(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
低融点金属層と高融点金属層を積層したヒューズエレメントであって、上記高融点金属層の表面のX線回折スペクトル(2θ)に於けるピークの内、少なくとも1つのピークの半値幅が0.15度以下であるヒューズエレメント。
上記低融点金属は、SnもしくはSnを主成分とする合金とし、上記高融点金属は、Ag、Cu、Ag又はCuを主成分とする合金である請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒューズエレメント。
上記低融点金属は、SnもしくはSnを主成分とする合金とし、上記高融点金属は、Ag、Cu、Ag又はCuを主成分とする合金であり、加熱処理は210℃以下の温度である請求項5又は請求項6に記載のヒューズエレメントの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本技術が適用されたヒューズエレメント、ヒューズ素子及び保護素子について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本技術は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがある。具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0018】
[ヒューズエレメント]
先ず、本発明が適用されたヒューズエレメントについて説明する。本発明が適用されたヒューズエレメント1は、後述するヒューズ素子、保護素子の可溶導体として用いられ、電流定格を超える電流が通電することによって自己発熱(ジュール熱)により溶断し、あるいは発熱体の発熱により溶断されるものである。なお、以下では、ヒューズエレメント1の構成について、ヒューズ素子20に搭載した場合を例に説明するが、後述する保護素子に搭載した場合も同様に作用する。
【0019】
ヒューズエレメント1は、例えば、全体の厚さが略200μm程度の略矩形板状に形成され、
図1(A)(B)、
図2(A)(B)に示すように、ヒューズ素子20の絶縁基板21上に実装されている。ヒューズエレメント1は、内層を構成する低融点金属層2と、低融点金属層2よりも融点が高く外層を構成する高融点金属層3とを有する。
【0020】
高融点金属層3は、例えば、Ag、Cu又はAg若しくはCuを主成分とする合金が好適に用いられ、ヒューズエレメント1をリフロー炉によって絶縁基板21上に実装を行う場合においても溶融しない高い融点を有する。
【0021】
低融点金属層2は、例えばSn又はSnを主成分とする合金で「Pbフリーハンダ」と一般的に呼ばれる材料が好適に用いられる。低融点金属層2の融点は、必ずしもリフロー炉の温度よりも高い必要はなく、260℃未満で溶融してもよい。また、低融点金属層2は、さらに低い温度で溶融するBi、In又はBi若しくはInを含む合金を用いてもよい。
【0022】
[ヒューズエレメント1の製造方法]
ヒューズエレメント1は、低融点金属層2に高融点金属をメッキ技術を用いて成膜することにより製造できる。例えばヒューズエレメント1は、長尺状のハンダ箔に電解メッキ等によりAgメッキを施すことによりエレメントフィルムを製造し、使用時には、サイズに応じて切断することで、効率よく製造でき、また容易に用いることができる。
【0023】
[端子部]
また、ヒューズエレメント1は、長手方向の両端部が折り曲げられることにより、外部接続回路と接続される一対の端子部5a,5bが設けられることが好ましい。ヒューズエレメント1に端子部5a,5bを形成することにより、絶縁基板21のヒューズエレメント1が搭載される表面に電極を設けるとともに絶縁基板21の裏面に当該電極と接続された外部接続電極を設ける必要がなくなり、製造工程を簡素化することができ、また絶縁基板21の電極及び外部接続電極間の導通抵抗によって電流定格が律速されることなく、ヒューズエレメント1自体で電流定格を規定することができ、電流定格を向上させることができる。
