(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707448
(24)【登録日】2020年5月22日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】航法および完全性監視
(51)【国際特許分類】
G01S 19/32 20100101AFI20200601BHJP
【FI】
G01S19/32
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-530543(P2016-530543)
(86)(22)【出願日】2014年8月1日
(65)【公表番号】特表2016-528494(P2016-528494A)
(43)【公表日】2016年9月15日
(86)【国際出願番号】EP2014066574
(87)【国際公開番号】WO2015014976
(87)【国際公開日】20150205
【審査請求日】2017年7月4日
(31)【優先権主張番号】1313882.1
(32)【優先日】2013年8月1日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】511247389
【氏名又は名称】キネテイツク・リミテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デイビーズ,ナイジェル・クレメント
(72)【発明者】
【氏名】エバンス,トーマス・アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ボウデン,リチャード・エドワード
【審査官】
安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2008/0062041(US,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102011075434(DE,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0176168(US,A1)
【文献】
特開2008−070338(JP,A)
【文献】
特表2013−529289(JP,A)
【文献】
特開2011−179894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00− 5/14,
G01S 19/00−19/55,
CSDB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星航法システム用の信号重み付けのための方法であって、
(i)セキュアな、およびオープンなサービス信号を、少なくとも1つの衛星航法システムから受信するステップと、(ii)受信した信号について、擬似距離を決定するステップと、(iii)統計的重み付けを各擬似距離に関連付けるステップであって、前記統計的重み付けが、信号がオープンな信号かセキュアな信号かを考慮に入れることを含む、関連付けるステップと
を含み、
前記方法は、受信機自律型完全性監視(RAIM)を各擬似距離に対し、その擬似距離の関連付けられた統計的重み付けに応じて適用するステップをさらに含み、RAIMステップが、少なくとも2つの層へ分割され、第1の層のRAIMステップが予め決定されたセキュアな擬似距離に適用され、次いでその出力が予め決定されたオープンな擬似距離も受け取る第2の層のRAIMステップに入力され、次いで第2の層のRAIMステップが障害検出および/または包含のために入力を処理する、方法。
【請求項2】
セキュアなサービス信号に適用される統計的重み付けが、オープンなサービス信号に適用される統計的重み付けよりも強い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
重み付けが、少なくとも1つの所定のルールに従ってさらに決定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記所定のルールが、どの衛星コンステレーションから信号が発信されたかの決定を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記所定のルールが、重み付けに影響を及ぼす信号品質を決定するために、受信した信号のスクリーニングを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記所定のルールが、認証検査から、重み付けに影響を及ぼす信頼レベルを生成することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
捕捉ステップが、受信した信号と候補信号との相関を提供し、次いで相関が、重み付けに影響を及ぼす所定の閾値と比較される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
