【文献】
BESSHO, Kenichiro,“Automated Keratoconus Detection Using Height Data of Anterior and Posterior Corneal Surfaces”,JAPANESE JOURNAL OF OPHTHALMOLOGY,2006年10月,Vol.50, No.5,p.409-416
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。先ず、本発明者が行った円錐角膜に関する回帰分析を
図1を参照して説明する。
【0020】
早期(軽度)円錐角膜患者及び正常者のケラトメータデータを多施設から収集し、最終的に年齢をマッチングさせて早期円錐角膜患者124名の124眼(男性86名、女性38名、平均年齢30.85±15.94(標準偏差)歳)、及び正常者130名の130眼(男性82名、女性48名、平均年齢30.34±6.28歳)を対象者として選択した(
図1のステップS1)。なお、早期円錐角膜患者として、角膜形状解析に基づいてAmsler−Krumeich分類1度と診断された者を抽出した。
【0021】
次に、上記対象者を2:1の比になるように無作為に回帰式作成群と回帰式評価群とに分類した(
図1のステップS2)。
【0022】
次に、分類した回帰式作成群のケラトメータデータ及び円錐角膜か否かのデータに基づいて多重ロジスティック回帰分析を行い、被検眼に対して円錐角膜か否かを予測する回帰式を作成した(
図1のステップS3)。回帰式は統計解析ソフトウェアSPSSを用いて作成した。また、回帰式の独立変数(説明変数ともいう)の候補パラメータは、ケラトメータデータを構成する各パラメータとし、具体的には、強主経線屈折力、弱主経線屈折力、強主経線の角度(角膜乱視軸方向)、平均屈折力、角膜乱視度とした。また、回帰式の従属変数(目的変数ともいう)は、円錐角膜であることの確からしさ(確率)を示す値p(0≦p≦1)とした。確率pが1の場合は円錐角膜であることを示し、0の場合は正常であることを示す。
【0023】
ここで、一般に正乱視の角膜表面はトーリック面のように構成され、すなわち、
図4に示すように、角膜表面20は、角膜中心Oを通る角膜表面20に沿った経線のうち曲率半径が最も小さい(言い換えれば曲率が最も大きい)経線である強主経線21と、曲率半径が最も大きい(言い換えれば曲率が最も小さい)経線である弱主経線22とが中心Oで直交する曲面として構成される。角膜表面20に入射する光のうち強主経線21を通る光は、屈折力が強いため、光が強く曲げられ、最小錯乱円よりも手前(
図4の前焦線の位置)に光が集まる。一方、弱主経線22を通る光は、屈折力が弱いため、光があまり曲げられず、最小錯乱円よりも奥の方(
図4の後焦線の位置)に光が集まる。
【0024】
上記候補パラメータにおける強主経線屈折力は、角膜中心Oに対して所定径d(例えば約3mm)の位置30における強主経線21での屈折力(光を屈折させる力)である。弱主経線屈折力は、上記位置30における弱主経線22での屈折力である。強主経線の角度は、水平方向(眼の左右方向、片方の眼からもう片方の眼に向かう方向)を0度及び180度の方向としたときの強主経線21の角度である。弱主経線の角度は水平方向(眼の左右方向)を0度及び180度の方向としたときの弱主経線22の角度であって、強主経線21の角度に対して直角の角度である。平均屈折力は、強主経線屈折力と弱主経線屈折力の平均値である。角膜乱視度は、強主経線屈折力と弱主経線屈折力の差である。
【0025】
回帰式の作成において、強主経線の角度は、乱視の分類に基づき、倒乱視(0度以上30度未満、150度以上180度未満)、斜乱視(30度以上60度未満、120度以上150度未満)、直乱視(60度以上120度未満)とし、それぞれに乱視に対してダミー変数(0か1)を当てはめた。例えば、強主経線の角度が90度であれば、倒乱視のダミー変数に対しては0、斜乱視のダミー変数に対しては0、直乱視のダミー変数に対しては1を当てはめた。
【0026】
多重ロジスティック回帰式は以下の式1又は式2で表される。