【0024】
端子部5a,5bは、絶縁基板21の表面に搭載されるヒューズエレメント1の端部を絶縁基板21の側面に沿うように折り曲げることにより形成され、適宜さらに外側もしくは内側に一又は複数回折り曲げられることにより形成される。これにより、ヒューズエレメント1は、略平坦な主面と折り曲げられた先の面との間に、屈曲部6が形成される。
【0025】
そして、ヒューズ素子20は、端子部5a,5bが素子外部に臨まされ、外部回路基板に実装されると、端子部5a,5bが当該外部回路基板に形成された端子とハンダ等により接続され、これによりヒューズエレメント1が外部回路に組み込まれる。
【0026】
[凹凸、貫通孔、エンボス加工]
また、ヒューズエレメント1は、リフロー実装時等における高温環境下において低融点金属が流動し局所的に潰れや膨れが発生することによる抵抗値のばらつき、溶断特性の変動を防止するために、貫通孔7(
図3)又は非貫通孔8(
図4)を形成し、あるいはエンボス加工部9a(
図5)や溝部9b(
図6)等の凹凸部9を表面及び/又は裏面に形成してもよい。このような貫通孔7、非貫通孔8及び凹凸部9は、低融点金属層と高融点金属層とのシート状積層体にパンチやプレス等の加工を施す、あるいは低融点金属箔にパンチやプレス等の加工を施した後に高融点金属で被覆すること等により形成することができる。そして、このような貫通孔7又は非貫通孔8、あるいは凹凸部9を形成することによっても、ヒューズエレメント1は、略平坦な主面と、貫通孔7、非貫通孔8、エンボス加工部9a又は溝部9bの内周面や凹凸面との間に屈曲部6が形成される。
【0027】
[結晶性]
ここで、ヒューズエレメント1は、外層を構成する高融点金属層の結晶性を向上させ、折り曲げ加工等に対する機械的強度の向上、及び低抵抗化が図られている。これにより、ヒューズエレメント1は、屈曲部6におけるクラックが抑制され、また導体抵抗の上昇が防止されて所望の電流定格を備え、かつ溶断特性の変動を防止することができる。
【0028】
結晶性は、X線回折スペクトルにおける2θのピークの半値幅にて検証でき、複数の反射ピークの内少なくとも1つのピークの半値幅が0.15度以下であることが好ましい。更には、一番大きいピークの半値幅が0.15度以下であることが好ましい。
【0029】
ヒューズエレメント1は、結晶性を向上させるために、低融点金属層と高融点金属層とを積層させた後、120℃以上の温度で加熱処理を行う。加熱処理を行うことで、高融点金属層に安定な結晶構造が形成され、結晶化度を向上させることができる。ヒューズエレメント1は、加熱処理が施された後に、端子部5a,5bや貫通孔7又は非貫通孔8、凹凸部9等を形成することにより、屈曲部6にクラックが発生することを防止できる。
【0030】
また、ヒューズエレメント1は、加熱処理は低融点金属の融点以下の温度で行うことが好ましく、上述したように、低融点金属としてSnもしくはSnを主成分とする合金を用い、高融点金属としてAg、Cu、Ag又はCuを主成分とする合金を用いる場合、加熱処理温度は、210℃以下とすることが好ましい。210℃以下の温度で加熱処理を行うことで、低融点金属の過剰な流動を抑えるとともに、溶融した低融点金属による高融点金属の溶食を防止することができ、抵抗値の変動に伴う溶断特性の変動を防止することができる。
【0031】
なお、ヒューズエレメント1は、低融点金属層2の体積を高融点金属層3の体積よりも大きくすることが好ましい。ヒューズエレメント1は、低融点金属層2の体積を多くすることにより、効果的に高融点金属層3の浸食による短時間での溶断を行うことができる。
【0032】
[ヒューズ素子]
次いで、上述したヒューズエレメント1を用いたヒューズ素子について説明する。本発明が適用されたヒューズ素子20は、
