【実施例】
【0150】
[実施例1:出生後の膵島は酸化的特徴を獲得した。]
ベータ細胞は出生後に機能的に成熟することが知られており、それには、グルコースに応答して確実にインスリンを分泌する能力の獲得が含まれる。2週齢新生仔マウスから単離された膵島は、未成熟表現形に合致して、グルコース負荷に応答してインスリンを分泌することができなかった(
図1A)。グルコース刺激によるインスリン分泌(GSIS)のために必要な重要経路を同定するために、出生後成熟のあいだ、単離膵島のトランスクリプトームを比較した。ベータ細胞の最終分化は出生後には実質的に完了しているということ、および、成体β細胞は幹細胞分化ではなく自己複製により形成されるという事実と合致して(ENREF_13)(Dor et al., 2004, Adult pancreatic beta-cells are formed by self-duplication rather than stem-cell differentiation. Nature 429, 41-46)、げっ歯類およびヒトにおける膵臓内分泌の発生を制御することが知られる遺伝子の発現は、出生後にはほぼ変化していなかった(
図2A、表2、Conrad et al., 2014, Trends in endocrinology and metabolism: TEM, 25(8): 407-414)。
【0151】
成熟に伴って、Pdx1、MafA、およびNkx6.1の上昇、ならびにMafB発現の低下が観察されたが(
図2A)、これはこれらの遺伝子が成体ベータ細胞機能のために必要であるということ(Conrad et al., 2014, Trends in endocrinology and metabolism: TEM, 25(8): 407-414)と合致している。トランスクリプトームの機能的分析により、膵島成熟の際に細胞増殖に関わる遺伝子(ベータ細胞増殖の既知の正の調節因子であるPdgfrα、Pdgfrβ、Pdgfβ、およびFgfr1を含む)は下方調節されたことが明らかになり(
図1B、表1、ならびに
図2Bおよび2C)、これは成体膵島におけるクローン性ベータ細胞増殖の減少が観察されたこと(Chen et al., 2011, Nature 478, 349-355; Hart et al., 2000, Nature 408, 864-868; Teta et al., 2005, Diabetes 54, 2557-2567; Dor et al., 2004, Nature 429, 41-46)と一致していた。対照的に、上方調節された遺伝子は、代謝経路、特にグルコース代謝およびATP生合成経路に関連するものであり、これらには電子伝達系(ETC:electron transport chain)、酸化的リン酸化(OxPhos:Oxidative Phosphorylation)、およびイオンチャンネル関連エキソサイトーシスの経路が含まれていた。特定の理論に拘束されるわけではないが、成体ベータ細胞の高いミトコンドリア活性を踏まえると、GSISのためには代謝系遺伝子の誘導が重要なのかもしれない。この仮説と合致して、GSISを制御することが知られるミトコンドリア遺伝子(リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(Mdh1)、ピルビン酸カルボキシラーゼ(Pcx)、ならびに、Cox6a2、Ndufa4およびNdufs2を含むOxPhosの構成因子を含む)(Xu et al., 2008, Diabetologia 51, 2022-2030; Zhao et al., 1998, FEBS letters 430, 213-216)はより高度に発現されていた一方、GSISの抑制因子である乳酸デヒドロゲナーゼ(Ldha)は、新生仔ベータ細胞と比較して成体で発現か低下していた(