(式1) logit値=log(p/(1−p))=α+β
1x
1+β
2x
2+・・+β
rx
r
(式2) p=1/{1+exp−(α+β
1x
1+β
2x
2+・・+β
rx
r)}
【0027】
ここで、式1、式2において、pは従属変数であり、ある事象が発生する確率を示している。x(x
1、x
2、・・x
r)は独立変数であり、αは定数であり、β(β
1、β
2、・・β
r)は回帰係数である。
【0028】
多重ロジスティック回帰分析では、収集した実測データに基づいて、式1、式2における定数α、回帰係数βの決定及び回帰式に採用する独立変数の取捨選択を行う。本事案においては、回帰式作成群に属する対象者毎の円錐角膜か否かのデータを2値化(円錐角膜の場合は1、正常の場合は0)し、この2値化データと、対象者毎の上記候補パラメータ(強主経線屈折力、弱主経線屈折力、倒乱視、斜乱視、直乱視、平均屈折力、角膜乱視度)とに基づいて、定数α及び各候補パラメータの回帰係数βを算出するとともに、候補パラメータの取捨選択を行った。このとき、有意水準を5%とし、候補パラメータの取捨選択はステップワイズ法を採用した。ステップワイズ法においては、各パラメータの回帰モデルへの適合度を確認しながら、パラメータの回帰モデルへの投入又は削除を1個ずつ順に行う。そして、最終的に、回帰モデル全体のp値(有意確率)が有意水準(5%)未満となるようにパラメータの選択を行った。
【0029】
多重ロジスティック回帰分析の結果、独立変数として選択したパラメータは、強主経線屈折力x
1、弱主経線屈折力x
2、及び強主経線の角度が直乱視に分類される角度であるかそれ以外の角度であるかを示すダミー変数x
3となった。それ以外のパラメータ、具体的には平均屈折力、角膜乱視度、倒乱視か否かのダミー変数、斜乱視か否かのダミー変数は今回の回帰モデルに採用されなかった。また、強主経線屈折力x
1の回帰係数β
1は+1.707、弱主経線屈折力x
2の回帰係数β
2は−0.997、直乱視のダミー変数x
3の回帰係数β
3は−3.481、定数αは−30.791となった。すなわち、回帰式として以下の式3を導出した。なお、式3で示される回帰モデル全体のp値(有意確率)は0.001未満(0.1%未満)であった。
(式3) logit値=log(p/(1−p))=−30.791+1.707x
1−0.997x
2−3.481x
3
【0030】
また、強主経線屈折力x
1のオッズ比は5.510であり、弱主経線屈折力x
2のオッズ比は0.369であり、直乱視のダミー変数x
3のオッズ比は0.031であった。
【0031】
なお、logit値は以下の式4に示すロジスティックの逆変換の公式を用いて円錐角膜が起こる確率pに変換できる。
(式4) p=exp(logit値)/(1+exp(logit値))
【0032】
図1の説明に戻り、ステップS3において式3で示す回帰式を作成した後、次に、円錐角膜の疑いの有無を判別するためのカットオフ値(閾値)を決定した(ステップS4)。カットオフ値は以下のようにして求めた。すなわち、先ずROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)を描いた。ROC曲線は、横軸を偽陽性率(1−特異度)、縦軸を陽性率(感度)として、カットオフ値を変化させたときの陽性率及び偽陽性率の点をプロットした線である。感度(陽性率)は、特定の疾患を有する患者群に対してその疾患の有無を検査した場合に、その検査を実施した患者数に対する疾患有と判定された人数の割合(つまり、陽性者に対して正しく陽性であると判定された人数の割合)をいう。特異度は、特定の疾患を有しない正常者群に対してその疾患の有無を検査した場合に、その検査を実施した正常者数に対する疾患無と判定された人数の割合(つまり、陰性者に対して正しく陰性であると判定された人数の割合)をいう。偽陽性率(1−特異度)は検査を実施した正常者数に対する疾患有と判定された人数の割合(つまり陰性者に対して誤って陽性と判定された人数の割合)をいう。カットオフ値を変化させたときの陽性率(感度)及び偽陽性率(1−特異度)はステップS2で回帰式作成群に分類した円錐角膜患者及び正常者のデータに基づいて求めた。
