特許第6707040号(P6707040)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707040
(24)【登録日】2020年5月21日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】眼鏡用レンズの設計方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20200601BHJP
   G02B 13/00 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   G02C7/02
   G02B13/00
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-19806(P2017-19806)
(22)【出願日】2017年2月6日
(65)【公開番号】特開2018-128509(P2018-128509A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2018年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】391007507
【氏名又は名称】伊藤光学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】福井 慎一
【審査官】 吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−058576(JP,A)
【文献】 特開2005−284059(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/010504(WO,A1)
【文献】 特開2004−264365(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/018316(WO,A1)
【文献】 特開2016−004178(JP,A)
【文献】 特開2006−030316(JP,A)
【文献】 特開2016−026324(JP,A)
【文献】 特開2014−059532(JP,A)
【文献】 特開2008−249828(JP,A)
【文献】 特開2004−133024(JP,A)
【文献】 特開2003−121801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面、内面の一対の屈折面を有し、少なくとも一方の屈折面が非球面に形成された眼鏡用レンズの設計方法であって、
(a)レンズの光学中心から放射状に延びる2辺で区画された領域を該レンズの周方向に複数設け、該領域にレンズの特性に関する優先項目を割り付ける優先項目割付工程と、
(b)前記レンズの光学中心から放射状に延びる分割線を複数設け、該分割線上の前記屈折面の形状を非球面の式にて決定する第1の非球面形状決定工程と、
(c)前記分割線の間に位置する前記屈折面の形状を補間により決定する第2の非球面形状決定工程と、を有し、
前記優先項目割付工程では、
前記レンズの光学中心から第1の方向に偏って形成された第1の領域に、特定の光学特性(薄型化を除く)を優先項目として割り付けるとともに、
前記レンズの光学中心に対し前記第1の方向とは反対方向の第2の方向に偏って形成された第2の領域に、薄型化を優先項目として割り付け、
前記第1の非球面形状決定工程では、
前記優先項目と対応付けた非球面係数値及び度数から成る組データを収納したデータベースから、前記分割線上に設定された前記度数及び前記優先項目に対応した前記非球面係数値を呼出し、該非球面係数値を前記非球面の式に代入することで、前記分割線上の前記屈折面の形状を決定し、
前記第1の方向とは反対方向の前記第2の方向に位置する前記レンズの縁厚を、前記第1の方向に位置する前記レンズの縁厚よりも薄く形成したことを特徴とする眼鏡用レンズの設計方法。
【請求項2】
前記非球面の式として、下記式(1)を用いることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡用レンズの設計方法。
Z=X2/(R+(R2−kX21/2)+AX4+BX6+CX8+DX10 …式(1)
ここでZ:屈折面のサグ値、X:光軸からの距離、R:頂点曲率半径、k,A,B,C,D:非球面係数
