(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電流制御素子は、p型の電界効果トランジスタ、n型の電界効果トランジスタ、pnp型のバイポーラトランジスタ、及びnpn型のバイポーラトランジスタからなる制御素子群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1に記載の発振装置。
前記サーミスタは、負特性サーミスタ、正特性サーミスタ、及びCTR(Critical Temperature Resistor)サーミスタからなるサーミスタ群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の発振装置。
前記雰囲気の温度の変化に対する前記発振出力の周波数の非線形な変化は、前記雰囲気の温度の上昇に伴って発振出力の周波数が低下し、且つ、下に凸の曲線形状を示す変化であり、
前記周波数補正部は、前記制御電力供給部から加熱部に供給される制御用の電力が増加する方向に変化したとき、周波数補正値を減少させることを特徴とする請求項4に記載の発振装置。
前記雰囲気の温度の変化に対する前記発振出力の周波数の非線形な変化は、前記雰囲気の温度の上昇に伴って発振出力の周波数が上昇し、且つ、上に凸の曲線形状を示す変化であり、
前記周波数補正部は、前記制御電力供給部から加熱部に供給される制御用の電力が増加する方向に変化したとき、周波数補正値を増加させることを特徴とする請求項4に記載の発振装置。
前記雰囲気の温度の変化に対する前記発振出力の周波数の非線形な変化は、前記雰囲気の温度の上昇に伴って発振出力の周波数が低下し、且つ、下に凸の曲線形状を示す変化であり、
前記周波数補正部は、前記制御電力供給部から加熱部に供給される制御用の電力が増加する方向に変化したとき、周波数補正値を減少させることを特徴とする請求項7に記載の発振装置。
前記雰囲気の温度の変化に対する前記発振出力の周波数の非線形な変化は、前記雰囲気の温度の上昇に伴って発振出力の周波数が上昇し、且つ、上に凸の曲線形状を示す変化であり、
前記周波数補正部は、前記制御電力供給部から加熱部に供給される制御用の電力が増加する方向に変化したとき、周波数補正値を増加させることを特徴とする請求項7に記載の発振装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の実施形態に係る発振装置の全体を示すブロック図である。この発振装置は、周波数設定値に応じた周波数の周波数信号(発振出力)を生成する周波数シンセサイザとして構成されている。
発振装置には、第1の水晶振動子10、第2の水晶振動子20と、これらの水晶振動子を発振させる第1の発振回路1、第2の発振回路2とが含まれる。第1の発振回路1、第2の発振回路2は、例えばコルピッツ型の発振回路により構成される。
【0013】
第1の発振回路1、第2の発振回路2の出力は、周波数差検出部31に入力される。さらに周波数差検出部31の後段には、第1の加算部32、ヒーター制御部33、D/A変換部34が設けられ、当該D/A変換部34の出力は、第1、第2の水晶振動子10、20の近傍に設けられた加熱部であるヒーター回路4に入力される。
【0014】
以下の説明では、第1の発振回路1により第1の水晶振動子10を発振させて得られた周波数信号をf1とし、第2の発振回路2により第2の水晶振動子20を発振させて得られた周波数信号をf2とする(説明の便宜上、f1、f2は各周波数信号の周波数を示す場合がある)。
第1の発振回路1からの周波数信号f1は、PLL回路部6内に設けられている後述のVCXO(Voltage Controlled Xtal Oscillator、電圧制御発振部)62から得られた周波数信号との位相比較が行われる基準周波数信号を生成する際のクロック信号に用いられる。さらに周波数信号f1は、水晶振動子10、20が置かれた雰囲気の温度(後述の容器71内の温度、「雰囲気温度」とも呼ぶ)を検出する目的にも用いられる。一方で、第2の発振回路2からの周波数信号f2は、水晶振動子10、20が置かれた雰囲気温度の検出の目的のみに用いられる。
【0015】
初めに、周波数信号f1、f2を用いた温度検出の手法について説明する。第1の発振回路1からの周波数信号f1及び第2の発振回路2からの周波数信号f2は周波数差検出部31に入力され、周波数差f1−f2に対応する値であるΔFが演算される。概略的には、周波数差検出部31は、f1とf2との差分と、Δfrとの差分である、f2−f1−Δfrを取り出すための回路部である。Δfrは、基準温度例えば25℃におけるf1(f1r)とf2(f2r)との差分である。f1とf2との差分の一例を挙げれば、例えば数MHzである。周波数差検出部31はf1とf2との差分に対応する値と、基準温度例えば25℃におけるf1とf2との差分に対応する値との差分であるΔFを計算する。この実施形態の場合、より詳しく言えば、周波数差検出部31で得られる値は、{(f2−f1)/f1}−{(f2r−f1r)/f1r}である。
