特許第6707303号(P6707303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707303
(24)【登録日】2020年5月22日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】ワイヤカット放電加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/02 20060101AFI20200601BHJP
   B23H 7/10 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   B23H7/02 F
   B23H7/10 B
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-240380(P2017-240380)
(22)【出願日】2017年12月15日
(65)【公開番号】特開2019-107706(P2019-107706A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2019年8月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】坂口 昌志
【審査官】 岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−335027(JP,A)
【文献】 特開2017−143107(JP,A)
【文献】 特開昭62−264818(JP,A)
【文献】 特開2016−221654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00 − 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工液の温度を調整する温度調整装置を有するサブタンクと、常に前記サブタンクから温度が調整された所定量の加工液が供給されるとともに前記サブタンクに所定量の加工液を排出することによって所定温度の加工液で満たされている加工タンクと、ワイヤをガイドするガイド部と、コラムから水平方向に延びて前記加工タンクに挿入され前記加工タンクの中の加工液に浸かり先端側で前記ガイド部を支持するアームとを備えるワイヤカット放電加工装置において、
前記ガイド部が、加工液を噴出する加工液噴出ノズルを有し、
前記アームが、前記アームを貫通する孔であって前記サブタンクから前記加工液噴出ノズルに前記加工液を供給する流路の噴流接続パイプと、前記アームよりも小さい熱伝導率であって前記噴流接続パイプの内周面を覆うことで当該噴流接続パイプの内孔を断熱する断熱部とを有することを特徴とするワイヤカット放電加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ電極を用いて放電加工を行うワイヤカット放電加工装置に関し、特に、ワイヤ電極を案内するガイド部を支持する支持部を備えたワイヤカット放電加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤ電極を用いて被加工物を放電加工するワイヤカット放電加工装置が用いられている。一般に、被加工物を加工するワイヤ電極は上下に対向して配置された上ガイド部と下ガイド部によって位置決め案内されており、走行するワイヤ電極は、上下ワイヤガイド間に所定の張力をもって張架されている。
【0003】
上下ガイド部を支持する部分は、温度などの外部環境の変化による変形が生じにくく剛性の高い素材で製造することが好ましく、特許文献1には、上ガイド部を支持する上アームまたは下ガイド部を支持する下アームに、熱による変形が少なく、剛性の高い素材であるセラミックスを適用したワイヤカット放電加工装置を開示している。さらに下アームは、外周を断熱することが好ましく、特許文献2には、下アームの外周面を断熱被膜で被覆したワイヤカット放電加工装置を開示し、特許文献3には、下アームの外周部に断熱層を形成する空間部を設けたワイヤカット放電加工機を開示している。
【0004】
