特許第6707123号(P6707123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6707123防食塗料組成物、防食塗膜、防食塗膜付き基材およびその製造方法
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  • 特許6707123-防食塗料組成物、防食塗膜、防食塗膜付き基材およびその製造方法 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707123
(24)【登録日】2020年5月21日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】防食塗料組成物、防食塗膜、防食塗膜付き基材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20200601BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20200601BHJP
   C09D 129/10 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   C09D163/00
   C09D5/08
   C09D129/10
【請求項の数】9
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2018-501786(P2018-501786)
(86)(22)【出願日】2017年2月24日
(86)【国際出願番号】JP2017007031
(87)【国際公開番号】WO2017146193
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2018年7月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-34314(P2016-34314)
(32)【優先日】2016年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真尚
【審査官】 川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−304069(JP,A)
【文献】 特開平11−315250(JP,A)
【文献】 特開昭53−028632(JP,A)
【文献】 特開2014−148639(JP,A)
【文献】 特開昭56−041270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
B32B 27/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エポキシ樹脂と、(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体と、(c)アミン系硬化剤とを含み、
前記(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体が、下記式(1)で表されるビニルアルキルエーテルの単独重合体、または下記式(1)で表されるビニルアルキルエーテルをモノマー全量に対し50重量%以上の量で用いて得られたポリビニルアルキルエーテル共重合体である、
防食塗料組成物。
【化1】
[式(1)中、Rは直鎖または分岐のアルキル基を示す。]
【請求項2】
前記(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体中に含まれる、ビニルアルキルエーテル由来の構成単位のアルキル基の炭素数が1〜4である、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項3】
さらに(e)ビニル系(共)重合体(但し、(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体は除く)を含有する、請求項1〜の何れか1項に記載の防食塗料組成物。
【請求項4】
前記(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体の不揮発分の含有量が、前記防食塗料組成物の不揮発分に対し、0.1〜10重量%である、請求項1〜の何れか1項に記載の防食塗料組成物。
【請求項5】
金属基材に直接塗装する組成物である、請求項1〜の何れか1項に記載の防食塗料組成物。
【請求項6】
請求項1〜の何れか1項に記載の防食塗料組成物より形成された防食塗膜。
【請求項7】
請求項に記載の防食塗膜と基材との積層体である、防食塗膜付き基材。
【請求項8】
前記基材が鉄鋼構造物である、請求項に記載の防食塗膜付き基材。
【請求項9】
基材に、請求項1〜の何れか1項に記載の防食塗料組成物を塗装する工程、および
塗装された前記防食塗料組成物を硬化させて防食塗膜を形成する工程
を有する防食塗膜付き基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食塗料組成物、防食塗膜、防食塗膜付き基材および防食塗膜付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶、橋梁、タンク、プラント、海上ブイ、海中パイプライン等の(大型)鉄鋼構造物は、腐食防止のため、エポキシ樹脂系防食塗料組成物から得られる塗膜によって被覆されている。このような塗膜の上には、前記鉄鋼構造物の用途・目的に応じ、美観の付与、耐候性、防食性および防汚性等の機能を付与するため、多様な樹脂系の上塗り塗料組成物が塗装され、上塗り塗膜が形成されている。例えば、船舶の船底部には、フジツボなどの水棲生物や海藻類が付着することを防止する防汚塗料組成物が、上塗り塗料組成物として塗装される。
【0003】
一般的に、エポキシ樹脂系塗料組成物から形成された下塗り塗膜は、耐候性が劣るため、上塗り塗膜との層間付着性や上塗り塗膜との積層体が示す物性などの上塗り塗装適合性が低下し易い。特に、エポキシ樹脂系塗料組成物の下塗り塗装から上塗り塗装までの期間が長くなると、形成された下塗り塗膜と上塗り塗膜との層間付着性が不十分になるといった問題がある。また、上塗り塗料組成物として加水分解型の防汚塗料組成物を塗り重ねる場合、前記問題が顕著に表れることが知られている。
【0004】
このような従前の問題点を解決するため、これまでに種々のエポキシ樹脂系塗料組成物が提案されており、特許文献1には、塩化ビニル系共重合体を含有するエポキシ樹脂塗料組成物が、また、特許文献2には、エチレン・酢酸ビニル共重合体を含有するエポキシ樹脂塗料組成物がそれぞれ開示されている。これらの他に、エポキシ樹脂系塗料組成物の上塗り塗装適合性を改善する方法として、エポキシ樹脂と該樹脂と反応する成分との反応比を低く調整することが当業者に広く知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−259351号公報
【特許文献2】特開2009−197106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている塩化ビニル系共重合体、特許文献2に記載されているエチレン・酢酸ビニル系共重合体等のビニル系共重合体を含有するエポキシ樹脂系塗料組成物、または、反応比を低く調整したエポキシ樹脂系塗料組成物を基材に塗装し、形成された下塗り塗膜は、上塗り塗料組成物を塗り重ねられた際に、上塗り塗料組成物中の溶剤によって下塗り塗膜が膨潤する現象が発生することがある。特に、このような下塗り塗膜に対して架橋反応型の上塗り塗料(以下、防汚塗料組成物とそれ以外の塗料組成物とを併せて「塗料」ともいう。)を塗装する場合、該上塗り塗料組成物の硬化時に生じる収縮応力により、下塗り塗膜の基材に対する付着性が著しく損なわれ、結果として基材が腐食するといった問題がある。
【0007】
本発明の一実施形態では、防食性、基材との付着性に優れるとともに、上塗り塗料組成物として防汚塗料組成物、特に加水分解型の防汚塗料組成物や架橋反応型の塗料等を塗り重ねられた場合、特に架橋反応型の塗料が塗り重ねられた場合であっても、得られる上塗り塗膜に対する層間付着性に優れ、基材との付着性が低下し難い上塗り塗装適合性に優れる塗膜を形成することが可能であり、さらに、希釈溶剤の使用量を抑えることができる環境に優しい塗料組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者が、前記課題を解決する方法について鋭意検討を重ねた結果、エポキシ樹脂およびアミン系硬化剤を含有する塗料組成物に、ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体をさらに含有させることにより、前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成は以下の通りである。
【0009】
<1> (a)エポキシ樹脂と、(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体と、(c)アミン系硬化剤とを含む防食塗料組成物。
<2> 前記(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体中に含まれる、ビニルエーテル由来の構成単位のアルキル基の炭素数が1〜4である、<1>に記載の防食塗料組成物。
<3> さらに(d)エポキシ基を有する反応性希釈剤を含有する、<1>または<2>に記載の防食塗料組成物。
<4> さらに(e)ビニル系(共)重合体(但し、(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体は除く)を含有する、<1>〜<3>の何れかに記載の防食塗料組成物。
