特許第6707368号(P6707368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京瓦斯株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6707368-副生水素利用システム 図000004
  • 特許6707368-副生水素利用システム 図000005
  • 特許6707368-副生水素利用システム 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707368
(24)【登録日】2020年5月22日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】副生水素利用システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20200601BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20200601BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20200601BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20200601BHJP
   F22B 1/18 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   H01M8/04 Z
   H01M8/0606
   H01M8/04 J
   H01M8/00 Z
   H01M8/10
   F22B1/18 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-40252(P2016-40252)
(22)【出願日】2016年3月2日
(65)【公開番号】特開2017-157442(P2017-157442A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽田 貴英
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 慶
【審査官】 清水 康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−208420(JP,A)
【文献】 特開2012−038474(JP,A)
【文献】 特開2013−014509(JP,A)
【文献】 特開2006−073417(JP,A)
【文献】 特開平08−308587(JP,A)
【文献】 特開2003−288935(JP,A)
【文献】 特開昭63−010472(JP,A)
【文献】 特開昭61−069993(JP,A)
【文献】 特開2004−027975(JP,A)
【文献】 特開2005−006427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/2495
F22B 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスが副次的に生成される生産設備と、
前記生産設備で生成された前記水素ガスが供給されて発電する固体高分子型燃料電池と、
前記固体高分子型燃料電池での発電により発生した温水、前記水素ガス以外の燃料及び前記生産設備で生成された前記水素ガスが供給され、前記燃料及び前記水素ガスを燃焼させて前記温水を加熱する燃焼設備と、
分岐点を有し、前記生産設備で生産された前記水素ガスの一部を前記固体高分子型燃料電池に供給し、前記生産設備で生産された前記水素ガスの残りを前記燃焼設備に供給する副生水素供給経路と、
を備え
前記固体高分子型燃料電池及び前記燃焼設備が、以下の式(1)又は式(1)’及び式(2)〜式(4)を満たす副生水素利用システム。
{PEout×TPE/[(PEWtemp−Wtemp)×4.18]}×[(100−PEWtemp)×4.18+2258]≦BOout×TBO・・・(1)
{PEout×TPE/[(PEWtemp−Wtemp)×4.18]}×[(BOWtemp−PEWtemp)×4.18]≦BOout×TBO・・・(1)’
PEout=H2PE×PEη・・・(2)
BOout=(H2BO+TGBO)×Bη・・・(3)
H2total=H2PE+H2BO・・・(4)
