特許第6707095号(P6707095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707095
(24)【登録日】2020年5月21日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】ガス発生器
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/272 20060101AFI20200601BHJP
【FI】
   B60R21/272
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-564254(P2017-564254)
(86)(22)【出願日】2017年1月24日
(86)【国際出願番号】JP2017002253
(87)【国際公開番号】WO2017130935
(87)【国際公開日】20170803
【審査請求日】2019年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-11367(P2016-11367)
(32)【優先日】2016年1月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】浮田 信一朗
(72)【発明者】
【氏名】井本 勝大
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−69628(JP,A)
【文献】 特表2003−520153(JP,A)
【文献】 国際公開第02/18182(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 7/00
B60R 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状ハウジングの第1端開口部側に点火手段室を有し、長軸方向反対側の第2端開口部側にガス排出口を有するディフューザ部を有し、前記点火手段室と前記ディフューザ部の間に加圧ガス室を有しているガス発生器であって、
前記点火手段室と前記加圧ガス室の間の第1端開口部が第1破裂板で閉塞され、前記加圧ガス室と前記ディフューザ部の間の第2端開口部が第2破裂板で閉塞されており、
前記点火手段室内には点火器とガス発生剤成形体が収容されており、
前記加圧ガス室内にはガス源となるガスが充填されており、
前記点火手段室内に充填されているガス発生剤成形体から発生する単位時間当たりのエネルギー量A(J/msec)と、
前記加圧ガス室の前記点火手段室と接する部分の筒状ハウジング長軸方向に直交する断面の断面積B(cm2)と、
前記加圧ガス室に充填されたガスの密度C(g/cm3)が、
次式(I):A/B×C=320〜490 (I)で示されるエネルギー制御係数を満たしているものである、ガス発生器。
【請求項2】
筒状ハウジングの第1端開口部側に点火手段室を有し、長軸方向反対側の第2端開口部側にガス排出口を有するディフューザ部を有し、前記点火手段室と前記ディフューザ部の間に加圧ガス室を有しているガス発生器であって、
前記点火手段室と前記加圧ガス室の間の第1端開口部が第1破裂板で閉塞され、前記加圧ガス室と前記ディフューザ部の間の第2端開口部が第2破裂板で閉塞されており、
前記点火手段室内には点火薬を含む点火器とガス発生剤成形体が収容されており、
前記加圧ガス室内にはガス源となるガスが充填されており、
前記点火手段室内に充填されているガス発生剤成形体から発生する単位時間当たりのエネルギー量A(J/msec)と、
前記点火器から発生する単位時間当たりのエネルギー量D(J/msec)と
前記加圧ガス室の前記点火手段室と接する部分の筒状ハウジング長軸方向に直交する断面の断面積B(cm2)と、
前記加圧ガス室に充填されたガスの密度C(g/cm3)が、
次式(II):(A+D)/B×C=430〜580 (II)で示されるエネルギー制御係数を満たしているものである、ガス発生器。
