(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記突起は、タイヤ周方向の基準幅をhsとし、任意の位置でのタイヤ周方向の幅をhnとしたとき、0.5×hs≦hn≦1.5×hs、及び、10mm≦hnを満足し、
前記タイヤサイド部の表面からの厚みをtとしたとき、t<hnを満足することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0012】
まず、本発明の実施形態の基本的構成について説明する。
図1は、ゴム製の空気入りタイヤ(以下、タイヤという)1の子午線半断面図を示す。このタイヤ1はサイズ245/40R18のランフラットタイヤである。本発明は、異なるサイズのタイヤにも適用できる。また、本発明は、ランフラットタイヤの範疇に含まれないタイヤにも適用できる。タイヤ1は、回転方向が指定されている。指定された回転方向を
図3に矢印RDで示す。
【0013】
タイヤ1は、トレッド部2、一対のタイヤサイド部3、及び一対のビード部4を備える。個々のビード部4は、タイヤサイド部3のタイヤ径方向の内側端部(トレッド部2とは反対側の端部)に設けられている。一対のビード部4間には、カーカス5が設けられている。カーカス5と、タイヤ1の最内周面のインナーライナー6との間には、補強ゴム7が配置されている。カーカス5とトレッド部2の踏面との間には、ベルト層8が設けられている。言い換えれば、トレッド部2では、カーカス5のタイヤ径方向外側にベルト層8が設けられている。
【0014】
図2及び
図3を参照すると、タイヤサイド部3の表面には、複数の突起がタイヤ周方向に間隔をあけて設けられている。本実施形態では、これらの突起11の形状、寸法、及び姿勢は同じである。
図1では、リム(図示せず)の最外周位置P1からトレッド部2のタイヤ径方向の最も外側の位置までの距離(タイヤ高さ)が符号THで示されている。突起11は、リムの最外周位置P1からタイヤ高さTHの0.05倍以上0.7倍以下の範囲に設けることができる。
【0015】
本明細書では、タイヤ幅方向から見た突起11の形状に関して「平面視」又はそれに類する用号を使用する場合があり、後述する内端面15側から見た突起11の形状に関して「端面視」又はそれに類する用語を使用する場合がある。
【0016】
図4及び
図5を参照すると、突起11は、本実施形態ではタイヤサイド部3の表面に沿って拡がる平坦面である頂面12を備える。また、突起11は前側面13と後側面14とを備える。前側面13はタイヤ回転方向RDの前方側に位置し、後側面14はタイヤ回転方向RDの後方側(タイヤ回転逆方向)に位置する。さらに、突起11は、タイヤ径方向内側の内端面15と、タイヤ径方向外側の外端面16とを有する。後に詳述するように、本実施形態における前側面13は、タイヤサイド部3の表面及び頂面12に対して傾斜した平坦面である。本実施形態における後側面14、内端面15、及び外端面16は、タイヤサイド部3の表面に対して概ね垂直に延びる平坦面である。
【0017】
前辺部17は頂面12と前側面13とが互いに交わる部分であり、後辺部18は頂面12と後側面14とが互いに交わる部分である。内辺部19は頂面12と内端面15とが互いに交わる部分であり、外辺部20は頂面12と外端面16とが互いに交わる部分である。前辺部17、後辺部18、内辺部19、及び外辺部20は、本実施形態のように鋭いないしは明瞭なエッジであってもよいが、端面視で、ある程度湾曲あるいは面取りした形状を有していてもよい。本実施形態では、前辺部17、後辺部18、内辺部19、及び外辺部20の平面視での形状は、いずれも直線状である。しかし、これらの平面視での形状は、円弧及び楕円弧を含む曲線状であってもよく、複数の直線から構成された折れ線であってもよく、直線と曲線の組み合わせであってもよい。
【0018】
図3を参照すると、前辺部17(前側面13)は、平面視において、前辺部17を通るタイヤ径方向に延びる直線に対して傾斜している。言い換えれば、前辺部17はタイヤ径方向に対して傾斜している。前辺部17のタイヤ径方向に対する傾斜角度a1は、前辺部17のタイヤ回転方向RDで最前方側の位置を通り、かつタイヤ径方向に延びる基準直線Lsと、前辺部17が延びる方向(本実施形態では直線である前辺部17自体)とがなす角度(平面視で時計回りを正とする)として定義される。