(式(1)〜式(4)及び式(1)’中、PEoutは固体高分子型燃料電池の温水出力(W)、TPEは固体高分子型燃料電池の運転時間(秒)、PEWtempは固体高分子型燃料電池にて得られる温水の温度(℃)、Wtempは固体高分子型燃料電池に供給される水の温度(℃)、BOoutは燃焼設備の出力(W)、TBOは燃焼設備の運転時間(秒)、BOWtempは燃焼設備にて得られる加熱された温水の温度(℃)、H2PEは固体高分子型燃料電池への水素供給熱量(J)、PEηは固体高分子型燃料電池の温水回収効率(%)、H2BOは燃焼設備への水素供給熱量(J)、TGBOは燃焼設備への燃料供給熱量、Bηは燃焼設備のエネルギー変換効率(%)、及びH2totalは総水素供給熱量(J)を表す。)
【請求項2】
前記固体高分子型燃料電池及び前記燃焼設備が、以下の式(1)’’及び前記式(2)〜前記式(4)を満たす請求項に記載の副生水素利用システム。
PEout×TPE/[(PEWtemp−Wtemp)×4.18]=BOout×TBO/[(100−PEWtemp)×4.18+2258]・・・(1)’’
【請求項3】
前記固体高分子型燃料電池での発電により生じた電力及び前記燃焼設備にて前記温水が加熱されて生じた熱、は前記生産設備に供給される請求項1又は請求項に記載の副生水素利用システム。
【請求項4】
前記生産設備から供給された前記水素ガスを予め精製する精製装置をさらに備え、
前記固体高分子型燃料電池は、前記精製装置で精製された水素ガスを反応させて発電する請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の副生水素利用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副生水素利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
稼働している工業プラントには、副次的に水素ガスが生成されるプロセスを経るプラントが数多くある。具体的な例として、ポリエチレンやポリプロピレン等の原料であるエチレン、プロピレン等の化学製品を生産する石油化学プラントでは、一連のプロセスの中で水素が副生し、副生した水素を回収して一部を下流プラントで使用している。また、製鉄所では、石炭を乾留してコークスを得るプロセスで水素が副生し、苛性ソーダを電解生成するソーダ電解プラントでは、苛性ソーダと塩素を得るプロセスで水素が副生する(例えば、非特許文献1〜2参照)。
【0003】
このように副生した水素(副生水素)は、化学合成用の原料として利用されるほか、工業プラント内に設置されたボイラ等の熱源に必要とされる熱用燃料として利用される割合が高い。また、外販用に製造されるボンベへの充填用途にも利用されている。そのため、必ずしも余剰の副生水素が無駄に排出ないし消費されている状況ともいえないのが現状である。
【0004】
一方、近年は、燃料電池を搭載した車両等をはじめ、水素を利用したエネルギー環境が重要視され、整備されつつある状況にあり、水素を効率的にエネルギーに変換することができ、より大きなエネルギーとして利用できれば、水素利用環境におけるエネルギー利用効率が飛躍的に改善されることになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「食塩電解工業における副生水素利用の現状」、福岡正雄著、水素エネルギーシステムVol.28,No.1,p.16〜22(2003)
【非特許文献2】「石油・化学業界の既存設備を活用した高純度水素の供給可能性と石油業界の位置付け」、早内義隆、石倉雅裕共著、水素エネルギーシステムVol.28,No.1,p.23〜28(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、数ある工業プラントで副生される副生水素の多くは、副生母体であるプラントに併設されている熱源用の燃料として利用されているのが実情である。つまり、副生水素を燃焼用燃料として利用し、熱交換装置を備えた例えばボイラ等において、燃焼熱を水と熱交換し、水蒸気又は温水もしくは熱水の形態で熱エネルギーとして利用している。そのため、水素のエネルギーとしての利用効率は必ずしも高くない。
【0007】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、副生水素を用いてエネルギーの利用効率が改善された副生水素利用システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、例えば以下の手段により解決される。
<1> 水素ガスが副次的に生成される生産設備と、前記生産設備で生成された前記水素ガスが供給されて発電する固体高分子型燃料電池と、前記固体高分子型燃料電池での発電により発生した温水、前記水素ガス以外の燃料及び前記生産設備で生成された前記水素ガスが供給され、前記燃料及び前記水素ガスを燃焼させて前記温水を加熱する燃焼設備と、を備える副生水素利用システム。
【0009】
