【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔展示会名〕 名古屋機械要素展 〔開催日〕 平成28年4月19日〜21日 〔開催場所〕 ポートメッセなごや 〔展示会名〕 東京機械要素展 〔開催日〕 平成28年6月22日〜24日 〔開催場所〕 東京ビッグサイト 〔ウェブサイト〕 クロイツホームページ 〔掲載日〕 平成28年4月22日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
チップホルダーに保持されかつ、ギヤの隣り合った歯同士の間に配置され切削刃を有し、前記切削刃の刃筋が、前記歯のサイドエッジに斜めに交差するように宛がわれた状態で、前記切削刃を前記歯に対して歯厚方向に相対移動せると、前記切削刃が、前記サイドエッジを歯底側から歯先側に向かって切除しながら前記隣り合った歯同士の間から歯幅方向に徐々に抜け出る切削チップにおいて、
前記チップホルダーに形成されている支持孔に、直動可能かつ回転不能に嵌合されかつその直動方向の前方に付勢されるシャフト部を有し、前記シャフト部の前端部に前記切削刃が配置され、
前記切削刃の前記刃筋は、前記シャフト部の中心軸と交差する方向に延び、
前記切削刃の逃げ面は、前記刃筋から離れるに従って前方に迫り出し、
前記切削刃のすくい面は、前記逃げ面に対して前記直動方向の後側に重なる位置に配置されている切削チップ。
前記刃筋は、前記サイドエッジのうち前記ギヤの歯底側位置に宛がわれる歯底側端部からその反対側の刃先側端部に向かうに従って前方に迫り出している請求項1に記載の切削チップ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の切削ツールは、使い勝手が悪いという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来より使い勝手がよい切削チップ、切削ツール及びギヤエッジ切除装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明は、チップホルダーに保持されかつ、ギヤの隣り合った歯同士の間に配置され切削刃を有し、前記切削刃の刃筋が、前記歯のサイドエッジに斜めに交差するように宛がわれた状態で、前記切削刃を前記歯に対して歯厚方向に相対移動せると、前記切削刃が、前記サイドエッジを歯底側から歯先側に向かって切除しながら前記隣り合った歯同士の間から歯幅方向に徐々に抜け出る切削チップにおいて、前記チップホルダーに形成されている支持孔に、直動可能かつ回転不能に嵌合されかつその直動方向の前方に付勢されるシャフト部を有し、前記シャフト部の前端部に前記切削刃が配置され、前記切削刃の前記刃筋は、前記シャフト部の中心軸と交差する方向に延び、前記切削刃の逃げ面は、前記刃筋から離れるに従って前方に迫り出し、前記切削刃のすくい面は、前記逃げ面に対して前記直動方向の後側に重なる位置に配置されている切削チップである。
【0007】
請求項2の発明は、前記刃筋は、前記サイドエッジのうち前記ギヤの歯底側位置に宛がわれる歯底側端部からその反対側の刃先側端部に向かうに従って前方に迫り出している請求項1に記載の切削チップである。
【0008】
請求項3の発明は、前記刃筋は、前記シャフト部の直動方向の前側から見て凹状に湾曲している請求項1又は2に記載の切削チップである。
【0009】
請求項4の発明は、前記すくい面は、前記刃筋を含んで前記直動方向と平行な基準面に対して窪んだ溝状をなしている請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の切削チップである。
【0010】
請求項5の発明は、前記切削刃の一端部から延長され、前記切削刃の前記刃筋から斜め後側に屈曲して延びる刃筋を有し、前記ギヤの歯底のエッジを切削する歯底用切削刃を備え、前記歯底用切削刃の逃げ面は、前記歯底用切削刃の刃筋と同じ位置又はそれより後方に配置されている請求項1乃至4の何れか1の請求項に記載の切削チップである。
【0011】