図1Cおよび1F、表1)。特定の理論に拘束されるわけではないが、これらの結果は、出生後機能成熟の際に膵島ベータ細胞において重要な代謝的変遷が起こることを示している。特筆すべきことに、既知のミトコンドリア遺伝子制御因子であるERRガンマの発現は、膵島成熟のあいだ進行的に誘発されていた(
図1Cおよび1D)。ERRガンマ発現のこの誘導は、マウスインスリン-GFP(MIP-GFP)マウスから単離されたベータ細胞においても同様に観察され、そこでは、ERRガンマ発現は新生仔ベータ細胞と比較して成体で約5倍高かった(
図3Aおよび3B)。ERRガンマは外分泌細胞よりは内分泌膵島において優勢的に発現されること、および、ERRガンマ-LacZノックイン(knock-in)マウスにおいて膵島が染色陽性であること(Alaynick et al., 2007, Cell metabolism 6, 13-24)と組み合わせると、これらの発見は、ERRガンマが、GSISのために必要とされる内分泌細胞の代謝的変遷を編成するうえで特定の役割を果たしていることを示している(
図1E)。
【0152】
[実施例2:ERRガンマはグルコース刺激によるインスリン分泌のために必要とされた。]
膵臓ベータ細胞の機能的成熟におけるERRガンマの役割を調査するために、ERRガンマ
lox/loxマウスをラットインスリン2プロモーター(RIP)-Creマウスと交配することにより、ベータ細胞特異的ERRガンマノックアウト(ベータERRガンマKO)マウスを作製した。βERRガンマKOマウスは、メンデルの法則で予測される頻度で出生し、正常な体重と平均寿命とを示した(
図4Aおよび4B)。野生型(wild-type)ERRガンマ
lox/lox膵島と比べてβERRガンマKOでは、RIP-Creリコンビナーゼが、視床下部ERRガンマ発現に有意な影響を与えることなくERRガンマ発現を選択的に80%減少させたが(
図4Aおよび4B)、これは最近出された同様の報告と一致している(Tang et al., 2003, Cell metabolism 18, 883-895)。βERRガンマKOマウスの自由摂食血中グルコースレベルの監視により、雌マウスにおいて8週齢までに消える一時的な上昇が見出された(
図4Cおよび4D)。しかしながら、8週齢では、ERRγ
lox/lox(WT)およびRIP-Cre(WT(RIP-Cre))同齢集団と比べてβERRγKOマウスは雄も雌もグルコース不耐容となった(グルコース負荷試験(GTT:グルコース負荷試験)により決定)(
図5Aおよび6A)。インスリン感受性において著しい差は見られなかったが、βERRγKOマウスは、グルコース負荷に応答してインスリン分泌を増加させることができなかった(
図5C、5D、ならびに
図6Cおよび6D)。注目すべきことに、このβERRγKO表現型は代謝的ストレスによって増大された;4週齢から4週間にわたって高脂肪・高スクロース食餌で給餌されたβERRγKOマウスは、インスリン感受性の有意な変化を伴うことなく、より顕著なグルコース不耐性およびインスリン分泌異常を示した(
図5B、5E、ならびに
図6Bおよび6E)。
【0153】
βERRγKOマウスの、グルコース負荷に応答してインスリンを分泌する能力の欠如は、誘導性ベータ細胞特異的欠失(βERRγKO ER+Tam)および膵臓特異的ERRγKO(PERRγKO)の両方のマウスモデルにおいて表現型模写された。タモキシフェン(tamoxifen)で処理(7日間の連続的i.p.注射)されたβERRγKO ERマウスは、膵島ERRガンマ発現の75%減少を示し、かつ、発生学的βERRγKOマウスにおいて観察されたのと同様のグルコース不耐性を示した(
図6Fおよび6G)。さらに、ERRγ
lox/loxマウスをPDX1-Creマウスと交配することにより作製された、膵臓全体でERRガンマを欠くマウス(PERRγKOマウス)は、WTマウスと比べて耐糖能障害を示した(
図7A〜7D)。特定の理論に束縛されるわけではないが、まとめるとこれらの結果は、血中グルコースレベルの上昇の負荷を受けた際の適切なGSIS機能および全身のグルコース恒常性のために膵島ERRガンマ発現が必須であることを示している。