<5> <1>〜<4>の何れかに記載の防食塗料組成物を用いて形成された防食塗膜。
<6> <5>に記載の防食塗膜と基材との積層体である、防食塗膜付き基材。
<7> 前記基材が鉄鋼構造物である、<6>に記載の防食塗膜付き基材。
<8> 基材に、<1>〜<4>の何れかに記載の防食塗料組成物を塗装する工程、および
塗装された前記防食塗料組成物を硬化させて防食塗膜を形成する工程
を有する防食塗膜付き基材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態に係る防食塗料組成物は、防食性、基材との付着性に優れるとともに、該防食塗料組成物により形成された下塗り塗膜に対し、上塗り塗料組成物として防汚塗料組成物や架橋反応型の塗料等が塗り重ねられた場合、特に架橋反応型の塗料が塗り重ねられた場合であっても、上塗り塗膜に対する層間付着性に優れ、さらに基材との付着性が低下し難い上塗り塗装適合性に優れる塗膜を形成することができる。
【0011】
また、本発明の一実施形態に係る防食塗料組成物は、希釈溶剤の使用量を抑えることができ、環境に優しい塗料組成物にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、防食性評価に関して作製する試験板の平面図の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<防食塗料組成物>
以下、本発明の一実施形態に係る防食塗料組成物(以下「本組成物」ともいう。)について、好適な態様を含めて詳細に説明する。
【0014】
本組成物は、(a)エポキシ樹脂と、(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体と、(c)アミン系硬化剤とを含む。
本組成物は、保存安定性に優れる等の点から、主剤成分、硬化剤成分からなる2成分型の組成物、または主剤成分、硬化剤成分、少なくとも1つの第3成分からなる多成分型の組成物であることが好ましい。また、本組成物は、硬化剤の種類を選択することにより、1成分型の組成物とすることも可能である。
【0015】
例えば、多成分型の組成物である場合、前記主剤成分が(a)エポキシ樹脂を含有し、前記硬化剤成分が(c)アミン系硬化剤を含有し、前記主剤成分、前記硬化剤成分および第3成分の1つの成分または2つ以上の成分が、(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体を含有することが好ましい。なお、塗膜を形成する際には、主剤成分、硬化剤成分および第3成分を混合して得られる本組成物を用いる。
【0016】
さらに、本組成物は、任意で、塗装性や、該組成物から形成される塗膜の物性向上に寄与する(d)エポキシ基を有する反応性希釈剤、(e)ビニル系共重合体(但し、(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体は除く)をそれぞれ含有することが好ましく、また、後述するその他の成分を、本発明の目的を損なわない範囲で含有してもよい。
【0017】
<(a)エポキシ樹脂>
前記(a)エポキシ樹脂としては、特に制限されないが、分子内に2個以上のエポキシ基を含むポリマーまたはオリゴマー、およびそのエポキシ基の開環反応によって生成するポリマーまたはオリゴマーなどが挙げられる。このようなエポキシ樹脂としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪酸変性エポキシ樹脂などが挙げられる。(a)エポキシ樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0018】
これらの中でも、本組成物を基材に塗装する場合、該基材に対する付着性に優れる塗膜を形成することができる等の点から、好ましくはビスフェノール型エポキシ樹脂、より好ましくはビスフェノールA型およびビスフェノールF型のエポキシ樹脂から選択される1種以上、特に好ましくはビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
【0019】
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル類の重縮合物が挙げられる。該ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル類としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールA(ポリ)エチレンオキシドジグリシジルエーテル、ビスフェノールA(ポリ)プロピレンオキシドジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0020】
前記(a)エポキシ樹脂は、常温(15〜25℃の温度、以下同様。)で、液状から固形状のいずれでもよく、また、JIS K 7236(過塩素酸滴定法)に準拠して算出されるエポキシ当量が、好ましくは150〜1,000g/eq、より好ましくは150〜600g/eq、特に好ましくは180〜500g/eqである。
【0021】
前記(a)エポキシ樹脂は、従来公知の方法で合成して得た樹脂であってもよく、市販品であってもよい。該市販品の内、常温で液状の樹脂としては、「E−028」(大竹明新化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量180〜190g/eq、粘度12,000〜15,000mPa・s/25℃)、「jER807」(三菱化学(株)製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量160〜180g/eq、粘度2,000〜5,000mPa・s/25℃)、「フレップ60」(東レ・ファインケミカル(株)製、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、エポキシ当量280g/eq、粘度約17,000mPa・s/25℃)などが挙げられる。常温で半固形状の樹脂として、「jER834」(三菱化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量230〜270g/eq)などが挙げられる。常温で固形状の樹脂として、「jER1001」(三菱化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量450〜500g/eq)などが挙げられる。
また、前述の半固形状または固形状のエポキシ樹脂を溶剤で希釈し、溶液とした「E−834−85X」(大竹明新化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のキシレン溶液(834タイプエポキシ樹脂溶液)、エポキシ当量280〜320g/eq)、「E−001−75X」(大竹明新化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のキシレン溶液(1001タイプエポキシ樹脂溶液)、エポキシ当量610〜650g/eq)なども使用することができる。
【0022】
前記(a)エポキシ樹脂は、本組成物(不揮発分)中に、不揮発分(固形分)として、好ましくは5〜80重量%、より好ましくは5〜50重量%の量で含まれていることが望ましい。
【0023】
<(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体>
前記(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体は、下記式(1)で表されるビニルアルキルエーテル由来の構成単位を含有する(共)重合体である。該(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体を用いることで、塗膜の防食性、基材との付着性を維持したまま、上塗り塗装適合性に優れる塗膜を形成することができる。
【0024】
【化1】
【0025】
式(1)中、Rは直鎖または分岐のアルキル基を示す。
前記式(1)中のアルキル基の炭素数は、1以上であり、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4、更に好ましくは2〜4、特に好ましくは2である。
【0026】
前記(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体とは、前記式(1)で表されるビニルアルキルエーテルの単独重合体、または該ビニルアルキルエーテルをモノマー全量に対し50重量%以上の量で用い、その他のモノマーと重合して得られたポリビニルアルキルエーテル共重合体(これらをまとめて、単に「ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体」ともいう。)を意味する。このような(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体としては、上塗り塗装適合性に優れるなどの点から、前記式(1)で表されるビニルアルキルエーテルをモノマー全量に対し、75重量%以上の量で用いた共重合体が好ましく、単独重合体がより好ましい。このような(b)ビニルアルキルエーテル(共)重合体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記その他のモノマーとしては、式(1)で表されるビニルアルキルエーテル以外の化合物であって、該ビニルアルキルエーテルと共重合可能であれば制限なく使用することができる。
【0027】
前記(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体の分子量は、重量平均分子量Mw(GPCにて測定したポリスチレン換算値。以下同様。)が500〜300,000の範囲にあることが好ましい。Mwが前記範囲にある重合体は前記(a)エポキシ樹脂との相溶性に優れ、Mwが前記範囲にある重合体を用いることで、上塗り塗装適合性により優れる塗膜を形成することができる。