請求項6の発明は、前記シャフト部の前端部には、後方に向かって互いに離れるように傾斜した1対の裾野面を有する山形ベース部が備えられ、前記切削刃の前記逃げ面は、前記山形ベース部の尾根部に位置し、前記切削刃の前記すくい面は、一方の前記裾野面における前記尾根部近傍に溝状に陥没形成されている請求項1乃至5の何れか1の請求項に記載の切削チップである。
【0012】
請求項7の発明は、前記シャフト部の前端部には、後方に向かって互いに離れるように傾斜した1対の裾野面を有する山形ベース部が備えられ、前記切削刃の前記逃げ面は、前記山形ベース部の尾根部に位置し、前記切削刃の前記すくい面が、両方の前記裾野面における前記尾根部近傍に溝状に陥没形成されて、前記切削刃が前記尾根部の両側に左右対称に備えられている請求項1乃至5の何れか1の請求項に記載の切削チップである。
【0013】
請求項8の発明は、前記山形ベース部の前記尾根部が幅方向で湾曲して前方に膨出している請求項7に記載の切削チップである。
【0014】
請求項9の発明は、請求項1乃至8の何れか1の請求項に記載の切削チップと、前記切削チップの前記シャフト部が直動可能かつ回転不能に嵌合している支持孔を有し、旋盤のツール保持部に取り付けられるチップホルダーと、前記切削チップを直動方向の前方に付勢するための付勢手段とを有する切削ツールである。
【0015】
請求項10の発明は、請求項7又は8に記載の切削チップと、前記切削チップの前記シャフト部が直動可能かつ回転不能に嵌合している支持孔を有し、旋盤に取り付けられるチップホルダーと、前記切削チップを前方に付勢するための付勢手段とを有してなり、前記チップホルダーは、前記旋盤のツール保持部に取り付けられるホルダーベース部と、前記支持孔を有し、前記ホルダーベース部に傾動可能に支持されホルダーヘッド部とに分割され、前記切削チップにおける前記山形ベース部の前記尾根部が、その幅方向に幅未満の範囲で傾動するように前記ホルダーベース部に対する前記ホルダーヘッド部の傾動範囲が規制されている切削ツールである。
【0016】
請求項11の発明は、請求項9又は10に記載の切削ツールと、前記ギヤとしての歯車を回転可能に保持するギヤ保持治具とを有するギヤエッジ切除装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の切削チップは、シャフト部の前端部に切削刃を備え、その切削刃の逃げ面が、刃筋より前方に迫り出した構造になっている。この構造により、切削チップをギヤの歯幅方向と略平行に直動可能に支持して使用することが可能になり、従来のものに比べて切削チップの使い勝手が良くなると共に(請求項1)、切削チップをチップホルダーに直動可能に支持させて、旋盤に取り付けられる切削ツールとして使用することや(請求項9,10)、ギヤエッジ切除装置に使用することが可能になる(請求項11)。なお、旋盤に取り付けられる切削ツールとして使用する場合には、旋盤の主軸にギヤとしての歯車を取り付ければよい。
【0018】
請求項2の切削チップは、刃筋がサイドエッジのうちギヤの歯底側位置に宛がわれる歯底側端部からその反対側の刃先側端部に向かうに従って前方に迫り出しているので、切削チップの直動方向を歯車の回転方向と略平行に配置した状態で、切削刃の刃筋が、歯のサイドエッジに斜めに交差するように宛がわれる。
【0019】
請求項3の構成によれば、ギヤのサイドエッジをスムーズに切削することができる。
【0020】
請求項4の切削チップのように、すくい面が、刃筋を含んで直動方向と平行な基準面に対して窪んだ溝状にすることですくい面の後側に隣接する部分を肉厚にすることができ、切削刃の強度を高くすることができる。
【0021】
請求項5の構成によれば、サイドエッジと合わせてギヤの歯底のエッジも切除することができる。
【0022】
請求項6の構成によれば、切削刃が、シャフト部の前端部に形成された山形ベース部で支持されているので切削刃の強度が高くなる。
【0023】
請求項7の切削チップでは、切削刃が左右対称に備えられているので、歯の両側のサイドエッジを切削することができる。
【0024】
請求項8の切削チップでは、山形ベース部の尾根部が幅方向で湾曲して前方に膨出しているので、逃げ面が被切削面にスムーズに乗り上がり、スムーズに切削を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
以下、本発明の一実施形態を
図1〜
