(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707313
(24)【登録日】2020年5月22日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】毛髪のダメージ診断方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/107 20060101AFI20200601BHJP
【FI】
A61B5/107 700
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-167685(P2013-167685)
(22)【出願日】2013年8月12日
(65)【公開番号】特開2015-36017(P2015-36017A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年7月13日
【審判番号】不服2019-5360(P2019-5360/J1)
【審判請求日】2019年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】592255176
【氏名又は名称】株式会社ミルボン
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(72)【発明者】
【氏名】谷村 文優
(72)【発明者】
【氏名】田中 弓恵
(72)【発明者】
【氏名】岩城 顕一
【合議体】
【審判長】
森 竜介
【審判官】
渡戸 正義
【審判官】
福島 浩司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−012133(JP,A)
【文献】
特開2009−120543(JP,A)
【文献】
特開2005−134344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/107
A61K8/19-8/46
G01N3/20
G01N33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定数の毛髪群(還元軟化状態の毛髪群を除く)を選択するステップと、
上記毛髪群を毛先部分で折り返し、この折り返し部分を第一指とその他の任意の指とで押し潰すことにより折り返し部分に10秒以下押圧力を作用させるステップと、
上記押圧力を解除し、上記毛先部分の状態を視認するステップと、
を含み、
上記毛先部分の状態を視認するステップにおいて、上記押圧力を解除した直後に、折り返し前よりも上記毛髪群が屈曲又は湾曲している程度が大きいときに、毛髪にダメージが蓄積している程度が大きいと判断する、
毛髪のダメージ診断方法(但し、医療行為に該当する毛髪のダメージ診断方法を除く。)。
【請求項2】
上記押圧力を作用させるステップにおける上記押圧力を作用させる時間が2秒以上である請求項1に記載の毛髪のダメージ診断方法。
【請求項3】
上記毛髪群が化学的処理によるダメージが蓄積したエイジング毛を含む毛髪群であるかの判断を行うために使用される請求項1または2に記載の毛髪のダメージ診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪のダメージ診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、毛髪にカラーリングやパーマ等の化学的処理を施すことが一般に行われている。このような化学的処理は、一定期間毎に繰り返し行われることが多い。化学的処理が繰り返されると、毛髪から間充物質等が流出し、これが原因となって毛髪の弾性、すなわちハリやこしが無くなる。また、化学処理によりダメージが蓄積した毛髪は、絡まりやすいばかりでなく、しなやかさやしっとり感がなくなり毛髪の見た目も悪化する。このようなダメージを毛髪に与える原因としては、化学的処理だけでなく、紫外線、ドライヤーの熱、ブラッシング、摩擦等も挙げられる。
【0003】
上述のようなダメージを受けた毛髪は、ヘアリンス、ヘアトリートメント、ヘアコンディショナー等のヘアケア剤を使用したヘアケアを行うことで、ダメージの蓄積を予防すると共にダメージの補修を図り、また毛髪の見た目を改善することが可能である。ダメージ毛髪に対するヘアケアは、毛髪のダメージができるだけ小さい早い段階から継続して行うことが効果的である。そのため、毛髪におけるダメージの状態を評価するために、種々の方法が提案されている(例えば特許文献1〜6等参照)。
【0004】
しかし、従来の毛髪の評価方法は、複雑な装置や演算式を必要とするものが多く、簡便性に乏しくコスト的にも不利である。そのため、毛髪のダメージを簡便かつコスト的に有利に診断することができる方法の確立が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5161011号公報
【特許文献2】特許第5141883号公報
【特許文献3】特許第4582943号公報
【特許文献4】特許第4343764号公報
【特許文献5】特許第4116035号公報
【特許文献6】特許第2941114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、複雑な装置や演算式を必要とすることなく、毛髪のダメージを簡便かつコスト的に有利に診断できる毛髪の診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、所定数の毛髪群を選択するステップと、上記毛髪群を毛先部分で折り返し、この折り返し部分に押圧力を作用させるステップと、上記押圧力を解除し、上記毛先部分の状態を視認するステップとを含む毛髪のダメージ診断方法である。