【0019】
但し、前記前辺部7(前側面13)は、平面視において直線状に傾斜しているだけでなく、湾曲していてもよく、要はタイヤ外径方向に向かってタイヤ周方向のいずれか一方に変位していればよい。
【0020】
これによれば、前辺部17で、頂面12に沿った第1の流れ(主たる空気流)と、前側面13に沿った第2の流れ(従たる空気流)とに分流することができる。つまり、タイヤサイド部3に沿った空気流れから、第2の流れを分流することができるので、頂面12に沿う第1の流れを高速の層流状態とすることができ、層流境界層LBの範囲を拡大することが可能となる。
【0021】
前記前側面13は、タイヤ外径方向に向かってタイヤ回転逆方向に変位するのが好ましい。
【0022】
これによれば、第2の流れを、タイヤの回転によってタイヤサイド部3の表面を通過する空気に作用する遠心力の方向と合致させることができる。したがって、第2の流れをより一層スムーズなものとすることができる。
【0023】
本実施形態における前辺部17は、平面視で右上がりに延びている。
図12及び
図13に示すように、突起11は前辺部17が平面視で右下がりに延びる形状であってもよい。本実施形態の後辺部18は、平面視で前辺部17と概ね平行に延びている。また、本実施形態の内辺部19と外辺部20は、平面視で互いに平行に延びている。
【0024】
図3を参照すると、符号Rはタイヤ半径を示し、符号Rpは突起11のタイヤ径方向の任意の位置のタイヤ回転中心からの距離を示す。また、
図3の符号Rpcは突起11の中心pc(例えば平面視での頂面12の図心)のタイヤ回転中心からの距離を示す。さらに、
図3の符号hRpは、タイヤ径方向の任意の位置における、突起11のタイヤ周方向の寸法、すなわち突起11の幅を示す。また、
図3の符号hRpcは突起の中心pcにおける、突起11の幅を示している。
【0025】
図5を併せて参照すると、本実施形態では、突起11のタイヤ径方向の任意の位置における突起11の厚みtRpは一定である。つまり、突起11の厚みtRpは、突起11のタイヤ径方向で一様である。また、本実施形態では、突起11の厚みtRpは前側面13(前辺部17)から後側面14(後辺部18)まで一定である。つまり、突起11の厚みtRpは突起11のタイヤ周方向でも一様である。
【0026】
図5及び
図6を参照すると、端面視では、前辺部17において突起11の頂面12と前側面13とがある角度(先端角度a2)をなしている。本実施形態における前側面13は、頂面12と前側面13とが前辺部17に向けて間隔が狭まるテーパ形状となるような傾斜を有している。言い換えれば、前側面13の傾斜は、端面視において、前側面13の下端が前辺部17よりもタイヤ回転方向RDの後方側に位置するように設定されている。前側面13がこのような傾斜を有することで、本実施形態の突起11の先端角度a2は鋭角(45°)である。先端角度a2の具体的な定義は後述する。
【0027】
図7から
図9を参照すると、タイヤ1を装着した車両の走行時には、矢印AF0で概念的に示すように、前辺部17側から突起11に流入する空気流がタイヤサイド部3の表面近傍に生じる。
図7を参照すると、タイヤサイド部3の表面の特定の位置P2における空気流AF0は、位置P2を通るタイヤ径方向に延びる直線に対して引いた垂線(水平線Lh)に対して、ある角度(流入角度afl)を有する。本発明者が行った解析によると、タイヤサイズ245/40R18、突起11の中心Pcのタイヤ回転中心からの距離Rpcが550mm、車両の走行速度80km/hという条件下では、流入角度aflは12°である。また、走行速度が40〜120km/hの範囲で変化すると、流入角度aflには±1°程度の変化がある。実際の使用時には、走行速度に加え、向かい風、車両の構造等を含む種々の要因による影響があるので、前述の条件下における流入角度aflは12±10°程度とみなせる。
【0028】
引き続き
図7から
図9を参照すると、空気流AF1は前辺部17から突起11に流入し、この流入時に2つの空気流に分かれる。
図7に最も明瞭に示すように、一方の空気流AF1は、前側面13から頂面12に乗り上がり、前辺部17から後辺部18に向けて頂面12に沿って流れる(主たる空気流:第1の流れ)。他方の空気流AF2は、前側面13に沿ってタイヤ径方向外側へ流れる(従たる空気流:第2の流れ)。
