特許第6707425号(P6707425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707425
(24)【登録日】2020年5月22日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】立坑壁構造
(51)【国際特許分類】
   E21D 5/11 20060101AFI20200601BHJP
【FI】
   E21D5/11
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-173947(P2016-173947)
(22)【出願日】2016年9月6日
(65)【公開番号】特開2018-40134(P2018-40134A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】麻 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】真柴 浩
(72)【発明者】
【氏名】岡本 亮太
【審査官】 彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−158671(JP,A)
【文献】 特開2007−177483(JP,A)
【文献】 特開2002−188390(JP,A)
【文献】 特開平09−177360(JP,A)
【文献】 特開2011−256658(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105736003(CN,A)
【文献】 特開2012−031684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留め壁を構成する壁本体と、
前記壁本体の一部に形成された鏡部と、を備える立坑壁構造であって、
前記鏡部は、掘削機で切削可能な切削可能部材の一部を含んで構成されており、
前記切削可能部材の端部には、前記壁本体に埋め込まれた定着部が形成されていて、
前記定着部には、前記壁本体のせん断補強筋が接続されていることを特徴とする、立坑壁構造。
【請求項2】
前記定着部は、前記切削可能部材の端部に固定された鋼板を有しており、
少なくとも前記壁本体の壁厚方向に対して前記鋼板の縁が前記切削可能部材から張り出しており、
前記せん断補強筋は、前記鋼板の張り出し部分に固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の立坑壁構造。
【請求項3】
前記定着部には、前記せん断補強筋を接続するための機械式継手が固定されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の立坑壁構造。
【請求項4】
前記定着部には、当該定着部に接続された前記せん断補強筋の延長線上に、他のせん断補強筋が接続されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の立坑壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド機等の発進用または到達用の鏡部を有する立坑壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法では、発進立坑から到達立坑に向けてシールド掘削機を掘進させるとともに、シールド掘削機により形成された掘削孔内に、セグメントリングを連設することによりトンネルを構築する。
発進立坑および到達立坑には、シールド掘削機で切削可能な鏡部(エントランス)が形成される場合がある。
例えば、特許文献1には、繊維強化された発泡ウレタン製板材や繊維強化された無機材料製板材等からなる切削可能部材が配設された鏡部が開示されている。切削可能部材の端部は壁本体に埋め込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−031684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
切削可能部材の端部が壁本体に埋め込まれていると、切削可能部材と壁本体のせん断補強筋とが干渉してしまう。切削可能部材とせん断補強筋とが干渉する場合には、切削可能部材と干渉しない位置においてせん断補強筋を密に配筋することで、必要な鉄筋量を確保する場合がある。
ところが、せん断補強筋の配筋ピッチの変更しようとすると、設計変更に手間がかかる。また、鉄筋が密に配筋されるので、配筋作業にも手間がかかる。
本発明は、このような従来技術の課題を解決すべくなされたものであり、せん断補強筋の配筋ピッチを変更する必要がなく、簡易に構成することが可能な立坑壁構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明に係る立坑壁構造は、土留め壁を構成する壁本体と、前記壁本体の一部に形成された鏡部とを備えるものであって、前記鏡部には掘削機で切削可能な切削可能部材の一部を含んで構成されており、前記切削可能部材の端部には前記壁本体に埋め込まれた定着部が形成されていて、前記定着部には前記壁本体のせん断補強筋が接続されていることを特徴としている。