従来、生産設備で副次的に生成された水素(副生水素)は、化学合成用の原料又は外販用ボンベの充填用ガスとして用いられるほか、多くは、図3に示されるように、工業生産システム400内に副生水素発生プラント410に併設された蒸気ボイラ420等の燃焼設備に供給され、熱用燃料として利用されてきた。そのため、余剰水素として廃棄される副生水素こそ少ないものの、エネルギーとしての利用効率の点では必ずしも高いとは言い難い状況にあった。
【0010】
一方、固体高分子型燃料電池(PEFC)では、純度の比較的高い水素の供給が求められることから、水素ガスに対する代替燃料は考え難いところ、ボイラ等の燃焼設備で使用される燃料は、水素から水素以外の燃料に代替が可能である。
【0011】
上記の状況に鑑みて、本形態の副生水素利用システムでは、副次的に生成された副生水素を利用するためのPEFCを新たに配設し、副生水素をボイラ等の燃焼設備とともにPEFCに供給する。さらに、燃焼設備に使用する燃料として、副生水素である水素ガスとともに水素ガス以外の燃料(例えば、都市ガス、天然ガス、重油、灯油、軽油等の燃料)を燃焼設備に供給する。
【0012】
これにより、比較的純度の高い副生水素は、PEFCに供給されて発電用途として消費されることで、熱エネルギーとしてではなく、電気エネルギーに変換される。PEFCでの水素の発電効率は、ボイラ等での水素の蒸気変換効率に比べると高いとは言い難いものの、二次エネルギーである電力から換算される一次エネルギーは2.5倍を超える。そのため、副生水素の一部をPEFCに供給し、残りを燃焼設備に供給した場合、全ての副生水素を燃焼設備に供給した場合と比較して、二次エネルギーから換算される一次エネルギーに対し、プラント全体のエネルギー効率は大幅に改善され、一定量の副生水素に基づいて得られるエネルギー量を高めることができる。
【0013】
PEFCは、常温で起動し、作動温度も低く、かつ、発電効率に優れている観点から、副生水素利用システムのエネルギー効率を効果的に向上させるのに適している。
【0014】
さらに、本形態の副生水素利用システムでは、副生水素がPEFCに供給されて反応することで、電気エネルギーとともに熱エネルギーが得られる。この熱エネルギーを水と熱交換することで、加熱された水(温水)として取り出すことができる。温水として取り出した熱エネルギーが燃焼設備に供給されることで全体でのエネルギー効率をさらに高めることができる。
【0015】
以上により、本形態の副生水素利用システムでは、副生水素を発電用燃料及び燃焼用燃料として用いることによって、水素のエネルギー価値を高めることが可能となり、エネルギー利用効率が改善される。
【0016】
<2> 前記固体高分子型燃料電池及び前記燃焼設備が、以下の式(1)又は式(1)’及び式(2)〜式(4)を満たす<1>に記載の副生水素利用システム。
{PEout×TPE/[(PEWtemp−Wtemp)×4.18]}×[(100−PEWtemp)×4.18+2258]≦BOout×TBO・・・(1)
{PEout×TPE/[(PEWtemp−Wtemp)×4.18]}×[(BOWtemp−PEWtemp)×4.18]≦BOout×TBO・・・(1)’
PEout=H2PE×PEη・・・(2)
BOout=(H2BO+TGBO)×Bη・・・(3)
H2total=H2PE+H2BO・・・(4)
(式(1)〜式(4)中、PEoutは固体高分子型燃料電池の温水出力(W)、TPEは固体高分子型燃料電池の運転時間(秒)、PEWtempは固体高分子型燃料電池にて得られる温水の温度(℃)、Wtempは固体高分子型燃料電池に供給される水の温度(℃)、BOoutは燃焼設備の出力(W)、TBOは燃焼設備の運転時間(秒)、BOWtempは燃焼設備にて得られる加熱された温水の温度(℃)、H2PEは固体高分子型燃料電池への水素供給熱量(J)、PEηは固体高分子型燃料電池の温水回収効率(%)、H2BOは燃焼設備への水素供給熱量(J)、TGBOは燃焼設備への燃料供給熱量、Bηは燃焼設備のエネルギー変換効率(%)、及びH2totalは総水素供給熱量(J)を表す。)
【0017】
本形態の副生水素利用システムでは、上記式(1)及び式(2)〜式(4)を満たすように固体高分子型燃料電池及び燃焼設備の各条件を調整することにより、PEFCで発生する温水を無駄なく蒸気として得ることが可能である。また、上記式(1)’ 及び式(2)〜式(4)を満たすように固体高分子型燃料電池及び燃焼設備の各条件を調整することにより、PEFCで発生する温水を無駄なくBOWtemp℃の熱水として得ることが可能である。
【0018】
<3> 前記固体高分子型燃料電池及び前記燃焼設備が、以下の式(1)’’及び前記式(2)〜前記式(4)を満たす<2>に記載の副生水素利用システム。