図1に示すように、絶縁基板21と、絶縁基板21の表面21a上に実装されるヒューズエレメント1と、ヒューズエレメント1が実装された絶縁基板21の表面21a上を覆い、絶縁基板21とともに素子筐体28を構成するカバー部材22とを備える。
【0033】
ヒューズエレメント1は、絶縁基板21及びカバー部材22が接合されることによって形成される素子筐体28の外に一対の端子部5a,5bが導出され、端子部5a,5bを介して外部回路の接続電極と接続可能とされている。
【0034】
絶縁基板21は、たとえば、液晶ポリマー等のエンジニアリングプラスチック、アルミナ、ガラスセラミックス、ムライト、ジルコニアなどの絶縁性を有する部材によって方形状に形成される。その他、絶縁基板21は、ガラスエポキシ基板、フェノール基板等のプリント配線基板に用いられる材料を用いてもよい。
【0035】
カバー部材22は、絶縁基板21と同様に、各種エンジニアリングプラスチック、セラミックス等の絶縁性を有する部材により形成することができ、例えば絶縁性の接着剤を介して絶縁基板21と接続されている。ヒューズ素子20は、ヒューズエレメント1がカバー部材22によって覆われるため、過電流によるアーク放電の発生を伴う自己発熱遮断時においても、溶融金属がカバー部材22によって捕捉され、周囲への飛散を防止できる。
【0036】
また、絶縁基板21は、ヒューズエレメント1が実装される表面21aに、溝部23が形成されている。また、カバー部材22も、溝部23と対向して溝部29が形成されている。溝部23,29は、ヒューズエレメント1が溶融、遮断する空間であり、ヒューズエレメント1は、溝部23,29に位置する部位が、熱伝導率の低い空気と触れることにより、絶縁基板21及びカバー部材22と接する他の部位に比して相対的に温度が上がり、溶断される溶断部1aとなる。
【0037】
なお、絶縁基板21とヒューズエレメント1との間には適宜導電性の接着剤やハンダを介在させてもよい。ヒューズ素子20は、接着剤あるいはハンダを介して絶縁基板21とヒューズエレメント1とが接続されることにより、相互の密着性が高まり、より効率よく熱を絶縁基板21に伝達させるとともに、相対的に溶断部1aを過熱、溶断させることができる。
【0038】
なお、ヒューズ素子20は、
図7に示すように絶縁基板21に溝23を設ける代わりに、絶縁基板21の表面21a上に第1の電極24及び第2の電極25を設けてもよい。第1、第2の電極24,25は、それぞれ、AgやCu等の導電パターンによって形成され、表面に適宜、酸化防止対策としてSnメッキ、Ni/Auメッキ、Ni/Pdメッキ、Ni/Pd/Auメッキ等の保護層を設けてもよい。
【0039】
第1及び第2の電極24,25は、接続用ハンダを介してヒューズエレメント1が接続されている。ヒューズエレメント1は、第1、第2の電極24,25に接続されることにより、溶断部1aを除く部位における放熱効果が上がり、より効果的に溶断部1aを過熱、溶断させることができる。
【0040】
なお、
図7に示す構成においても、ヒューズ素子20は、絶縁基板21に溝23を設けてもよい。
【0041】
また、ヒューズ素子20は、ヒューズエレメント1に端子部5a,5bを設ける代わりに、あるいは
図8に示すように、端子部5a,5bとともに、絶縁基板21の裏面21bに、第1、第2の電極24,25と電気的に接続される第1、第2の外部接続電極24a,25aを設けてもよい。第1、第2の電極24,25と第1、第2の外部接続電極24a,25aとは、絶縁基板21を貫通するスルーホール26やキャスタレーション等を介して導通が図られている。第1、第2の外部接続電極24a,25aも、それぞれ、AgやCu等の導電パターンによって形成され、表面に適宜、酸化防止対策としてSnメッキ、Ni/Auメッキ、Ni/Pdメッキ、Ni/Pd/Auメッキ等の保護層を設けてもよい。ヒューズ素子20は、端子部5a,5bに代えて又は端子部5a,5bとともに、第1、第2の外部接続電極24a,25aを介して、外部回路基板の電流経路上に実装される。
【0042】
なお、
図7、
