特許第6707456号(P6707456)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6707456リチウムイオン又はナトリウムイオンの伝導のための固体電解質ガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707456
(24)【登録日】2020年5月22日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】リチウムイオン又はナトリウムイオンの伝導のための固体電解質ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/23 20060101AFI20200601BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20200601BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20200601BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20200601BHJP
   H01M 6/18 20060101ALI20200601BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20200601BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20200601BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20200601BHJP
   C03C 4/14 20060101ALI20200601BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20200601BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20200601BHJP
   H01G 9/032 20060101ALI20200601BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20200601BHJP
【FI】
   C03C3/23
   H01M10/0562
   H01M10/054
   H01M10/052
   H01M6/18 A
   H01M12/06 Z
   H01B1/06 A
   H01B1/08
   C03C4/14
   H01G11/06
   H01G11/56
   H01G9/032
   H01G11/84
【請求項の数】13
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-554574(P2016-554574)
(86)(22)【出願日】2015年2月26日
(65)【公表番号】特表2017-513788(P2017-513788A)
(43)【公表日】2017年6月1日
(86)【国際出願番号】IB2015051440
(87)【国際公開番号】WO2015128834
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2018年2月13日
(31)【優先権主張番号】107482
(32)【優先日】2014年2月26日
(33)【優先権主張国】PT
(73)【特許権者】
【識別番号】515119446
【氏名又は名称】ウニヴェルシダージ ド ポルト
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDADE DO PORTO
(73)【特許権者】
【識別番号】516256250
【氏名又は名称】ラボラトリオ ナシオナル デ エネルジア エ ゲオロジア
【氏名又は名称原語表記】LABORATORIO NACIONAL DE ENERGIA E GEOLOGIA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】マリア ヘレナ ソーサ ソアレス デ オリベイラ ブラーガ
(72)【発明者】
【氏名】ジョゼ ジョルジェ ド アマラウ フェレイラ
【審査官】 山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−108638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式R3−2xHalOで表される固体電解質ガラスであって、
前記Rは、リチウムであり
前記Mは、マグネシウムと、カルシウムと、ストロンチウムと、バリウムとからなる群から選択され、
前記Halは、フッ素と、塩素と、臭素と、ヨウ素と、それらの混合物とからなる群から選択され、
前記xは前記Mのモル数であり、0≦x≦0.01とされ、
前記固体電解質ガラスはガラス転移点を有し
25°Cにおけるイオン伝導率が少なくとも13mScm−1である、固体電解質ガラス。
【請求項2】
前記xは0.002、0.005、0.007、又は0.01である、請求項に記載の固体電解質ガラス。
【請求項3】
前記Halは塩素及びヨウ素の混合物である、請求項1又は2に記載の固体電解質ガラス。
【請求項4】
前記HalはHal=0.5Cl+0.5Iである、請求項に記載の固体電解質ガラス。
【請求項5】
前記Halはフッ素及びヨウ素の混合物である、請求項1又は2に記載の固体電解質ガラス。
【請求項6】
記Mはバリウムであり、前記Halは塩素であり、前記xは0.005である、請求項1又は2に記載の固体電解質ガラス。
【請求項7】
記Mはバリウムであり、前記xは0.005である、請求項3又は4に記載の固体電解質ガラス。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の固体電解質ガラスを備える電気化学的装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の固体電解質ガラスを備えるキャパシタ。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の固体電解質ガラスを備える電池。
【請求項11】
請求項に記載のキャパシタを少なくとも1つ及び請求項10に記載の電池を少なくとも1つ備える電気化学的装置。
【請求項12】
化学式R3−2xHalOで表される固体電解質ガラスを合成する方法であって、
前記Rは、リチウムであり、
前記Mは、マグネシウムと、カルシウムと、ストロンチウムと、バリウムとからなる群から選択され、
前記Halは、フッ素と、塩素と、臭素と、ヨウ素と、それらの混合物とからなる群から選択され、
前記xは前記Mのモル数であり、0≦x≦0.01とされ
前記固体電解質ガラスの25°Cにおけるイオン伝導率が少なくとも13mScm−1である、方法であって、前記方法は、
LiHalと、LiOHと、並びに、Mg(OH)と;Ca(OH)と、Sr(OH)と、Ba(OH)とからなる群から選択された1つの化合物とを化学量論的量で混合するステップと、
前記混合物に脱イオン水を加えて混ぜて閉鎖した容器内で溶液を作るステップと、
2〜8時間にわたって前記溶液を250°Cまで加熱するステップと、
前記容器を開放して前記加熱された生成物の余剰水分を蒸発させるステップと、
を備える、方法。
【請求項13】
合成された前記固体電解質ガラスを電気化学的装置の電極間に導入するステップと、
前記固体電解質ガラスを170〜240°Cまで加熱して冷却するステップと、
をさらに備える、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願開示は、ナトリウム又はリチウムイオンの電気化学的装置の開発及び改良に関するものであり、とりわけ、高いイオン伝導率及び/又は安定性に関しての高い電気化学窓を示す新規な固体電解質ガラスの開発に関する。