PEout×TPE/[(PEWtemp−Wtemp)×4.18]=BOout×TBO/[(100−PEWtemp)×4.18+2258]・・・(1)’’
【0019】
本形態の副生水素利用システムでは、上記式(1)’’及び式(2)〜式(4)を満たすように固体高分子型燃料電池及び燃焼設備の各条件を調整することにより、PEFCで発生する温水を無駄なく蒸気として得ることが可能であり、PEFCにて発生する温水を無駄なく使用できる。
【0020】
<4> 前記固体高分子型燃料電池での発電により生じた電力及び前記燃焼設備にて前記温水が加熱されて生じた熱、は前記生産設備に供給される<1>〜<3>のいずれか1つに記載の副生水素利用システム。
【0021】
本形態の副生水素利用システムでは、PEFCでの発電により得られた電力を生産設備に供給することで、外部の電力系統から生産設備に供給される電力量を削減することができる。また、PEFCにて温水として取り出した熱エネルギーが燃焼設備に供給されて生じた熱を生産設備に供給することで、PEFCを配置せずに副生水素を燃焼用燃料として用いて生じた熱を生産設備に供給する場合と比較して全体でのエネルギー効率をより高めることができる。
【0022】
<5> 前記生産設備から供給された前記水素ガスを予め精製する精製装置をさらに備え、前記固体高分子型燃料電池は、前記精製装置で精製された水素ガスを反応させて発電する<1>〜<4>のいずれか1つに記載の副生水素利用システム。
【0023】
生産設備で副生される副生水素の純度は様々である一方、PEFCに供給する水素には高い純度が要求される。本形態の副生水素利用システムでは、PEFCに供給される前の副生水素をあらかじめ精製することにより、発電効率を高く維持し、燃料電池の耐久性を維持、改善することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、副生水素を用いてエネルギーの利用効率が改善された副生水素利用システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る副生水素利用システムの概略構成を示すシステム構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る副生水素利用システムの変形例の構成を示すシステム構成図である。
図3】従来システムの構成を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の副生水素利用システムの実施形態について具体的に説明する。但し、本発明は、以下に示す実施形態に制限されるものではない。
【0027】
本発明に係る副生水素利用システムの一実施形態を、図1を参照して説明する。本実施形態に係る副生水素利用システム100は、水素ガスが副次的に生成される副生水素発生プラント3(生産設備)と、水素ガスが供給されて発電するPEFC1と、供給された燃料及び水素ガスを燃焼させて温水を加熱する蒸気ボイラ2(燃焼設備)と、を備えている。
【0028】
本実施形態では、副生水素発生プラント3にて生成された副生水素が、PEFC1及び蒸気ボイラ2に供給され、PEFC1での発電にて得られた発電電力が副生水素発生プラント3に供給される。また、PEFC1での発電にて得られた温水は、蒸気ボイラ2へ供給され、供給された温水は燃料及び水素ガスの燃焼により加熱されて水蒸気となる。蒸気ボイラ2にて得られた水蒸気は、副生水素発生プラント3に供給されて熱エネルギーとして利用される。
【0029】
これにより、比較的純度の高い副生水素は、PEFCに供給されて発電用途として消費されることで、熱エネルギーとしてではなく、電気エネルギーに変換される。PEFCでの水素の発電効率は、ボイラ等での水素の蒸気変換効率に比べると高いとは言い難いものの、二次エネルギーである電力から換算される一次エネルギーは2.5倍を超える。そのため、副生水素の一部をPEFC1に供給し、残りを蒸気ボイラ2に供給した場合、全ての副生水素を蒸気ボイラ2に供給した場合と比較して、二次エネルギーから換算される一次エネルギーに対し、プラント全体のエネルギー効率は大幅に改善され、一定量の副生水素に基づいて得られるエネルギー量を高めることができる。
【0030】
さらに、本実施形態の副生水素利用システム100では、副生水素がPEFC1に供給されて反応することで、電気エネルギーとともに熱エネルギーが得られる。この熱エネルギーを水と熱交換することで、加熱された水(温水)として取り出すことができる。温水として取り出した熱エネルギーが蒸気ボイラ2に供給されることで全体でのエネルギー効率をさらに高めることができる。
【0031】