【請求項3】
前記第1破裂板または第2破裂板が前記加圧ガス室側からカップ状のフィルタで覆われており、
前記カップ状のフィルタが、底部、周壁部および開口部を有しており、さらに少なくとも前記周壁部が厚さ方向に貫通した複数のガス通過孔を有しているものであり、
前記カップ状のフィルタが、前記底部が前記第1破裂板または第2破裂板と対向するように、前記開口部が前記ディフューザ部に対して固定されているものである、請求項1または2記載のガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載するエアバッグ装置などに使用できるガス発生器に関する。
【0002】
背景技術
エアバッグ装置に使用するガス発生器には、ガス源としてガス発生剤のみを使用するもののほか、ガス源として主としてアルゴン、ヘリウムなどが高圧充填されたものを使用するものがある。
アルゴンやヘリウムなどが高圧充填されたタイプのガス発生器の場合には、作動前の状態では、ガスが高圧充填された加圧ガス室と、前記加圧ガス室内のガスの排出口との間のガス排出経路が破裂板で閉塞されており、作動時には、前記破裂板が破壊されてガス排出経路が開放されることでガスが排出されるようになっている。
【0003】
JP−A No.2014−69628には、加圧ガスとガス発生剤を有しているハイブリッドタイプのインフレータの発明が記載されている。
図1に示されているとおり、インフレータ1は、ハウジング3の一端側に破裂板14で閉塞されたスクイブ側口金部9があり、反対側端部に破裂板13で閉塞された吐出側口金部7を有しており、中間部分に加圧ガスG0が充填されている。
JP−A No.2014−69628のインフレータでは、ガス発生剤11は、燃焼時に発生する燃焼ガスを、加圧ガスG0とともに、エアバッグの膨張用に使用可能とされるもので、具体的には、燃焼時の発熱量を、6000〜10000J/gの範囲内に設定されているものを使用すると記載されている(段落番号0014)。
またJP−A No.2014−69628には、「実施形態のインフレーター1では、加圧ガスG0と、ガス発生剤11と、が、加圧ガスとガス発生剤11が燃焼して発生する燃焼ガスとのモル比(加圧ガス/燃焼ガス)を、80〜130の範囲内とするように、内部に充填されている。」と記載されている(段落番号0016)。
そして、実施形態のインフレーター1では、「スクイブ10が作動して、ガス発生剤11が燃焼して燃焼ガスが発生し、発生した燃焼ガスによってスクイブ側口金部9の内圧が高まれば、破裂板14が破裂して、ハウジング3内に燃焼ガスが流入することとなる。そして、この燃焼ガスによってハウジング3内の加圧ガスG0が加熱され、ハウジング3の内圧が高まれば、破裂板13が破裂して、加圧ガスG0と燃焼ガスとが、膨張用ガスGとして、吐出側口金部7に設けられたガス吐出口7bからインフレーター1外へ流出することとなり、エアバッグ装置のエアバッグを膨張させることとなる。」(段落番号0017)と記載されている。
つまり、加圧ガスG0部分の圧力が上昇することで、破裂板13が破裂して、吐出側口金部7を通って、ガス排出口7bからガスが排出されるものである。
【0004】
JP−A No.2003−520153のインフレータ20は、貯蔵ガス(アルゴン、ヘリウムなど)の入ったインフレータ筐体24と、インフレータ筐体24の第1端部28側のイニシエータアセンブリ40を有しており、反対側の第2端部32がバーストディスク60で閉塞されている。バーストディスク60の破壊メカニズムについては、次のように記載されている。
「イニシエータ充填剤が着火すると、それが衝撃波を発生し、その衝撃波がインフレータ筐体の第1の端部から移動し、貯蔵ガスの入った障害物のないインフレータ筐体を通って、バーストディスクおよびインフレータ筐体の第2の端部に至る。衝撃波がバーストディスクに達すると、その衝撃波はバーストディスクから反射する。バーストディスクから反射すると、バーストディスクと衝撃波の間で圧力が上昇する。この発生した圧力は、バーストディスクのバースト圧より高いために、バーストディスクの開放または破裂が起こる。開放後、貯蔵ガスおよびイニシエータ充填剤および/ または他の推進剤の活性化によって発生したガスによるインフレータ筐体中の膨張ガスは、開放したバーストディスクから流出する。」(段落番号0011)