【0016】
図2は、周波数差検出部31のディジタル出力値と温度との関係を示しており、当該出力が温度に対して直線関係にあることが分かる。従って周波数差検出部3の出力値(ディジタル値)は水晶振動子10、20が置かれている雰囲気の温度検出値に対応しているということができる。従って、水晶振動子10、20、発振回路1、2及び周波数差検出部31は前記温度検出値を得るための温度検出部に相当している。
【0017】
図1に説明を戻すと、周波数差検出部31の後段には第1の加算部32が設けられている。第1の加算部32には、外部から取得した前記雰囲気温度の設定値(例えば80℃)に対応する値(以下、「温度設定値」と呼ぶ)と、周波数差検出部31にて算出された温度検出値ΔFとの差分値(温度設定値と温度検出値との偏差分)が後段のヒーター制御部33へと出力される。
【0018】
ヒーター制御部33は、ヒーター回路4の出力を調節するための出力制御値を後段のD/A変換部34へ出力する。ヒーター制御部33は、第1の加算部32にて演算された偏差分をゼロにするためヒーター回路4の出力を調節する出力制御値の演算を行う。ヒーター制御部33は、例えば前記偏差分を時間積分し、その積分値に対応する値を出力制御値として出力するループフィルタにより構成する例が挙げられる。ヒーター回路4の出力調節用の出力制御値の演算を行うヒーター制御部33は、本例の制御値取得部に相当している。
【0019】
D/A変換部34は、ヒーター制御部33から出力される出力制御値のディジタル値をアナログ信号に変換する。D/A変換部34は、ヒーター制御部33から取得した出力制御値に基づいた制御用の電力をヒーター回路4に対して出力する。
【0020】
水晶振動子10、20の近傍に設けられたヒーター回路4は、このD/A変換部34から出力された制御用の電力に応じて出力の調節が行われる。ヒーター回路4の詳細な構成については後述する。
【0021】
次いで、第1の発振回路1から得た周波数信号f1をクロック信号として利用し、周囲の温度が変化しても安定した周波数の周波数信号を出力するPLL回路部6について説明する。PLL回路部6は、不図示のDDS(Direct Digital Synthesizer)回路部と、位相比較部と、チャージポンプ部と、ループフィルタとを備えたVCXO制御部61と、周波数信号を発振させる不図示の水晶振動子が設けられたVCXO62と、を備える。また、VCXO制御部61には、VCXO62より得られた周波数信号を分周する分周器を設けてもよい。
【0022】
VCXO制御部61に対しては、外部から入力された周波数設定値を用いて周波数設定が行われる。VCXO制御部61内に設けられたDDS回路部は、第1の発振回路1から出力される周波数信号f1を動作クロック(クロック信号)とし、前記周波数設定値に基づいて不図示の波形テーブルから振幅データを読み出し、当該周波数設定値に対応する基準周波数信号を発生する。
【0023】
一方でVCXO62を発振させて得られた周波数信号は、必要に応じて分周された後、位相比較部にて基準周波数信号と位相比較され、位相差に応じた信号がチャージポンプ部でアナログ変換され、ループフィルタに入力される。ループフィルタでは、アナログ変換された位相差が積分され、VCXO62の制御電圧とされる。
【0024】
以上に説明した構成により、VCXO62内の水晶振動子を発振させて得られた周波数信号の周波数が、周波数設定値に基づきDDS回路部にて発生させた基準周波数信号の周波数に近づくように周波数制御が実行され、安定した出力周波数foの周波数信号がVCXO62から出力される。
【0025】
上述の発振装置は、温度検出部(水晶振動子10、20、発振回路1、2及び周波数差検出部31)にて、PLL回路部6のVCXO制御部61を作動させるクロック信号を発振するための第1の水晶振動子10が置かれる雰囲気の温度を検出し、その検出結果(温度検出値)に基づいて雰囲気温度を調節するヒーター回路4の出力調節を実行するOCXOとして構成されている。
【0026】