所定の重み付けの閾値を下回る擬似距離が、RAIMステップから排除される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
衛星航法システムのための装置であって、
セキュアな、およびオープンなサービス信号を衛星航法システムから受信するよう構成された処理ユニットと、受信した信号をデジタル信号に変換可能なアナログデジタル変換器と、信号の捕捉を実行するよう構成された捕捉モジュールと、受信した信号に統計的重み付けを適用するよう構成された重み付けモジュールであって、前記統計的重み付けが、信号がオープンな信号かセキュアな信号かを考慮に入れることを含む、重み付けモジュールとを備え、処理ユニットが、請求項1の方法を遂行するように適合された、装置。
【請求項10】
受信したセキュアな信号を捕捉する際に捕捉モジュールをサポートするよう構成された暗号化モジュールをさらに備える、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
受信したセキュアな、およびオープンな信号の信号強度および品質を決定するように適合されたスクリーニングモジュールをさらに備える、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
受信したセキュアな、およびオープンな信号の送信源を検証するよう構成された認証モジュールをさらに備える、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
RAIM機能を遂行するよう構成された、受信機自律型完全性監視(RAIM)モジュールをさらに備える、請求項9から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
受信した信号から、位置、航法、および時刻データを決定するよう構成された、航法モジュールをさらに備える、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
全地球測位衛星システム(GNSS)受信機ユニットをさらに備える、請求項9から14のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、完全性、より詳細には、ただし限定するものではないが、衛星航法システムにおける受信機自律型完全性監視(Receiver Autonomous Integrity Monitoring:RAIM)のためのコンピュータ用装置、方法、信号、およびプログラム、ならびにそれらを統合するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
全地球測位システム(GPS)、ガリレオ、GLONASS、COMPASSなどの全地球測位衛星システム(GNSS)は、衛星のコンステレーションを使用して、受信機の位置を提供する。GNSSサービスは、高可用性、すなわち、正確で堅牢な測位、航法、および計時(Positioning,Navigation and Timing:PNT)を実現することが好ましい。
【0003】
GNSSサービスは、通常、商用航法デバイスが容易に利用できる商用の「オープンな」サービスと、特定のユーザ、具体的には政府のユーザおよび軍隊による使用を意図したセキュアなシステムとを提供する。GPSにおいて、このセキュアなシステムはPPS(精密測位サービス)として知られ、ガリレオではPRS(政府規制サービス)として知られている。これらのサービスによって提供される信号は暗号化され、擾乱、妨害、および模倣(すなわち「スプーフィング」)することがより困難となる。
【0004】
従来の高性能GNSS受信機は、多くの場合、所与の一時的期間にわたって(例えば、航空機の着陸段階の間)航法ソリューションを委ねることができる、完全性を判定するための受信機自律型完全性監視(RAIM)と呼ばれる機能を含む。RAIMは多種多様な用途に応用できるものの、セーフティクリティカルおよび航空セーフティクリティカル用途での使用に特に適している。
【0005】
当業者であれば熟知しているように、RAIMはいくつかの知られている技法を参考にしている。そのような技法の1つとして、無矛盾性検査が挙げられる。無矛盾性検査では、検出された衛星信号のサブセットで得られた全ての測位解が、互いに比較される。実用的な実施形態では、この検査が各位置は矛盾するということを示す場合に、受信機がユーザにアラートを発するよう構成されてよい。
【0006】
さらなる例では、RAIM技法は、代替的または追加的に、障害検出および排除(Fault Detection and Exclusion:FDE)を実現することができる。受信機の位置を発見するために、その受信機は、最初に、ある衛星から発信されたと考えられる、受信した信号の各々について、「擬似距離」を計算する。擬似距離は、信号の飛行時間(すなわち、信号が送信された時刻(信号内容から明らかになる)と、受信機のクロックによる、その信号が受信された時刻との差異)に基づいて計算される。各信号からの結果が比較され、擬似距離のセットからの外れ値を形成する距離測定値は排除することができる。そのような技法は、障害が発生している可能性のある(または不正な)衛星や信号を検出し、さらにはそうした衛星や信号を考慮に入れることから排除するようふるまうことが可能であり、それにより、航法サービスを継続することが可能になる。したがって、RAIMは、航法の最終的な結果が正しいということへの信頼度を高める。