JP−A No.2003−520153の発明では、JP−A No.2014−69628の発明のようにガス放出口側にある破裂板を破壊する手段として、ガス発生剤の燃焼ガスは使用していない。
【0005】
本発明の開示
本発明の第1の実施態様は、筒状ハウジングの第1端開口部側に点火手段室を有し、長軸方向反対側の第2端開口部側にガス排出口を有するディフューザ部を有し、前記点火手段室と前記ディフューザ部の間に加圧ガス室を有しているガス発生器であって、
前記点火手段室と前記加圧ガス室の間の第1端開口部が第1破裂板で閉塞され、前記加圧ガス室と前記ディフューザ部の間の第2端開口部が第2破裂板で閉塞されており、
前記点火手段室内には点火器とガス発生剤成形体が収容されており、
前記加圧ガス室内にはガス源となるガスが充填されており、
前記点火手段室内に充填されているガス発生剤成形体から発生する単位時間当たりのエネルギー量A(J/msec)と、
前記加圧ガス室の前記点火手段室と接する部分の筒状ハウジング長軸方向に直交する断面の断面積B(cm2)と、
前記加圧ガス室に充填されたガスの密度C(g/cm3)が、
次式(I):A/B×C=320〜490 (I)で示されるエネルギー制御係数を満たしているものである、ガス発生器を提供する。
【0006】
また本発明の第2の実施態様は、筒状ハウジングの第1端開口部側に点火手段室を有し、長軸方向反対側の第2端開口部側にガス排出口を有するディフューザ部を有し、前記点火手段室と前記ディフューザ部の間に加圧ガス室を有しているガス発生器であって、
前記点火手段室と前記加圧ガス室の間の第1端開口部が第1破裂板で閉塞され、前記加圧ガス室と前記ディフューザ部の間の第2端開口部が第2破裂板で閉塞されており、
前記点火手段室内には点火薬を含む点火器とガス発生剤成形体が収容されており、
前記加圧ガス室内にはガス源となるガスが充填されており、
前記点火手段室内に充填されているガス発生剤成形体から発生する単位時間当たりのエネルギー量A(J/msec)と、
前記点火器から発生する単位時間当たりのエネルギー量D(J/msec)と、
前記加圧ガス室の前記点火手段室と接する部分の筒状ハウジング長軸方向に直交する断面の断面積B(cm2)と、
前記加圧ガス室に充填されたガスの密度C(g/cm3)が、
次式(II):(A+D)/B×C=430〜580 (II)で示されるエネルギー制御係数を満たしているものである、ガス発生器を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本発明は、以下の詳細な説明と添付された図面により、さらに完全に理解されるものであるが、これらはただ説明のため付されるものであり、本発明を制限するものではない。
【0008】
図1図1は、本発明のガス発生器の長軸方向の断面図である。
図2図2は、図1とは別実施形態のガス発生器の長軸方向の断面図である。
図3図3は、式(II)のエネルギー制御係数とTTFGとの関係を示すグラフである。
図4図4は、式(I)のエネルギー制御係数とTTFGとの関係を示すグラフである。
【0009】
本発明の詳細な説明
本発明は、より小さなエネルギーにてガス排出経路を閉塞している破裂板を破壊することができるガス発生器を提供する。
【0010】
本発明の第1の実施態様のガス発生器は、点火手段室内の点火器が作動してガス発生剤成形体が着火燃焼すると、点火手段室の内圧が上昇して第1破裂板が開裂される。ガス発生剤成形体としては公知のものが使用できるが、例えば、特開2005-199867に開示のガス発生剤を使用することが出来、特にニトログアニジンと硝酸ストロンチウムを含む組成のガス発生剤を使用することが出来る。