図12に基づいて説明する。
図1には、本実施形態の切削ツール10と、その切削ツール10による加工対象であるギヤの一例としての歯車90が示されている。
【0027】
歯車90は、インボリュート歯車であって、例えば外周面に複数の歯91を有し、軸方向の両端のギヤ側面90S,90Sは平坦面になっている。また、
図2に拡大して示すように、歯91の噛合面93Bは、インボリュート曲面になっていて、歯厚方向H1に膨らんでいる。さらに、歯車90の内周面90N(
図1参照)及び歯底面93A及び歯先面93Cは同心円をなし、歯底面93Aと噛合面93Bとの間は、それらに連続したコーナー曲面93D,93Dになっている。
【0028】
また、歯車90は、ギヤ側面90Sと歯先面93Cとが交差してなるトップエッジ92Cと、ギヤ側面90Sと噛合面93Bとが交差してなるサイドエッジ92Bと、ギヤ側面90Sと歯底面93Aとが交差してなるボトムエッジ92Aと、ギヤ側面90Sとコーナー曲面93Dとが交差してなるコーナーエッジ92Dと、ギヤ側面90Sと内周面90Nとが交差してなる内縁エッジ90Aとを有する。そして、サイドエッジ92Bとボトムエッジ92Aとそれらの間のコーナーエッジ92Dとを除去するために切削ツール10が使用される。なお、それら以外のエッジ(トップエッジ92Cや内縁エッジ90A)は、図示しない別のツールによって除去される。
【0029】
図1に示すように、切削ツール10は、チップホルダー50に1対の切削チップ20、20を組み付けてなる。チップホルダー50は、角棒部51の先端部に支持ブロック部59を備えている。支持ブロック部59は、角棒部51の一側方と下方とに突出していて、その一側方を向いた面は、角棒部51の先端側から第1段部59A、第2段部59B及び第3段部59Cになっていて階段状に突出量が大きくなっている。また、第1段部59A及び第2段部59Bが同じ幅をなし、それらより第3段部59Cが幅狭になっている。
【0030】
図3に示すように、第1段部59A及び第2段部59Bには、一側方から嵌合孔55A,55Aが穿孔され、それら嵌合孔55A,55Aの奥面中央から角棒部51における支持ブロック部59の反対側の側面に亘ってバネ収容孔51A,51Aが貫通形成されている。なお、嵌合孔55A,55Aは、支持ブロック部59の下端寄り位置に配置されている(
図1参照)。
【0031】
図3に示すように、各嵌合孔55Aには、ガイド栓30が嵌合されている。ガイド栓30は、円柱体の一端から側方にフランジ30Fが張り出した形状をなしている。そして、フランジ30Fがバネ収容孔51Aの開口縁に当接し、各ガイド栓30と各嵌合孔55Aの奥面との間にそれぞれ可動部屋56が形成されている。また、フランジ30Fの外縁部の一部は、カットされて位置決平面30Kになっている。そして、位置決平面30Kが、第1段部59Aと第2段部59Bとの間の段差面又は、第2段部59Bと第3段部59Cとの間の段差面に隣接して、ガイド栓30の嵌合孔55Aに対する回転方向で位置決めされている。さらには、第1段部59A及び第2段部59Bには、上面から嵌合孔55A,55Aに亘って雌螺子孔(図示せず)が形成され、それら雌螺子孔に螺合したボルトB,B(
図1参照)の先端がガイド栓30,30の側面に突き当てられてガイド栓30,30が嵌合孔55A,55Aに抜け止めされている。
【0032】
ガイド栓30の中心部には、支持孔30Aが貫通形成されている。支持孔30Aは、後述する切削チップ20のシャフト部21と略同径の小径部30Eと、切削チップ20の大径軸部22と略同幅の大溝部30Bとを有し、可動部屋56寄り位置から可動部屋56側の開口までの間が段付き状になっている。その大溝部30Bの内周面のうち水平方向で対向する面が位置決平面30C,30Cとなっている。また、角棒部51のうち支持ブロック部59と反対側の側面には、閉塞板52が重ねて固定され、その閉塞板52から突出するバネ支持突部53A,53Bがバネ収容孔51A,51Aに突入している。それら各バネ支持突部53A,53Bは、先端側が段付き状に縮径されている。
【0033】
図4に示すように、切削チップ20は、シャフト部21の一端部に刃部27を備えている。以下、切削チップ20のうち刃部27が設けられている側を「前側」、「前端」等といい、その反対側を「後側」、「後端」等ということとする。