【背景技術】
【0002】
国際的には次の4タイプの次世代型電池が今日において検討されている:リチウム−硫黄電池、金属−空気電池、及び金属−ナトリウム電池、多価カチオン電池、及び全固体相電池コンセプト(非特許文献1)。これらの電池設計では、高性能で安全で費用対効果に優れる電解質であって最適化された電極材料に対応している電解質が要求される。固体電解質は、商業用電池においては未だ広範に活用されていない。なぜならば、これらには、許容可能な温度においてのイオン伝導性が劣っており、また、リチウム−金属との関係で安定性が不十分である、という欠点があるからである。
【0003】
非特許文献2では、リチウムイオンセルにより多くのグラファイト陰極表面積が存する場合、結果として、より多くの固体電解質界面(SEI、solid electrolyte interphase)が生じ、したがってより多くの熱が熱分解時に生じる、と示された。〜110°Cで生じるこの初期的な熱反応は、セル内で他のさらなる発熱反応を誘発し得る。したがって、グラファイト系アノードに関しての最新の研究は、安定した人工的SEIの開発に注力しており、これによってリチオ化されたグラファイトを安定させて、また、安全性及びサイクリング性能の両者を向上させる。
【0004】
最近では、陽極にて大気中の酸素を用いるリチウム電池(リチウム−空気電池)が世界的な脚光を浴びた。この解放系では、ボラティリティの低い電解質の使用が厳密に要求される。リチウム−空気電池に関しては、リチウムイオン伝導性を有するセラミック電解質によって保護されたリチウム−金属アノードが大きな関心対象となっている(非特許文献3)。当該目的のためにはLISICON(Li(1+x+y)AlTi2−xSi(3−y)12)(Ohara Inc. 2013)が用いられており、その重大な不便さとしてはLi−金属との接触によってLISICONが還元されことがあり、サイクリングし難いLi/セラミック界面が生じる(非特許文献3)。
【0005】
近時においては、Li10GeP12固体電解質Nを用いて有望な結果が得られている(非特許文献4)。この固体電解質内では、−100°C及び25°Cにおいて、各々0.012mScm−1及び12mScm−1のレートでLiイオンが伝導されるのであり、これは高い伝導率と認められる。非特許文献5によると、Li10GeP12は、低電圧でのリチウムによる還元、または、高電圧での分解を伴うLiの抽出に対して安定していない、とされる。
【0006】
別の側面に転じるに、高いイオン伝導性がある故に硫化物ガラスが研究されている。LiPO−LiS−SiS系のガラスは、0.03LiPO−0.59LiS−0.38SiSを環境圧にて液体窒素内で急冷することによって形成される。これの室温にての伝導率は0.69mScm−1であり(非特許文献6)、電気化学的還元に対しての安定性は10Vの広さにさえ達する(非特許文献7)。
【0007】
他方で、キャパシタや特に電池等のリチウムイオン系又はナトリウムイオン系の電気化学的装置に関しては、安全性の論点が障害となったままである。今日においては、電池製造業者は、100万個の製造済みセルに対しての報告対象安全性関連事象の発生件数が1件以下となるような水準を伴って、家電製品用の高品質なリチウムイオンセルを製造できるようになっている。もっとも、PHEVや純粋な電気自動車の用途との関係では、この故障率は依然高すぎる。なぜならば、車両に対して電源供給をするには何百ものリチウムイオンセルが必要となるからである。単一のセルの故障は大量の熱と火炎を発生させ得るのであり、このいずれもが近隣のセルの熱暴走を誘発させ得るのであり、これによって電池パック全域にわたっての故障となり得る。したがって、リチウム電池の安全性に関しては様々な取り組みがなされている。
【0008】
典型的には、最新鋭の液体電解質の伝導率は、室温(20°C)では約10mScm−1であり、40°Cになるとこれは30―40%程上昇する。液体電解質の安定性に関しての電気化学窓は、通常4V以下であり、全ての電極組み合わせペアとの使用が可能とされるわけではない。
【0009】
電解質の安定性はその電気化学窓に関係しており、電気化学窓は電気的バンドギャップに直接関係している。LiClOの結晶性固体について計算される電子バンドギャップは6.44eVであり、0.7at%までの低水準ドーパントレベルに関してはバンドギャップは多くてeVの小数点レベルでしか変化しない。ガラス質のサンプルの130°Cでの安定性に関しての窓を決定するために実施された周期的ボルタンメトリ実験では、8V以上の安定性レンジが示されており、発明者らの電解質を次世代高電圧バッテリセル(5V)に適用することが可能となる。
【0010】
本願開示によって解決される技術的課題を説明するために、これらの情報を開示した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】M. Tatsumisago and Hayashi, A. Sol. Stat. Ionics, 2012, 225, 342
【非特許文献2】Z. Chen, Y. Qini, Y. Ren, W. Lu, C. Orendorff, E. P. Roth and K. Amine, Energy Environ. Sci. 2011, 4, 4023
【非特許文献3】N.-S. Choi, Z. Chen, S. A. Freunberger, X. Ji, Y.-K. Sun, K. Amine, G. Yushin, L. F. Nazar, J. Cho and P. G. Bruce, Angew. Chem. Int. 2012, 51, 9994
【非特許文献4】N. Kamaya, K. Homma, Y. Yamakawa, M. Hirayama, R. Kanno, M. Yonemura, T. Kamiyama, Y. Kato, S. Hama, K. Kawamoto and A. A. Mitsui, Nature Mat. 2011, 10, 682
【非特許文献5】Y. Mo, S. P. Ong and G. Ceder, Chem. Mater. 2012, 24, 15
【非特許文献6】S. Kondo, K. Takada and Y. Yamamura, Sol. Stat. Ionics 1992, 53-56(2), 1183
【非特許文献7】A. Hayashi, H. Yamashita, M. Tatsumisago and T. Minami, Sol. Stat. Ionics 2002, 148, 381
【非特許文献8】Y. Zhao and L. L. Daemen, J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 15042
【非特許文献9】H. Mehrer, Diffusion in Solids Fundamentals, Methods, Materials, Diffusion-Controlled Processes, Springer Series in Solid-State Sciences, Vol. 155, 1st ed. 2007
【発明の概要】
【0012】
本願開示は新規なガラスの種類に関するものであり、該ガラスのタイプは無秩序な非晶相を有し、ガラス転移を示し、比類なきイオン伝導率の高さを示すのであり、25°CでLi―イオンに関しては少なくとも13mScm−1の伝導率を示し、また、25°CでNa−イオンに関しては少なくとも17mScm−1の伝導率を示す。これらリチウム/ナトリウム電池用のガラス質電解質は、安価で軽量でリサイクル可能で不燃性で無毒性である。さらに、これらは広い(8Vよりも大きい)電気化学窓をもたらすのであり、利用され得る温度範囲に関しては熱的安定性を示す。
【0013】