【0008】
当該毛髪のダメージ診断方法は、毛先部分にダメージが蓄積した毛髪の弾性力が低下することに着目したものであり、毛先部分に押圧力を作用させた後の毛髪の状態を視認することで毛髪のダメージを診断するものである。そして、当該毛髪のダメージ診断方法によれば、毛先部分に対する押圧力の作用と解除という極めて簡易なステップを経て最終的に折り曲げた毛先部分を視認することで毛髪のダメージを診断することができる。そのため、複雑な装置や演算式を用いることなく、簡便かつコスト的に有利に毛髪のダメージを診断することができる。その結果、個人でも毛髪のダメージ診断を簡便かつコスト的に有利に行えるため、例えば、美容室において美容師が顧客に対してダメージ毛髪の診断を行うことができ、ダメージ毛に対するヘアケアを顧客に勧めると共に適切なヘアケア剤やヘアケア方法の提案に役立つ。
【0009】
上記毛先部分の状態を視認するステップにおいて、上記押圧力を解除した直後に、折り返し前よりも上記毛髪群が屈曲又は湾曲しているときに、毛髪にダメージが蓄積していると判断するとよい。このような方法によれば、目視により毛髪のダメージを判断することができるため、複雑かつ特殊な装置を用いることもなく、特殊な技能を取得するまでもなく、簡便かつコスト的に有利に毛髪のダメージを診断することが可能となる。
【0010】
上記押圧力を作用させるステップにおける上記折り返し部分への押圧力の作用が、第一指とその他の任意の指とで押し潰すことで行われるとよい。このような方法で押圧力を作用させるようにすれば、より簡便かつコスト的に有利に毛髪のダメージを診断することが可能となる。
【0011】
上記押圧力を作用させるステップにおける上記押圧力を作用させる時間としては2秒以上が好ましい。押圧時間を2秒以上にすることで、ダメージ蓄積の診断に適する。
【0012】
上記毛髪のダメージ診断方法は、上記毛髪群が化学的処理によるダメージが蓄積したものであるかの判断を行うために使用されるものであると良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複雑な装置や演算式を必要とすることなく、毛髪のダメージを簡便かつコスト的に有利に診断できる毛髪のダメージ診断方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るダメージ診断方法の押圧力作用ステップを説明するための毛髪の模式的正面図である。
【
図2】毛髪群に押圧力を作用させる例を説明するための模式的斜視図である。
【
図3】毛髪群のダメージの判断基準を示す模式的正面図である。
【
図4】エイジング毛を説明するための毛髪の模式的正面図である。
【
図5】エイジング毛の進行程度を説明するための頭部の模式的背面図である。
【
図6】エイジング毛の存在を確認するための方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る毛髪のダメージ診断方法について図面を参照しつつ説明する。
【0016】
[毛髪のダメージ診断方法]
本実施形態の毛髪のダメージ診断方法は、外的要因によってダメージが蓄積しているか否かを診断する方法である。ここで、外的要因とは、毛髪に対するカラーリングやパーマ等の酸化反応又は還元反応を伴う化学的処理、紫外線、ドライヤーの熱、ブラッシング、摩擦などである。
【0017】
このダメージ診断方法は、(1)毛髪群選択ステップ、(2)押圧力作用ステップ及び(3)毛先部分の状態の視認ステップを含む。
【0018】
<(1)毛髪群選択ステップ>
毛髪群選択ステップは、所定数の毛髪群を選択することで行われる。毛髪群の選択領域の大きさとしては、例えば矩形換算で約1cm×3cmである。選択される毛髪群の本数としては、20本以上100本以下であり、典型的には30本程度である。
【0019】
<(2)押圧力作用ステップ>
押圧力作用ステップは、
図1(A)及び
図2(B)に示すように、毛髪群1を毛先部分10において折り返し、この折り返し部分11に押圧力を作用させることで行われる。毛髪群1の折り返し角度としては、略180℃が好ましい。
【0020】
折り返し部分11としては、毛髪群1の毛先12から例えば1cm以上10cm以下の範囲の部分であり、典型的には3cm以上5cm以下の範囲の部分である。このように折り返し部分11が毛先12から上記範囲であると、毛髪の中でもダメージの蓄積が大きいかの判断をより適切に行うことができる。すなわち、毛先12からの距離が長過ぎると、折り返し部分11があまりダメージを受けていない部分である可能性があるために、毛先付近に大きくダメージが蓄積しているにも関わらず毛髪群1が屈曲等せずにダメージの蓄積が小さいと誤認されるおそれがある。一方、毛先12からの距離が短すぎると、折り返し部分11において毛髪群1を折り返す作業が困難となるおそれがある。
【0021】
ここで、毛髪群1の毛先12とは、毛髪群1を構成する毛髪のうち最も毛先12が突出している毛髪の毛先から測定した値である(
図3(A)を参照)。
【0022】
押圧力は、
図2に示すように第一指21とその他の任意の指(図では第二指22)とで押し潰すことで行われるとよい。このような方法で押圧力を作用させるようにすれば、複雑かつ特殊な装置を用いることも特殊な技術を取得までもなく、簡便かつコスト的に有利に毛髪のダメージを診断することが可能となる。