図8に示すヒューズ素子20においては、ヒューズエレメント1が、絶縁基板21の表面21aから離間して実装されている。したがって、ヒューズ素子20は、ヒューズエレメント1の溶融時にも溶融金属が絶縁基板21へ食い込むこともなく第1、第2の電極24,25上に引き込まれ、確実に第1、第2の電極24,25間を絶縁することができる。
【0043】
また、ヒューズ素子20は、高融点金属層3又は低融点金属層2の酸化防止と、溶断時の酸化物除去及びハンダの流動性向上のために、ヒューズエレメント1の表面や裏面に図示しないフラックスをコーティングしてもよい。
【0044】
フラックスをコーティングすることにより、外層の高融点金属層3の表面に、Snを主成分とするPbフリーハンダ等の酸化防止膜を形成した場合にも、当該酸化防止膜の酸化物を除去することができ、高融点金属層3の酸化を効果的に防止し、溶断特性を維持、向上することができる。
【0045】
[回路構成]
このようなヒューズ素子20は、
図9(A)に示す回路構成を有する。ヒューズ素子20は、端子部5a,5b(及び/又は第1、第2の外部接続電極24a,25a)を介して外部回路に実装されることにより、当該外部回路の電流経路上に組み込まれる。ヒューズ素子20は、ヒューズエレメント1に所定の定格電流が流れている間は、自己発熱によっても溶断することがない。そして、ヒューズ素子20は、電流定格を超える過電流が通電すると、
図10(A)(B)に示すように、ヒューズエレメント1が自己発熱によって溶断し、端子部5a,5b(及び/又は第1、第2の外部接続電極24a,25a)間を遮断することにより、当該外部回路の電流経路を遮断する(
図9(B))。
【0046】
このとき、ヒューズエレメント1は、上述したように、高融点金属層3よりも融点の低い低融点金属層2が積層されているため、過電流による自己発熱により、低融点金属層2の融点から溶融を開始し、高融点金属層3を浸食し始める。したがって、ヒューズエレメント1は、低融点金属層2による高融点金属層3の浸食作用を利用することにより、高融点金属層3が自身の融点よりも低い温度で溶融され、速やかに溶断することができる。
【0047】
[保護素子]
次いで、ヒューズエレメント1を用いた保護素子について説明する。なお、以下の説明において、上述したヒューズ素子20と同一の部材については同一の符号を付してその詳細を省略する。本発明が適用された保護素子30は、
図11(A)(B)に示すように、絶縁基板31と、絶縁基板31に積層され、絶縁部材32に覆われた発熱体33と、絶縁基板31の両端に形成された第1の電極34及び第2の電極35と、絶縁基板31上に発熱体33と重畳するように積層され、発熱体33に電気的に接続された発熱体引出電極36と、両端が第1、第2の電極34,35にそれぞれ接続され、中央部が発熱体引出電極36に接続されたヒューズエレメント1とを備える。そして、保護素子30は、絶縁基板31上に内部を保護するカバー部材37が取り付けられている。
【0048】
絶縁基板31は、上記絶縁基板21と同様に、例えば液晶ポリマー等のエンジニアリングプラスチック、アルミナ、ガラスセラミックス、ムライト、ジルコニアなどの絶縁性を有する部材によって方形状に形成される。その他、絶縁基板31は、ガラスエポキシ基板、フェノール基板等のプリント配線基板に用いられる材料を用いてもよい。
【0049】
絶縁基板31の表面31aには、相対向する両端部に、第1、第2の電極34,35が形成されている。第1、第2の電極34,35は、発熱体33が通電し発熱すると、溶融したヒューズエレメント1がその濡れ性により集まり、端子部5a,5b間を溶断させる。
【0050】
発熱体33は、通電すると発熱する導電性を有する部材であって、たとえばニクロム、W、Mo、Ru等又はこれらを含む材料からなる。発熱体33は、これらの合金あるいは組成物、化合物の粉状体を樹脂バインダ等と混合してペースト状にしたものを、絶縁基板31上にスクリーン印刷技術を用いてパターン形成して、焼成する等によって形成することができる。