リチウムイオン又はナトリウムイオン電池は、再充電可能な電池の種類であり、放電過程においてはリチウムイオン/ナトリウムイオンが負極から正極へと向かって電解質中を移動し、また、充電過程においては逆移動が行われる。電池の電気化学的挙動は正極及び負極で生じる全体的な反応によって律されるのであり、電池の最大開回路電位差はかかる反応によって決定される。
【0014】
リチウムイオン又はナトリウムイオン電気的二重層キャパシタ(EDLC、electrical double layer capacitor)とはスーパーキャパシタであり、該構成ではリチウム/ナトリウムイオンが電解質中を移動して負極へと向かってゆき界面に蓄積するのであり、また、充電中には電極の陰イオン又は電子によってナノメータ級の間隔を伴うキャパシタが形成される。反対の界面においては、電極の陽イオンは電解質の陰イオン(これらはLi又はNaのカチオンが不在となっているが故に陰性を呈している)と共に別のEDLCを形成する。キャパシタの作動電位差は、電解質の安定性に関する電気化学窓によって決定される。
【0015】
リチウムイオン又はナトリウムイオンの電池及びキャパシタは、携帯機器や電動工具や電気自動車や配電網蓄電装置等の様々な装置に適用可能な軽量でエネルギー密度が高い電源であり;有毒金属を含有せずこのため非危険性廃棄物と特徴付けられる。
【0016】
本願開示は、Li−イオン又はNa−イオン(各々はLi+、Na+とする)のためのガラス質電解質に関する。ガラスはR3−2xHalOとの化学量論的組成を有する化合物から合成されるのであり;Rはリチウム(Li)又はナトリウム(Na)であり;Mはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、又はバリウム(Ba)であり;Halはフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)又はこれらの元素を混ぜたものであり;Oは酸素である。さらに、0≦x≦0.01であり、好適には0.002≦x≦0.007であり、好適には0.003≦x≦0.005である。
【0017】
ガラス状態に達した後は、電気的絶縁体であるということに加えてガラス質電解質はLi+イオン又はNa+イオンの超伝導体となり、電解質に関して必須な機能的特性を示す。Li+イオン又はNa+イオンを備える開示されるガラス質電解質のイオン伝導率は、結晶性の材料に比して少なくとも2オーダー分の向上をもたらす。電気化学窓もより広くなり、6Vから転じて8Vよりも大きいものとなる。したがって、上述の化合物の化学式中のRがリチウムである場合には該電解質はリチウム電池又はキャパシタの負極及び正極間に適用されることができ、該式中のRがナトリウムである場合には該電解質はナトリウム電池又はキャパシタのそれに適用されることができる。
【0018】
このガラスは難燃性を有し、軽量であり、リサイクル可能であり、容易に合成可能であり、安価であると証明されている。
【0019】
本願のある実施形態は、化学式R3−2xHalOで表される化合物を有する固体電解質ガラスに関連しており、
Rは、リチウムとナトリウムとからなる群から選択され、
Mは、マグネシウムと、カルシウムと、ストロンチウムと、バリウムとからなる群から選択され、
Halは、フッ素と、塩素と、臭素と、ヨウ素と、それらの混合物とからなる群から選択され、
xは前記Mのモル数であり、0≦x≦0.01とされ、
固体電解質ガラスはガラス転移点を有している。
【0020】
ある実施形態では、固体電解質ガラスは、CuKα放射線を用いるXRDによる測定では31°≦2θ≦34°の範囲内において0.64°以下の半値幅を有するピークを持っていない。
【0021】
ある実施形態では、Li3−2*0.005Ba0.005ClOによるガラス質電解質は、CuKα放射線を用いるXRDによる測定では31°≦2θ≦34°の範囲内において0.64°以下の半値幅を有するピークを持っていない。
【0022】
ある実施形態では、本願の固体電解質ガラスは、Rがリチウムである場合、25°Cにおけるイオン伝導率が少なくとも13mScm−1であり、好適には25°Cにおけるイオン伝導率が13〜60mScm−1であり、より好適には25°Cにおけるイオン伝導率が少なくとも25mScm−1である。
【0023】
ある実施形態では、本願の固体電解質ガラスは、Rがイオンたるナトリウムである場合、25°Cにおけるイオン伝導率が少なくとも17mScm−1であり、好適には25°Cにおけるイオン伝導率が17〜105mScm−1であり、より好適には25°Cにおけるイオン伝導率が少なくとも31mScm−1である。
【0024】
イオン伝導率は標準的な手法によって測定することができ、例えば、25°Cでの電気化学的インピーダンス分光法(EIS)を用いることができる。
【0025】
ある実施形態では、本願の固体電解質ガラスに関してxは0.002、0.005、0.007、又は0.01とすることができる。
【0026】
ある実施形態では、本願の固体電解質ガラスに関してHalは塩素及びヨウ素の混合物であることができる。
【0027】
ある実施形態では、本願の固体電解質ガラスに関してHalはHal=0.5Cl+0.5Iとすることができる。
【0028】
ある実施形態では、本願の固体電解質ガラスに関してRがリチウムである場合:
MはバリウムとしてHalは塩素としてxは0.005とするか;又は
MはバリウムとしてHalは塩素及びヨウ素の混合物としてxは0.005とする。
【0029】
ある実施形態では、本願の固体電解質ガラスに関してRはナトリウムであり、MはBaであり、HalはClでありxは0.005である。
【0030】
本願の別の側面は、電解質の組成に関しており、特にNa3−2xHalOの化学式で表される固体電解質ガラスの組成に関連しているのであって、
Mは、マグネシウムと、カルシウムと、ストロンチウムと、バリウムとからなる群から選択され、
Halは、フッ素と、塩素と、臭素と、ヨウ素と、それらの混合物とからなる群から選択され、
xはMのモル数であり、0<x≦0.01とされる。
【0031】
本願開示の別の側面は、本願のガラス質電解質を備える電気化学的装置に関連している。
【0032】
本願開示の別の側面は、本願のガラス質電解質を備える電池に関連している。
【0033】
本願開示の別の側面は、本願のガラス質電解質を備えるキャパシタに関連している。
【0034】
本願開示の別の側面は、本願のキャパシタを少なくとも1つ及び本願の電池を少なくとも1つ備える電気化学的装置に関連している。
【0035】
本願開示の別の側面は、化学式R3−2xHalOで表される化合物を有する導電性ガラス質電解質を合成する方法であってとりわけ5gの準備法に関連しており、
Rはリチウムであり、
Mはマグネシウムと、カルシウムと、ストロンチウムと、バリウムとからなる群から選択され、
Halはフッ素と、塩素と、臭素と、ヨウ素と、それらの混合物、とりわけCl、とからなる群から選択され、
xはMのモル数であり、0≦x≦0.01とされるのであって、
該方法は、
LiHalと、LiOHと、並びに、Mg(OH)と;Ca(OH)と、Sr(OH)と、Ba(OH)とからなる群から選択された1つの化合物とを化学量論的量で混合するステップと;
混合物に脱イオン水を加えて混ぜて閉鎖した容器内で溶液を作るステップと;
2〜8時間にわたって前記溶液を250°Cまで加熱するステップと;
容器を開放して加熱された生成物の余剰水分を蒸発させるステップと、
を備える、方法である。
【0036】
1つの実施形態では、先の段落の化合物のいずれかを合成する方法は次のステップを備えることができる:
合成されたガラス物質を電極間、電気化学的装置の電極間、に導入するステップと;
ガラス質の材料を170〜240°Cまで加熱して冷却するステップ。
【0037】
1つの実施形態では、先の段落の化合物のいずれかを合成する方法は次のステップを備えることができる:
LiClと、LiOHと、並びに、Mg(OH)と;Ca(OH)と、Sr(OH)と、Ba(OH)とからなる群から選択された1つの化合物とを合わせた化学量論的混合物を用意して;脱イオン水1〜2滴と共に該混合物をテフロン(登録商標)リアクタに導入して混ぜて均質なペーストを形成して該ペーストを閉鎖したままリアクタに留置してサンドバス(sand bath)に導入する、ステップと;
該混合物を250°Cまで加熱して少なくとも4時間留置するステップと;
リアクタを開けて余剰水分を蒸発させるステップと;
幅を1cmとした2つの正方形のゴールド電極の間に合成されたガラス物質を導入して、クリップを利用してプレスして電解質が1〜3mmに等しい一定の厚さになるようにするステップと;
生産されたガラス物質を230°Cまで加熱して、また、サンドバス内で冷却することを2〜5度、−10Vから10V間の可変電位差及び100Hzから5MHz間の可変周波数の作用する下で行うステップ。
【0038】
本願開示の別の側面は、化学式R3−2xHalOで表される化合物を有する導電性ガラス質電解質を合成する方法であってとりわけ5gの準備法に関連しており、
Rはナトリウムであり、
Mはマグネシウムと、カルシウムと、ストロンチウムと、バリウムとからなる群から選択され、
Halはフッ素と、塩素と、臭素と、ヨウ素と、それらの混合物とからなる群から選択され、
xはMのモル数であり、0≦x≦0.01とされるのであって、
該方法は、
NaHalと、NaOHと、並びに、Mg(OH)と;Ca(OH)と、Sr(OH)と、Ba(OH)とからなる群から選択された1つの化合物とを化学量論的量で混合するステップと;
混合物に脱イオン水を加えて混ぜて閉鎖した容器内で溶液を作るステップと;
2〜8時間にわたって前記溶液を70〜90°Cまで加熱するステップと;
2〜8時間にわたって温度を190〜250°Cまで上昇させて少なくとも2時間該温度を維持するステップと、
容器を開放して加熱された生成物の余剰水分を蒸発させるステップと、
を備える、方法である。
【0039】
1つの実施形態では、先の段落の化合物のいずれかを合成する方法は次のステップを備えることができる:
合成されたガラス物質を電極間に導入するステップと;
ガラスを190〜230°Cまで加熱して冷却するステップ。
【0040】
1つの実施形態では、先の段落の化合物のいずれかを合成する方法は次のステップを備えることができる:
NaClと、NaOHと、並びに、Mg(OH)と;Ca(OH)と、Sr(OH)と、Ba(OH)とからなる群から選択された1つの化合物とを合わせた化学量論的混合物を用意するステップ;又は
NaClと、NaFと、NaOHと、並びに、Mg(OH)と;Ca(OH)と、Sr(OH)と、Ba(OH)とからなる群から選択された1つの化合物とを合わせた化学量論的混合物を用意するステップと;
脱イオン水1〜2滴と共に該混合物をリアクタに導入して混ぜて均質なペーストを形成して該ペーストを閉鎖したままリアクタに留置してサンドバス(sand bath)に導入する、ステップと;
2時間にわたって該混合物を80°Cまで加熱するステップと;
24時間にわたって温度を120°Cまで上昇させるステップと;
24時間にわたって温度を245°Cまで上昇させるステップと;
少なくとも4時間温度を維持するステップと;
リアクタを開放して余剰水分を蒸発させるステップと;
幅を1cmとした2つの正方形のゴールド電極の間に合成されたガラス物質を導入して、クリップを利用してプレスして電解質が1〜3mmに等しい一定の厚さになるようにするステップと;
生産されたガラス物質を230°Cまで加熱して、また、サンドバス内で冷却するステップと;
ガラス物質を140°Cまで加熱して、また、サンドバス内で冷却することを2〜5度、−10Vから10V間の可変電位差及び100Hzから5MHz間の可変周波数の作用する下で行うステップ。
【0041】
本願開示の別の側面は、化学式R3−2xHalOで表される化合物を有するイオン導電性ガラス質電解質を合成する方法であってとりわけ5gの準備法に関連しており、
Rはリチウムであり、
Mはマグネシウムと、カルシウムと、ストロンチウムと、バリウムとからなる群から選択され、
Halはフッ素と、塩素と、臭素と、ヨウ素と、それらの混合物とからなる群から選択され、
xはMのモル数であり、0≦x≦0.01とされるのであって、
該方法は、
LiClと、LiOHと、並びに、Mg(OH)と;Ca(OH)と、Sr(OH)と、Ba(OH)とからなる群から選択された1つの化合物とを化学量論的量で混合するステップと;
混合物に脱イオン水、具体的には5〜25ml又は1〜2滴、を加えて混ぜて閉鎖した容器内で溶液、具体的には均質なペースト、を作るステップと;
2〜8時間にわたって前記溶液を250°Cまで加熱するステップと;
容器を開放して生成物の余剰水分を蒸発させるステップと;
電極間、具体的には幅を1cmとした2つの正方形のゴールド電極の間に、合成されたガラス物質を導入して、クリップを利用してプレスして電解質が1〜3mmに等しい一定の厚さになるようにするステップと;
得られたガラス物質を170〜240°Cまで加熱して、また、冷却するのであって、具体的には2〜5度、−10Vから10V間の可変電位差及び100Hzから5MHz間の可変周波数の作用する下でこれを行うステップと、
を備える、方法である。
【0042】
本願開示の別の側面は、化学式R3−2xHalOで表される組成の利用法に関連しており、
Rはリチウムとナトリウムとからなる群から選択され、
Mはマグネシウムと、カルシウムと、バリウムと、ストロンチウムとからなる群から選択され、
Halは、フッ素と、塩素と、臭素と、ヨウ素と、それらの混合物とからなる群から選択され、
xはMのモル数であり、0≦x≦0.01とされ、
該利用法では、
該組成は、電解質のイオン伝導率及び/又は電解質の安定性に関しての電気化学窓、のエンハンサとして利用される。
【0043】
本願開示は、R3−2xHalO系の化学量論的構造に基づいた超高速イオン伝導によって最適化されたガラス質電解質に関連しており、ここで、Rはリチウム又はナトリウムイオンであり、MはMg2+, Ca2+ Sr2+,又はBa2+等の原子価のより高いカチオンであり、HalはF,Cl,Br,Iやハロゲン化合物アニオンの混合物等のハロゲン化合物アニオンである。
【0044】
ガラス−液体転移は、非晶質材料における可逆的な転移であって、硬質かつ比較的脆弱な状態から溶融又はゴムの様な状態への変化を伴う。液体状態から固体様状態へのガラス転移は、冷却又は圧縮によって生じ得る。転移では、材料の粘度が17オーダー程比較的になだらかに増加し、この際明白な材料構造の変化は生じない。この劇的な粘度の増大の結果としては、現実的な観察期間中においては固体様の力学的性質を示すガラスが得られる。ガラスは硬直しており完全に固定されたものであると認識されることが多いが、極低温域に至るまで何らかのタイプか他のタイプの弛緩挙動が観測され続けることが周知である。他方で、Tよりも数百度下がった温度では、通常のガラス絶縁体に関しては誘電損失をもたらす重大な原因が頻繁に現れる。これは、移動性のアルカリイオンに原因を求めることができ、より少ない程度の原因としてはアニオニックネットワークにおけるプロトンも挙げられる。多くの場面において、例えば固体電解質に関しては、これらの準自由運動モードが、自由移動カチオンに基づいた先進的電解質等の特殊材料関連の研究論点となっている。
【0045】
ガラス転移温度のより効果的な整理方法としては、次の事項に着目する。即ち、当該温度においてはあるいは例えば50°Cまでの数度程の範囲内にある温度においては、比熱や熱膨張率そしてやがては誘電率が唐突に変化する。示差走査熱量(DSC)実験においては、Tは基線における変化によって表現されており、これは材料の熱容量の変化を表している。通常は、この転移にはエンタルピー(潜在的な熱変化)が関連づけられていない(即ち、2次転移である。)。したがって、DSC曲線に対しての影響は僅かであり、計器が精密である場合に限って検出され得る。
【0046】
