(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707279
(24)【登録日】2020年5月22日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】積層鉄心の製造方法及び積層鉄心の製造装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20200601BHJP
【FI】
H02K15/02 D
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-238258(P2015-238258)
(22)【出願日】2015年12月7日
(65)【公開番号】特開2017-108473(P2017-108473A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000159618
【氏名又は名称】吉川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100188248
【弁理士】
【氏名又は名称】丹生 哲治
(72)【発明者】
【氏名】森 祐司
【審査官】
服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−076970(JP,A)
【文献】
特開2007−082319(JP,A)
【文献】
特開2001−045717(JP,A)
【文献】
特開昭62−079867(JP,A)
【文献】
特開2001−321850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型及び下型の間を間欠的に移送される帯状鋼板から順次、鉄心片を打ち抜いて積層する積層鉄心の製造方法において、
前記帯状鋼板の前記鉄心片が打ち抜かれる打ち抜き領域の上面に接着剤を含ませた吸収体の下端の突起を接触させて該接着剤を塗布する工程Aと、
前記上型に設けられたパンチで前記打ち抜き領域から前記鉄心片を打ち抜く工程Bと、
打ち抜いた前記鉄心片を積層する工程Cとを有し、
前記吸収体は、前記パンチの内に取り付けられ、該パンチと共に降下して、該パンチから下方に突出した状態の前記突起が、前記鉄心片が打ち抜かれる直前の前記打ち抜き領域の上面に接触し、
前記吸収体には、供給機から加圧によって送られる前記接着剤を貯留する、前記パンチ内に収容されたタンクが連結されていることを特徴とする積層鉄心の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の積層鉄心の製造方法において、積層鉄心の最上に積層される前記鉄心片が打ち抜かれる最上用の前記打ち抜き領域に対し、前記吸収体は、前記突起が前記パンチ内に収容され該最上用の打ち抜き領域に非接触な状態で降下することを特徴とする積層鉄心の製造方法。
【請求項3】
上型及び下型の間を間欠的に移送される帯状鋼板から順次、鉄心片を打ち抜いて積層する積層鉄心の製造装置において、
前記帯状鋼板の前記鉄心片が打ち抜かれる打ち抜き領域の上面に接触して塗布する接着剤を含んだ吸収体を、前記上型に備え、前記吸収体は、前記鉄心片を打ち抜くパンチ内に取り付けられ、該パンチの下方から下端の突起が突出した状態で該パンチと共に降下して前記打ち抜き領域の上面に接触し、前記吸収体には、供給機から加圧によって送られる前記接着剤を貯留する、前記パンチ内に収容されたタンクが連結されていることを特徴とする積層鉄心の製造装置。
【請求項4】
請求項3記載の積層鉄心の製造装置において、前記吸収体を前記パンチに対して上昇させ、該吸収体の前記突起が該パンチの下方から突出した状態から該パンチ内に収容された状態にする引き上げ手段を、更に備えることを特徴とする積層鉄心の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状鋼板から鉄心片を打ち抜いて積層する積層鉄心の製造方法及び積層鉄心の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の鉄心片が積層された積層鉄心は、間欠的に移送される帯状鋼板から打ち抜いた鉄心片を積層し固定することによって形成される。各鉄心片は、かしめによって、あるいは、接着剤によって固定され、接着剤により鉄心片を固定する具体例が、例えば、特許文献1に記載されている。