かかる立坑壁構造によれば、切削可能部材によりせん断補強部材が分断されることがなく、連続したせん断補強構造が形成される。そのため、鏡部の周囲に対してもせん断補強を行うことが可能となる。掘削機により鏡部を切削する際には、切削可能部材の定着部以外の部分を切削する。
【0006】
なお、前記定着部が、前記切削可能部材の端部に固定された鋼板を有しており、少なくとも前記壁本体の壁厚方向に対して前記鋼板の縁が前記切削可能部材から張り出している場合には、前記せん断補強筋を前記鋼板の張り出し部分に固定することで、鏡部周囲の壁本体のせん断補強構造を構築することができる。
また、前記定着部に、前記せん断補強筋を接続するための機械式継手が固定されていれば、壁本体のせん断補強筋の接続が容易である。
さらに、前記定着部には、当該定着部に接続された前記せん断補強筋の延長線上に、他のせん断補強筋が接続されていれば、本体部の壁厚方向に対してせん断補強鉄筋を連続して配筋した場合と同様のせん断補強構造を構築することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の立坑壁構造によれば、せん断補強筋の配筋ピッチを変更する必要がなく、簡易に鏡部(エントランス)を有する立坑を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る立坑を示す図であって、(a)は断面図、(b)はA−A矢視図である。
図2】立坑の鏡部を示す図であって、(a)は断面図、(b)は(a)のB−B矢視図である。
図3】切削可能部材と壁本体との接合部を示す図であって、(a)は拡大断面図、(b)は(a)のC−C矢視図である。
図4】他の形態に係る切削可能部材と壁本体との接合部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、シールド掘削機の発進立坑として使用する立坑1について説明する。立坑1は、図1に示すように、地盤を縦方向に掘削することにより形成されていて、側壁11と底版12を有している。なお、立坑1は、到達立坑であってもよいし、発進立坑と到達立坑との両方を目的とした立坑であってもよい。
本実施形態の側壁11は、円筒状を呈している。なお、側壁11の形状は限定されるものではなく、例えば角筒状であってもよい。
側壁(立坑壁構造)11は、鉄筋コンクリート製の壁本体2と、壁本体2の一部に形成された鏡部3とを有している。
底版12は、立坑1の底部を遮蔽する鉄筋コンクリート部材である。
【0010】
壁本体2は、立坑1の土留め壁(側壁11)として機能する。本実施形態の壁本体2は、鉄筋コンクリートにより形成されている。壁本体2の内部には、縦筋、横筋、せん断補強筋5(図3参照)等の補強部材が埋設されている。壁本体2の厚さや、各鉄筋の配筋ピッチ等は限定されるものではなく、立坑1の形状や地山状況等に応じて適宜決定すればよい。
壁本体2の一部には、図2(a)に示すように、鏡部3を形成するための開口部21が形成されている。本実施形態の開口部21は、図2(b)に示すように、円形を呈しているが、開口部21の形状および大きさは限定されるものではなく、掘削機の形状寸法等に応じて適宜設定すればよい。
開口部21の内面上下には、複数の凹部22,22,…が形成されている。凹部22には、鏡部の切削可能部材4の端部が挿入されている。なお、開口部21の内面には、凹部22に代えて、開口部21の周方向に連続した溝が形成されていてもよい。
【0011】
鏡部3は、壁本体2の一部に形成されており、壁本体2に形成された開口部21を遮蔽している。鏡部3は、壁本体2とは異なる構造を有していて、シールド掘削機によって、切削することができる。
本実施形態の鏡部3は、図2(b)に示すように、開口部21の形状に応じて、正面視円形を呈している。なお、鏡部3の形状寸法は限定されるものではなく、例えば矩形にするなど、開口部21に応じて適宜形成すればよい。
鏡部3は、図2(a)に示すように、外側層31、中間層32および内側層33が積層されることにより、土圧および地下水圧に対して十分な耐力を有した状態で形成されている。なお、鏡部3は、必ずしも複数の層を積層することにより形成する必要はない。
【0012】
外側層31および内側層33は、無筋コンクリートにより形成されている。外側層31および内側層33の壁厚は、作用土圧や壁本体2の壁厚等に応じて適宜決定すればよい。なお、外側層31および内側層33を構成する材料は限定されるものではない。
中間部32は、シールド掘削機により切削することができる複数の切削可能部材4,4,…により形成されている。切削可能部材4を構成する材料は限定されるものではないが、本実施形態では、FFU部材(Fiber reinforced Foamed Urethane:ガラス長繊維強化ポリウレタン発泡樹脂成形体)を使用する。切削可能部材4にはガラス長繊維が配設されているため、鏡部3に作用する土圧および地下水圧に対して十分な耐力を発現する。