【0028】
前記(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体として、具体的には、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソプロピルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル等が挙げられる。前記(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体は、従来公知の方法で合成して得た重合体であってもよく、市販品であってもよい。該市販品の例としては、「ルトナールM−40」(BASF社製、ポリビニルメチルエーテル)、「ルトナールA−25」(BASF社製、ポリビニルエチルエーテル)、「ルトナールI−60」(BASF社製、ポリビニルイソブチルエーテル)が挙げられる。
【0029】
前記(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体は、本組成物(不揮発分)中に不揮発分として、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜7重量%の量で含まれることが、形成される塗膜の防食性および上塗り塗装適合性が優れる等の点で望ましい。また、(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体は、エポキシ樹脂やアミン系硬化剤と非反応性であるため、本組成物(不揮発分)中に不揮発分として、10重量%より多く含まれると、塗膜の硬度が不十分になる場合がある。
【0030】
前記(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体(不揮発分)は、本組成物中の(a)エポキシ樹脂の不揮発分100重量部に対して、好ましくは1〜100重量部、より好ましくは1〜50重量部の量で含まれることが、形成される塗膜の防食性および上塗り塗装適合性が優れる等の点で望ましい。
【0031】
<(c)アミン系硬化剤>
前記(c)アミン系硬化剤としては、特に制限されず、脂肪族アミン系硬化剤、脂環族アミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤、芳香脂肪族アミン系硬化剤、複素環アミン系硬化剤等が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0032】
前記脂肪族アミン系硬化剤としては、アルキルモノアミン、アルキレンポリアミン、ポリアルキレンポリアミン、アルキルアミノアルキルアミン等が挙げられる。
前記アルキレンポリアミンは、例えば、式:「H2N−R1−NH2」(R1は、炭素数1〜12の二価炭化水素基である。)で表される化合物が挙げられ、具体的には、メチレンジアミン、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、トリメチルヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0033】
前記ポリアルキレンポリアミンとしては、例えば、式:「H2N−(Cm2mNH)nH」(mは1〜10の整数であり、nは2〜10であり、好ましくは2〜6の整数である。)で表される化合物が挙げられ、具体的には、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ノナエチレンデカミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン等が挙げられる。
【0034】
これら以外の脂肪族アミン系硬化剤としては、例えば、テトラ(アミノメチル)メタン、テトラキス(2−アミノエチルアミノメチル)メタン、1,3−ビス(2'−アミノエチルアミノ)プロパン、2,2'−[エチレンビス(イミノトリメチレンイミノ)]ビス(エタンアミン)、トリス(2−アミノエチル)アミン、ビス(シアノエチル)ジエチレントリアミン、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテルが挙げられる。
【0035】
脂環族アミン系硬化剤としては、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4'−メチレンビス(シクロヘキサンアミン)、4,4'−イソプロピリデンビス(シクロヘキサンアミン)、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン(MDA)等が挙げられる。
【0036】
芳香族アミン系硬化剤としては、ベンゼン環に結合した2個以上の1級アミノ基を有する芳香族ポリアミン化合物等が挙げられる。
この芳香族アミン系硬化剤として、より具体的には、フェニレンジアミン、ナフチレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、2,2'−ジメチル−4,4'−ジアミノジフェニルメタン、2,4'−ジアミノビフェニル、2,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジメトキシ−4、4'−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
【0037】
芳香脂肪族アミン系硬化剤としては、ビス(アミノアルキル)ベンゼン、ビス(アミノアルキル)ナフタレン等が挙げられる。
この芳香脂肪族アミン系硬化剤としては、より具体的には、o−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン(MXDA)、p−キシリレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン、ビス(アミノエチル)ナフタレン等が挙げられる。
【0038】
複素環アミン系硬化剤としては、N−メチルピペラジン、モルホリン、1,4−ビス−(3−アミノプロピル)ピペラジン、1,4−ジアザシクロヘプタン、1−(2'−アミノエチルピペラジン)、1−[2'−(2"−アミノエチルアミノ)エチル]ピペラジン、1,11−ジアザシクロエイコサン、1,15−ジアザシクロオクタコサン等が挙げられる。
【0039】
その他の(c)アミン系硬化剤としては、例えば、特公昭49−48480号公報に記載のアミン類(アミン化合物)、ポリエーテルジアミン等が挙げられる。
前記(c)アミン系硬化剤として、さらに、前述したアミン系硬化剤の変性物、例えば、ポリアミドアミン、エポキシ化合物とのアミンアダクト、マンニッヒ変性物(例:マンニッヒ変性脂肪族ポリアミン、フェナルカミン、フェナルカマイドなど)、マイケル付加物、ケチミン、アルジミン、ウレタン変性物等が挙げられる。
【0040】
このような(c)アミン系硬化剤としては、上塗り塗装適合性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくはポリアミドアミン、ポリアミドアミンのエポキシ化合物とのアミンアダクト、およびマンニッヒ変性物から選択される1種以上、より好ましくはポリアミドアミンであることが望ましい。
【0041】
前記(c)アミン系硬化剤の活性水素当量は、防食性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは50〜1,000g/eq、より好ましくは80〜500g/eqである。このような(c)アミン系硬化剤としては、従来公知の方法で合成して得た化合物を用いてもよく、市販品を用いてもよい。該市販品としては、脂肪族ポリアミンである「AD−71」(大竹明新化学(株)製、活性水素当量290g/eq);ポリアミドアミンである「PA−66S」(大竹明新化学(株)製、活性水素当量377g/eq)および「Ancamide 910」(エアープロダクツ社製、活性水素当量230g/eq);ポリアミドアミンのエポキシアダクトである「PA−23」(大竹明新化学(株)製、活性水素当量375g/eq)および「PA−290(A)」(大竹明新化学(株)製、活性水素当量277g/eq);マンニッヒ変性芳香脂肪族ポリアミンである「MAD−204(A)」(大竹明新化学(株)製、活性水素当量202g/eq);マンニッヒ変性ポリアミドアミンである「アデカハードナーEH−342W3」((株)ADEKA製、活性水素当量110g/eq);マンニッヒ変性脂肪族ポリアミンである「サンマイドCX−1154」(三和化学(株)製、活性水素当量255g/eq);フェナルカミンアダクトである「カードライトNX−5459」(カードライト社製、活性水素当量164g/eq)などが挙げられる。
【0042】
前記(c)アミン系硬化剤の本組成物中の含有量は、下記の式(2)または(3)から算出される反応比が、好ましくは0.1〜1.2、より好ましくは0.2〜1.0、更に好ましくは0.2〜0.6となる量が望ましい。反応比が前記範囲となるように、(c)アミン系硬化剤の含有量を調整することは、本組成物より形成される塗膜がより防食性、塗膜強度および乾燥性に優れる等の点で望ましい。
【0043】
【0044】
ここで、前記式(2)における「(c)アミン系硬化剤に対して反応性を有する成分」としては、例えば、後述する(d)エポキシ基を有する反応性希釈剤、シランカップリング剤および(メタ)アクリレートモノマー等が挙げられ、また、「(a)エポキシ樹脂に対して反応性を有する成分」としては、例えば、後述するシランカップリング剤等が挙げられる。また、前記各成分の「官能基当量」とは、これらの成分1molにおける1官能基あたりの質量(g)を意味する。前述したシランカップリング剤としては、反応性基としてアミノ基やエポキシ基を有するシランカップリング剤を使用することができるため、反応性基の種類によって、シランカップリング剤が(a)エポキシ樹脂に対して反応性を有するのか、(c)アミン系硬化剤に対して反応性を有するのかを判断し、反応比を算出する必要がある。