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、少なくとも一方の屈折面が非球面にて形成された眼鏡用レンズの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡用レンズにおいて、平均度数誤差等の光学特性の最適化を図る目的で、内面又は/及び外面を非球面化したものが従来より知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、内面及び外面を回転対称非球面に形成した眼鏡用レンズにおいて、レンズ中心部を含む内側領域とその外側に位置する外側領域とに区画して、内側領域において平均度数誤差及び非点収差の値が小さくなるように設計し、レンズ中心部を含む内側領域でスッキリとした視界を確保する一方、外側領域においては非点収差の補正を優先し平均度数誤差を容認する設計を行なうことで、レンズ周辺部の厚みを抑えた外観を確保するようになした点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−26324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、眼鏡装用者の要望は様々であり、上記特許文献1に記載のもののように、レンズの内側領域と外側領域とで光学特性を異ならせるだけでは、装用者の要望に対応することが難しい場合がある。
本発明は、このような問題を解決するものであり、平均度数誤差やレンズ厚などの特定の項目について改善が図られた領域を、レンズ内の任意の方向・大きさで設定することが可能な眼鏡用レンズの設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
而して本発明の眼鏡用レンズの設計方法は、外面、内面の一対の屈折面を有し、少なくとも一方の屈折面が非球面に形成された眼鏡用レンズの設計方法であって、
(a)レンズの光学中心から放射状に延びる2辺で区画された領域を該レンズの周方向に複数設け、該領域にレンズの特性に関する優先項目を割り付ける優先項目割付工程と、
(b)前記レンズの光学中心から放射状に延びる分割線を複数設け、該分割線上の前記屈折面の形状を非球面の式にて決定する第1の非球面形状決定工程と、
(c)前記分割線の間に位置する前記屈折面の形状を補間により決定する第2の非球面形状決定工程と、を有し、
前記優先項目割付工程では、
前記レンズの光学中心から第1の方向に偏って形成された第1の領域に、特定の光学特性(薄型化を除く)を優先項目として割り付けるとともに、
前記レンズの光学中心に対し前記第1の方向とは反対方向の第2の方向に偏って形成された第2の領域に、薄型化を優先項目として割り付け、
前記第1の非球面形状決定工程では、
前記優先項目と対応付けた非球面係数値及び度数から成る組データを収納したデータベースから、前記分割線上に設定された前記度数及び前記優先項目に対応した前記非球面係数値を呼出し、該非球面係数値を前記非球面の式に代入することで、前記分割線上の前記屈折面の形状を決定し、
前記第1の方向とは反対方向の前記第2の方向に位置する前記レンズの縁厚を、前記第1の方向に位置する前記レンズの縁厚よりも薄く形成したことを特徴とする。
【0007】
ここで優先項目とは、レンズが備える特性のなかで、特に優先的に改善されるべき項目であって、具体的には平均度数誤差軽減、非点収差軽減、歪曲収差軽減、薄型化等から任意に選択され得る。
【0008】
本発明の設計方法によれば、放射状に複数設けられた分割線上の屈折面の形状は、非球面の式に代入する非球面係数値によって決定される。この非球面係数値は、分割線上に設定された度数及び優先項目に対応したものが用いられるため、本発明の設計方法によれば、優先項目割付工程において設定される領域の位置や大きさ、またそこに割り付ける優先項目を選択し設定することで、平均度数誤差やレンズ厚などの特定の項目について改善が図られた領域を、レンズ内の任意の方向・大きさで設定することができる。
【0009】
ところで、一般に非球面の式を用いて屈折面の非球面化を行なう際には、レンズ特性が目標値を満足するようになるまでその非球面の式で用いられる非球面係数の値を変化させながら光線追跡によるシミュレーションが行なわれ、非球面係数の最適化が図られる。このため、決定すべき非球面係数の数が多いと、各非球面係数の最適化に要する作業負荷が増大してしまう問題が生じる。これに対し、本発明の設計方法では、第1の非球面形状決定工程において、優先項目と対応付けた非球面係数値及び度数から成る組データを収納したデータベースから非球面係数値を呼出して使用する。このため、特定の特性項目(優先項目)が改善され得る非球面係数の値を予めデータベース内に準備しておけば、以降は、従来のように光線追跡によるシミュレーションにより最適な非球面係数を求め直す必要がなく、データベース内の非球面係数の値を利用できる。このため、例えばレンズ内の平均度数誤差を軽減させた領域の方向・大きさを変更したレンズを設計する場合など、所望の特性を備えた領域の方向・大きさを簡便に変更することが可能である。