これらの固体電解質は、Tにおいて粘性液体から固体様物質への転移を経る。Tを超えている場合、伝導率に関して非アレニウス型挙動が観測される[T(LiClO)はおよそ119°C、T(Li3−2*0.005Mg0.005ClO)はおよそ109°C、T(Li3−2*0.005Ca0.005ClO)はおよそ99°C、T(Li3−2*0.005Ba0.005ClO)はおよそ75°C、T(Li3−2*0.005Ba0.005Cl0.50.5O)はおよそ38°C]。我々によって開発された固体電解質の亜種の1種たるLi3−2xBaClO(x=0.005)は、25°C、75°C、100°Cそれぞれのガラス状態又は過冷却液体状態において伝導率が25mScm−1、38mScm−1、240mScm−1である。別の亜種たるLi3−2xBaCl0.50.5O(x=0.005)では、50°Cの過冷却液体状態において、伝導率が121mScm−1となる。
【0047】
多くが一般式Li3−n(OH)Hal又はLi(OH)Clに従う逆ペロブスカイト水酸化物は、Li3−2*xHalO系ガラス質電解質よりも驚くほど低いイオン伝導率を示すのであり最大のイオン伝導率0.010Scm−1が250°Cで(Li(OH)Clに関して)達成される。とはいえ、ガラスが形成される以前にそれらは我々のサンプル中に見つかっており、それらはガラス形成において驚くほど重要な役割を果たしているのかもしれない。なぜならば、(力場の源泉とみなされ得る)拘束的界面の近隣の外部力場に曝されるか、又は、併存する相の間にある界面の存在を受けて、均質な流体の並進対称性が破られるからである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
本願発明が提供する解決手段をより良く理解するために、添付の図面があるのであり、これらは本願発明の好適な実施形態を表すのであるがこれら図面は本願発明の範囲を制限することは意図していない。
【0049】
図1】室温でのLiClOのX線回折(XRD)によるディフラクトグラムを表す図であって;微量の水酸化物相の痕跡があり、これはもしかするとサンプル操作によるLi(OH)Clであるかもしれないのであり;180°Cでは(直上にあるグラフ、図1(1))水酸化物の痕跡は少ないがLiClOの存在は依然明らかであるとともにアモルファス相も見えるようになるのであり;230°Cでは(直上にあるグラフ、図1(2))非晶相のみが明らかに識別されるのであり;用いられたXRD放射はCuKαである;ディフラクトグラムを表す図である。
図2】室温での結晶質サンプルたるLiClO(図1(1)と同じ)及びガラス質サンプル(2)たるLi3−2*0.005Ba0.005ClOのXRDディフラクトグラムを表す図であって;これらはEIS測定後(加熱/冷却を6サイクル行った後)の状態に関してのものであり;非弾性散乱たるコンプトン散乱及びガラスと関連づけられる非晶質散乱が認められるのであり、水酸化物相の痕跡があり、これはもしかするとLiCl(OH)図1と同じ)であり、これは大気に被曝された状態での操作が余儀なくされることに起因しており、これは表面から形成され始める;ディフラクトグラムを表す図である。
図3】示差走査熱量(DSC)に関する図であって;Li3−2*0.005Mg0.005ClOのサンプルに関しての5°C/分のレートで行われる加熱及び冷却時のDSC曲線が示されており;次第にガラス転移(基線上アノマリー)及び第1次転移温度が露見し、溶融事象が(加熱曲線上の)吸熱性事象に、及び、冷却曲線上の発熱性事象に対応する;DSCに関する図である。
図4】先述のものと等価な経路を用いた際のEIS実験データと近似データを表す図であって;Li3−2*0.005Ba0.005ClOを含有するサンプルの第2サイクルに関しての25°Cでのナイキストインピーダンスと対応する近似曲線が示されており;Aは表面積でありA=1.76cmであり、dは厚さでありd=0.2cmである;データ図である。
図5】先述のものと等価な経路を用いた際のEIS実験データと近似データを表す図であって;Li3−2*0.005Ba0.005ClOを含有するサンプルの第2サイクルに関してのガラス転移後の別異な温度でのナイキストインピーダンスが示されており;Aは表面積であり、dは厚さである;データ図である。
図6】Li3−2*0.005Ca0.005ClOのガラス質サンプルの写真を示す図である。
図7】7aは、非ドープ及びドープLiClOの電気的特性を表す図であって;VASPにて用いられたDFT−GGAを用いて計算されたブリルアン領域方向内のLi3−2*0.04Ca0.04ClOの固体結晶についての電子バンド構造が示されており;0eVに対応するフェルミ準位の次に4.74eVのバンドギャップが強調されている;電気特性図である。7bは、非ドープ及びドープLiClOの電気的特性を表す図であって;HSE06を用いて計算されたブリルアン領域方向内のLiClOの電子バンド構造が示されており;6.44eVのバンドギャップがDFT−GGAで計算されたEgとHSE06で計算されたEgとの間の差異を強調している;電気特性図である。7cは、非ドープ及びドープLiClOの電気的特性を表す図であって;130°Cにおける様々なセル及びドープ電解質に関してのボルタンメトリ特性が示されており、電解質の8Vまでの安定性が強調されている;電気特性図である。
図8】(LiClOのLiイオン、Li3−2*0.0050.005ClOのイオン(M)(但し、M=Mg2+, Ca2+, Sr2+, Ba2+)、及び、Li3−2*0.0050.005Cl0.50.5Oに関しての)ガラス転移温度対イオン半径のプロット図であって;Sr2+を除いて、全てのガラス転移温度はEIS(電気化学的インピーダンス分光法)によって取得されたのであり;イオン半径は文献から取得されている;プロット図である。
図9】9aは、非ドープ及びドープLiClOのイオン伝導率を表す図であって;LiClO、Li3−2*0.005Mg0.005ClO、及び、Li3−2*0.005Ca0.005ClOに関しての、加熱及び冷却時における、イオン伝導率が対数尺度を用いて1000/T[K]との関係で示されている;イオン伝導率を表す図である。9bは、非ドープ及びドープLiClOのイオン伝導率を表す図であって;Li3−2*xHalOの合成中に発生し得る水酸化物、既知の幾つかの固体電解質、及び、Liイオン電池において一般的に用いられるゲル状電解質;LiClOとLi3−2*0.0050.005ClO(但し、M=Mg, Ca, Sr, Ba)の加熱中のイオン伝導率の対数が比較され;Li3−2*0.005Ba0.005ClOガラス質サンプル各々の第2、第3、第4の加熱/冷却サイクルに関して、線分と+記号と×記号が添えられ;EIS測定は加熱中に行われている;イオン伝導率を表す図である。
図10】10aは、固体様ガラス質及び過冷却液体ドメインでのσT項に関しての外挿データの同一となる値を強調するために設けられた、温度Tが無限大に接近するにつれてのLog(σT)対1000/Tグラフであって;LiClOのサンプルに関する、グラフである。10bは、固体様ガラス質及び過冷却液体ドメインでのσT項に関しての外挿データの同一となる値を強調するために設けられた、温度Tが無限大に接近するにつれてのLog(σT)対1000/Tグラフであって;Li3−2*0.005Ca0.005ClOのサンプルに関する、グラフである。
図11】Li3−2*0.005Ba0.005ClOの第4加熱/冷却サイクル中の疑似アレニウスプロット及び「見かけ上の」活性化エネルギーを表す図であって;全ての加熱事象に際してサンプルはEISサイクルにさらされ;サンプルはガラス質であったのであるから少なくともTgを超過した場合にアレニウス的挙動は期待されていない;図である。