【0045】
前記(c)アミン系硬化剤を含有する硬化剤成分は、B型粘度計(東機産業(株)製、型式「TVB−10」)を用いて測定した23±1℃下での粘度が、製造時および混合時の作業性、塗装作業性に優れる等の点から、好ましくは100,000mPa・s以下、より好ましくは50〜10,000mPa・sである。
【0046】
<(d)エポキシ基を有する反応性希釈剤>
前記(d)エポキシ基を有する反応性希釈剤(以下、単に「反応性希釈剤」ともいう。)は、(a)エポキシ樹脂以外の化合物であれば特に制限されないが、同一分子内に少なくとも1〜3個のエポキシ基を有する化合物が好ましく、さらに1〜2個のエポキシ基を有する化合物が塗装作業性を向上させる等の点で好ましく、特に1個のエポキシ基を有する化合物が好ましい。該(d)反応性希釈剤を用いることで、本組成物の不揮発分量を下げることなく塗料を低粘度化することができ、本組成物のハイソリッド化(本組成物中に含まれる塗膜形成成分の含有率を高めること)に有効であるとともに、上塗り塗装適合性、塗装作業性を向上させることができる。このような(d)反応性希釈剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0047】
前記(d)反応性希釈剤としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル(アルキル基の炭素数1〜15、好ましくは11〜15)、グリシジルエステル(R123C−COO−Gly、R1、R2およびR3で表されるアルキル基の炭素数の合計:8〜10、Gly:グリシジル基)、α−オレフィンエポキサイド(CH3−(CH2n−Gly、n=11〜13、Gly:同上)、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、アルキルフェニルグリシジルエーテル(アルキル基の炭素数1〜20、好ましくは1〜5、例:メチルフェニルグリシジルエーテル、エチルフェニルグリシジルエーテル、プロピルフェニルグリシジルエーテル)、アルキルフェノールグリシジルエーテル(アルキル基の炭素数1〜20)等が挙げられる。
【0048】
前記(d)反応性希釈剤としては、従来公知の方法で合成して得た化合物を用いてもよく、市販品を用いてもよい。該市販品としては、「エポジール759」(エアープロダクツ社製、アルキル(C12−C13)グリシジルエーテル、エポキシ当量275〜290g/eq)、「カードライト Lite2513HP」(カードライト社製、アルキル(C15)フェノールグリシジルエーテル、エポキシ当量375〜450g/eq)、「GE−10」(CVC Thermoset Specialties社製 、o−クレシルグリシジルエーテル、エポキシ当量170〜195g/eq)、「リカレジンDME−100」(新日本理化(株)製、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、エポキシ当量145〜170g/eq)等が挙げられる。
【0049】
前記(d)反応性希釈剤は、本組成物より得られる塗膜がより上塗り塗装適合性に優れる等の点から、本組成物(不揮発分)中に不揮発分として、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%の量で含まれていることが望ましい。
【0050】
また、前記(d)反応性希釈剤は、上塗り塗装適合性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点で、本組成物中の(a)エポキシ樹脂の不揮発分100重量部に対して、好ましくは1〜100重量部、より好ましくは1〜50重量部の量で含まれていることが望ましい。
【0051】
<(e)ビニル系(共)重合体>
前記(e)ビニル系(共)重合体((b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体を除く)は、特に制限なく使用することができる。このような(e)ビニル系(共)重合体としては、塩化ビニル系(共)重合体や酢酸ビニル系(共)重合体等が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
本組成物は、(b)ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体を必須として含むことにより、(e)ビニル系(共)重合体を用いても、下記問題が起こりにくく、また、(e)ビニル系(共)重合体の使用量を低減することができる。
【0052】
前記(e)ビニル系(共)重合体としては、塩化ビニル単独重合体、酢酸ビニル単独重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、塩化ビニル−アルキルビニルエーテル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−(メタ)アクリル酸アルキル共重合体(アルキル基:炭素数1〜5程度)、塩化ビニル−スチレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−ステアリン酸ビニル共重合体、塩化ビニル−マレイン酸(またはマレイン酸エステル)共重合体、塩化ビニル−脂肪族ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。
【0053】
前記(e)ビニル系(共)重合体としては、従来公知の方法で合成して得た化合物を用いてもよく、市販品を用いてもよい。該市販品の例としては、「UCAR VAGH」(ダウ・ケミカル日本(株)製、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体)、「ラロフレックスMP−25」(BASF社製、塩化ビニル−イソブチルビニルエーテル共重合体[イソブチルビニルエーテルの含有量は50重量%未満])、「エバフレックスEV−45X」(三井デュポンポリケミカル(株)製、エチレン−酢酸ビニル共重合体)、「ウルトラセン760」(東ソー(株)製、エチレン−酢酸ビニル共重合体)が挙げられる。
【0054】
このような(e)ビニル系(共)重合体を用いると、得られる組成物より形成される塗膜の上塗り塗膜との層間付着性が向上するが、(a)エポキシ樹脂との相溶性が不良であることに起因し、該組成物の粘度が著しく上昇することがある。したがって、該組成物の粘度が著しく上昇した場合、塗装作業性を維持するためには希釈溶剤を多量に必要とするため、環境や人体への負荷が大きくなる。そこで、(e)ビニル系(共)重合体と(a)エポキシ樹脂の相溶性を改善する方法を検討した所、さらに(d)反応性希釈剤を併用することで、前記相溶性が改善されるとともに、塗料組成物中の溶剤量を低減することができ、かつ、得られる組成物より形成される塗膜は、基材との付着性および上塗り適合性が優れることを見出した。したがって、(e)ビニル系(共)重合体を使用する場合は、(d)反応性希釈剤と組み合わせて使用することが望ましい。
【0055】
前記(e)ビニル系(共)重合体を使用する場合は、塗装作業性により優れる組成物が得られ、および上塗り塗装適合性により優れる塗膜が得られる等の点から、本組成物(不揮発分)中に不揮発分として、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%での量で含まれていることが望ましい。
【0056】
また、前記(e)ビニル系(共)重合体は、塗装作業性により優れる組成物が得られ、および上塗り塗装適合性により優れる塗膜が得られる等の点から、本組成物中の(a)エポキシ樹脂の不揮発分100重量部に対して、好ましくは1〜100重量部、より好ましくは1〜50重量部の量で含まれることが望ましい。
【0057】
<その他の成分>
本組成物には、これまでに述べた諸成分の他に、必要に応じて、体質顔料、着色顔料、溶剤、シランカップリング剤、可塑剤(石油樹脂、キシレン樹脂、クマロン樹脂、テルペンフェノール樹脂、アクリル樹脂)、たれ止め・沈降防止剤、硬化促進剤、分散剤、表面調整剤、レベリング剤、消泡剤、無機脱水剤(安定剤)、防汚剤等を、本発明の目的を損なわない範囲で配合してもよい。
【0058】
〔体質顔料〕
前記体質顔料としては、具体的には、硫酸バリウム、カリ長石、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ガラスフレーク、アルミニウム粉などが挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0059】
〔着色顔料〕
前記着色顔料としては、具体的には、チタン白、ベンガラ、黄色ベンガラ、カーボンブラックなどが挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0060】
〔溶剤〕
前記溶剤としては、特に限定されず、従来公知の溶剤を使用できる。例えば、キシレン、トルエン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、n−ブタノール、i−ブタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0061】
本組成物において、前記溶剤の含有量は特に制限されないが、選択する塗装方法での塗装作業性や、貯蔵中の顔料の沈降防止性等を考慮し、本組成物中に、好ましくは0〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%の量で含有することが望ましい。