【0033】
そして、ROC曲線におけるAUC(Area Under the Curve)がより大きい値(つまり、より1に近い値)を示した時のlogit値を最終的なカットオフ値として定めた。より具体的には、Yoden indexすなわち(感度+特異度−1)が最大となる時のlogit値をカットオフ値として定めると、−0.4356であった。これを、式4により確率に変換すると、39.28%であった。また、カットオフ値が−0.4356(39.28%)であるときのROC曲線のAUCは0.8997(標準誤差:0.02495、95%信頼区間:0.8508〜0.9486)、感度及び特異度はそれぞれ82.19%、84.27%であった。なお、AUCは、ROC曲線より下の部分の面積をいう。
【0034】
次に、ステップS2で分類した回帰式評価群に対して、ステップS3、S4で得られ回帰式(式3)及びカットオフ値(39.28%)を用いて円錐角膜であるか正常かを判定することで、回帰式及びカットオフ値を評価した(ステップS5)。この結果、感度は100%、特異度は76.06%であった。なお、カットオフ値を50%に変更して、回帰式評価群に対して円錐角膜であるか正常かを判定したところ、感度は92.86%、特異度は84.44%であった。
【0035】
以上に示したように、多重ロジスティック回帰分析により、式3を導出でき、この式3により、円錐角膜か否かを高精度(感度100%、特異度76.06%(カットオフ値が39.28%の場合))で判別できることが分かった。また、強主経線屈折力の回帰係数が正の値(具体的には+1.707)であり、オッズ比が1より大きい値(具体的には5.510)であることから、強主経線屈折力は、強主経線屈折力が大きくなると円錐角膜の確率pを大きくさせるパラメータ、つまり確率pと正の相関を有した、円錐角膜を促進させるパラメータであることが分かった。弱主経線屈折力の回帰係数が負の値(具体的には−0.997)であり、オッズ比が1より小さい値(具体的には0.369)であることから、弱主経線屈折力は、弱主経線屈折力が大きくなると円錐角膜の確率pを小さくさせるパラメータ、つまり確率pと負の相関を有した、円錐角膜を抑制させるパラメータであることが分かった。直乱視の回帰係数が負の値(具体的には−3.481)であり、オッズ比が1より小さい値(具体的には0.031)であることから、直乱視の場合は、直乱視以外の乱視(倒乱視、斜乱視)に比べて、円錐角膜の確率pを小さくさせるパラメータ、つまり確率pと負の相関を有した、円錐角膜を抑制させるパラメータであることが分かった。言い換えれば、倒乱視又は斜乱視のほうが、円錐角膜であると判定されやすくなることが分かった。
【0036】
さらに、弱主経線屈折力の回帰係数(−0.997)よりも直乱視の回帰係数(−3.481)のほうが負の方向に大きい値であり、弱主経線屈折力のオッズ比(0.1より大きく、1より小さい値)よりも、直乱視のオッズ比(0.1より小さい値)のほうが小さい。このことから、直乱視であるか否かのほうが、弱主経線屈折力よりも、円錐角膜であることを否定する方向に強く影響を及ぼすことが分かった。
【0037】
図2は、上記多重ロジスティック回帰分析による知見を反映したケラトメータ1の概略構成を示している。以下、このケラトメータ1の構成を説明する。ケラトメータ1は被検眼の角膜の曲率半径、屈折度、主経線方向などの角膜に関する検査を行う装置である。ケラトメータ1は、一般的なオートケラトメータと同様の機能を有していることに加えて、メモリ3に円錐角膜の予測モデル5が記憶されて、この予測モデル5に基づいて円錐角膜の疑いの有無を判定する機能も有している。
【0038】
具体的には、ケラトメータ1は、被検眼の角膜表面20に単一のリング光30(