【0010】
ここで本発明の設計方法では、非球面の式として、下記式(1)を用いることができる。
Z=X2/(R+(R2−kX21/2)+AX4+BX6+CX8+DX10 …式(1)
ここでZ:屈折面のサグ値、X:光軸からの距離、R:頂点曲率半径、k,A,B,C,D:非球面係数
【0011】
本発明によれば、外面、内面の一対の屈折面を有し、少なくとも一方の屈折面が非球面に形成された眼鏡用レンズであって、
非点収差若しくは平均度数誤差をレンズ内の他の領域よりも改善させた第1の領域が、レンズの光学中心から第1の方向に偏って形成されており、
該第1の方向とは反対方向の第2の方向に位置するレンズの縁厚が、該第1の方向に位置する該レンズの縁厚よりも薄く形成されている眼鏡用レンズを設計することができる。
これによれば、視認の際、主にレンズの一部の領域のみが使用されるような場合に、使用頻度の高い第1の領域において非点収差若しくは平均度数誤差を改善させて良好な視界を確保する一方、その他の使用頻度の低い領域ではレンズの薄型化を優先させて、レンズ全体として薄型化及び軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の設計方法の適用対象となる眼鏡用レンズを模式的に示した図である。
図2】本発明の一実施形態の設計方法に関するフローチャートである。
図3】同実施形態の設計方法における優先項目割付工程についての説明図である。
図4】同実施形態の設計方法におけるデータベース作成工程についての説明図である。
図5】同実施形態の設計方法における第1の非球面形状決定工程についての説明図である。
図6図5に続く第1の非球面形状決定工程についての説明図である。
図7】実施例1のレンズについての優先項目割付図及び平均度数誤差等高線図を示した図である。
図8】実施例2のレンズについての優先項目割付図及び平均度数誤差等高線図を示した図である。
図9】実施例3のレンズについての優先項目割付図及び平均度数誤差等高線図を示した図である。
図10】実施例4のレンズについての優先項目割付図及び平均度数誤差等高線図を示した図である。
図11図3とは異なる優先項目の割付の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態の設計方法が適用される眼鏡用単焦点レンズ(以下単にレンズとする場合がある)10を模式的に示した図で、同図(A)はレンズ10の正面図、(B)はレンズ10の断面図である。尚、以下の説明において、レンズの「上方」、「下方」とは当該レンズを用いた眼鏡を装用したときの装用者にとっての「上方」、「下方」とする。また、図1において、レンズ10の光学中心Oを通って左右方向に延びる軸をX軸、光学中心Oを通って上下方向に延びる軸をY軸、レンズ10の光学中心O(外面20ではO1、内面22ではO2)を通る前後方向の軸をZ軸とする。Z軸はレンズ10の光軸Pに一致する。尚、本例での光学中心Oは、レンズ10の幾何学中心と一致している。
【0014】
このレンズ10は、眼鏡用フレームの形状に合わせてレンズの外形を加工する前の形状であり、正面視で円形状をなしている。レンズ10の内面(眼球側屈折面)22はその一部、詳しくは後述する分割線m上の形状が下記非球面の式(2)で定義される凹面とされ、外面(物体側屈折面)20は面全体が下記球面の式(3)で定義される凸面とされている。
【0015】
Z=X2/(R2+(R22−kX21/2)+AX4+BX6+CX8+DX10 …式(2)
Z=X2/(R1+(R12−X21/2) …式(3)
式(2)、式(3)において、Zは屈折面のサグ値、XはZ軸(光軸)からの距離である。R1、R2は面の頂点における曲率半径(頂点曲率半径)である。なお、R1、R2は、処方度数等(球面度数、乱視度数、及び、乱視軸方向、屈折率等)によって決定される。また式(2)において、k,A,B,C,Dは非球面係数である。
【0016】