【0051】
また、保護素子30は、発熱体33が絶縁部材32によって被覆され、絶縁部材32を介して発熱体33と対向するように発熱体引出電極36が形成されている。発熱体引出電極36はヒューズエレメント1が接続され、これにより発熱体33は、絶縁部材32及び発熱体引出電極36を介してヒューズエレメント1と重畳される。絶縁部材32は、発熱体33の保護及び絶縁を図るとともに、発熱体33の熱を効率よくヒューズエレメント1へ伝えるために設けられ、例えばガラス層からなる。
【0052】
なお、発熱体33は、絶縁基板31に積層された絶縁部材32の内部に形成してもよい。また、発熱体33は、第1、第2の電極34,35が形成された絶縁基板31の表面31aと反対側の裏面31bに形成してもよく、あるいは、絶縁基板31の表面31aに第1、第2の電極34,35と隣接して形成してもよい。また、発熱体33は、絶縁基板31の内部に形成してもよい。
【0053】
また、発熱体33は、一端が絶縁基板31の表面31a上に形成された第1の発熱体電極38を介して発熱体引出電極36と接続され、他端が絶縁基板31の表面31a上に形成された第2の発熱体電極39と接続されている。発熱体引出電極36は、第1の発熱体電極38と接続されるとともに発熱体33と対向して絶縁部材32上に積層され、ヒューズエレメント1と接続されている。これにより、発熱体33は、発熱体引出電極36を介してヒューズエレメント1と電気的に接続されている。なお、発熱体引出電極36は、絶縁部材32を介して発熱体33に対向配置されることにより、ヒューズエレメント1を溶融させるとともに、溶融導体を凝集しやすくすることができる。
【0054】
また、第2の発熱体電極39は、絶縁基板31の表面31a上に形成され、キャスタレーションを介して絶縁基板31の裏面に形成された発熱体給電電極39a(
図12(A)参照)と連続されている。
【0055】
保護素子30は、第1の電極34から発熱体引出電極36を介して第2の電極35に跨ってヒューズエレメント1が接続されている。ヒューズエレメント1は、接続用ハンダ等の接続材料を介して第1、第2の電極34,35及び発熱体引出電極36上に接続されている。
【0056】
[フラックス]
また、保護素子30は、高融点金属層3又は低融点金属層2の酸化防止と、溶断時の酸化物除去及びハンダの流動性向上のために、ヒューズエレメント1の表面や裏面にフラックス27をコーティングしてもよい。フラックス27をコーティングすることにより、保護素子30の実使用時において、低融点金属層2(例えばハンダ)の濡れ性を高めるとともに、低融点金属が溶解している間の酸化物を除去し、高融点金属(例えばAg)への浸食作用を用いて溶断特性を向上させることができる。
【0057】
また、フラックス27をコーティングすることにより、最外層の高融点金属層3の表面に、Snを主成分とするPbフリーハンダ等の酸化防止膜を形成した場合にも、当該酸化防止膜の酸化物を除去することができ、高融点金属層3の酸化を効果的に防止し、溶断特性を維持、向上することができる。
【0058】
なお、第1、第2の電極34,35、発熱体引出電極36及び第1、第2の発熱体電極38,39は、例えばAgやCu等の導電パターンによって形成され、適宜、表面にSnメッキ、Ni/Auメッキ、Ni/Pdメッキ、Ni/Pd/Auメッキ等の保護層が形成されていることが好ましい。これにより、表面の酸化を防止するとともに、ヒューズエレメント1の接続用ハンダ等の接続材料による第1、第2の電極34,35及び発熱体引出電極36の浸食を抑制することができる。
【0059】
[カバー部材]
また、保護素子30は、ヒューズエレメント1が設けられた絶縁基板31の表面31a上に、内部を保護するとともに溶融したヒューズエレメント1の飛散を防止するカバー部材37が取り付けられている。カバー部材37は、各種エンジニアリングプラスチック、セラミックス等の絶縁性を有する部材により形成することができる。保護素子30は、ヒューズエレメント1がカバー部材37によって覆われるため、溶融金属がカバー部材37によって捕捉され、周囲への飛散を防止できる。
