特許第6707213号(P6707213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6707213ポリウレタン樹脂溶液及びフィルム状部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6707213
(24)【登録日】2020年5月21日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】ポリウレタン樹脂溶液及びフィルム状部材
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/66 20060101AFI20200601BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20200601BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20200601BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20200601BHJP
   B29C 41/12 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   C08G18/66 007
   C08G18/32 003
   C08G18/42 069
   C08G18/48
   B29C41/12
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2020-932(P2020-932)
(22)【出願日】2020年1月7日
【審査請求日】2020年1月9日
(31)【優先権主張番号】特願2019-96662(P2019-96662)
(32)【優先日】2019年5月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠正
(72)【発明者】
【氏名】大山 将史
(72)【発明者】
【氏名】菅野 理佐
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2019/026446(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/66
C08G 18/32
C08G 18/42
C08G 18/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯型デバイスのスピーカーに配設される中実なフィルム状部材を溶液流延法によって製造するために用いるポリウレタン樹脂溶液であって、
ポリウレタン樹脂と、前記ポリウレタン樹脂を溶解する有機溶剤と、を含有し、
前記ポリウレタン樹脂が、下記構成単位(A)、(B)、及び(C)のみで構成されており、
前記ポリウレタン樹脂を構成する、前記構成単位(A)に対する、前記構成単位(B)のモル比((B)/(A))が、1.0〜2.5であり、
前記有機溶剤が、アミド系有機溶剤を25〜65質量%含む混合溶媒であるポリウレタン樹脂溶液。
構成単位(A):ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びカプロラクトン変性ポリオールからなる群より選択される少なくとも一種の、その水酸基価が150.0mgKOH/g以下のポリオールに由来する構成単位
構成単位(B):下記一般式(1)で表されるジオール、又はベンゼン環及びエーテル結合を主鎖に含むジオールに由来する構成単位
構成単位(C):4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及びトルエンジイソシアネートの少なくともいずれかの芳香族ジイソシアネートに由来する構成単位
(前記一般式(1)中、Rは、炭素数1又は2の炭化水素基を示し、Rは、水素原子又は炭素数6以下のアルキル基を示す)
【請求項2】
前記ポリウレタン樹脂の、25℃における100%モジュラスM(MPa)に対する、−10℃における100%モジュラスM(MPa)の比率X(%)が、200%以下である請求項1に記載のポリウレタン樹脂溶液。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂の、25℃における100%モジュラスM(MPa)に対する、40℃における100%モジュラスM(MPa)の比率Y(%)が、50%以上である請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂溶液。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂の、前記比率X(%)と前記比率Y(%)の差(X−Y)が、100%以下である請求項3に記載のポリウレタン樹脂溶液。
【請求項5】
前記ポリウレタン樹脂が、450g/cmの荷重をかけながら昇温速度3℃/minで加熱して延伸した場合に、延伸前の長さの25%未満の延伸で破断する請求項4に記載のポリウレタン樹脂溶液。
【請求項6】
前記有機溶剤が、前記アミド系有機溶剤と、ケトン系有機溶剤又はエステル系有機溶剤との混合溶媒であり、
前記アミド系有機溶剤が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチル−2−ピロリドン、及びN,N’−ジメチルプロピレン尿素からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記ケトン系有機溶剤が、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、及びイソホロンからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記エステル系有機溶剤が、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ギ酸エチル、及び酪酸メチルからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリウレタン樹脂溶液。