【0154】
形態学的には、通常固形飼料食餌で維持されたβERRγKOマウスから単離された膵島は、ヘマトキシリンとエオシン(H&E)の染色および免疫組織学的解析(
図8A)に基づいて対照膵島から区別できなかった。しかしながら、高脂肪食餌(HFD)でストレスを受けた場合には、対照膵島と比較してβERRγKO膵島はより大きく、インスリン含量および膵島サイズで測定されるベータ細胞質量の著しい増加を伴っていた(
図5F、5G、および8A〜8F)。
【0155】
特定の理論に拘束されるわけではないが、上記の観察は、βERRγKOマウスにおけるGSISの欠損を示している。この仮説を試験するために、エクスビボにおいて、GSISに対する過渡的ERRガンマ欠失の影響を調査した。ERRγ
lox/loxにおけるアデノウイルス誘導性Cre-組換え(Ad-ERRγKO)膵島は、対照アデノウイルスEGFP-ERRγ
lox/lox(Ad-対照)膵島と比較して、インスリン2(Ins2)発現に影響することなくERRガンマ発現を約75%減少させた(
図5H)。注目すべきことに、グルコース負荷に応答してインスリンを分泌するAd-ERRγKO膵島の能力は、エクスビボでほとんど完全に抑止された(
図5I)。さらに、全膵臓におけるERRγの欠損(PERRγKOマウス)は、栄養分に応答した膵島インスリン分泌を低減させた(
図5K)。ERRガンマは心臓(Alaynick et al., 2007, Cell metabolism 6, 13-24; Dufour et al., 2007, Cell metabolism 5, 345-356)および骨格筋(Zhao et al., 1998, FEBS letters 430, 213-216)におけるミトコンドリアの酸化的リン酸化と代謝を制御することから、ERRガンマが膵島におけるミトコンドリア機能にとって必要であるかどうかを調べた。Ad-対照膵島は、20mMグルコースで刺激された場合に、酸素消費速度(OCR)が2倍上昇し強く応答した。対照的に、Ad-ERRγKO膵島は、グルコース負荷に応答してOCRを上昇させることができなかった(
図5J)。これらの結果と合致して、ラットのクローン性ベータ細胞株INS-1におけるERRガンマのノックダウンは、同様に、グルコース負荷に応答したOCR、細胞ATP産生、およびGSIS機能を低下させた(
図9A〜9D)。特定の理論に拘束されるわけではないが、これらの結果は、ベータ細胞エネルギー代謝のERRガンマ制御がGSISのために必要であることを示している。
【0156】
[実施例3:ERRガンマはベータ細胞の代謝成熟のために必要であった。]
ミトコンドリア機能と形態は密接に相関することから(Tang et al., 2013, Cell metabolism 18, 883-895; Narkar et al., Cell metabolism 13, 283-293)、βERRγKOベータ細胞のミトコンドリアにおいて構造的変化が検出可能かどうかを調べた。電子顕微鏡により、インスリン顆粒およびプロインスリン顆粒、ならびに全般的ミトコンドリア数は、ERRガンマ欠失により影響されなかったことが明らかになった(
図10Aおよび10B)。しかしながら、クリステ構造の崩壊を伴うミトコンドリア膨張が、ERRガンマ欠損ベータ細胞において見られ、これは、機能的に欠陥があるミトコンドリアの特徴である、ミトコンドリアの長さ、幅、および体積の著しい増加を伴っていた(
図10A〜10C)。
【0157】