【0062】
〔シランカップリング剤〕
前記シランカップリング剤としては、特に制限されず、従来公知の化合物を用いることができるが、同一分子内に少なくとも2つの加水分解性基を有し、基材に対する付着性の向上、塗料粘度の低下等に寄与できる化合物であることが好ましく、例えば、式:X−SiMen3-n[nは0または1、Xは有機質との反応が可能な反応性基(例:アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、ハロゲン基、炭化水素基の一部がこれらの基で置換された基、または炭化水素基の一部がエーテル結合等で置換された基の一部がこれらの基で置換された基。)を示し、Meはメチル基であり、Yは加水分解性基(例:メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基)を示す。]で表される化合物であることがより好ましい。このようなシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0063】
前記シランカップリング剤としては、「KBM−403」(信越化学工業(株)製、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、「サイラエースS−510」(JNC(株)製)等が挙げられる。
【0064】
前記シランカップリング剤を用いる場合、本組成物(不揮発分)中に不揮発分として、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%の量で含有されていることが望ましい。本組成物に、シランカップリング剤を前記範囲の量で用いることで、得られる塗膜の基材との付着性などの塗膜性能が向上し、特にハイソリッド防食塗料組成物では該組成物の粘度が下がり、塗装作業性が向上する。
【0065】
〔可塑剤〕
前記可塑剤として、例えば、石油樹脂、キシレン樹脂、クマロン樹脂、テルペンフェノール樹脂、アクリル樹脂が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。本組成物に、以下で説明する可塑剤を用いることで、得られる塗膜の防食性、柔軟性、上塗り塗装適合性などを向上させることができる。
【0066】
前記石油樹脂は、石油精製で副生される留分を主原料とする水酸基を含有する重合体であり、軟化点が150℃以下、好ましくは100℃以下である水酸基含有石油樹脂が望ましい。石油樹脂の軟化点が150℃を超えると、塗料粘度が高くなり作業性が低下したり、塗膜物性が低下する場合がある。
【0067】
このような石油樹脂として、具体的には、「ネシレスEPX−L」(Nevcin Polymers co.製、インデン・スチレン系)、「HILENOL PL−1000S」(KOLONケミカル社製、C9留分石油樹脂)などが挙げられる。
【0068】
前記キシレン樹脂は、好ましくはメタキシレンとホルムアルデヒドから公知の方法で合成される樹脂である。また、フェノールやパラ−t−ブチルフェノールのような2官能性フェノールなどのフェノール類によって、変成したキシレン樹脂も使用することができる。
このようなキシレン樹脂として、具体的には、「ニカノールY−51」、「ニカノールY−100」(いずれもフドー(株)製、キシレンホルムアルデヒド樹脂)などが挙げられる。
【0069】
前記クマロン樹脂は、好ましくはクマロン成分単位、インデン成分単位、スチレン成分単位を主鎖に含む共重合体であり、末端がフェノールにて変性されていてもよく、また、クマロン樹脂中の芳香族環の少なくとも一部が水素添加されていてもよい。
【0070】
このようなクマロン樹脂として、具体的には、「ニットレジンクマロンV−120」、「ニットレジンクマロンH−100」(いずれも日塗化学(株)製)などが挙げられる。
【0071】
前記テルペンフェノール樹脂は、好ましくはテルペン単量体またはその誘導体とフェノール系化合物との共重合体である。テルペンフェノール樹脂を構成するテルペンまたはその誘導体に由来する構成単位(以下「テルペン系構成単位」という。)としては、非環式テルペン、環式テルペンが挙げられ、例えば、モノテルペン、セスキテルペン、ジテルペン、トリテルペン等、およびこれらの誘導体が挙げられる。テルペンフェノール樹脂を構成するフェノール系化合物に由来する構成単位(以下「フェノール系構成単位」という。)としては、例えば、フェノール、クレゾール、ビスフェノールA等、およびこれらの誘導体が挙げられる。前記テルペン系構成単位は、1種単独で、または2種以上がテルペンフェノール樹脂中に存在していてもよく、また、前記フェノール系構成単位も、1種単独で、または2種以上がテルペンフェノール樹脂中に存在していてもよい。換言すれば、テルペン単量体またはその誘導体は1種または2種以上を用いることができ、また、フェノール系化合物も1種または2種以上を用いることができる。
また、テルペン系構成単位とフェノール系構成単位は、交互またはランダムに結合してテルペンフェノール樹脂を構成していてもよい。
【0072】
このようなテルペンフェノール樹脂として、具体的には、「YSポリスターU130」、「YSポリスターT160」(いずれもヤスハラケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0073】
前記アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等の脂環・芳香環・複素環含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸アリル等のビニル基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル等のアルコキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等のアルキルアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレグリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン等のジまたはトリ(メタ)アクリル酸エステル;フタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル等のカルボン酸含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル等のフルオロ基含有(メタ)アクリル酸エステル;等のモノマー群から選択される1種、または2種以上を(共)重合させてなるアクリル樹脂が挙げられる。ここで、例えば、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸あるいはメタクリル酸を意味する表記であり、その他の類似の表記も同様の意味である。
【0074】
また前記アクリル樹脂には、前記モノマー群に加えて、さらに、スチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロトン酸エステル、イタコン酸エステル等から選択される1種、または2種以上を共重合させてなるアクリル樹脂も含まれる。これらのアクリル樹脂に使用されるモノマーの比率については、特に制限はなく、前記アクリル樹脂は必要に応じて、アルキッド変性、シリコーン変性、ウレタン変性等をした変性アクリル樹脂であってもよい。
【0075】
このようなアクリル樹脂として、具体的には、「ACP−601」(大竹明新化学(株)、Mw50,000)等が挙げられる。
【0076】
〔たれ止め・沈降防止剤〕
前記たれ止め・沈降防止剤は、本組成物に揺変性(チクソトロピー)を付与し、該組成物の基材への付着性を向上させることができる。前記たれ止め・沈降防止剤としては、特に制限されず、有機系揺変剤および無機系揺変剤などが挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いることもできる。
【0077】
前記有機系揺変剤としては、例えば、アマイドワックス、具体的には、「ASA T−250F」(伊藤製油(株)製)が挙げられる。その他の有機系揺変剤として、水素添加ひまし油系、酸化ポリエチレン系、植物油重合油系、界面活性剤系の揺変剤、または、これらを2種以上併用した揺変剤が挙げられる。
【0078】
前記無機系揺変剤としては、例えば微粉化シリカ、ベントナイト、シラン化合物などで表面処理したシリカ、第4級アンモニウム塩などで表面処理したベントナイト(有機ベントナイト)、極微細表面処理炭酸カルシウム、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0079】
〔硬化促進剤〕
前記硬化促進剤としては、例えば3級アミン類、重合性(メタ)アクリレートモノマーなどが挙げられる。具体的には、3級アミン類としては、トリエタノールアミン、ジアルキルアミノエタノール、トリエチレンジアミン[1,4−ジアザシクロ(2,2,2)オクタン]、2,4,6−トリ(ジメチルアミノメチル)フェノールなどを用いることができ、市販品としては「Ancamine K−54」(エアープロダクツ社製、2,4,6−トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール)などが挙げられる。また、重合性(メタ)アクリレートモノマーの市販品としては、「M−CURE 100」(単官能の芳香族アクリレート、官能基当量257〜267g/eq)、「M−CURE 200」(二官能の芳香族アクリレート、官能基当量130〜140g/eq)、「M−CURE 201」(二官能の脂肪族アクリレート、官能基当量95〜105g/eq)、「M−CURE 300」(三官能の脂肪族アクリレート、官能基当量112〜122g/eq)、「M−CURE 400」(四官能の脂肪族アクリレート、官能基当量80〜90g/eq)(いずれも、SARTOMER COMPANY,INC製)などが挙げられる。