図12】非ドープ及びドープLiClOのイオン伝導率を表す図であって;対1000/Tの形式でイオン伝導率の対数を示すのであり;対象はLiClO(非特許文献8)と、LiCl0.5Br0.5O(非特許文献8)と、AgI(非特許文献9)と、Li3−2*0.005Ba0.005ClO(第1及び第4サイクル)と、Li3−2*0.005Ba0.005Cl0.50.5O(第1から第3サイクル)とである;イオン伝導率を表す図である。
図13】実験に関して得られたLi3−2*xCaClO及びLi3−2*xMgClOに関してのイオン伝導率対濃度のプロット図であって;これらの結果は最適化されていないステンレス鋼のセルを用いて得られたのであり;電極はステンレス鋼とされ;ゴールドを用いたセル程の気密性は得難く、サンプルはおそらくガラス質にはならなかったと思われる、プロット図である。
図14a】Li−金属と比較した固体電解質のサイクル安定性を表す図であって;Li/Li3−2*0.005Ca0.005ClO/Liセルの44°Cにおけるサイクル安定性を強調するクロノポテンショメトリが示されており;VOCは開回路電圧を意味するのであり;印加された電流(Iapp)=±0.1mAcm−2である;サイクル安定性を表す図である。
図14b】Li−金属と比較した固体電解質のサイクル安定性を表す図であって;Li/Li3−2*0.005Ca0.005ClO/Liセルの安定性を示す図14aの拡大図である;サイクル安定性を表す図である。
図15】LiClOの格子振動スペクトルを表す図であって;上図においては真鍮/LiClO/真鍮セル(ブロッキング電極)について計算されたスペクトルとIINSが示されており;下図においてはLi/LiClO/LiセルについてのIINSが示されており;スペクトルピークの強度が印加された周波数に依存しているがためにジャンプ周波数が強調されており;この効果は350cm−1付近のピークに関して際立っており;計算されたスペクトルにおいては、各エレメントの非干渉性断面積は重み付けされていないのであり;また、計算は倍音を考慮していない。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本願開示は新規なタイプのガラスとその生産方法を説明する。
【0051】
合成、特性の特定及び中性子散乱
ある実施形態では、LiClO及びそれに対応するドープ固体電解質サンプルの調製は次のステップを伴う:LiCl及びLi,Mg,Ca又はBa水酸化物を予備乾燥させるステップ(なぜならば、これらの多くは吸湿性が高いからである。)と、化学量論的量を計量するステップと、これらを混ぜるステップ。そして、数滴の脱イオン水を加えることによってペーストを形成してテフロンリアクタに導入して該リアクタを閉じる。リアクタは2〜3時間にわたって230〜260°Cに加熱されてその後、それを開いて1時間ほど水分を蒸発させた。そして、それはガラス容器の中に閉じられて室温まで冷却された。除湿のために真空ポンプを用いた。サンプルが100%非晶質LiClO又はドープ同族体になるには、数時間の経過が必要である。(コールドプレスを用いて)ペレットも得られた。
【0052】
EIS実験のために指定されたサンプルの一部分は、合成後、空気中でのマニュピレーションを受けた。なぜならば、これによってガラス形成に有益な水酸化物の形成が促進されるからである。
【0053】
冷却過程は、サンドバス内で行われ、該過程は低速であり、該過程はねじプレスされたセル内で行われ、また、多くの場合、冷却中にEIS実験が行われた。水酸化物が枯渇した後にガラスが得られた(この相が次第に拘束的界面として機能するようになりガラス形成を支援する)。
【0054】
ある実施形態では、サンプルは、CuKα放射を用いたPanalytical機材内でX線回折(XRD)分析に付されてサンプル中に存する生成物の量を決定した(図1参照)。EIS実験後にもXRD測定が行われて材料が非晶質であるか否かを決定した。このような後程の測定に関しては図2を参照されたい。Mg、Ca,Sr及びBaに関しての定量分析は、原子吸光分光学法(AAS)によって行われた。
【0055】
ガラスのイオン伝導率が化学的組成に強く影響されることは周知である。したがって、異なるドープ元素と組成、Li3−2*xHalO、を合成した(例えば、LiClOに関してはx=0;M=Mg及びCaに関してはx=0.002, 0.005, 0.007及び0.01;M=Ba及びHal=Cl又はHal=0.5Cl+0.5Iに関してはx=0.005)。ガラスを得るため、サンプルはゴールド製のセルにマウントされ(イオン・電子の伝導率との関係で説明する)、空気の雰囲気中に置かれ、250°Cまでの加熱−冷却サイクルに曝された。第1加熱−冷却サイクル後、次第に、イオン伝導率が急に上昇する(サンプルは低速で冷却されて水分から保護されていた)。
【0056】
閉鎖型アルミナるつぼ内で行われ、かつ、Ar流動雰囲気中で行われる、乾燥粉末及び軽度プレス粉末を用いるDSC実験では、第1サイクルの後は、水酸化物の溶融ピークが区別不能となったことが示されている。後者は、ガラス転移によって多分引き起こされているベースライン異常、及び、図3で区別できるが故に、Li3−0.01Mg0.005ClOの溶融ピークに対応する明確な1次転移を示している。後者の測定を行うためには、Labsys-Setaramの測定機材を使用した。
【0057】
ホッピングと拡散に際しての格子の役割は、中性子非弾性インコヒーレント散乱(IINS)によって決定した。これらの実験のためにはサンプルホルダー棒とリチウム−メタル対称電池セル(真鍮のねじコレクタを有し、直径約2.5cmの石英ガラスチューブを有し、リチウム電極間のサンプル距離は約3cmとした)とを準備し、実験はロスアラモス中性子散乱センタ(LANSCE)で行われた。温度、電流及び印加周波数は可変である。
【0058】
イオン伝導性及び電子伝導性の測定
電気化学的インピーダンス分光法(EIS)を行ったのであり、これは、ゴールド又はステンレス鋼(ブロッキング電極)を用いたセル内で行われ、セルはサンドバス又は空気の雰囲気中又はAr及び/若しくは空気(湿度<10%)で充填されたグローブボックス内で加熱された。我々の対称ゴールドセルの表面積は約1.77cmである。該セルは、サンプルによって隔てられた2つの金箔でできたディスクからなり、厚さは約5mm未満であり(通常1〜3.0mm)、ねじによって堅くプレスされた。我々のステンレス鋼セルは、大きく、ゴールドセルのサンプルと同じ寸法のサンプルを格納することができる。後者のセルでは、ブロッキング電極をステンレス鋼か銅とすることができた(但し温度が室温付近の場合)。このセルはあまり使用されなかった。使用した機材はBio-Logic SP240である。実験は、25〜255°Cの温度範囲内で行われた。周波数域は5MHz〜0.01Hzとした。イオン伝導率は、次の回路に等価な回路おけるナイキストインピーダンスを用いて計算した:パッシブ抵抗を直列で定位相エレメントと接続してさらにキャパシタを含む回路と直列で接続してさらに並列で抵抗に接続した、回路。後者の抵抗は、固体電解質の抵抗であり、理想的な平行板キャパシタにおいて誘電体の役割を果たす。イオン伝導に対しての抵抗値が小さくなりすぎてケーブルによるファラデー的誘電が不可避となり高周波数で顕著となる場合、先述の回路に非理想的な誘導エレメントを直列で追加した。図4及び図5は、Li3−2*0.005Ba0.005ClOを含むサンプルについてのEIS測定データを表しており、該サンプルについては先述の対称ゴールドセル内で測定を行い、異なるサイクル及び温度に関して測定を行った。空のセル及びAgIを用いた測定を行って手順に関しての対照群とし、また、これによって分析手法を確立した。
【0059】
ステンレス鋼セル内で周期的ボルタンメトリ実験を行い、この際基準電極としてリチウム電極が用いられ、対電極として銅又はステンレス鋼を用いた。クロノポテンショメトリを、先述のゴールドセルと等価なリチウムの対称セルで行った。開回路インターバルによって補間された3つの測定を行ったのであり、各々は40分間のサイクルを20サイクル伴う(20分間の正電流と20分間の負電流)。測定は、Ar感想グローブボックス内で行われた。
