(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)配列番号32のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号31のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む、Ly6Eに結合する単離された抗体。
(a)配列番号28のアミノ酸配列に少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列;(b)配列番号27のアミノ酸配列に少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列;又は(c)(a)のVH配列及び(b)のVL配列を含む、請求項1に記載の抗体。
天然に生じるヒトLy6Eに対する抗Ly6E抗体の結合を許容する条件下で、生物学的試料を請求項1から8及び14から16の何れか一項に記載の抗Ly6E抗体と接触させること、及び生物学的試料中で抗Ly6E抗体と天然に生じるヒトLy6Eとの間に複合体が形成されるかを検出することを含む、生物学的試料中のヒトLy6Eを検出するインビトロ方法。
生物学的試料が乳がん試料、膵臓がん試料、結腸がん試料、結腸直腸がん試料、黒色腫がん試料、卵巣がん試料、非小細胞肺がん試料、食道がん試料、頭頸部がん試料、腎臓がん試料、軟組織がん試料、子宮内膜がん試料、又は胃がん試料である、請求項17又は請求項18に記載のインビトロ方法。
被験体においてLy6E陽性がんを検出するためのキットであって、請求項1から8の何れか一項に記載の抗Ly6E抗体を含む標識抗Ly6E抗体を含み、(i)該標識抗Ly6E抗体がLy6E陽性がんを有するか又は有することが疑われる被験体に投与され、及び(ii)被験体において標識抗Ly6E抗体が検出され、標識抗Ly6E抗体の検出が、被験体のLy6E陽性がんを示す、キット。
がん生検試料中で抗Ly6E抗体と天然に存在するヒトLy6Eとの間の複合体が検出される場合、がん患者はLy6E陽性がんを有するとして同定される、請求項24に記載のキット。
イムノコンジュゲートが、(a)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号7のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号8のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む抗Ly6E抗体を含む、請求項26又は請求項27に記載のキット。
Ly6E陽性がんを有するがん患者からのがん試料が、乳がん試料、膵臓がん試料、結腸がん試料、結腸直腸がん試料、黒色腫がん試料、卵巣がん試料、非小細胞肺がん試料、食道がん試料、頭頸部がん試料、腎臓がん試料、軟組織がん試料、子宮内膜がん試料、又は胃がん試料である、請求項26から30の何れか一項に記載のキット。
乳がん試料が、Her2陽性乳がん、Her2陰性乳がん、Her2陰性/ホルモン受容体陽性(Her2−/ER+/PR+)乳がん、又は三種陰性(Her2−/ER−/PR−)乳がんからのものである、請求項19に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、ヒト(配列番号1)、カニクイザル(配列番号2)、アカゲザル(配列番号35)、マウス(配列番号36)、及びラット種(配列番号37)からのLy6Eオルソログの配列を比較する配列アラインメントを示す。細胞外ドメイン(ECD)中のこれらの配列の間のアミノ酸レベルでの同一性パーセントは、ヒトとカニクイザルのLy6E間で〜96%、及びヒトとラットLy6E間で〜52%であることが示されている。
【
図2】
図2は、実施例1に更に記載されるLy6E mRNA発現の系譜プロファイルを示す。測定は、Affymetrix U133Pチップ上で実施され、ヒト組織におけるLy6E発現のスケーリングされた平均の差として表される。各点は、正常(緑)、腫瘍(赤)、又は患部非腫瘍(青)ヒト組織標本を表す。長方形は、各分布の25から75パーセンタイルの範囲を包含する。WBC=白血球。Ly6Eの過剰発現は、乳がん、膵臓がん、結腸直腸がん、肺がん、黒色腫及び卵巣がんなどに見られる。
【
図3】
図3は、実施例2に記載したように正常ヒト組織及び厳選したがん細胞株及び組織のパネルにおいてRPL19制御遺伝子の発現に対して正規化されたLy6E転写産物発現のQRT−PCR相対倍数変化を示す。結果は、正常組織におけるLy6E転写物の発現は、乳がん及び膵臓がんにおけるLy6Eの発現と比較して低いことを示している。
【
図4】
図4は、ウサギ抗Ly6E抗体クローンGEN−93−8−1の軽鎖可変ドメイン配列及び重鎖可変ドメイン配列を示す。超可変領域(HVR)は下線が引かれる。位置は、Kabatに従って番号付けされる。
【
図5】
図5は、実施例7に記載されるように、Her2増幅乳がん異種移植マウスモデルにおける上皮増殖因子受容体における抗Ly6E ADCのインビボでの有効性を示す。パネルAは、HCC1569 X2乳がん細胞を接種された免疫不全マウスにおいて確立された皮下腫瘍を示す。腫瘍体積が約100−250mm
3に達したとき(0日目)、動物は、対照ADC(対照−vc−MMAE)又はヒト化抗Ly6E(hu9B12 v12)ADC(MC−vc−PAB−MMAE)の何れかの単回IV注射を示された用量で与えられた。標準偏差と共に平均腫瘍体積を(グラフ上に示される)群あたり9匹の動物から決定した。パネルBは、フローサイトメトリーによって見られるように、生きているHCC1569 X2細胞における表面Ly6Eタンパク質の発現を示し、ここで、灰色のピークは二次検出試薬単独に対して処置された細胞を示し、黒ピークは、3μg/mLのLy6E抗体(hu9B12 v12)ADCにより処置され、続いて二次検出試薬としてヒトIgGにコンジュゲートされたAlexaFluor488により処置された細胞を示す。GeoMean値としてのLy6Eの発現がヒストグラムの右側に示される。パネルCは、乳がん細胞株HCC1569 X2についてのhu9B12 v12 ADC滴定による細胞死滅を示す。指示濃度のhu9B12 v12 ADC、対照IgG−vc−MMAE、又はPBSビヒクル対照の当量が、5日間細胞とともにインキュベートされ、相対細胞生存率(y軸)がCellTiter−Gloを使用して評価された。パネルDは、マウス抗Ly6Eクローン10G7.7.8を使用して、免疫組織化学によるHCC1569 X2腫瘍に対する1+/2+Ly6E染色を示す。マウス抗Ly6Eクローン10G7.7.8を使用してLy6Eについて1+レベルで染色する腫瘍細胞の割合が示される。パネルEは、ウサギ抗Ly6E抗体クローンGEN−93−8−1を使用する免疫組織化学によるHCC1569 X2腫瘍に対する3+Ly6E染色を示す。
【
図6】
図6は、膵臓がん異種移植マウスモデルにおける抗Ly6E ADCのインビボでの有効性を示す。パネルAは、SU.86.86膵臓がん細胞を接種された免疫不全マウスにおいて確立された皮下腫瘍を示す。腫瘍体積が約100−250mm
3に達したとき(0日目)、動物は、対照ADC(対照−vc−MMAE)又は抗Ly6E ADCの何れかの単回IV注射を
図5に記述されるように示された用量で与えられた。標準偏差と共に平均腫瘍体積を(グラフ上に示される)群あたり9匹の動物から決定した。パネルBは、ウサギ抗Ly6E抗体クローンGEN−93−8−1を使用するイムノブロッティングによって、HCC1569 X2及びSU.86.86細胞溶解物中の全Ly6Eタンパク質の発現を比較する。総βチューブリンタンパク質レベルが、負荷対照(loading control)として機能するように平行して測定された。パネルCは、マウス抗Ly6Eクローン10G7.7.8を使用する免疫組織化学によるSU.86.86腫瘍に対する1+Ly6E染色を示す。パネルDは、膵臓がん細胞株SU.86.86についての抗Ly6E ADC滴定による細胞死滅を示す。指示濃度の抗Ly6E ADC、対照IgG−vc−MMAE、又はPBSビヒクル対照の当量が、5日間細胞とともにインキュベートされ、相対発光単位(RLU)における相対細胞生存率(y軸)がCellTiter−Gloを使用して評価された。パネルEは、ウサギ抗Ly6E抗体クローンGEN−93−8−1を使用する免疫組織化学によるSU.86.86腫瘍に対する2+Ly6E染色を示す。
【
図7】
図7は、
図5で記述されるように、XenTech(Evry,France)で樹立された原発性三種陰性(Her2−/ER−/PR−)乳がん腫瘍異種移植片モデルHBCx−9における抗Ly6E ADCのインビボでの有効性を示す。パネルAは、患者由来の乳がん腫瘍材料を接種された免疫不全マウスにおいて確立された皮下腫瘍を示す。腫瘍体積が約100−250mm
3に達したとき(0日目)、動物は、対照ADC(対照−vc−MMAE)又は抗Ly6E ADCの何れかの単回IV注射を示された用量で与えられた。標準偏差と共に平均腫瘍体積を(グラフ上に示される)群あたり9匹の動物から決定した。パネルBは、マウス抗Ly6E抗体4D8を用いたイムノブロッティングによって、様々なXenTech原発性腫瘍モデルにおいて並びにHCC1569 X1及びSU.86.86細胞溶解物中における全Ly6Eタンパク質の発現を比較する。総βアクチンタンパク質レベルが、負荷対照として機能するように平行して測定された。パネルCは、免疫組織化学によるHB Cx−9腫瘍に対するLy6E染色を示す。複数の腫瘍試料の独立した染色は不均質な染色パターンを示した。マウス抗Ly6Eクローン10G7.7.8を使用してLy6Eについて1+レベルで染色する腫瘍細胞の割合が示される。パネルDは、ウサギ抗Ly6E抗体クローンGEN−93−8−1を使用する免疫組織化学によるHBCx−9腫瘍に対する2+Ly6E染色を示す。パネルEは、抗体GEN−93−8−1を用いたイムノブロッティングによる、HBCx−9細胞溶解物中の総Ly6Eタンパク質の発現を示す。GAPDHタンパク質レベルが、負荷対照として機能するように平行して測定された。
【
図8】
図8は、
図5で記述されるように、XenTech(Evry,France)で樹立された原発性三種陰性(Her2−/ER−/PR−)乳がん腫瘍異種移植片モデルHBCx−8における抗Ly6E ADCのインビボでの有効性を示す。パネルAは、患者由来の乳がん腫瘍材料を接種された免疫不全マウスにおいて確立された皮下腫瘍を示す。腫瘍体積が約100−250mm
3に達したとき(0日目)、動物は、対照ADC(対照−vc−MMAE)又は抗Ly6E ADCの何れかの単回IV注射を示された用量で与えられた。標準偏差と共に平均腫瘍体積を(グラフ上に示される)群あたり10匹の動物から決定した。パネルBは、マウス抗Ly6E抗体4D8を用いたイムノブロッティングによって、様々なXenTech原発性腫瘍モデルにおいて並びにHCC1569 X1及びSU.86.86細胞溶解物中における全Ly6Eタンパク質の発現を比較する。総βアクチンタンパク質レベルが、負荷対照として機能するように平行して測定された。パネルCは、マウス抗Ly6E抗体クローン10G7.7.8を使用する免疫組織化学によるHBCx−8腫瘍に対するLy6E染色を示す。パネルDは、ウサギ抗Ly6E抗体クローンGEN−93−8−1を使用する免疫組織化学によるHBCx−8腫瘍に対する1+/2+Ly6E染色を示す。複数の腫瘍試料の独立した染色は、10G7.7.8又はGEN−93−8−1を使用して1+又は2+レベルでの染色パターンを示したが、しかしGEN−93−8−1を用いた染色は10G7.7.8染色と比較してより堅牢で均質であった。パネルEは、抗体GEN−93−8−1を用いたイムノブロッティングによる、HBCx−8細胞溶解物中の総Ly6Eタンパク質の発現を示す。GAPDHタンパク質レベルが、負荷対照として機能するように平行して測定された。
【
図9】
図9は、
図5で記述されるように、Oncotest GmbH(Freiburg,Germany)で樹立された原発性上皮成長因子受容体、Her2増幅乳がん腫瘍異種移植モデルMAXF−1162における抗Ly6E ADCのインビボでの有効性を示す。パネルAは、患者由来の乳がん腫瘍材料を接種された免疫不全マウスにおいて確立された皮下腫瘍を示す。腫瘍体積が約100−250mm
3に達したとき(0日目)、動物は、対照ADC(対照−vc−MMAE)又は抗Ly6E ADCの何れかの単回IV注射を示された用量で与えられた。標準偏差と共に平均腫瘍体積を(グラフ上に示される)群あたり10匹の動物から決定した。パネルBは、イムノブロッティングにより、様々なOncotest原発性腫瘍モデル及び細胞溶解物中の総Ly6Eタンパク質発現を比較する。総GAPDHタンパク質レベルが、負荷対照として機能するように平行して測定された。パネルCは、マウス抗Ly6Eクローン10G7.7.8を使用する免疫組織化学によるMAXF−1162腫瘍に対するLy6E染色を示す。複数の腫瘍試料の独立した染色は不均質な染色パターンを示した。Ly6Eについて1+又は2+レベルで染色する腫瘍細胞の割合が示される。パネルDは、ウサギ抗LY6E抗体クローンGEN−93−8−1を使用する免疫組織化学による、MAXF−1162腫瘍に対する強い2+Ly6E染色(及び潜在的に低酸素の中心領域における一部の1+染色)を示す。
【
図10】
図10は、
図5で記述されるように、Oncotest GmbH(Freiburg,Germany)で樹立された原発性膵臓がん腫瘍異種移植モデルPAXF−1657における抗Ly6E ADCのインビボでの有効性を示す。パネルAは、患者由来の膵臓がん腫瘍外植片を用いた免疫不全マウスにおいて確立された皮下腫瘍を示す。腫瘍体積が約100−250mm
3に達したとき(0日目)、動物は、対照ADC(対照−vc−MMAE)又は抗Ly6E ADCの何れかの単回IV注射を示された用量で与えられた。標準偏差と共に平均腫瘍体積を(グラフ上に示される)群あたり10匹の動物から決定した。パネルBは、イムノブロッティングにより、様々な原発性腫瘍モデル及び細胞溶解物中の総Ly6Eタンパク質発現を比較する。総GAPDH又はβアクチンタンパク質レベルが、負荷対照として機能するように平行して測定された。パネルCは、マウス抗Ly6Eクローン10G7.7.8を使用する免疫組織化学によるPAXF−1657腫瘍に対するLy6E染色を示す。複数の腫瘍試料の独立した染色は不均質な染色パターンを示した。Ly6Eについて非常に弱い(+/−)レベルで染色する腫瘍細胞の割合が示される。パネルDは、ウサギ抗Ly6E抗体クローンGEN−93−8−1を使用する免疫組織化学によるPAXF−1657腫瘍に対する2+Ly6E染色を示す。
【0016】
本発明の実施態様の詳細な記述
I.定義
本明細書における目的のための「アクセプターヒトフレームワーク」とは、下記に定義されるように、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークから得られる軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワーク又は重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含有するフレームワークである。ヒト免疫グロブリンのフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「に由来する」アクセプターヒトフレームワークは、その同一のアミノ酸配列を含んでもよく、又はそれはアミノ酸配列の変化を含み得る。幾つかの実施態様において、アミノ酸変化の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、又は2以下である。幾つかの実施態様において、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLのヒト免疫グロブリンのフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列に、配列が同一である。
【0017】
「親和性」とは、分子(例えば、抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)の間の非共有結合的相互作用の総和の強度のことである。本明細書で使用する場合、特に断らない限り、「結合親和性」は、結合対(例えば、抗体と抗原)のメンバー間の1:1の相互作用を反映している本質的な結合親和性を指す。そのパートナーYに対する分子Xの親和性は、一般的に解離定数(Kd)で表すことができる。親和性は、本明細書に記載したものを含む、当技術分野で知られている一般的な方法によって測定することができる。結合親和性を測定するための具体的な例示であって典型的な実施態様は、以下で説明される。
【0018】
「親和性成熟」抗体とは、その改変を有していない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性に改良を生じせしめる、その一又は複数の超可変領域(HVR)において一又は複数の改変を持つ抗体を指す。
【0019】
用語「抗Ly6E抗体」及び「Ly6Eに結合する抗体」は、抗体が、Ly6Eを標的とし、診断薬剤及び/又は治療的薬剤として有用であるように、十分な親和性でLy6Eに結合することができる抗体を指す。一実施態様では、抗Ly6E抗体と無関係非Ly6Eタンパク質の結合の程度は、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)により又はスキャッチャード分析により又は例えばBiacoreなどの表面プラズモン共鳴により測定して、抗体とLy6Eの結合の約10%未満である。ある実施態様において、Ly6Eへ結合する抗体は、解離定数(Kd)は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば、10
−8M以下、例えば、10
−8Mから10
−13M、例えば、10
−9Mから10
−13M)を有する。ある実施態様において、抗Ly6E抗体は、異なる種由来のLy6E間で保存されているLy6Eのエピトープに結合する。
【0020】
本明細書における用語「抗体」は最も広い意味で用いられ、様々な抗体構造を包含し、限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び、所望の抗原結合活性を示す限り、抗体断片を含む。
【0021】
本明細書で使用する用語「抗体薬物コンジュゲート」(ADC)は、用語「イムノコンジュゲート」に相当する。
【0022】
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’−SH、F(ab’)
2;ダイアボディ;直鎖状抗体;単鎖抗体分子(例えばscFv);及び抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
【0023】
参照抗体として「同一のエピトープに結合する抗体」とは、競合アッセイにおいて50%以上、参照抗体のその抗原への結合をブロックする抗体、逆に競合アッセイにおいて50%以上、その抗体のその抗原への結合をブロックするその参照抗体を指す。例示的な競合アッセイを本明細書で提供する。
【0024】
用語「がん」及び「がん性」は、典型的には無秩序な細胞成長/増殖を特徴とする、哺乳動物の生理的条件を指すか又は説明する。がんの例には、限定されないが、癌腫、リンパ腫(例えば、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫)、芽細胞腫、肉腫、及び白血病を含む。このようながんのより特定の例としては、Ly6Eを過剰発現するがんを含み、例えば、Her2陽性乳がん、Her2陰性乳がん、Her2陰性/ホルモン受容体陽性(Her2−/ER+/PR+)、及び三種陰性乳がんを含む乳がん及び/又は転移性乳がん、膵臓がん及び/又は転移性膵臓がん、結腸がん、結腸直腸がん、皮膚がん、黒色腫及び/又は転移性黒色腫、卵巣がん、非小細胞肺がん(腺癌などの扁平上皮又は非扁平上皮)、Her2陽性胃がん及び/又はHer3陰性胃がんを含む胃がん、扁平上皮がん、小細胞肺がん、肺腺癌、肺扁平上皮癌、腹膜がん、肝細胞がん、消化器がん、神経膠腫、子宮頸がん、肝臓がん、膀胱がん、肝癌、軟組織がん、子宮内膜又は子宮癌、唾液腺癌、食道がん、腎臓がん、肝臓がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝癌、白血病及び他のリンパ増殖性疾患、及び様々な型の頭頸部がんを含み得る。
【0025】
用語「キメラ」抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部分が特定の起源又は種から由来し、一方重鎖及び/又は軽鎖の残りは異なる起源又は種から由来する抗体を指す。
【0026】
本明細書で使用される用語「細胞傷害性薬物」とは、細胞機能を阻害するもしくは妨害する及び/又は細胞死もしくは破壊を引き起こす物質のことである。細胞傷害性薬物は、限定されないが、放射性同位体(例えば、A
t211、I
131、I
125、Y
90、Re
186、Re
188、Sm
153、Bi
212、P
32、Pb
212及びLuの放射性同位体);化学療法剤又は薬物(例えば、メトトレキセート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン又は他の挿入剤);成長阻害剤、酵素及びその断片、例えば核酸分解酵素など;抗生物質;小分子毒素などの毒素、又は細菌、真菌、植物又は動物由来の酵素活性毒素(それらの断片及び/又はその変異体を含む);及び様々な抗腫瘍剤又は抗がん剤を包含する。
【0027】
「エフェクター機能」は、抗体アイソタイプによって異なる、抗体のFc領域に起因し得る生物活性を指す。抗体のエフェクター機能の例には、C1q結合及び補体依存性細胞障害(CDC);Fc受容体結合性;抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC);貪食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)のダウンレギュレーション;及びB細胞活性化が含まれる。
【0028】
薬剤、例えば、薬学的製剤の「有効量」は、例えば、所望の治療的又は予防的結果を達成するために、必要な用量及び期間で有効な量を指す。
【0029】
用語「エピトープ」は、抗体が結合する、抗原分子上の特定の部位を指す。
【0030】
本明細書では、用語「Fc領域」は、定常領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するのに使用される。この用語には、天然配列Fc領域及び変異体Fc領域が含まれる。一実施態様では、ヒトIgG重鎖のFc領域は、Cys226又はPro230から重鎖のカルボキシル末端まで延びる。しかし、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は、存在しても、存在しなくてもよい。本明細書に明記されていない限り、Fc領域又は定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991に記載されるように、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う。
【0031】
「フレームワーク」又は「FR」は、高頻度可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般的に4つのFRのドメイン:FR1、FR2、FR3、及びFR4からなる。従って、HVR配列及びFR配列は、一般に次のVH(又はVL)の配列:FR1−H1(L1)−FR2−H2(L2)−FR3−H3(L3)−FR4に現れる。