例えば、下アームは、加工タンクの中の加工液に浸かっている。加工タンクは、サブタンクから送液ポンプによって加工液が供給される。サブタンクは、冷却装置などの加工液の温度を調整する温度調整装置を有し、加工液を所定温度に管理している。加工タンクの中の加工液は、一方で送液ポンプによって所定量の加工液が常にサブタンクから供給されて、他方で加工タンクのドレン配管から所定量の加工液が常にサブタンクに排出されることで所定温度に維持されている。下アームの周囲温度は、加工タンクの中の加工液の温度である。下ガイド部は、下加工液噴出ノズルを有する。下加工液噴出ノズルは、サブタンクから噴流ポンプによって供給される加工液を加工タンクの中の所定部位に噴出する。下加工液噴出ノズルは、必要なときに加工液を噴出し、不要なときに加工液を噴出しない。下加工液噴出ノズルから噴出する加工液は、必要に応じて噴流ポンプによって流量が変更できる。例えば、荒加工時の流量は、仕上げ加工時の流量よりも大きい。噴流ポンプは、下アームの中央を貫通する下噴流接続パイプを通して下加工液噴出ノズルに加工液を供給する。噴流ポンプの流量は、送液ポンプの流量よりも大きくすることが可能である。
【0005】
下噴流接続パイプは、下加工液噴出ノズルと噴流ポンプを接続する流路のうちの少なくとも一部である。下噴流接続パイプの中を流れる加工液は、噴流ポンプの発熱または噴流ポンプから大きな圧力で吐き出されることで、下アームの周囲の加工液よりも温度が高くなる場合がある。下噴流接続パイプの中を流れる加工液は、送液ポンプの流量よりも噴流ポンプの流量が大きくなると、下アームの周囲の加工液よりも温度が高くなる場合がある。下噴流接続パイプの中を流れる加工液の流量は、下加工液噴出ノズルから噴出する加工液の流量に合わせて必要に応じて変化する。例えば、下噴流接続パイプの中を流れる加工液の流量は、荒加工時の方が仕上げ加工時よりも大きい。下噴流接続パイプの中を流れる加工液の温度は、荒加工時の方が仕上げ加工時よりも高くなる。下噴流接続パイプの中の加工液は、下加工液噴出ノズルから加工液を噴出させるときには流れて、噴出させないときには流れない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−264818号公報
【特許文献2】特開平01−183323号公報
【特許文献3】特開平11−254239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
下噴流接続パイプを有する下アームは、周囲の加工液よりも内部の加工液から受ける熱によって伸縮することがある。例えば、下アームは、周囲の温度よりも下噴流接続パイプの中を流れる加工液の温度が高くなると、下ガイド部を有する前側に向かって伸びる。例えば、下アームは、下加工液噴出ノズルからの加工液の噴出を開始したときから伸び始め、下噴流接続パイプの中を流れる加工液の温度が定常化したあとも伸び続け、伸びが止まるまでに数分程度かかる場合もある。下アームの温度変化による伸縮は、ワイヤ電極による加工位置のズレを生じさせるおそれがあるため、ワイヤカット放電加工における高い加工精度を維持することを妨げるおそれがある。また、下アームの温度変化による伸縮は、伸縮する量が大きければ、下アームの伸縮が止まり、伸縮後の長さが定常化するまでに長い時間を必要とする。一般的に、下加工液噴出ノズルから加工液の噴出を開始してすぐに放電加工を開始することが望まれる。なお、例えば、上噴流接続パイプを有する上アームでも同様である。その他にも、例えば、被加工物を加工するワイヤ電極が左右方向に対向して配置される2つの横ガイドで位置決め案内する際に、横ガイドを支持する横アームでも同様である。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みて、ガイド部を支持するアームの中を流れる加工液の熱によって、アームが伸縮する量を小さくして、高い加工精度を維持することが可能なワイヤカット放電加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のワイヤカット放電加工装置は、ワイヤ電極(EL)をガイドするガイド部と、前記ガイド部を支持するアームとを備えるワイヤカット放電加工装置(1)において、少なくとも1つの前記ガイド部が、加工液を噴出する加工液噴出ノズルを有し、少なくとも1つの前記アームが、当該アームを貫通する孔であって前記加工液噴出ノズルに前記加工液を供給する流路のうちの少なくとも一部である噴流接続パイプと、前記アームよりも小さい熱伝導率であって前記噴流接続パイプの内周面を覆うことで当該噴流接続パイプの内孔を断熱する断熱部(95a)とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のワイヤカット放電加工装置は、前記少なくとも1つのガイド部が、前記ワイヤを被加工物の下方でガイドする下ガイド部(81)であり、前記少なくとも1つのアームが、前記下ガイド部を支持する下アーム(71)であり、前記加工液噴出ノズルが、前記下ガイド部に有する前記加工液を噴出する下加工液噴出ノズル(81a)であり、前記噴流接続パイプが、前記下アームを貫通する孔であって前記下加工液噴出ノズルに前記加工液を供給する流路のうちの少なくとも一部である下噴流接続パイプ(95)であり、前記断熱部(95a)が、前記下アームよりも小さい熱伝導率であって前記下噴流接続パイプの内周面を覆うことで当該下噴流接続パイプの内孔を断熱するとよい。
【0011】
また、本発明のワイヤカット放電加工装置は、前記少なくとも1つのアームが、セラミックスで形成されているとよい。
【0012】
また、本発明のワイヤカット放電加工装置は、前記断熱部が、熱拡張性を有するチューブを加熱して被覆することで形成されて、前記チューブの中を前記加工液が流れるとよい。
【0013】
また、本発明のワイヤカット放電加工装置は、前記チューブが、熱拡張性を有するフッ素樹脂で形成されているとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のワイヤカット放電加工装置は、高い加工精度を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るワイヤカット放電加工装置の概略を示す全体図。
図2図1のワイヤカット放電加工装置の要部拡大断面図。
図3図2のA−A矢視断面図。
図4】断熱部と下アームの境界部分の温度分布を示す要部拡大概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るワイヤカット放電加工装置1を示す。図1において、ワイヤカット放電加工装置1の一部を断面図、例えば、加工タンク40の一部、下アーム71を含む下側支持部70の一部および上アーム63を含む上側支持部60の一部などを断面図で示す。図2は、本発明の実施形態に係る下アーム71の要部を拡大して示す図であり、図3は、図2のAA矢視断面図である。図4は、断熱部と下アームの境界部分の温度分布を示す要部拡大概略図である。図4で示す温度は、T1>T>T0である。ここで、X軸方向は、水平方向であって、Y軸方向に垂直な方向である。Y軸方向は、水平方向であって、X軸方向に垂直な方向である。Z軸方向は、X軸方向に垂直かつY軸方向に垂直な方向である。U軸は、X軸方向に平行な方向である。V軸は、Y軸方向に平行な方向である。X軸方向とU軸方向は、左右方向である。Y軸方向とV軸方向は、前後方向ある。Z軸方向は、上下方向である。
【0017】
ワイヤカット放電加工装置1は、ベッド10と、コラム50と、サドル20と、テーブル30と、加工タンク40と、ワークスタンドWSと、図示しない放電加工用の電源装置と、図示しない制御装置とを備えている。ベッド10は、設置面に載置されている。コラム50は、ベッド10の後部に垂直に立設されている。サドル20は、ベッド10上にY軸方向に移動可能に設けられている。テーブル30は、サドル20上にX軸方向に移動可能に設けられている。加工タンク40は、テーブル30上に設けられている。ワークスタンドWSは、テーブル30上の加工タンク40の中に設けられている。被加工物WPは、ワークスタンドWS上に載置される。
【0018】
コラム50は、上側支持部60と、下側支持部70と、円筒形状のスライドパイプ91とを備えている。上側支持部60は、コラム50から水平方向に延びてワイヤ電極ELを上側で案内する上ガイド部82を支持している。下側支持部70は、コラム50から水平方向に延びてワイヤ電極ELを下側で案内する下ガイド部81を支持している。スライドパイプ91は、コラム50から水平方向に延びて加工タンク40の槽壁に設けられた貫通孔を水平に貫いて加工タンク40に挿入されている。上側支持部60と下側支持部70は、支持部に含まれる。