特許文献1に記載の方法は、複数の吐出孔に連通する接着剤溜まりが設けられた接着塗布手段を下型(下金型)に設け、下型まで距離を有する位置に配された加圧装置から接着剤溜まりに所定の圧力で接着剤を供給し、複数の吐出孔から接着剤を押し出して帯状鋼板の下面に塗布するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−48555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、引用文献1に記載の方法においては、帯状鋼板の下面に所定量の接着剤を安定的に塗布するのが困難であり、結果として、接着剤の塗布量が多すぎたり不足したりして歩留まりが生じるという課題があった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされるもので、帯状鋼板に対する接着剤の付着量にばらつきが生じるのを抑制する積層鉄心の製造方法及び積層鉄心の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う第1の発明に係る積層鉄心の製造方法は、上型及び下型の間を間欠的に移送される帯状鋼板から順次、鉄心片を打ち抜いて積層する積層鉄心の製造方法において、前記帯状鋼板の前記鉄心片が打ち抜かれる打ち抜き領域の上面に接着剤を含ませた吸収体
の下端の突起を接触させて該接着剤を塗布する工程Aと、前記上型に設けられたパンチで前記打ち抜き領域から前記鉄心片を打ち抜く工程Bと、打ち抜いた前記鉄心片を積層する工程Cとを有し、
前記吸収体は、前記パンチの内に取り付けられ、該パンチと共に降下して、該パンチから下方に突出した状態の前記突起が、前記鉄心片が打ち抜かれる直前の前記打ち抜き領域の上面に接触し、前記吸収体には、供給機から加圧によって送られる前記接着剤を貯留する
、前記パンチ内に収容されたタンクが連結されている。
【0006】
【0007】
【0008】
第1の発明に係る積層鉄心の製造方法において、積層鉄心の最上に積層される前記鉄心片が打ち抜かれる最上用の前記打ち抜き領域に対し、前記吸収体は、前記
突起が前記パンチ内に収容され該最上用の打ち抜き領域に非接触な状態で降下するのが好ましい。
【0009】
前記目的に沿う第2の発明に係る積層鉄心の製造装置は、上型及び下型の間を間欠的に移送される帯状鋼板から順次、鉄心片を打ち抜いて積層する積層鉄心の製造装置において、前記帯状鋼板の前記鉄心片が打ち抜かれる打ち抜き領域の上面に接触して塗布する接着剤を含んだ吸収体を、前記上型に備え、
前記吸収体は、前記鉄心片を打ち抜くパンチ内に取り付けられ、該パンチの下方から下端の突起が突出した状態で該パンチと共に降下して前記打ち抜き領域の上面に接触し、前記吸収体には、供給機から加圧によって送られる前記接着剤を貯留する
、前記パンチ内に収容されたタンクが連結されている。
【0010】
【0011】
第2の発明に係る積層鉄心の製造装置において、前記吸収体を前記パンチに対して上昇させ、該吸収体の
前記突起が該パンチの下方から突出した状態から該パンチ内に収容された状態にする引き上げ手段を、更に備えるのが好ましい。
【0012】
【発明の効果】
【0013】
第1の発明に係る積層鉄心の製造方法及び第2の発明に係る積層鉄心の製造装置によれば、帯状鋼板の打ち抜き領域の上面あるいは下面に接着剤を含ませた吸収体を接触させて接着剤を塗布することができるので、帯状鋼板に対する接着剤の付着量にばらつきが生じるのを抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る積層鉄心の製造装置の説明図である。
【
図2】同積層鉄心の製造装置によって鉄心片が打ち抜かれる帯状鋼板の平面図である。
【
図3】帯状鋼板に接着剤を塗布する機構を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1、
図3に示すように、本発明の一実施の形態に係る積層鉄心の製造装置10は、上型11及び下型12の間を間欠的に移送される帯状鋼板Wから順次、鉄心片Tを打ち抜いて積層する装置である。以下、詳細に説明する。
【0016】
積層鉄心の製造装置10は、