ベータ細胞機能におけるERRガンマの分子的役割を理解するために、ERRガンマ欠失の転写的帰結を決定した。発生学的に欠失を起こさせたβERRガンマKO膵島において、RNA-Seqにより、4189個の遺伝子の発現が改変され、ほぼ等しい数の遺伝子が下方調節および上方調節されていたこと(それぞれ2008個および2181個の遺伝子;偽陽性率[FDR:false discovery rate]< 0.01、変化倍率[FC:fold change]> 1.5)が明らかになった。過渡的欠失Ad-ERRガンマKO膵島におけるマイクロアレイ分析による同様の比較は、発現の変化を有する2205個の遺伝子を同定し、ここでも、同様の数の遺伝子が下方調節および上方調節されていた(それぞれ1207個および998個の遺伝子;偽陽性率[FDR]< 0.01、変化倍率[FC]> 1.25)。GSISの欠乏はβERRγKO膵島およびAd-ERRγKO膵島の両方で観察されたことから、共通の差次的発現遺伝子(232個の下方調節遺伝子、および239個の上方調節遺伝子)に対してジーンオントロジー(GO:Gene Ontology)分析を行い、ERRガンマ欠失により影響を受ける包括的細胞プロセスを同定した(
図11および表3)。糖尿病表現型と合致して、ERRガンマにより制御される遺伝子は、ベータ細胞機能にとって重要なプロセス(ATP生合成、カチオン輸送、酸化的リン酸化、電子伝達、および分泌を含む)と関連していた(
図10D)。さらに、プロモーター領域のモチーフ分析では、これら差次的発現遺伝子の半分超でERR応答エレメント(ERRE)が同定された(下方調節遺伝子の62.1%、および上方調節遺伝子の64.6%)。特定の理論に拘束されるわけではないが、これは、ERRガンマによる直接的制御を示唆している(
図12A)。この概念を裏付けることに、マウスインスリノーマ細胞株MIN-6において行った従来型ChIPアッセイでは、ERRガンマがAtp2a2およびMdh1のプロモーター領域に直接結合することが確認された(
図12B)。βERRγKO膵島およびPERRγKO膵島の両方におけるqPCR分析により、代謝経路に関係する選ばれた遺伝子(Mdh1、Cox6a2、Atp2a2、Ndufs2、およびAtp6v0a2)の発現変化が確認された(表4、ならびに、それぞれ
図10Eの左パネルおよび右パネル)。特定の理論に拘束されるわけではないが、これらの結果は、ERRガンマが、膵島ベータ細胞におけるATP生合成および代謝遺伝子の包括的制御因子であることを示している。
【0158】
ベータ細胞の機能的成熟におけるERRガンマの役割をさらに明確化するために、膵島における出生後転写変化を、ERRガンマ欠失により誘導されたものと比較した。注目すべきことに、ERRガンマの消失は、出生後ベータ細胞成熟に関連する多数の発生学的変化を抑止した(
図10H)。具体的には、成熟の際に通常ならば上方調節される74の遺伝子、および通常ならば下方調節される35の遺伝子の発現のその変化が、βERRガンマKO膵島では失われた(
図10F)。これら調節不全の遺伝子には、エネルギー生産(ATP生合成、酸化的リン酸化、およびETC)および分泌/エキソサイトーシス経路に関与する遺伝子が含まれていた(
図10G)。特定の理論に拘束されるわけではないが、これらの結果を合わせると、ERRガンマは機能的に成熟したベータ細胞におけるミトコンドリア機能を維持するために重要なだけでなく、これらの細胞の出生後成熟を促進させる転写的変化の多くを直接統制することが示されている。
【0159】
[実施例4:ERRガンマは合成ベータ細胞の成熟を促進させる。]
移植可能なベータ細胞を多能性幹細胞から生成することは、幹細胞治療学の主要なゴールである。しかしながら、現在のiPSC由来ベータ様細胞は、グルコース負荷に応答してインスリンを分泌する能力を欠く点で胎生細胞に類似している(Hackenbrock et al., 1966, The Journal of Cell Biology 30, 269-297; Anello et al., 2005, Diabetologia 48, 282-289; Hrvatin et al., 2014, Proc. Natl. Acad. Sci. 111(8): 3038-3043; D’Amour et al., 2006, Nature Biotechnology 24, 1392-1401; Kroon et al., 2008, Nature Biotechnology 26, 443-452; Schulz et al., 2012, PloS one 7, e37004; Xie et al., 2012, Cell Stem Cell 12, 224-237; Sneddon et al., 2012, Nature 491, 765-768)。