図12及び
図13に示すように前辺部17が平面視で右下がりの場合、空気流AF2は前側面13に沿ってタイヤ径方向内側へ流れる。
【0029】
図10を併せて参照すると、突起11の頂面12に沿って流れる空気流AF1は層流となっている。つまり、突起11の頂面12近傍には層流境界層LBが形成される。
図10において、符号Vaは空気流AF0,空気流AF1のタイヤサイド部3の表面近傍と突起11の頂面12近傍での速度勾配を概念的に示している。層流である空気流AF2は速度勾配が大きいので、突起11の頂面12から空気流AF2へ高効率で放熱がなされる。言い換えれば、突起11の頂面12の空気流AF2が層流となることで、空冷による放熱が効果的に促進される。効果的に空冷することで、温度上昇によるタイヤ構成材料の経時的変化の促進等が抑えられ、タイヤ1の耐久性が向上する。
【0030】
図9において矢印AF3で示すように、頂面12を通過して後辺部18から下流側へ流れる空気流は、頂面12を通過した後、タイヤサイド部3の表面に衝突して方向変換される。その結果、隣接する突起11,11間では、タイヤサイド部3の表面からの放熱が促進される。
【0031】
以上のように、本実施形態のタイヤ1では、突起11の頂面12の空気流AF1の層流化と、突起11,11間の空気流AF3の衝突の両方によってタイヤ1の放熱性を向上している。
【0032】
後に詳述するように、タイヤ回転中心からの距離Rpにおける突起11の幅hRp(
図3参照)は、突起11の頂面12の後辺部18まで層流境界層LBとなるように設定することが好ましい。しかし、
図11に概念的に示すように、突起11の幅hRpは、突起11の頂面12の後辺部18側で、速度境界層が遷移領域TRや乱流境界層TBとなるような比較的長い寸法にすることも許容される。このような場合でも、突起11の頂面12のうち層流境界層LBが形成される領域では、大きな速度勾配により放熱性向上の利点が得られる。
【0033】
前述した突起11に流入した空気流AF0が空気流AF1,AF2へと分流されるためには、突起11の厚さhtp、特に前辺部17の部分における厚さhtpが突起11の幅hp(幅hpが一定でない場合は最小幅)よりも小さいことが好ましい。
【0034】
前述のように突起11へ流入する空気流AF0は流入角度aflを有する。空気流AF0が空気流AF1,AF2へと分流されるためには、平面視での突起11の前辺部17の傾斜角度a1を、前辺部17に対する空気流AF0の進入角度が90°とならないように設定する必要がある。言い換えれば、平面視において、空気流AF0に対して突起11の前辺部17を傾ける必要がある。
【0035】
図3を参照すると、前辺部17が平面視で右上がりである場合、前辺部17は、前辺部17に流入する空気流AF0に対して45°で交差するように設定するのがより好ましい。この場合、上述したように、空気流AF0の流入角度aflは12±10°程度とみなせるので、前辺部17の傾斜角度a1は、前辺部17の傾斜角度a1は以下の式(1)で規定される範囲内に設定することが好ましい。
【0037】
図13を参照すると、前辺部17が右下がりである場合、前辺部17の傾斜角度a1は前辺部17に流入する空気流AF0に対して45°で交差するように設定するのが好ましく、以下の式(2)で規定される範囲内に設定することが好ましい。
【0039】
要するに、前辺部17の傾斜角度は、式(1)又は(2)を満たすように設定することが好ましい。
【0040】
図5及び
図6を参照すると、突起11へと流入する空気流AF0が空気流AF1,AF2へと適切に分流されるためには、突起11の先端角度a2は過度に大きく設定しない必要がある。具体的には、先端角度a2は100°以下に設定することが好ましい。より好ましくは、先端角度a2は90°以下であり、鋭角、つまり90°未満に設定されるのがよい。先端角度a2が過度に小さいことは、前辺部17付近における突起11の強度低下の原因となるので好ましくない。そのため、先端角度a2は、特に45°以上65°以下の範囲に設定することが好ましい。
【0041】
図3を参照すると、タイヤ径方向の任意の位置における突起11の幅hRpが過度に狭いと、頂面12近傍の層流境界層TBによる突起11からの放熱面積が不足し、層流による放熱促進効果が十分に得られない。そのため、突起11の幅hRpは10mm以上に設定することが好ましい。