【0013】
切削可能部材4は、上下方向に延びる柱状部材であって、図2(b)に示すように、壁本体2の周方向(横方向)に対して、所定の間隔をあけて複数配設されている。切削可能部材4の上下端(定着部41,41)は、それぞれ壁本体2に形成された凹部22,22に埋め込まれている。鏡部3を掘削機で切削する際には、切削可能部材4の定着部41以外の部分を切削する。
図3(a)に示すように、切削可能部材4の上端および下端(図3では下端のみを表示)には、定着部41,41が形成されている。定着部41は、図3(b)に示すように、切削可能部材4を挟持する一対の鋼板42,42により形成されている。鋼板42,42には、ボルト孔が形成されている。一対の鋼板42,42は、ボルト孔および切削可能部材4の端部を貫通したボルト43,43,…により切削可能部材4の端部に固定されている。なお、鋼板42,42の固定方法は限定されるものではない。
【0014】
切削可能部材4の端部には、他の鋼板(中鋼板45)が配設されている。中鋼板45は、外面側および内面側に配設された一対の鋼板42,42の間に配設されている。中鋼板45は、切削可能部材4の端部に形成された切り込みに挿入する。すなわち、定着部41は、複数の鋼板と、切削可能部材4の端部とが交互に積層されることにより形成されている。なお、中鋼板45は、必要に応じて配設すればよく、省略してもよい。
【0015】
鋼板42の縁部分は、切削可能部材4の外側(地山側)および内側(内空側)に張り出している。また、鋼板42の縁部分は、切削可能部材4の上端または下端からも張り出している。
鋼板42の縁部分(切削可能部材4から張り出した部分)には、機械式継手(カプラー)44,44,…が固定されている。機械式継手44は、金属製の筒状部材からなり、壁本体2のせん断補強筋5に対応する位置に溶接されている。本実施形態では、せん断補強筋5の端部を機械式継手44に挿入するとともに、せん断補強筋5と機械式継手44の内面との隙間にグラウト等の充填固化材を充填することより、せん断補強筋5を鋼板42に固定する。なお、機械式継手44とせん断補強筋5との接合方法は限定されるものではなく、機械式継手44の構成に応じて適宜行えばよい。例えば、内面に雌ネジ加工が施された機械式継手44を使用する場合には、端部に雄ネジ加工が施されたせん断補強筋5を螺合すればよい。また、筒状の機械式継手44にせん断補強筋の端部を挿入した状態で、機械式継手44の外面から圧力を加えて機械式継手44をせん断補強筋5に圧着してもよい。
鋼板42の内空側の機械式継手44には、壁本体2のせん断補強筋5が接続されている。また、鋼板42の外側(立坑の外面側)には、壁本体2のせん断補強筋5の延長線上に、機械式継手44を介して他のせん断補強筋51が接続されている。なお、他のせん断補強筋51と機械式継手44との接合方法は、せん断補強筋5と機械式継手44との接合方法と同様とする。
【0016】
以上、本実施形態の立坑壁構造によれば、切削可能部材4によりせん断補強筋5が分断されることがなく、鏡部3の周囲に連続したせん断補強構造が形成される。そのため、鏡部3の周囲に対してもせん断補強を行うことが可能となる。すなわち、壁本体2の開口部21の縁部分に配筋されたせん断補強筋5は、鋼板42を介して壁本体2の壁厚方向に連続している。そのため、切削可能部材4の端部を壁本体2に埋め込んでも、壁本体2に弱部が形成されることはない。
また、せん断補強鉄筋5を、切削可能部材4と干渉することがないように、ずらした位置で密に配筋する必要がないため、設計に要する手間および配筋作業に要する手間を低減または省略することができる。
また、鋼板42には、せん断補強筋5の位置に対応して機械式継手44が固定されているため、鋼板とせん断補強筋5との接続が容易となり、その結果、施工性に優れている。また、切削可能部材4の位置決めも容易である。
【0017】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
前記実施形態では、機械式継手44を介して、鋼板42とせん断補強鉄筋5とを接合する場合について説明したが、図4に示すように、せん断補強鉄筋5は鋼板42に溶接してもよい。
前記実施形態では、シールド掘削機の発進立坑について説明したが、立坑1を利用して形成されるトンネルはシールドトンネルに限定されるものではなく、例えば、推進トンネルであってもよい。
定着部の構成は限定されるものではなく、必ずしも鋼板が配設されている必要はない。例えば、鋼材を切削可能部材4の端部に固定しておき、せん断補強筋5との接続が可能に構成してもよい。また、切削可能部材4の端部にシース管を固定(内蔵)しておき、せん断補強鉄筋5を当該シース管に挿通させてもよい。
【符号の説明】
【0018】
1 立坑
11 側壁(立坑壁構造)
12 底版
2 壁本体
21 開口部
22 凹部
3 鏡部
4 切削可能部材
41 定着部
42 鋼板
43 ボルト
44 機械式継手
5 せん断補強筋(せん断補強部材)
図1
図2
図3
図4