【請求項7】
携帯型デバイスのスピーカーに配設されるポリウレタン樹脂製の中実なフィルム状部材であって、
前記ポリウレタン樹脂が、下記構成単位(A)、(B)、及び(C)のみで構成されており、
前記ポリウレタン樹脂を構成する、前記構成単位(A)に対する、前記構成単位(B)のモル比((B)/(A))が、1.0〜2.5であるフィルム状部材。
構成単位(A):ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びカプロラクトン変性ポリオールからなる群より選択される少なくとも一種の、その水酸基価が150.0mgKOH/g以下のポリオールに由来する構成単位
構成単位(B):下記一般式(1)で表されるジオール、又はベンゼン環及びエーテル結合を主鎖に含むジオールに由来する構成単位
構成単位(C):4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及びトルエンジイソシアネートの少なくともいずれかの芳香族ジイソシアネートに由来する構成単位
(前記一般式(1)中、Rは、炭素数1又は2の炭化水素基を示し、Rは、水素原子又は炭素数6以下のアルキル基を示す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広範な温度域におけるモジュラスの変動が小さいポリウレタン樹脂製のフィルム状部材を製造しうるポリウレタン樹脂溶液、及びそれを用いて製造されるフィルム状部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は、温度変化に対する溶融粘度(熱軟化)挙動が敏感な樹脂である。このような特性を生かし、ポリウレタン樹脂は、例えば、ホットメルト接着剤の主成分として用いられている(特許文献1)。また、ポリウレタン樹脂のうち、1液型ポリウレタン樹脂は、例えば、合成皮革の構成材料等として用いられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−97560号公報
【特許文献2】実開平6−69294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、1液型ポリウレタン樹脂は、上述の通り、温度変化に対する熱軟化挙動が敏感であり、熱軟化しやすい樹脂である。このため、低温域から高温域にかけての広範な温度変化に曝される物品等を構成する材料としては、さほど適したものではなかった。また、分子設計により1液型ポリウレタン樹脂の熱軟化挙動を調整しようとすると、特に低温条件下での風合いが犠牲になりやすいといった課題があった。
【0005】
これに対して、2液型ポリウレタン樹脂は、一般的に熱硬化型であることから熱軟化しにくく、温度変化に対してそれほど敏感な材料ではない。しかし、2液型ポリウレタン樹脂は高温条件下でも溶融しにくいため、加工性が良好であるとは言えない。また、ポリウレタン樹脂は、一般的に、高温条件下で軟化して形状変化しやすい樹脂である。このため、高温環境下におかれる、又は使用に伴い発熱する物品等を構成する樹脂材料としては、さほど適したものではなかった。
【0006】
ところで、フィルムやシート等の薄膜状の樹脂成形体を製造する方法としては、押出成型法、カレンダー法、溶液流延法等の様々な方法がある。なかでも、樹脂を有機溶剤に溶解した流動性の樹脂溶液を膜状に塗工して乾燥させる溶液流延法は、その厚さが精密に制御された薄いフィルム状部材を製造する方法として有用である。しかし、ポリウレタン樹脂製の薄いフィルム状部材を溶液流延法によって製造しようとする場合、ポリウレタン樹脂のモノマー組成等にもよるが、ポリウレタン樹脂を含有する樹脂溶液の安定性が低下しやすくなることがある。特に、温度が変動しやすい状況下に置かれた樹脂溶液を用いると、得られるフィルム状部材の均質性が損なわれたり、所望とする厚さに精密に制御することが困難になったりすることがあった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、耐熱軟化性に優れているとともに、低温域から高温域にかけてモジュラスなどの物性の変動が小さく、広範な温度域下での使用が想定される携帯型デバイスのスピーカーに配設される、残存する有機溶剤の量が少ない又は有機溶剤が実質的に残存しない高品質なポリウレタン樹脂製の中実なフィルム状部材を、製造条件がある程度制約されるような場合であっても溶液流延法によって容易に製造しうる樹脂溶液(ドープ)として有用な、溶液安定性に優れたポリウレタン樹脂溶液を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記のポリウレタン樹脂溶液を用いて得られる、携帯型デバイスのスピーカーに配設されるポリウレタン樹脂製の中実なフィルム状部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示すポリウレタン樹脂溶液が提供される。
[1]携帯型デバイスのスピーカーに配設される中実なフィルム状部材を溶液流延法によって製造するために用いるポリウレタン樹脂溶液であって、ポリウレタン樹脂と、前記ポリウレタン樹脂を溶解する有機溶剤と、を含有し、前記ポリウレタン樹脂が、下記構成単位(A)、(B)、及び(C)のみで構成されており、前記ポリウレタン樹脂を構成する、前記構成単位(A)に対する、前記構成単位(B)のモル比((B)/(A))が、1.0〜2.5であり、前記有機溶剤が、アミド系有機溶剤を25〜65質量%含む混合溶媒であるポリウレタン樹脂溶液。
構成単位(A):ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びカプロラクトン変性ポリオールからなる群より選択される少なくとも一種の、その水酸基価が150.0mgKOH/g以下のポリオールに由来する構成単位
構成単位(B):下記一般式(1)で表されるジオール、又はベンゼン環及びエーテル結合を主鎖に含むジオールに由来する構成単位