図2は、内面22の面形状の設計手順を示すフローチャートである。同図に示すように、基本仕様決定工程(S101)、優先項目割付工程(S102)、データベース作成工程(S103)、第1の非球面形状決定工程(S104)、及び、第2の非球面形状決定工程(S105)を経て内面22の面形状が決定される。
【0017】
基本仕様決定工程(S101)では、レンズの屈折率n、球面度数Sph、乱視度数Cyl、乱視軸方向AX、レンズ中心厚CT、外面カーブ(ベースカーブ)およびレンズ外径を決定する。また必要に応じてプリズム屈折力、プリズム基底方向等を決定する。
【0018】
優先項目割付工程(S102)では、レンズの光学中心Oから放射状に延びる2辺で区画された領域gを、レンズ10の周方向に複数設け、領域gに対してレンズの特性に関する優先項目を割り付ける。設定する領域gの数は、レンズ10に割り付けられる優先項目の数に合わせて、2〜12の範囲で適宜設定することができる。各領域gに割り付けられる優先項目として、平均度数誤差軽減、非点収差軽減、歪曲収差軽減、薄型化、スムージング等を選択することができる。図3に示す例では、レンズ10に4つの領域g1、g2、g3、g4を設け、レンズ上方の領域g1を主に視認の際に使用する領域とし、領域g1に優先項目として平均度数誤差軽減を割り付け、他方、視認の際に使用する頻度が少ないレンズ下方の領域g2に優先項目として薄型化を割り付けている。また、領域g1とg2の間に位置する領域g3、g4については優先項目としてスムージングを割り付けている。このように優先項目割付工程(S102)では、レンズ10の周方向異なる領域に、それぞれ異なる優先項目を割り付ける。
【0019】
データベース作成工程(S103)では、図4に示すように優先項目とされた特定の項目が改善され得る非球面係数k,A,B,C,Dの値と度数とから成る組データを求め、かかる組データを収納したデータベースを優先項目別に作成する。例えば、平均度数誤差が改善され得る非球面係数値は、平均度数誤差が目標値を満足するようになるまで、非球面の式(2)で用いられる非球面係数k,A,B,C,Dの値を変化させながら光線追跡によるシミュレーションを行なうことで、度数毎に求めることができる。このようにして得られた非球面係数値と度数から成る組データをデータベースに収納して、平均度数誤差軽減用データベースDB1とする。また同様の手順にて非点収差軽減用データベースDB2、薄型化用データベースDB3等を作成する。
【0020】
尚、優先項目としてのスムージングは、異なるレンズ特性を備えた領域同士を滑らかに接続することを目的としたもので、スムージング領域の非球面係数値は、上記平均度数誤差軽減、非点収差軽減等と異なり、その前後の分割線の非球面係数値及びスムージング領域の分割線上の度数から補間アルゴリズムにより算出するスムージング処理により求めることができる。
【0021】
第1の非球面形状決定工程(S104)では、レンズ10の光学中心Oから放射状に延びる分割線mを等間隔に複数設定し、分割線m上の屈折面の形状を上記非球面の式(2)にて決定する。レンズ10の周方向に設定される分割線mの数は、12〜360の範囲で、且つ、レンズ10を周方向360°に亘って等間隔で区画できる数とする。具体的には12,20,24,36,72,180,360である。特にレンズ10に乱視度数が処方されている場合、レンズ面に設定される度数は周方向に変化するため、分割線mの数を多く設定することで、精度の高いレンズ設計を行うことができる。
【0022】
図5は、レンズ10に分割線mを12本設定した場合を示している。この場合、各分割線mは30°の等間隔で周方向に設定される。同図に示すように分割線mは、X軸上に基準となる分割線m1が配置され、以降30°の間隔でm2〜m12の分割線が周方向の異なる位置に設定される。このときX軸上に設定された分割線m1の設計角度を0°とし、分割線m12の設計角度を330°とする。
【0023】
次に各分割線上の度数Dhを下記式(4)より求める。
Dh=Sph+Cyl×sin2(θ−Ax) …式(4)
ここでSph:球面度数、Cyl:乱視度数、Ax:乱視軸方向、θ:X軸との交差角度である。式(4)のθに分割線の設計角度を代入することで、処方度数に基づいて各分割線上に設定される度数を求めることができる。
【0024】