【0019】
放電加工用の電源装置は、被加工物WPとワイヤ電極ELの間に加工電圧を供給する。ワイヤ電極ELは、下通電体81dおよび図示しない上通電体に接触することで放電加工用の電源装置に接続される。制御装置は、X軸方向にテーブル30を変位させ、Y軸方向にサドル20を変位させることにより、テーブル30と一緒に移動する被加工物WPを、上ガイド部82と下ガイド部81に支持されたワイヤ電極ELに対して所望の経路に沿って相対的に移動させる。上ガイド部82と下ガイド部81は、ガイド部に含まれる。
【0020】
加工タンク40は、加工液で満たされている。加工タンク40は、図示しない送液ポンプによってサブタンク101の加工液が供給される。サブタンク101は、冷却装置などの加工液の温度を調整する図示しない温度調整装置を有し、加工液を所定温度に管理しているとよい。加工タンク40の中の加工液は、一方で送液ポンプによって所定量の加工液が常にサブタンク101から供給されて、他方で加工タンク40の図示しないドレン配管から所定量の加工液が常にサブタンク101に排出されることで所定温度に維持されているとよい。放電加工装置1では、加工タンク40の中の加工液の温度がベッド10、サドル20、テーブル30、コラム50を含む装置本体の温度と一致するように、加工液の温度が装置本体の温度に合わせて管理されているとよい。
【0021】
上側支持部60は、コラム側から順に、ヘッド61と、UVテーブル62と、上アーム63と、上側連結部材64とを備えている。ヘッド61は、Z軸方向に移動可能に設けられている。UVテーブル62は、U軸移動ユニット62Uと、V軸移動ユニット62Vとを備えている。U軸移動ユニット62Uは、U軸方向に移動可能に設けられている。V軸移動ユニット62Vは、V軸方向に移動可能に設けられている。UVテーブル62は、ヘッド61に取り付けられ、ワイヤ電極ELを斜めに支持してテーパ加工を行う際に、下ガイド部81に対して上ガイド部82を水平方向に相対変位させる。上アーム63A、63Bおよび63Cは、垂直下方向に延びるようにUVテーブル62に取り付けられている。上側連結部材64は、上アーム63Cに取り付けられて、上ガイド部82を支持している。上アーム63は、アームに含まれる。
【0022】
下側支持部70は、コラム側から順に、スライドパイプ91と、下アーム71と、下噴流接続パイプ95と、ワイヤ案内パイプ93と、L字型の下側連結部材72とを備えている。下アーム71およびワイヤ案内パイプ93は、スライドパイプ91の中を貫いて設けられている。スライドパイプ91は、スライドプレート92を備えている。スライドプレート92は、スライドパイプ91の外縁から貫通孔の開口部分を覆っている。スライドプレート92は、スライドパイプ91と一緒に加工タンク40に対してX軸方向に相対移動して、加工タンク40の貫通孔から加工液が漏れだすことを防止している。加工タンク40の貫通孔は、下アーム71の加工タンク40に対する相対移動範囲に応じた大きさに設けられている。スライドパイプ91、下アーム71およびワイヤ案内パイプ93は、それぞれの間に隙間を有する。加工タンク40の中が加工液で満たされると、スライドパイプ91の中が加工液で満たされて、下アーム71の外周およびワイヤ案内パイプ93の外周が加工タンク40の中の加工液に浸かる。下アーム71は、アームに含まれる。
【0023】
下アーム71は、コラム50の下方の側壁に固定されてコラム50から延び、例えばセラミックスや金属などで形成されている。下噴流接続パイプ95は、下アーム71の中央を貫通する孔である。ワイヤ案内パイプ93は、ワイヤ電極ELをコラム50に向けて案内している。
【0024】
下側連結部材72は、下アーム71に取り付けられて下ガイド部81を上ガイド部82に対向する位置に支持している。下側連結部材72は、下噴流接続パイプ95に接続される連通路72aが形成されている。下側連結部材72は、下ガイド部81を下アーム71に連結するとともに下ガイド部81に案内されたワイヤ電極ELをワイヤ案内パイプ93に導くためのプーリ94を支持している。放電加工後のワイヤ電極ELは、下ガイド部81からプーリ94を経由してワイヤ案内パイプ93内を通過してコラム50側でワイヤ回収ボックス102に回収される。