構成単位(C):4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及びトルエンジイソシアネートの少なくともいずれかの芳香族ジイソシアネートに由来する構成単位
【0009】
(前記一般式(1)中、Rは、炭素数1又は2の炭化水素基を示し、Rは、水素原子又は炭素数6以下のアルキル基を示す)
【0010】
[2]前記ポリウレタン樹脂の、25℃における100%モジュラスM(MPa)に対する、−10℃における100%モジュラスM(MPa)の比率X(%)が、200%以下である前記[1]に記載のポリウレタン樹脂溶液。
[3]前記ポリウレタン樹脂の、25℃における100%モジュラスM(MPa)に対する、40℃における100%モジュラスM(MPa)の比率Y(%)が、50%以上である前記[1]又は[2]に記載のポリウレタン樹脂溶液。
[4]前記ポリウレタン樹脂の、前記比率X(%)と前記比率Y(%)の差(X−Y)が、100%以下である前記[3]に記載のポリウレタン樹脂溶液。
[5]前記ポリウレタン樹脂が、450g/cmの荷重をかけながら昇温速度3℃/minで加熱して延伸した場合に、延伸前の長さの25%未満の延伸で破断する前記[4]に記載のポリウレタン樹脂溶液。
[6]前記有機溶剤が、前記アミド系有機溶剤と、ケトン系有機溶剤又はエステル系有機溶剤との混合溶媒であり、前記アミド系有機溶剤が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチル−2−ピロリドン、及びN,N’−ジメチルプロピレン尿素からなる群より選択される少なくとも一種であり、前記ケトン系有機溶剤が、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、及びイソホロンからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記エステル系有機溶剤が、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ギ酸エチル、及び酪酸メチルからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリウレタン樹脂溶液。
【0011】
さらに、本発明によれば、以下に示すフィルム状部材が提供される。
[7]携帯型デバイスのスピーカーに配設されるポリウレタン樹脂製の中実なフィルム状部材であって、前記ポリウレタン樹脂が、下記構成単位(A)、(B)、及び(C)のみで構成されており、前記ポリウレタン樹脂を構成する、前記構成単位(A)に対する、前記構成単位(B)のモル比((B)/(A))が、1.0〜2.5であるフィルム状部材。
構成単位(A):ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びカプロラクトン変性ポリオールからなる群より選択される少なくとも一種の、その水酸基価が150.0mgKOH/g以下のポリオールに由来する構成単位
構成単位(B):下記一般式(1)で表されるジオール、又はベンゼン環及びエーテル結合を主鎖に含むジオールに由来する構成単位
構成単位(C):4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及びトルエンジイソシアネートの少なくともいずれかの芳香族ジイソシアネートに由来する構成単位
【0012】
(前記一般式(1)中、Rは、炭素数1又は2の炭化水素基を示し、Rは、水素原子又は炭素数6以下のアルキル基を示す)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐熱軟化性に優れているとともに、低温域から高温域にかけてモジュラスなどの物性の変動が小さく、広範な温度域下での使用が想定される携帯型デバイスのスピーカーに配設される、残存する有機溶剤の量が少ない又は有機溶剤が実質的に残存しない高品質なポリウレタン樹脂製の中実なフィルム状部材を、製造条件がある程度制約されるような場合であっても溶液流延法によって容易に製造しうる樹脂溶液(ドープ)として有用な、溶液安定性に優れたポリウレタン樹脂溶液を提供することができる。また、本発明によれば、このポリウレタン樹脂溶液を用いて得られる、携帯型デバイスのスピーカーに配設されるポリウレタン樹脂製の中実なフィルム状部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ポリウレタン樹脂が延伸して破断する状態を説明する模式図である。
図2】ポリウレタン樹脂が実質的に延伸せずに破断する状態を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ポリウレタン樹脂溶液>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のポリウレタン樹脂溶液は、携帯型デバイスのスピーカーに配設される中実なフィルム状部材を溶液流延法によって製造するために用いる樹脂溶液(ドープ)であり、ポリウレタン樹脂と、ポリウレタン樹脂を溶解する有機溶剤とを含有する。ポリウレタン樹脂は、下記構成単位(A)、(B)、及び(C)のみで構成されており、ポリウレタン樹脂を構成する、構成単位(A)に対する、構成単位(B)のモル比((B)/(A))が、1.0〜2.5である。そして、有機溶剤は、アミド系有機溶剤を25〜65質量%含む混合溶媒である。以下、本発明のポリウレタン樹脂の詳細について説明する。
構成単位(A):ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びカプロラクトン変性ポリオールからなる群より選択される少なくとも一種の、その水酸基価が150.0mgKOH/g以下のポリオールに由来する構成単位
構成単位(B):下記一般式(1)で表されるジオール、又はベンゼン環及びエーテル結合を主鎖に含むジオールに由来する構成単位
構成単位(C):芳香族ジイソシアネートに由来する構成単位
【0016】
(前記一般式(1)中、Rは、炭素数1又は2の炭化水素基を示し、Rは、水素原子又は炭素数6以下のアルキル基を示す)