第1破裂板の開裂により生じた開口部から放出されたエネルギーは、加圧ガス室内を移動して第2破裂板に衝突して開裂させ、加圧ガス室からディフューザ部へのガス排出口を開口させる。
第2破裂板の開口部を通ったガスは、ディフューザ部のガス排出口から排出される。
本発明のガス発生器では、ガス発生剤による燃焼ガスが、加圧ガス室全体の圧力を増大させることによって第2破裂板が開裂するのではなく、それよりも早いタイミングでガス発生剤から発生したエネルギーで圧力波を発生させ、その圧力波が加圧ガスを伝播して第2破裂板を開裂させる。
したがって、ガス発生器からのガスの排出を迅速に行うことができる。この圧力波は、点火手段室で発生したエネルギーが加圧ガス室へ流れ込むときに、両室の間に発生する大きなエネルギー差に起因するものと考えられる。そのため、ガス発生剤からのエネルギー量は、短時間のうちにある程度の量を発生し、加圧ガス室と点火手段室との間に圧力の差を形成する必要がある。なおここでいう圧力波とは、音速以下の速度で伝播する波を表す。
このような動作をする本発明のガス発生器は、ガス発生剤成形体と加圧ガスを使用するハイブリッドタイプのガス発生器であり、式(I)のエネルギー制御係数を満たしていることによって、次の動作(a)、(b)、(c)ができることが特徴の発明である。
(a)加圧ガス室とディフューザ部の間を閉塞している第2破裂板を開裂させるための点火手段から発生させるエネルギー量を抑制できること。
(b)点火手段室内で発生したエネルギーが加圧ガス室内を通過するときのエネルギーの減衰をできるだけ小さくして第2破裂板まで到達させて開裂させること。
(c)発生エネルギー量、加圧ガスの充填密度を適正範囲に維持することで、ガス発生器自体の質量を抑制できること。
【0011】
式(I)中のA(J/msec)は、ガス発生剤成形体から単位時間あたりに発生するエネルギーであり、次の方法によって求めることができる。
(1)ガス発生器に充填するガス発生剤成形体を所定の形状に成型したものを準備する。使用するガス発生剤成形体の組成や組成比、形状、寸法は公知のものを用いることができる。
ガス発生剤成形体をガス発生器に充填して作動させたときに、当該ガス発生剤成形体が配置された点火手段室の圧力が、最大値に到達するまでの時間(T/ msec)、および最大圧力値(P/ kPa)を測定する。ここでTは、その時点で閉塞部材(第1破裂板)が開裂したことを示す。
【0012】
(2)次に、ハウジング内に配置されたこのガス発生剤成形体の燃焼速度rを求める。燃焼速度は、ガス発生剤成形体と同じ密度、組成比の成型体を寸法(長さ12.7mm)に成型したストランドを、所定圧力の窒素雰囲気中に配置し、一端面からニクロム線で着火させて反対端面まで燃焼が進行するように燃焼させたときの、燃焼完了に掛かる時間と、燃焼距離(ストランドの長さ)から燃焼速度を求める。
この測定を複数の異なった圧力下で行い、ガス発生剤成形体の圧力指数nを求める。(r=a×Pn)(ただしaは定数)
【0013】
(3)上記(1)において求めたTの半分の値(T1/2)に相当する箇所でのP1/2(kPa)を求める。
(4)上記(3)で求めた圧力P1/2での燃焼速度rを上記(2)の式から求める。
(5)上記(1)のガス発生剤成形体が上記(4)で求めた燃焼速度でハウジング内圧が最大値に到達するまでの時間に燃焼した質量(g)を求める。
(6)ガス発生器に充填する全ガス発生剤成形体から発生するエネルギーを所定の機器で測定し、充填したガス発生剤成形体の充填量で割り、単位重量当たりの発生エネルギー(J/g)を求める。
(7)上記(5)、(6)を掛け合わせて全体のエネルギー量を求める(J/mol)。
【0014】
A(J/msec)は、ガス発生剤成形体から単位時間あたりに発生するエネルギーであるから、A(J/msec)が大きいほど短い間隔で多くのエネルギーを一度に発生させることができることを表す。ガス発生剤成形体は、粒状やペレット状の成形体が多数配置され、全体として表面積(即ち、着火面積)が大きくなっている。したがって、着火面積が大きくなると密度の高いエネルギーが生まれ、それが第2破裂板に対して圧力波として供給される。