【0032】
用語「完全長抗体」、「インタクトな抗体」及び「全抗体」は、本明細書中で互換的に使用され、天然型抗体構造と実質的に類似の構造を有するか、又は本明細書で定義されるFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
【0033】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養」は互換的に使用され、外因性の核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の子孫を含める。宿主細胞は、「形質転換体」及び「形質転換された細胞」を含み、継代の数に関係なく、それに由来する一次形質転換細胞及び子孫が含まれる。子孫は親細胞と核酸含量が完全に同一ではないかもしれないが、突然変異が含まれる場合がある。最初に形質転換された細胞においてスクリーニング又は選択されたものと同じ機能又は生物活性を有する変異型子孫が本明細書において含まれる。
【0034】
「ヒト抗体」は、ヒト又はヒト細胞により産生されるか、又はヒト抗体のレパートリー又は他のヒト抗体をコードする配列を利用した非ヒト起源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するものである。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を特に除外する。
【0035】
「ウサギ抗体」は、ウサギ又はウサギ細胞により産生されるか、又はウサギ抗体のレパートリー又は他のウサギ抗体をコードする配列を利用した非ウサギ起源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するものである。
【0036】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHのフレームワーク配列の選択において、最も一般的に存在するアミノ酸残基に相当するフレームワークである。一般に、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。一般的には、配列のサブグループは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), vols. 1-3にあるサブグループである。一実施態様において、VLについて、サブグループは上掲のKabatらに記載のサブグループカッパIである。一実施態様において、VHについて、サブグループは上掲のKabatらにあるサブグループIIIである。
【0037】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVR由来のアミノ酸残基、及びヒトFR由来アミノ酸残基を含むキメラ抗体を指す。ある実施態様において、ヒト化抗体は、少なくとも一つ、典型的には二つの可変ドメインの実質的に全てを含み、HVR(例えば、CDR)の全て又は実質的に全てが、非ヒト抗体のものに対応し、FRの全て又は実質的に全てが、ヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意選択的に、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでいてもよい。抗体の「ヒト化型」、例えば、非ヒト抗体は、ヒト化を遂げた抗体を指す。
【0038】
本明細書で使用される用語「超可変領域」又は「HVR」は、配列が超可変であるか、及び/又は構造的に定義されたループ(「超可変ループ」)を形成する抗体可変ドメインの各領域を指す。一般に、天然の4鎖抗体は、6つのHVR、すなわちVH中の3つ(H1、H2、H3)及びVL中の3つ(L1、L2、L3)を含む。HVRは、一般に、超可変ループ由来及び/又は「相補性決定領域」(CDR)由来のアミノ酸残基を含み、後者は、配列変動性が最も高く、及び/又は抗原の認識に関与する。典型的な超可変ループはアミノ酸残基26−32(L1)、50−52(L2)、91−96(L3)、26−32(H1)、53−55(H2)、及び96−101(H3)で生じる。(Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))。典型的なCDR(CDR−L1、CDR−L2、CDR−L3、CDR−H1、CDR−H2、及びCDR−H3)は、アミノ酸残基L1の24−34、L2の50−56、L3の89−97、H1の31−35B、H2の50−65、及びH3の95−102で生じる。(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991))。VHのCDR1の例外を除いて、CDRは一般的に超可変ループを形成するアミノ酸残基を含む。CDRは、抗原に接触する残基である「特異性決定残基」又は「SDR」も含む。SDRは、短縮型CDR又はa−CDRと呼ばれるCDR領域内に含まれる。例示的なa−CDR(a−CDR−L1、a−CDR−L2、a−CDR−L3、a−CDR−H1、a−CDR−H2、及びa−CDR−H3)は、アミノ酸残基L1の31−34、L2の50−55、L3の89−96、H1の31−35B、H2の50−58、及びH3の95−102で生じる。(Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008)を参照のこと)。特に断らない限り、可変ドメイン内のHVR残基及び他の残基(例えば、FR残基)は、上掲のKabatらに従い、本明細書において番号が付けられる。
【0039】
「イムノコンジュゲート」は、一以上の異種分子にコンジュゲートした抗体であり、限定されないが、細胞傷害性薬物を含む。イムノコンジュゲートは、用語「抗体薬物コンジュゲート」(ADC)に相当する。
【0040】
「個体」又は「被験体」は哺乳動物である。哺乳動物は、限定されないが、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えば、ヒト、及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、げっ歯類(例えば、マウス及びラット)を含む。ある実施態様において、個体又は被験体はヒトである。
【0041】
「単離された」抗体は、その自然環境の成分から分離されたものである。幾つかの実施態様において、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS−PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)により決定される場合、95%以上又は99%の純度に精製される。抗体純度の評価法の総説としては、例えばFlatman et al., J. Chromatogr. B 848:79-87 (2007)を参照のこと。
【0042】
「単離された」核酸は、その自然環境の成分から分離された核酸分子を指す。単離された核酸としては、核酸分子を通常含む細胞に含まれる核酸分子が挙げられるが、核酸分子は、染色体外に、又はその天然の染色体上の位置とは異なる染色体上の位置にも存在する。
【0043】
「抗Ly6E抗体をコードする単離された核酸」は、抗体の軽鎖及び重鎖(又はその断片)をコードする1種又は複数の核酸分子を指す。これには、単一のベクター又は別々のベクター中のそうした核酸分子(複数可)が含まれ、そうした核酸分子(複数可)は、宿主細胞の1か所又は複数の位置に存在する。
【0044】
本明細書で使用する場合、用語「Ly6E」は、細胞におけるLy6Eの前駆タンパク質のプロセシングによって生じる、任意の天然の成熟Ly6Eを指す。この用語には、別段指示がない限り、霊長類(例えば、ヒト及びカニクイザル又はアカゲザル)などの哺乳動物並びにげっ歯類(例えば、マウス及びラット)を含めた任意の脊椎動物供給源由来のLy6Eが含まれる。この用語には、天然に存在するLy6Eの変異体、例えば、スプライス変異体又は対立遺伝子変異体も含まれる。シグナル配列(アミノ酸1−20=シグナル配列)を有する例示的なヒトLy6Eの前駆タンパク質のアミノ酸配列を配列番号1に示す。例示的な成熟ヒトLy6Eのアミノ酸配列は、配列番号38に示される。例示的なカニクイザルLy6Eのアミノ酸1−131の配列は、配列番号2に示される。例示的な成熟カニクイザルLy6Eのアミノ酸配列は、配列番号39に示される。例示的なラットLy6E前駆体のアミノ酸配列(シグナル配列、アミノ酸1−26を有する)及び成熟配列は配列番号37及び42にぞれぞれ示される。例示的なマウスLy6E前駆体のアミノ酸配列(シグナル配列、アミノ酸1−26を有する)及び成熟配列は配列番号36及び41にぞれぞれ示される。例示的なアカゲザルLy6E前駆体のアミノ酸配列(シグナル配列、アミノ酸1−20を有する)及び成熟配列は配列番号35及び40にぞれぞれ示される。
【0045】
用語「Ly6E陽性のがん」は、その表面でLy6Eを発現する細胞を含むがんを指す。細胞が表面でLy6Eを発現するかどうかの測定においては、Ly6E mRNAの発現が、細胞表面でのLy6E発現と相関すると考えられる。幾つかの実施態様では、Ly6E mRNAの発現は、インサイツハイブリダイゼーション及びRT−PCR(定量的RT−PCRを含む)から選択される方法によって測定する。あるいは、細胞表面でのLy6Eの発現は、例えば、Ly6Eに対する抗体を使用して、例えば免疫組織化学、FACSなどの方法において測定することができる。幾つかの実施態様において、Ly6E陽性がんは、Her2陽性乳がん、Her2陰性乳がん、Her2陰性/ホルモン受容体陽性(Her2−/ER+/PR+)乳がん、トリプルネガティブ(Her2−/ER−/PR−)乳がんを含む、乳がん及び転移性乳がん、膵臓がん、結腸がん、結腸直腸がん、黒色腫、卵巣がん、肺がん、非小細胞肺がん(腺癌などの扁平上皮及び/又は非扁平上皮)、軟組織がん、子宮内膜がん、食道がん、頭頸部がん、腎臓がん、又はHer2陽性胃がん及びHer2陰性胃がんを含む胃がんを含み、それぞれの場合にLy6E発現の検出可能なレベルを示す。
【0046】
用語「Ly6E陽性細胞」は、その表面にLy6Eを発現するがん細胞を指す。
【0047】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味し、すなわち、例えば、天然に生じる変異を含み、又はモノクローナル抗体製剤の製造時に発生し、一般的に少量で存在している変異体などの、可能性のある変異体抗体を除き、集団を構成する個々の抗体は同一であり、及び/又は同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体の調製物とは異なり、モノクローナル抗体の調製物の各モノクローナル抗体は、抗原の単一の決定基に対するものである。「モノクローナル」なる修飾語句は、抗体の、実質的に均一な抗体の集団から得られたものであるという特性を示し、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないと解釈されるべきものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、これらに限定されないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン座の全て又は一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含めた種々の手法によって作製することができ、モノクローナル抗体を作製するためのそうした方法及び他の例示的方法は、本明細書に記載されている。
【0048】
「ネイキッド抗体」とは、異種の部分(例えば、細胞傷害性部分)又は放射性標識にコンジュゲートしていない抗体を指す。ネイキッド抗体は薬学的製剤中に存在してもよい。
【0049】
「天然型抗体」は、天然に生じる様々な構造をとる免疫グロブリン分子を指す。例えば、天然型IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から成る、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に、各重鎖は、可変重鎖ドメイン又は重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)、続いて3つの定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端に、各軽鎖は、可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)、続いて軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインを有する。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つのタイプのうちの1つに帰属させることができる。
【0050】
用語「添付文書」は、効能、用法、用量、投与、併用療法、禁忌についての情報、及び/又はそのような治療用製品の使用に関する警告を含む、治療用製品の商用パッケージに慣習的に含まれている説明書を指すために使用される。
【0051】
基準ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、配列を整列させ、必要に応じて最大の配列同一性パーセントを得るためにギャップを導入した後の、いかなる保存的置換も配列同一性の一部としてみなさない、基準ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージと定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST−2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成可能である。当業者であれば、比較される配列の全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。しかし、ここでの目的のためには、%アミノ酸配列同一性値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN−2を用いて得られる。ALIGN−2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテク社によって作成され、ソースコードは米国著作権庁、Washington D.C.,20559に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087の下で登録されている。ALIGN−2プログラムはジェネンテク社、South San Francisco,Californiaを通して公的に入手可能であり、ソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN−2プログラムは、UNIX(登録商標)オペレーティングシステム、特にデジタルUNIX(登録商標)V4.0Dでの使用のためにコンパイルされる。全ての配列比較パラメータは、ALIGN−2プログラムによって設定され変動しない。アミノ酸配列比較にALIGN−2が用いられる状況では、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bとの、又はそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、与えられたアミノ酸配列Bと、又はそれに対して或る程度の%アミノ酸配列同一性を持つ又は含む与えられたアミノ酸配列Aと言うこともできる)は次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、Xは、A及びBのプログラムアラインメントにおいて、配列アラインメントプログラムALIGN−2によって同一であると一致したスコアのアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基の全数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと一致しない場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは一致しないと評価されるであろう。特に断らない限りは、ここで使用される全ての%アミノ酸配列同一性値は、直前のパラグラフに記載したように、ALIGN−2コンピュータプログラムを用いて得られる。
【0052】
用語「薬学的製剤」は、その中に有効で含有される活性成分の生物学的活性を許容するような形態であって、製剤を投与する被験体にとって許容できない毒性である他の成分を含まない調製物を指す。
【0053】
「薬学的に許容可能な担体」は、被験体に非毒性であり、有効成分以外の薬学的製剤中の成分を指す。薬学的に許容可能な担体は、限定されないが、緩衝剤、賦形剤、安定剤、又は保存剤を含む。
【0054】
本明細書で使用される「白金錯体」とは、限定されないが、例えば、DNAに共有結合する能力に基づいて腫瘍に対する有効性を発揮する、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、イプロプラチン、サトラプラチン、CI−973、AZ0473、DWA2114R、ネダプラチン、及びスプリオプラチン(sprioplatin)などの抗癌化学療法剤を指す。
【0055】
本明細書で使用されるように、「治療」(及び、「治療する(treat)」又は「治療すること(treating)」などのその文法的変形)とは、治療を受けている個体の自然経過を変える試みにおける臨床的介入のことであり、予防のために又は臨床病理の経過中に実施することができる。治療の望ましい効果には、疾患の発生又は再発を予防すること、症状の軽減、疾患のいかなる直接的又は間接的病理学的結果も減少すること、転移を予防すること、疾患進行の速度を減少すること、疾患状態の寛解又は緩和、及び寛解又は予後改善が含まれるが、これらに限定されない。幾つかの実施態様では、本発明の抗体は、疾患の発生を遅延させる又は疾患の進行を遅らせるために使用される。
【0056】
用語「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の抗原への結合に関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然型抗体の可変重鎖ドメイン及び軽鎖(それぞれVH及びVL)は、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と3つの超可変領域(HVR)を含む各ドメインを有し、一般的に似たような構造を有する。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 第6版, W.H. Freeman and Co., 91頁 (2007)を参照)。単一のVH又はVLドメインが、抗原結合特異性を付与するのに十分であり得る。更に、抗原に結合する抗体由来のVH又はVLドメインを使用して、それぞれ相補的なVL又はVHドメインのライブラリーをスクリーニングし、特定の抗原を結合する抗体を単離することができる。例えば、Portolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993); Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991)を参照。
【0057】
本明細書で使用される、用語「ベクター」は、それがリンクされている別の核酸を伝播することができる核酸分子を指す。この用語には、自己複製核酸構造物としてのベクター及びそれが導入されている宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターが含まれる。ある種のベクターは、作動可能に連結された核酸の発現を指令することができる。そうしたベクターを、本明細書では、「発現ベクター」と称する。
【0058】
II.組成物及び方法
一態様において、本発明は、Ly6Eに結合する抗体及びそのような抗体を含むイムノコンジュゲートに、一部、基づいている。本発明の抗体とイムノコンジュゲートは、例えば、Ly6E陽性がんの診断又は治療のために有用である。
【0059】
A.例示的な抗Ly6E抗体
幾つかの実施態様において、本発明はLy6Eに結合する単離された抗体を提供する。ある実施態様において、抗Ly6E抗体は、以下の特性の少なくとも一以上を、任意の組み合わせで有する:
(a)配列番号1のアミノ酸21〜131内のエピトープに結合し;及び
(b)SPR又はスキャッチャード分析の何れかによって測定される場合、≦7nM、又は≦6nM、又は≦5nM、又は≦4nM、又は≦3nM、又は≦2nM、又は≦1nM、及び必要に応じて≧0.0001nM、又は≧0.001nM、又は≧0.01nMの親和性でLy6Eに結合する。
【0060】
抗体9B12
非限定的な例示的抗Ly6E抗体は、マウス9B12及びそのヒト化変異体、例えば、hu9B12.v12などである(例えば、配列番号4及び6並びに配列番号3及び5に示される可変領域配列を参照)。幾つかの実施態様において、Ly6EはヒトLy6Eである。幾つかの実施態様において、Ly6Eは、ヒト、カニクイザル、アカゲザル、マウス又はラットLy6Eから選択される。
【0061】
幾つかの実施態様において、抗Ly6E抗体は、配列番号1のアミノ酸21〜131内のエピトープに結合する。幾つかのそのような実施態様において、抗Ly6E抗体は、SPR又はスキャッチャード分析の何れかによって測定される場合、≦7nM、又は≦6nM、又は≦5nM、又は≦4nM、又は≦3nM、又は≦2nM、又は≦1nM、及び必要に応じて≧0.0001nM、又は≧0.001nM、又は≧0.01nMの親和性でLy6Eに結合する。本発明の非限定的な例示的抗体は、マウス9B12及びそのヒト化変異体、例えば、hu9B12.v12などである幾つかの実施態様において、Ly6EはヒトLy6Eである。幾つかの実施態様において、Ly6EはヒトLy6E又はカニクイザルLy6Eである。
【0062】
一態様において、本発明は、(a)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号7のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号8のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、又は六つのHVRを含む抗Ly6E抗体を提供する。
【0063】
一態様において、本発明は、(a)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−H3から選択される、少なくとも一つのVH HVR配列、少なくとも二つのVH HVR配列、又は三つ全てのVH HVR配列を含む抗体を提供する。一実施態様において、抗体は、配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む。その他の実施態様において、抗体は、配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−H3、及び配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む。更なる実施態様において、抗体は、配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−H3、配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR−L3、及び配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−H2を含む。更なる実施態様において、抗体は、(a)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−H2;及び(c)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む。