【0017】
(ポリウレタン樹脂)
[構成単位(A)]
構成単位(A)は、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びカプロラクトン変性ポリオールからなる群より選択される少なくとも一種のポリオールに由来する構成単位(ユニット)である。ポリウレタン樹脂は、この構成単位(A)を有するために、特に室温(約25℃)から低温域(約−10℃)にかけてモジュラスなどの物性が変動しにくい。これに対して、上記の構成単位(A)を有さず、ポリエステルポリオールやポリカーボネートポリオールなどのポリオールに由来する構成単位を有するポリウレタン樹脂は、特に低温域において温度依存性が高い。
【0018】
構成単位(A)を構成するポリオールの水酸基価は150.0mgKOH/g以下であり、好ましくは35.0〜125.0mgKOH/gである。その水酸基価が150.0mgKOH/g以下のポリオールを用いることで、ソフトセグメントを十分な長さとすることができ、特に室温(約25℃)から低温域(約−10℃)にかけてモジュラスなどの物性が変動しにくいポリウレタン樹脂とすることができる。なお、ポリオールの水酸基価が150.0mgKOH/g超であると、ソフトセグメントが短いために低温域下における温度依存性が高くなる。
【0019】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールエーテル、ポリオキシテトラメチレンポリオキシエチレングリコールなどを挙げることができる。なかでも、ポリテトラメチレングリコールエーテルが、高温域下における温度依存性がより低減されたポリウレタン樹脂とすることができるために好ましい。ポリカプロラクトンポリオールとしては、ポリカプロラクトンジオールなどを挙げることができる。また、カプロラクトン変性ポリオールは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどのポリオール成分をカプロラクトンで変性したポリオールである。カプロラクトンで変性するポリオール成分は特に限定されない。
【0020】
[構成単位(B)]
前述の通り、一般的なポリウレタン樹脂は、高温条件下で軟化して形状変化しやすく、耐熱軟化性の良好な樹脂材料であるとは言えなかった。このため、高温環境下におかれる、又は使用に伴い発熱する物品等を構成する樹脂材料としては、さほど適したものではなかった。本発明者らは、熱軟化による形状変化が生じにくいポリウレタン樹脂の構成について検討した。その結果、主鎖の炭素原子数が比較的少ない短鎖ジオールや、ベンゼン環及びエーテル結合を主鎖に含むジオールに由来する構成単位を有する構成とすることで、熱軟化による形状変化が生じにくいポリウレタン樹脂が得られることを見出した。
【0021】
すなわち、ポリウレタン樹脂は、前述の一般式(1)で表されるジオール、又はベンゼン環及びエーテル結合を主鎖に含むジオールに由来する構成単位(B)を有する。図1は、ポリウレタン樹脂が延伸して破断する状態を説明する模式図である。図1に示すように、ポリウレタン樹脂10の上端を治具5に固定するとともに、ポリウレタン樹脂10の下端に錘15をつける(図1(A))。この状態で徐々に昇温すると、従来のポリウレタン樹脂10は熱軟化して徐々に伸長するとともに(図1(B))、ある時点で破断する(図1(C))、又は破断することなく伸び切った状態となる。これに対して、一般式(1)で表されるジオール、又はベンゼン環及びエーテル結合を主鎖に含むジオールに由来する構成単位(B)を有する実施形態のポリウレタン樹脂20は、図2に示すように、荷重をかけながら(図2(A))徐々に昇温した場合であっても、ほとんど伸長しないか、僅かに伸長し(図2(B))、そして、ある時点で破断する(図2(C))。このため、上記の構成単位(B)を有するポリウレタン樹脂は、熱軟化による形状変化が生じにくく、高温環境下におかれる、又は使用に伴い発熱する物品等を構成する樹脂材料として好適である。
【0022】
構成単位(B)を構成する、鎖延長剤として用いられるジオールは、一般式(1)で表されるジオールであるか、ベンゼン環及びエーテル結合を主鎖に含むジオールである。一般式(1)中、Rで表される基の炭素原子数が多くなるほど、熱軟化による形状変化が生じやすくなるとともに、低温域における温度依存性が高くなる傾向にある。これに対して、一般式(1)中、Rで表される基の炭素原子数が少なくなるほど、熱軟化による形状変化がより生じにくくなるとともに、低温域における温度依存性がさらに低くなる傾向にある。また、分子量がある程度大きい場合であっても、主鎖にベンゼン環及びエーテル結合が含まれていると、熱軟化による形状変化が生じにくくなるとともに、低温域における温度依存性が低くなる傾向にある。一般式(1)で表されるジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,2−ヘキサンジオールなどを挙げることができる。また、ベンゼン環及びエーテル結合を主鎖に含むジオールとしては、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2’−[(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジイルビス(オキシ)]ビスエタノールなどを挙げることができる。構成単位(B)を構成するジオールは一般式(1)で表されるジオールであることが、ポリウレタン樹脂の耐熱軟化性がより向上するために好ましい。
【0023】
ポリウレタン樹脂を構成する、構成単位(A)に対する、構成単位(B)のモル比((B)/(A))は、1.0〜2.5であり、好ましくは1.5〜2.5、さらに好ましくは1.5〜2.2である。上記のモル比((B)/(A))を1.0以上とすることで、熱軟化による形状変化が生じにくく、高温域における温度依存性が低減されたポリウレタン樹脂とすることができる。一方、上記のモル比((B)/(A))を2.5以下とすることで、温度が変動しやすい状況下に置かれた場合であっても異物等が生成しにくい、溶液安定性に優れたポリウレタン樹脂溶液とすることができる。そして、このように溶液安定性に優れたポリウレタン樹脂溶液を用いれば、均質であるとともに、所望とする厚さに精密に制御された中実なフィルム状部材を容易に製造することができる。