図4参照)又はリング状に配置された複数の点状光を投影する投影部6と、このリング光30の角膜表面20での反射像を撮像する撮像部9と、測定結果等を出力する出力部としての表示部12と、これらに接続された制御部2とを備えている。投影部6は、赤外光を発する光源7と、この光源7からの光を角膜表面20の中心O付近に所定径d(例えば約3mm)のリング光30として投影するよう導く導光部8とを備えている。導光部8はレンズやミラーなどから構成されている。なお、ケラトメータ1は、リング光30が角膜表面20の中心O付近の領域に投影されるようにケラトメータ1の光学系をアライメント(調節)する機構(図示外)も備えている。アライメント機構は、アライメント用の光を角膜表面20に投影する投影部と、アライメント用の光の反射像を撮像する撮像部と、この反射像の位置に基づいてケラトメータ1の光学系を移動させる駆動部とを備えている。アライメントされた状態では、ケラトメータ1の光軸と、被検眼の光軸とが一致して、リング光30の中心が角膜表面20の中心Oに一致している。
【0039】
撮像部9は、リング光30の反射光を受光するCCD(Charge Coupled Device)等の受光素子10と、リング光30の反射光を受光素子10まで導く導光部11とを備えている。導光部11はレンズやミラーなどから構成されている。リング光30の反射像が受光素子10で結像されるように、投影部6及び撮像部9の位置関係が定められている。
【0040】
表示部12は例えば液晶ディスプレイとすることができるが、それ以外のディスプレイでもよい。
【0041】
制御部2はCPU、ROM、RAM等を備えた通常のコンピュータと同様の構造を有し、投影部7、撮像部9及び表示部12を制御したり、ケラト値の算出などの処理を実行する。制御部2はROMなど不揮発性のメモリ3を備えている。メモリ3には、制御部2が実行する処理のプログラム4や、円錐角膜の予測モデル5などが記憶されている。
【0042】
予測モデル5は、
図1の多重ロジスティック回帰分析と同様のステップで得られた回帰式及びカットオフ値を含んで構成されている。予測モデル5の回帰式は具体的には以下の式5で示される。
(式5) logit値=log(p/(1−p))=α+β
1x
1+β
2x
2+β
3x
3
【0043】
式5の各変数、係数、定数の意味は式3と同じである。すなわち、pは円錐角膜の確率であり、p=1が円錐角膜であることを示し、p=0が正常であることを示す。x
1は強主経線屈折力(単位はディオプトリD)である。x
2は弱主経線屈折力(単位はディオプトリD)である。x
3は直乱視か否かの変数(直乱視の場合は1、それ以外の場合は0)である。αは定数であり、例えば式3と同じ値(−30.791)である。β
1は強主経線屈折力の回帰係数であり、例えば正の値であり、例えば式3と同じ値(+1.707)である。β
2は弱主経線屈折力の回帰係数であり、例えば負の値であり、例えば式3と同じ値(−0.997)である。β
3は直乱視か否かの回帰係数であり、例えば負の値であり、例えば弱主経線屈折力の回帰係数β
2より負の方向に大きい値であり、例えば式3と同じ値(−3.481)である。また、強主経線屈折力のオッズ比は1より大きい値である。弱主経線屈折力のオッズ比は0.1より大きく、1より小さい値である。直乱視のオッズ比は0.1より小さい値である。
【0044】
予測モデル5のカットオフ値は、
図1のステップS4と同様に、Yoden index(感度+特異度−1)が最大となる時のlogit値であってもよいし、それ以外の値であってもよい。カットオフ値を小さくすると、感度が上がり、特異度が下がる。反対に、カットオフ値を大きくすると、感度が下がり、特異度が上がる。カットオフ値は、感度及び特異度に応じて適宜に定めることができる。
【0045】
なお、ケラトメータ1は、角膜形状解析(角膜トポグラフィー)の機能を備えていない。また、ケラトメータ1は、ケラト測定機能に加えて、レフラクトメータの機能、すなわち眼全体の屈折状態を測定する機能も備えてもよい。レフラクトメータでは、眼底に視標を投影し、この反射像に基づいて眼の屈折状態を測定する。
【0046】
次に、制御部2が実行する処理を説明する。制御部2はメモリ3に記憶されたプログラム4に基づいて
図3に示す処理を実行する。
図3の処理は例えばケラトメータ1に備えられた開始スイッチ(図示外)が操作された時に開始する。制御部2は、