【0034】
シャフト部21は、断面円形になっていて、その後端寄り位置には、シャフト部21の全体に対して段付き状に拡径した大径軸部22が設けられている。また、
図5(B)に示すように、その大径軸部22には、周方向で180度離れた位置をカットして、1対の位置決平面22A,22Aが形成されている。そして、
図3に示すように、シャフト部21のうち大径軸部22より前側部分が支持孔30Aの大溝部30Bより前側部分に嵌合すると共に、シャフト部21の大径軸部22がガイド栓30の大溝部30Bに嵌合し、さらに、大径軸部22の位置決平面22A,22Aと大溝部30Bの位置決平面30C,30Cとが対向している。これにより、切削チップ20がガイド栓30に対して直動可能かつ回転不能に支持されている。
【0035】
また、シャフト部21のうち大径軸部22より後側部分には、圧縮コイルバネ58の一端部が嵌合され、その圧縮コイルバネ58の他端部が前述したバネ支持突部53Aの先端側の縮径部分に嵌合している。これにより、切削チップ20が前方に付勢されている。そして、シャフト部21の大径軸部22の前側段差面が、大溝部30Bの前側段差面に当接して、切削チップ20が直動方向の「原点位置」に位置決めされる。
【0036】
図5(A)に示すように、切削チップ20の前端部には、シャフト部21の軸方向と直交する前端面21Fが備えられ、その前端面21Fから山形ベース部24が突出している。山形ベース部24は、シャフト部21の中心軸J1の軸方向に対して略同じ角度(例えば、45度)で傾斜した裾野面24A,24Bを有する。また、裾野面24A,24Bの両側が、前記した前端面21F,21Fになっている。そして、
図3に示すように、切削チップ20が原点位置に位置すると、前端面21Fがガイド栓30の外面と略面一になる。なお、前端面21Fとガイド線30の外面とに段差を設ける構成であってもよい。
【0037】
両切削チップ20,20には、山形ベース部24の尾根部近傍を裾野面24A,24Bの一方側又は他方側から溝状に抉って刃部27,27が形成され、それら両切削チップ20,20の刃部27,27は相互に対称な形状をなしている。そして、チップホルダー50の第1段部59A(
図1参照)に装着されている一方の切削チップ20の刃部27の刃先が上方を向き、第2段部59B(
図1参照)に装着されている他方の切削チップ20の刃部27の刃先が下方を向いている。以下、両切削チップ20,20を代表して、刃部27の刃先が上方を向いた一方の切削チップ20の形状について詳説する。
【0038】
図6には、一方の切削チップ20の平面形状が示されている。同図に示すように、山形ベース部24の稜線R(山形ベース部24の頂点を結んだ線)は、シャフト部21の中心から僅かに一方の裾野面24Aにずれた位置を通ってシャフト部21の位置決平面22A,22Aの対向方向に延び、稜線R全体は、一方の裾野面24Aに僅かに膨らんだ湾曲形状をなしている。なお、
図6では、シャフト部21の中心を通過しかつ径方向の延びた参考線L1が一点鎖線で示され、稜線Rが二点鎖線で示されている。
【0039】
また、
図3に示すように、稜線Rは、角棒部51の長手方向の先端側から基端側に向かって(
図3の左側から右側に向かって)、前方に迫り出すように傾斜している。その稜線Rの傾斜角は、山形ベース部24のうち前端面21Fからの張り出し量が小さい一端側から一端寄り位置までの間が、その他の部分に比べて急勾配になっている。
【0040】
切削チップ20は、山形ベース部24の尾根部近傍を一方の裾野面24B側から溝状に抉られ、上記した稜線Rの急勾配部分にボトムエッジ用切削刃26が形成され、それ以外の部分にサイドエッジ用切削刃25が形成されている。また、それらボトムエッジ用切削刃26の刃筋26Tとサイドエッジ用切削刃25の刃筋25Tとは連続していて、山形ベース部24の稜線Rと同様に位置決平面22A,22Aの対向方向に延びている。なお、サイドエッジ用切削刃25が、本発明に係る「切削刃」に相当し、ボトムエッジ用切削刃26が、本発明に係る「歯底用切削刃」に相当する。
【0041】
図7に示すように、サイドエッジ用切削刃25の逃げ面25Aは、刃筋25Tから離れるに従って前方(