【0064】
別の態様において、本発明は、(a)配列番号7のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号8のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも一つのVL HVR配列、少なくとも二つのVL HVR配列、又は三つ全てのVL HVR配列を含む抗体を提供する。一実施態様において、抗体は、(a)配列番号7のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号8のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む。
【0065】
その他の態様において、本発明の抗体は、(a)(i)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(ii)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−H2、及び(iii)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−H3から選択される少なくとも一つのVH HVR配列、少なくとも二つのVH HVR配列、又は三つ全てのVH HVR配列を含むVHドメイン;及び(b)(i)配列番号7のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(ii)配列番号8のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(c)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される少なくとも一つのVL HVR配列、少なくとも二つのVL HVR配列、又は三つ全てのVL HVR配列を含むVLドメインを含む。
【0066】
その他の態様において、本発明は、(a)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号7のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号8のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号9から選択されるアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む抗体を提供する。
【0067】
上記実施態様の何れかにおいて、抗Ly6E抗体はヒト化されている。一実施態様において、抗Ly6E抗体は、上記実施態様の何れかにおけるHVRを含み、更に、アクセプターヒトフレームワーク、例えばヒト免疫グロブリンのフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークを含む。別の実施態様において、抗Ly6E抗体は、上記実施態様の何れかにおけるHVRを含み、それは更に、配列番号20の軽鎖可変ドメインフレームワークFR2配列若しくは配列番号21の軽鎖可変ドメインフレームワークFR3又は配列番号23の重鎖可変ドメインフレームワークFR1若しくは配列番号24の重鎖可変ドメインフレームワークFR2を含む。
【0068】
別の態様において、抗Ly6E抗体は、配列番号5のアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン(VH)配列を含む。ある実施態様において、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の同一性を有するVH配列は、参照配列に対して置換(例えば保存的置換)、挿入、又は欠失を含むが、その配列を含む抗Ly6E抗体はLy6Eへ結合する能力を保持する。ある実施態様において、配列番号5において、合計1から10のアミノ酸が、置換、挿入及び/又は欠失している。ある実施態様において、置換、挿入、又は欠失は、HVR外の(すなわちFR内の)領域で生じる。任意で、抗Ly6E抗体は、配列番号5に記載のVH配列を含み、その配列の翻訳後修飾を含む。特定の実施態様において、VHは、(a)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−H2、及び(c)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−H3から選択される一、二又は三つのHVRを含む。
【0069】
別の態様において、配列番号3のアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメイン(VL)を含む抗Ly6E抗体が提供される。ある実施態様において、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の同一性を有するVL配列は、参照配列に対して置換(例えば保存的置換)、挿入、又は欠失を含むが、その配列を含む抗Ly6E抗体はLy6Eへ結合する能力を保持する。ある実施態様において、配列番号3において、合計1から10のアミノ酸が、置換、挿入及び/又は欠失している。ある実施態様において、置換、挿入、又は欠失は、HVR外の(すなわちFR内の)領域で生じる。任意で、抗Ly6E抗体は、配列番号3に記載のVL配列を含み、その配列の翻訳後修飾を含む。特定の実施態様において、VLは、(a)配列番号7のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号8のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVRー
L3から選択される一つ、二つ、又は三つのHVRを含む。
【0070】
別の態様において、抗Ly6E抗体が提供され、その抗体は、上記に与えられた実施態様の何れかに記載のVH、及び上記に与えられた実施態様の何れかに記載のVLを含む。一実施態様において、抗体は、配列番号5及び配列番号3のそれぞれVH及びVL配列を、それらの配列の翻訳後修飾を含み、含む。
【0071】
更なる態様において、本発明は、本明細書に提供される抗Ly6E抗体と同一エピトープに結合する抗体を提供する。例えば、ある実施態様において、配列番号5のVH配列及び配列番号3のVL配列を含む抗Ly6E抗体と同じエピトープに結合する抗体が提供される。ある実施態様において、配列番号1のアミノ酸21〜131からなるLy6Eの断片内のエピトープに結合する抗体が提供される。
【0072】
本発明の更なる態様において、上記実施態様の何れかに記載の抗Ly6E抗体は、キメラ、ヒト化又はヒト抗体を含むモノクローナル抗体である。一実施態様において、抗Ly6E抗体は、抗体断片、例えば、Fv、Fab、Fab’、scFv、ダイアボディ、又はF(ab’)
2断片である。別の実施態様において、抗体は、全長抗体、例えば、インタクトなIgG1抗体、又は本明細書において定義された他の抗体クラス又はアイソタイプである。
【0073】
更なる態様にて、以下のセクション1−7で説明されるように、上記実施態様の何れかに記載の抗Ly6E抗体は、単独又は組み合わせで、任意の特徴を組み込むことができる。
【0074】
抗体GEN−93−8−1
非限定的な例示的抗Ly6E抗体は、
図4に示されるようなウサギGEN−93−8−1及び抗体GEN−93−8−1の一又は複数のHVRを含む抗体である。幾つかの実施態様において、Ly6EはヒトLy6Eである。幾つかの実施態様において、Ly6Eは、ヒト、非ヒト霊長類、マウス又はラットLy6Eから選択される。幾つかの実施態様において、非ヒト霊長類Ly6Eは、カニクイザル又はアカゲザルLy6Eである。
【0075】
一態様において、本発明は、(a)配列番号32のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号31のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、又は六つのHVRを含む抗Ly6E抗体を提供する。
【0076】
一態様において、本発明は、(a)配列番号32のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H3から選択される、少なくとも一つのVH HVR配列、少なくとも二つのVH HVR配列、又は三つ全てのVH HVR配列を含む抗体を提供する。一実施態様において、抗体は、配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む。その他の実施態様において、抗体は、配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H3、及び配列番号31のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む。更なる実施態様において、抗体は、配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H3、配列番号31のアミノ酸配列を含むHVR−L3、及び配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H2を含む。更なる実施態様において、抗体は、(a)配列番号32のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H2;及び(c)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む。
【0077】
別の態様において、本発明は、(a)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号31のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも一つのVL HVR配列、少なくとも二つのVL HVR配列、又は三つ全てのVL HVR配列を含む抗体を提供する。一実施態様において、抗体は、(a)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号31のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む。
【0078】
別の態様において、本発明の抗体は、(a)(i)配列番号32のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(ii)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H2、及び(iii)配列番号34から選択されるアミノ酸配列を含むHVR−H3から選択される少なくとも一つのVH HVR配列、少なくとも二つのVH HVR配列、又は三つ全てのVH HVR配列を含むVHドメイン;及び(b)(i)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(ii)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(c)配列番号31のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される少なくとも一つのVL HVR配列、少なくとも二つのVL HVR配列、又は三つ全てのVL HVR配列を含むVLドメインを含む。
【0079】
別の態様において、本発明は、(a)配列番号32のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号31から選択されるアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む抗体を提供する。
【0080】
上記実施態様の何れかにおいて、抗Ly6E抗体はヒト化されている。一実施態様において、抗Ly6E抗体は、上記実施態様の何れかにおけるHVRを含み、更に、アクセプターヒトフレームワーク、例えばヒト免疫グロブリンのフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークを含む。
【0081】
別の態様において、抗Ly6E抗体は、配列番号28のアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン(VH)配列を含む。ある実施態様において、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の同一性を有するVH配列は、参照配列に対して置換(例えば保存的置換)、挿入、又は欠失を含むが、その配列を含む抗Ly6E抗体はLy6Eへ結合する能力を保持する。ある実施態様において、配列番号28において、合計1から10のアミノ酸が、置換、挿入及び/又は欠失している。ある実施態様において、置換、挿入、又は欠失は、HVR外の(すなわちFR内の)領域で生じる。任意で、抗Ly6E抗体は、配列番号28に記載のVH配列を含み、その配列の翻訳後修飾を含む。特定の実施態様において、VHは、(a)配列番号32のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H2、及び(c)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H3から選択される一、二又は三つのHVRを含む。
【0082】
別の態様において、配列番号27のアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメイン(VL)を含む抗Ly6E抗体が提供される。ある実施態様において、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の同一性を有するVL配列は、参照配列に対して置換(例えば保存的置換)、挿入、又は欠失を含むが、その配列を含む抗Ly6E抗体はLy6Eへ結合する能力を保持する。ある実施態様において、配列番号27において、合計1から10のアミノ酸が、置換、挿入及び/又は欠失している。ある実施態様において、置換、挿入、又は欠失は、HVR外の(すなわちFR内の)領域で生じる。任意で、抗Ly6E抗体は、配列番号27に記載のVL配列を含み、その配列の翻訳後修飾を含む。特定の実施態様において、VLは、(a)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号31のアミノ酸配列を含むHVRー
L3から選択される一つ、二つ、又は三つのHVRを含む。
【0083】
別の態様において、抗Ly6E抗体が提供され、その抗体は、上記に与えられた実施態様の何れかに記載のVH、及び上記に与えられた実施態様の何れかに記載のVLを含む。一実施態様において、抗体は、配列番号28及び配列番号27にそれぞれ記載のVH及びVL配列を、それらの配列の翻訳後修飾を含み、含む。
【0084】
更なる態様において、本発明は、本明細書に提供される抗Ly6E抗体と同じエピトープに結合する抗体を提供する。例えば、ある実施態様において、配列番号28のVH配列及び配列番号27のVL配列を含む抗Ly6E抗体と同じエピトープに結合する抗体が提供される。
【0085】
本発明の更なる態様において、上記実施態様の何れかに記載の抗Ly6E抗体は、キメラ、ヒト化又はヒト抗体を含むモノクローナル抗体である。一実施態様において、抗Ly6E抗体は、抗体断片、例えば、Fv、Fab、Fab’、scFv、ダイアボディ、又はF(ab’)
2断片である。別の実施態様において、抗体は、全長抗体、例えば、インタクトなIgG1抗体、又は本明細書において定義された他の抗体クラス又はアイソタイプである。
【0086】
更なる態様にて、以下のセクション1−7で説明されるように、上記実施態様の何れかに記載の抗Ly6E抗体は、単独又は組み合わせで、任意の特徴を組み込むことができる。
【0087】
アッセイ
抗Ly6E抗体が、配列番号1のアミノ酸21〜131内のエピトープに結合するかどうかを決定するため、N末端及びC末端の欠失を有するLy6Eポリペプチドが293細胞で発現され、切断型ポリペプチドに対する抗体の結合がFACSによって試験され、ここで、293細胞で発現された完全長Ly6Eへの結合に比較して、切断型ポリペプチドに対する抗体の結合の実質的な減少(≧70%の減少)又は消失は、抗体がその切断型ポリペプチドに結合しないことを示している。
【0088】
抗Ly6E抗体が、「≦6nM、又は≦5nM、又は≦4nM、又は≦3nM、又は≦2nM、又は≦1nMの親和性で結合する」かどうかは、本明細書の実施例4に記載されるようにスキャッチャード分析によって決定される。あるいは、抗Ly6E抗体の親和性は、例えば、BIAcoreアッセイに従って決定することができる。具体的には、Kdは、BIACORE(登録商標)−3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,NJ)を用いた表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定される。BIAcore(商標)研究グレードCM5チップが、供給業者の説明書に従って、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)試薬で活性化される。ヤギ抗ヒトFc IgGが、各フローセルにおいて約10,000応答単位(RU)を得るようにチップに結合される。未反応のカップリング基を1Mのエタノールアミンで遮断する。速度論測定については、抗Ly6E抗体が、約300RUを得るように捕獲される。ヒトLy6E(例えば、バキュロウイルス系で発現させたHis−Fcに融合したアミノ酸21−131、又はCHO細胞から発現させたFcに融合したアミノ酸21−131;125nMから0.49nM)の2倍階段希釈物が、HBS−P緩衝液(0.01MのHEPES pH7.4、0.15MのNaCl、0.005%界面活性剤P20)に、30μl/分の流速で25℃で注入される。会合速度(kon)及び解離速度(koff)が、1:1ラングミュア結合モデル(BIAcore(商標)評価ソフトウェア3.2版)を使用して計算される。平衡解離定数(Kd)はkoff/kon比として算出される。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによる結合速度が10
6M−
1s−
1を上回る場合、分光計、例えば、流動停止を備えた分光光度計(stop-flow equipped spectrophometer)(Aviv Instruments)又は撹拌キュベットを備えた8000シリーズのSLM−AMINCO(登録商標)分光光度計(ThermoSpectronic)で測定される、漸増濃度の抗原の存在下にて、PBS(pH7.2)中、25℃で、20nMの抗抗原抗体(Fab型)の蛍光放出強度(励起=295nm;放出=340nm、帯域通過=16nm)における増加又は減少を測定する蛍光消光技術を用いて結合速度を測定することができる。
【0089】
上記実施態様の何れかにおいて、抗Ly6E抗体はヒト化されている。一実施態様において、抗Ly6E抗体は、上記実施態様の何れかに記載のHVRを含み、更に、ヒトアクセプターフレームワーク、例えばヒト免疫グロブリンのフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークを含む。ある実施態様において、ヒトアクセプターフレームワークは、ヒトVLカッパIVコンセンサス(VL
KIV)フレームワーク及び/又はVHフレームワークVH
1である。
【0090】
本発明の更なる態様において、上記実施態様の何れかに記載の抗Ly6E抗体は、キメラ、ヒト化又はヒト抗体を含むモノクローナル抗体である。一実施態様において、抗Ly6E抗体は、抗体断片、例えば、Fv、Fab、Fab’、scFv、ダイアボディ、又はF(ab’)
2断片である。その他の態様において、抗体は、全長抗体、例えば、本明細書において定義されるIgG1抗体、又は他の抗体クラス又はアイソタイプである。
【0091】
更なる態様にて、以下のセクション1−7で説明されるように、上記実施態様の何れかに記載の抗Ly6E抗体は、単独又は組み合わせで、任意の特徴を組み込むことができる。
【0092】
本発明の更なる態様では、上記実施態様の何れかに記載の抗Ly6E抗体は、ヒト抗体を含むモノクローナル抗体である。一実施態様において、抗Ly6E抗体は、抗体断片、例えば、Fv、Fab、Fab’、scFv、ダイアボディ、又はF(ab’)
2断片である。別の実施態様において、抗体は、全長抗体、例えば、インタクトなIgG2a抗体、又は本明細書において定義された他の抗体クラス又はアイソタイプである。
【0093】
更なる態様にて、以下のセクション1−7で説明されるように、上記実施態様の何れかに記載の抗Ly6E抗体は、単独又は組み合わせで、任意の特徴を組み込むことができる。
【0094】
1.抗体親和性
ある実施態様において、本明細書において与えられる抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM、及び任意で≧10−
13M(例えば、10
−8M未満、例えば、10
−8Mから10
−13M、例えば、10
−9Mから10
−13M)の解離定数(Kd)を有する。
【0095】
一実施態様において、以下のアッセイにより説明されるように、Kdは、目的の抗体のFab型とその抗原を用いて実施される放射標識抗原結合アッセイ(RIA)により測定される。非標識抗原の滴定系列の存在下で、最小濃度の(
125I)−標識抗原にてFabを均衡化して、抗Fab抗体コートプレートと結合した抗原を捕獲することによって抗原に対するFabの溶液結合親和性を測定する(例として、Chen, et al., J. Mol. Biol. 293:865-881(1999)を参照)。アッセイの条件を決めるために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート(Thermo Scientific)を、5μg/mlの捕獲抗Fab抗体(Cappel Labs)を含む50mM炭酸ナトリウム(pH9.6)にて一晩コートして、その後2%(w/v)のウシ血清アルブミンを含むPBSにて室温(およそ23℃)で2〜5時間、ブロックする。非吸着プレート(Nunc #269620)に、100pM又は26pMの[
125I]抗原を段階希釈した所望のFabと混合する(例えば、Presta et al., Cancer Res. 57:4593-4599 (1997)の抗VEGF抗体、Fab−12の評価と一致する)。次に、対象のFabは一晩インキュベートされるが;しかし、インキュベーションは平衡に達していることを確実にするために更に長い期間(例えば、約65時間)続いてもよい。その後、混合物を捕獲プレートに移し、室温で(例えば1時間)インキュベートする。次いで、溶液を除去し、プレートをPBS中の0.1%ポリソルベート20(TWEEN−20(登録商標))で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルのシンチラント(MICROSCINT−20