次に、分割線m上の屈折面の形状を上記非球面の式(2)を用いて決定する際に必要となる非球面係数k,A,B,C,Dの値を求める。図6に示すように、レンズ上方の分割線m2〜m6の5本が優先項目として平均度数誤差軽減が割り付けられた領域g1に属し、レンズ下方の分割線m8〜m12の5本が優先項目として薄型化が割り付けられた領域g2に属する場合、レンズ上方の分割線m2〜m6については、分割線上の度数Dhに対応した各分割線m2〜m6の非球面係数k,A,B,C,Dの値を平均度数誤差軽減用データベースDB1から呼び出し、レンズ下方の分割線m8〜m12については、分割線上の度数Dhに対応した各分割線m8〜m12の非球面係数k,A,B,C,Dの値を薄型化用データベースDB3から呼び出す。尚、領域g3,g4に属する分割線m1、m7については、それぞれの分割線の度数Dhに対応した非球面係数k,A,B,C,Dの値をスムージング処理により算出する。
【0025】
以上のようにして得られた非球面係数k,A,B,C,Dの値、及び、処方度数等から求められる頂点曲率半径R2の値をそれぞれ上記非球面の式(2)に代入することで、各分割線m1〜m12上の屈折面の形状(サグ値)が決定される。
【0026】
次に、第2の非球面形状決定工程(S105)では、分割線mの間に位置する屈折面のサグ値を、レンズ周方向に沿った3次スプライン補間により算出する。3次スプライン補間を実行するにあたっては、設計角度0°近傍の屈折面形状と設計角度360°近傍の屈折面形状とが滑らかに接続されるように、設計角度0°〜360°までの範囲に設定された12本の分割線に加えて、更に−90°〜0°の範囲、及び360°〜450°の範囲においても分割線mを設定し、−90°〜450°の範囲に亘って補間処理を行ない、このうちの0°〜360°の範囲で求められたサグ値を屈折面の形状とすることが望ましい。これにより内面22の非球面形状が決定される。
【0027】
次に、本実施形態の設計方法で設計された単焦点レンズの実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1(レンズ50)は、球面度数がマイナスの近視矯正用レンズの内面を非球面化したもので、レンズ上方の領域にて平均度数誤差を抑え、レンズ下方の領域を薄型化した例である。図7(A)に示すように、レンズ50を4つの領域g1〜g4に区画して、レンズ上方の領域g1に平均度数誤差軽減を、レンズ下方の領域g2に薄型化を、これらの間に位置する領域g3、g4にスムージングを割り付けている。
具体的なレンズデータは以下の通りである。
屈折率n 1.608
外面カーブ(D) 4.00D
球面度数(D) −4.00D
乱視度数(D) −2.00D
乱視軸方向Ax 180°
レンズ中心厚 1.1mm
レンズ外径 75mm
領域数 4
分割線の数 24
【0028】
表1は、レンズ50上に設定された24本の分割線m1〜m24毎の度数Dhおよびこれに対応する非球面係数k,A,B,C,Dの値を示す。尚、下記表1〜4に記載の非球面係数k,A,B,C,Dの値において、E及びEの右側の数字は、10を基数としEの右側の数字を指数とする累乗を表している。ここで、分割線m1〜m13についての非球面係数値は平均度数誤差軽減用データベースから、分割線m15〜m23についての非球面係数値は薄型化用データベースから呼出したものを用いている。
【表1】
【0029】
図7(B)は、レンズ50の平均度数誤差の等高線図で、−0.125ディオプタ(以降”D”とする場合がある)からマイナス方向にステップ幅0.25Dで等高線が表されている(尚、図8図9図10で示す等高線図においても同様である)。同図において白地部分が、−0.125Dよりも小さい、特に平均度数誤差が改善された領域である。このようにレンズ50ではレンズ光学中心Oから上方(矢印50bの方向)に向けて、平均度数誤差が改善された第1の領域50aが偏って形成されている。
【0030】
また、図7(B)には、平均度数誤差に加えて、レンズ周方向8箇所における縁厚が示されている。このレンズ50では、平均度数誤差が改善された第1の領域50aが形成されているレンズ上方の縁厚が10.7mmであるのに対し、これとは反対方向であるレンズ下方向(設計角度270°の方向)に位置するレンズの縁厚が8.3mmとなっており、レンズ下方向の縁厚がレンズ上方の縁厚よりも22.4%薄く形成されている。
【0031】
このようにレンズ50では、レンズ上部の領域(第1の領域50a)において平均度数誤差を改善させて良好な視界を確保する一方、レンズ下方の領域についてはレンズの薄型化を優先させることで、レンズ全体として薄型化・軽量化が図られている。このようなレンズ50は、例えば自転車運転時のように装用者の前傾姿勢が維持され、視認の際、主にレンズ上部の領域が使用される一方、レンズ下方の領域については使用頻度が低い場合に好適に用いることができる。