以上により、本実施形態の副生水素利用システム100では、副生水素を発電用燃料及び燃焼用燃料として用いることによって、水素のエネルギー価値を高めることが可能となり、エネルギー利用効率が改善される。
以下、副生水素利用システム100の各構成について説明する。
【0032】
副生水素発生プラント3は、一部の生産プロセスで水素が副次的に生成されてくる設備であれば、特に制限されない。副生水素発生プラント3は、エネルギーの改善効率が高まる点から、水素生成量の多いプラントが好ましい。
【0033】
副生水素発生プラントの例としては、エチレン、プロピレン等の化学製品を生産する石油化学プラント、製鉄所、苛性ソーダを電解生成するソーダ電解プラントなどが挙げられる。
【0034】
蒸気ボイラ2は、副生水素発生プラント3内の被加熱部を加熱する際に必要な熱を賄うための燃焼装置である。蒸気ボイラ2には、副生水素発生プラント3にて生成された副生水素を供給するための副生水素供給経路11、PEFC1での発電により得られた温水を供給するための温水供給経路12及び燃焼用燃料として都市ガスを供給するためのガス供給経路13が接続されている。なお、都市ガスは、外部施設(図示せず)よりガス供給経路13を通じて蒸気ボイラ2に供給される。
【0035】
本実施形態では、副生水素発生プラント3にて生成された副生水素の一部が副生水素供給経路11を通じてPEFC1に供給され、残りの副生水素が燃料として副生水素供給経路11を通じて蒸気ボイラ2に供給される。
【0036】
副生水素発生プラント3より供給された副生水素及び外部施設より供給された都市ガスが燃焼されることで熱が生成し、生成熱はPEFC1より供給された温水との熱交換により水蒸気として取り出される。取り出された水蒸気は、蒸気ボイラ2と副生水素発生プラント3との間を繋ぐ水蒸気供給経路14を通じて副生水素発生プラント3へ供給される。これにより、PEFCを配置せずに副生水素を燃焼用燃料として用いて生じた熱をボイラ等の生産設備に供給する場合と比較して全体でのエネルギー効率をより高めることができる。
【0037】
水素ガス以外の燃焼用燃料としては、前述の都市ガスに限定されず、他にもLPガス、天然ガス、消化ガス、重油、灯油、軽油等の燃料が挙げられる。
【0038】
なお、水蒸気とは、気体の状態になっている水、及びこれが空気中で凝結して細かい水滴となったものを包含する意味である。
【0039】
本実施形態では、燃焼設備として蒸気ボイラを備えた態様を示したが、蒸気ボイラのほか、ガスタービン等を用いてもよい。なお、蒸気ボイラなどの燃焼設備としては、燃焼により得られた熱を温水と熱交換して水蒸気とするもののほか、燃焼により得られた熱を温水と熱交換して温水をより温度の高い熱水とするものであってもよい。
【0040】
固体高分子型燃料電池であるPEFC1は、副生水素供給経路11によって副生水素発生プラント3と連通されている。副生水素発生プラント3で生成された副生水素は、副生水素供給経路11を通じて、PEFC1のアノード側に供給される。
【0041】
PEFC1は、一般に、高分子電解質膜をアノード極(燃料極)及びカソード極(酸素極)で挟んだセルを更にセパレータで挟んだ構造を有する。PEFC1のアノード側に水素が供給されたとき、以下の反応(a)に示すように、水素イオンが生成される。
→2H+2e・・・(a)
【0042】
PEFC1にて、生成された水素イオンは高分子電解質膜を通じてカソード側へ移動し、以下の反応(b)に示すように、カソード側で水素イオンが酸素と反応して水を生成する反応が生じ、発電する。
1/2O+2H+e→HO・・・(b)
【0043】
発電により得られた電力は、電力系統21を介して副生水素発生プラント3へ供給される。これにより、副生水素発生プラント3を作動する際に必要な外部電力の一部を、PEFC1にて得られた発電電力でまかなうことができ、外部の電力系統から供給される電力量を削減することができる。
【0044】
また、PEFC1では、発電に加えて熱エネルギーが発生する。通常、発生した熱エネルギーを、生成された水と熱交換することで得られる温水の温度は60℃程度であり、工業用に使用するには温水の温度が低く、有効活用が難しい。一方、本実施形態に係る副生水素利用システム100では、得られた温水が温水供給経路12を通じて蒸気ボイラ2に送られ、蒸気ボイラ2にて利用される。これにより、PEFC1から発生した温水を有効利用できる。
【0045】
PEFC1は、上記のように、セパレータ/燃料極/高分子電解質膜/酸素極/セパレータの積層構造を有する単セルを備える燃料電池を指し、必要に応じて、更に、水素を改質生成する改質器を備えた燃料電池であってもよい。
【0046】
さらに、本実施形態に係る副生水素利用システム100では、PEFC1及び蒸気ボイラ2が、以下の式(1)又は式(1)’及び式(2)〜式(4)を満たすことが好ましい。なお、式(1)中、4.18は水の比熱(J/(g・K))であり、2258は水の蒸発潜熱(J/g)を表す。
