(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
同期電動機を駆動する電力変換器を用いて、回転速度指令値に応じて前記同期電動機を120度通電方式によって駆動する同期電動機の制御装置において、前記同期電動機の回転子の位置を直接あるいは推定により検出する手段のいずれかを備え、該位置検出値と、前記回転速度指令値を積分した位相指令値との偏差に基づいて、前記制御装置の内部指令値を補正することを特徴とする同期電動機の制御装置。
同期電動機を駆動する電力変換器を用いて、回転速度指令値に応じて前記同期電動機を120度通電方式によって駆動する同期電動機の制御装置において、前記同期電動機の回転子の位置を直接あるいは推定により検出する手段のいずれかを備え、該位置検出値を微分した速度検出値と、前記回転速度指令値との偏差に基づいて、前記制御装置の内部指令値を補正することを特徴とする同期電動機の制御装置。
請求項1もしくは請求項2に記載の同期電動機の制御装置において、前記制御装置の内部指令値とは,トルク成分に係る電圧指令値あるいは、三相の電圧指令値の振幅値あるいは、回転速度指令値を積分した位相指令値あるいは、回転速度指令値のいずれかであることを特徴とする同期電動機の制御装置。
請求項1から請求項3のいずれかに記載の同期電動機の制御装置において、前記同期電動機の回転速度指令値あるいは速度検出値に応じて、低速域は120度通電方式で、中高速域は180度通電方式で駆動することを特徴とする同期電動機の制御装置。
請求項4記載の同期電動機の制御装置において、低速域とは前記同期電動機の定格回転速度の10%以下、中高速域は前記定格回転速度の10%以上とすることを特徴とする同期電動機の制御装置。
請求項4記載の同期電動機の制御装置において、前記同期電動機の通電方式を切り替えるレベル値は、前記制御装置の外部より設定することを特徴とする同期電動機の制御装置。
請求項6記載の同期電動機の制御装置において、前記制御装置の外部とは、外部機器であるパーソナル・コンピュータあるいはタブレット、スマートフォンであり、これらを介して前記同期電動機の通電方式を切り替えるレベル値を自由に設定・変更できることを特徴とする同期電動機の制御装置。
請求項6記載の同期電動機の制御装置において、前記制御装置の外部とは、上位装置であるプログラマブル・ロジック・コントローラあるいは、コンピュータと接続するローカル・エリア・ネットワークあるいは、制御装置のフィールドバスで、これらを介して前記同期電動機の通電方式を切り替えるレベル値を自由に設定・変更できることを特徴とする同期電動機の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の構成について
図1〜
図14を用いて同期電動機の制御装置の構成及び動作について説明する。尚、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例もその範囲に含むものである。以下、図面を用いて実施例を説明する。
【0011】
<第1の実施例>
図1に、本発明における第一の実施形態を示す。
【0012】
低速域の回転子位置を120度通電方式の位置センサレス制御により検出した実施例である。
【0013】
同期電動機1は、回転子に永久磁石を有する永久磁石同期電動機で、磁石磁束と磁束成分(d軸)に直行するトルク電流成分(q軸)の電流によりトルクを発生する。
【0014】
制御器2は、電圧指令値v
*であるd軸およびq軸の電圧指令値v
dc*,v
qc*から三相の電圧指令値v
u*、v
v*、v
w*を演算し、パルス幅に変換した信号P
u, P
v, P
wを出力する。
【0015】
電力変換器3は、パルス幅信号P
u, P
v, P
wに比例した電圧値を出力し、同期電動機1の出力電圧と出力周波数を可変する。
【0017】
回転速度指令発生器20は、同期電動機1の回転速度指令値ω
r*を出力する。
【0018】
120度用位置推定器21は、電圧検出値E
ou, E
ov, E
owを用いて低速域における回転子位置の推定値θ
dc_120を出力する。
【0019】
180度用位置推定器22は、d軸およびq軸の電圧指令v
dc*,v
qc*と電流検出値I
dc, I
qcを用いて中高速域における回転子位置の推定値θ
dc_180を出力する。
【0020】
電圧指令生成器23は、同期電動機1の電気定数と回転速度指令値ω
r*を用いて、電圧指令値v
*であるd軸およびq軸の電圧指令値v
dc*,v
qc*を出力する。
【0021】
本発明の特徴である電圧指令補償器24は、回転速度指令値ω
r*と回転子位置の推定値θ
dc_120を入力し、電圧補正値Δv
*を出力する。
【0022】
電圧指令補償器24の内部構成を説明する。積分器240でω
r*を積分した位相指令値θ
dcsと、回転子位置の推定値θ
dc_120との位相偏差Δθを求め、位相補償型速度制御器241において、PI(比例積分)制御を演算し、電圧補正値Δvを算出する。