図7の上方)に向かい、途中から僅かに後方に向かように湾曲している。そして、逃げ面25Aのうち稜線Rの反対側が裾野面24Aに繋がっている。また、このサイドエッジ用切削刃25の逃げ面25Aのうち最も前方に位置した部分が、前述した山形ベース部24の稜線Rになっている。
【0042】
サイドエッジ用切削刃25のすくい面25Sは、刃筋25Tを含みかつシャフト部21の中心軸J1と平行な基準面K1に対して窪んだ断面円弧形の溝状をなし、逃げ面25Aに対して後側に重なる位置に配置されている。そして、すくい面25Sの下端部が裾野面24Bに連続している。
【0043】
図8に示すように、ボトムエッジ用切削刃26の逃げ面26Aは、平坦面になっていて、刃筋25Tから離れるに従って後方に向かうように傾斜し、裾野面24Aに繋がっている。即ち、ボトムエッジ用切削刃26においては、刃筋26Tが山形ベース部24の稜線Rになっている。また、裾野面24Aのうちボトムエッジ用切削刃26の逃げ面26Aに繋がっている部分は、サイドエッジ用切削刃25の逃げ面25Aに繋がっている部分より勾配が緩くなっている。さらには、ボトムエッジ用切削刃26のすくい面26Sは、サイドエッジ用切削刃25のすくい面25Sより僅かに浅い断面円弧形の溝状をなし、逃げ面26Aに対して後側に重なる位置に配置されている。そして、サイドエッジ用切削刃25よりボトムエッジ用切削刃26の方が刃先の角度(逃げ面26Aとすくい面26Sとの交差角)が小さくなっている。また、すくい面25Sの下端部が裾野面24Aに連続している。なお、サイドエッジ用切削刃25とボトムエッジ用切削刃26との境界部分の近傍では、逃げ面25A,26A、すくい面25S,26S及び裾野面24A,24Bが緩やかに変化している。
【0044】
本実施形態の切削ツール10の構成に関する説明は、以上である。次に、この切削ツール10の作用効果について説明する。切削ツール10は、
図9に例示した旋盤80(例えば、NC制御される旋盤)に取り付けて使用される。そのために、旋盤80のツール保持部85に切削ツール10を固定し、旋盤80の主軸44に歯車90を固定する。具体的には、旋盤80の主軸44のチャックが有する複数の係止爪44Aを歯車90の内側挿入した状態にして開き、又は歯車90の外側から把持し、
図10に示すように、歯車90を主軸44に一体回転可能に固定する。なお、切削ツール10が取り付けられた状態の旋盤80が、本発明に係る「ギヤエッジ切除装置」に相当する。
【0045】
一方、切削ツール10は、
図9に示すように、チップホルダー50の基端部をツール保持部85にクランプさせて、
図10に示すように、切削チップ20,20の直動方向を、歯車90の歯幅方向H2(即ち、主軸44の回転方向)と平行になった状態にする。そして、チップホルダー50の第1段部59Aに装着されている切削チップ20が歯車90に対する次述の「切削始動位置」に配置される第1ポイントと、チップホルダー50の第2段部59Bに装着されている切削チップ20が、歯車90に対する前記切削始動位置に配置されている第2ポイント(図示せず)と、切削ツール10が歯車90を離間した待機ポイントとを、旋盤80にティーチングする。
【0046】
ここで、
図1、
図8、
図11(A)及び
図11(B)には、切削始動位置に配置された切削チップ20が示されている。即ち、
図1に示すように、切削チップ20全体を、歯車90の中心軸に対して水平方向の側方に配置し、
図8に示すように、切削チップ20のサイドエッジ用切削刃25及びボトムエッジ用切削刃26を隣り合った歯91,91の間に収め、
図11(A)に示すように、ボトムエッジ用切削刃26を歯車90のボトムエッジ92Aに当接させると、切削チップ20が切削始動位置に配置された状態になる。
【0047】
そして、切削ツール10を待機ポイントから第1ポイントに移動し、各歯91が一方の切削チップ20の上向きの刃部27に上方から向かっていく方向に歯車90を1回転又は複数回転させてから、切削ツール10を待機ポイントを経由して第2ポイントに移動し、今度は、各歯91が他方の切削チップ20の下向きの刃部27に下方かっていく方向に歯車90を1回転又は複数回転させるプログラムを作成する。
【0048】
上記したプログラムをティーチングプレイバックすると、