図3の処理を開始すると、先ず、投影部6を制御して、被検眼の角膜表面20にリング光30(
図4参照)を投影する(ステップS11)。次に、このリング光30の反射像を撮像部9に撮像させて、その撮像データを撮像部9から取得する(ステップS12)。
【0047】
次に、取得した撮像データで示される反射像に基づいてケラト値を算出する(ステップS13)。具体的には、ケラト値として、角膜表面20の、リング光30の位置における強主経線21での曲率半径、弱主経線22での曲率半径、及び各主経線21、22の方向(角度)を求める。リング光30の反射像は角膜表面20の曲率に応じた形状となり、具体的には、光30は曲率半径が小さい(曲率が大きい)強主経線21の位置においては光軸Lに対する角度が大きい方向に反射する一方で、曲率半径が大きい(曲率が小さい)弱主経線22の位置においては光軸Lに対する角度が小さい方向に反射する。その結果、撮像部9で得られる反射像は楕円状となる。制御部2は、例えば特許文献2と同様に、撮像部9から得た反射像を楕円近似し、この楕円における長径、短径、長径の方向、短径の方向、及び中心の位置を求める。これら各値に基づいて、強主経線21での曲率半径、弱主経線22での曲率半径、及び各主経線21、22の方向を求める。
【0048】
また、制御部2は、ケラト値として強主経線21での曲率半径に基づいて強主経線21での屈折力(強主経線屈折力)を求める。同様に、弱主経線22での曲率半径に基づいて弱主経線22での屈折力(弱主経線屈折力)を求める。屈折力は、曲率半径と、角膜の屈折率(例えば1.376)と、空気の屈折率(例えば1.000)とから求めることができる。
【0049】
さらに、制御部2は、ケラト値として強主経線屈折力と弱主経線屈折力との平均屈折力、及び強主経線屈折力と弱主経線屈折力の差分である角膜乱視度も求める。
【0050】
次に、メモリ3に記憶された予測モデル5と、ステップS13で算出したケラト値に基づいて、円錐角膜の予測値を算出する(ステップS14)。具体的には、上記式5の独立変数x
1に、ステップS13で求めた強主経線屈折力を入力する。式5の独立変数x
2に、ステップS13で求めた弱主経線屈折力を入力する。また、制御部2は、式5の独立変数x
3に値を入力するために、ステップS13で求めた強主経線の角度が直乱視に分類される角度(60度以上120度未満)であるか、それ以外の角度であるかを判断する。そして、直乱視に分類される角度の場合には独立変数x
3に1を入力し、それ以外の角度である場合には0を入力する。そして、式5の従属変数であるlogit値を求めて、これを上記式4により確率pに変換し、この確率pを円錐角膜の予測値とする。
【0051】
次に、ステップS14で求めた予測値pと、予め定められたカットオフ値との比較に基づいて、円錐角膜の疑いの有無を判定する(ステップS15)。このとき、予測値pがカットオフ値より大きい場合には円錐角膜の疑い有りと判定し、予測値pがカットオフ値以下の場合には正常であると判定する。
【0052】
次に、ステップS13で求めた各ケラト値及びステップS15の判定結果を測定結果として表示部12に表示させる(ステップS16)。このとき、ステップS15において、円錐角膜の疑い有りと判定した場合には、円錐角膜の疑い有りであることを示す文字、記号等を表示部12に表示させる。
【0053】
このように、本実施形態では、式5で示されるロジスティック回帰式に基づいて円錐角膜を判定している。式5は、一般的なケラトメータで得られる強主経線屈折力、弱主経線屈折力及び強主経線の角度の3つのパラメータのみを独立変数としているので、角膜曲率を多数点で測定する角膜トポグラフィーに比べて簡易に円錐角膜判定が可能となる。また、ケラトメータは眼鏡店にも置いてあり、眼科に受診する前の段階で極早期に円錐角膜リスク評価が出来、眼科受診を促すことも可能である。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず種々の変更が可能である。例えば、円錐角膜の予測モデルとして式3を導出し、この式3は、円錐角膜患者124名、正常者198名のデータに基づいて導出したが、今後さらに症例を増やすことで、予測モデルを改善してもよい。