硬化促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0080】
前記硬化促進剤を用いる場合、本組成物(不揮発分)中に、好ましくは0.05〜5.0重量%(不揮発分)の量で含まれていることが望ましい。
【0081】
〔前記以外のその他の成分〕
本組成物には、これまでに述べたその他の成分の他に、例えば、分散剤、表面調整剤、レベリング剤、消泡剤などを配合してもよい。具体的には、「ANTI−TERRA−U」(ビックケミージャパン(株)製、湿潤分散剤、不飽和ポリアミノアマイドと低分子量ポリエステル酸の塩)、「ANTI−TERRA−204」(ビックケミージャパン(株)製、湿潤分散剤、ポリアミノアマイドのポリカルボン酸塩)、「BYK−P104」(ビックケミージャパン(株)製、湿潤分散剤、不飽和ポリカルボン酸ポリマー)、「BYK−350」(ビックケミージャパン(株)製、表面調整剤、アクリル系共重合物)、「BYKETOL−OK」(ビックケミージャパン(株)製、レベリング剤、高沸点芳香族炭化水素)、「BYK−354」(ビックケミージャパン(株)製、消泡剤、アクリルポリマー)、「BYK−1790」(ビックケミージャパン(株)製、消泡剤、破泡性ポリマーの混合物)などが挙げられる。
【0082】
本組成物を、2成分型の組成物または多成分型の組成物とする場合、主剤成分100重量部に対して、硬化剤成分を2〜200重量部、好ましくは5〜50重量部、特に好ましくは8〜40重量部の量で含有し、本組成物のボリュームソリッド(以下「固形分体積」ともいう。)(ISO3233:1998準拠)を好ましくは50〜100%、より好ましくは60〜85%となるように調整することが望ましい。前記範囲であればエアースプレー、エアレススプレー、刷毛塗りなどの塗装に好適な塗料組成物を得ることができる。また、一般的に、塗料組成物の固形分体積が70%以上であれば、ハイソリッド型塗料組成物であるといえ、本組成物の溶剤含有量を調整することで、ハイソリッド型塗料組成物、さらには無溶剤型塗料とすることもできる。このように本組成物中の固形分体積を高くすることができれば、溶剤に起因する揮発性有機溶剤(VOC)の含有量を低く抑えることができるため、環境や人体への負荷が小さくなるとともに、揮発成分が少なくなることで、塗装の効率化にも有効である。
【0083】
また、本組成物(2成分型の場合は、主剤成分と硬化剤成分とを混合した組成物であり、3成分型等の多成分型の場合は、主剤成分と硬化剤成分と第3成分とを混合した組成物である。)は、粘度計(リオン(株)製、型式「ビスコメーターVT−04F」)を用いて測定した23±1℃下での粘度が、好ましくは1〜50dPa・sである。また、2成分型または多成分型の主剤成分は、粘度計(同上)を用いて測定した23±1℃下での粘度が、好ましくは1〜150dPa・sであることが望ましい。本組成物の粘度は、前述した成分を前述した量で適宜用いることで前記範囲に調整することができる。
【0084】
<防食塗膜および防食塗膜付き基材>
本発明の一実施形態に係る防食塗膜(以下「本防食塗膜」ともいう。)は前述した本組成物より形成され、本発明の一実施形態に係る防食塗膜付き基材は本防食塗膜と基材との積層体である。
【0085】
前記基材を構成する素材としては、特に制限されず、例えば、鉄鋼(鉄、鋼、合金鉄、炭素鋼、合金鋼など)、非鉄金属(亜鉛、アルミニウム、ステンレスなど)からなる金属素材、表面をエポキシ樹脂系塗膜などにより被覆されている金属素材が挙げられる。また、前記基材としては、船舶;橋梁、タンク、プラント、鉄塔等の陸上構造物;および港湾設備、海上ブイ、海中パイプライン、FPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)、FLNG(浮体式洋上天然ガス液化設備)、石油掘削リグ、石油備蓄基地、メガフロート、洋上風力発電設備、潮力発電設備等の海洋構造物;等の鉄鋼構造物などが挙げられる。
【0086】
本防食塗膜は、前述した本組成物より形成され、具体的には、本組成物の硬化物であり、本組成物を硬化することで製造できる。この硬化の際には、前記基材上に本組成物を塗装して硬化することが好ましい。
前記防食塗膜付き基材の製造方法は、基材に、前述した本組成物を塗装する工程、および塗装された該組成物を硬化させて防食塗膜を形成する工程を有する。
【0087】
本組成物を基材上に塗布(塗装)する方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を制限なく使用できる。例えば、エアレススプレー、エアースプレー、刷毛塗り、ローラー塗り、ディッピングが挙げられる。
なお、本組成物と基材との良好な付着性を確保するため、本組成物を基材上に塗装する前に、錆、油脂、水分、塵埃、スライム、塩分などの基材表面付着物を清掃、除去することが好ましい。
【0088】
本組成物の粘度は、塗装方法に合わせて希釈溶剤を添加することで、適宜調整することができる。例えば、エアレススプレーで塗装する場合、塗料組成物の粘度を20dPa・s程度に調整することが好ましい。
【0089】
塗装された組成物を硬化させる方法としては特に制限されず、硬化時間を短縮させるために5〜60℃程度に加熱して硬化させることもできるが、通常は、常温、大気下で1〜14日程度放置することで硬化させる。
【0090】
前記本防食塗膜および防食塗膜付き基材は通常、該防食塗膜上に上塗り塗料組成物を塗装して、上塗り塗膜を形成して用いられる。
本防食塗膜上に塗装できる上塗り塗料組成物としては、油性(アルキッド)樹脂系、フタル酸樹脂系、塩素化ポリオレフィン樹脂系(塩化ゴム系)、ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、シリコーン樹脂系(シリコーンアルキッド樹脂系、アクリルシリコーン樹脂系等も含む。)、フッ素樹脂系等の塗料組成物の他に、各種防汚塗料組成物(例えば、塩化ゴム樹脂系、ビニル樹脂系、水和分解型、非有機錫系加水分解型[金属アクリル樹脂系、ポリエステル樹脂系等]、シリコーン樹脂系等の組成物)が挙げられる。前記金属アクリル樹脂系組成物としては、亜鉛アクリル樹脂系、銅アクリル樹脂系、シリル樹脂系組成物などが挙げられる。特に、シリル樹脂系組成物として、具体的には、トリイソプロピルシリルアクリレート(TIPSA)および/またはトリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)を(共)重合してなる加水分解性樹脂を含む組成物などが挙げられる。このような上塗り塗料組成物の内、本防食塗膜との優れた上塗り塗装適合性を示す等の点から、架橋反応型の上塗り塗料および加水分解型の防汚塗料組成物が好ましく、該架橋反応型の上塗り塗料としては、エポキシ樹脂系やウレタン樹脂系塗料がより好ましく、加水分解型の防汚塗料組成物としては、トリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)由来の構造単位を有する加水分解性樹脂を含む組成物がより好ましい
【0091】
前記上塗り塗料組成物の塗装方法としては、本組成物と同様に、特に制限されず、従来公知の方法を制限なく使用可能である。
なお、前記上塗り塗料組成物と本防食塗膜との良好な付着性を確保するためには、本組成物を本防食塗膜上に塗装する前に、油脂、水分、塵埃などの表面付着物を清掃、除去することが好ましい。
【0092】
また、塗装された上塗り塗料組成物は、通常、乾燥、硬化させる。該乾燥、硬化させる方法としては特に制限されず、防食塗膜を乾燥、硬化させる方法と同様に行うことができる。
【0093】
防食塗膜および上塗り塗膜の塗装膜厚は特に制限されないが、使用用途または目的に応じて適宜選択される。前記防食塗膜の乾燥膜厚は、好ましくは50〜1,000μmであり、また、前記上塗り塗膜の乾燥膜厚は、好ましくは20〜300μmである。前記防食塗膜および上塗り塗膜は、1回、または複数回の塗装(ここで、1回とは、塗装およびその後の硬化の一連の工程を1回実施する塗装方法であり、複数回とは、前記一連の工程を複数回実施する塗装方法である。)により形成してもよい。1回の塗装による膜厚は特に限定されず、全ての塗装工程を実施して所望の膜厚が得られるように適宜選択される。
【実施例】
【0094】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0095】
[実施例1]
下記表1−1に示すように、容器に、エポキシ樹脂「E834−85X(T)」33重量部、ポリビニルアルキルエーテル1「ルトナールA−25」1重量部、タルク「F−2タルク」20重量部、カリ長石「カリ長石KM325」21.48重量部、硫酸バリウム「Barico 300W」5重量部、チタン白「チタン白R−930」4重量部、カーボンブラック「MA−100」0.02重量部、アクリレートモノマー「M−CURE 400」0.3重量部、シランカップリング剤「KBM−403」0.6重量部、消泡剤「BYK−1790」0.2重量部、たれ止め剤「ASA T−250F」0.9重量部、キシレン10重量部、n−ブタノール1.5重量部、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート2重量部を入れ、そこにガラスビーズを加えてペイントシェーカーでこれらの配合成分を混合した。次いで、ガラスビーズを取り除き、ハイスピードディスパーを用いて室温(23℃)で均一になるまで分散し、その後56〜60℃に加温した後、30℃以下まで冷却し、防食塗料組成物を構成する主剤成分を調製した。