TM;Packard)を添加し、プレートは10分間TOPCOUNT
TMガンマカウンター(Packard)でカウントされる。最大結合の20%以下を与えるそれぞれのFabの濃度が、競合結合アッセイにおいて使用するために選択される。
【0096】
別の実施態様において、Kdは、実施例4に記載されるように、スキャッチャード分析を用いて測定される。別の実施態様に従って、〜10反応単位(RU)の固定した抗原 CM5チップを用いて25℃のBIACORE(登録商標)−2000又はBIACORE(登録商標)−3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,NJ)を用いる表面プラズモン共鳴アッセイを使用してKdを測定する。簡単に言うと、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5,BIAcore Inc.)を、提供者の指示書に従ってN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシスクシニミド(NHS)で活性化した。抗原を10mM酢酸ナトリウム(pH4.8)で5μg/ml(〜0.2μM)に希釈し、結合したタンパク質の反応単位(RU)がおよそ10になるように5μl/分の流速で注入する。抗原の注入後、反応しない群をブロックするために1Mのエタノールアミンを注入する。速度論の測定のために、Fabの2倍の段階希釈(0.78nMから500nM)を、25℃で、およそ25μl/分の流速で、0.05%ポリソルベート20(TWEEN20
TM)界面活性剤(PBST)を含むPBSに注入した。会合及び解離のセンサーグラムを同時にフィットさせることによる単純一対一ラングミュア結合モデル(simple one-to-one Langmuir binding model)(BIAcore(登録商標)評価ソフトウェア3.2版)を用いて、会合速度(kon)と解離速度(koff)を算出した。平衡解離定数(Kd)をkoff/kon比として算出した。例えば、 Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881 (1999)を参照。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによる結合速度が10
6M−
1s−
1を上回る場合、分光計、例えば、流動停止を備えた分光光度計(stop-flow equipped spectrophometer)(Aviv Instruments)又は撹拌キュベットを備えた8000シリーズ SLM−AMINCO TM分光光度計(ThermoSpectronic)で測定される、漸増濃度の抗原の存在下にて、PBS(pH7.2)中、25℃の、20nMの抗抗原抗体(Fab型)の蛍光放出強度(励起=295nm;放出=340nm、帯域通過=16nm)の増加又は減少を測定する蛍光消光技術を用いて結合速度を測定することができる。
【0097】
2.抗体断片
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体は抗体断片である。抗体断片は、限定されないが、Fab、Fab’、Fab’−SH、F(ab’)
2、Fv、及びscFv断片、及び下記の他の断片を含む。所定の抗体断片の総説については、 Hudson et al. Nat. Med. 9:129-134 (2003)を参照。scFv断片の総説については、例えば、Pluckthuen, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., (Springer-Verlag, New York), pp. 269-315 (1994)を参照;また、国際公開第93/16185号;及び米国特許第5571894号及び第5587458号も参照。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、かつインビボ半減期を増加させたFab及びF(ab’)
2断片の議論については、米国特許第5869046号を参照のこと。
【0098】
ダイアボディーは、二価又は二重特異性であってもよい2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、欧州特許第404097号;国際公開第1993/01161号; Hudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003);及びHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993)を参照。トリアボディ及びテトラボディもまた Hudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003)に記載されている。
【0099】
単一ドメイン抗体は、抗体の、重鎖可変ドメインの全て又は一部を含む抗体断片、又は軽鎖可変ドメインの全て又は一部を含む抗体断片である。ある実施態様において、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,MA;例えば、米国特許第6248516号(B1)を参照)。
【0100】
抗体断片は様々な技術で作成することができ、限定されないが、本明細書に記載するように、インタクトな抗体の分解、並びに組換え宿主細胞(例えば、大腸菌やファージ)による生産を含む。
【0101】
3.キメラ及びヒト化抗体
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体は、キメラ抗体である。特定のキメラ抗体は、例えば、米国特許第4816567号;及びMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984))に記載されている。一例では、キメラ抗体は非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、又はサルなどの非ヒト霊長類由来の可変領域)及びヒト定常領域を含む。更なる例では、キメラ抗体は、クラス又はサブクラスが親抗体のクラス又はサブクラスから変えられている「クラス転換された」抗体である。キメラ抗体にはその抗原結合断片が含まれる。
【0102】
ある特定の実施態様では、キメラ抗体はヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、ヒトへの免疫原性を抑えるために親非ヒト抗体の特異性及び親和性を保持したままヒト化される。一般に、ヒト化抗体は、HVR、例えば、CDR(又はその一部)が、非ヒト抗体から由来し、FR(又はその一部)がヒト抗体配列に由来する、一以上の可変ドメインを含む。ヒト化抗体はまた、任意で、ヒト定常領域の少なくとも一部をも含む。幾つかの実施態様において、ヒト化抗体の幾つかのFR残基は、抗体特異性又は親和性を回復もしくは改善するめに、非ヒト抗体(例えば、HVR残基が由来する抗体)由来の対応する残基で置換されている。
【0103】
ヒト化抗体及びそれらの製造方法は、例えば、Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008)に総説され、更に、 Riechmann et al., Nature 332:323-329 (1988); Queen et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 86:10029-10033 (1989);米国特許第5,821,337号、第7,527,791号、第6,982,321号及び第7,087,409号; Kashmiri et al., Methods 36:25-34 (2005)(SDR(a−CDR)グラフティングを記述);Padlan, Mol. Immunol. 28:489-498 (1991) (「リサーフェシング」を記述); Dall'Acqua et al., Methods 36:43-60 (2005)(「FRシャッフリング」を記述);及びOsbourn et al., Methods 36:61-68 (2005) 及びKlimka et al., Br. J. Cancer, 83:252-260 (2000) (FRのシャッフリングへの「誘導選択」アプローチを記述)に記載されている。
【0104】
ヒト化に用いられ得るヒトフレームワーク領域は、限定されないが、「ベストフィット」法を用いて選択されるフレームワーク領域(例えば、Sims et al. J. Immunol. 151:2296 (1993));軽鎖又は重鎖の可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列由来のフレームワーク領域(例えば、Carter et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);及びPresta et al. J. Immunol., 151:2623 (1993)を参照);ヒト成熟(体細胞変異)フレームワーク領域又はヒト生殖細胞系フレームワーク領域(例えば、Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008)を参照);及びFRライブラリスクリーニング由来のフレームワーク領域(例えば、Baca et al., J. Biol. Chem. 272:10678-10684 (1997)及びRosok et al., J. Biol. Chem. 271:22611-22618 (1996)を参照)を含む。
【0105】
4.ヒト抗体
ある特定の実施態様では、本明細書に提供される抗体はヒト抗体である。ヒト抗体は当技術分野で公知の種々の技術を使用して産生することができる。ヒト抗体は、van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol. 5: 368-74 (2001) 及びLonberg, Curr. Opin. Immunol. 20:450-459 (2008)に一般的に記載されている。
【0106】
ヒト抗体は、抗原投与に応答して、インタクトなヒト抗体又はヒト可変領域を持つインタクトな抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物に、免疫原を投与することにより調製することができる。このような動物は、典型的には、内因性免疫グロブリン遺伝子座を置換するか、又は染色体外に存在するか若しくは動物の染色体にランダムに組み込まれている、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全て又は一部を含む。このようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は一般的に不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の総説については、 Lonberg, Nat. Biotech. 23:1117-1125 (2005)を参照。また、例えば、XENOMOUSE
TM技術を記載している、米国特許第6075181号及び6150584号;HuMab(登録商標)技術を記載している米国特許第5770429号;K−M MOUSE(登録商標)技術を記載している米国特許第7041870号及び、VelociMouse(登録商標)技術を記載している米国特許出願公開第2007/0061900号)を参照。そのような動物により産生されるインタクトな抗体由来のヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることにより更に改変しうる。
【0107】
ヒト抗体はハイブリドーマベースの方法によっても作製することができる。ヒトモノクローナル抗体の産生のためのヒト骨髄腫及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞系は記載されている。(例えば、Kozbor J. Immunol., 133: 3001 (1984); Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications、頁51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);及びBoerner et al., J. Immunol., 147: 86 (1991)を参照)。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されたヒト抗体はまた、Li et al., PNAS USA, 103:3557-3562 (2006)に記載されている。更なる方法は、例えば、米国特許第7189826号(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の産生を記載している)及びNi, Xiandai Mianyixue, 26(4):265-268 (2006) (ヒト−ヒトハイブリドーマを記載している)に記載されたものを含む。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)はまた、Vollmers and Brandlein, Histology and Histopathology, 20(3):927-937 (2005) 及びVollmers and Brandlein, Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3):185-91 (2005)に記載される。
【0108】
ヒト抗体はまた、ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択されたFvクローン可変ドメイン配列を単離することによって生成され得る。このような可変ドメイン配列は、次に所望のヒト定常ドメインと組み合わせてもよい。抗体ライブラリーからヒト抗体を選択するための技術が、以下に説明される。
【0109】
5.ライブラリー由来抗体
本発明の抗体は、所望の活性又は活性(複数)を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。例えば、様々な方法が、ファージディスプレイライブラリーを生成し、所望の結合特性を有する抗体についてのライブラリーをスクリーニングするために、当該技術分野で知られている。そのような方法は、例えば、Hoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178:1-37 (O'Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, 2001)に総説され、更に、例えば、McCafferty et al., Nature 348:552-554; Clackson et al., Nature 352: 624-628 (1991); Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1992); Marks and Bradbury, in Methods in Molecular Biology 248:161-175 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ, 2003); Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004); Lee et al., J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093 (2004); Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34): 12467-12472 (2004);及びLee et al., J. Immunol. Methods 284(1-2): 119-132(2004)に記載されている。
【0110】
所定のファージディスプレイ法において、VH及びVL遺伝子のレパートリーがポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により個別にクローニングされ、ファージライブラリーにランダムに再結合され、その後、Winter et al., Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455 (1994)に記載されるように、抗原結合ファージについてスクリーニングすることができる。ファージは、通常、抗体断片を、単鎖Fv(scFv)断片、又はFab断片の何れかとして提示する。免疫された起源からのライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要性を伴うことなく免疫原に高親和性抗体を提供する。あるいは、ナイーブレパートリーを(例えばヒトから)クローニングして、Griffiths et al., EMBO J, 12: 725-734 (1993)に記載のように如何なる免疫化を伴うことなく、幅広い非自己抗原及び自己抗原に対する抗体の単一源を提供することが可能である。最後に、ナイーブなライブラリはまた、Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227: 381-388 (1992)に記載されるように、非常に可変なCDR3領域をコードし、インビトロで再構成を達成するために、幹細胞由来の非再配列V遺伝子セグメントをクローニングし、ランダム配列を含むPCRプライマーを使用することにより合成することができる。ヒト抗体ファージライブラリーを記述する特許公報は、例えば、米国特許第5,750,373号、及び米国特許出願公開第2005/0079574号、第2005/0119455号、第2005/0266000号、第2007/0117126号、第2007/0160598号、第2007/0237764号、第2007/0292936号及び第2009/0002360号を含む。
【0111】
ヒト抗体ライブラリーから単離された抗体又は抗体断片は、本明細書でヒト抗体又はヒト抗体の断片とみなされる。
【0112】
6.多重特異性抗体
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体は、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも二つの異なる部位に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。ある実施態様において、結合特異性の一つはLy6Eに対してであり、他は、任意の他の抗原に対してである。ある実施態様において、結合特異性の一つはLy6Eに対してであり、他はCD3に対してである。例えば、米国特許第5821337号を参照。ある実施態様において、二重特異性抗体は、Ly6Eの2つの異なるエピトープに結合することができる。二重特異性抗体はまたLy6Eを発現する細胞に対して細胞傷害性薬物を局在化させるために用いることができる。二重特異性抗体は、全長抗体又は抗体断片として調製することができる。
【0113】
多重特異性抗体を作製するための技術は、限定されないが、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の組換え共発現(Milstein and Cuello, Nature 305: 537 (1983))、国際公開第93/08829号、及びTraunecker et al., EMBO J. 10: 3655 (1991)を参照)及び「ノブ・イン・ホール(knob−in−hole)」エンジニアリング(例えば、米国特許第5731168号を参照)を含む。多重特異抗体はまた、抗体のFc−ヘテロ2量体分子を作成するための静電ステアリング効果を操作すること(国際公開第2009/089004A1号)、2つ以上の抗体又は断片を架橋すること(例えば米国特許第4,676,980号;及びBrennan et al., Science, 229: 81 (1985)を参照);2重特異性抗体を生成するためにロイシンジッパーを使用すること(例えば、Kostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547-1553 (1992)を参照);二重特異性抗体フラグメントを作製するため、「ダイアボディ」技術を使用すること(例えば、Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)を参照);単鎖Fv(sFv)ダイマーを使用すること(例えば、Gruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994)を参照);及び、例えばTutt et al. J. Immunol. 147: 60 (1991)に記載されているように、三重特異性抗体を調製することによって作成することができる。
【0114】
「オクトパス抗体」を含む、3つ以上の機能性抗原結合部位を持つ改変抗体もまた本明細書に含まれる(例えば、米国特許出願公開第2006/0025576号(A1)を参照)。
【0115】
本明細書中の抗体又は断片はまた、Ly6E並びにその他の異なる抗原(例えば米国特許出願公開第2008/0069820号参照)に結合する抗原結合部位を含む、「2重作用(Dual Acting)FAb」又は「DAF」を含む。
【0116】
7.抗体変異体
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体のアミノ酸配列変異体が企図される。例えば、抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性を改善することが望まれ得る。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な改変を導入することにより、又はペプチド合成によって調製することができる。このような改変は、例えば、抗体のアミノ酸配列内における、残基の欠失、及び/又は挿入及び/又は置換を含む。最終コンストラクトが所望の特性、例えば、抗原結合を有していることを条件として、欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせが、最終コンストラクトに到達させるために作成され得る。
【0117】
a)置換、挿入、及び欠失変異体
ある実施態様において、一つ以上のアミノ酸置換を有する抗体変異体が提供される。置換型変異誘発の対象となる部位は、HVRとFRを含む。保存的置換は、表1の「望ましい置換」の見出しの下に示されている。より実質的な変更が、表1の「例示的置換」の見出しの下に与えられ、アミノ酸側鎖のクラスを参照して以下に更に説明される。アミノ酸置換は、目的の抗体に導入することができ、その産物は、所望の活性、例えば、抗原結合の保持/改善、免疫原性の減少、又はADCC又はCDCの改善についてスクリーニングされる。
【0118】
アミノ酸は共通の側鎖特性に基づいてグループに分けることができる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性の親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響する残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe.