また、式3は、若い年齢層のデータを中心にして導出したが、より幅広い年齢に対応できるように改良してもよい。この場合、例えば予測モデルの作成及び評価に使用する実測データとして高年齢者のデータを含めてもよいし、年齢層毎に予測モデルを作成してもよいし、予測モデルの独立変数に年齢を組み込んでもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、予測モデルの出力値である円錐角膜の確率pとカットオフ値との比較結果を表示部に出力したが、確率pそのものを出力してよい。この場合、検査実施者が確率pの値に基づいて円錐角膜の疑いの有無を判断して、この判断結果を被検者に通知するようにしてもよい。
【0056】
また、予測モデルの独立変数として強主経線屈折力、弱主経線屈折力及び直乱視か否かの3つのパラメータを示したが、ケラトメータで測定可能な他のパラメータを予測モデルの独立変数として組み込まれることもあり得る。具体的には、屈折力と曲率半径は同義と考えることができるので、強主経線屈折力に代えて、角膜表面の強主経線での曲率半径を予測モデルに組み込んでもよい。また、弱主経線屈折力に代えて、角膜表面の弱主経線での曲率半径を予測モデルに組み込んでもよい。また、直乱視か否かのダミー変数に代えて、倒乱視か否かのダミー変数又は斜乱視か否かのダミー変数を予測モデルに組み込んでもよい。また、強主経線の角度又は弱主経線の角度そのものが予測モデルに組み込まれることもあり得る。さらに、症例が増えれば、強主経線での屈折力又は曲率半径と、弱主経線での屈折力又は曲率半径と、強主経線又は弱主経線の角度のうちの2つのパラメータのみを独立変数とした予測モデルが採用されることもあり得る。また強主経線での屈折力又は曲率半径と、弱主経線での屈折力又は曲率半径と、強主経線又は弱主経線の角度のうちの少なくとも2つのパラメータに加えて、他のパラメータ(例えば角膜厚、レフ測定(レフラクトメータによる測定)で得られるパラメータ、眼圧、年齢、性別など)を独立変数とした予測モデルが採用されることもあり得る。
【0057】
また、ロジスティック回帰分析以外の回帰分析手法を用いて、ケラトメータで得られるパラメータを独立変数とし、円錐角膜の確率を従属変数とした予測モデルが作成されてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、ロジスティック回帰式をケラトメータに組み込んだ例を示したが、ロジスティック回帰式及びカットオフ値に基づいて各独立変数(強主経線屈折力、弱主経線屈折力、直乱視か否か)の各値と、円錐角膜の有無との対応関係を示したテーブルやマップを、ケラトメータに組み込む前に予め求めておき、得られたテーブルやマップをケラトメータに組み込み、ケラトメータの制御部はこのテーブルやマップに基づいて円錐角膜の有無を判定してもよい。
【0059】
なお、上記実施形態において、ケラトメータ1が本発明の円錐角膜判定装置に相当する。
図3のステップS11〜S13を実行する投影部6、撮像部9及び制御部2が本発明の取得部に相当する。ステップS14、S15を実行する制御部2が判定部に相当する。メモリ3が記憶部に相当する。予測モデル5が関係式に相当する。プログラム4が本発明のプログラムに相当する。
【解決手段】円錐角膜判定装置としてのケラトメータ1は、角膜の強主経線屈折力、弱主経線屈折力、主経線の角度などを測定する。ケラトメータ1の制御部2のメモリ3には円錐角膜の予測モデル5が記憶される。予測モデル5は、強主経線屈折力、弱主経線屈折力及び直乱視か否かの3つのパラメータを独立変数とし、円錐角膜の確率を従属変数としたロジスティック回帰モデルである。制御部2は、測定により得られたケラト値のうち、強主経線屈折力、弱主経線屈折力、直乱視か否かの3つのパラメータの値を予測モデル5に入力し、そのときの出力値である円錐角膜の確率を取得する。その確率がカットオフ値より大きければ円錐角膜の疑い有りと判定し、カットオフ値以下のときには正常と判定する。その判定結果を表示部12に出力させる。