【0024】
[構成単位(C)]
構成単位(C)は、芳香族ジイソシアネートに由来する構成単位(ユニット)である。ポリウレタン樹脂は、この構成単位(C)を有するために、特に室温(約25℃)から高温域(約40℃)にかけてモジュラスなどの物性が変動しにくい。これに対して、上記の構成単位(C)を有さず、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、及び4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)などの脂肪族ジイソシアネートに由来する構成単位を有するポリウレタン樹脂は、特に高温域において温度依存性が高い。さらには、高温条件下で軟化して形状変化しやすくなる傾向にある。
【0025】
構成単位(C)を構成する芳香族ジイソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−MDI)、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’−MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアナート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)などを挙げることができる。なかでも、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−MDI)が、高温域下における温度依存性がより低減されているとともに、高温条件下であっても軟化による形状変化がより生じにくいポリウレタン樹脂とすることができるために好ましい。
【0026】
[ポリウレタン樹脂の物性]
本発明のポリウレタン樹脂溶液に用いるポリウレタン樹脂は、上述の構成単位(A)、(B)、及び(C)のみで構成されているため、耐熱軟化性に優れているとともに、低温域から高温域にかけてモジュラスなどの物性の変動が小さい。このため、このポリウレタン樹脂は、広範な温度域下での使用が想定される携帯型デバイスのスピーカーに配設される中実なフィルム状部材を構成するための材料として好適である。なお、本明細書における「構成単位(A)、(B)、及び(C)のみで構成され」ているとは、「構成単位(A)、(B)、及び(C)のみで『実質的に』構成され」ていることを意味し、所望とする効果が損なわれない範囲で、他の構成単位や不可避的な成分等が微かに含まれていてもよい。また、本明細書における「中実な」とは、その内部に空隙等を有する、いわゆる多孔質体が含まれないことを意味する。
【0027】
本発明のポリウレタン樹脂溶液に用いるポリウレタン樹脂は、低温域から高温域にかけての物性の変動が小さい。具体的には、ポリウレタン樹脂は、25℃における100%モジュラスM(MPa)に対する、−10℃における100%モジュラスM(MPa)の比率X(%)が、好ましくは200%以下であり、さらに好ましくは180%以下であり、特に好ましくは170%以下である。このように、比率X(=(M/M)×100(%))が上記の数値範囲であるポリウレタン樹脂は、特に室温(約25℃)から低温域(約−10℃)にかけての物性が変動しにくい。
【0028】
また、ポリウレタン樹脂は、25℃における100%モジュラスM(MPa)に対する、40℃における100%モジュラスM(MPa)の比率Y(%)が、好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。このように、比率Y(=(M/M)×100(%))が上記の数値範囲であるポリウレタン樹脂は、特に室温(約25℃)から高温域(約40℃)にかけての物性が変動しにくい。
【0029】
さらに、ポリウレタン樹脂は、比率X(%)と比率Y(%)の差(X−Y)が、好ましくは100%以下であり、さらに好ましくは90%以下であり、特に好ましくは80%以下である。比率X(%)と比率Y(%)の差(X−Y)が上記の数値範囲であるポリウレタン樹脂は、低温域(約−10℃)から高温域(約40℃)の広範な温度域にかけて物性が変動しにくい。
【0030】
また、本発明のポリウレタン樹脂溶液に用いるポリウレタン樹脂は、熱軟化による形状変化が生じにくいものである。具体的には、ポリウレタン樹脂は、好ましくは、450g/cmの荷重をかけながら昇温速度3℃/minで加熱して延伸した場合に、延伸前の長さの25%未満の延伸で破断するものである。
【0031】
ポリウレタン樹脂の分子量は特に限定されず、適宜設定することができる。具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、ポリウレタン樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、通常、2,000〜400,000であり、好ましくは3,000〜250,000、さらに好ましくは4,000〜100,000である。
【0032】
ポリウレタン樹脂の100%モジュラスは、構成単位(A)に対する、構成単位(B)のモル比((B)/(A))を設定することで適宜調整することができる。また、構成単位(C)の割合によっても調整することができる。それぞれの構成単位の組成にもよるが、25℃における100%モジュラスMは、5.0〜50.0MPaであることが好ましく、5.0〜20.0MPaであることがさらに好ましい。
【0033】
ポリウレタン樹脂の−10℃における100%モジュラスMは、上記の25℃における100%モジュラスMの好適な範囲内から100.0MPa以下であることが好ましく、40.0MPa以下であることがさらに好ましい。同様に、ポリウレタン樹脂の40℃における100%モジュラスMは、上記の25℃における100%モジュラスMの好適な範囲内から2.5MPa以上であることが好ましい。