【0007】
可用性は、RAIMに対する制限因子となることがあり、RAIMとしては、受信機にとって可視となる衛星が基本的な航法サービスの場合よりも多くあることが必要となる。3D測位解を得るためには、少なくとも4つの測定値が要求されるが、障害検出は少なくとも5つの測定値を要求する。そして、障害隔離および排除には、少なくとも6つの測定値が必要となる(実用に際しては、より多くの測定値が望ましい)。したがって、当初は単一のコンステレーション内での使用が想定されていたが、RAIMは、オープンサービスマルチコンステレーション信号を使用するよう拡張されてきている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.C.Juang、「Failure detection approach applying to GPS autonomous integrity monitoring」(IEE Proceedings on Radar,Sonar and Navigation、Volume 145、Issue 6、342−346頁、1998年12月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、完全性監視、より詳細には、衛星航法システムにおける受信機自律型完全性監視(RAIM)のための、改善された方法および装置の実現を追い求めるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、衛星航法システム用の信号重み付けのための方法が提供され、その方法が、(i)セキュアな、およびオープンなサービス信号を、少なくとも1つの衛星航法システムから受信するステップと、(ii)受信した信号について、擬似距離を決定するステップと、(iii)統計的重み付けを各擬似距離に関連付けるステップであって、前記重み付けが、信号がオープンな信号かセキュアな信号かを考慮に入れることを含む、関連付けるステップとを含む。
【0011】
これまでの所与のシステムでは、セキュアな信号およびオープンな信号のうちの一方のサービスのみが使用されていたのに対し、この方法は、完全性モデリング(具体的には、受信機自律型完全性監視(RAIM)機能)の遂行に際し、セキュアな信号とオープンな信号との両方の使用を可能にするため有益である。具体的には、受信機がセキュアな信号にアクセスした場合、それらは模倣や妨害し難い(そして、過去の時点ではより正確である)ことから好ましい。
【0012】
この態様の結果、セキュアな信号とオープンな信号との両方を使用することが、完全性判定を通知するためのより多くの情報を有利に提供する。そのうえ、サービスのカテゴリに基づいて信号に重み付けを適用できるということは、セキュアな信号(スプーフィング防止およびミーコニング防止意匠を持つ)本来のより高い完全性を、RAIM計算において反映できるため有益である。したがって、他の因子がなければ、セキュアなシステムに適用される重み付けが、オープンな信号に適用される重み付けよりも強いことが好ましい。
【0013】
本発明の第2の態様によれば、衛星航法システム用の信号重み付けのための方法が提供され、その方法が、(i)少なくとも1つの衛星航法システムから信号を受信するステップと、(ii)受信した信号について、擬似距離を決定するステップと、(iii)統計的重み付けを各擬似距離に関連付けるステップであって、前記重み付けが受信した信号の送信源の相対的信用性を考慮に入れることを含む、関連付けるステップとを含む。
【0014】
この方法は、特定の送信源においてユーザが持つ信用度を、完全性モデリングを遂行する際に使用する、という方法が実行されることを可能にするため有益である。
【0015】
信号はオープンなサービス信号であってもよい。本方法は、異なる送信源から発信される信号に信用性因子を割り当てるステップをさらに含むことができ、この信用性因子は、1つまたは複数の異なる送信源から発信される信号の信用性に対する、1つの送信源から発信される信号の信用性の尺度である。特定の送信源からの信号に適用された統計的重み付けは、その送信源からの信号に割り当てられた信用性因子に比例し得る。
【0016】
以下の特徴は、本発明の第1および第2の態様の両方に適用可能である。重み付けに際して、他の因子も使用されてよい。そのような因子として、衛星が属するコンステレーションを挙げることができ、重み付けは所定のルールに従って決定される。例えば、1つのエンティティが、利用可能であれば自身の衛星システムを使用することをまず選ぶものの、提携者の衛星コンステレーションからの信号もほぼ同等に信用する、ということが可能である。それに対して、信用できないエンティティまたは国家によって提供された衛星コンステレーションに由来する信号には、与えられる重み付けが低いかゼロであってよい。