【0015】
式(I)中のBは、加圧ガス室の点火手段室と接する部分の筒状ハウジング長軸方向に直交する断面の断面積(cm2)である。
筒状ハウジングが均一径(均一内径)であるときは、式(I)中のBは長さ方向の任意の位置の断面積となる。
筒状ハウジングの断面積は、ガス発生剤成型体からのエネルギーを分散させる要件になることから、筒状ハウジングが均一内径でない場合には、筒状ハウジングの内径が最大になる部分(すなわち断面積が最大になる部分)を式(I)中のBとする。
【0016】
式(I)中のA/Bは、ガス発生剤成形体から発生したエネルギーが加圧ガス室内のどれだけの断面積を有する空間に排出されるかを表すことになる。断面積Bが大きいほどエネルギーが分散されることになるが、断面積Bが余り小さくなると、ガスの充填量が不足して、エアバッグを十分に膨張させることができなくなる。
よって、A/Bは、単位断面積あたりのエネルギー量(発生したエネルギーがどれだけの加圧ガスに仕事を与えるのかという尺度)を表すことになる。
【0017】
式(I)中のCは、加圧ガス室に充填されたガスの密度(g/cm3)である。
Cは、加圧ガス室内に発生したエネルギー(圧力波)をできるだけ減衰させないようにして第2破裂板まで伝えるための要件である。
加圧ガス室内の加圧ガスの充填密度が高いほどエネルギー(圧力波)の減衰は少なくなり、前記充填密度が低いほど減衰は大きくなる。即ち、第2破裂板に対して効率的にエネルギーを供給するためには、エネルギーが第2破裂板に伝わっていく間にエネルギーの消費を可能な限り抑制することが望ましい。なお、充填圧力は同じであってもガスの種類によって密度は変わってくる。
【0018】
ガス発生剤成形体の燃焼によって発生したガス(燃焼ガス)も加圧ガス室に流れ込むことから、発生エネルギー(圧力波)には、燃焼ガスによるモル数増加分の寄与も考えられる。
このため、燃焼ガスによるモル数の増加を考慮したときには、式(I)中のCは、C×(E+F)/E(Eは加圧ガスのモル数、Fはガス発生剤成形体から発生するガス(燃焼ガス)のモル数)で表すこともできる。
【0019】
式(I):A/B×Cで求められるエネルギー制御係数は320〜490である。
式(I)のエネルギー制御係数(下限値)が320未満であるときは、A(J/msec)が小さくなるか、Bが大きくなるか、またはCのガス密度が小さくなる。
A(J/msec)が小さくなったり、Bが大きくなったり、Cが小さくなったりすると、発生するエネルギー(圧力波)が小さくなったり、圧力波の伝播力が小さくなったりして、第2破裂板を開裂させることが困難になる。
式(I)のエネルギー制御係数(上限値)が490を超えるときは、A(J/msec)が大きくなるか、Bが小さくなるか、またはCのガス密度が大きくなる。
この場合には、作動時における発生エネルギーが非常に高くなるため、筒状ハウジングの肉厚を大きくして発生エネルギーへの耐性を高めるなどの対策を講じる必要があり、ガス発生器自体の質量が増加してしまう。
【0020】
式(I)を式(I')=A/B×C×(E+F)/Eとしたときは、エネルギー制御係数は320〜510の範囲が好ましい。
【0021】
本発明の第2の実施態様のガス発生器は、第1の実施態様のガス発生器と同じであり、上記の第1の実施例態様で述べた事項がそのまま当てはまるが、ガス発生剤成形体から発生する燃焼ガスからのエネルギーに加え、点火器(点火薬)からのエネルギーが加わることを加味している点で異なる。ガス発生剤成形体と点火薬は、ともに圧力波の発生源となる。点火薬としては公知の点火薬であるジルコニウムと過塩素酸カリウムの混合物(ZPP)を含むものが使用できる。あるいは点火薬として水素化チタンと過塩素酸カリウムの混合物(THPP)を含むものなどを使用することが出来る。このような点火薬を含む点火器を用いる場合、点火薬として例えば350mg以下のものを使用することが出来る。さらにはこのような点火薬を300mg以下含む点火器を使用することが好ましい。