図3に概略の縦断側面を示すように、OCXOである発振装置は、容器71内に収容されたプリント基板72に対し、例えば当該プリント基板72の上面側に各水晶振動子10、20と、既述の発振回路1、2や周波数差検出部31などを含むディジタル処理を行う回路をワンチップ化した集積回路部300と、PLL回路部6内のVCXO62の水晶振動子621とが設けられている。またプリント基板72の下面側には、例えば水晶振動子10、20と対向する位置にヒーター回路4が設けられ、このヒーター回路4の発熱により、水晶振動子10、20の置かれる雰囲気が温度設定値に対応する温度に維持されている。
図3に示した例では、水晶振動子10、20が置かれる雰囲気の温度は、容器71の空間内の温度に相当する。
【0027】
さらに本発振装置は、前記温度検出値に基づいて周波数設定値を補正するTCXOとしても構成されている。この結果、OCXOのヒーター回路4による周波数安定化と、雰囲気温度の温度検出値に基づく周波数補正とによる二重の周波数安定化措置がとられ、高精度で周波数を安定させることができる。
【0028】
図1に示すように、TCXOに係る構成として、発振装置はPLL回路部6の周波数設定値に対して、周波数補正値を加算する第2の加算部52と、当該第2の加算部52に対して周波数補正値を出力する補正値取得部51とを備えている。補正値取得部51は、第1の水晶振動子10が置かれる雰囲気の検出結果に基づいて算出された出力制御値をヒーター制御部33から取得し、この出力制御値に基づいて周波数補正値を得ている。
これら補正値取得部51、第2の加算部52は、本発振装置の周波数補正部に相当する。
【0029】
ここで上記補正値取得部51にて周波数補正値を取得するにあたり、ヒーター回路4の出力を調節するための出力制御値を利用している理由と、その算出方法について、
図4〜
図6を参照しながら説明する。
はじめに、実施の形態に係るヒーター回路4の構成、作用の理解を容易にするため、
図4に示す比較例に係るヒーター回路4’を用いて、その動作及び当該ヒーター回路4’の出力調節に用いられる出力制御値の特性について説明する。
【0030】
ヒーター回路4’は、複数の抵抗が並列に接続された抵抗回路402と、この抵抗回路402を流れる電流を制御する電流制御素子である例えばp型の電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor、FET)401とを備える。またFET401は、電流が流れる際に発熱するので、抵抗回路402と共にヒーター回路4’の抵抗発熱部としても機能する。
FET401のソース側の端子には、既述の抵抗回路402を介して、ヒーター用電力を供給するヒーター電源が接続されている一方で、ドレイン側の端子は接地されている。
【0031】
一方、FET401のゲート側の端子(制御端)Aには、FET401の駆動電源が接続され、この駆動電源から供給された電力に対し、D/A変換部34から出力された制御用の電力が重畳される。さらに、FET401のゲート側の端子Aは接地されている。FET401のゲート側の端子Aと、D/A変換部34から出力された制御用の電力が供給される接続端との間、同じくゲート側の端子Aと、FET401の駆動用の電力が供給される駆動電力供給端との間、同じくゲート側の端子Aと、接地された接地端との間に各々設けられた抵抗R1〜R3は、FET401の駆動動作点を決める抵抗である。
【0032】
上述のヒーター回路4’において、ヒーター電源側、及び駆動電源側の電圧が一定であるとき、D/A変換部34側から供給される制御用の電力が増大すると、電力に比例してFET401に印加される電圧(ヒーター制御電圧)が高くなる。p型のFET401においては、ヒーター制御電圧が高くなると、ソース-ドレイン間を流れる電流が減少し、抵抗回路402、FET401の消費電力が小さくなる(ヒーター回路4’の出力が小さくなる)。
これとは反対に、D/A変換部34側から供給される制御用の電力が減少すると、電力に比例してヒーター制御電圧が低くなり、ソース-ドレイン間を流れる電流が増大して、抵抗回路402、FET401の消費電力は大きくなる(ヒーター回路4’の出力が大きくなる)。
【0033】
以上の動作をまとめると、
図4に示すヒーター回路4’においては、制御用の電力を増大させると出力が小さくなり、制御用の電力を減少させると出力が大きくなる。
ヒーター回路4’の出力を小さくする必要が生じるのは、第1の水晶振動子10が置かれる雰囲気の温度が上昇したときであり、出力を大きくする必要が生じるのは、当該雰囲気温度が低下したときである。従って、雰囲気温度の温度検出値が高くなったら制御用の電力を増大させ、温度検出値が低くなったら制御用の電力を減少させるように、温度検出値とヒーター制御部33から出力される出力制御値との対応関係を設定すればよい。
【0034】