【0017】
さらなる因子は、信号品質とすることができる。そのためには、本方法が、信号品質を決定するために受信した信号をスクリーニングするステップを含んでよく、また適用される重み付けは、その信号品質を考慮に入れてよい。そのような例では、より高品質の信号は、その信号に由来する情報に適用される重み付けを増大させる傾向を持つことになる。
【0018】
さらなる因子は、信号干渉とすることができる。そのためには、本方法が、信号の干渉レベルを決定するために受信した信号を特徴付けするステップを含んでよく、また適用される重み付けは、測定された信号対ノイズ比を考慮に入れてよい。そのような例では、より低い干渉レベルは、その信号に由来する情報に適用される重み付けを増大させる傾向を持つことになる。
【0019】
さらなる因子は、信号が期待される基準に準拠するかどうかを決定するために、認証検査に起因したものとすることができる。そのためには、本方法が、信号が期待される送信源から到来したと決定し得る信頼度(受信アンテナシステムから導出できる場合は、到来方向など)を決定するための、受信した信号を認証するステップを含んでよく、適用される重み付けは、信頼レベルを考慮に入れたものであってよい。そのような例では、より高い信頼レベルは、その信号に由来する情報に適用される重み付けを増大させる傾向を持つことになる。
【0020】
これらの因子の全てが、完全性判定における、信用度が低い測定値の重み付けされた寄与度を、インテリジェントに減少させることを支援する方法を可能にする。
【0021】
本方法は、航法の方法を含んでよく、重み付けは、測位解を決定する際に、決定された擬似距離測定値に付与される重みを決定するために使用され得る。このことは、決定された位置測定値が、一般に、信用された(および、場合によっては、適用された因子に従って、すなわち、より良い品質の)信号を優遇するということを意味するので有益である。
【0022】
本方法は、完全性監視、具体的には、受信機自律型完全性監視(RAIM)の方法を含むことができる。重み付けは、RAIMプロセスにおいて使用される、決定された擬似距離測定値に付与される重みを決定するために使用され得る。RAIMにおいて、他の測定値と整合しない1つまたは複数の寄与度は、航法データ送信源の潜在的エラー、スプーフィング、干渉、または障害を示す警報をユーザに発してよく、あるいは代替的または追加的に、そのような矛盾する測定値を提供する信号が、具体的には航法機能から排除されてよいことは、当業者であれば承知されよう。
【0023】
そのような例では、個々の信号の全てが重み付けされ、RAIMはそれらの信号の全てに対して一斉に遂行されてよいが、このことは、全ての実施形態において必須というわけではない。例えば、第1のステージのRAIMプロセスは、どの信号が信用できるかを、高い信頼度で決定するために、セキュアな信号に対して遂行されてよい。次いで、この決定は、第2のRAIMプロセスで補完されてよい。第2のRAIMプロセスは、オープンなサービス信号を使用するが、その信号にはより低い重み付けを適用する。このことが、所与のRAIM計算において考慮される信号の数を制限し、いくつかの実施形態では有益となり得る。
【0024】
完全性モデリングまたは航法の方法では、重み付けの閾値を下回る信号が排除されるか、そうでなければ所定の望ましい数の信号が提供されてよく、重み付けが最高の信号のみが使用される。しかし、重み付けは本質的に信用された/良好な信号を優遇することになるので、このことは必須ではなく、全ての信号が使用されてもよい。
【0025】
本発明の第3の態様によれば、セキュアな、およびオープンなRF信号を受信するよう構成された処理ユニットであって、そのRF信号をデジタル信号に変換可能なアナログデジタル変換器と、信号の捕捉を実行するよう構成された捕捉モジュールと、受信した信号に統計的重み付けを適用するよう構成された重み付けモジュールであって、前記重み付けが、信号がオープンな信号かセキュアな信号かを考慮に入れることを含む、重み付けモジュールとを備える処理ユニットが提供される。
【0026】
処理ユニットは、本発明の第1の態様の方法を遂行するよう構成されることが好ましい。
【0027】
処理ユニットは、以下の各々のうちの少なくとも1つをさらに備えることができる:
(i)受信したセキュアな信号の捕捉をサポートするよう構成された、暗号化モジュール。
(ii)信号の強度および品質を決定するよう構成された、特徴付けまたは測定モジュール。
(iii)信号の送信源を検証するよう構成された、認証モジュール。
(iv)RAIM機能を遂行するよう構成された、RAIMモジュール。
(v)受信した信号から、位置、航法、および時刻データを決定するよう構成された、航法モジュール。
【0028】
処理ユニットは、GNSS受信機ユニットを備えることができる。
【0029】