【0096】
また、下記表1−2に示すように、ポリアミド系硬化剤1「PA−66S」90重量部、3級アミン「Ancamine K−54」1重量部、およびベンジルアルコール9重量部を、ハイスピードディスパーを用いて(常温、常圧下で)混合することで、防食塗料組成物を構成する硬化剤成分を調製した。
【0097】
前述のように、主剤成分と硬化剤成分をそれぞれ調製し、2成分型の防食塗料組成物を得た。表1−2に示す混合比で、得られた主剤成分と硬化剤成分とを、塗装前に混合することで防食塗料組成物を調製した。
【0098】
[実施例2〜18および比較例1〜3]
実施例1の主剤成分および硬化剤成分にそれぞれ含まれる成分および配合量、ならびに主剤成分および硬化剤成分の混合比を、下記表1−1、1−2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして各防食塗料組成物を調製した。
【0099】
【表1-1】
【0100】
【表1-2】
【0101】
<使用原材料>
・エポキシ樹脂
「E834−85X(T)」(大竹明新化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(常温で半固形状)、エポキシ当量290〜310g/eq、不揮発分85%)
・反応性希釈剤
「カードライト Lite2513HP」(カードライト社製、アルキルフェノールグリシジルエーテル、エポキシ当量375〜450g/eq)
・ポリビニルアルキルエーテル1
「ルトナールA−25」(BASF社製、ポリビニルエチルエーテル)
・ポリビニルアルキルエーテル2
「ルトナールM−40」(BASF社製、ポリビニルメチルエーテル、不揮発分70%)
・ポリビニルアルキルエーテル3
「ルトナールI−60」(BASF社製、ポリビニルイソブチルエーテル、不揮発分80%)
・塩化ビニル−イソブチルビニルエーテル共重合体
「ラロフレックスMP−25」(BASF社製)
・エチレン−酢酸ビニル共重合体
「ウルトラセン760」(東ソー(株)製)
・タルク
「F−2タルク」(富士タルク(株)製)
・カリ長石
「カリ長石KM325」(コマーシャルミネラル社製、カリウム長石)
・硫酸バリウム
「Barico 300W」(ハクスイテック(株)製)
・チタン白
「チタン白R−930」(堺化学工業(株)製、二酸化チタン)
・カーボンブラック
「MA−100」(三菱化学(株)製)
・アクリレートモノマー
「M−CURE 400」(SARTOMER COMPANY,INC製、四官能の脂肪族アクリレート、官能基当量80〜90g/eq)
・シランカップリング剤
「KBM−403」(信越化学工業(株)製、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシ当量236g/eq)
・消泡剤
「BYK−1790」(ビックケミージャパン(株)製)
・たれ止め剤
「ASA T−250F」(伊藤製油(株)製、アマイドワックス)
・ポリアミド系硬化剤1
「PA−66S」(大竹明新化学(株)製、活性水素当量377g/eq、不揮発分60%)
・ポリアミドアダクト系硬化剤
「PA−23」(大竹明新化学(株)製、活性水素当量375g/eq、不揮発分60%)
・マンニッヒ系硬化剤
「NX−5459」(カードライト社製、活性水素当量164g/eq、不揮発分70%)
・ポリアミド系硬化剤2
「Ancamide 910」(エアープロダクツ社製、活性水素当量230g/eq)
・3級アミン
「Ancamine K−54」(2,4,6−トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール、エアープロダクツ社製)
【0102】
<不揮発分>
本組成物の不揮発分は、JIS K 5601−1−2に準拠し、測定試料(主剤成分、硬化剤成分等の各成分または本組成物)を1±0.1g採取し、該試料を加熱温度125℃で1時間(常圧下)加熱した時の加熱残分を基に算出した。
【0103】
<固形分体積>
本組成物の固形分体積は、ISO3233:1998に準拠し、該組成物の体積、および該組成物の不揮発分の体積を測定することで算出した。
【0104】
前記のようにして調製された実施例、比較例の防食塗料組成物を用いて以下の試験を行い、防食塗料組成物の粘度、上塗り塗装適合性、防食性を評価した。
【0105】
<塗料組成物の粘度測定>
各実施例、比較例の主剤成分および防食塗料組成物について、温度を23±1℃に調整した上で、粘度計であるビスコメーターVT−04F(リオン(株)製)の1号ローターを用いて粘度(単位dPa・s)を測定した。また、防食塗料組成物100重量部の粘度を、エアレススプレー塗装に適している20dPa・sになるまで溶剤希釈する際に、使用した希釈溶剤の量(重量部)を測定した。得られた結果を表2に示す。さらに、該溶剤希釈した防食塗料組成物中の溶剤量の合計(合計溶剤量[重量部])を表2に示す。希釈溶剤には、キシレンを用いた。
【0106】
【表2】
【0107】
・上塗り塗料組成物の製造方法
各上塗り塗料組成物は、それぞれ以下の方法に従って製造した。
【0108】
〔エポキシ樹脂系上塗り塗料〕
容器に、エポキシ樹脂「E−001−75X」30重量部、エポキシ樹脂「E834−85X(T)」10重量部、タルク「F−2タルク」20重量部、重質炭酸カルシウム「炭酸カルシウムスーパ−SS」(丸尾カルシウム(株)製)10重量部、カーボンブラック「MA−100」3重量部、たれ止め剤「ディスパロンA−630−20X」(楠本化成(株)製、不揮発分20%)5重量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル6重量部、ブチルセロソルブ7重量部、およびメチルイソブチルケトン9重量部を入れ、そこにガラスビーズを加えてペイントシェーカーでこれらの配合成分を混合した後、ガラスビーズを取り除くことで、エポキシ樹脂系上塗り塗料を構成する主剤成分を調製した。
【0109】
また、ポリアミドアダクト系硬化剤「PA−23」80重量部、3級アミン「Ancamine K−54」3重量部、キシレン14重量部、およびn−ブタノール3重量部を、ハイスピードディスパーを用いて(常温、常圧下で)混合することで、エポキシ樹脂系上塗り塗料を構成する硬化剤成分を調製した。
得られた主剤成分と硬化剤成分を所定の混合比(主剤成分:硬化剤成分=9:1)で、塗装前に混合することでエポキシ樹脂系上塗り塗料を調製した。
【0110】
〔アクリル樹脂系上塗り塗料〕
容器に、アクリル樹脂「パラロイドB−66」(ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製)20重量部、沈降性硫酸バリウム「沈降硫酸性バリウムFTB」((株)福岡タルク工業所製)16重量部、チタン白「チタン白R−930」20重量部、たれ止め剤「ディスパロンA−630−20X」3重量部、キシレン27重量部、ブチルセロソルブ2重量部、芳香族炭化水素「イプゾール100」(出光興産(株)製)9重量部、およびn−ブタノール3重量部を入れ、そこにガラスビーズを加えてペイントシェーカーでこれらの配合成分を混合した後、ガラスビーズを取り除くことで、アクリル樹脂系上塗り塗料を調製した。
【0111】
〔シリル樹脂系防汚塗料1〕
容器に、トリイソプロピルシリルアクリレート(TIPSA)とメチルメタクリレートと2−ヒドロキシプロピルアクリレートとの共重合物であるシリル樹脂溶液(固形分50%)を20重量部、ロジンを6重量部、チタン白「チタンR−5N」(堺化学工業(株)製)を2重量部、亜酸化銅「NC−301」(日進ケムコ(株)製)を43重量部、亜鉛華「酸化亜鉛3種」(ハクスイテック(株)製)を6重量部、銅ピリチオン「Copper Omadine Powder」(アーチ・ケミカルズ・ジャパン(株)製)を3重量部、無水石膏「D−2」((株)ノリタケカンパニーリミテド製)を1.5重量部、酸化ポリエチレンペースト「ディスパロン4200−20X」(楠本化成(株)製、不揮発分20%)を1.5重量部、アマイドワックスペースト「ディスパロンA−630−20X」を4重量部、キシレンを13.5重量部入れ、そこにガラスビーズを加えてペイントシェーカーでこれらの配合成分を混合した後、ガラスビーズを取り除くことで、シリル樹脂系防汚塗料1を調製した。
【0112】
〔シリル樹脂系防汚塗料2〕
容器に、トリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)と、メタクリル酸メチルと、アクリル酸エチルと、メタクリル酸メトキシエチルとの共重合物であるシリル樹脂溶液(固形分50%)を15重量部、ガムロジン銅塩溶液(固形分50%)を10重量部、サンソサイザーE−2000Hを1重量部、トリクレジルホスフェートを1重量部、亜酸化銅「NC−301」を45重量部、銅ピリチオン「Copper Omadine Powder」を3重量部、ベンガラ「No.404」(森下弁柄工業(株)製)を5重量部、タルク「FC−1」((株)福岡タルク工業製)を3重量部、亜鉛華「酸化亜鉛3種」を2重量部、チタン白「チタンR−5N」を1重量部、テトラエトキシシランを1重量部、アマイドワックスペースト「ディスパロンA−630−20X」を3重量部、キシレンを10重量部入れ、そこにガラスビーズを加えてペイントシェーカーでこれらの配合成分を混合した後、ガラスビーズを取り除くことで、シリル樹脂系防汚塗料2を調製した。
【0113】
〔ポリエステル樹脂系防汚塗料〕