【0060】
このような保護素子30は、発熱体給電電極39a、第2の発熱体電極39、発熱体33、第1の発熱体電極38、発熱体引出電極36及びヒューズエレメント1に至る発熱体33への通電経路が形成される。また、保護素子30は、第2の発熱体電極39が発熱体給電電極39aを介して発熱体33に通電させる外部回路と接続され、当該外部回路によって第2の発熱体電極39とヒューズエレメント1にわたる通電が制御される。
【0061】
また、保護素子30は、ヒューズエレメント1が発熱体引出電極36と接続されることにより、発熱体33への通電経路の一部を構成する。したがって、保護素子30は、ヒューズエレメント1が溶融し、外部回路との接続が遮断されると、発熱体33への通電経路も遮断されるため、発熱を停止させることができる。
【0062】
[回路図]
本発明が適用された保護素子30は、
図12に示すような回路構成を有する。すなわち、保護素子30は、発熱体引出電極36を経て一対の端子部5a,5b間にわたって直列接続されたヒューズエレメント1と、ヒューズエレメント1の接続点を介して通電して発熱させることによってヒューズエレメント1を溶融する発熱体33とからなる回路構成である。そして、保護素子30は、ヒューズエレメント1の両端部に設けられた端子部5a,5b及び第2の発熱体電極39と接続された発熱体給電電極39aが、外部回路基板に接続される。これにより、保護素子30は、ヒューズエレメント1が端子部5a,5bを介して外部回路の電流経路上に直列接続され、発熱体33が発熱体電極39を介して外部回路に設けられた電流制御素子と接続される。
【0063】
[溶断工程]
このような回路構成からなる保護素子30は、外部回路の電流経路を遮断する必要が生じた場合に、外部回路に設けられた電流制御素子によって発熱体33が通電される。これにより、保護素子30は、発熱体33の発熱により、外部回路の電流経路上に組み込まれたヒューズエレメント1が溶融され、ヒューズエレメント1の溶融導体が、濡れ性の高い発熱体引出電極36及び第1、第2の電極34,35に引き寄せられることによりヒューズエレメント1が溶断される。これにより、ヒューズエレメント1は、確実に端子部5a〜発熱体引出電極36〜端子部5bの間で溶断され(
図12(B))、外部回路の電流経路を遮断することができる。また、ヒューズエレメント1が溶断することにより、発熱体33への給電も停止される。
【0064】
このとき、ヒューズエレメント1は、発熱体33の発熱により、高融点金属層3よりも融点の低い低融点金属層2の融点から溶融を開始し、高融点金属層3を浸食し始める。したがって、ヒューズエレメント1は、低融点金属層2による高融点金属層3の浸食作用を利用することにより、高融点金属層3が溶融温度よりも低い温度で溶融され、速やかに外部回路の電流経路を遮断することができる。
【0065】
なお、保護素子30は、ヒューズエレメント1に端子部5a,5bを設ける代わりに、あるいは
図13に示すように、端子部5a,5bとともに、絶縁基板31の裏面31bに、第1、第2の電極34,35と電気的に接続される第1、第2の外部接続電極34a,35aを設けてもよい。第1、第2の電極34,35と第1、第2の外部接続電極34a,35aとは、絶縁基板31を貫通するスルーホール41やキャスタレーション等を介して導通が図られている。第1、第2の外部接続電極34a,35aも、それぞれ、AgやCu等の導電パターンによって形成され、表面に適宜、酸化防止対策としてSnメッキ、Ni/Auメッキ、Ni/Pdメッキ、Ni/Pd/Auメッキ等の保護層を設けてもよい。保護素子30は、端子部5a,5bに代えて又は端子部5a,5bとともに、第1、第2の外部接続電極34a,35aを介して、保護素子30が実装される外部回路基板の接続電極に接続されることにより、外部回路基板に形成された電流経路上に組み込まれる。