【0034】
(有機溶剤)
本発明のポリウレタン樹脂溶液は、ポリウレタン樹脂を溶解する有機溶剤を含有する。そして、この有機溶剤は、アミド系有機溶剤を25〜65質量%、好ましくは25〜60質量%、さらに好ましくは28〜50質量%含む混合溶媒である。このような有機溶剤を含有することで、上述の特定の組成のポリウレタン樹脂を有効に溶解させることができるとともに、温度が変動しやすい状況下に置かれた場合であっても異物等が生成しにくい、溶液安定性に優れたポリウレタン樹脂溶液とすることができる。ポリウレタン樹脂を溶解する有機溶剤中のアミド系有機溶剤の含有量が25質量%未満であると、ポリウレタン樹脂溶液の溶液安定性が低い。このため、溶液流延法によって中実なフィルム状部材を成膜することが困難になり、耐熱軟化性に優れ、低温域から高温域にかけてモジュラスなどの物性の変動が小さい中実なフィルム状部材を製造することができない。一方、有機溶剤中のアミド系有機溶剤の含有量が65質量%超であると、ポリウレタン樹脂溶液の溶液安定性は向上するが、溶液流延法によってフィルム状部材を製造する際の乾燥性が低下する。このため、得られるフィルム状部材に有機溶剤が残留しやすく、フィルム状部材の耐熱性等の特性が低下する。すなわち、有機溶剤(混合溶媒)中のアミド系有機溶剤の含有量を所定量以下とすることで、乾燥温度が低い、又は乾燥時間が短い等の製造条件が制約されるような場合であっても、残存する有機溶剤の量が少ない又は実質的に含有しない高品質なフィルム状部材を容易に製造することができる。
【0035】
有機溶剤は、アミド系有機溶剤と、ケトン系有機溶剤又はエステル系有機溶剤との混合溶媒であることが好ましい。アミド系有機溶剤としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素等を挙げることができる。なかでも、アミド系有機溶剤としてはN,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。また、ケトン系有機溶剤としては、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、イソホロン等を挙げることができる。なかでも、ケトン系有機溶剤としてはメチルエチルケトンが好ましい。さらに、エステル系有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ギ酸エチル、酪酸メチル等を挙げることができる。なかでも、エステル系有機溶剤としては酢酸エチルが好ましい。
【0036】
ポリウレタン樹脂溶液中のポリウレタン樹脂の含有量(濃度)は、溶液流延法によってフィルム状部材を製造するのに適した含有量(濃度)であることが好ましい。ポリウレタン樹脂の含有量が少なすぎると、溶液流延法によってフィルム状部材を製造する際のレベリング性にやや影響が及ぶ場合がある。一方、ポリウレタン樹脂の含有量が多すぎると、得られるフィルム状部材の膜厚の精度にやや影響が及ぶ場合がある。ポリウレタン樹脂溶液中のポリウレタン樹脂の含有量(濃度)は、例えば、0.1〜50質量%であることが好ましい。また、薄膜状のフィルム状部材を製造する場合、又は重ね塗りにより厚膜状のフィルム状部材を製造する場合には、膜厚を精密に制御する観点から、1〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0037】
(ポリウレタン樹脂の合成(製造)方法)
ポリウレタン樹脂は、従来公知のウレタン化反応の条件を適用させて合成(製造)することができる。例えば、活性水素を含まない溶剤の存在下又は非存在下、ポリオールと、主鎖の炭素原子数が2以下のジオール、又はベンゼン環及びエーテル結合を主鎖に含むジオール(鎖延長剤)と、ジイソシアネートとを反応させることで、構成単位(A)構成単位(B)、及び構成単位(C)を有するポリウレタン樹脂を得ることができる。反応は、ワンショット法と多段法のいずれの方式であってもよい。
【0038】
重合反応によって得られたポリマーの末端にイソシアネート基が残った場合、イソシアネート末端の停止反応を行ってもよい。具体的には、モノアルコールやモノアミン等の単官能性の化合物;イソシアネートに対して異なる反応性を有する二種の官能基を有する化合物を使用すればよい。このような化合物の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のモノアルコール;モノエチルアミン、n−プロピルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン等のモノアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン;等を挙げることができる。
【0039】
ポリウレタン樹脂は、無溶剤で合成しても、有機溶剤の存在下で合成してもよい。有機溶剤としては、イソシアネート基に対して不活性であるか、又は反応成分よりも低活性なものなどを用いることができる。このような有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶剤;n−ヘキサン等の脂肪族系炭化水素溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系有機溶剤;エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネート等のグリコールエーテルエステル系有機溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系有機溶剤;等を挙げることができる。これらの有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、得られるポリウレタン樹脂を溶解する、アミド系有機溶剤を25質量%以上含む前述の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0040】