【0119】
非保存的置換は、これらの分類の一つのメンバーを他の分類に交換することを必要とするであろう。
【0120】
置換変異体の一つのタイプは、親抗体(例えば、ヒト化又はヒト抗体など)の一以上の超可変領域残基の置換を含む。一般的には、更なる研究のために選択され得られた変異体は、親抗体と比較して、特定の生物学的特性の改変(例えば、改善)(例えば、親和性の増加、免疫原性を減少)を有し、及び/又は親抗体の特定の生物学的特性を実質的に保持しているであろう。典型的な置換型変異体は、親和性成熟抗体であり、例えば、本明細書に記載されるファージディスプレイに基づく親和性成熟技術を用いて、簡便に生成され得る。簡潔に言えば、一以上のHVR残基が変異し、変異体抗体は、ファージ上に表示され、特定の生物学的活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされる。
【0121】
改変(例えば、置換)は、例えば抗体の親和性を向上させるために、HVRで行うことができる。このような改変は、HVRの「ホットスポット」、すなわち、体細胞成熟過程中に高頻度で変異を受けるコドンにコードされた残基で(例えばChowdhury, Methods Mol. Biol. 207:179-196 (2008)を参照)、及び/又はSDR(a−CDR)で行うことができ、得られた変異体VH又はVLが結合親和性について試験される。二次ライブラリーを構築しそこから選択し直すことによる親和性成熟が、例えば、Hoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178:1-37 (O'Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, (2001)に記載されている。親和性成熟の幾つかの実施態様において、多様性が、種々の方法(例えば、変異性PCR、鎖シャッフリング、又はオリゴヌクレオチドを標的とした突然変異誘発)の何れかにより、成熟のために選択された可変遺伝子中に導入される。次いで、二次ライブラリーが作成される。次いで、ライブラリーは、所望の親和性を持つ抗体変異体を同定するためにスクリーニングされる。多様性を導入するするもう一つの方法は、幾つかのHVR残基(例えば、一度に4から6残基)がランダム化されたHVR指向のアプローチを伴う。抗原結合に関与するHVR残基は、例えばアラニンスキャニング突然変異誘発、又はモデリングを用いて、特異的に同定され得る。CDR−H3及びCDR−L3がしばしば標的にされる。
【0122】
ある実施態様において、置換、挿入、又は欠失は、そのような改変が抗原に結合する抗体の能力を実質的に低下させない限りにおいて、一以上のHVR内で生じる可能性がある。例えば、実質的に結合親和性を低下させない保存的改変(例えば本明細書で与えられる保存的置換)をHVR内で行うことができる。このような改変は、HVR「ホットスポット」又はSDRの外側であってもよい。上記に与えられた変異体VH又はVL配列の所定の実施態様において、各HVRは不変であるか、又はわずか1個、2個又は3個のアミノ酸置換が含まれているかの何れかである。
【0123】
突然変異誘発のために標的とすることができる抗体の残基又は領域を同定するための有用な方法は、Cunningham and Wells (1989) Science, 244:1081-1085により説明されるように、「アラニンスキャニング変異誘発」と呼ばれる。この方法では、標的残基の残基又はグループ(例えば、arg、asp、his、lys及びgluなどの荷電残基)が同定され、抗原と抗体との相互作用が影響を受けるかどうかを判断するために、中性又は負に荷電したアミノ酸(例えば、アラニン又はポリアラニン)に置換される。更なる置換が該アミノ酸位に導入されて、最初の置換に対する機能的感受性を実証してもよい。代わりに、又は更に、抗原抗体複合体の結晶構造が、抗体と抗原との接触点を同定するために用いられる。そのような接触残基及び隣接残基が、置換の候補として標的とされるか又は排除され得る。変異体はそれらが所望の特性を含むかどうかを決定するためにスクリーニングされ得る。
【0124】
アミノ酸配列挿入は、一残基から百以上の残基を含有するポリペプチド長にわたるアミノ及び/又はカルボキシル末端融合、並びに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。末端挿入の例としては、N末端メチオニン残基を有する抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入変異体は、酵素に対する抗体のN末端又はC末端への融合(例えばADEPTの場合)、又は抗体の血清半減期を増加させるポリペプチドへの融合を含む。
【0125】
b)グリコシル化変異体
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体は、抗体がグリコシル化される程度が増加又は減少するように改変される。抗体へのグリコシル化部位の付加又は欠失は、一以上のグリコシル化部位が作成又は削除されるようにアミノ酸配列を変えることによって簡便に達成することができる。
【0126】
抗体がFc領域を含む場合には、それに付着する糖を変えることができる。哺乳動物細胞によって生成された天然型抗体は、典型的には、Fc領域のCH2ドメインのAsn297にN−結合により一般的に付着した分岐鎖、二分岐オリゴ糖を含んでいる。例えば、Wright et al. TIBTECH 15:26-32 (1997)を参照。オリゴ糖は、様々な炭水化物、例えば、二分岐オリゴ糖構造の「幹」のGlcNAcに結合した、マンノース、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、シアル酸、並びにフコースを含み得る。幾つかの実施態様において、本発明の抗体におけるオリゴ糖の改変は、一定の改善された特性を有する抗体変異体を作成するために行われ得る。
【0127】
一実施態様において、抗体変異体は、Fc領域に(直接又は間接的に)付着されたフコースを欠いた糖鎖構造を有して提供される。例えば、このような抗体のフコース量は、1%から80%、1%から65%、5%から65%、又は20%から40%であり得る。フコースの量は、例えば、国際公開第2008/077546号に記載されているように、MALDI−TOF質量分析法によって測定されるAsn297に付着している全ての糖構造の合計(例えば、コンプレックス、ハイブリッド及び高マンノース構造)に対して、Asn297の糖鎖中のフコースの平均量を計算することによって決定される。Asn297は、Fc領域(Fc領域残基のEU番号付け)でおよそ297の位置に位置するアスパラギン残基を指し、しかし、Asn297もまた位置297の上流又は下流のおよそ±3アミノ酸に、すなわち抗体の軽微な配列変異に起因して、位置294と300の間に配置され得る。このようなフコシル化変異体はADCC機能を改善させた可能性がある。例えば、米国特許出願公開第2003/0157108号(Presta,L.);米国特許出願公開第2004/0093621号(協和発酵工業株式会社)を参照。「脱フコシル化」又は「フコース欠損」抗体変異体に関連する出版物の例としては、米国特許出願公開第2003/0157108号、国際公開第2000/61739号、国際公開第2001/29246号、米国特許出願公開第2003/0115614号、米国特許出願公開第2002/0164328号、米国特許出願公開第2004/0093621号、米国特許出願公開第2004/0132140号、米国特許出願公開第2004/0110704号、米国特許出願公開第2004/0110282号、米国特許出願公開第2004/0109865号、国際公開第2003/085119号、国際公開第2003/084570号、国際公開第2005/035586号、国際公開第2005/035778号、国際公開第2005/053742号、国際公開第2002/031140号、Okazaki et al. J. Mol. Biol. 336:1239-1249 (2004); Yamane-Ohnuki et al. Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004)が含まれる。脱フコシル化抗体を産生する能力を有する細胞株の例としては、タンパク質フコシル化を欠損しているLec13 CHO細胞(Ripka et al. Arch. Biochem. Biophys. 249:533-545 (1986);米国特許出願公開第2003/0157108号(A1号)、Presta,L;及び国際公開第2004/056312号(A1)、Adamsら、特に実施例11)、及びノックアウト細胞株、アルファ−1、6−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8、ノックアウトCHO細胞(例えば、Yamane-Ohnuki et al. Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004); Kanda, Y. et al., Biotechnol. Bioeng., 94(4):680-688 (2006);及び国際公開第2003/085107号を参照)を含む。
【0128】
抗体変異体は、例えば、抗体のFc領域に結合した二分岐オリゴ糖がGlcNAcによって二分されている二分オリゴ糖を更に備えている。このような抗体変異体はフコシル化を減少させ、及び/又はADCC機能を改善している可能性がある。そのような抗体変異体の例は、例えば、国際公開第2003/011878号(Jean−Mairettら);米国特許第6602684号(Umanaら);及び米国特許出願公開第2005/0123546号(Umanaら)に記載されている。Fc領域に結合したオリゴ糖内に少なくとも1つのガラクトース残基を持つ抗体変異体も提供される。このような抗体変異体はCDC機能を改善させた可能性がある。このような抗体変異体は、例えば、国際公開第1997/30087号(Patelら);国際公開第1998/58964号(Raju,S.);及び国際公開第1999/22764号(Raju,S.)に記載されている。
【0129】
c)Fc領域変異体
ある実施態様において、1つ又は複数のアミノ酸改変を、本明細書で提供される抗体のFc領域に導入することができ、それによってFc領域変異体を生成する。Fc領域変異体は、1つ又は複数のアミノ酸位置においてアミノ酸修飾(例えば置換)を含むヒトFc領域の配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のFc領域)を含んでもよい。
【0130】
ある実施態様において、本発明は、インビボにおける抗体の半減期が重要であるが、ある種のエフェクター機能(例えば補体及びADCCなど)が不要又は有害である用途のための望ましい候補とならしめる、全てではないが一部のエフェクター機能を有する抗体変異体を意図している。インビトロ及び/又はインビボでの細胞毒性アッセイを、CDC活性及び/又はADCC活性の減少/枯渇を確認するために行うことができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイは、抗体がFcγR結合を欠くが(それゆえ、おそらくADCC活性を欠く)、FcRn結合能力を保持していることを確認するために行うことができる。ADCCを媒介する初代細胞、NK細胞は、FcγRIIIのみを発現するが、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞におけるFcRの発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9:457-492 (1991)の464頁の表3に要約されている。目的の分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの非限定的な例は、米国特許第5500362号(例えば、Hellstrom, I. et al. Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 83:7059-7063 (1986)を参照)及びHellstrom, I et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 82:1499-1502 (1985);第5821337号(例えば、Bruggemann, M. et al., J. Exp. Med. 166:1351-1361 (1987)を参照)に説明される。あるいは、非放射性アッセイ法を用いることができる(例えば、フローサイトメトリー用のACTI
TM非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology,Inc.Mountain View,CA;及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞毒性アッセイ(Promega,Madison,WI)。このようなアッセイにおいて有用なエフェクター細胞には、末梢血液単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー細胞(NK細胞)が含まれる。あるいは、又は更に、目的の分子のADCC活性は、Clynes et al. PNAS (USA) 95:652-656 (1998)に開示されるように、インビボで、例えば動物モデルにおいて評価することができる。C1q結合アッセイはまた、抗体が体C1qを結合することができないこと、したがって、CDC活性を欠いていることを確認するために行うことができる。例えば、国際公開第2006/029879号及び国際公開第2005/100402号のC1q及びC3c結合ELISAを参照。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行うことができる(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996); Cragg, M.S. et al., Blood 101:1045-1052 (2003);及びCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004)を参照)。また、FcRn結合、及びインビボでのクリアランス/半減期の測定は、当該分野で公知の方法を用いて行うことができる(例えば、Petkova, S.B. et al., Int'l. Immunol. 18(12):1759-1769 (2006)を参照)。
【0131】
エフェクター機能が減少した抗体は、Fc領域の残基238、265、269、270、297、327、329の一つ以上の置換を有するものが含まれる(米国特許第6737056号)。そのようなFc変異体は、残基265及び297のアラニンへの置換を有する、いわゆる「DANA」Fc変異体を含む、アミノ酸位置265、269、270、297及び327の2以上での置換を有するFc変異体を含む(米国特許第7,332,581号)。
【0132】
FcRへの結合を改善又は減少させた特定の抗体変異体が記載されている。(例えば、米国特許第6,737,056号;国際公開第2004/056312号、及びShields et al., J. Biol. Chem. 9(2): 6591-6604 (2001))。
【0133】
ある実施態様において、抗体変異体は、ADCCを改善する1つ又は複数のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の位置298、333、及び/又は334における置換(EUの残基番号付け)を含む。
【0134】
幾つかの実施態様において、改変された(即ち、改善され又は減少した)C1q結合及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)を生じる、Fc領域における改変がなされ、例えば、米国特許第6194551号、国際公開第99/51642号、及びIdusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)に説明される。
【0135】
増加した半減期を持ち、胎仔への母性IgGの移送を担う、新生児Fc受容体(FcRn)への結合が改善された抗体(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976) 及びKim et al., J. Immunol. 24:249 (1994))が、米国特許出願公開第2005/0014934号(A1)(Hintonら)に記載されている。これらの抗体は、FcRnへのFc領域の結合を改善する一つ又は複数の置換を有するFc領域を含む。このようなFc変異体は、Fc領域の残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424又は434の一以上の置換、例えば、Fc領域の残基434の置換を有するものが含まれる(米国特許第7371826号)。
【0136】
Fc領域の変異体の他の例に関しては、Duncan & Winter, Nature 322:738-40 (1988);米国特許第5,648,260号;米国特許第5,624,821号;及び国際公開第94/29351号も参照のこと。
【0137】
d)システイン操作抗体変異体
ある実施態様において、抗体の1つ以上の残基がシステイン残基で置換されている、システイン操作抗体、例えば、「thioMAbs」を作成することが望まれ得る。特定の実施態様において、置換された残基は、抗体のアクセス可能な部位で存在する。それらの残基をシステインで置換することにより、反応性チオール基は、それによって抗体のアクセス可能な部位に配置され、本明細書中で更に記載されるように、イムノコンジュゲーを作成するために、例えば薬物部分又はリンカー−薬剤部分などの他の部分に抗体をコンジュゲートするために使用することができる。ある実施態様において、一以上の以下の残基がシステインで置換され得る:軽鎖のV205(Kabatの番号付け);重鎖のA118(EU番号付け);及び重鎖Fc領域のS400(EU番号付け)。システイン改変抗体は、例えば、米国特許第7521541号に記載のように生成され得る。
【0138】
e)抗体誘導体
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体は、当技術分野で知られ、容易に入手される追加の非タンパク質部分を含むように更に改変することができる。抗体の誘導体化に適した部分としては、限定されないが、水溶性ポリマーを含む。水溶性ポリマーの非限定的な例は、限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ−1,3−ジオキソラン、ポリ−1,3,6−トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリアミノ酸(単独重合体又はランダム共重合体の何れか)及びデキストラン又はポリ(n−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコール単独重合体、プロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール及びこれらの混合物を包含する。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドはその水中での安定性に起因して製造における利点を有し得る。ポリマーは何れかの分子量のものであってよく、そして分枝鎖又は未分枝鎖であってよい。抗体に結合するポリマーの数は変動してよく、そして、一以上の重合体が結合する場合は、それらは同じか又は異なる分子であってよい。一般的に、誘導体化に使用するポリマーの数及び/又は種類は、限定されないが、向上させるべき抗体の特定の特性又は機能、抗体誘導体が限定された条件下で治療に使用されるのか等を含む考慮に基づいて決定することができる。
【0139】
別の実施態様において、放射線への曝露によって選択的に加熱され得る抗体と非タンパク質部分とのコンジュゲートが提供される。一実施態様において、非タンパク質部分はカーボンナノチューブである(Kam et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 11600-11605 (2005))。放射線は、任意の波長であって良いが、限定されないものの、通常の細胞に害を与えないが、抗体−非タンパク質部分の近位細胞が死滅される温度に非タンパク質部分を加熱する波長が含まれる。