容器に、グリセリンと無水フタル酸とプロピレングリコールとヘキサヒドロ無水フタル酸の共重合物であるポリエステル樹脂溶液(固形分65%)を8重量部、トリクレジルホスフェートを5重量部、ロジンを5.5重量部、キシレンを10.5重量部、メチルイソブチルケトンを2重量部、亜酸化銅「NC−301」を48重量部、アマイドワックスペースト「ディスパロンA−630−20X」を2重量部、焼石膏「FT−2」((株)ノリタケカンパニーリミテド)を1重量部、湿潤分散剤を0.3重量部、タルク「FC−1」を4重量部、チタン白「チタンR−5N」を2重量部、亜鉛華「酸化亜鉛3種」を6重量部、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジンを2.5重量部、ベンガラ「No.404」を2.3重量部、C.I.Pigment Red 170を0.6重量部、エチルシリケートを0.3重量部入れ、そこにガラスビーズを加えてペイントシェーカーでこれらの配合成分を混合した後、ガラスビーズを取り除くことで、ポリエステル樹脂系防汚塗料を調製した。
【0114】
〔亜鉛アクリル樹脂系防汚塗料〕
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル59.9重量部および酸化亜鉛40.7重量部を仕込み、攪拌しながら75℃に昇温した。続いて、メタクリル酸43重量部、アクリル酸36重量部および水5部からなる混合物を滴下ロートから3時間かけて等速滴下した。滴下終了後、さらに2時間攪拌し、次いで、プロピレングリコールモノメチルエーテルを29.4重量部添加して、透明な金属原子含有重合性単量体混合物(a−1)を得た。
【0115】
冷却器、温度計、滴下タンクおよび攪拌機を備えた加圧重合可能なオートクレーブに、プロピレングリコールモノメチルエーテル10重量部、キシレン35重量部およびエチルアクリレート4重量部を仕込み、攪拌しながら350kPaに加圧し、135℃に昇温した。続いて、滴下タンクからメチルメタクリレート15重量部、エチルアクリレート48重量部、n−ブチルアクリレート15重量部、金属原子含有重合性単量体混合物(a−1)40重量部、キシレン10重量部、連鎖移動剤「ノフマーMSD」(日油(株)製)1.8重量部、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)4重量部および2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)2重量部からなる透明な混合物を2.5時間かけて等速滴下した。滴下終了後、30分かけて110℃に降温し、t−ブチルパーオクトエート0.5重量部とキシレン5重量部とを30分かけて滴下し、さらに1時間30分攪拌した後、キシレンを3重量部添加した。得られた混合物を300メッシュでろ過することで、亜鉛アクリル樹脂溶液(固形分55%)を得た。
【0116】
得られた亜鉛アクリル樹脂溶液(固形分55%)を35重量部、塩素化パラフィン「トヨパラックス150」(東北東ソー化学(株)製)を2重量部、タルク「FC−1」を17重量部、沈降性硫酸バリウム「沈降性硫酸バリウム100」(堺化学工業(株)製)を10重量部、焼石膏「FT−2」を1重量部、カリ長石「カリ長石KM325」を1重量部、亜鉛華「酸化亜鉛3種」を14重量部、ベンガラ「No.404」を3重量部、ジンクピリチオン「Zinc Omadine Powder」(アーチ・ケミカルズ・ジャパン(株)製)を5重量部、4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリルを3重量部、酸化ポリエチレンペースト「ディスパロン4200−20X」を2重量部、アマイドワックスペースト「ディスパロンA−630−20X」を1.5重量部、n−ブタノールを5.5重量部入れ、そこにガラスビーズを加えてペイントシェーカーでこれらの配合成分を混合した後、ガラスビーズを取り除くことで、亜鉛アクリル樹脂系防汚塗料を調製した。
【0117】
<上塗り塗装適合性評価>
本発明における上塗り塗装適合性は、本組成物より基材上に形成された下塗り塗膜と上塗り塗膜との層間付着性、および基材上に下塗り塗膜および上塗り塗膜を積層した防食塗膜付き基材の物性性(例:防食性)によって、総合的に評価される。
【0118】
より具体的には、前述した従来技術の問題点にあるように、下塗り塗膜と上塗り塗膜の層間付着性は、上塗り塗膜を形成する上塗り塗料組成物を塗装するまでの期間、および上塗り塗料組成物の樹脂系によって性能が左右される。また、下塗り塗膜に架橋反応型の上塗り塗料を塗り重ねた場合、その硬化収縮応力によって下塗り塗膜が基材から剥離し、該基材が金属素材であれば発錆の原因となる。そこで、上塗り塗料組成物を塗装するまでの期間に対する許容性や、樹脂系の種類に起因して発生する塗膜欠陥に対する許容性を総じて上塗り塗装適合性としている。
【0119】
・試験板の作製
サンドブラスト処理した70mm×150mm×1.6mm(厚)の鋼板に、各実施例、比較例の防食塗料組成物を乾燥膜厚が200μmになるようにエアースプレーを用いて塗装した後、一昼夜常温で乾燥し、広島県大竹市にある中国塗料(株)の敷地内に設置した屋外暴露台(JIS K 5600−7−6に準拠)に塗装面が暴露されるように設置した。防食塗料組成物を塗装した前記試験板に対して、上塗り塗料組成物として、エポキシ樹脂系またはアクリル樹脂系の上塗り塗料を塗装する場合は、1日、3日、5日、7日、14日、21日、30日間屋外暴露した後、フィルムアプリケーターを用いて乾燥膜厚が50μmになるようにそれぞれ塗装した。また、上塗り塗料組成物として、シリル樹脂系、ポリエステル樹脂系または亜鉛アクリル樹脂系の防汚塗料を塗装する場合は、1日、3日、5日、7日間屋外暴露した後、フィルムアプリケーターを用いて乾燥膜厚が150μmになるようにそれぞれ塗装した。
【0120】
上塗り塗料組成物を塗装した後、JIS K 5600−1−6に準拠して、23℃、50%RHの雰囲気で7日間乾燥し、上塗り塗装適合性評価用の各試験板を作製した。
【0121】
前記エポキシ樹脂系上塗り塗料またはアクリル樹脂系上塗り塗料を塗装した上塗り塗装適合性評価用の各試験板は、40℃の塩水(塩分濃度3%)中に30日間浸漬した後、付着性(JIS K 5600−5−6に規定のクロスカット法に準拠)、塗膜の膨れ(ASTM D−714−56のA法に準拠)、および基材(鋼板)のさびの程度(JIS K 5600−8−3の表1に準拠)をそれぞれ評価した。得られた結果を表3−1、3−2に示す。
【0122】
また、各種防汚塗料を塗装した上塗り塗装適合性評価用の各試験板は、40℃の塩水(塩分濃度3%)中に30日間浸漬した後、付着性(JIS K 5600−5−6に規定のクロスカット法に準拠)を評価した。得られた結果を表3−3に示す。
【0123】
なお、上塗り塗装適合性は、付着性が前記JIS規格における評価基準の分類の0〜2であり、かつ、膨れ、さびがなければ、つまり、膨れの評価基準が「10」、さびの評価基準が「Ri0」であれば、実用上問題ないと判断した。
【0124】
【表3-1】
【0125】
【表3-2】
【0126】
【表3-3】
【0127】
<防食性評価>
・試験板の作製
サンドブラスト処理した70mm×150mm×2.3mm(厚)の鋼板に無機ジンクシリケートショッププライマーである「セラボンド2000」(中国塗料(株)製)を乾燥膜厚が15μmになるように塗装し、一昼夜常温で乾燥した後、広島県大竹市にある中国塗料(株)の敷地内に設置した屋外暴露台(JIS K 5600−7−6に準拠)に塗装面が暴露されるよう設置し、2か月間屋外暴露した。無塗装の前記鋼板および前記屋外暴露した塗装鋼板の2種類の鋼板に対して、各実施例、比較例の防食塗料組成物を乾燥膜厚が200μmになるようにエアースプレーを用いて塗装した後、JIS K 5600−1−6に準拠して、23℃、50%RHの雰囲気で7日間乾燥させて防食性評価用の各試験板を作製した。さらに、図1に示すように、得られた防食性評価用の各試験板1の長辺の両端から1cmずつ、短辺のどちらか一方から2cmの位置に、長さが5cmになるように基材鋼板の表面に届くまで切り込み2を入れた。
【0128】
・塩水浸漬試験
前記切り込みを入れた防食性評価用の各試験板を、40℃の塩水(塩分濃度3%)中に30日間浸漬し、基材のさびの程度をJIS K 5600−8−3の表1に記載の等級に準じて評価した。また、カット周辺部3(図1)の塗膜の膨れをASTM D−714−56のA法に準じて評価した。得られた結果を表4に示す。
【0129】
・電気防食試験
電気電流密度が5mA/m2以下になるように亜鉛陽極を前記切り込みを入れた防食性評価用の各試験板に接続し、これらの試験板を40℃の塩水(塩分濃度3%)中に30日間浸漬し、基材のさびの程度をJIS K 5600−8−3の表1に記載の等級に準じて評価した。また、カット周辺部(図1における3)の塗膜の膨れをASTM D−714−56のA法に準じて評価した。得られた結果を表4に示す。
【0130】
なお、防食性は、塩水浸漬試験および電気防食試験のいずれの試験においても、さび、膨れがなければ、つまり、膨れの評価基準が「10」、さびの評価基準が「Ri0」であれば、実用上問題ないと判断した。
【0131】
【表4】
【0132】
前記試験結果より、比較例1〜2は組成物の粘度が高く、適正な塗装作業性を有する粘度に調整するためには希釈溶剤量を多く必要とし、塗装時に塗料組成物中に含まれる溶剤量が増加した。すなわち、比較例1〜2の組成物は、環境や人体への負荷が大きな塗料組成物である。また、比較例1〜3の組成物より形成される防食塗膜は、その塗膜自体は十分な防食性を示すものであるが、該塗膜の表面に架橋反応型の上塗り塗料を塗装すると、上塗り塗料の硬化収縮による応力によって、塗膜の膨れや基材のさびが発生するため、上塗り適合性が不十分であると言える。一方、実施例1〜18の組成物は粘度が低く、希釈溶剤量を抑えることができる環境に優しい塗料組成物であり、また、ポリビニルアルキルエーテル(共)重合体を含有することにより、架橋反応型の上塗り塗料を塗装しても、塗膜の膨れや基材のさびが発生しない優れた防食性および上塗り適合性を有することが分かった。
図1