【0023】
通電モード選択器25は、120度通電方式で駆動するときに同期電動機1のu, v, w相のいずれか2つの通電相を決定する。
【0024】
座標変換器26は、120度通電方式におけるd軸およびq軸の電圧指令値v
dc*,v
qc**を三相の電圧指令値v
u1*、v
v1*、v
w1*に変換し出力する。
【0025】
座標変換器27は、180度通電方式におけるd軸およびq軸の電圧指令値v
dc*,v
qc*を三相の電圧指令値v
u2*、v
v2*、v
w2*に変換し出力する。
【0026】
通電方式切替器28は、回転子速度指令ω
r*の大きさが同期電動機1の定格速度の10% 以下であれば低速域と判断して電圧指令値v
u1*、v
v1*、v
w1*を、
ω
r*の大きさが定格速度の10% 以上であれば中高速域と判断してv
u2*、v
v2*、v
w2*を選択し、v
u*、v
v*、v
w*として出力する。
【0027】
PWM信号生成器29は、入力された三相の電圧指令値v
u*,v
v*,v
w*に応じたパルス幅信号P
u,P
v,P
wを出力する。
【0028】
ここからは本実施例の基本動作について述べる。
【0029】
まず低速域において、120度用位置推定器21で用いる特許文献2の磁気飽和起電圧に基づいた回転子位置の推定方法を説明する。
【0030】
120度通電方式は、同期電動機1の三相巻線のうち二相分に電圧を印加する。
図2(a)はV相からW相、
図2(b) はW相からV相に通電する場合の説明図である。このとき電圧を印加しない開放相であるU相に回転子位置に応じた電圧が発生する。この電圧は同期電動機1の永久磁石による磁束と通電電流の関係によって電動機内のインダクタンスが微小に変化することで発生する磁気飽和起電圧である。
【0031】
図3に回転子位置θ
dに対する磁気飽和起電圧の関係を示す。同図において、実線で示す(1)はV相からW相に正パルスを印加した時の磁気飽和起電圧、および破線で示す(2)はW相からV相に負はパルスを印加した時の磁気飽和起電圧の波形である。
【0032】
図4は、U相、V相、W相の各相を開放した場合の回転子位置θ
dに対する磁気飽和起電圧E
ou、E
ov、E
owと電力変換器3を構成するスイッチング素子のゲート信号G
up〜G
wn、回転子位置θ
d、通電モード、およびスイッチングの相関係を示すものである。
【0033】
図5は、
図4における通電モードの3ならび6における各部の波形である。U相の起電圧はE
ou上の太い矢印のようになる。すなわち、通電モード3ではマイナス方向に減少し、通電モード6ではプラス方向に増加するような磁気飽和起電圧が観測される。通電モードが切り替わる毎に、起電圧が正、負、それぞれに上昇、減少を繰り返す波形となる。そこで正側及び負側それぞれに閾値となる基準電圧(V
hp, V
hn)を設定し、この基準電圧と開放相の磁気飽和起電圧の大小関係から回転子位置θ
dを推定することで、位置センサレス制御を実現している。
ここで、電圧指令生成器23が演算する低速域と中高速域においての電圧指令値v
*について説明する。
【0034】
低速域において120度通電方式で駆動する場合、数式(1)に示すようにd軸の電圧指令値v
dc*は零でq軸の電圧指令値v
qc*のみ演算する。
【0037】
また中高速域において180度通電方式で駆動する場合、数式(2)に示すようにd軸およびq軸の電圧指令値v
dc*,v
qc*を演算する。
【0039】
ここに、Rは巻線抵抗、L
dはd軸のインダクタンス、L
qはq軸のインダクタンス、I
d*はd軸の電流指令値、I
q *はq軸の電流検出値I
qcに一次遅れ処理をした電流である。
【0040】
本発明の特徴である電圧指令補償器24について説明する。
【0041】
図6に電圧指令補償器24の構成を示す。位相指令値θ
dcsと120度通電方式における回転子位置の推定値θ
dc_120との位相偏差Δθに基づいてPI制御器により電圧補正値Δv
*を算出する。ここに、K
pは比例制御のゲイン、K
iは積分制御のゲインである。
【0042】
この電圧補正値Δv
*をΔv
q*に置き換え,数式(3)に示すようにq軸の電圧指令値v
qc*に加算して新たなv
qc**を演算する。
【0044】
次に中高速域における位置センサレス制御について説明する。
【0045】
図7を用いて回転座標系であるd-q軸と、位置センサレス制御で取りあつかうd
c-q
c軸および、それら軸の位相差である軸誤差Δθについて説明する。回転子の主磁束方向の位置をd軸、そこから90度進んだ方向をq軸としている。これに対し、制御軸上は推定した回転子位置をd
c軸、そこから90度進んだ方向をq
c軸としている。このd-q軸とd
c-q
c軸の位相差が軸誤差Δθである。
【0046】
図8に180度用位置推定器22の内部構成を示す。軸誤差演算器220は、d
c-q
c軸の電流検出値I
dc,I
qcと電圧指令値v
dc*,v
qc*を入力し、数式(4)に従い軸誤差Δθの推定値Δθ
cを算出する。
【0048】