上述の対応関係に基づき、ヒーター制御部33から出力される出力制御値に基づいて、FET401に印加するヒーター制御電圧を決定することができる。
図5には、ヒーター制御部33から出力される出力制御値(横軸)に対する雰囲気温度の温度検出値、及びヒーター制御電圧(縦軸)の対応関係を示してある。既述のように、ヒーター回路4’においては、雰囲気温度の上昇に伴って制御用の電力を大きくするという傾きが正の対応関係があるのに対し、当該雰囲気温度の上昇に伴って、周波数差検出部31からのディジタル出力値は小さくなる、傾きが負の対応関係がある(
図2)。そこで
図5に示す対応関係を実現するため、例えばヒーター制御部33は、第1の加算部32から入力されたディジタル値の正負を反転した出力制御値をD/A変換部34へと出力する。
【0035】
D/A変換部34は、雰囲気温度と線形的な対応関係にあるヒーター制御部33の出力制御値に対し、所定のゲインを乗じた制御用の電力を出力することにより、ヒーター制御電圧を調節する。この観点において、D/A変換部34は、出力制御値に線形的に対応した制御用の電力をヒーター回路4に対して供給する制御電力供給部に相当している。
【0036】
図5に示す関係によれば、ヒーター制御部33から出力される出力制御値は、発振装置が置かれる雰囲気の温度検出値と対応している。
一方で、第1の発振回路1から得た周波数信号f1をクロック信号として利用するPLL回路部6は、雰囲気温度が変化してクロック信号の周波数が変化してしまうと、周波数設定値からずれた出力周波数の周波数信号が出力されてしまう。
【0037】
例えば
図6(a)は、雰囲気温度に対する出力周波数foの変化(出力周波数特性)を示している。同図に示すように、温度設定値に対応する設定温度から雰囲気温度が大きくずれるほど、周波数設定値からの出力周波数のずれ量は大きくなる傾向がある。また、
図6(a)に示す例では、雰囲気温度が設定温度よりも低い方向にずれると出力周波数が大きくなる傾向を示し、高い温度にずれると出力周波数が小さくなる傾向を示している。さらに当該例では、雰囲気温度の変化に対して、低温側で周波数の変化率が大きく、高温側ではその変化率が小さくなる傾向、即ち、雰囲気温度の上昇に対して「下がり傾向、且つ、下に凸」の出力周波数特性を有している。
なお、
図6の横軸は発振装置が置かれる雰囲気の温度を示し、縦軸は、周波数安定度(PLL回路部6の出力周波数foと周波数設定値fosとの差分値を周波数設定値fosにて除した値(ppb単位))を示している(
図10、
図13〜
図15において同じ)。
【0038】
ここで、各雰囲気温度において、周波数設定値の変化と出力周波数の変化とがほぼ正比例の関係にあると考える。このとき、所定の周波数設定値fosを入力した結果、PLL回路部6からの出力周波数が「fo=fos+Δfo」であったならば、補正値Δfoを用いて周波数設定値を補正し、新たな周波数設定値として「fos’=fos−Δfo」を入力すれば、より周波数設定値fosに近い出力周波数が得られる。
【0039】
例えば
図6(a)中に示す破線は、実線で示した出力周波数特性を直線で近似した雰囲気温度-周波数安定度の対応関係を示している。出力周波数が周波数設定値に一致した状態(周波数安定度が0ppb)からの前記対応関係のずれ量を補正値として、周波数設定値から差し引く補正を行うことにより、
図6(b)に示すように出力周波数特性を改善することが可能となる。
【0040】
ここで、
図6(a)中に破線で示した、雰囲気温度の上昇に対して直線的に補正値が小さくなる対応関係は、
図5中に実線で示した前記雰囲気の温度検出値と、出力制御値との対応関係の傾きを反転させたものに他ならない。
そこで
図1に示すように、ヒーター制御部33から出力される出力制御値を利用し、補正値取得部51にて所定のゲインを乗じることにより、
図6(a)に破線で示す周波数補正値(出力制御値に線形的に対応する周波数補正値)の直線を得ることができる。言い替えると、ヒーター回路4’に供給されるヒーター制御電圧(ヒーター制御電力)と、補正値取得部51から出力される周波数補正値との間には、傾きが負の対応関係がある(後述の
図16(a)参照)。
【0041】
補正値取得部51にて取得した周波数補正値を第2の加算部52にて周波数設定値から差し引き、こうして得られた補正後の周波数設定値に基づいてPLL回路部6を動作させる。この結果、
図6(b)に示すように、
図6(a)に示した出力周波数特性と比較して、雰囲気温度の変化に対する周波数安定度の良好な出力周波数特性を得ることができる。 上述のTCXOの機能に係る補正値取得部51、第2の加算部52は発振装置の周波数補正部に相当している。
【0042】