図11(B)の矢印に示すように、歯車90が一方に回転し、ボトムエッジ用切削刃26が歯厚方向H1に相対移動して歯車90のボトムエッジ92Aに切れ込む。そして、ボトムエッジ用切削刃26がボトムエッジ92Aを切除しながらコーナーエッジ92Dへと移動する。すると、ボトムエッジ用切削刃26のうち歯車90との当接位置がボトムエッジ用切削刃26におけるサイドエッジ用切削刃25側に移動して、これに伴いボトムエッジ用切削刃26が隣り合った歯91,91同士の間から歯幅方向H2(
図11(B)参照)に徐々に抜け出ていき、やがて、サイドエッジ用切削刃25がサイドエッジ92Bに当接する。
【0049】
そして、
図12(B)に示すように、歯幅方向H2から見てサイドエッジ用切削刃25の刃筋25Tがサイドエッジ92Bに対して斜めに交差しかつ、図示しないが歯厚方向H1から見てもサイドエッジ用切削刃25の刃筋25Tがサイドエッジ92Bに対して斜めに交差した状態になる。この状態で、サイドエッジ用切削刃25が歯91に対して歯厚方向H1の一方に相対移動してサイドエッジ92Bを歯底側から歯先側に向かって切除しながら、隣り合った歯91,91の間から歯幅方向H2(
図2参照)に徐々に抜け出ていく。
【0050】
詳細には、サイドエッジ用切削刃25の逃げ面25Aは、刃筋25Tより前方に迫り出しているので(
図7参照)、サイドエッジ92Bに形成される被切削面にサイドエッジ用切削刃25の逃げ面25Aが乗り上がっていき、これにより、切削位置がサイドエッジ92Bの歯底側から歯先側に向かって移動していき、サイドエッジ用切削刃25が隣り合った歯91,91同士の間から歯幅方向H2に徐々に抜け出ていく。また、逃げ面25Aは丸みを帯びた形状をなしているので、被切削面状をスムーズに摺接する。
【0051】
そして、サイドエッジ用切削刃25が隣り合った歯91,91の間から抜け出ると、サイドエッジ用切削刃25の逃げ面25Aが歯車90のギヤ側面90Sに摺接し、そして、次の隣り合った歯91,91の間に切削チップ20の刃部27が突入して上記と同じ動作を繰り返す。このようにして、歯車90が1回転又は複数回転したときには、歯車90の一方のギヤ側面90Sにおいて、各歯91の一方のサイドエッジ92Bとボトムエッジ92Aの一部とのエッジが、一方の切削チップ20によって切除される。
【0052】
次いで、切削ツール10が第2ポイントに移動し、歯車90が逆向きに回転する。これにより、歯車90の各歯91の他方のサイドエッジ92Bとボトムエッジ92Aの残りの一部のエッジが、他方の切削チップ20によって切除される。以上により、歯車90の一方のギヤ側面90Sにおけるボトムエッジ92Aとサイドエッジ92Bとが切除される。なお、歯車90の裏表を逆にして主軸44に取り付けて、上記プログラムを実行すれば、歯車90の他方のギヤ側面90S側のボトムエッジ92A及びサイドエッジ92Bも切除される。
【0053】
上記したように本実施形態の切削チップ20は、シャフト部21の前端部にサイドエッジ用切削刃25を備えて、そのサイドエッジ用切削刃25の逃げ面25Aが刃筋25Tより前方に迫り出した構造とした。この構造により、切削チップ20を歯車90の歯幅方向H2と略平行に直動可能に支持して使用することが可能になり、従来のものに比べて切削チップ20の使い勝手が良くなると共に、切削チップ20をチップホルダー50に直動可能に支持させて、旋盤80に取り付けられる切削ツール10として使用することが可能になる。そして。汎用の旋盤80を有効利用して歯車90のエッジを切除すること可能になる。
【0054】
また、本実施形態の切削チップ20では、サイドエッジ用切削刃25の一端にボトムエッジ用切削刃26を備えているので、歯91のサイドエッジ92Bと合わせてボトムエッジ92Aも切除することができる。さらに、山形ベース部24でサイドエッジ用切削刃25及びボトムエッジ用切削刃26を支持しているので、歯91,91の間にサイドエッジ用切削刃25及びボトムエッジ用切削刃26を突入可能が先細形状としつつも、サイドエッジ用切削刃25の強度を高くすることができる。
【0055】
[第2実施形態]
第2実施形態は、
図13〜