【実施例】
【0066】
次いで、本技術の実施例について説明する。本実施例では、低融点金属と高融点金属を積層した矩形板状の積層体を所定の温度、時間で加熱処理を行った後、
図14に示すように、凹凸状に折り曲げることにより屈曲部を有するヒューズエレメントを形成した。そして、実施例及び比較例に係るヒューズエレメントの屈曲部におけるクラックの有無を、目視により評価した。
【0067】
実施例及び比較例に係るヒューズエレメントは、内層を構成する低融点金属となる厚さ200μmのSn−Ag−Cu系ハンダ箔(Sn:Ag:Cu=96.5質量%:3.0質量%:0.5質量%)に、電解メッキによりAgメッキを施し厚さ13μmの高融点金属層を積層したものを用いた。
【0068】
[実施例1]
実施例1では、低融点金属と高融点金属の積層体を120℃、60minの条件で加熱処理を行った後、常温下で凹凸状に折り曲げることにより屈曲部を有するヒューズエレメントを形成した。屈曲部を目視観察した結果、後述の比較例1に比してクラックは低減されていた。
【0069】
[実施例2]
実施例2では、低融点金属と高融点金属の積層体を130℃、15minの条件で加熱処理を行った後、常温下で凹凸状に折り曲げることにより屈曲部を有するヒューズエレメントを形成した。屈曲部を目視観察した結果、後述の比較例1に比してクラックは低減されていた。
【0070】
なお、実施例2に係るヒューズエレメントを試料としてX線回折測定を行って得たX線回折スペクトルにおいて、{111}面と{200}面における2θのピークの半値幅を分析したところ、{111}面が0.135度、{200}面が0.060度、{111}面と{200}面とのピーク強度比(200面/111面)は8.280であった。
【0071】
[実施例3]
実施例3では、低融点金属と高融点金属の積層体を150℃、15minの条件で加熱処理を行った後、常温下で凹凸状に折り曲げることにより屈曲部を有するヒューズエレメントを形成した。屈曲部を目視観察した結果、クラックは確認されなかった。
【0072】
なお、実施例3に係るヒューズエレメントを試料としてX線回折測定を行って得たX線回折スペクトルにおいて、{111}面と{200}面における2θのピークの半値幅を分析したところ、{111}面が0.077度、{200}面が0.070度、{111}面と{200}面とのピーク強度比(200面/111面)は7.833であった。
【0073】
[実施例4]
実施例4では、低融点金属と高融点金属の積層体を150℃、60minの条件で加熱処理を行った後、常温下で凹凸状に折り曲げることにより屈曲部を有するヒューズエレメントを形成した。屈曲部を目視観察した結果、クラックは確認されなかった。
【0074】
[実施例5]
実施例5では、低融点金属と高融点金属の積層体を200℃、15minの条件で加熱処理を行った後、常温下で凹凸状に折り曲げることにより屈曲部を有するヒューズエレメントを形成した。屈曲部を目視観察した結果、クラックは確認されなかった。
【0075】
なお、実施例5に係るヒューズエレメントを試料としてX線回折測定を行って得たX線回折スペクトルにおいて、{111}面と{200}面における2θのピークの半値幅を分析したところ、{111}面が0.068度、{200}面が0.071度、{111}面と{200}面とのピーク強度比(200面/111面)は5.073であった。
【0076】
[実施例6]
実施例6では、低融点金属と高融点金属の積層体を200℃、60minの条件で加熱処理を行った後、常温下で凹凸状に折り曲げることにより屈曲部を有するヒューズエレメントを形成した。屈曲部を目視観察した結果、クラックは確認されなかった。
【0077】
なお、実施例6に係るヒューズエレメントを試料としてX線回折測定を行って得たX線回折スペクトルにおいて、{111}面と{200}面における2θのピークの半値幅を分析したところ、{111}面が0.065度、{200}面が0.070度、{111}面と{200}面とのピーク強度比(200面/111面)は5.794であった。