このように、ヒーター回路4’により第1の水晶振動子10の温度制御を行うOCXOとして構成された発振装置がTCXOの機能も備えていることにより、背景技術にて説明した、第1の水晶振動子10以外の回路(例えば第1の発振回路1)に対する発振装置が置かれる雰囲気の温度変化の影響を低減し、安定した出力周波数の周波数信号を出力することができる。
【0043】
しかしながら、
図6(a)に示すようにPLL回路部6の実際の出力周波数特性は、雰囲気温度の変化に対して曲線(非線形)形状を示す場合がある。ここで第1の水晶振動子10については、ヒーター回路4’による制御が行われる温度範囲内で温度−周波数特性がほぼ平坦なものを採用する場合が多い。このような場合であっても出力周波数特性が曲線形状を示す理由は、既述の第1の水晶振動子10以外の回路の温度−周波数特性が曲線的な変化を示すことによる影響が大きいと考えられる。
【0044】
このとき、
図6(a)に破線で示すように雰囲気温度に対して直線的に変化する補正値(補正値直線)を用いた場合には、補正を行った後においても、出力周波数特性の湾曲に起因する偏差幅が残ってしまう(
図6(b))。
このような偏差幅を低減するためには、
図10(a)に破線で示すように、実際の出力周波数特性の変化に沿って、雰囲気温度の変化に応じて湾曲する曲線形状の補正値曲線を用いればよい。
【0045】
ところが、
図4に示した比較例に係るヒーター回路4’においては、
図5を用いて説明したように、FET401に印加されるヒーター制御電圧が、雰囲気温度の変化(温度検出値の変化)に応じて直線的に変化する。このため、補正値の取得の際に利用する出力制御値についても温度変化に対して直線的に変化する関係しか得られず、
図10(a)に破線で示す補正値曲線を得ることはできない。
【0046】
そこで本発明の実施の形態に係る発振装置は、
図7に示す特別な構成のヒーター回路4を備えている。
図7に示すヒーター回路4において、
図4を用いて説明した比較例に係るヒーター回路4’と共通の構成要素に対しては、
図4にて用いたものと同じ符号を付してある(後述の
図11において同じ)。
【0047】
実施の形態に係るヒーター回路4は、駆動電源から供給される電力に対し、D/A変換部34から出力された制御用の電力が重畳され、ヒーター制御電圧として印加されるFET401のゲート側の端子Aと、抵抗R3’を介して接地された接地端との間に、前記抵抗R3’と直列にNTC(Negative Temperature Coefficient:負特性)型のサーミスタ403を設けた構成となっている。
【0048】
図8(a)に示すようにサーミスタ403の温度−抵抗特性は、温度の上昇に対応して抵抗値が小さくなる、下に凸の曲線形状を示す。そこで、
図8(b)の拡大図に示すようにTCXOによる温度調節範囲に対応した使用範囲内のサーミスタ403の温度−抵抗特性を利用すれば、雰囲気温度が変化したときにFET401に印加されるヒーター制御電圧を曲線的(非線形)に変化させることができる。
【0049】
サーミスタ403を備えたヒーター回路4を用いて、
図6(a)に示した、雰囲気温度の上昇に対して下がり傾向、且つ、下に凸の曲線である出力周波数特性を補正する補正値曲線を得る作用について説明する。
例えばサーミスタ403が置かれている雰囲気温度が高くなると、FET401のゲート側の端子Aから見て接地側の抵抗(抵抗R3’とサーミスタ403との合成抵抗)が小さくなる。この結果、サーミスタ403を設けていない場合(接地側の抵抗が変化しない場合)と比べて、FET401に印加されるヒーター制御電圧は低くなるので、ソース-ドレイン間を流れる電流が増大し、抵抗回路402、FET401の消費電力はより大きくなる(ヒーター回路4の出力は大きくなる)。
【0050】
一方で、発振装置に設けられたヒーター制御部33側では、上述のヒーター回路4の出力増大を抑える方向、即ち、サーミスタ403を設けていない場合と比べて、ヒーター制御電圧をより大きく上昇させる方向へ制御が働く(
図9の実線)。なお、
図9の実線は、制御が安定した状態における雰囲気温度に対するヒーター制御電圧の特性図であり、同図中の二点鎖線は、サーミスタ403を設けていない場合の特性を示している。
【0051】
このとき、NTC型のサーミスタ403は、
図8(b)に示す使用範囲において低温側での抵抗値の変化率が大きく、高温側ではその変化率が小さくなる特性を有する。この特性を反映して、
図9に実線で示すヒーター制御電圧についても、雰囲気温度の上昇に対して、低温側の変化率が大きく、高温側では変化率が小さい特性、即ち、上がり傾向、且つ、上に凸の曲線形状の特性が得られる。