本発明の第4の態様によれば、オープンなRF信号を受信するよう構成された処理ユニットであって、そのRF信号をデジタル信号に変換可能なアナログデジタル変換器と、信号の捕捉を実行するよう構成された捕捉モジュールと、受信した信号に統計的重み付けを適用するよう構成された重み付けモジュールであって、前記重み付けが、1つまたは複数の異なる送信源に相対的な、受信した信号の送信源の信用性を考慮に入れることを含む、重み付けモジュールとを備える処理ユニットが提供される。
【0030】
当業者にとっては明白であろうが、好ましい特徴が適切に組み合わされてよく、また本発明のあらゆる態様と組み合わされてよい。
【0031】
本発明の実施形態が、単なる例証として、添付の図を参照しながら以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】衛星のコンステレーションと受信機ユニットとからなるGNSSシステムを示す図である。
【
図2】受信機ユニットのコンポーネントを概略的に示す図である。
【
図3】本発明の実施形態によるプロセスを示す図である。
【
図4】本発明の実施形態による別のプロセスを示す図である。
【
図5】本発明の態様による代替的実施形態のプロセスをさらに示す図である。
【
図6】本発明の実施形態による詳細な処理ステップを示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施形態による階層プロセスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は無線周波数(Radio Frequency:RF)信号を発信している数基の衛星100、102と、その無線周波数をとらえる受信機ユニット104とを示す。受信機ユニット104は、ある場所に載せられているハンドヘルドデバイスであってよく、または車両搭載型であってもよい。特定の実用的な実施形態では、本明細書で説明される方法が高完全性な位置、速度、および時刻(Position,Velocity and Time:PVT)データを提供するので、受信機ユニット104は航空機内にあって、離陸中および着陸中などのセーフティクリティカル動作中に使用されることもある。
【0034】
この例では、衛星100、102が第1のGNSSコンステレーション106および第2のGNSSコンステレーション108の部分をなしており、各衛星がセキュアなサービス信号とオープンなサービス信号との両方を発信している(したがって、ある実用例では、コンステレーション106、108はGPSおよびガリレオとすることができ、各衛星がPPS/PRS信号とオープンな信号とを送信している)。
【0035】
受信機ユニット104のコンポーネントが、
図2により詳細に示されている。受信機ユニット104は処理回路202を備え、その処理回路202は、衛星100、102から受信したRF信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換器204と、信号の強度と品質とを再調査するスクリーニングモジュール206と、信号内の干渉レベルを評価するよう構成された干渉モニタ208と、受信したセキュアな信号の捕捉および復号化をサポートするよう構成された暗号モジュール210と、衛星信号の「捕捉」を実行するよう構成された捕捉モジュール212と、信号の送信源を検証するよう構成された認証モジュール214と、受信した信号に重み付けを適用するよう構成された重み付けモジュール216と、RAIM機能を遂行するよう構成されたRAIMモジュール218と、受信した信号から、受信機の位置、航法、および時刻情報を決定するよう構成された航法モジュール220とを備える。これらのモジュールの機能については、本明細書の以下に敷衍する。
【0036】
上記のコンポーネントは物理的に分離したコンポーネントである必要はなく、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェアなどによって実現され得ることは、当業者であればもちろん承知されよう。実際、受信機ユニット104は、代替的、追加的コンポーネントを備えても、またはより少ないコンポーネントからなるものでもよく、上に略述された機能は、1つより多くのデバイス間で分担されてもよい。具体的には、特定のGNSSコンステレーションから信号を受信するためだけのデバイス、および/またはセキュアな信号を受信するためだけのデバイスが存在してよい。
【0037】
本発明の実施形態では、受信機ユニット104が、
図3のフローチャートを参照して説明される方法を遂行する。初めに、ステップ302において、受信機ユニット104は、いくつかの衛星信号を受信する。ステップ304において、これらの信号は、アナログデジタル変換器204により、デジタル信号に変換される。次に、ステップ306において、その信号は、信号の強度と品質とを再調査するスクリーニングモジュール206によって特徴付けられる。スクリーニングモジュール206は、分岐312を経て重み付けモジュール216に出力を提供する(ステップ308)。次いで、信号は、ステップ310において、干渉モニタ208によって再調査される。干渉モニタ208もまた分岐312を経て、干渉レベルを示す重み付けモジュール216に出力を提供する(ステップ308)。