図1に示すように、帯状鋼板Wを間欠的に移送するロールフィーダ13と、帯状鋼板Wの移送方向に沿ってロールフィーダ13の上流側に配された金型14を有している。
金型14は、パンチホルダ15及びパンチホルダ15に固定された複数のパンチ16〜19を有する上型11と、パンチ16〜19が挿通されたストリッパプレート20と、パンチ16〜19にそれぞれ対応する図示しないダイが設けられた下型12を具備している。
帯状鋼板Wは、ロールフィーダ13の作動により、上型11と下型12の間で所定距離の進行と一次停止を繰り返して、間欠的に移動する。
【0017】
上型11は、ストリッパプレート20と共に降下し、ストリッパプレート20が一次停止している帯状鋼板Wを下型12に押さえ付けた状態から、更に降下して、パンチ16〜19で帯状鋼板Wに打ち抜き加工を行う。
帯状鋼板Wは、
図1、
図2に示すように、複数のパンチ16による打ち抜き加工によってパイロット孔H1が形成され、複数のパンチ17による打ち抜き加工によってスロット孔H2が形成され、パンチ18による打ち抜き加工によってシャフト孔H3が形成され、パンチ19による外形打ち抜きによって、
図3に示す鉄心片Tが帯状鋼板Wから打ち抜かれる。なお、
図3においては、ストリッパプレート20の記載を省略している。
【0018】
図2に示すように、帯状鋼板Wにおいて、鉄心片Tが打ち抜かれる領域を、以下、「打ち抜き領域S」とも言う。
鉄心片Tを打ち抜くパンチ19は、
図3に示すように、管状に形成され、内側に、接着剤を含んだスポンジからなる吸収体21が取り付けられている。吸収体21は、円柱状部22と、円柱状部22の下側に連結され下端に複数の突起23が形成されたベース部24を備えている。各突起23は、平面視して、帯状鋼板Wの打ち抜き領域S内、かつ、スロット孔H2やシャフト孔H3が非形成の領域に位置するように配されている。
【0019】
円柱状部22の上側には、接着剤の供給機25に管26を介して接続され、パンチ19内に収容されたタンク27が連結されている。タンク27は、供給機25から加圧によって送られる接着剤を貯留し、円柱状部22に含有されている接着剤の減少に合わせ、貯留している接着剤を円柱状部22に供給する。円柱状部22に含まれている接着剤は、ベース部24に含有されている接着剤の減少に伴って、ベース部24に移動し、各突起23に常に所定量の接着剤が含まれるようにする。
【0020】
パンチ19内のタンク27の上側には、対となるカム28及び従節部材29が設けられている。従節部材29はタンク27の上部に固定され、吸収体21、タンク27及び従節部材29は、パンチ19内に設けられた弾性部材30、31によって上方、即ち、カム28に向かって付勢されている。
カム28は、パンチホルダ15によって上下方向の動作が制限され、パンチ19に対して上下方向に変位しない状態にあり、駆動源32から駆動力を与えられて水平移動する動力伝達部材33と共に水平移動する。
【0021】
カム28は、駆動源32の作動によって、カム28と従節部材29が噛み合あわず、従節部材29の重心がカム28の重心から最も遠ざかった非噛合位置と、カム28と従節部材29が噛み合って、従節部材29の重心がカム28の重心に最も接近した噛合位置の間を水平移動する。
カム28が非噛合位置にあるとき、吸収体21、タンク27及び従節部材29は、パンチホルダ15を基準にして最も下位置に配され、各突起23がパンチ19の下方から突出した状態となる。
【0022】
そして、カム28が噛合位置にあるとき、吸収体21、タンク27及び従節部材29は、パンチホルダ15を基準にして最も上位置に配され、各突起23が、パンチ19内に収容され、パンチ19の下方から突出していない状態となる。
本実施の形態では、主として、カム28、従節部材29、弾性部材30、31、駆動源32及び動力伝達部材33によって、引き上げ手段が構成されている。
【0023】
上型11を降下させてパンチ19で帯状鋼板Wの打ち抜き領域Sから鉄心片Tを打ち抜く際、カム28は非噛合位置にあり、吸収体21は、各突起23がパンチ19の下方から突出した状態でパンチ19と共に降下する。パンチ19と共に降下した吸収体21は、パンチ19が帯状鋼板Wから鉄心片Tを打ち抜く前に、各突起23が打ち抜き領域Sの上面の所定位置に接触して接着剤を塗布する。したがって、各突起23、即ち、吸収体21は、打ち抜き領域Sの上面に接触して塗布する接着剤を含んでいることとなる。