【0052】
以上に説明したように、
図7に示すヒーター回路4を用いた場合には、雰囲気温度が上昇するほど、FET401に印加されるヒーター制御電圧は低くなってしまうので、これを補うようにD/A変換部34から出力される制御用の電力を増加させる(
図9)。
ここで、
図5に実線で示すように、ヒーター制御部33から出力される出力制御値が大きくなるに連れて、制御用の電力は増大する比例関係(線形的関係)にある。従って、
図9に実線で示す曲線に沿って、ヒーターの制御電圧が変化する場合には、
図10(a)に破線で示す補正値曲線に対応した出力制御値の特性が得られる。
【0053】
そして、
図4〜
図6を用いて説明した比較例と同様に、出力制御値と周波数補正値との間の負の比例関係(線形的関係)を利用し、各雰囲気温度においてヒーター制御部33から出力された出力制御値に対し、補正値取得部51にて所定のゲインを乗じる。この結果、
図10(a)に破線で示す下がり傾向、且つ、下に凸の周波数補正値(出力制御値に線形的に対応する周波数補正値)の曲線を得ることができる。
【0054】
図10(a)には、PLL回路部6の出力周波数特性とほぼ平行な、理想的な補正値曲線を示した。曲線の形状は、容器71内におけるヒーター回路4の配置位置や抵抗発熱部である抵抗回路402やFET401からのサーミスタ403の距離、サーミスタ403の熱容量や補正値取得部51にて乗じるゲインなどの設計変数を変化させることによって調節することができる。
なお、
図10(a)においては、出力周波数特性と補正値曲線との識別を容易にするため、便宜上、これらの曲線を上下方向に離して記載してある。また、同図中の二点鎖線で示した直線は、参考として、サーミスタ403を設けない場合に補正値取得部51にて取得される補正値直線を示してある(上述のように、種々の設計変数が変更されているので、
図6(a)に示す補正値直線とは必ずしも一致しない)。
【0055】
上述の補正値曲線に沿った周波数補正値を補正値取得部51から取得し、第2の加算部52にて周波数設定値から差し引き、補正後の周波数設定値に基づいてPLL回路部6を動作させる。この結果、
図10(b)に示すように、
図6(b)と比較して偏差幅が小さく、さらに周波数安定度の良好な出力周波数特性を得ることができる。
【0056】
ここで
図10(a)に破線で示した、下がり傾向、且つ、下に凸の周波数補正値曲線を得ることが可能なヒーター回路4の構成は、
図7に示した例に限定されない。
例えば、
図11に記載のヒーター回路4aは、D/A変換部34から出力された制御用の電力が重畳されるFET401のゲート側の端子Aと、駆動電源側の端子との間の抵抗R2’と直列にサーミスタ403aを設けた構成となっている。
【0057】
上述のヒーター回路4aにおいて、例えばNTC型のサーミスタ403aが置かれている雰囲気温度が高くなると、FET401のゲート側の端子Aから見て駆動電源側の抵抗(抵抗R2’とサーミスタ403aとの合成抵抗)が小さくなる。この結果、サーミスタ403aを設けていない場合(駆動電源側の抵抗が変化しない場合)と比べて、FET401に印加されるヒーター制御電圧は高くなるので、ソース-ドレイン間を流れる電流が減少し、抵抗回路402、FET401の消費電力はより小さくなる(ヒーター回路4aの出力は小さくなる)。
【0058】
一方で、発振装置に設けられたヒーター制御部33側では、上述のヒーター回路4aの出力減少を補う方向、即ち、サーミスタ403aを設けていない場合と比べて、ヒーター制御電圧の低下量を増加させる方向へ制御が働く(
図12の実線)。なお、
図12の実線は、制御が安定した状態における雰囲気温度に対するヒーター制御電圧の特性図であり、同図中の二点鎖線は、サーミスタ403aを設けていない場合の特性を示している。このとき、
図8(b)に示す曲線に沿ってサーミスタ403aの抵抗が変化することにより、
図12に実線で示すように低温側での抵抗値の変化率が大きく、高温側ではその変化率が小さくなる曲線形状の特性が得られる。
【0059】
そして、
図7〜
図10を用いて説明したヒーター回路4の場合と同様に、各雰囲気温度においてヒーター制御部33から出力された出力制御値に対し、補正値取得部51にて所定のゲインを乗じることにより、
図10(a)に破線で示す下がり傾向、且つ、下に凸の周波数補正値(出力制御値に線形的に対応する周波数補正値)の曲線を得ることができる。
【0060】