【0042】
引き続き
図3を参照すると、タイヤ径方向の任意の位置における突起11の幅hRpは、以下の式(3)を満たすように設定することが好ましい。
【0043】
【数3】
R:タイヤ半径R
Rp:突起上の任意の位置のタイヤ回転中心からの距離
hRp:タイヤ回転中心からの距離Rpにおける突起の幅
【0044】
幅hRpが小さすぎると速度勾配が増大する領域を十分に確保できず十分な冷却効果が得られない。式(3)における下限値10は、層流境界層TBが得られる最小寸法に対応している。
【0045】
幅hRpが大きすぎると突起11上で速度境界層が過度に成長してしまい速度勾配が小さくなり放熱性が悪化する。式(3)における上限値50は、かかる観点から規定されている。以下、上限値を50に設定した理由を説明する。
【0046】
平板上における速度境界層の発達、すなわち層流境界層LBから乱流境界層TBへの遷移は以下の式(4)で表されることが知られている。
【0047】
【数4】
x:層流境界層から乱流境界層への遷移が生じる平板先端からの距離
U:流入速度
ν:流体の動粘性係数
【0048】
主流の乱れの影響や、遷移領域付近では境界層がある程度成長することで速度勾配が低下することを考えると、十分な冷却効果が得られるために必要な突起11の幅hRpの最大値hRp_maxは、式(4)の距離xの1/2程度と考えられる。従って、突起11の最大幅hRp_maxは、以下の式(5)で表される。
【0050】
突起11への流体の流入速度Uは、突起11のタイヤ径方向の任意の位置のタイヤ回転中心からの距離Rpとタイヤ角速度の積として表される(U=Rpω)。また、車両速度Vはタイヤ半径Rとタイヤ角速度の積として表される(V=Rω)。従って、以下の式(6)の関係が成立する。
【0052】
空気の動粘性係数νについて、以下の式(7)が成立する。
【数7】
【0053】
式(6),(7)を式(5)に代入することで、以下の式(8)が得られる。
【数8】
【0054】
車両速度Vとして80km/hを想定すると、式(8)よりhRp_maxは以下となる。
【0056】
タイヤ1の発熱がより顕著となる高速走行時、具体的には車両速度Vとして160km/hまでを考慮すると、式(8)よりhRp_maxは以下となる。
【0058】
このように、高速走行時(車両速度Vとして160km/h以下)であっても、突起11の頂面12の幅方向全体で層流境界層TBが形成されるためには、式(3)の上限値は50mmとなる。
【0059】
次に、本発明の他の特徴部分について説明する。
【0060】
図15Aでは、タイヤサイド部3の表面に、幅hRpの異なる3種類の突起11(11a,11b,11c)が配置されている。突起11aの幅hRpが最も短く、突起11b,11cの順で幅広となっている。これらの突起11は、タイヤ回転逆方向(図中時計回り方向)に11a,11b,11c,11bの順で繰り返し配置されている。つまり、中間幅の突起11bの割合が半分を占めている。したがって、放熱効果が期待される走行状態(車両速度Vとして、例えば80km/h)で、頂面12での放熱性を最も高められる値に突起11bの幅hRpを設定しておくのが好ましい。
【0061】
ここで、幅hRpの異なる3種類の突起11を設けることの意義について説明する。すなわち、タイヤの回転速度の違い等によりタイヤサイド部3を流動する空気の流速が相違し、層流境界層TBの形成長さも変化する。層流境界層TBの形成長さは空気の流速が遅い場合には長くなり、空気の流速が速い場合には短くなる。そこで、突起11の幅hRpを3種類とすることにより、空気の流速の違いに拘わらず、放熱性を高めることができるようにしている。具体的に、空気の流速が遅い場合、幅hRpの長い突起11の頂面12で十分な長さの層流境界層TBを形成させることにより放熱性を高めることができる。また、空気の流速が速い場合、層流境界層TBが短距離で消失して乱流境界層TBとなるので、幅hRpの短い突起11を超えた空気を、隣接する突起11間に導いて、タイヤサイド部3の表面に衝突させることにより放熱性を高めることができる。これにより、タイヤの回転速度の違い等に基づいてタイヤサイド部3の表面での流速が変化しても、いずれかの突起11が放熱性を高めるために有効に機能し、全体として放熱性能を向上させることができる。