【0025】
下ガイド部81は、下加工液噴出ノズル81aと、下ガイド81bと、下チャンバ81cと、下通電体81dとを有する。下ガイド81bは、ワイヤ電極ELを案内する。下通電体81dは、ワイヤ電極ELと接触して当該ワイヤ電極ELに放電加工用の電源装置を接続する。下チャンバ81cは、下側連結部材72の連通路72aと下加工液噴出ノズル81aを接続する。下加工液噴出ノズル81aは、電極ELの下ガイド81bの近傍に設けられて、下チャンバ81に供給された加工液をワイヤ電極ELと同軸方向(下から上に向かって)に噴出する。噴流ポンプ100は、サブタンク101の中の加工液を送り出す。噴流ポンプ100によって送り出される加工液は、下噴流接続パイプ95、下側連結部材72の連通路72a、下チャンバ81cの順に通過して、下加工液噴出ノズル81aから噴出する。下加工液噴出ノズル81aは、加工液噴出ノズルに含まれる。
【0026】
ここからは、本発明の特有の構成を説明する。下アーム71の下噴流接続パイプ95は、下アーム71を貫通する孔であり、噴流ポンプ100が送り出す加工液を下加工液噴出ノズル81aに供給するための流路の少なくとも一部である。下噴流接続パイプ95の内周面は、下アーム71よりも小さい熱伝導率の断熱部95aで覆われている。加工液は、下噴流接続パイプ95の内孔の中の断熱部95aで囲まれている空間を流れる。断熱部95aは、下噴流接続パイプ95の中を流れる加工液の熱が下アーム71に伝導することを抑えている。下噴流接続パイプ95は、噴流接続パイプに含まれる。
【0027】
下アーム71は、断熱部95aによって、主に周囲の熱が伝導する。下アーム71の周囲温度T0は、加工タンク40の中の加工液の温度T0である。加工タンク40の中の加工液は、下噴流接続パイプ95の中を流れる加工液に比べて、所定の温度に維持されているため温度の変化が小さい。また、加工タンクの中の加工液の温度T0は、下噴流接続パイプ95の中を流れる加工液の温度T1よりも低い。このとき、下アーム71は、周囲の加工液から熱が伝導する方が、下噴流接続パイプ95の中を流れる加工液から熱が伝導するよりも伸縮量が小さい。
【0028】
断熱部95aの熱伝導率kfは、0.3[単位:W/mK]以下であるとよい。好ましくは、断熱部95aの熱伝導率kfは、0.2[単位:W/mK]であるとよい。下アーム71の熱伝導率ksは、20[単位:W/mK]以下であるとよい。好ましくは、下アーム71は、セラミックスであるとよい。
【0029】
断熱部95aは、熱拡張性を有するチューブで形成されるとよい。好ましくは、断熱部95aは、熱拡張性を有するフッ素樹脂のチューブで形成されるとよい。フッ素樹脂のチューブは、下噴流接続パイプ95の内孔に挿入され、そのあと加熱されることで押し広げられて、下噴流接続パイプ95の内周面に密着することで、断熱部95aとして形成される。断熱部95aは、熱拡張性を有するチューブを1つで形成してもよい。断熱部95aは、熱拡張性を有するチューブを少なくとも2つ積層して所望の厚みに形成してもよい。熱拡張性を有するチューブで断熱部95aを形成することで製作が容易で且つ製作コストを安価に抑えることが可能である。なお、断熱部95aは、熱拡張性を有するチューブを密着させる方法に限定されずに、下噴流接続パイプ95の内周面を覆うことができれば各種方法で形成してもよい。
【0030】
以下、1つの実施例を示しながら本発明の実施形態についてさらに詳細に説明する。下アーム71の長手方向の長さLは、600[単位:mm]である。下アーム71の長手方向に垂直な断面形状は、一辺の長さWが65[単位:mm]の正方形である。下噴流接続パイプ95の内径Rおよび断熱部95aの外径Rは、15[単位:mm]とする。下アーム71の一番薄い部分の厚みtsは、25[単位:mm]である。断熱部95aは、所定の厚みtf[単位:mm]を有する。
【0031】
下アーム71は、セラミックスである。下アーム71の熱伝導率ksは、10[単位:W/mK]である。下アーム71の線膨張係数αは、5/1000000[単位:1/K]である。下アーム71の線膨張係数αの基準温度Tαは、23[単位:℃]である。
【0032】