{PEout×TPE/[(PEWtemp−Wtemp)×4.18]}×[(100−PEWtemp)×4.18+2258]≦BOout×TBO・・・(1)
{PEout×TPE/[(PEWtemp−Wtemp)×4.18]}×[(BOWtemp−PEWtemp)×4.18]≦BOout×TBO・・・(1)’
PEout=H2PE×PEη・・・(2)
BOout=(H2BO+TGBO)×Bη・・・(3)
H2total=H2PE+H2BO・・・(4)
(式(1)〜式(4)中、PEoutはPEFC1の温水出力(W)、TPEはPEFC1の運転時間(秒)、PEWtempはPEFC1にて得られる温水の温度(℃)、WtempはPEFC1に供給される水の温度(℃)、BOoutは蒸気ボイラ2の出力(W)、TBOは蒸気ボイラ2の運転時間(秒)、BOWtempは蒸気ボイラ2にて得られる加熱された温水の温度(℃)、H2PEはPEFC1への水素供給熱量(J)、PEηはPEFC1の温水回収効率(%)、H2BOは蒸気ボイラ2への水素供給熱量(J)、TGBOは蒸気ボイラ2への燃料供給熱量、Bηは蒸気ボイラ2の蒸気回収効率(エネルギー変換効率)(%)、及びH2totalは総水素供給熱量(J)を表す。)
【0047】
本実施形態の副生水素利用システム100では、上記式(1)及び式(2)〜式(4)を満たすようにPEFC1及び蒸気ボイラ2の各条件を調整することにより、PEFC1で発生する温水を無駄なく蒸気として得ることが可能である。また、上記式(1)’ 及び式(2)〜式(4)を満たすようにPEFC1及び蒸気ボイラ2の各条件を調整することにより、PEFC1で発生する温水を無駄なくBOWtemp℃の熱水として得ることが可能である。
【0048】
より詳細には、上記式(1)中の左辺は、PEFC1で発生する温水を100℃の蒸気とするために必要な熱量を指しており、上記式(1)中の右辺は、蒸気ボイラ2にて温水が受け取る熱量を指している。ここで、式(1)を満たすことで、PEFC1で発生する温水が無駄なく100℃以上の蒸気となる。
【0049】
次に、上記式(1)’中の左辺は、PEFC1で発生する温水をBOWtemp℃の熱水まで昇温するために必要な熱量を指しており、上記式(1)中の右辺は、蒸気ボイラ2にて温水が受け取る熱量を指している。ここで、式(1)’を満たすことで、PEFC1で発生する温水がBOWtemp以上の温度の熱水となるまで蒸気ボイラ2にて加熱される。
【0050】
また、本実施形態に係る副生水素利用システム100では、PEFC1及び蒸気ボイラ2が、以下の式(1)’’及び式(2)〜式(4)を満たすことがより好ましい。
PEout×TPE/[(PEWtemp−Wtemp)×4.18]=BOout×TBO/[(100−PEWtemp)×4.18+2258]・・・(1)’’
【0051】
本実施形態の副生水素利用システム100では、上記式(1)’’及び式(2)〜式(4)を満たすようにPEFC1及び蒸気ボイラ2の各条件を調整することにより、PEFC1で発生する温水を無駄なく蒸気(100℃の蒸気)として得ることが可能であり、PEFC1にて発生する温水を無駄なく使用できる。
【0052】
より詳細には、上記式(1)’’中の左辺は、PEFC1にて発生する温水量を表し、上記式(1)’’中の右辺は、蒸気ボイラ2に供給される給水量を表す。使用するPEFC1及び蒸気ボイラ2における出力、回収効率及び運転時間に応じて、PEFC1にて発生する温水量と蒸気ボイラ2に供給される給水量とがバランスするように、PEFC1及び蒸気ボイラ2への水素供給熱量並びに蒸気ボイラ2への水素以外の燃料供給熱量を設定すればよい。
【0053】
次に、本実施形態に係る副生水素利用システム100において、水素のエネルギー価値を見積もったシミュレーション結果を従来システムと対比して以下に示す。従来システムは、燃焼設備として蒸気ボイラを用いた場合を例に挙げて示す。
【0054】
水素のエネルギー価値とは、エネルギーとしての利用価値のことであり、水素ガスをエネルギー源として利用する際に実際に得られるエネルギーの大きさのことを指す。例えば、システムに導入する水素ガス(一次エネルギー)の量aを使用して得られる二次エネルギーが、a(等倍)のままの使用法と、2aとなる使用法とでは、実質的なエネルギー量が異なり、同量の水素(一次エネルギー)でも、後者はエネルギーとしての利用価値が2倍高いといえる。
【0055】
まず、PEFCと蒸気ボイラとに副生水素を供給した場合(本実施形態に係る副生水素利用システム100)における水素の一次エネルギーとしての価値と、蒸気ボイラのみに副生水素を供給した場合における水素の一次エネルギーとしての価値と、を対比する。