【0023】
押圧力を作用させる時間としては、例えば2秒以上10秒以下である。押圧時間が短すぎると、ダメージ毛であった場合でも押圧力の解除後に毛髪群が直ちに元の形状に戻ってしまい、ダメージの蓄積を適切に診断できないおそれがある。一方、押圧時間が長過ぎても、ダメージ蓄積の診断が煩雑になるだけである。
【0024】
<(3)毛先部分の状態の視認ステップ>
毛先部分10の状態の視認ステップは、上記(2)押圧力作用ステップにおいて作用させた押圧力を解除し、毛先部分10の状態を視認することで行われる。
【0025】
押圧力を解除した直後に毛先部分10を視認するには、判断時間の短縮のために、押圧力を解除してから10秒以内の時間が好ましく、5秒以内がより好ましく、3秒以内がさらに好ましい。
【0026】
折り返し部分に折れ目が視認されるか否かの判断は、例えば
図3(A)〜
図3(E)に示した毛髪群3A〜3Eの状態を基準とし、この基準毛髪群3A〜3Eと照らし合わせることで行われる。
【0027】
図3(A)に示した毛髪群3Aは、押圧力の解除直後に毛髪群が押圧力付与前の状態に戻ったものである。毛髪群3Aに近い状態の毛髪群は、十分な弾性があると判断できるため、毛髪へのダメージの蓄積が無い又は非常に小さいと判断される。
【0028】
図3(B)に示した毛髪群3Bは、押圧力の解除直後に毛髪群が押圧力付与前の状態に完全には戻らないが、軽く湾曲した程度であって押圧力付与前の状態に近いものである。毛髪群3Bに近い状態の毛髪群は、毛髪群3Aと同様に十分な弾性があると判断できるため、毛髪へのダメージ蓄積が小さいと判断される。
【0029】
図3(C)、
図3(D)及び
図3(E)は、頭髪中で異形の毛髪(以下、「エイジング毛」)を含む毛髪群に化学的処理によるダメージが大きく蓄積した状態を表す模式図である。但し、エイジング毛を含む毛髪群に化学的処理以外のダメージが蓄積しても、
図3(C)、
図3(D)及び
図3(E)の状態になることは、経験上確認されていない。また、エイジング毛を含まない毛髪群が化学的処理によるダメージが蓄積したものであっても、経験上確認されているのは、
図3(C)、
図3(D)及び
図3(E)の状態よりも程度の小さい屈曲である。なお、エイジング毛を含む毛髪群に化学的処理によるダメージが大きく蓄積している場合、押圧力を解除した後に屈曲又は湾曲した毛髪群の内角は、典型的には150度以下である。
【0030】
ここで、「エイジング毛」について、
図4(A)〜
図4(C)を参照して説明する。「エイジング毛」とは、年齢を重ねるほどに観察され易くなる毛髪である。この「エイジング毛」は、略直線状の毛髪が大部分を占める頭髪部位においてはS字状等にうねった毛髪であり、癖毛やパーマ毛等の非直線状の毛髪が大部分を占める頭髪部位においてはうねり形状が際立つ毛髪である。経験上、毛髪の根元や抜け毛の後に毛穴から生えてきた毛髪においてエイジング毛形状が確認されているから、エイジング毛特有のうねり形状は、根元で確認されやすいと考えられる。
【0031】
図4(A)は、S字状にうねったエイジング毛の一例を表すものであり、当該エイジング毛の比較対象となる非エイジング毛は、
図4(B)に示す形状のものである。
図4(C)は、
図4(A)のエイジング毛よりもうねりが際立つエイジング毛の一例であり、毛髪に太い部分と細い部分とが混在する。当該混在は軟毛よりも硬毛において確認され易い。
【0032】
本発明者らのモニタ試験の結果によると、
図5(A)〜
図5(D)を参照しつつ以下に説明する通り、エイジング毛は、トップ毛髪群、ミドル毛髪群及びネープ毛髪群の順に確認されやすい。
図5(A)はエイジング毛が発現していない状態を示すものであり、この状態から、まず
図5(B)に示すようにトップ毛髪群においてエイジング毛が現れ、更に年齢を重ねると、
図5(C)に示すようにトップ毛髪群に加えてミドル毛髪群にもエイジング毛が現れ、また更に年齢を重ねると、
図5(D)に示すようにネープ毛髪群にまでエイジング毛が現れる。
【0033】
図6に基づき、エイジング毛の有無を簡易的に確認する方法を説明する。例えば
図6(A)〜
図6(C)に示すように、トップ、ミドル、又はネープの毛髪束にテンション与えて略直線状とした場合に、エイジング毛が存在していると、複数本のエイジング毛が毛髪束の外側に飛び出しているのが確認される。この確認が可能なのは、テンションを与えた毛髪束において、エイジング毛のうねりが際立つからである。
【0034】
図3(C)に示した毛髪群3Cは、押圧力の解除直後に完全に屈曲しているものである。毛髪群3Cに近い状態の毛髪群は、弾性が殆どないと判断できるため、化学的処理によるダメージの蓄積が大きいと判断される。
【0035】
図3(D)に示した毛髪群3Dは、毛髪群3Cよりも屈曲の程度は小さいが、押圧力の解除直後に屈曲しているものである。毛髪群3Dに近い状態の毛髪群は、毛髪群3Cよりも弾性があるが、化学的処理によるダメージの蓄積が大きいと判断される。
【0036】
図3(E)に示した毛髪群3Eは、押圧力の解除直後に屈曲していないが、湾曲程度が比較的に大きなものである。毛髪群3Eに近い状態の毛髪群は、弾性が十分でないと判断できるため、化学的処理によるダメージの蓄積が大きいと判断される。
【符号の説明】
【0037】
1 毛髪群
10 毛先部分
11 折り返し部分
12 毛先
21 第一指
22 第二指
3A〜3E 毛髪群