【0060】
計算
ある実施形態では、密度機能論(DFT、density Functional Theory)計算を行ったのであり、該計算はウイーンアブイニシオシミュレーションパッケージ(VASP)コードで実装されているプロジェクタ拡張波(PAW、Projector Augmented Wave)を用いて行われた。500eVの平面波カットオフと4×4×4のkメッシュ(k−mesh)を用いた。実空間内の結晶性電解質について計算を実装し、少なくとも134個の原子を含むP1空間群スーパーセル内で計算を行った。一部のスーパーセルはできうる限りの多くの原子、例えば270個以上の原子を含んでおり、これによって実際のBa2+,Ca2+,又はMg2+濃度についてより良い近似が可能になるようにした。一般化グラジエント近似(GGA)とPerdew-Burke-Ernzerhof(PBE)汎関数を用いたのであり、モデルには磁気モーメントは含めていない。Heyd-Scuseria-Erznerhof(HSE06)汎関数を用いてバンド構造と電子状態密度(DOS)を計算して、最低空分子軌道(LUMO)と最高被占有分子軌道(HOMO)を決定した。
【0061】
固体中のイオン伝導は、排他メカニズムによって結晶格子サイトから別の結晶格子サイトへのイオンホッピングによって起こるのであり、このため、エネルギー的に等価又はほぼ等しいサイトが部分占有状態になっていると便利である。好適な構造においては、欠損は可動であり、高いイオン伝導率が得られ得る。結晶性固体中のイオン伝導のレートはイオン伝導を司る空きの拡散性及び密度によって厳密に左右されるが、無機ガラス物質の開放構造はイオンホッピングを促進するため、伝導率は結果向上している。したがって、無機ガラスは電解質用途にとって魅力的な材料区分である。無機ガラスの長所は単一カチオン伝導であり;これらは所謂分離系に属しており、イオン伝導緩和の態様が構造的緩和の態様と分離されている。
【0062】
無機のガラス質液体と例えば有機ポリマーとを、構造と伝導に関する緩和時間の温度依存性の観点で比較すると、前者が分離特性を示しておりガラス質状態でのより高い単一イオン伝導を可能としている(図6)。単一イオン伝導はより少ない副反応に関連づけられるのであり、相当により広い電気化学窓を有しておりこれは10Vにさえ達しうる。
【0063】
バンド構造や状態密度(DOS、Density of States)等の電子的特性も、GGA汎関数及びHSE06汎関数を用いたDFTによって計算された。図7aでは、GGAを用いた電子的バンド構造計算が示されており、また、対応する4.74eVのバンドギャップも示されている。図7bはHSE06計算を示しており、それに対応するバンドギャップEたる6.44eVの値も示されており、これは該結晶性材料の電気化学的安定性の範囲が広いということを示している。(一般的に予想されるようにHSE06ハイブリッド汎関数で計算されたバンドギャップのほうがGGA汎関数で計算されたそれよりも実験に近い結果を出していると思われる。図7cは4つの実験に対応するボルタンメトリグラフを示しており、該図においては、LiClO又はLi3−2*0.005Ba0.005ClOに関しての有意な酸化が130°Cでは8Vまで検知されていないことがわかるのであり、これはLi電池の正負電極ペア電圧窓を全て網羅する。Hebb-Wagner(H−W)法を用いてこれらのボルタンメトリサイクルから電気的伝導率を導出している。一定条件下での分極測定においては、Cu等のイオン遮断電極を有するLi/LiClO/Cuセルが対象とされ、∂I/∂V=−Aσe/dであり、ここで、Iは電流であり、Vは印加電圧であり(図7cのE)、Aは電解質の断面積であり(j=I/A)、dは電解質の厚さであり、σeは電子伝導率である。導関数∂I/∂Vは、ブロッキング電極の隣の端部の近くの電解質のde電子伝導率を与える。
【0064】
130°CのLiClOに関しては1.4〜2.5V区間については、σ=9.2×10−9Scm−1であり、2.55〜2.82V区間については、σ=1.18×10−7Scm−1である。130°CのLi3−2*0.005Ba0.005ClOに関しては、第1サイクルについて4.1〜5.97V区間についてはσ=6.77×10−8Scm−1である。第2サイクルについて2.07〜5.37V区間についてはσ=1.05×10−8Scm−1である。後者は1に近い輸率t=σ/(σ+σ)をもたらすのであり、これは良質な固体電解質にとって必要な値であり、σはイオン伝導率である。
【0065】
実験的な研究及びDFT分析からは、液体/固体様転移に関してはドーピング原子のイオン半径が重要な役割を果たすということがわかったのであり、具体的にはドーピング原子のイオン半径が大きい程にガラス転移温度が低くなる(図8参照)。この効果は、不純物が結晶構造にもたらす秩序低下に起因しており、エンタルピーとの関連が特にそうである。したがって、イオン半径が大きいものでドープされたガラス質サンプルでは、例えば25°C以下等の比較的低温でも極めて高いイオン伝導率が達成できる。
【0066】
図9は、非ドープ及びドープ電解質についての、固体様のサンプル及び過冷却液体のサンプルに関してのイオン伝導率を示す。図9aでは、ガラス転移が観測されるだけではなく、加熱とそれに続く冷却によってもたらされたイオン伝導ヒステリシスも見受けられる。
【0067】
エルゴード性崩壊転移の直前にあるピークも見受けられる。図9a、9bの非アレニウス型挙動内ではイオン伝導率分散が見受けられるのであり、これはおそらく拡散性が粘性からデカップルされることによって生じている。T以上及び未満でイオン伝導率σが測定できる材料に関しては、2つのドメインでσTの項に関して外挿されるデータは、温度Tが無限大に近づくにつれて同一の値を示すようになるはずである。この結論は現在の研究で確認されており、図10でそれが示されている。
【0068】
LiClOは、T未満では固体様ガラスとしての振る舞いを示し(アレニウス則に従う)、Tを超過すると過冷却液体になり非アレニウス的挙動を示す。同様の挙動はドープ材料に関しても見受けられるが、この挙動は材料に関しての履歴にも依存する。(図9bのLi3−2*0.005Ba0.005ClOの第2及び第4サイクルを比較するとこれがわかる。)また、ガラスを得るためにはドーピングは必須ではないが、それをより低い温度で達成するには望ましい。
【0069】
第3サイクル後に緩やかに冷却したLi3−2*0.005Ba0.005ClOのサンプルを、加熱中にEIS測定に付すると、25°Cで異常に高いイオン伝導率が見受けられるのであり、これは想定内であり、これは図9bに(+記号で)示されている。後者のサンプルの第4サイクル中の疑似アレニウス曲線が、図11に示されている。少なくともTより上で線形挙動は期待されていないが、35°Cから74°Cの温度域では0.06eVという低めな活性化エネルギーが観測される。ガラス転移は図9b(×記号)及び図11で見られるのであり、以前のサイクルよりは大幅に滑らかになっている。これは過冷却液体と固体様の材料がより高い類似性を持っていることをおそらく示唆しており、これはガラスの力学が、他の要素もあるが、冷却レートに強く依存しているということを強調している。
【0070】
しかし、リチウム電池用途に関して述べれば、ガラス質相たるLi3−2*xHalOは、図9に示してあるようにより高いイオン伝導率をもたらし、図7に示してあるようにそれらの材料と比較してより優秀な化学的安定性をもたらす。さらに、TiやGeを含有する材料とは異なり、Li3−2*xHalOはリチウム−メタルと反応せず、電気化学的安定性をより広く提供する。
【0071】
さらに、空気に含有されるもののうち、高度な伝導率をもたらすガラスを合成した後に限れば、回避すべき要素は水蒸気だけであるはずであり、このことにより、我々の電解質は、リチウム−メタルアノードを伴うリチウム−空気電池に使うための卓越した候補となる。
【0072】