【0038】
捕捉(ステップ316)は、捕捉モジュール212により、暗号化信号またはオープンなサービス信号に対して実行される。当業者であれば熟知しているように、GNSSの文脈における捕捉とは、受信した信号を、ローカル送信源の、またはローカルで生成した、衛星信号のレプリカと比較して一致するものを発見するプロセスであり、セキュアな信号については、ステップ314で暗号モジュール210によってサポートされることになる。
【0039】
捕捉の目的は、時刻データを発見すること(ステップ318)であるが、ステップ320において、衛星を識別するという結果にもなる。突き詰めれば、捕捉は受信した信号と候補信号との相関を要求する。その相関が閾値を超過する場合、一致が宣言される。
【0040】
「擬似距離」(すなわち、受信機ユニット104から目的の送信源までの距離)もまた、捕捉モジュールによって決定される(ステップ322)。この例では、衛星IDが分岐325を経て重み付けモジュール216に渡され、擬似距離がRAIMモジュール218に渡される。RAIMモジュール218において、擬似距離は、
図4に関して説明される通りに利用される。
【0041】
次いで、ステップ324において、認証モジュール212が、信号の検証を評価する(すなわち、その信号が、例えば、アンテナに対する相対的な到来方向など、期待される基準に準拠しているかどうか)ために活用される。これを達成するために、認証モジュールは、単純な捕捉のために通常要求されるより多くの情報を、アクティブアンテナシステムに要求してもよい。この評価が信頼レベルを生成し、その信頼レベルはやはり重み付けモジュール216に渡される。
【0042】
ステップ326において、重み付けモジュール216は、RAIMモジュール218により擬似距離データが利用される前に、入力を使用して、そのデータに重み付けを適用する。重み付けには、以下を考慮に入れることができる:
・ 衛星が属するコンステレーション。衛星IDから決定される。重み付けは所定のルールに従って決定される。
・ 特徴付けモジュールの出力。より高品質および高強度の信号にはより高い重み付けが付与される。
・ 干渉レベル(干渉度が高いほど低い重み付けとなる)。
・ 認証モジュールによって生成された信頼レベル。信頼度が低いほど低い重み付けとなる。
・ 信号がセキュアな信号とオープンな信号とのどちらであるか。セキュアな信号にはより高い重み付けが付与される。
【0043】
無論、全ての実施形態でこれらの基準がいずれも使用できるとは限らず、他の実施形態ではさらなる基準が使用されてもよい。
【0044】
図3を参照すれば、当業者には、品質のためのスクリーニング(ステップ306)および/または干渉のためのスクリーニング(ステップ308)は、図に示されるように信号の捕捉(ステップ316)の前ではなく、信号の捕捉(ステップ316)の後に任意選択で遂行されてもよいことが認められよう。そのような場合、スクリーニングステップからのデータはその後、例えば、ステップ308で分岐325を経て、重み付けモジュール216に提供されることになる。当業者には、採用されるアプリケーションおよびハードウェアリソースに応じて、いくつかのステップが並行して、または同時に遂行されてもよいことも認められよう。
【0045】
次いで、重み付けデータは、
図4に記載された通り動作するRAIMモジュール218に供給される。
【0046】
全ての信号について、ひとたび擬似距離データ(ステップ400)および重み付けデータ(ステップ402)を受け取ると、RAIMモジュール218は、決定された重み付けを反映するよう修正された、知られている技法を使用して、ステップ404でRAIMプロセスを遂行する。例えば、重み付けは、測定値の残差を用いて航法方程式を解く前に適用され、次いで確立されたRAIMアルゴリズムにおいて使用されてもよい(例えば、J.C.Juang、「Failure detection approach applying to GPS autonomous integrity monitoring」(IEE Proceedings on Radar,Sonar and Navigation、Volume 145、Issue 6、342−346頁、1998年12月によって説明されるもの)。
【0047】
ある実施形態では、重み付けは、例えば、擬似距離測定値の信頼レベルが異なることを考慮に入れた、加重最小二乗(または加重総合最小二乗)アプローチに従って適用される。
【0048】
例えば、信頼度の高い擬似距離測定値が、その寄与度を高めるために、ある信頼因子によって重み付けされるとともに、信頼度の低い擬似距離測定値が、その寄与度を低めるために、別の因子によって重み付けされる。したがって、この例では、最小二乗法による測定値の残差ベクトルが、信頼度の高いGNSS擬似距離測定値への重み付けをこのとき反映し、確立されたRAIM機能において使用することができる(ステップ406)。