【0078】
[実施例7]
実施例7では、低融点金属と高融点金属の積層体を210℃、15minの条件で加熱処理を行った後、常温下で凹凸状に折り曲げることにより屈曲部を有するヒューズエレメントを形成した。屈曲部を目視観察した結果、クラックは確認されなかった。
【0079】
[比較例1]
比較例1では、低融点金属と高融点金属の積層体に対して加熱処理を行わずに、常温下で凹凸状に折り曲げることにより屈曲部を有するヒューズエレメントを形成した。屈曲部を目視観察した結果、クラックが確認された。
【0080】
なお、比較例1に係るヒューズエレメントを試料としてX線回折測定を行って得たX線回折スペクトルにおいて、{111}面と{200}面における2θのピークの半値幅を分析したところ、{111}面が0.182度、{200}面が0.233度、{111}面と{200}面とのピーク強度比(200面/111面)は0.047であった。
【0081】
[比較例2]
比較例2では、低融点金属と高融点金属の積層体を100℃、60minの条件で加熱処理を行った後、常温下で凹凸状に折り曲げることにより屈曲部を有するヒューズエレメントを形成した。屈曲部を目視観察した結果、クラックが確認された。
【0082】
[比較例3]
比較例3では、低融点金属と高融点金属の積層体を110℃、60minの条件で加熱処理を行った後、常温下で凹凸状に折り曲げることにより屈曲部を有するヒューズエレメントを形成した。屈曲部を目視観察した結果、クラックが確認された。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
表1に示すように、各実施例に係るヒューズエレメントでは、低融点金属と高融点金属との積層体を、120℃以上の温度で加熱処理をした後に、屈曲部を形成したため、高融点金属の結晶性が向上し、ヒューズエレメントの屈曲部のクラックが抑制された。
【0086】
一方、比較例1では、加熱処理を行わずに屈曲部を形成したため、クラックが発生した。また、比較例2,3では加熱温度が120℃未満であったため、高融点金属の結晶性が低く、クラックが発生した。
【0087】
図15は、実施例及び比較例に係るヒューズエレメントの屈曲部の拡大写真である。
図15(A)に示すように、実施例3〜7では、屈曲部にクラックは見られなかった。
図15(B)に示すように、実施例1,2では、屈曲部のクラックがほぼ見られなかった。しかし、比較例1〜3では、
図15(C)に示すように、屈曲部にクラックが発生した。
【0088】
表2に示すように、実施例2,3,5,6に係るヒューズエレメントのX線回折スペクトルにおいて、{111}面と{200}面における2θのピークの半値幅を分析したところ、{111}面及び{200}面ともに0.15度以下であり、加熱処理を行わない比較例1の{111}面及び{200}面におけるピークの半値幅が0.18度以上であった。これより、高融点金属層の表面のX線回折スペクトル(2θ)に於けるピークの内、少なくとも1つのピークの半値幅が0.15度以下とすることにより、良好な結晶性を有し、クラックを抑制することができることが分かる。
【0089】
また、比較例1に係るヒューズエレメントの{111}面と{200}面とのピーク強度比(200面/111面:0.047)に対して、実施例2,3,5,6に係るヒューズエレメントの{111}面と{200}面とのピーク強度比(200面/111面)が逆転していることから、120℃以上の温度で加熱処理を行うことで、結晶配向性が変化したことが推察され、これにより結晶化度が向上し、クラックの抑制に寄与したことが分かる。
【0090】
また、実施例に係るヒューズエレメントは、結晶化度が向上されたことで、粒界や格子欠陥による導通抵抗の上昇も抑えられ、電流定格の向上、及び所定の電流値で速やかに溶断するとともに所定の電流値未満では溶断しないという所望の溶断特性も維持できる。