図18に示されており、チップホルダー60が1対の刃部27,27を備えた切削チップ20Vを1つ保持し、それら刃部27,27を使い分けるためにチップホルダー60が切削チップ20Vを僅かに傾動する点とが第1実施形態と大きく異なる。以下、第1実施形態と略同一の構成に関しては、第1実施形態と同一の符号を付して重複した説明を省略し、第1実施形態と異なる構成に関してのみ説明する。
【0056】
具体的には、
図13に示すように、切削チップ20Vは、1対の裾野面24B,24Bにおける山形ベース部24Vの尾根部近傍を溝状に抉られて、
図14に示すように1対の刃部27,27を左右対称に備えている。また、
図15(A)に示すように、各刃部27のサイドエッジ用切削刃25に関しては、第1実施形態のサイドエッジ用切削刃25と同一形状をなしている。一方、各刃部27のボトムエッジ用切削刃26に関しては、
図15(B)に示すように、逃げ面26Aが、両ボトムエッジ用切削刃26,26の刃筋26T,26Tの間を連絡する平面をなし、すくい面26S,26Sが第1実施形態に比べて若干深くなっている点が異なる。
【0057】
図16に示すように、チップホルダー60は、ベース部61(本発明の「ホルダーベース部」に相当する)にてヘッド部66(本発明の「ホルダーヘッド部」に相当する)を傾動可能に支持した構造になっている。ヘッド部66は、水平方向に延びた円柱状をなし、先端部の中心部には嵌合孔66Cが穿孔され、その嵌合孔66Cの奥面の中心部にバネ収容孔66Dが穿孔されている。そして、前記第1実施形態と同じガイド栓30が嵌合孔66Cが嵌合されてボルトBにて抜け止めされている。また、ヘッド部66の先端面66Aの外縁部からは、段差突部66Bが突出していて、そこにガイド栓30の位置決平面30Kが係合している。そして、前記第1実施形態と同様にガイド栓30の支持孔30Aに、切削チップ20Vが直動可能かつ回転不能に支持され、圧縮コイルバネ58により前方に付勢されている。また、切削チップ20Vは、山形ベース部24Vの尾根部が水平方向に延びた状態に保持されている。なお、バネ収容孔66Dの奥部には、台座部材69が備えられ、台座部材69の厚みによって圧縮コイルバネ58のバネ力を調整することができる。
【0058】
ヘッド部66の基端寄り位置には、ヘッド部66の軸方向と直交する水平方向にピン孔66Fが貫通している。また、ヘッド部66のうちピン孔66Fより基端側は先細り状に僅かに窄んでいる。さらに、ヘッド部66の外周面には、ピン孔66Fより先端側に僅かに離れた位置にOリング溝68Mが形成され、そこにOリング68が受容されてヘッド部66の外周面から突出している。
【0059】
ベース部61は、角棒部51の先端部から一側方にブロック62が突出した形状をなしている。また、ベース部61には、ブロック62の先端面からその反対面に亘って支持孔63が貫通していて、その支持孔63におけるブロック62と反対側の開口が閉塞板61Aにて閉塞されている。また、ブロック62の先端寄り位置には、支持孔63と直交する水平方向にピン孔62Pが貫通している。そして、ヘッド部66の基端からOリング68までが、支持孔63にブロック62の先端側から遊嵌されて、ピン孔62P,66Fをピン67が挿通されている。そして、ヘッド部66が、通常は、圧縮コイルバネ65により支持孔63に対して心出しされた状態に保持され、外力を受けてベース部61に対して僅かに上下に傾動する。また、その傾動範囲は、
図17に示すように、ヘッド部66の一部と支持孔63の内面との当接によって規制されている。具体的には、切削チップ20Vにおける山形ベース部24Vの尾根部が、その幅方向に幅未満の範囲で傾動するように規制されている。
【0060】
図16に示すように、支持孔63のうちヘッド部66より奥側には、押圧スリーブ64が嵌合されている。押圧スリーブ64は、円筒体の一端を底壁64Bにて閉塞してなり、その底壁64Bがヘッド部66の基端面に当接した状態で直動するように支持孔63に支持されている。また、
図17に示すように、底壁64Bの中心部には挿通孔64Cが形成され、底壁64Bの外縁部のうち1対の対向位置からは突当突起64D,64Dが上方に突出している。これに対し、ヘッド部66の基端部には、突当突起64D,64Dを受容する凹部66G,66Gが形成されている。そして、ヘッド部66が傾動したときに、突当突起64Dの先端面が凹部66Gの内面に突き当たるようになっている。