【0032】
[実施例2]
第2実施例(レンズ52)は、実施例1と同じレンズデータの下、図8(A)に示すように実施例1と比較してレンズ上方の平均度数誤差軽減が割り付けられた領域g1を狭く、レンズ下方の薄型化が割り付けられた領域g2を広く設計したレンズである。
表2は、レンズ52上に設定された24本の分割線m1〜m24毎の度数Dhおよびこれに対応する非球面係数k,A,B,C,Dの値を示す。
【0033】
【表2】
【0034】
図8(B)に示すように、レンズ52は、平均度数誤差が改善された領域である第1の領域52aが、レンズ光学中心Oから左斜め上方に偏って形成されている。レンズ52は、第1の領域52aがレンズ50の第1の領域50aよりも狭い範囲に形成されている一方で、レンズの左右方向の縁厚がレンズ50よりも薄く形成されている。具体的にはレンズ右側(設計角度0°)の縁厚が6.3mmから5.5mm、レンズ左側(設計角度180°)の縁厚が6.3mmから5.9mmとなっており、より薄型化・軽量化を求める装用者に対して好適である。
【0035】
尚、本例では薄型化が割り付けられた領域g2を広く設定したことにともない、24本の分割線のうち分割線m1、m2、m3、m4、m13、m14、m24の7本が、レンズ50とは異なる非球面係数値を採用しているが、スムージング処理により非球面係数値を求めるm4、m13を除く5本については、薄型化用データベースを参照することで新たな非球面係数値を求めている。このように本実施形態の設計方法によれば、レンズ内の平均度数誤差を軽減させた領域g1や薄型化を図った領域g2の方向・大きさを変更したレンズを設計する場合でも、参照するデータベースを変更することで、所望の特性に対応した非球面係数値を簡便に求めることができる。
【0036】
[実施例3]
上記実施例1,2が球面度数をマイナスとした近視矯正用の単焦点レンズであったのに対し、この実施例3(レンズ54)は、球面度数をプラスとした遠視矯正用の単焦点レンズで、内面を非球面化したものである。図9に示すように、レンズ54は、実施例1のレンズ50と同様、レンズを4つの領域に区画して、レンズ上方の領域g1に平均度数誤差軽減を、レンズ下方の領域g2に薄型化を、これらの間に位置する領域g3、g4にスムージングを割り付けている。尚、このレンズ54には乱視度数は処方されていない。
具体的なレンズデータは以下の通りである。
屈折率n 1.608
外面カーブ(D) 6.00D
球面度数(D) +4.00D
乱視度数(D) 0.00D
レンズ中心厚 5.9mm
レンズ外径 75mm
領域数 4
分割線の数 24
【0037】
表3は、レンズ54上に設定された24本の分割線m1〜m24毎の度数Dhおよびこれに対応する非球面係数k,A,B,C,Dの値を示す。
【表3】
【0038】
図9(B)は、レンズ54の平均度数誤差の等高線図で、平均度数誤差が改善された領域である第1の領域54aが、レンズ光学中心Oから上方(矢印54bの方向)に偏って形成されている。
また、図9(B)に示すように、このレンズ54では、平均度数誤差が改善された第1の領域54aが形成されているレンズ上方の縁厚が1.6mmであるのに対し、これとは反対方向であるレンズ下方向(設計角度270°の方向)に位置するレンズの縁厚が1.0mmとなっており、レンズ下方向の縁厚がレンズ上方の縁厚よりも37.5%薄く形成されている。
【0039】
[実施例4]
実施例4(レンズ56)は上記実施例1と同様、近視矯正用の単焦点レンズであるが、実施例1が内面を非球面形状としたものであるのに対し、レンズ56は、内面を球面形状とし、外面を非球面形状としたものである。
図10(A)に示すように、レンズ56は、実施例1のレンズ50と同様、レンズを4つの領域に区画して、レンズ上方の領域g1に平均度数誤差軽減を、レンズ下方の領域g2に薄型化を、これらの間に位置する領域g3、g4にスムージングを割り付けている。尚、このレンズ56には乱視度数は処方されていない。
具体的なレンズデータは以下の通りである。
屈折率n 1.608
外面カーブ(D) 5.00D
球面度数(D) −5.00D
乱視度数(D) 0.00D
レンズ中心厚 1.1mm
レンズ外径 75mm
領域数 4
分割線の数 24
【0040】
レンズの外面を非球面とする場合、分割線m上の屈折面(外面)は、下記非球面の式(5)により決定することができる。