【0062】
図15Bでは、タイヤサイド部3の表面に、前辺部17(前側面13)の傾斜角度a1が異なる3種類の突起11(11a,11b,11c)が配置されている。3種類の突起11の前辺部17はいずれも右上がりである。突起11aの傾斜角度a1−1が53°で最も大きく、突起11bの傾斜角度a1−2が43°、突起11cの傾斜角度a1−3が30°の順で小さくなっている。これら突起11は、タイヤ回転逆方向(図中時計回り方向)に突起11a,11b,11c,11bの順で繰り返し配置されている。つまり、中間の傾斜角度a1−2を有する突起11bの割合が半分を占めている。したがって、放熱効果が期待される走行状態(車両速度Vとして、例えば80km/h)で、頂面12に沿う第1の流れと、前側面13に沿う第2の流れとに適切に分流して放熱性を最も高められる角度に傾斜角度a1−2を設定しておくのが好ましい。
【0063】
前記構成によれば、タイヤ1の回転速度が速いときは、突起11aを通過する空気流も速くなり、前辺部17でうまく分流されずに、その殆どが頂面12に沿う第1の流れとなる。一方、傾斜角度a1の大きい突起11cでは、たとえ空気流の速度が速くても前側面13に沿う第2の流れを形成することができるので、頂面12に沿う第1の流れを層流境界層TBとして放熱性を発揮させることが可能である。また、タイヤ1の回転速度が遅いときには、傾斜角度a1の小さい突起11aでも、空気流を頂面12に沿う第1の流れ(層流境界層TB)と、前側面13に沿う第2の流れとに分流することができ、頂面12での放熱を効果的に行うことができる。このように、タイヤ1の回転速度の高低に拘わらず、いずれかの突起11での放熱性を高めることができるので、全体として突起11による放熱性を向上させることが可能となる。
【0064】
(他の実施形態)
前記実施形態では、突起11を、幅hRpが相違する3種類で構成したが、突起11は、幅hRpの異なる2種類で構成することもできるし、4種類以上で構成することもできる。幅hRpの異なる2種類の突起11はタイヤ周方向に交互に配置するのが好ましいが、複数個単位ずつそのように配置してもよいし、その個数も自由に設定することができる。幅hRpの異なる3種類以上の突起11の場合であっても同様である。
【0065】
幅hRpが相違する突起11の種類を増やすことにより、タイヤ1の回転速度の違いに拘わらず、いずれかの突起11で十分な放熱性を発揮させやすくすることができる。
【0066】
前辺部17(前側面13)の傾斜角度a1は、各突起11で相違させるのが好ましい。この場合、傾斜角度a1は、基準傾斜角度asに対して、次式を満足するのが好ましい。
【数11】
【0067】
ここに、基準傾斜角度asとは、基準となる、ある車両速度(例えば、80km/h)のとき
にタイヤサイド部3で発生する空気流(このときのタイヤサイド部3の表面での流速が重要)によって突起11で効果的に冷却可能となる値である。as−10°>a1であれば、突起の前側面13の傾斜角度が不十分となり、空気が前側面に沿って流動せずに乗り越えて頂面12へと流動しやすくなる。このため、頂面12での第1の流れが乱され、層流状態とはなりにくく、放熱性が損なわれる。a1>as+10°であれば、突起11が傾斜し過ぎで、頂面12を流動する第1の流れを形成しにくくなり、やはり放熱性が損なわれる。
【0068】
また、前記突起11の前側面13の傾斜角度a1は、タイヤ周方向の基準幅hs及び任意の突起11でのタイヤ周方向の幅hnに対して、次式を満足するのが好ましい。
【数12】
【0069】
ここで、タイヤ周方向の基準幅hsは、ある車両速度のときにタイヤサイド部3で発生する空気流によって突起11で効果的に冷却可能となる値である。したがって、車両速度が低速である場合を基準とするのであれば、hsは長くなり、逆に高速である場合を基準とするのであれば、hsは短くなる。またαは係数であり、ここではα=20としている。α=20としているのは、基準幅hsに対して採用する突起11の幅hnの割合が0.5〜1.5倍となることが想定されるため、前記式での演算結果を、基準傾斜角度asに対して±10°とするためである。
【0070】
また、突起11の平面視での形状は、以下の通り種々の形態を取ることができる。
【0071】