【0022】
式(II):(A+D)/B×Cで求められるエネルギー制御係数は430〜580である。
式(II)のエネルギー制御係数(下限値)が430未満であるときは、A+D(J/msec)が小さくなるか、Bが大きくなるか、またはCのガス密度が小さくなる。
A+D(J/msec)が小さくなったり、Bが大きくなったり、Cが小さくなったりすると、発生するエネルギー(圧力波)が小さくなったり、圧力波の伝播力が小さくなったりして、第2破裂板を開裂させることが困難になる。
式(I)のエネルギー制御係数(上限値)が580を超えるときは、A+D(J/msec)が大きくなるか、Bが小さくなるか、またはCのガス密度が大きくなる。
この場合には、作動時における発生エネルギーが非常に高くなるため、筒状ハウジングの肉厚を大きくして発生エネルギーへの耐性を高めるなどの対策を講じる必要があり、ガス発生器自体の質量が増加してしまう。
【0023】
点火薬は燃焼してもガス成分が殆ど発生しないことから、(E+F)/Eの項におけるガスのモル数に与える影響が殆どない。そのため式(I’)に準じた式(II’) =(A+D)/B×C×(E+F)/EはDの影響のみを考慮すればよく、その範囲は430〜600が好ましい。
【0024】
本発明のガス発生器のさらに好ましい実施形態は、前記第1破裂板または第2破裂板が前記加圧ガス室側からカップ状のフィルタで覆われており、
前記カップ状のフィルタが、底部、周壁部および開口部を有しており、さらに少なくとも前記周壁部が厚さ方向に貫通した複数のガス通過孔を有しているものであり、
前記カップ状のフィルタが、前記底部が前記第1破裂板または第2破裂板と対向するように、前記開口部が前記ディフューザ部に対して固定されているものである。
【0025】
カップ状のフィルタを使用すると、第1破裂板が開裂したときに破片が生じた場合でも、ガス排出口から排出されることを防止できる。
なお、第1破裂板側または第2破裂板側にカップ状フィルタを配置した場合でも、圧力波により開裂される第2破裂板の開裂動作が阻害されることはない。例えば筒状ハウジングの第2端開口部の内径を徐々に縮径させて、圧力波を反射させてカップ状のフィルタにおけるガス通過孔に集中しやすくすることが出来る。
【0026】
本発明のガス発生器は、式(I)または式(II)のエネルギー制御係数を満たしていることから、少ないエネルギー量で、かつエネルギーロスを抑制して、確実に第2破裂板を破壊することができるほか、ガス発生器の質量も軽減することができ、作動の安全性も確保することができる。
【0027】
本発明のガス発生器は、自動車に搭載するエアバッグ装置用のガス発生器として使用することができるほか、瞬間的にガスを供給する必要がある用途全般に使用することができる。
【0028】
本発明の実施の形態
(1)図1のガス発生器
ガス発生器1は、筒状ハウジング10の第1端開口部10a側に点火手段室20を有しており、長軸方向反対側の第2端開口部10b側にディフューザ部40を有している。
筒状ハウジング10、点火手段室20、ディフューザ部40は、いずれも鉄、ステンレスなどの金属からなるものであり、それぞれの接続箇所は溶接されている。
点火手段室20とディフューザ部40の間には、加圧ガス室30を有している。
【0029】
点火手段室20は、筒状の点火手段室ハウジング21の第1端開口部21a側に電気式点火器23が固定されており、第2端開口部21b側は、鉄、ステンレスなどからなる第1破裂板24で閉塞されている。
第1破裂板24は、筒状の点火手段室ハウジング21の第2端開口部21b側に周縁部が溶接固定されている。
点火手段室20の内部には、公知のガス発生剤成形体26が充填されている。
【0030】
ガス発生器1は、第1破裂板24で閉塞されていないときの第1端開口部10aの内径(d1:図1では加圧ガス室と点火手段室を接続する連通口の内径を指す)、筒状ハウジング10の内径(D1)および点火手段室20に充填されているガス発生剤成形体26の最大大きさ(L1)が、D1>d1>L1の関係を満たしており、d1/L1=2〜17の関係を満たしている。