PLL制御器221は、零である軸誤差の指令値Δθ
*に軸誤差の推定値Δθ
cが追従するようにPI制御により速度推定値ω
1_180を算出する。この速度推定値ω
1_180を積分器222で積分することで、位置推定値θ
dc_180を算出する。なお、ω
1_180は数式(4)におけるω
1に相当するものである。
図9および
図10に、本発明である電圧指令補償器24の適用前と適用後の制御特性を示す。
図9は本発明の適用前における加速特性である。低速域において速度偏差Δω
rが発生し、中高速域へ切り替えるときに回転速度が不連続となり電流の跳ね上がりが発生する。
図10は本発明の適用後における加速特性である。低速域において回転速度ω
rは回転速度指令値ω
r*に一致しており、低速域と中高速域での連続性が保たれるため、電流の跳ね上がりを防止し、安定で高精度な速度制御を実現することができる。
【0049】
<第2の実施例>
第1の実施例は、低速域において位相指令値θ
dcsと回転子位置の推定値θ
dc_120との位相偏差Δθに基づいて電圧補正値Δv
*を算出したが,
図11に示す本実施例では、回転子位置の推定値の代わりに回転子速度の推定値(以下、速度推定値)を用いる方式である。
【0050】
図11において、1、20〜23、25〜29、3は、
図1のものと同一物である。
【0051】
本実施例の電圧指令補償器24aについて説明する。
【0052】
回転子位置の推定値θ
dc_120を微分器24a0に入力し、数式(5)に従い演算した速度推定値ω
1_120と回転速度指令値ω
r*との速度偏差Δω
rを求め、速度補償型速度制御器24a1において、I(積分)制御を演算し、電圧補正値Δv
**を算出する。
【0054】
図12に電圧指令補償器24aの構成を示す。
【0055】
回転速度指令値ω
r*と速度推定値ω
1_120との速度偏差Δω
rに基づいてI制御により電圧補正値Δv
**を算出する。ここに、K
iは積分制御のゲインである。
【0056】
この電圧補正値Δv
**をΔv
q**に置き換えて,数式(6)に示すようにq軸の電圧指令値v
qc*に加算して新たなv
qc***を演算する。
【0058】
本実施例のような制御構成とすることでも、低速域と中高速域での連続性が保たれるため、電流の跳ね上がりを防止し、安定で高精度な速度制御特性を実現することができる。
【0059】
<第3の実施例>
第1の実施例では、高速域において回転子位置を推定する方式であったが、
図13に示す本実施例は、安価な位置センサであるホールICを用いて回転子位置や回転子速度を検出する方式である。
【0060】
図において、1、20、22〜29、3は、
図1のものと同一物である。
【0061】
本実施例の磁極位置検出器21aについて説明する。
回転子速度の検出は、電気角一回転で60度毎に検出できる磁極位置信号θ
n_120`を用いて数式(7)に従い回転子速度の速度検出値ω
r_120`を算出する。
【0063】
低速域は実施例2と同様に回転速度指令値ω
r*と速度検出値ω
r_120`との速度偏差(=ω
r*-ω
r_120`)に基づいて電圧補正値を演算することで、安価な回転子位置センサを用いた場合でも、低速域と中高速域での連続性が保たれるため、電流の跳ね上がりを防止し、安定で高精度な速度制御を実現することができる。
【0064】
第1から第3の実施例は、電圧補正値をq軸の電圧指令値に加算したが、電圧補正値を三相交流の電圧指令値に変換して三相交流の電圧指令値に加算してもよい。あるいは、回転速度指令値を積分した位相指令値や回転速度指令値の修正に用いても、同様な効果が得られる。
【0065】
<第4の実施例>
図14は、実施例に係る同期電動機の制御装置の構成図である。
【0066】
本実施例は、同期電動機駆動システムに本実施例を適用したものである。
図において、1、2は、
図1のものと同一物である。
【0067】
図1の構成要素である同期電動機1は電力変換装置4により駆動される。電力変換装置4には、
図1の2がソフトウェア、ハードウェアとして実装されている。
【0068】
電力変換装置4のデジタル・オペレータ4a、パーソナル・コンピュータ5、タブレット6、スマートフォン7などから、低速域と中高速域の切替レベル値を設定してもよい。
【0069】
またプログラマブル・ロジック・コントローラあるいは、コンピュータと接続するローカル・エリア・ネットワークあるいは、制御装置のフィールドバス上で設定してもよい。
【0070】
本実施例を同期電動機駆動システムに適用すれば、電流の跳ね上がりを防止し、安定で高精度な速度制御特性を実現することができる。
【0071】
さらに、本実施例では、第1の実施例を用いて開示してあるが、第2、第3の実施例であってもよい。
なお、第1から第4の実施例において、電力変換器2を構成するスイッチング素子としては、Si(シリコン)半導体素子であっても、SiC(シリコンカーバイト)やGaN(ガリュームナイトライド)などのワイドバンドギャップ半導体素子であってもよい。