以上に説明した実施の形態に係る発振装置によれば以下の効果がある。第1の水晶振動子10を発振させて得られたクロック信号を利用する発振装置からの発振出力を得るにあたり、第1の水晶振動子10が置かれる雰囲気の温度とその温度設定値との偏差分に対応した出力制御値を利用して、当該雰囲気の温度の一定化を図るための加熱部の出力制御(OCXO用)と、雰囲気温度の変化に起因する出力周波数の補正(TCXO用)とに利用している。そして、雰囲気温度と出力周波数との対応関係(出力周波数特性)が非線形であるとき、前記出力制御値に対するヒーター回路4、4a側の応答を、出力周波数特性に合わせて非線形に変化させるためのサーミスタ403、403aを含む補正回路を設けている。この結果、雰囲気温度が変化したとき、出力周波数の補正に適した出力制御値が出力されるように、ヒーター回路4、4a側の応答が調整されるので、当該出力制御値を利用した周波数補正を正確に行うことができる。
【0061】
ここで、雰囲気温度に対する出力周波数特性の変化の態様は、
図6(a)を用いて説明した「下がり傾向、且つ、下に凸」以外の曲線を描く場合もある。
例えば
図13(a)に示すように、雰囲気温度の上昇に対して上がり傾向、且つ、
上に凸の曲線となる場合もある。
この場合において、
図4に示す比較例に係るヒーター回路4’を備える発振装置を用いる場合には、例えばヒーター制御部33から出力される出力制御値に対して、
図6(a)に示す場合とは正負が反対となるように、補正値取得部51にて符号が反対のゲインを乗じる。この結果、
図13(a)に破線で示す補正値直線が得られる。しかしながら、この補正値直線を用いた補正を行っても、出力周波数特性の湾曲に起因する偏差幅が残ってしまう点は、
図6(b)を用いて示した例と同様である(
図13(b))。
【0062】
そこで、
図6〜
図12を用いて説明した例とは上下対称に、下がり傾向、且つ、下に凸の曲線形状を呈する雰囲気温度-ヒーター制御電圧特性を得ることができれば、
図6(a)の出力周波数特性に対してヒーター回路4、4aのヒーター制御電圧特性を利用した例と同様の手法により、
図13(a)の出力周波数特性を改善できる(
図14、
図10(b))。
なお、
図14においても、出力周波数特性と補正値曲線との識別を容易にするため、便宜上、これらの曲線を上下方向に離して記載してある。
【0063】
さらに雰囲気温度に対する出力周波数特性の変化は、
図15(a)に示すように雰囲気温度の上昇に対して上がり傾向、且つ、下に凸の曲線となる場合や、
図15(b)に示すように雰囲気温度の上昇に対して下がり傾向、且つ、上に凸の曲線となる場合も想定できる。
また、電流制御素子としても、既述のp型のFET401の他、n型のFET401aやpnp型のバイポーラトランジスタ401b、npn型のバイポーラトランジスタ401cについても利用することができる(以下、バイポーラトランジスタ401b、401cは、単に「トランジスタ401b、401c」と呼ぶ。)。さらには、サーミスタ403についても、既述のNTCの他、
図17(a)に示す温度−抵抗特性を持つPTC(Positive Temperature Coefficient:正特性)型や
図17(b)に示す温度−抵抗特性を持つCTR(Critical Temperature Resistor)型も存在する。これらPTC型やCTR型のサーミスタ403についても、プリント基板72上におけるサーミスタ403の配置位置や
図7における駆動電源側の抵抗R1、R2、R3’の各定数の調節などにより、使用範囲内において所望の曲線形状を呈する温度−抵抗特性を利用することができる。
【0064】
これら
図6(a)、
図13(a)、
図15(a)、(b)に示した各種の出力周波数特性に対応するヒーター制御電圧特性は、
図18〜
図21の(a)、(b)に示す、ヒーター回路4、4a〜4gを用いて実現することができる(
図18(a)、
図19(a)のヒーター回路4、4aについては、各々、
図7、
図12の再掲である)。ここで、
図18〜
図21の(c)は、NTC型またはCTR型のサーミスタ403、403a〜403gを用いてヒーター回路4、4a〜4gを構成したときの雰囲気温度−ヒーター制御電力特性を示している(
図18(c)、
図19(c)については、各々、
図9、
図12の再掲に相当している)。一方、
図18〜
図21の(d)は、PTC型のサーミスタ403、403a〜403gを用いてヒーター回路4、4a〜4gを構成したときの雰囲気温度−ヒーター制御電力特性を示している。なお、
図18〜
図21の(c)、(d)の各図については、各ヒーター回路4、4a〜4gにサーミスタ403、403a〜403gを設けていない場合の特性を二点鎖線で示してある。
【0065】
これら各種のヒーター回路4、4a〜4gを用い、
図6(a)、
図13(a)、