【0061】
また、押圧スリーブ64の内部には圧縮コイルバネ65が収容されて、底壁64Bと閉塞板61Aとの間で突っ張り状態になっている。なお、閉塞板61Aからは、押圧スリーブ64に向かって位置決め突部61Bが突出していて圧縮コイルバネ65の端部の内側に嵌合している。以上により、通常は、押圧スリーブ64の端面とヘッド部66の端面とが面当接してヘッド部66が支持孔63に心出しされた水平姿勢に保持される。
【0062】
本実施形態の切削チップ20V、切削ツール10Vの構成に関する説明は以上である。次に、それらの作用効果について説明する。切削ツール10Vは、前記第1実施形態の切削ツール10と同様に旋盤80(
図9参照)のツール保持部85に取り付けられる。そして、旋盤80の主軸44に取り付けられた歯車90のエッジ切除に使用される。
【0063】
具体的には、
図16に示すように、ヘッド部66が水平姿勢になった状態で切削チップ20Vの直動方向と歯車90の歯幅方向H2とが平行になるようにセットする。次いで、山形ベース部24Vの尾根部のうちボトムエッジ用切削刃26に対応した部分を歯車90のボトムエッジ92Aに押し付け、切削チップ20Vが支持孔30Aに僅かに押し込まれた第1ポイントと、切削チップ20Vが歯車90から離間した待機ポイントとを旋盤80にティーチングする。そして、切削ツール10を待機ポイントから第1ポイントに移動し、歯車90を一方向に1回転又は複数回転させてから、歯車90を他方向に1回転又は複数回転させるプログラムを作成する。
【0064】
上記プログラムをティーチングプレイバックすると歯車90が一方に回転し、その歯車90によって切削チップ20Vが下方に引っ張られて下向きに傾いた第1傾動姿勢になり、上側の刃部27が歯車90に対して、丁度、第1実施形態で説明した「切削始動位置」に配置される。このとき、
図18(A)に示すように、山形ベース部24Vの尾根部のうち稜線R(尾根部の幅方向の中央の線)より上側部分、即ち、上側の刃部27におけるサイドエッジ用切削刃25の逃げ面25Aが、上側のサイドエッジ用切削刃25の刃筋25Tより歯車90側に位置した状態になる。これらにより、歯車90が一方に回転すると、第1実施形態と同様に、歯車90の一方のギヤ側面90Sにおいて、各歯91の一方のサイドエッジ92Bとボトムエッジ92Aの一部とのエッジが、一方の切削チップ20によって切除される。
【0065】
次いで、歯車90が他方に回転すると、今度は、歯車90によって切削チップ20Vが上方に引っ張られて上向きに傾いた第2傾動姿勢になり、下側の刃部27が歯車90に対して切削始動位置に配置される。このとき、
図18(A)に示すように、山形ベース部24Vの尾根部のうち稜線R(尾根部の幅方向の中央の線)より下側部分、即ち、下側の刃部27におけるサイドエッジ用切削刃25の逃げ面25Aが、下側のサイドエッジ用切削刃25の刃筋25Tより歯車90側に位置した状態になる。これらにより、歯車90が他方に回転すると、各歯91の他方のサイドエッジ92Bとボトムエッジ92Aの残りの一部のエッジが切除される。このように本実施形態によっても第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0066】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0067】
(1)前記各実施形態では、切削ツールによるエッジ除去の対象ワークとして平歯車を例示したが、対象ワークは、はす歯歯車(歯幅方向が回転軸方向に対して傾斜しているもの)であってもよい。また、歯車ではなく、ラックやスプロケット、プーリー等の凹凸形状を有するものであれば切削ツールによるエッジ除去の対象ワークとすることができる。
【0068】
(2)前記各実施形態では、ボトムエッジ用切削刃26を有する構成であったが、サイドエッジ用切削刃25のみで構成してもよい。
【0069】
(3)第2実施形態では、圧縮コイルバネ65と押圧スリーブ64とでヘッド部66が水平位置に付勢されていたが、圧縮コイルバネ65及び押圧スリーブ64を備えない構成としてもよい。これにより、傾動可能であると共に、さらなる小型化を図ることができる。