図14Aの突起11の後辺部18は、傾斜角度の異なる2本の直線により構成された平面視での形状を有する。
【0072】
図14B,14Cの突起11は、前辺部17が右上がりに延びるのに対し、後辺部18が右下がりに延びる平面視での形状を有する。特に、
図14Cの突起11は、平面視での形状が等脚台形状としている。
【0073】
また突起11を幅hRpの相違する2種類以上で構成する場合、タイヤ周方向の基準幅hsに対して、次式を満足するように構成するのが好ましい。
【数13】
【0074】
0.5×hs>hRpでは、突起11の幅が狭くなり過ぎ、空気流れの層流範囲を利用しきれない。hRp>1.5×hsでは、空気流れの層流範囲を超えて頂面12が形成されることになり放熱性の点で好ましくない。
【0075】
前記突起11は、タイヤ回転方向側の前側面13とタイヤサイド部3の頂面12とのなす角度が100°以下であればよく、90°以下であるのが好ましく、90°未満であるのが好適である。
【0076】
前記角度が100°を超えれば、空気流れが突起11の前側面13でうまく分流されずにそのまま頂面12側へと流動しやすくなる。このため、頂面12での空気の流動状態を層流のままに維持しにくくなり、突起11での放熱性が悪化する恐れがある。前記角度を90°以下、さらには90°未満とすることにより、前辺部17での分流をより一層適切に行い、頂面12に沿う空気流れの層流境界層の範囲を拡大してさらに放熱性を高めることができる。
【0077】
なお、本発明は、前記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0078】
図15Cでは、タイヤサイド部3の表面に、前辺部17の傾斜角度a1が異なる2種類の突起11が交互に配置されている。
図15Cでは、2種類の突起11のうちの一方は右上がりの前辺部17を有し、他方の突起11は右下がりの前辺部17を有する。
【0079】
図15Dでは、タイヤサイド部3の表面に、タイヤ径方向の位置が異なる2種類の突起11が交互に配置されている。
【0080】
図16Aから
図16Cは、突起11の頂面12の端面視での形状の種々の代案を示す。
図16Aの突起11は、端面視において翼断面形状の頂面12を有する。
図16Bの突起11は、端面視において円弧状の頂面12を有する。
図16Cの突起11は、端面視において翼断面形状でも円弧状でもない曲線状の頂面12を有する。
【0081】
図17Aから
図17Dに示す突起11の前側面13は、端面視で、1個の窪み23を構成している。
【0082】
図17Aの突起11の前側面13は、2個の平坦面24a,24bによって構成されている。端面視では、平坦面24aは右下がりで、平坦面24bは右上がりである。これらの平坦面24a,24bによって、端面視で三角形の窪み23が形成されている。
【0083】
図17Bの突起11の前側面13は、半円状の断面形状を有する曲面により構成されている。この曲面によって、端面視で半円状の窪み23が形成されている。
【0084】
図17Cの突起11の前側面13は、端面視で右下がりの平坦面25aと、円弧状の断面形状を有する曲面25bにより構成されている。平坦面25aが突起11の頂面12側に位置し、曲面25bがタイヤサイド部3の表面側に位置している。平坦面25aと曲面25bとによって、窪み23が形成されている。
【0085】
図17Dの突起11の前側面13は、3個の平坦面26a,26b,26cによって構成されている。端面視では、突起11の頂面12側の平坦面26aは右下がりで、タイヤサイド部3の表面側の平坦面26cは右上がりで、中央の平坦面26bはタイヤ径方向に延びている。これらの平坦面26a〜26cによって多角形状の窪み23が形成されている。
【0086】
図18A及び
図18Bに示す突起11の前側面13は、端面視で、タイヤ径方向に隣接した配置された2個の窪み23A,23Bを構成している。
【0087】
図18Aの突起11の前側面13は、4個の平坦面27a〜27dによって構成されている。端面視では、突起11の頂面12側の平坦面27aは右下がりであり、タイヤサイド部3の表面に向けて、右上がりの平坦面27b、右下がりの平坦面27c、及び右上がりの平坦面27dが順に配置されている。平坦面27a,27bによって突起11の頂面12側に三角形状の断面形状を有する1個の窪み23Aが形成され、この窪み23Aのタイヤサイド部3の表面側に隣接して、同様に三角形状の断面形状を有する1個の窪み23Bが平坦面27c,27dによって形成されている。