【0031】
図1の筒状ハウジング10は、第1端開口部10aから第2端開口部10bまでの範囲が均一径(均一外径および均一内径)のものである。
加圧ガス室30の点火手段室20と接する部分の筒状ハウジング10の長軸方向に直交する断面の断面積B(cm2)は、表1に示すようにすることができる。
【0032】
【表1】
【0033】
加圧ガス室30とディフューザ部40の間の第2端開口部10bは、鉄、ステンレスなどからなる第2破裂板31で閉塞されている。
加圧ガス室30内には、アルゴン、ヘリウムなどのガスが高圧で充填されている。加圧ガスは、筒状ハウジング10の周壁部11の孔にピン12を差し込んだ状態で、孔とピン12の隙間から充填した後、周壁部11とピン12を一緒に溶接することで封入することができる。
加圧ガス室30に充填されたガスの密度C(g/cm3)は、表2に示すようにすることができる。
【0034】
【表2】
【0035】
ディフューザ部40は、底面41、周面42、開口部側のフランジ部43、周面に形成された複数のガス排出口44からなるものである。
フランジ部43と筒状ハウジング10の第2端開口部10bが溶接されている。
第2破裂板31は、フランジ部43の加圧ガス室30側の面に溶接されている。
【0036】
次に、図1に示すガス発生器1の動作を説明する。
点火手段室20内の点火器23が作動してガス発生剤成形体26が着火燃焼され、燃焼ガスを発生させる。
燃焼ガスの発生により点火手段室20内の圧力が高められると、第1破裂板24が開裂して、点火手段室20と加圧ガス室30が連通される。
点火手段室20内のエネルギー(ガス発生剤からのエネルギー、および点火薬からのエネルギー)が連通口から加圧ガス室30内に放出されると、点火手段室20と加圧ガス室30との間の圧力差に起因して、圧力波が第2破裂板31方向に進む。
このときの圧力波は、加圧ガス室30内部にエネルギーの疎/密の領域を形成する縦波として進行するものと考えられ、エネルギーが密の部分が第2破裂板31に衝突したときに、そのエネルギーが増大するものと考えられる。
つまり、第2破裂板31に衝突する前の密の部分のエネルギー量が、第2破裂板31を開裂させるほど大きくなくても、第2破裂板で跳ね返った波のエネルギーの一部がエネルギーの密な部分に加わることから、エネルギー全体が第2破裂板31の破裂圧より大きくなり、開裂し易くなるものと考えられる。そしてその現象が、ガス発生剤成形体26からの燃焼ガスによる加圧ガス室全体の圧力上昇よりも早く発生する。
このように開裂させる場合、通常であれば単にエネルギー(圧力波)Aを大きくするために、ガス発生剤成形体26や点火薬の量を増量することになるが、これはガス発生剤成形体26や点火薬全体から過剰なエネルギーを発生させることとなるため、耐圧性能を向上させるなどの措置を講ずる必要がある。
本発明のガス発生器1は、式(I):A/B×C=320〜490、または式(II):(A+D)/B×C=430〜580のエネルギー制御係数を満たしていることが特徴であるため、Aを過剰に大きくしなくても(すなわち、ある程度のエネルギーを瞬時に発生できる状態であれば)、BとCを調整することで、第2破裂板31を開裂させることができる。
【0037】
ガス発生器1は、第1破裂板24で閉塞されていないときの第1端開口部10aの内径(d1)、筒状ハウジング10の内径(D1)および点火手段室20に充填されているガス発生剤成形体26の最大大きさ(L1)が、D1>d1>L1の関係を満たしており、d1/L1=2〜17の関係を満たしている。
ここで、最大大きさL1は、ガス発生剤成形体26が円柱のときは長さであり、ガス発生剤成形体26がディスク形状のときは直径である。
【0038】
(2)図2のガス発生器
図2のガス発生器1は、図1のガス発生器1に対してカップ状のフィルタ50を配置しただけの違いである。
