpH5.5であった。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を3mL充填し、凍結乾燥を行い、実施例1に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0025】
[実施例2]
グリセリン18mg、ニコチンアミド460mgを24mLの注射用水に溶解し、アルギニン40mgを加えて溶解し、水溶液のpHを約10.5としたものにボルテゾミブ60mgを加えて溶解した。適量のリン酸溶液及び水酸化ナトリウム溶液でpH5.6に調整し、注射用水を加えて全量を60mLとした。その溶液はpH5.6であった。
この溶液を孔径0.22μmのメンブレンフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を3mL充填し、凍結乾燥を行い、実施例2に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0026】
[実施例3]
グリセリン18mg、尿素1000mgを24mLの注射用水に溶解し、適量の水酸化ナトリウムを加えて水溶液のpHを11.0とした液にボルテゾミブ60mgを加えて溶解した。この水溶液を適量のリン酸溶液および適量の水酸化ナトリウム溶液を用いてpH5.3に調整し、注射用水を加えて全量を60mLとした。その溶液はpH5.3であった。
この溶液を孔径0.22μmのメンブレンフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を3mL充填し、凍結乾燥を行い、実施例3に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0027】
[比較例1]
ニコチンアミド420mgを24mLの注射用水に溶解し、ヒスチジン40mgを加えて溶解し、水酸化ナトリウムを加えて水溶液のpHを約11.0としたものにボルテゾミブ60mgを加えて溶解した。適量のリン酸溶液及び水酸化ナトリウム溶液でpH5.5に調整し、注射用水を加えて全量を60mLとした。その溶液はpH5.5であった。
この溶液を孔径0.22μmのメンブレンフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を3mL充填し、凍結乾燥を行い、比較例1に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0028】
[比較例2]
ニコチンアミド420mgを24mLの注射用水に溶解し、グルタミン酸ナトリウム40mgを加えて溶解し、水酸化ナトリウムを加えて水溶液のpHを約11.0としたものにボルテゾミブ60mgを加えて溶解した。適量のリン酸溶液及び水酸化ナトリウム溶液でpH5.5に調整し、注射用水を加えて全量を60mLとした。その溶液はpH5.5であった。
この溶液を孔径0.22μmのメンブレンフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を3mL充填し、凍結乾燥を行い、比較例2に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0029】
[比較例3]
ニコチンアミド500mgを24mLの注射用水に溶解し、スレオニン200mgを加えて溶解し、水酸化ナトリウムを加えて水溶液のpHを約11.0としたものにボルテゾミブ60mgを加えて溶解した。適量のリン酸溶液及び水酸化ナトリウム溶液でpH5.5に調整し、注射用水を加えて全量を60mLとした。その溶液はpH5.5であった。
この溶液を孔径0.22μmのメンブレンフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を3mL充填し、凍結乾燥を行い、比較例3に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0030】
実施例1〜3に係る医薬製剤の1バイアル当たりの各成分組成を表1にまとめた。
【表1】
*1;生理食塩水1.2mLで再溶解した時のpH値。
【0031】
比較例1〜3に係る医薬製剤の1バイアル当たりの各成分組成を表1にまとめた。
【表2】
*2;生理食塩水1.2mLで再溶解した時のpH値。
【0032】
[試験例1]60℃保存安定性試験
実施例1〜3及び比較例1〜3の注射用凍結乾燥製剤を、60℃の条件下にて1週間保存した。各製剤について、ボルテゾミブ由来の類縁物質をHPLCにて分析した。ボルテゾミブ類縁物質のHPLC分析条件を下に示した。分析結果を表4及び表5に示す。
【0033】
[ボルテゾミブ由来の類縁物質の分析条件]
実施例及び比較例のボルテゾミブ分解由来の類縁物質を、以下の液体クロマトグラフィー(HPLC)条件にて分析した。
カラム:Waters Symmetry Shield RP18 5μm,4.6mm×250mm
カラム温度:35℃
移動相A:水/アセトニトリル/ギ酸混液(715:285:1)
移動相B:メタノール/水/ギ酸混液(800:200:1)
送液量:1.0mL/min.
波長:270nm
移動相の送液:表3に示す条件で送液した。
【0034】
【表3】
【0035】
実施例1〜3の凍結乾燥製剤の60℃保存安定性試験における、各類縁物質含量を表4にまとめた。
【表4】
*3 不純物A、B、E以外の個々の類縁物質の最大値。
【0036】
比較例1〜3の凍結乾燥製剤の60℃保存安定性試験における、各類縁物質含量を表5にまとめた。
【表5】
*3 不純物A、B、E以外の個々の類縁物質の最大値。
【0037】
実施例1〜3は類縁物質A及びEの生成量が初期値でも少なく、製剤調製工程において類縁物質の生成が抑制されていた。更に、60℃で1週間保存しても、総類縁物質が0.5%(w/w)以下であり、保存条件下において類縁物質の生成を抑制した。これに対し、比較例1〜3は、初期においてさえ総類縁物質が1%(w/w)を超える量で含有しており、製剤製造工程中でも類縁物質の明らかな増加が認められた。更に60℃で1週間保存すると、総類縁物質が1%(w/w)以上を含有し、保存条件下において類縁物質の生成を抑制することができなかった。以上の結果を比較すると、本発明の医薬製剤は、製剤製造工程中から製剤保存期間中に亘り、ボルテゾミブ類縁物質の生成を抑制することができることが明らかとなった。
通常、ボルテゾミブは酸素やペルオキシドなどによる酸化により類縁物質Eを産生し、これが更に分解すると、類縁物質Aの生成をもたらす。グアニジノ基を有するアルギニンや、ウレイド基を有する尿素を医薬製剤添加剤として使用することで、ボルテゾミブの酸化を抑制して類縁物質Eの生成を抑制し、ひいては類縁物質Aの生成を抑制できていると考えられる。