【0140】
B.組換え方法及び組成物
抗体は、例えば米国特許第4,816,567号で説明したように、組換えの方法及び組成物を用いて製造することができる。一実施態様において、本明細書に記載される抗Ly6E抗体をコードする単離された核酸が提供される。このような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列、及び/又は抗体のVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖及び/又は重鎖)をコードし得る。更なる実施態様において、そのような核酸を含む一以上のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。更なる実施態様において、そのような核酸を含む宿主細胞が提供される。一実施態様において、宿主細胞は以下を含む(例えば、以下で形質転換される):(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列、及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、又は(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第一ベクター、及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第二ベクター。一実施態様において、宿主細胞は、真核生物、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又はリンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。一実施態様において、抗Ly6E抗体を作る方法が提供され、その方法は、上記のように、抗体の発現に適した条件下で、抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養することを含み、及び必要に応じて、宿主細胞(又は宿主細胞培養培地)から抗体を回収することを含む。
【0141】
抗Ly6E抗体の組換え生産のために、例えば上述したように、抗体をコードする核酸が単離され、宿主細胞内での更なるクローニング及び/又は発現のために1つ以上のベクターに挿入される。このような核酸は、容易に単離され、従来の手順を用いて(例えば、抗体の重鎖と軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)配列決定することができる。
【0142】
抗体をコードするベクターのクローニング又は発現に適切な宿主細胞は、本明細書に記載の原核細胞又は真核細胞を含む。例えば、特に、グリコシル化及びFcエフェクター機能が必要ない場合には、抗体は、細菌で産生することができる。細菌における抗体断片及びポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5,648,237号、第5,789,199号及び第5,840,523号を参照。(また、大腸菌における抗体の発現を説明している、Charlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp. 245-254も参照。)発現の後、抗体は可溶性画分において細菌の細胞ペーストから単離され、更に精製することができる。
【0143】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、菌類や酵母菌株を含む抗体をコードするベクターのための、適切なクローニング宿主又は発現宿主であり、そのグリコシル化経路が、「ヒト化」されており、部分的又は完全なヒトのグリコシル化パターンを有する抗体の生成をもたらす。Gerngross, Nat. Biotech. 22:1409-1414 (2004)、及びLi et al., Nat. Biotech. 24:210-215 (2006)を参照。
【0144】
グリコシル化抗体の発現に適した宿主細胞はまた、多細胞生物(無脊椎動物と脊椎動物)から派生している。無脊椎動物細胞の例としては、植物及び昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株が同定され、これらは特にSpodoptera frugiperda細胞のトランスフェクションのために、昆虫細胞と組み合わせて使用することができる。
【0145】
植物細胞培養を宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5,959,177号、第6,040,498号、第6,420,548号、第7,125,978号及び第6,417,429号(トランスジェニック植物における抗体産生に関するPLANTIBODIES
TM技術を記載)を参照。
【0146】
脊椎動物細胞もまた宿主として用いることができる。例えば、懸濁液中で増殖するように適合されている哺乳動物細胞株は有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40(COS−7)で形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胚腎臓株(Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977)に記載された293細胞又は293細胞;ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスのセルトリ細胞(Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980)に記載されるTM4細胞);サル腎細胞(CV1);アフリカミドリザル腎細胞(VERO−76);ヒト子宮頚癌細胞(HeLa);イヌ腎臓細胞(MDCK;バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(HepG2);マウス乳腺腫瘍(MMT060562);例えば、Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982)に記載されるTRI細胞;MRC5細胞;及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、DHFR−CHO細胞(Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;及びY0、NS0及びSp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。抗体産生に適した特定の哺乳動物宿主細胞系の総説については、例えば、Yazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), pp. 255-268 (2003)を参照。
【0147】
C.アッセイ
本明細書で提供される抗Ly6E抗体は、当技術分野で公知の様々なアッセイによってその物理的/化学的性質及び/又は生物学的活性について同定され、スクリーニングされ、又は特徴づけることができる。
【0148】
一態様において、本発明の抗体は、例えばELISA、BIACore(登録商標)、FACS、ウエスタンブロット法など公知の方法により、その抗原結合活性について試験される。
【0149】
その他の態様において、Ly6Eへの結合について、本明細書に記載される抗体の何れかと競合する抗体を同定するために、競合アッセイを用いることができる。ある実施態様において、このような競合する抗体は、本明細書に記載される抗体により結合される同一のエピトープ(例えば、直鎖状又は立体構造エピトープ)に結合する。抗体が結合するエピトープをマッピングするための詳細な例示的方法が、Methods in Molecular Biology vol. 66 (Humana Press, Totowa, NJ)のMorris (1996) “Epitope Mapping Protocols," に提供されている。
【0150】
例示的競合アッセイにおいて、固定化Ly6Eに結合する第一標識抗体(例えば、本明細書に記載される抗体の何れか)、及びLy6Eへ結合について第一抗体と競合する能力について試験された第二未標識抗体を含む溶液中でインキュベートされる。第二抗体はハイブリドーマ上清中に存在してもよい。対照として、固定化Ly6Eが、第二未標識抗体でなく、第一標識抗体を含む溶液中でインキュベートされる。第一抗体のLy6Eへの結合を許容する条件下でインキュベートした後、過剰の未結合の抗体が除去され、固定化Ly6Eに結合した標識の量が測定される。もし、固定化Ly6Eに結合した標識の量が、対照試料と比較して試験試料中で実質的に減少している場合、それは、第二抗体がLy6Eへの結合に対して、第一抗体と競合していることを示している。Harlow and Lane (1988) Antibodies: A Laboratory Manual ch.14 (Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY)を参照。
【0151】
D.イムノコンジュゲート
本発明はまた、化学療法剤又は薬物、成長抑制剤、毒素(例えば、タンパク質毒素、細菌、真菌、植物、又は動物起源の酵素活性毒素、又はそれらの断片)、又は放射性同位元素(即ち、放射性コンジュゲート)など、1つ以上の細胞傷害性薬物にコンジュゲートした本明細書中の抗Ly6E抗体を含むイムノコンジュゲートを提供する。
【0152】
イムノコンジュゲートは、腫瘍への薬物部分の標的送達、及び幾つかの実施態様において、そこへの細胞内蓄積を可能にし、ここで非コンジュゲート薬物の全身投与は、正常細胞への許容できないレベルの毒性をもたらし得る(Polakis P. (2005) Current Opinion in Pharmacology 5:382-387)。
【0153】
抗体−薬物コンジュゲート(ADC)は、抗原を発現する腫瘍細胞に対して強力な細胞傷害性薬物を標的とすることによって、抗体及び細胞傷害性薬物の両方の性質を組み合わせ(Teicher, B.A. (2009) Current Cancer Drug Targets 9:982-1004)、これにより、有効性の最大化させ、非特異的毒性を最小化することにより、治療指数を向上させる(Carter, P.J. and Senter P.D. (2008) The Cancer Jour. 14(3):154-169; Chari, R.V. (2008) Acc. Chem. Res. 41:98-107)、標的型化学療法分子である。
【0154】
本発明のADC化合物は、抗がん活性を有するものを含む。幾つかの実施態様において、ADC化合物は、薬物部分にコンジュゲートした、すなわち共有結合した抗体を含む。幾つかの実施態様において、抗体はリンカーを介して薬物部分に共有結合している。抗体薬物コンジュゲート(ADC)は、薬物の有効量を腫瘍組織に選択的に送達し、それによって治療指数(「治療ウインドウ」)を増加させつつ、より大きな選択性、すなわちより低い有効用量を達成することができる。
【0155】
抗体−薬物コンジュゲート(ADC)の薬物部分(D)は、細胞毒性又は細胞増殖抑制効果を有する任意の化合物、部分又は基を含み得る。薬物部分は、限定されないが、チューブリン結合、DNA結合又はインターカレーション、及びRNAポリメラーゼ、タンパク質合成、及びトポイソメラーゼの阻害を含むメカニズムによってそれらの細胞毒性及び細胞増殖抑制効果を与え得る。例示的な薬物部分は、限定されないが、メイタンシノイド、ドラスタチン、アウリスタチン、カリケアマイシン、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)、ネモルビシン及びその誘導体、PNU−159682、アントラサイクリン、デュオカルマイシン、ビンカアルカロイド、タキサン、トリコテセン、CC1065、カンプトテシン、エリナフィド(elinafide)、及びそれらの立体異性体、アイソスター、類似体、及び細胞毒性活性を有するそれらの誘導体を含む。
【0156】
E.診断及び検出のための方法及び組成物
ある実施態様において、本明細書で提供される抗Ly6E抗体の何れかは、生物学的試料中のLy6Eの存在を検出するために有用である。本明細書で使用する「検出」という用語は、定量的又は定性的検出を包含する。「生物学的試料」は、例えば細胞又は組織(例えば、がん性又は潜在的にがん性の結腸、結腸直腸、子宮内膜、膵臓、又は卵巣組織を含む生検材料)を含む。
【0157】
一実施態様において、診断又は検出の方法に使用される抗Ly6E抗体が提供される。更なる態様において、生物学的試料中のLy6Eの存在を検出する方法が提供される。ある実施態様において、方法は、抗Ly6E抗体がLy6Eに結合可能な条件下で、本明細書に記載のように、抗Ly6E抗体に生物学的試料を接触させること、及び生物学的試料において抗Ly6E抗体及びLy6Eの間で複合体が形成されているかどうかを検出することを含む。そのような方法は、インビトロ又はインビボでの方法であり得る。一実施態様では、例えば、Ly6Eが患者を選択するための生物指標である場合、抗Ly6E抗体は、抗Ly6E抗体を用いる療法に好適な被験体を選択するために使用される。更なる実施態様において、「生物学的試料」は、例えば細胞又は組織(例えば、がん性又は潜在的にがん性の結腸、結腸直腸、子宮内膜、膵臓、又は卵巣組織を含む生検材料)である。
【0158】
更なる実施態様において、例えば、がんを診断し、予後予測し、又は病期を分類し、治療の適切なコースを決定し、又は治療に対するがんの応答をモニタリングすることを目的として、例えばインビボでのイメージングにより、被験体のLy6E陽性がんを検出するために、抗Ly6E抗体がインビボで使用される。インビボ検出のための当技術分野で知られている一方法は、例えば、van Dongen et al., The Oncologist 12:1379-1389 (2007) 及びVerel et al., J. Nucl. Med. 44:1271-1281 (2003)に記載されているような、免疫陽電子放出断層撮影法(免疫PET)である。そうした実施態様では、被験体のLy6E陽性がんを検出するための方法が提供され、この方法は、Ly6E陽性がんを有するか又は有することが疑われる被験体に標識抗Ly6E抗体を投与すること、及び被験体において標識抗Ly6E抗体を検出することを含み、標識抗Ly6E抗体の検出が、被験体のLy6E陽性がんを示す。ある種のそうした実施態様では、標識抗Ly6E抗体は、陽電子放出体、例えば
68Ga、
18F、
64Cu、
86Y、
76Br、
89Zr及び
124Iにコンジュゲートした抗Ly6E抗体を含む。特定の実施態様では、陽電子放出体は
89Zrである。
89Zr標識抗体を作製し使用する非限定的な例示的方法は、例えば、PCT公報番号WO2011/056983に記述される。幾つかの実施態様において、標識抗Ly6E抗体は、一以上のジルコニウム複合体にコンジュゲートしたシステイン操作抗体である。例えば、国際公開第2011/056983号を参照のこと。
【0159】
更なる実施態様では、診断又は検出の方法は、支持体に固定化された第1の抗Ly6E抗体を、Ly6Eの存在について試験される生物学的試料と接触させること、第2の抗Ly6E抗体に支持体をさらすこと、及び生物学的試料において第1の抗Ly6E抗体とLy6Eの間の複合体に第2の抗Ly6Eが結合しているかどうかを検出することを含む。基板は、任意の支える媒体、例えば、ガラス、金属、セラミック、ポリマービーズ、スライド、チップ、及び他の基板であってもよい。ある実施態様において、「生物学的試料」は、例えば細胞又は組織(例えば、がん性又は潜在的にがん性の結腸直腸、子宮内膜、膵臓、又は卵巣組織を含む生検材料)を含む。ある実施態様において、第1又は第2の抗Ly6E抗体は、本明細書に記載の抗体のうちの何れかである。そうした実施態様では、第2の抗Ly6E抗体は、6D3又は7C9でもよく;又は例えば本明細書に記載される6D3又は7C9に由来する抗体でもよい。
【0160】
上記実施態様の何れかに従って診断され又は検出され得る例示的な障害は、例えば、Ly6E陽性乳がん(Her2陽性乳がん、Her2陰性乳がん、Her2陰性/ホルモン受容体陽性(Her2−/ER+/PR+)乳がん、三種陰性(Her2−/ER−/PR−)乳がんを含む)、Ly6E陽性結腸がん、Ly6E陽性結腸直腸がん(腺癌を含む)、Ly6E陽性黒色腫、Ly6E陽性卵巣がん(卵巣漿液性腺癌を含む)、Ly6E陽性膵臓がん(膵管腺癌を含む)、Ly6E陽性肺がん、Ly6E陽性非小細胞肺がん(例えば、腺癌などの扁平上皮又は非扁平上皮)、Ly6E陽性胃がん、Ly6E陽性食道がん、Ly6E陽性頭頸部がん、Ly6E陽性腎臓がん、Ly6E陽性軟組織がん、Ly6E陽性黒色腫、及びLy6E陽性子宮内膜がんなどのLy6E陽性がんを含む。幾つかの実施態様において、Ly6E陽性がんは、「0」(腫瘍細胞の90%超における非常に弱い又はゼロの染色に対応する)を超える抗Ly6E免疫組織化学(IHC)又はインサイツハイブリダイゼーション(ISH)スコアを受けるがんである。幾つかの実施態様において、Ly6E陽性がんは、本明細書の実施例4に記載の条件の下で定義されるように、1+、2+又は3+レベルでLy6Eを発現する。幾つかの実施態様において、1+、2+、及び3+の免疫組織化学染色は表3に従って決定される。幾つかの実施態様において、Ly6E陽性がんは、Ly6E mRNAを検出する逆転写酵素PCR(RT−PCR)アッセイに従って、Ly6Eを発現するがんである。幾つかの実施態様において、RT−PCRは、定量RT−PCRである。
【0161】
ある実施態様において、標識抗Ly6E抗体が提供される。標識は、限定されるものではないが、(例えば、蛍光標識、発色団標識、高電子密度標識、化学発光標識、放射性標識など)直接検出される標識又は部分、並びに、例えば、酵素反応又は分子間相互作用を介して間接的に検出される酵素又はリガンドのような部分が含まれる。典型的な標識は、限定されないが、ラジオアイソトープ
32P、
14C、
125I、
3H、及び
131I、フルオロフォア、例えば希土類キレート又はフルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシェフェラーゼ、例えばホタルルシェフェラーゼ及び細菌ルシェフェラーゼ(米国特許第4737456号)、ルシェフェリン、2,3−ジヒドロフタルジネジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖オキシダーゼ、例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘテロサイクリックオキシダーゼ、例えばウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ、色素前駆体を酸化する過酸化水素を利用する酵素、例えばHRP、ラクトペルオキシダーゼ、又はマイクロペルオキシダーゼと共役したもの、ビオチン/アビジン、スピンラベル、バクテリオファージラベル、安定な遊離ラジカルなどが含まれる。別の実施態様では、標識は陽電子放出体である。陽電子放出体は、限定されないが、
68Ga、
18F、
64Cu、
86Y、
76Br、
89Zr及び
124Iを含む。特定の実施態様では、陽電子放出体は
89Zrである。
【0162】
F.薬学的製剤