Z=X2/(R1+(R12−kX21/2)+AX4+BX6+CX8+DX10 …式(5)
XはZ軸(光軸)からの距離である。R1は面の頂点における曲率半径(頂点曲率半径)である。また式(5)において、k,A,B,C,Dは非球面係数である。
表4は、レンズ56上に設定された24本の分割線m1〜m24毎の外面カーブFおよびこれに対応する非球面係数k,A,B,C,Dの値を示す。本例においても分割線上の度数Dhに対応した非球面係数の値をデータベースから求めている。詳しくは分割線m1〜m13についての非球面係数値は平均度数誤差軽減用データベースから、分割線m15〜m23についての非球面係数値は薄型化用データベースから呼出したものを用いている。
【表4】
【0041】
図10(B)は、レンズ56の平均度数誤差の等高線図で、平均度数誤差が改善された領域である第1の領域56aが、レンズ光学中心Oから上方(矢印56bの方向)に向かって偏って形成されている。
また、図10(B)に示すようにこのレンズ56では、第1の領域56aが形成されているレンズ上方の縁厚が8.4mmであるのに対し、これとは反対方向であるレンズ下方向(設計角度270°の方向)に位置するレンズの縁厚が7.8mmとなっており、レンズ下方向の縁厚がレンズ上方の縁厚よりも7.1%薄く形成されている。
【0042】
以上のように本実施形態の設計方法によれば、優先項目割付工程において領域の方向・大きさ、またそこに割り付ける優先項目を選択し設定することで、平均度数誤差やレンズ厚などの特定の項目について改善が図られた領域を、レンズ内の任意の方向・大きさで設定することができる。
【0043】
本実施形態の設計方法では、第1の非球面形状決定工程(S104)において、優先項目と対応付けた非球面係数値及び度数から成る組データを収納したデータベース(DB1等)から非球面係数値を呼出し、非球面の式に代入する。このため、特定の特性項目(優先項目)が改善され得る非球面係数の値を予めデータベース(DB1等)内に準備しておけば、以降はデータベース内の非球面係数の値を利用できる。例えば、レンズ内の平均度数誤差を軽減させた領域g1の大きさ・方向を変更したレンズを設計する場合、従来のように光線追跡によるシミュレーションにより最適な非球面係数を求め直す必要がなく、所望の特性を備えた領域の方向・大きさを簡便に変更することが可能である。
【0044】
本実施形態のレンズ50,52,54,56は、平均度数誤差をレンズ内の他の領域よりも改善させた第1の領域50a,52a,54a,56aが、レンズの光学中心Oから第1の方向50b,52b,54b,56bに偏って形成されており、また第1の方向50b,52b,54b,56bとは反対方向に位置するレンズの縁厚が、第1の方向50b,52b,54b,56bに位置するレンズの縁厚よりも薄く形成されている。これによれば、視認の際、使用頻度の高い領域としての第1の領域50a,52a,54a,56aにおいて、平均度数誤差を改善させて良好な視界を確保する一方、使用頻度の低いその他の領域でレンズの薄型化を優先させることで、レンズ全体として薄型化及び軽量化を図ることができる。
【0045】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまでも一例示である。上記実施形態は優先項目として平均度数誤差軽減および薄型化を選択した例であったが、図11に示すように非球面係数の最適化により改善を図ることが可能な他の優先項目を、レンズ内の領域に割り付けることも可能である。尚、図11(C)における「平均度数変化」の領域は、平均度数をプラス側に変化させて、手元側の視認性が向上するように非球面係数の最適化を図った領域である。また上記実施形態では非球面の式における4次、6次、8次、10次についての非球面係数を求めているが、場合によってはこれとは異なる次数の非球面係数を求めるようにすることも可能である等、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において様々変更を加えた形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0046】
10,50,52,54,56 眼鏡用レンズ
20 外面
22 内面
50a,52a,54a,56a 第1の領域
50b,52b,54b,56b 第1の方向
g 領域
m 分割線
O 光学中心(幾何学中心)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11