カップ状のフィルタ50は、底部51、周壁部52および開口部に形成されたフランジ部53を有しており、周壁部52は厚さ方向に貫通した複数のガス通過孔54を有している。ガス通過孔54は、底部51に形成されていてもよい。
カップ状のフィルタ50は、底部51が第2破裂板31と対向するように、フランジ部53がディフューザ部40のフランジ部43に対して固定されている。
【0039】
図2のガス発生器1は、図1のガス発生器1と同様に動作するが、第1破裂板24が開裂して破片が生じたときでも、破片が第2破裂板31に衝突することが防止されるほか、第2破裂板31が開裂した後、前記第1破裂板の破片がディフューザ部40内に入り込むことも防止される。なお同じ目的で、カップ状のフィルタ50を第1破裂板24側に配置することも出来る。
【実施例】
【0040】
実施例および比較例
図1に示すガス発生器1を使用して、例ごとにA、B、C、Dを表3に示すように調整した。なお、点火薬はZPPを含む組成でパウダー状のものであるため瞬時に燃焼するので、その燃焼完了にかかる時間を1 msecとして、(点火薬からの発生エネルギー(J/g))×(点火薬充填量(g))/1 msecで計算をしている。また表3のTTFGは、点火器に電流を流してからガスが排出開始されるまでの時間(第2破裂板が開裂するまでの時間)を指すもので、ガス発生器を28.3L密閉タンク内に配置して、室温で作動させたときのタンク内部圧力曲線から求めた数値である。
【0041】
【表3】
【0042】
実施例1〜5は、式(I)の値が325,333、346、379、390であり、式(I):A/B×C=320〜490の範囲内であった。また式(II)の値が431、438、441、523、535であり、:(A+D)/B×C=430〜580の範囲内であった。さらにTTFGは2.3msec以内であり、点火器の作動から短時間でガスの排出が開始されている。
比較例1〜3は、式(I)の値が59,496、499であり、式(I):A/B×C=320〜490からはずれていた。また式(II)の値が76、587、647であり、式(II):(A+D)/B×C=430〜580から外れている。そしてTTFGも全体的に時間がかかっている。
【0043】
比較例1は、A(J/msec)が小さいため、式(I)、(II)で示されるエネルギー制御係数を高めようとすると、Bを小さくして、Cを大きくする必要がある。しかし、そのようにしてエネルギー係数を高めても、本発明と同等の効果は十分得られず、第2破裂板が開裂するタイミングが実施例の仕様のガス発生器よりも僅かではあるが遅くなった。
比較例2は、式(I)、(II)で示されるエネルギー制御係数は比較例1と変わらないが、比較例1よりも断面積Bが大きくなり、エネルギーが分散しやすくなっているので効率的に第2破裂板を開裂しにくい。
比較例3は、A(J/msec)が大きいため、Bを大きくして、Cを小さくせざるを得ず、第2破裂板を開裂するに十分な式(I)、(II)で示されるエネルギー制御係数を得ることができなくなる。
【0044】
実施例1〜5は、式(I):A/B×C=320〜490、または式(II):(A+D)/B×C=430〜580のエネルギー制御係数を満たすことを目安にして、A、BおよびCを調整することで、エネルギー(圧力波)を効率よく伝播し、第2破裂板を確実に破壊できるようになる。図3には横軸に(A+D)/B×Cを縦軸にTTFGをとりプロットした結果を示す。また図4には横軸にA/B×Cを縦軸にTTFGをとりプロットした結果を示す。(A+D)/B×C=430〜580の範囲において、(A+D)/B×C=320〜490の範囲においてそれぞれ最小値をとり、ガスの排出開始が最も早くなる範囲が特定されている。
【0045】
本発明を以上のように記載した。当然、本発明は様々な形の変形をその範囲に含み、これら変形は本発明の範囲からの逸脱ではない。また当該技術分野における通常の知識を有する者が明らかに本発明の変形とみなすであろうすべては、以下に記載する請求項の範囲にある。
図1
図2
図3
図4