本明細書に記載の抗Ly6E抗体又はイムノコンジュゲートの薬学的製剤は、所望の程度の純度を有するその抗体又はイムノコンジュゲートと任意の薬学的に許容可能な担体(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed.: Williams and Wilkins PA, USA (1980))とを、凍結乾燥製剤又は水性溶液の形態で混合することによって調製される。薬学的に許容可能な担体は、使用される投薬量及び濃度でレシピエントに毒性でなく、そしてこれには、限定しないが、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸のような緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(例えば、オクタデシルジメチオルベンジルアンモニウムクロライド;ヘキサメトニウムクロライド;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチル又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;及びm−クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン;マンノサッカライド、ジサッカライド、及びグルコース、マンノース又はデキストリンを含む他の炭水化物;キレート剤、例えば、EDTA;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール;塩形成対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体);及び/又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。本明細書における典型的な薬学的に許容可能な担体は、水溶性の中性アクティブヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)などの介在性薬物分散剤、例えば、rHuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International,Inc.)などのヒト可溶性PH−20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質を更に含む。特定の例示的sHASEGP及び使用方法は、rHuPH20を含めて、米国特許公開第2005/0260186号及び第2006/0104968号に記載されている。一態様において、sHASEGPは、コンドロイチナーゼなどの一以上の付加的なグルコサミノグリカナーゼと組み合わされる。
【0163】
例示的な凍結乾燥抗体又はイムノコンジュゲート製剤は、米国特許第6267958号に記載されている。水性抗体又はイムノコンジュゲート製剤には、米国特許第6171586号及び国際公開第2006/044908号に記載されているものが含まれ、後者の製剤は、ヒスチジン−酢酸緩衝液を含む。
【0164】
本明細書の製剤は、治療される特定の適応症に必要である場合、1種より多い活性成分、好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない相補的な活性を有するものを含むこともできる。例えば、幾つかの例において、Ly6E陽性がん、例えば、Ly6E陽性乳がん(Her2陽性乳がん、Her2陰性乳がん、Her2陰性/ホルモン受容体陽性(Her2−/ER+/PR+)乳がん、三種陰性(Her2−/ER−/PR−)乳がんを含む)、又はLy6E陽性膵臓がん、又はLy6E陽性結腸がん、又はLy6E陽性結腸直腸がん、又はLy6E陽性黒色腫、又はLy6E陽性卵巣がん、又はLy6E陽性非小細胞肺がん(例えば、腺癌などの扁平上皮又は非扁平上皮)、又はLy6E陽性胃がん、又はLy6E陽性食道がん、又はLy6E陽性頭頸部がん、又はLy6E陽性腎臓がん、又はLy6E陽性軟組織がん、又はLy6E陽性子宮内膜がんなどの治療のための白金錯体を更に提供することが望まれ得る。
【0165】
活性成分は、例えば、コアセルベーション技術又は界面重合法によって、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン−マイクロカプセル及びポリ(メチルメタクリレート(methylmethacylate))マイクロカプセルにより、コロイド薬物送達系に(例えばリポソーム、アルブミンミクロスフィア、ミクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロ・エマルジョンで調製されたマイクロカプセルに封入されてもよい。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に開示される。
【0166】
徐放製剤を調製してもよい。徐放性製剤の好適な例は、抗体又はイムノコンジュゲートを含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスを含み、そのマトリックスが成形品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形をしている。
【0167】
インビボ投与に使用される製剤は、一般的に無菌である。無菌性は、例えば、滅菌濾過膜を通して濾過することにより達成することができる。
【0168】
G.治療的方法及び組成物
本明細書で提供される抗Ly6E抗体又はイムノコンジュゲートの何れかを、例えば治療方法などの方法で使用することができる。
【0169】
一態様において、本明細書に提供されるLy6E抗体又はイムノコンジュゲートは、Ly6E陽性細胞の増殖を阻害する方法において使用され、該方法は、細胞の表面上のLy6Eへの抗Ly6E抗体又はイムノコンジュゲートの結合を許容する条件下で、抗Ly6E抗体又はイムノコンジュゲートに細胞を曝露し、それにより細胞の増殖を阻害することを含む。ある実施態様において、方法はインビトロ又はインビボの方法である。更なる実施態様において、細胞は、乳がん細胞(Her2陽性乳がん細胞、Her2陰性乳がん細胞、Her2陰性/ホルモン受容体陽性(Her2−/ER+/PR+)乳がん細胞、三種陰性(Her2−/ER−/PR−)乳がん細胞を含む)、又は膵臓がん細胞、又は結腸がん細胞、又は結腸直腸がん細胞、又は黒色腫がん細胞、又はL卵巣がん細胞、又は非小細胞肺がん細胞(例えば、腺癌などの扁平上皮又は非扁平上皮)、又は胃がん細胞、又は食道がん細胞、又は頭頸部がん細胞、又は腎臓がん細胞、又は軟組織がん細胞、又は子宮内膜がん細胞である。
【0170】
体外での細胞増殖の阻害は、Promega(Madison,WI)から市販されている、CellTiter−Glo(商標)Luminescent Cell Viability Assayを使用してアッセイされてもよい。そのアッセイは、代謝的に活性な細胞を示す、存在するATPの定量に基づいて、培養物中の生存細胞の数を決定する。Crouch et al. (1993) J. Immunol. Meth. 160:81-88、米国特許第6602677号を参照。アッセイは、自動化ハイスループットスクリーニング(HTS)に適するように、96穴形式又は384穴形式で行うことができる。Cree et al (1995) AntiCancer Drugs 6:398-404を参照。アッセイ法では、直接培養細胞に単一試薬(CellTiter−Glo(登録商標)試薬)を追加することを含む。これにより、細胞溶解とルシフェラーゼ反応により生成した発光シグナルの生成を生じる。発光シグナルは、培養中に存在する生存細胞の数に直接的に比例しているATPの存在量に比例する。データは、ルミノメーター又はCCDカメラ撮像装置によって記録することができる。発光出力は相対光単位(RLU)として表される。
【0171】
別の態様では、医薬として使用のための抗Ly6E抗体又はイムノコンジュゲートが提供される。更なる態様では、治療の方法において使用のための抗Ly6E抗体又はイムノコンジュゲートが提供される。ある実施態様において、Ly6E陽性がんを治療することにおいて使用のための抗Ly6E抗体又はイムノコンジュゲートが提供される。ある実施態様において、本発明は、Ly6E陽性がんを有する個体を治療する方法における使用のための抗Ly6E抗体又はイムノコンジュゲートを提供し、該方法は個体に抗Ly6E抗体又はイムノコンジュゲートの有効量を投与することを含む。一つのそのような実施態様において、本方法は、例えば後述するように、少なくとも一の付加的治療剤の有効量を個体に投与することを更に含む。
【0172】
更なる態様にて、本発明は、医薬の製造又は調製における抗Ly6E抗体又はイムノコンジュゲートの使用を提供する。一実施態様において、医薬はLy6E陽性がんの治療のためのものである。更なる実施態様において、医薬は、Ly6E陽性がんを治療する方法において使用のためのものであり、該方法はLy6E陽性がんを有する個体に、医薬の有効量を投与することを含む。一つのそのような実施態様において、方法は、例えば後述するように、少なくとも一の付加的治療剤の有効量を個体に投与することを更に含む。
【0173】
更なる態様において、本発明は、Ly6E陽性がんを治療するための方法を提供する。一実施態様において、方法は、かかるLy6E陽性がんを有する個体に抗Ly6E抗体又はイムノコンジュゲートの有効量を投与することを含む。一つのそのような実施態様において、本方法は、後述するように、少なくとも一の付加的治療剤の有効量を個体に投与することを更に含む。
【0174】
上記実施態様の何れかに記載のLy6E陽性がんは、例えば、Ly6E陽性乳がん(Her2陽性乳がん、Her2陰性乳がん、Her2陰性/ホルモン受容体陽性(Her2−/ER+/PR+)乳がん、三種陰性(Her2−/ER−/PR−)乳がんを含む)、Ly6E陽性結腸がん、Ly6E陽性結腸直腸がん(腺癌を含む)、Ly6E陽性黒色腫、Ly6E陽性卵巣がん(卵巣漿液性腺癌を含む)、Ly6E陽性膵臓がん(膵管腺癌を含む)、Ly6E陽性肺がん、Ly6E陽性非小細胞肺がん(例えば、腺癌などの扁平上皮又は非扁平上皮)、Ly6E陽性胃がん、Ly6E陽性食道がん、Ly6E陽性頭頸部がん、Ly6E陽性腎臓がん、Ly6E陽性軟組織がん、Ly6E陽性黒色腫、及びLy6E陽性子宮内膜がんなどのLy6E陽性がんであり得る。幾つかの実施態様において、Ly6E陽性がんは、本明細書に記載される条件下で、「0」(腫瘍細胞の90%超における非常に弱い又はゼロの染色に対応する)を超える抗Ly6E免疫組織化学(IHC)又はインサイツハイブリダイゼーション(ISH)スコアを受けるがんである。別の実施態様において、Ly6E陽性がんは、本明細書に記載の条件の下で定義されるように、1+、2+又は3+レベルでLy6Eを発現する。幾つかの実施態様において、Ly6E陽性がんは、Ly6E mRNAを検出する逆転写酵素PCR(RT−PCR)アッセイに従って、Ly6Eを発現するがんである。幾つかの実施態様において、RT−PCRは、定量RT−PCRである。
【0175】
上記実施態様の何れかに記載の「個体」はヒトであり得る。
【0176】
更なる態様において、本発明は、例えば、上の治療方法の何れかにおいて使用するための、本明細書に提供される抗Ly6E抗体又はイムノコンジュゲートの何れかを含む薬学的製剤を提供する。一実施態様において、薬学的製剤は、本明細書に提供される抗Ly6E抗体又はイムノコンジュゲートの何れかと薬学的に許容可能な担体とを含む。別の実施態様において、薬学的製剤は、本明細書に提供される抗Ly6E抗体又はイムノコンジュゲートの何れかと、例えば、下に記載されるような、少なくとも一の付加的治療剤とを含む。
【0177】
本発明の抗体又はイムノコンジュゲートは、治療において、単独で、又は他の薬剤と組み合わせて使用することができる。例えば、本発明の抗体又はイムノコンジュゲートは少なくとも一の付加的治療剤と同時投与され得る。ある実施態様において、付加的治療剤は、例えば、Ly6E陽性乳がん(Her2陽性乳がん、Her2陰性乳がん、Her2陰性/ホルモン受容体陽性(Her2−/ER+/PR+)乳がん、三種陰性(Her2−/ER−/PR−)乳がんを含む)、Ly6E陽性結腸がん、Ly6E陽性結腸直腸がん(腺癌を含む)、Ly6E陽性黒色腫、Ly6E陽性卵巣がん(卵巣漿液性腺癌を含む)、Ly6E陽性膵臓がん(膵管腺癌を含む)、Ly6E陽性肺がん、Ly6E陽性非小細胞肺がん(例えば、腺癌などの扁平上皮又は非扁平上皮)、Ly6E陽性胃がん、Ly6E陽性食道がん、Ly6E陽性頭頸部がん、Ly6E陽性腎臓がん、Ly6E陽性軟組織がん、Ly6E陽性黒色腫、及びLy6E陽性子宮内膜がんなどのLy6E陽性がんの治療のための白金錯体である。
【0178】
上記のこうした併用療法は、併用投与(2つ以上の治療剤が、同一又は別々の製剤に含まれている)、及び、本発明の抗体又はイムノコンジュゲートの投与が、付加的治療剤及び/又はアジュバントの投与の前、同時、及び/又はその後に起きうる分離投与を包含する。本発明の抗体又はイムノコンジュゲートはまた、放射線療法と組み合わせて使用することができる。
【0179】
本発明の抗体又はイムノコンジュゲート(及び任意の付加的治療剤)は、任意の適切な手段によって投与することができ、非経口、肺内、及び鼻腔内、並びに局所治療が所望される場合、病巣内投与が含まれる。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、又は皮下投与が含まれる。投薬は、その投与が短期間か又は長期であるかどうかに部分的に依存し、任意の適切な経路、例えば、静脈内又は皮下注射などの注射により行うことができる。限定されないが、様々な時間点にわたる、単一又は複数回投与、ボーラス投与、パルス注入を含む様々な投与スケジュールが本明細書で考えられている。
【0180】
本発明の抗体又はイムノコンジュゲートは、適正医療規範に適合するように製剤化され、用量決定され、投与される。これに関連した考慮因子としては、治療すべき具体的な疾患、治療すべき具体的な哺乳動物、個々の患者の臨床状態、疾患の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール及び医師にとって既知の他の因子が挙げられる。抗体又はイムノコンジュゲートは、必要ではないが任意で、問題となる障害の予防又は治療のために、現在使用中の一又は複数の薬剤ともに処方される。そのような他の薬剤の有効量は製剤中に存在する抗体又はイムノコンジュゲートの量、障害又は治療の種類及び上記した他の要因に依存する。これらは、一般に、本明細書に記載のものと同じ投与量及び投与経路を用いて、又は本明細書に記載の投与量の約1%から99%までの投与量で、又は、適切であることが経験的/臨床的に決定される任意の投与量及び任意の経路によって使用される。
【0181】
疾患を予防又は治療するために、本発明の抗体又はイムノコンジュゲートの適切な投与量(単独で、又は1種又は複数種の他の付加的治療剤と組み合わせて使用する場合)は、治療される疾患の種類、抗体又はイムノコンジュゲートの種類、疾患の重症度及び経過、抗体又はイムノコンジュゲートを予防目的で投与するのか治療目的で投与するのか、以前の療法、患者の臨床的病歴及び抗体又はイムノコンジュゲートに対する応答、並びに主治医の自由裁量に左右される。抗体又はイムノコンジュゲートは、患者に、1回で、又は一連の治療にわたって、好適に投与される。疾患の種類及び重症度に応じて、例えば一回以上の別個の投与によるか、連続注入によるかに関わらず、抗体又はイムノコンジュゲート約1μg/kgから15mg/kg(例えば0.1mg/kgから10mg/kg)が患者への投与のための初期候補用量となり得る。1つの典型的な1日投薬量は、上述の要因に応じて、約1μg/kg〜100mg/kg以上の範囲であり得る。病態に応じて数日間又はより長い日数にわたる反復投与について、治療は、一般に、疾患症状の所望の抑制が生じるまで持続されるであろう。抗体又はイムノコンジュゲートの1つの例となる投薬量は、約0.05mg/kg〜約10mg/kgの範囲内であろう。故に、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg、又は10mg/kg(又はそれらの任意の組み合わせ)の1回以上の用量が患者に投与されてもよい。このような用量は断続的に、例えば毎週又は3週毎(例えば患者が抗体の約2投与量から約20投与量、例えば約6投与量を受けるように)投与してよい。初期の高負荷投与量の後に一以上の低投与量が投与され得る。しかしながら、他の投与量レジメンも有益であり得る。この治療法の進行は従来の手法及び試験により容易にモニタリングされる。
【0182】
上記製剤又は治療方法のうちのいずれも、本発明のイムノコンジュゲート及び抗Ly6E抗体の両方を使用して行われ得ることが理解される。
【0183】
H.製造品
本発明の別の態様において、上述した障害の治療、予防、及び/又は診断に有用な物質を含む製造品が提供される。製造品は、容器とラベル又は容器上にある又は容器に付属する添付文書を含む。好適な容器は、例としてボトル、バイアル、シリンジ、IV輸液バッグ等を含む。容器はガラス又はプラスチックなどの様々な物質から形成されうる。容器は、単独で、又は別の組成物と組み合わせて、障害を治療、予防及び/若しくは診断するのに有効な組成物を収容し、無菌のアクセスポートを有し得る(例えば、容器は皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈輸液バッグ又はバイアルでもよい)。組成物中の少なくとも一の活性剤は本発明の抗体又はイムノコンジュゲートである。ラベル又はパッケージ挿入物は、組成物が特定の症状の治療のために使用されることを示している。更に、製造品は、(a)組成物が本発明の抗体又はイムノコンジュゲートを包含する組成物を含む第一の容器;及び(b)組成物が更なる細胞障害性又はその他の治療的薬剤を包含する組成物を含む第二の容器を含み得る。本発明の本実施態様における製造品は、組成物が特定の疾患を治療することに用いることができることを示すパッケージ挿入物を更に含んでいてもよい。あるいは、又は更に、製造品は、薬学的に許容可能な緩衝液、例えば注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、リンガー液又はデキストロース溶液を含む第2(又は第3)の容器を更に含むことができる。他の緩衝液、希釈剤、濾過器、針及び注射器を含めた、商業的及び使用者の観点から望ましい他の材料を更に含んでいてもよい。
【0184】
I.本発明の配列
本発明の別の態様において、上述した障害の治療、予防、及び/又は診断に有用な以下の配列が提供される。
【実施例】
【0185】
III.実施例
以下は本発明の方法及び組成物の例である。上記提供される一般的な説明を前提として、他の様々な実施態様が実施され得ることが理解される。
【0186】
実施例1 − ヒトLy6E遺伝子発現
GeneLogicプロファイル:複数のヒト腫瘍及び正常な生検試料におけるLy6E mRNA発現の解析のために、Affymetrixデータをジーンロジック社から入手した。プローブセットID202145_atについて示される解析は、3879の正常なヒト組織試料(緑の記号)、1605のヒトがん組織試料(赤の記号:1291は原発性及び314は転移性)、並びに3872ヒトの非がん疾患組織試料(青の記号)に関してHGU133 Plus v2遺伝子チップを使用して実施された。マイクロアレイデータをAffymetrix MAS(Microarray Analysis Suite)5.0版ソフトウェアを使用して標準化し、試料発現値を500のトリム平均にスケーリングした。
【0187】
本解析によって、Ly6Eは、特に乳房、膵臓、結腸、肺及び卵巣がんで過剰発現しており、正常組織ではLy6Eは低/無検出であることが示された(
図2)。
【0188】
インサイツハイブリダイゼーション(ISH):Methods Mol Biol.2006;326:255-64で確立された方法に従って、卵巣がん組織マイクロアレイ(TMA)に関してインサイツハイブリダイゼーションを実施し、Ly6Eの広まりを評価した。
【0189】
フォワードプライマー GTG CCT GAT CTG TGC CCT TGG−配列番号45
【0190】
リバースプライマー CCC GGA AGT GGC AGA AAC CC−配列番号46
【0191】
プローブ配列:GTGCCTGATCTGTGCCCTTGGTCCCAGGTCAGGCCCACCCCCTGCACCTCCACCTGCCCCAGCCCCTGCCTCTGCCCAAGTGGGCCAGCTGCCCTCACTTCTGGGGTGGATGATGTGACCTTCCTTGGGGGACTGCGGAAGGGACGAGGGTTCCCTGGAGTCTTACGGTCCAACATCAGACCAAGTCCCATGGACATGCTGACAGGGTCCCCAGGGAGACCGTGTCAGTAGGGATGTGTGCCTGGCTGTGTACGTGGGTGTGCAGTGCACGTGAGAGCACGTGGCGGCTTCTGGGGGCCATGTTTGGGGAGGGAGGTGTGCCAGCAGCCTGGAGAGCCTCAGTCCCTGTAGCCCCCTGCCCTGGCACAGCTGCATGCACTTCAAGGGCAGCCTTTGGGGGTTGGGGTTTCTGCCACTTCCGGG−配列番号47.