図15(a)、(b)に示す4種類の出力周波数特性の補正を行う適用例について簡単に説明する。
1番目の適用例として、
図6(a)に示す雰囲気温度の上昇に対して下がり傾向、且つ、下に凸の曲線である出力周波数特性を補正する補正値曲線を得るためには、
図18(c)、
図19(c)、
図20(c)、
図21(c)に示す雰囲気温度−ヒーター制御電力特性が得られるヒーター回路4、4a〜4gを用いる。
そして、
図18(c)、
図19(c)の雰囲気温度−ヒーター制御電力特性に対しては、ヒーター制御電力と、補正値取得部51から出力される周波数補正値との対応関係の傾きが負となるように、ヒーター制御部33や補正値取得部51におけるゲインなどの設定を行う(
図16(a))。また、
図20(c)、
図21(c)の雰囲気温度−ヒーター制御電力特性に対しては、ヒーター制御電力と、補正値取得部51から出力される周波数補正値との対応関係の傾きが正になるように、同様の設定を行う(
図16(b))。
【0066】
2番目の適用例として、
図13(a)に示す雰囲気温度の上昇に対して上がり傾向、且つ、上に凸の曲線である出力周波数特性を補正する補正値曲線を得るためには、
図18(c)、
図19(c)、
図20(c)、
図21(c)に示す雰囲気温度−ヒーター制御電力特性が得られるヒーター回路4、4a〜4gを用いる。
そして、
図18(c)、
図19(c)の雰囲気温度−ヒーター制御電力特性に対しては、ヒーター制御電力と、補正値取得部51から出力される周波数補正値との対応関係の傾きが正となるように、ヒーター制御部33や補正値取得部51におけるゲインなどの設定を行う(
図16(b))。また、
図20(c)、
図21(c)の雰囲気温度−ヒーター制御電力特性に対しては、ヒーター制御電力と、補正値取得部51から出力される周波数補正値との対応関係の傾きが負になるように、同様の設定を行う(
図16(a))。
【0067】
3番目の適用例として、
図15(a)に示す雰囲気温度の上昇に対して上がり傾向、且つ、下に凸の曲線である出力周波数特性を補正する補正値曲線を得るためには、
図18(d)、
図19(d)、
図20(d)、
図21(d)に示す雰囲気温度−ヒーター制御電力特性が得られるヒーター回路4、4a〜4gを用いる。
そして、
図18(d)、
図19(d)の雰囲気温度−ヒーター制御電力特性に対しては、ヒーター制御電力と、補正値取得部51から出力される周波数補正値との対応関係の傾きが正となるように、ヒーター制御部33や補正値取得部51におけるゲインなどの設定を行う(
図16(b))。また、
図20(d)、
図21(d)の雰囲気温度−ヒーター制御電力特性に対しては、ヒーター制御電力と、補正値取得部51から出力される周波数補正値との対応関係の傾きが負になるように、同様の設定を行う(
図16(a))。
【0068】
4番目の適用例として、
図15(b)に示す雰囲気温度の上昇に対して下がり傾向、且つ、上に凸の曲線である出力周波数特性を補正する補正値曲線を得るためには、
図18(d)、
図19(d)、
図20(d)、
図21(d)に示す雰囲気温度−ヒーター制御電力特性が得られるヒーター回路4、4a〜4gを用いる。
そして、
図18(d)、
図19(d)の雰囲気温度−ヒーター制御電力特性に対しては、ヒーター制御電力と、補正値取得部51から出力される周波数補正値との対応関係の傾きが負となるように、ヒーター制御部33や補正値取得部51におけるゲインなどの設定を行う(
図16(a))。また、
図20(d)、
図21(d)の雰囲気温度−ヒーター制御電力特性に対しては、ヒーター制御電力と、補正値取得部51から出力される周波数補正値との対応関係の傾きが正になるように、同様の設定を行う(
図16(b))。
【0069】
また、制御値取得部であるヒーター制御部33にて出力制御値を取得する手法は、ループフィルタを用いて得た温度設定値と温度検出値との偏差分の積分値を出力制御値とする場合に限られない。
例えば、前記偏差分に比例ゲインを乗算して得た比例演算値と、前記偏差分の時間積分値に積分ゲインを乗算して得た積分演算値との合計値であるPI演算値を出力制御値としてもよい。また、前記比例演算値を出力制御値に採用してもよい。
【0070】
そして、温度検出部を構成する第1の水晶振動子10、及び第1の発振回路1を、クロック信号の出力用に共用することは必須ではなく、容器71内に、クロック信号出力専用の水晶振動子や発振回路を別途、設けてもよい。
さらには、温度検出部の構成として、第1、第2の水晶振動子10、20、第1、第2の発振回路1、2、及び周波数差検出部31を設ける場合に限定されるものではない。温度検出部として、例えばサーミスタや熱電対を利用してもよい。