ポリウレタン樹脂の合成に際しては、必要に応じて触媒を用いることができる。触媒の具体例としては、ジブチルチンラウレート、ジオクチルチンラウレート、スタナスオクトエート、オクチル酸亜鉛、テトラn−ブチルチタネート等の金属と有機又は無機酸との塩;有機金属誘導体;トリエチルアミンなどの有機アミン;ジアザビシクロウンデセン系触媒;等を挙げることができる。
【0041】
ポリウレタン樹脂にフィラーや添加剤などの各種成分を添加して、物性が調整された又は耐久性などの特性が付与された樹脂組成物とすることもできる。フィラーとしては、有機フィラー及び無機フィラーのいずれを用いることもできる。フィラーの具体例としては、シリカ、シリコーン樹脂微粒子、フッ素樹脂微粒子、アクリル樹脂微粒子、ウレタン系樹脂微粒子、シリコーン変性ウレタン系樹脂微粒子、ポリエチレン微粒子、ポリカーボネート系樹脂微粒子などを挙げることができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ガス変色安定剤、金属不活性剤、着色剤、防黴剤、難燃剤、艶消し剤、消泡剤、滑剤などを挙げることができる。
【0042】
(ポリウレタン樹脂溶液の用途)
上述の通り、本発明のポリウレタン樹脂溶液は、温度が変動しやすい状況下に置かれた場合であっても異物等が生成しにくく、溶液安定性に優れている。このため、本発明のポリウレタン樹脂溶液は、携帯型デバイスのスピーカーに配設される、均質であるとともに、所望とする厚さに精密に制御された中実なフィルム状部材を溶液流延法によって製造するための材料として用いられる。
【0043】
<フィルム状部材>
本発明のフィルム状部材は、携帯型デバイスのスピーカーに配設されるポリウレタン樹脂製の中実なフィルム状部材であり、例えば、上述のポリウレタン樹脂溶液を用いて溶液流延法によって製造することができる。すなわち、本発明のフィルム状部材を構成するポリウレタン樹脂は、下記構成単位(A)、(B)、及び(C)のみで構成されており、ポリウレタン樹脂を構成する、構成単位(A)に対する、構成単位(B)のモル比((B)/(A))が、1.0〜2.5である。
構成単位(A):ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びカプロラクトン変性ポリオールからなる群より選択される少なくとも一種の、その水酸基価が150.0mgKOH/g以下のポリオールに由来する構成単位
構成単位(B):下記一般式(1)で表されるジオール、又はベンゼン環及びエーテル結合を主鎖に含むジオールに由来する構成単位
構成単位(C):芳香族ジイソシアネートに由来する構成単位
【0044】
(前記一般式(1)中、Rは、炭素数1又は2の炭化水素基を示し、Rは、水素原子又は炭素数6以下のアルキル基を示す)
【0045】
スマートフォン等の携帯型デバイスは、持ち運び自由な装置であるが故に、高温〜低温にかけての広範な温度環境下での使用が想定される。このような携帯型デバイス用のスピーカーには、スピーカーに隣接して中実なフィルム状部材が一般的に配設されている。しかし、このフィルム状部材が、温度依存性の高い樹脂材料で形成されていたり、熱軟化しやすい樹脂材料で形成されていたりすると、携帯型デバイスが置かれる温度環境によってスピーカーの音特性が顕著に変動するといった不具合が発生する。
【0046】
本発明のフィルム状部材は、前述のポリウレタン樹脂で構成される中実なフィルムである。前述の通り、このポリウレタン樹脂は、低温域から高温域にかけてモジュラスなどの物性の変動が小さい、すなわち、温度依存性が低い樹脂である。このため、このポリウレタン樹脂で実質的に形成されるフィルム状部材は、低温域から高温域にかけて物性の変動が小さく、広範な温度域下で用いることが可能である。また、構成単位(B)を有するポリウレタン樹脂を含んで構成される、好ましくはこのポリウレタン樹脂で実質的に形成されるフィルム状部材は、熱軟化による形状変化が生じにくいため、高温環境下におかれる、又は使用に伴い発熱する、携帯電話、スマートフォン、音楽プレーヤーなどの携帯型デバイスのスピーカーに隣接して配設される部材として好適である。
【0047】
フィルム状部材の厚さは、携帯型デバイスやスピーカーの種類・サイズ等によって適宜設計される。具体的には、フィルム状部材の厚さは5〜200μm程度とすればよく、10〜100μmとすることが好ましい。
【0048】
本発明のフィルム状部材は、例えば、上述のポリウレタン樹脂溶液を用いて溶液流延法によって製造することができる。溶液流延法は、従来公知の手順にしたがって実施すればよい。溶液流延法によってフィルム状部材を製造するには、まず、キャスティングドラム、ベルト、離型紙等の基材上にポリウレタン樹脂溶液を塗布して、所望とする厚さの塗工層を形成する。塗工層の厚さは、最終的に得られるフィルム状部材の厚さを勘案して適宜設定すればよい。次いで、形成した塗工層を適当な温度で乾燥し、必要に応じてエージングすれば、目的とするフィルム状部材を得ることができる。塗工層を乾燥させる温度は、ポリウレタン樹脂溶液に含まれる有機溶剤の沸点等を勘案して適宜設定すればよい。具体的には、室温(25℃)〜150℃の温度条件で、0.5〜30分程度乾燥させればよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0050】
<ポリウレタン樹脂溶液の製造>
(製造例1:実施例1のポリウレタン樹脂溶液の製造)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を用意した。この反応容器の内部を窒素ガスで置換しながら、ポリエーテルポリオール1(PET1、商品名「ポリテトラヒドロフラン1000」、BASF社製、水酸基価:112.4mgKOH/g)100g、エチレングリコール(EG)12.4g、及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)281.3gを仕込んだ。50℃に加熱しながら撹拌して系内が均一となった後、4,4’−ジフェニルメタンイソシアネート(MDI)75.1gを添加した。80℃に昇温し、赤外吸収スペクトル分析で測定される遊離イソシアネート基による2,270cm−1の吸収が消失するまで反応させた。その後、メチルエチルケトン(MEK)468.9gを添加して、実施例1のポリウレタン樹脂溶液(固形分20%)を得た。ポリオールに由来する構成単位(A)に対する、ジオールに由来する構成単位(B)のモル比((B)/(A))は、2.0であった。また、全有機溶剤中のアミド系有機溶剤の含有量は、37.5%であった。