断熱部95aの熱伝導率kfは、0.2[単位:W/mK]である。断熱部95aは、下噴流接続パイプ95の内周面にフッ素樹脂のチューブを加熱して密着させることで形成されている。
【0033】
下噴流接続パイプ95の中を流れる加工液の温度T1は、25[単位:℃]である。断熱部95aと下アーム71の境界の温度Tは、[単位:℃]である。下アーム71の周囲の加工液の温度T0は、23[単位:℃]である。
【0034】
伝熱量Q[単位:W]は、つぎの式(1)で示される。温度TA[単位:K]は、高温側の温度がである。温度TB[単位:K]は、低温側の温度である。
Q=G・(TA−TB) …(1)
【0035】
熱コンダクタンスG[単位:W/K]は、つぎの式(2)で示される。断面積Aは、1[単位:平方メートル]とする。
G=k・A/t …(2)
【0036】
断熱部95aの熱コンダクタンスGf[単位:W/K]は、つぎの式(3)で示される。
Gf=kf・1/(tf/1000)=0.2/(tf/1000) …(3)
【0037】
下アーム71の熱コンダクタンスGs[単位:W/K]は、つぎの式(4)で示される。
Gs=ks・1/(ts/1000)=10/(25/1000) …(4)
【0038】
下噴流接続パイプ95の中を流れる温度T1の加工液が、厚みtfの断熱部95aを通して、断熱部95aと下アーム71の境界を温度Tに加熱する際の伝熱量Qf[単位:W]は、つぎの式(5)で示される。
Qf=Gf・(T1−T)=0.2・((25+273.15)−(T+273.15))/(tf/1000) …(5)
【0039】
下アーム71の周囲に存在する温度T0の加工液が、厚みtsの下アーム71を通して、下アーム71と断熱部95aの境界を温度Tに加熱する際の伝熱量Qs[単位:W]は、つぎの式(6)で示される。
Qs=Gs・(T−T0)=10・((T+273.15)−(23+273.15))/(25/1000) …(6)
【0040】
断熱部95a側の伝熱量Qfと下アーム71側の伝熱量Qsが等しい状態(Qf=Qs)において、断熱部95aと下アーム71の境界の温度T[単位:℃]は、つぎの式(7)で示される。
T=(12.5+23tf)/(tf+0.5) …(7)
【0041】
断熱部95aの厚みtfが0.5[単位:mm]であれば、断熱部95aと下アーム71の境界の温度Tは、24[単位:℃]である。断熱部95aの厚みtfが1[単位:mm]であれば、断熱部95aと下アーム71の境界の温度Tは、23.7[単位:℃]である。断熱部95aの厚みtfが2[単位:mm]であれば、断熱部95aと下アーム71の境界の温度Tは、23.4[単位:℃]である。下噴流接続パイプ95の内周面を覆う断熱部95aの厚みtfが増大する毎に下噴流接続パイプ95の中を流れる加工液の熱をより断熱できる。
【0042】
断熱部95aの厚みtfがゼロ[単位:mm]であれば、断熱部95aと下アーム71の境界の温度Tは、25[単位:℃]である。断熱部95aが無い場合は、下噴流接続パイプ95の中を流れる温度T1の加工液が下アーム71に直接熱を伝える。
【0043】
厚みtf[単位:mm]の断熱部95aを有する場合のセラミックス製の下アーム71の伸びLa[単位:μm]は、つぎの式(8)で示される。
La=α・(L/1000)・((T+273.15)−(Tα+273.15)) …(8)
【0044】
断熱部95aの厚みtfが2[単位:mm]であれば、断熱部95aと下アーム71の境界の温度Tが23.4[単位:℃]になるので、下アーム71の伸びLaは、1.2[単位:μm]である。断熱部95aの厚みtfが1[単位:mm]であれば、断熱部95aと下アーム71の境界の温度Tが23.7[単位:℃]なので、下アーム71の伸びLaは、2.1[単位:μm]である。断熱部95aの厚みtfが0.5[単位:mm]であれば、断熱部95aと下アーム71の境界の温度Tが24[単位:℃]なので、下アーム71の伸びLaは、3[単位:μm]である。
【0045】
断熱部95aが無い場合、すなわち、断熱部95aの厚みtfがゼロ[単位:mm]であれば、下噴流接続パイプ95の中を流れる加工液の温度T1が断熱部95aと下アーム71の境界の温度Tに相当する。温度T1が25[単位:℃]なので、下アーム71の伸びLaは、6[単位:μm]である。