【0192】
この結果は、解析した卵巣腫瘍の47/65(72%)がLy6Eの発現を示すことを表した(データ非表示)。
【0193】
免疫組織化学(IHC):ガラススライド上にマウントした4μm厚のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織切片に関して、免疫組織化学を実施した。キシレン中でスライドを脱パラフィンし、蒸留水までの段階的なアルコールを通して再水和した。スライドをTarget Retrieval溶液(Dako、Carpinteria、CA、USA)で20分間99℃で前処理した。次いでスライドを、KPLブロッキング溶液(Kierkegaard and Perry Laboratories、Gaithersburg、MD、USA)及びアビジン/ビオチンブロック(Vector Laboratories、Burlingame、CA、USA)それぞれで処理した。非特異的なIgG結合を、リン酸緩衝食塩水に入れた3%ウシ血清アルブミン(Roche、Basel、Switzerland)中の10%ウマ血清(Life Technologies、Carlsbad、CA、USA)でブロッキングした。1次抗体であるマウス抗Ly6Eのクローン10G7.7.8(実施例3を参照されたい)を10μg/mLに希釈し、スライド上で60分間室温でインキュベートした。
【0194】
スライドをすすぎ、ウマ抗マウスIgGビオチン標識化2次抗体(Vector Labs)でインキュベートし、続いてVectastain ABC Elite試薬(Vector Labs)中でインキュベートした。次いで、スライドをPierceの金属増強DAB(Thermo Scientific、Fremont、CA)中でインキュベートし、カウンター染色し、脱水し、カバーガラスをかけた。
【0195】
マウス抗Ly6Eクローン10G7.7.8を使用するIHCの研究から、Ly6Eの広まりは、乳がんにおいて27−36%、膵臓がんにおいて〜40%、結腸がんにおいて〜26%、メラノーマにおいて17−26%、NSCLCにおいて〜29%で検出された(データ非表示)。
【0196】
マウス抗LY6Eクローン10G7.7.8を使用した正常組織における免疫組織化学:正常なヒト及びカニクイザル組織のパネルに関して、低及び中程度のLy6E発現がヒト及びカニクイザルの両方の胃及び唾液腺で検出され、低から中程度までのLy6E発現がカニクイザルの副腎皮質の細胞のサブ集団で、より少ない程度までがヒト標本で検出され、中程度のLy6Eの発現が膀胱の移行上皮で検出される(カニクイザルのみを調べた)。下記の表2は、包括的なヒト及びカニクイザルの正常組織パネルにおけるマウス抗Ly6Eクローン10G7.7.8を使用して決定されたLy6Eの免疫組織化学(IHC)の発現を表にしている。低(LOW)から中等度(MOD)のLy6Eの発現は、灰色の強調表示された組織(副腎皮質、子宮頸部、唾液腺、胃及び膀胱)に限定されている。ND=行っていない。NO=発現無し。
【0197】
実施例2 − 定量的PCR(QRT PCR)
Origene、Rockville、MD(HMRT 102)の48正常組織のパネル由来の第1鎖DNAを含むヒト主要組織のqPCRアレイを、Ly6ERNAの発現についてアッセイした。選択したがん細胞系統及び組織(乳房及び膵臓)のパネル中のLy6Eの発現を同時にアッセイした。Taqmanアッセイを、Applied Biosystems(ABI、Foster City、CA)の試薬、機器及びソフトウェアを使用してセットアップした。プライマー−プローブセットは、レポーター色素FAM及びクエンチャー色素TAMRAにより二重に標識された蛍光発生プローブに隣接するプライマーを考慮して設計された。
【0198】
RPL19用のプライマー−プローブセット:
【0199】
フォワードプライマー −5’AGC GGA TTC TCA TGG AAC A(配列番号48);リバースプライマー −5’CTG GTC AGC CAG GAG CTT (配列番号49)及びプローブ −5’TCC ACA AGC TGA AGG CAG ACA AGG(配列番号50)。
【0200】
Ly6E用のプライマー−プローブセット:
フォワードプライマー −5’AGA AGG CGT CAA TGT TGG T(配列番号51);リバースプライマー −5’CAC TGA AAT TGC ACA GAA AGC(配列番号52)及びプローブ −5’TTC CAT GGG CAT CAG CTG CTG(配列番号53)。
【0201】
結果は、正常組織におけるLy6E転写物の発現は、乳がん及び膵臓がんにおけるLy6Eの発現と比較して低いことを示している(
図3)。
【0202】
実施例3 − ウサギモノクローナル抗体の産生
3匹のウサギは、細菌(大腸菌)が生成したHisタグ付きLy6E(YenZym,South San Francisco,CA)を用いて免疫化された。試験採血を用いたLy6Eに対する血清力価は、標準的なプロトコルを用いて評価された。1匹のウサギが良好な免疫応答を有することが判明し、脾臓摘出及びモノクローナル融合のための候補として選択された。
【0203】
抗原の最終IV追加免疫後4日で脾臓摘出を行った。脾細胞が単離され、200×10
6のリンパ球細胞が100×10
6の融合パートナー細胞と融合され20 96ウェルプレート上に播種された(Epitomics,Burlingame,CA)。プレートは標準的な条件下で培養された。
【0204】
プレートは標準的なELISAプロトコールを用いてスクリーニングされ、プレートは、ウェルあたり50ngのヒトLy6Eでコーティングされた。11のクローンが選択され、24ウェルプレート中へ増殖させた。クローンうちの7つは、抗Ly6E抗体について陽性であることが確認された。7つのクローンのうち3つが限定された細胞希釈法を用いてサブクローニングするために選択された。サブクローニングされた株から、クローンGEN−93−8−1を含む3つのハイブリドーマが増殖され凍結されるために選択された。
【0205】
更なる試験の後、GEN−93−8−1は、HEK293細胞における分子クローニング及び組換え発現のために選択された。簡潔には、製造業者の指示に従ってハイブリドーマ細胞からmRNAがTurboCaptureキット(Qiagen:カタログ#72232)を用いて単離され、次いで、オリゴdTプライマーを用いてcDNAに逆転写された。重鎖(VH)の可変領域がPCR増幅された。全軽鎖(LC)はPCRであった。PCR増幅VH領域は制限酵素HindIII及びKpnIを用いて消化された。PCR増幅LCは制限酵素HindIII及びKnotIを用いて消化された。消化物をQiagen QIAquick PCR精製キット(カタログ#28014)を用いて精製した。精製後、VH及びLCは、重鎖又は軽鎖発現ベクターにライゲートされDH5α細胞(MC Lab、カタログ番号DA−100)中に形質転換された。形質転換されたコロニーを採取し、挿入物を、対応する制限酵素を用いて、予測されたサイズ(VHについては約440bp及びLCについては740bp)により確認した。予想されるサイズの挿入物を有するプラスミドは、TT5プライマーを用いて配列決定された。重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の配列は、
図4及び配列番号28及び27のそれぞれに示される。
【0206】
軽鎖及び重鎖の発現ベクターは、6ウェルプレート中の293細胞に同時導入された。上清はトランスフェクション後5日で収集され、対応する抗原に対して試験された。更に、IgG濃度が測定された。抗Ly6E抗体クローンGEN−93−8−1は、プロテインAを用いて細胞培養上清から精製された。
【0207】
実施例4 − 免疫組織化学によって決定された悪性及び正常組織における及び原発腫瘍モデルにおけるLy6E発現
免疫組織化学(IHC)はVentana Discovery XT自動染色装置(Ventana Medical Systems;Tucson,AZ)で行われた。ホルマリン固定パラフィン包埋全組織及び組織マイクロアレイ切片を脱パラフィンし、60分間CC1溶液(Ventana Medical Systems)で前処理し、続いて0.2μg/mLの抗Ly6E抗体クローンGEN−93−8−1又はナイーブウサギIgG(Clone DA1E,Cell Signaling Technologies;Danvers,MA)の何れかとともに37℃で60分間インキュベートした。検出は、32分間のOmniMap抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)インキュベーション及びジアミノベンジジン(DAB)(Ventana Medical Systems)により行われ、続いてヘマトキシリンII(Ventana Medical Systems)によるカウンター染色を行った。
【0208】
染色強度のスコアは、染色の強度及び標識された細胞の割合の両方を考慮した。陽性の発現は、腫瘍細胞の50%以上における染色として定義された。強度スコアは、表3に定義される。
【0209】
ヒト腫瘍のウサギ抗Ly6E抗体クローンGEN9381の反応性は、ヒト乳がん(N=90、三種陰性乳房腫瘍(N=39)及びHer2/ホルモン受容体+(HR+)乳房腫瘍(N=51)を含む)、膵臓腺癌(N=78)、非小細胞肺がん(N=276、腺癌(N=205)及び扁平上皮癌(N=71)を含む)、卵巣癌(N=57)、頭部/頸部扁平上皮癌(N=61)、胃腺癌(N=94)、及び結腸直腸腺癌(N=106)の組織マイクロアレイに対して行われたIHCにより評価された。
【0210】
LY6E IHCの結果を表4に示す。乳がん試料では、TNBCの症例の94%及びHer2/HR+の症例の81%は、IHC染色によってLy6Eについて陽性であり、TNBCの症例の79%及びHer2/HR+の症例の61%は中程度又は強レベルの染色を示した(IHCにより2+又は3+)。
【0211】
Her2+及びHer2−乳がん試料の組では、87%(130症例)がIHC染色によってLy6Eについて陽性であった。発現は、中程度又は強レベル(2+又は3+)で65%−68%の乳がんで見られた。局在化は、本質的に細胞質/膜性であった。弱から中程度のLy6Eの発現が、正常及び正常に隣接する癌乳房組織の両方において認められた。対照的に、上述したように、マウス抗Ly6Eクローン10G7.7.8を用いたIHC研究は、乳がんのわずか27−36%においてLy6Eを検出した。
【0212】
Ly6Eは、膵管腺癌において高度に発現され、試料の89%(69症例)がIHCによりLy6Eについて陽性染色し、63%が中程度又は強レベルの染色を示した(IHCにより2+又は3+)。正常膵臓試料(N=5)のいずれもがLy6Eの発現を示さなかった。対照的に、上述したように、マウス抗Ly6Eクローン10G7.7.8を用いたIHC研究は、膵臓がんのわずか〜40%においてLy6Eを検出した。
【0213】
Ly6Eは、非小細胞肺がんにおいて発現され、腺癌の89%及び扁平上皮癌の83%がIHCによってLy6Eについて陽性に染色し、腺癌の64%及び扁平上皮癌の46%が中程度又は強レベルの染色を示した(IHCにより2+又は3+)。対照的に、上述したように、マウス抗Ly6Eクローン10G7.7.8を用いたIHC研究は、非小細胞肺がんのわずか〜29%においてLy6Eを検出した。
【0214】
肺がんにおける優勢な染色は細胞質/膜性であった。染色は、約1+(N=12)で正常肺胞マクロファージにおいて認められたが、染色がLy6E又はヘモジデリンに特異的であったかどうかは明らかではない。染色は、正常な肺細胞に認められなかった。
【0215】
結腸直腸がん試料では、64%(68症例)は、IHC染色によってLy6Eについて陽性であり、症例の11%は中程度又は強レベルの染色を示した(IHCにより2+又は3+)。陽性試料の約3分の2において、Ly6E染色は、癌細胞の頂端表面に偏光した。試験された正常な結腸試料はLy6Eの発現を示さなかった(N=2)。対照的に、上述したように、マウス抗Ly6Eクローン10G7.7.8を用いたIHC研究は、結腸がんのわずか〜26%においてLy6Eを検出した。
【0216】
卵巣がんでは、症例の77%は、IHC染色によってLy6Eについて陽性であり、症例の53%は中程度又は強レベルの染色を示した(IHCにより2+又は3+)。頭頸部扁平上皮癌では、症例の85%は、IHC染色によってLy6Eについて陽性であり、症例の42%は中程度又は強レベルの染色を示した(IHCにより2+又は3+)。最後に、胃腺癌では、症例の70%は、IHC染色によってLy6Eについて陽性であり、症例の31%は中程度又は強レベルの染色を示した(IHCにより2+又は3+)。
【0217】
ナイーブアイソタイプ対照は、0.2g/mLで、全ての対照試料について陰性であった。
【0218】
実施例5 − IHC染色によるヒト及びカニクイザルの正常組織におけるLy6Eの相対的発現
正常なヒト組織マイクロアレイ(TMA)は、ウサギ抗Ly6E抗体GEN9381で染色された。弱い(1+)陽性染色は、脾臓、乳房、副腎、唾液腺、子宮頸部、及び子宮の子宮内膜で観察され、中程度(2+)の陽性染色は、大脳皮質及び小脳で観察された。同じ抗Ly6E抗体で染色された正常カニクイザル組織は、正常な乳房組織において弱い(1+)発現、及び及び脾臓、子宮の子宮内膜、及び膀胱上皮において中程度(2+)の染色を明らかにした。表5を参照。
【0219】
実施例6 − 抗体薬物コンジュゲートの生成
大規模な抗体産生のために、抗体hu9B12.v12 waは、CHO細胞において産生された。VL及びVHをコードするベクターは、CHO細胞にトランスフェクトされ、IgGはプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって細胞培養培地から精製された。
【0220】
vcMMAE ADCの生成:抗Ly6E抗体−薬剤コンジュゲート(ADC)は、hu9B12.v12をコンジュゲートさせることにより生成され、又対照の抗gD ADCは、本明細書に示される薬物−リンカー部分MC−vc−PAB−MMAEにコンジュゲートされた。便宜のために、薬物−リンカー部分MC−VC−PAB−MMAEは、ときに、これらの実施例において及び図において「vcMMAE」又は「VCE」と称される。コンジュゲーションの前に、抗体は、国際公開第2004/010957号(A2)に記載の方法論に従って標準的な方法を用いてTCEPで部分的に還元された。部分的に還元された抗体は、例えば、Doronina et al. (2003) Nat. Biotechnol. 21:778-784及び国際公開第2005/0238649号(A1)に記載された方法に従って標準的な方法を用いて、薬物−リンカー部分にコンジュゲートされた。簡潔には、部分的に還元された抗体は、抗体の還元されたシステイン残基に薬物−リンカー部分の結合を可能にするために、薬物−リンカー部分と結合された。コンジュゲーション反応を反応停止し、ADCが精製された。各ADCの薬物負荷(抗体当たりの薬物部分の平均数)が決定され、抗Ly6E抗体及び抗gD対照抗体について3.3と4.0の間であった。
【0221】
実施例7:異種移植マウスモデルにおける抗Ly6E ADCのインビボでの有効性及びがん細胞株のIHC染色
乳がん細胞株HCC1569(CRL−2330)及び膵臓がん細胞株SU.86.86(CRL−1837)は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC,Manassas,VA)から入手した。CHO−K1Sは、CHO−K1の懸濁細胞株誘導体である。HCC1569 X2細胞株は、インビボでの増殖のために最適化された親HCC1569細胞株(ATCC、CRL−2330)の誘導体である。親のHCC1569細胞は、の右脇腹に皮下注射され、一つの腫瘍が回収され、刻まれ、インビトロで増殖され、HCC1569 X1細胞株を生じた。HCC1569 X1株は、細胞株の成長を改善する目的で、メスのTaconic NCrヌードマウスの右脇腹に再び皮下注射された。この研究からの腫瘍を回収し、HCC1569 X2細胞株を生成するためにインビトロでの増殖に再び適応させた。この株から由来する腫瘍はLy6Eを発現する。
【0222】
異種移植モデル:抗Ly6E抗体薬物コンジュゲート(ADCの)の有効性は、上記の細胞株に由来する異種移植モデルにおいて又は患者由来の原発性腫瘍モデルにおいて評価され、後者の実験はOncotest,Freiburg,Germany及びXenTech,Genopole,Franceにおいて行われた。
【0223】
Genentech,South San Francisco,CAで行われた全ての研究は、実験動物の管理と使用に関する指針(参考文献:Institute of Laboratory Animal Resources (NIH publication no. 85-23), Washington, DC: National Academies Press; 1996)に従った。Oncotestで行われた全ての実験は地方当局により承認され、ドイツの動物保護法(Tierschutzgesetz)のガイドラインに従って行われる。XenTechのCERFE施設で動物を使用するための認可は、The Direction des Services Veterinaires, Ministere de l'Agriculture et de la Peche, France (契約番号A 91−228−107)により得られた。動物の管理とハウジングは、欧州条約のSTE123に従っている。XenTechにおける全ての実験は、実験動物の保護に関するフランスの法律に従って、及び脊椎動物の動物実験のために、フランスの農業・水産省によってTruong−An TRAN博士に対して発行された現在有効なライセンスに基づいて行われることとなる(2010年12月21日付の番号A 91−541;5年間有効)。6から9週齢の雌免疫不全マウスは背側右脇腹に皮下接種され、SD付で平均腫瘍体積がグループごとに9−10匹のマウスから決定された。
【0224】
細胞株に由来する異種移植片による有効性の研究のため、TaconicからのNCRヌードマウスは、マトリゲルを含むHBSS中の500万細胞が播種され、又はチャールズリバーからのC.B−17 SCID(近交系)マウスは、マトリゲルを含むHBSS中の200万細胞が播種された。0.36mgのエストロゲン移植片が、HCC1569 X2の異種移植片モデルのために使用された。XenTech及びOncotestでの腫瘍外植片を用いた有効性研究のために、Harlan又はCharles Riverからの無胸腺ヌード又はNMRI nu/nu マウスに、モデルHBCx−8、HBCx−9、MAXF−1162及びPAXF−1657からの原発性乳がん又は膵臓がん患者由来の材料が移植された。腫瘍体積が約80−200mm3に達したとき(0日目)、動物は各々9〜10匹の群に無作為化され、ビヒクル対照又はADCの何れかを適切な用量で単回静脈内(IV)注射で投与された。腫瘍体積は、研究終了まで1週間あたり2回測定された。
【0225】
図5から10に示すように、ウサギ抗Ly6E抗体クローンGEN−93−8−1は、以前の免疫組織化学抗体、マウス抗Ly6E抗体クローン10G7.7.8より感受性である。
【0226】
HCC1569 X2乳がん異種移植モデルにおいて、GEN−93−8−1を用いた免疫組織化学は、3+染色を示したが、10G7.7.8はより低い1+/2+染色を示した。
図5、パネルE及びDをそれぞれ参照。HCC1569 X2乳がん細胞は、Her2/neu+及びER−/PR−/p53−である。HCC1569 X2乳がん異種移植モデルは、2mg/kg及び4mg/kgでのヒト化抗Ly6E(hu9B12 v12)ADC(MC−vc−PAB−MMAE)に対して感受性であった。
図5、パネルAを参照。
【0227】
SU.86.86膵臓がん異種移植モデルにおいて、GEN−93−8−1を用いた免疫組織化学は、2+染色を示したが、10G7.7.8はより低い1+/2+染色を示した。
図6、パネルE及びCをそれぞれ参照。SU.86.86膵臓がん異種移植モデルは、1mg/kg及び3mg/kgでのヒト化抗Ly6E(hu9B12 v12)ADC(MC−vc−PAB−MMAE)に対して感受性であった。
図6、パネルAを参照。
【0228】
HBCx−9乳がん異種移植モデルにおいて、GEN−93−8−1を用いた免疫組織化学は、2+染色を示したが、10G7.7.8はより低い1+染色を示した。
図7、パネルD及びCをそれぞれ参照。HBCx−9乳がん細胞は、三種陰性である(Her2−/ER−/PR−)。HBCx−9乳がん異種移植モデルは、8mg/kg及び12mg/kgでのヒト化抗Ly6E(hu9B12 v12)ADC(MC−vc−PAB−MMAE)に対して感受性であった。
図7、パネルAを参照。
【0229】
HBCx−8乳がん異種移植モデルにおいて、GEN−93−8−1及び10G7.7.8を用いた免疫組織化学は、1+/2+染色を示したが;しかしGEN−93−8−1を用いた染色は10G7.7.8を用いた染色と比較してより強く均質であった。
図8、パネルD及びCをそれぞれ参照。HBCx−8乳がん細胞は、三種陰性である(Her2−/ER−/PR−)。HBCx−8乳がん異種移植モデルは、12mg/kgでのヒト化抗Ly6E(hu9B12 v12)ADC(MC−vc−PAB−MMAE)に対して感受性であった。
図8、パネルAを参照。
【0230】
MAXF−1162乳がん異種移植モデルにおいて、GEN−93−8−1を用いた免疫組織化学は強い2+染色を示したが(中央の低酸素領域内の一部は1+染色)、10G7.7.8はより均質性の低い1+/2+染色を示した。
図9、パネルD及びCをそれぞれ参照。MAXF−1162乳がん細胞はHer2増幅を有する。MAXF−1162乳がん異種移植モデルは、4mg/kg、8mg/kg及び12mg/kgでのヒト化抗Ly6E(hu9B12 v12)ADC(MC−vc−PAB−MMAE)に対して感受性であった。
図9、パネルAを参照。
【0231】
PAXF−1657膵臓がん異種移植モデルにおいて、GEN−93−8−1を用いた免疫組織化学は、強い2+染色を示したが、10G7.7.8は弱い1+/2+染色を示した。
図10、パネルD及びCをそれぞれ参照。PAXF−1657膵臓がん異種移植モデルは、2mg/kg、4mg/kg、8mg/kg及び12mg/kgでのヒト化抗Ly6E(hu9B12 v12)ADC(MC−vc−PAB−MMAE)に対して感受性であった。
図10、パネルAを参照。
【0232】
全体的に、10G7.7.8と比較して、GEN−93−8−1は、IHCによって、より強くかつ均質な染色を示した。
【0233】
前述の発明は、理解を明確にする目的のために例示及び実施例によってある程度詳細に説明してきたが、説明や例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。全ての特許及び本明細書に引用される科学文献の開示は、参照によりその全体が援用される。