【0088】
図18Bの突起11の前側面13は、半円状の断面形状を有する2個の曲面28a,28bによって構成されている。突起11の頂面12側の曲面28aによって、半円状の断面形状を有する1個の窪み23Aが形成され、この窪み23Aのタイヤサイド部3の表面側に隣接して、同様に半円状の断面形状を有する1個の窪み23Bが曲面28bによって形成されている。
【0089】
突起11の前側面13は、端面視で、タイヤ径方向に隣接した配置された3個以上の窪みを構成してもよい。
【0090】
図17Aから
図18Bに示すような前側面13の窪みの形状、寸法、個数を適切に設定することで、突起11の頂面12に沿って流れる空気流AF1と、突起11の前側面13に沿って流れる空気流AF2の流量比率を調節することができる。
【0091】
図16Aから
図16Cの頂面12の形状のうちのいずれか1個と、
図17Aから
図18Bの前側面13の形状のいずれかを組み合わせて1個の突起11を構成してもよい。
【0092】
図5、
図16Aから
図18Bを参照すると、前辺部17において突起11の頂面12と前側面13とがなす角度、すなわち突起11の先端角度a2は、端面視において、頂面12に対応する直線Ltと、前側面13の前辺部17近傍の部分に対応する直線Lfsとがなす角度として定義される。
【0093】
直線Ltは、頂面12のうち厚みtRpが最も大きい部分を通り、かつタイヤサイド部3の表面に沿って延びる直線として定義される。
図5、
図17Aから
図18Bを参照すると、頂面12がタイヤサイド部3の表面に沿って延びる平坦面である場合、端面視において頂面12自体を延長して得られる直線が直線Ltである。
図16Aから
図16Cを参照すると、頂面12が曲面である場合、端面視で頂面12のうち厚みtRpが最も大きい位置P3を通り、かつタイヤサイド部3の表面に沿って延びる直線が直線Ltである。
【0094】
図5、
図16Aから
図16Cを参照すると、前側面13が単一の平坦面から構成されている場合、端面視で前側面13自体を延長して得られる直線が直線Lfsである。
図17Aから
図17Dを参照すると、前側面13が単一の窪み23を構成している場合、端面視において前辺部17と窪み23の最も窪んだ位置とを接続する直線が、直線Lfsである。
図18A及び
図18Bを参照すると、複数(これらの例では2個)の窪み23A,23Bを構成している場合、端面視において、前辺部17と最も頂面12側に位置する窪み23Aの最も窪んだ位置とを接続する直線が、直線Lfsである。
【0095】
図19Aに示すように、突条31が半円条の断面形状を有し、溝32が突条31に対して相補的な断面形状を有していてもよい。また、
図19Bに示すように、突条31と溝32の断面形状が四角形状であってもよい。
【0096】
図20を参照すると、頂面12における層流の形成を顕著に阻害しないのであれば、タイヤ径方向に延びる1本の縦スリット33よって、1個の突起11をタイヤ周方向に並べられた2個の互いに独立した部分に分割してもよい。2本以上縦スリット33によって、1個の突起11を3個以上の互いに独立した部分に分割してもよい。
【0097】
図21を参照すると、頂面12における層流の形成を顕著に阻害しないのであれば、タイヤ周方向に延びる1本の横スリット34によって、1個の突起11をタイヤ径方向に並べられた2個の互いに独立した部分に分割してもよい。2本以上の縦スリット34によって、1個の突起11を3個以上の互いに部分に分割してもよい。
【0098】
1本以上の縦スリット33と1本以上の横スリット34とを設けることで、1個の突起11を4個以上の複数の部分に分割してもよい。
【0099】
縦スリット33及び横スリット34の深さは、
図20及び
図21に示すように、これらのスリット33,34が頂面12からタイヤサイド部3の表面まで達するように設定してもよいし、これらのスリット33,34がタイヤサイド部3の表面まで達しないように設定してもよい。
【0100】
また、前記突起11を形成する位置は、タイヤ1を車両に装着した状態で、外側(車両の側方側)であってもよいし、内側であってもよい。