【0049】
次いで、RAIMモジュールは、他の信号と矛盾する信号を排除してから(ステップ408)、航法モジュール220を使用して、受信機ユニット104向けのPVTデータを決定するよう動作することができる(ステップ410)。
【0050】
なお、この方法に代わる方法は、当業者によって容易に想像され得る。具体的には、そして
図5に記載されるように、方法500は、セキュアな信号520が本質的になりすましたり破壊したりすることが難しく、正しく受信される可能性が高いということに基づき、正の重み付け510を、セキュアな信号520から決定された全ての擬似距離に適用するよう動作してよい(もちろん、逆に負の重み付け530を、全てのオープンな信号に適用することもできる)。
【0051】
そのような例において、擬似距離測定値を使用して航法方程式を解くための最小二乗(または総合最小二乗)法は、セキュアな、およびセキュアでない擬似距離測定値の両方を用いて使用されることがある。それにより生じた測定値の残差は、セキュアな擬似距離測定値の残差を低減するために適用される、重み付け因子を持ち得る。その場合、重み付けされた測定値の残差ベクトルは、確立されたRAIMアルゴリズム540において使用することができる。
【0052】
第2の例示的実施形態では、受信機ユニット104が、
図6に関して以下に説明される方法を遂行する。
【0053】
初めに、ステップ602において、受信機ユニット104は、いくつかの衛星信号を受信する。ステップ604において、これらの信号は、アナログデジタル変換器204により、デジタル信号に変換される。
【0054】
ステップ606において、信号の捕捉が暗号モジュール210のサポート(ステップ608)を伴って遂行され、それにより、分岐610を経て、捕捉モジュール212によって捕捉されたセキュアな信号ごとに、擬似距離データが決定される(ステップ612)。セキュアな信号の擬似距離は、RAIMモジュール218に渡される(ステップ614)。RAIMモジュール218は、第1の層において、RAIM技法を遂行して障害検出を実現し、十分な信号が利用可能な場合には、障害排除も実現する。このことが、高い信頼レベルを有する結果を生む。
【0055】
本方法は、オープンな信号の考慮に進む(しかし、当業者であれば、当然これらのステップの一部が、同時に遂行されてもよいということを理解されよう)。第1の捕捉(ステップ606)が遂行され、それにより、図示されるように分岐616を経て、捕捉モジュール212による、各信号についての擬似距離情報の決定(ステップ618)が可能となる。次いで、この情報もまたRAIMモジュール218に供給され、ステップ620において、RAIMモジュール218は、セキュアな擬似距離のセット(層1)と、その他の擬似距離(層2)とに存在する情報に対する完全性監視のために、異なる信頼レベルを使用して第2の層のRAIM計算を遂行する。これにより、RAIM機能においてセキュアな擬似距離を重視することが可能となり、よって、正確で信頼度の高い航法データが決定される(ステップ622)。
【0056】
この階層アプローチは
図7の図式に要約されており、その中で、上で解説したように、例えばPPSまたはPRSからの、セキュアな擬似距離710が、障害検出および排除用となる第1の「層1」RAIMプラットフォーム720に供給される一方で、例えばSPSまたはOSからの、他の(低セキュアな、またはオープンな)擬似距離730は、障害検出および排除用となる第2の「層2」RAIMプラットフォーム740に直接供給される。次いで、第2のRAIM障害検出プラットフォーム740は、第1の層1RAIMプラットフォーム720からの結果を自身の結果と組み合わせ、RAIM機能におけるセキュアな擬似距離を重視しながら、障害検出および排除を実行する。
【0057】
当然ながら、当業者であれば、想定されるアプリケーションおよび環境に応じて、信号に高い信頼度を付与するために、連続的な反復型障害検出および排除を伴う、2層より多くの層が存在してよいことが認められよう。
【0058】
ユーザは、オープンなサービス信号のある送信源から発信された信号に、他の送信源よりも、精度においてより高い信頼レベルを持つ場合もある。さらなる例示的実施形態では、これらの異なる信頼レベルが、PVT計算の結果を改善するために定量化され、使用される。具体的には、個々の信号送信源に相対信用因子が割り当てられる。これは、その送信源の精度、または完全性における、ユーザが持つ信用レベルの尺度である。この実施形態では、信号の送信源が決定され、割り当てられた相対信用因子を示す信号が、重み付けモジュール(
図2の216)に送信される。重み付けモジュールは、擬似距離データに重み付けを適用する際(
図3のステップ326)、この相対信用因子を考慮に入れる。
【0059】
当業者にとっては明白であろうが、本明細書の教示の理解のためには、本明細書で与えられた範囲またはデバイス値はいずれも、その得ようとする効果を失うことなしに拡大や変更することができる。