この効果はBa2+でドープすることによってさらに向上する。なぜならば、この場合ドーピングイオンのイオン半径がより大きくなり、これは格子により高い異方性をもたらし、これがより高いイオン伝導率に結びつきやすいと思われるからである。しかし、この向上効果は、Li3−2*0.005Ba0.005Cl0.50.5Oでは格段に発生しにくいとされる、ドーピングイオンの近傍でのホッピングイオン捕獲等の他のメカニズムによって制限される。なぜならば、Iが立方体の中心に存在することによって格子が膨張するからであり、これはLiCl0.5Br0.5Oで発生すると説明されている。図13は、Li3−2xMgClO及びLi3−2xCaClOについての最適な組成を示す。
【0073】
対称的なLi/Li3−2*0.005Ca0.005ClO/Liセルを構成して、サイクラビリティ及び金属性のリチウムとLi3−2*0.005Ca0.005ClOとの長期適合性を実証した。図14a、bは室温に近い44°Cでサイクルされたセルの電圧プロファイルを示す。この温度では、セルは、電流密度0.1mAcm−2で46.0mVの電圧を示した。対称セルから導かれた直流(dc)伝導率は図14a、bに示されておりクロノポテンショメトリによって取得されておりその値は0.27mScm−1であり、これはEIS測定で得られた値から外挿した交流(ac)伝導率の0.85mScm−1に比較的近い。リチウム電極と固体電解質との間での小さな界面抵抗が観測されており、これはLi3−2*0.005Ca0.005ClOが金属性のリチウムと完全に適合していることをさらに根拠づけている。図14a、bで示したようにセルは44°Cで卓越したサイクラビリティを示し、460時間以上の経過において抵抗増加の兆候を見せず、他の様々な電解質よりも格段に安定していることを示した。これらの結果は、該ガラスが電子製品のLi電池に使用できることを立証している。
【0074】
さらに、図14aに示すように、イオン伝導率は220時間を超過するまで上昇し、これは、たとえ44°Cであったとしても電気化学的サイクリングによってサンプルが部分的に非晶質になることを示している。
【0075】
固体電解質たるLiClOの構造は、豊富なLiを伴うのであり(可動電荷キャリアが高濃度で存在する)、有害でない物質を用いているのであり、比較的に低い温度(240°Cから310°C)での湿式ケミストリによって容易に処理されるのであり、これらの性質は安価で低環境負荷な製造の観点からの別の積極的な採用理由となる。サンプルは、セルセットアップ内の気密なAuウエーハで250°Cまでの温度を伴ってアニールされた。サンプルが、部分的にガラス質となり、かつ、高度な伝導性を得るためには、ほとんどの場合1回のサイクルで済んだ。図6からわかるように、そして図2でも記載されているように、加熱と冷却とがされるとガラス質の質感を伴う表面及び構造が目視可能となる。溶融すると、サンプルは透明になり得る。
【0076】
生成品の形成に際しては、前駆体水酸化物が重要な役割を果たしているものと思われるのであり、これらは反応する化合物の粉体間の接触を支援する。これらの水酸化物は逆ペロブスカイト構造を有しており、ほとんどは一般式Li3−n(OH)Halに従っている。これらのイオン伝導率は、Li3−2*xHalO系ガラス質電解質のそれよりも格段に低い。実際、反復して形成された水酸化物はLi(OH)Cl及び/又はLi(OH)Clであるが、第1サイクルの後にこれらはLi3−2*xHalOに変換されるのであり、このことは図3に示すDSC測定から推知さる得る。
【0077】
図3で示されるように、DSC測定によるLi3−2*0.005Mg0.005ClOのガラス転移は、Tがおよそ136°Cの際に生じるように思われるのであり、これはイオン伝導率に関する結果と整合している。Li3−2*0.005Mg0.005ClOの溶融は、図3の対応する吸熱性ピークが示すようにT=269°Cにて発生する。ガラス転移Tは、経験則的な関係によって、融点Tとリンクしている、T〜(2/3)T。我々は、DSCではT/T〜0.75を得たのであり、伝導率測定ではT/T〜0.71を得たのであり、これらは経験則的な係数たる0.67に対しての良好な近似値だといえる。
【0078】
各状態のフォノン密度は、DFTを用いて計算してIINSスペクトルと比較した。実験を通じて、ホッピングと拡散に関しての格子の役割は、電極の温度、電圧、及び印加周波数についての関数として表現された。図15にあるように、印加された周波数に関しては、振動モードのほとんどは一定の強度を維持している。この効果は結晶性の挙動におそらく関連づけられる。なぜならば、実験条件はガラス形成に有利ではなかったからである。
【0079】
波数320〜380cm−1(〜1013Hz)については、強度は印加周波数によって異なるのであり、f=100Hzの場合により高く、f=104Hzの場合により低い。
【0080】
フォノンに関連づけられている固有ベクトルが示唆するように、これがジャンプ周波数(〜1013Hz)である可能性がもっとも高い。つまり、より高い周波数で既により多くのイオンがジャンプしていることが示唆される。
【0081】
LiClO−結晶性の密度が2.07gcm−3との値まで低下したものであることを指摘することは大事である(Li3−2*0.005Ca0.005ClO−結晶性は2.09gcm−3であり、Li3−2*0.005Ba0.005ClO−結晶性は2.28gcm−3である)。200°Cでは、LiClOの密度は1.96gcm−3である。リチウムイオン電池内の液体電解質は、エチレンカーボネート(1.3gcm−3)や炭酸ジメチル(1.07gcm−3)等の有機溶媒に入ったLiPF(1.50gcm−3)やLiClO(2.42gcm−3)等のリチウム塩からなる。
【0082】
液体を同容積の固体電解質で代替しただけではセルは軽くなるわけではないが、たとえ水分を通常通り排斥する必要があっても、固体電解質の場合は単なる固体電解質の薄膜が必要とされるだけであり、セパレータは不要であり、また高機能なパッケージングも不要であるため、結果としてより軽量化した電池がもたらされる。
【0083】
今回の結果は、新規なLi3−2xHalOガラス質電解質又はNa3−2xHalOガラス質電解質は(ここで、MはCa2+ Sr2+,Mg2+又はBa2+等の原子価のより高いカチオンであり、HalはCl等のハロゲン化合物かF,Cl,Br,I等のハロゲン化合物イオンの混合物である。)、極めて高いイオン伝導率を有していることを示しており、このイオン伝導率は他のいかなる超イオン伝導体の25°Cでのリチウムイオン伝導率よりも十分に高いものである(25mScm−1)。
【0084】
逆ペロブスカイト結晶からガラスが形成された初の例である。
【0085】
また、この新規な電解質は、Li−メタルとの関係で化学的に極めて安定しており(260サイクル以上)、家電製品に使用可能であることの証左がここに求められ、該電解質は、軽量であり、良質な絶縁体であり、不燃性であり、また、汚染物質を含有しない。さらに、この新規な電解質は、簡単に合成可能であり、熱的に安定しており、少なくとも8Vまでは電気化学的に安定している。したがって、高パワー及び高エネルギー密度を実現する電池を必要とする用途、特にハイブリッド車や純粋な電気自動車等、に対して該電解質は有望である。
【0086】
明らかなことではあるが、本願発明は本願明細書にて説明した実施形態に何ら限定されるものではなく、当業者であれば、添付の特許請求の範囲にて規定される事柄を参考にして各場面毎の要求を考慮して、本願発明についての様々な変更例や等価物を用いた技術的事項の置換を予見することができる。
【0087】
上述した実施形態は互いに組み合わせることができる。添付の特許請求の範囲は本願発明の好適例をさらに規定する。
日付:2015年2月26日。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14a
図14b
図15