【0051】
(製造例2〜21:実施例2〜21のポリウレタン樹脂溶液の製造)
表1−1〜1−3の中段に示す種類及び量の各成分を用いたこと以外は、前述の製造例1と同様にして、実施例2〜21のポリウレタン樹脂溶液(固形分20%)を得た。構成単位(A)に対する、構成単位(B)のモル比((B)/(A)(mol/mol))、及び全有機溶剤中のアミド系有機溶剤の含有量(%)を表1−1〜1−3の下段に示す。また、表1−1〜1−3中の各成分を表す略号の詳細を表3及び4に示す。
【0052】
(製造例22〜46:比較例1〜25のポリウレタン樹脂溶液の製造)
表2−1〜2−3の中段に示す種類及び量の各成分を用いたこと以外は、前述の製造例1と同様にして、比較例1〜25のポリウレタン樹脂の溶液(固形分20%)を得た。構成単位(A)に対する、構成単位(B)のモル比((B)/(A)(mol/mol))、及び全有機溶剤中のアミド系有機溶剤の含有量(%)を表2−1〜2−3の下段に示す。表1−1〜1−3中の「EtAc」は、酢酸エチルを意味する。また、表2−1〜2−3中の各成分を表す略号の詳細を表3及び4に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
<評価>
(試験1:温度非依存性(温感性)試験)
各ポリウレタン樹脂溶液を離型紙上に塗工した。80℃で10分間、次いで120℃で10分間乾燥した後、25℃で2日間エージングして、厚さ約40μmの塗工フィルムを得た。得られた塗工フィルムを測定用の試験片とし、引張試験装置(型名「オートグラフ AGS−100A」、島津製作所社製)を使用して、引張速度100mm/minの条件で、−10℃における100%モジュラス(M(MPa))、25℃における100%モジュラス(M(MPa))、及び40℃における100%モジュラス(M(MPa))を測定した。そして、測定した各温度における100%モジュラスより、比率X(=(M/M)×100(%))、比率Y(=(M/M)×100(%))、及び比率Xと比率Yの差(=X−Y(%))を算出し、以下に示す評価基準にしたがって温度非依存性を評価した。結果を表5−1及び5−2に示す。
○:Xが200%以下、Yが50%以上、かつ、X−Yが100%以下であった。
△:Xが200%超、Yが50%未満、かつ、X−Yが100%以下であった。
×:Xが200%超、Yが50%未満、又は、X−Yが100%超であった。
【0062】
(試験2:耐熱軟化性試験)
上述の「試験1」で得た塗工フィルムを測定用の試験片とした。450g/cmの荷重を試験片にかけながら昇温速度3℃/minで加温して、試験片の状態を観察し、以下に示す評価基準にしたがって耐熱軟化性を評価した。結果を表5−1及び5−2に示す。
○:延伸前の長さの25%未満の延伸で破断した。
△:延伸前の長さの25%以上50%未満の延伸で破断した。
×:延伸前の長さの50%以上の延伸で破断した、又は、熱溶融して溶け落ちた。
【0063】
(試験3:溶液安定性試験)
各ポリウレタン樹脂溶液を0℃の温度条件下で1週間保存する試験(促進試験)を行った。試験後の各ポリウレタン樹脂溶液を目視にて観察し、以下に示す評価基準にしたがって溶液安定性を評価した。結果を表5−1及び5−2に示す。
○:外観に変化なし(透明、流動性あり)。
×:白化又は固化した。
××:製造した段階で白化又は固化していた。
【0064】
(試験4:溶剤残留性試験)
実施例1〜21及び比較例23〜25の各ポリウレタン樹脂溶液を離型紙上に塗工した。100℃で1分間乾燥して、厚さ約10μmの塗工フィルムを得た。得られた塗工フィルムを測定用の試験片とし、試験1及び2と同様の試験を実施した。なお、試験1で測定される100%モジュラスの値、及び試験2で観察される破断・溶融状態は、いずれも、試験片の膜厚に依存しない。そして、以下に示す評価基準にしたがって溶剤残留性を評価した。結果を表5−1に示す。
○:温度非依存性及び耐熱軟化性がいずれも「〇」であった。
×:温度非依存性及び耐熱軟化性の少なくともいずれかが「×」であった。
【0065】
【0066】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のポリウレタン樹脂溶液は、耐熱軟化性に優れているとともに、低温域から高温域にかけてモジュラスなどの物性の変動が小さい樹脂を含有する、溶剤安定性に優れた樹脂溶液である。このため、本発明のポリウレタン樹脂溶液は、高温域を含む広範な温度域下で用いられる携帯型デバイスのスピーカーに配設される中実なフィルム状部材を溶液流延法によって製造するための材料として有用である。
【符号の説明】
【0068】
5:治具
10,20:ポリウレタン樹脂
15:錘

【要約】
【課題】耐熱軟化性に優れているとともに、低温域から高温域にかけてモジュラスなどの物性の変動が小さく、広範な温度域下での使用が想定される携帯型デバイスのスピーカーに配設されるポリウレタン樹脂製の中実なフィルム状部材を溶液流延法によって製造しうる樹脂溶液(ドープ)として有用な、溶液安定性に優れたポリウレタン樹脂溶液を提供する。
【解決手段】携帯型デバイスのスピーカーに配設される中実なフィルム状部材を溶液流延法によって製造するために用いるポリウレタン樹脂溶液である。ポリウレタン樹脂と、ポリウレタン樹脂を溶解する有機溶剤とを含有し、ポリウレタン樹脂が、ポリエーテルポリオール等のポリオールに由来する構成単位(A)、短鎖ジオールに由来する構成単位(B)、及び芳香族ジイソシアネートに由来する構成単位のみで構成されており、有機溶剤が、アミド系有機溶剤を25〜65質量%含む混合溶媒である。
【選択図】なし
図1
図2