【0024】
そして、打ち抜き領域Sの上面の複数箇所に接着剤が塗布された直後に、パンチ19が打ち抜き領域Sに接触し、帯状鋼板Wから鉄心片Tを打ち抜く。
下型12には、
図3に示すように、パンチ19の直下に、鉄心片Tが積層される積層部34が設けられている。帯状鋼板Wから打ち抜かれて落下する鉄心片Tは、一つ前に帯状鋼板Wから打ち抜かれて積層部34で積層された状態にある鉄心片T(積層部34で積層されている鉄心片Tの中で最も上位置にある鉄心片T)に載り、下面に、その一つ前に打ち抜かれた鉄心片Tの上面に付着している接着剤が付着する。
【0025】
積層部34で積層された鉄心片Tの数が所定枚数に達したタイミングで、所定枚数の鉄心片Tが積層された鉄心片Tの群は、積層部34から取り出され、加熱されて接着剤が固化し、積層された所定枚数の鉄心片Tが固定された積層鉄心となる。
ここで、積層鉄心の最上に積層される(配される)鉄心片Tには接着剤を塗布しないようにする必要がある。
【0026】
そのため、積層鉄心の最上に積層される鉄心片Tが打ち抜かれる(に対応する)打ち抜き領域S(以下、「最上用の打ち抜き領域S」とも言う)に対しては、カム28が噛合位置に配され、吸収体21は、突起23(即ち、吸収体21の下部)がパンチ19内に収容されて、最上用の打ち抜き領域Sに非接触な状態で、パンチ19と共に降下する。したがって、パンチ19は、突起23に含有されている接着剤を最上用の打ち抜き領域Sに付着させることなく、帯状鋼板Wから鉄心片Tを打ち抜くことができる。
【0027】
次に、積層鉄心の製造装置10を適用した本発明の一実施の形態に係る積層鉄心の製造方法について説明する。
その積層鉄心の製造方法は、上型11及び下型12の間を間欠的に移送される帯状鋼板Wから順次、鉄心片Tを打ち抜いて積層するものであり、帯状鋼板Wの打ち抜き領域Sの上面に吸収体21の複数の突起23を接触させて接着剤を塗布する工程(工程A)と、パンチ19で打ち抜き領域Sから鉄心片Tを打ち抜く工程(工程B)と、打ち抜いた鉄心片Tを積層する工程(工程C)とを有する。
【0028】
そして、本実施の形態において、吸収体21は、パンチ19内に取り付けられ、パンチ19と共に降下して、パンチ19から下方に突出した状態の複数の突起23(下部)が、鉄心片Tが打ち抜かれる直前の打ち抜き領域Sの上方から降下して打ち抜き領域Sの上面に接触する。更に、本実施の形態では、最上用の打ち抜き領域Sに対し、吸収体21は、突起23がパンチ19内に収容され最上用の打ち抜き領域Sに非接触な状態で降下するため、積層鉄心の最上に積層される鉄心片Tの上面には接着剤が塗布されない。
【0029】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、吸収体を上型でなく、下型に設けて打ち抜き領域の下面に接着剤を塗布するようにしてもよい。吸収体を下型に設ける場合、帯状鋼板から鉄心片を打ち抜く位置より上流側で打ち抜き領域の下面に接着剤を塗布するのが設計を簡素にする上で好ましい。
また、吸収体を上型に設けて、打ち抜き領域の上面に接着剤を塗布する場合も、帯状鋼板から鉄心片を打ち抜く位置より上流側で打ち抜き領域に接着剤を塗布するようにしてもよい。
【0030】
そして、吸収体として、スポンジの代わりに不織布や多孔質のゴムやその他の素材を採用することも可能であり、更に、吸収体は、打ち抜き領域に接着剤を塗布できるものであればよく、必ずしも突起を有する必要はない。
また、吸収体をパンチに対して上昇させる引き上げ手段は、必ずしも必要ではなく、例えば、所定のタイミングで吸収体の下部を覆う機構によって最上用の打ち抜き領域に接着剤を塗布しないようにしてもよい。更に、引き上げ手段を採用する場合も、引き上げ手段はカムを利用したものに限定されない。
【符号の説明】
【0031】
10:積層鉄心の製造装置、11:上型、12:下型、13:ロールフィーダ、14:金型、15:パンチホルダ、16〜19:パンチ、20:ストリッパプレート、21:吸収体、22:円柱状部、23:突起、24:ベース部、25:供給機、26:管、27:タンク、28:カム、29:従節部材、30、31:弾性部材、32:駆動源、33:動力伝達部材、34:積層部、W:帯状鋼板、T:鉄心片、H1:パイロット孔、H2:スロット孔、H3:シャフト孔、S:打ち抜き領域