【0056】
PEFCの発電効率、蒸気ボイラの蒸気回収効率をそれぞれ55%、95%と仮定し、蒸気及び電力の一次エネルギー換算値(単位:ギガジュール[GJ])をそれぞれ以下の表1に示す値と仮定する。一次エネルギー換算値は、いずれも日本ガス協会の公開値(「電気の使用に係るCO排出係数を考える CO削減対策の評価に用いる電気のCO排出係数について <2010年施行温対法対応版> 」一般社団法人日本ガス協会)である。なお、電力の一次エネルギー換算値(9.63GJ/MWh)は、昼間の9.97GJ/MWhと夜間の9.28GJ/MWhの平均値である。
【0057】
【表1】
【0058】
上記表1の条件下、供給する水素ガスの量をエネルギー換算で100ギガジュール(GJ)と仮定する。また、PEFCと蒸気ボイラとに副生水素を供給する際、PEFCに供給する副生水素と、蒸気ボイラに供給する副生水素のモル比を1:1、すなわち、同量の副生水素をPEFC及び蒸気ボイラに供給すると仮定する。
【0059】
このとき、PEFCと蒸気ボイラとに副生水素を供給した場合及び蒸気ボイラのみに副生水素を供給した場合において、二次エネルギー、及び二次エネルギーから換算した一次エネルギーの値はそれぞれ以下のようになる。
PEFC+蒸気ボイラでの二次エネルギーの値・・・100GJ×0.5×0.55+100GJ×0.5×0.40+100GJ×0.5×0.95=95GJ
PEFC+蒸気ボイラでの一次エネルギーの換算値・・・(100GJ×0.5×0.55)×2.67GJ/GJ+(100GJ×0.5×0.40)/(95/100)+(100GJ×0.5×0.95)×1.02GJ/GJ=143GJ
蒸気ボイラのみでの二次エネルギーの値・・・100GJ×0.95=95GJ
蒸気ボイラのみでの一次エネルギーの換算値・・・100GJ×0.95×1.02GJ/GJ=96.9GJ
【0060】
【表2】
【0061】
単体での水素ガスの利用効率は、PEFC及びボイラを利用する場合と蒸気ボイラのみを利用する場合とで同じであるが、表2に示されるように、同量の水素から得られる二次エネルギーより換算される一次エネルギーを対比すると、PEFC及びボイラを利用した場合の一次エネルギーは、蒸気ボイラのみを利用した場合の一次エネルギーに比べて約1.5倍高いことがわかる。したがって、プラント全体でのエネルギー効率が飛躍的に改善されることが推測される。
【0062】
(変形例)
次に、上記実施形態の変形例を示す。変形例を図2に示す。なお、図2に示す変形例では、上記実施形態と同様の構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0063】
変形例は、図2に示す副生水素利用システム200のように、副生水素発生プラント3とPEFC1とを連通する副生水素供給経路11に、副生水素を精製するための精製装置4が取り付けられている。
【0064】
供給された副生水素の純度が低い場合、精製装置4で不純物が取り除かれ、高純度の副生水素がPEFC1に供給される。これにより、PEFC1の発電効率及び耐用年数を維持、向上させることができる。
【0065】
副生水素中の不純物としては、メタンガス等の炭化水素ガス、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0066】
精製装置4は、水素ガス中に混入している不純物を除去することができる装置を適宜選択すればよい。精製装置4の具体例としては、圧力変動吸着法(PSA法)を利用して加圧、減圧を繰り返す際のガス成分の着脱によりガス分離を行うPSA(Pressure Swing Adsorption)装置、二酸化炭素を選択的に分離する二酸化炭素分離膜、硫黄を吸着する活性炭もしくは合金粒子等の脱硫剤などが挙げられる。
【0067】
精製装置4は、図2に示されるように副生水素供給経路11の分岐点よりも下流のPEFC1側に配置されていてもよく、副生水素供給経路11の分岐点よりも上流に配置されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本開示の水素利用システムは、エチレン、プロピレン等の化学製品を生産する石油化学プラント、製鉄所、ソーダ電解プラント等の、副次的に水素ガスが生成されるプロセスを有する工業プラントにおいて好適である。
【符号の説明】
【0069】
1 PEFC(固体高分子型燃料電池)
2 蒸気ボイラ(燃焼設備)
3 副生水素発生プラント(生産設備)
4 精製装置
11 副生水素供給経路
12 温水供給経路
13 都市ガス供給経路
14 水蒸気供給経路
21 電力系統
100、200 副生水素利用システム
図1
図2
図3