【0046】
下噴流接続パイプ95の内周面を覆う断熱部95aの厚みtfを増大する毎に下アーム71の伸びLaを抑えることができる。
【0047】
本発明のワイヤカット放電加工装置は、下アーム71の中の下噴流接続パイプ95の内周面に断熱部95aを有する。下アーム71の断熱部95aは、下噴流接続パイプ95の中を流れる温度T1の加工液の熱を断熱して下アーム71の伸縮を抑える。下アーム71の長さは、下アーム71の周囲の温度T0によって基本的に伸縮する。下アーム71の周囲の温度T0は、雰囲気の温度または温度管理されている加工タンク40の中の加工液の温度である。下アーム71の周囲の温度T0は、放電加工中であれば、噴流接続パイプ95の中を流れる加工液の温度T1よりも低い温度の加工タンク40の中の加工液の温度である。そうした下アーム71は、熱による伸縮量の変動が小さい。下アーム71は、下加工液噴出ノズル81aからの加工液の噴出の有無、下加工液噴出ノズル81aから噴出する加工液の流量の違い、下加工液噴出ノズル81aから加工液を噴出するタイミングの違い、または、下噴流接続パイプ95の中の加工液の有無、等に関係なく常に下アーム71の長さ寸法が安定する。したがって、本発明のワイヤカット放電加工装置は、下アーム71に支持される下ガイド部81の位置が変化することなく、高い加工精度を維持することができる。例えば、本発明のワイヤカット放電加工装置は、下加工液噴出ノズルから加工液の噴出を開始した直後に放電加工を開始しても、放電加工の開始から終了まで高い加工精度を維持することが可能である。
【0048】
上ガイド部82の上加工液噴出ノズル82aに加工液を供給するために、上アーム63の中央を貫通する図示しない上噴流接続パイプを有する場合においても、下噴流接続パイプ95と同様に上噴流接続パイプの内周面が断熱部で覆われていてもよい。上アーム63の周囲の温度は、雰囲気の温度である。なお、例えば、図1に示すように、Z軸方向を長手方向とする上アーム63は、上噴流接続パイプの中を流れる加工液の熱によって、Z軸方向に伸縮する。Z軸方向に伸縮する上アーム63は、上ガイド部82の高さを変化させる。Z軸方向に伸縮する上アーム63は、上ガイド部82のX軸方向およびY軸方向の位置の変化に対する影響が小さく、X軸方向およびY軸方向の加工精度に対して影響が小さい。上噴流接続パイプは、噴流接続パイプに含まれる。上加工液噴出ノズル82aは、加工液噴出ノズルに含まれる。
【0049】
また、被加工物WPを加工するワイヤ電極ELが左右に対向して配置する図示しない2つの横ガイドで位置決め案内する場合において、2つの横ガイドをそれぞれ支持する図示しない2つの横アームのうちの少なくとも1つの横アームに対して本発明を適してもよい。横ガイド部は、ガイド部に含まれる。横ガイド部に有する図示しない横加工液噴出ノズルは、加工液噴出ノズルに含まれる。横アームは、アームに含まれる。横ガイド部の横加工液噴出ノズルに加工液を供給するために、横アームの中央を貫通する図示しない横噴流接続パイプは、噴流接続パイプに含まれる。なお、本発明は、長手方向の伸縮が加工精度に対して影響が大きいとされる方向のアームにのみ適用されてもよいし、すべてのアームに適用されてもよい。
【0050】
以上説明した本発明は、この発明の精神および必須の特徴的事項から逸脱することなく他のいろいろな形態で実施することができる。したがって、本明細書に記載した実施例は例示的なものであり、これに限定して解釈されるべきものではない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、ワイヤカット放電加工に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 放電加工装置
40 加工タンク
50 コラム
60 上側支持部
63 上アーム
64 上側連結部材
70 下側支持部
71 下アーム
72 下側連結部材
81 下ガイド部
81a 下加工液噴出ノズル
81b 下ガイド
81c 下チャンバ
81d 下通電体
82 上ガイド部
82a 上加工液噴出ノズル
91 スライドパイプ
93 ワイヤ案内パイプ
94 プーリ
95 下噴流接続パイプ
95a 断熱部
EL ワイヤ電極
WP 被加工物
図1
図2
図3
図4