ベータ細胞成熟の際の増強される酸化的代謝におけるERRガンマの提唱された制御的役割に基づいて、ERRガンマの過剰発現が、ヒトiPSC由来ベータ様細胞が代謝の観点から成熟したベータ細胞に成熟することを促進させ得るか否かを調査した。この問題に取り組むために、ヒトインスリンプロモーター駆動GFPレポーターをスクリーニングおよび単離のために利用して、ヒトiPSCからインスリン陽性ベータ様細胞を産生するための分化プロトコールを最適化した(Pagliuca et al., 2014, Development 140, 2472-2483; Hrvatin et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America; 111(8): 3038-3043.)。最適化されたプロトコールでは、ヒト内皮細胞株HUVECに由来するiPSCから、分化開始後18〜21日で、インスリン陽性細胞が生成された(
図13A〜13Cおよび
図14)。iPSC分化のあいだの発現プロファイリングにより、ベータ様細胞の生成が確認された。具体的には、多能性マーカーNanogの発現が分化開始に際して失われた一方、分化の開始後18〜21日に、ベータ細胞終末分化マーカーであるインスリンが現れた。胚体内胚葉マーカーSOX17、膵臓前駆体マーカーHNF1β、および内分泌前駆体マーカーSOX9は、第7日目、15日目、および18日目頃にそれぞれ一時的に上昇した(
図14)。さらに、PDX1、MAFA、PAX6、NEUROD1、GCK、CHGA、およびVAMP2を含む追加のベータ細胞マーカーの発現は、第21日において強く誘導された(
図14)。免疫組織化学解析により、この最適化された21日間分化プロトコールが、ベータ細胞マーカーPDX1、c-ペプチド、およびプロホルモンカルボキシラーゼ1/3(PC1/3)を発現するベータ様細胞を生じたことが確認された(
図5A)。この最適化分化プロトコールは、インスリン陽性、グルカゴン陰性β様細胞(本明細書においてiβL細胞と定義される)を再現性をもって産生し、電子顕微鏡によりインスリン顆粒の存在が明らかにされた(
図13Hおよび
図15B〜15E)。さらに、これらiPSC由来ベータ様細胞は、グルコース負荷に応答してc-ペプチドを分泌することはできなかった一方、KClによる直接的細胞脱分極媒介性インスリン分泌には応答性であった(
図15F)。このことは、インスリン陽性iβL細胞におけるNkx6-1およびMafAの発現を確認した(
図15H)。これらの結果は、ヒトベータ様細胞の生成を確証した。特定の理論に拘束されるわけではないが、これは、ミトコンドリア機能が、β様細胞におけるGSIS機能欠陥の1つの理由かもしれないことを示していた。
【0160】
内因性ベータ細胞成熟におけるERRガンマの役割を踏まえ、ERRガンマの過剰発現がiPSC由来ベータ様細胞におけるGSIS機能を救援できるか否かを調べた。この問題に取り組むため、iPSC由来ベータ様細胞(第22〜25日)を、アデノウイルスERRガンマ(Ad-ERRγ)または対照(Ad-GFP)ベクターで感染させた。遺伝子発現分析および機能的分析を第25〜30日に行った。培養培地にはインスリンが広く使用されていることを考慮して、ベータ様細胞由来のインスリンの代用尺度としてc-ペプチドのレベルを使用した。Ad-ERRガンマ感染は、iPSC由来ベータ様細胞においてERRガンマの発現を回復させることに成功したが、その細胞内c-ペプチド含量には有意に影響しなかったことが見出された(
図13D左パネル、および
図15G)。心強いことに、Ad-ERRガンマ感染は、培養培地中のc-ペプチド濃度を有意に上昇させた(
図13D右パネル)。次に、Ad-ERRγ感染iPSC由来ベータ様細胞のGSIS能力を調べた。対照感染iPSC由来ベータ様細胞(iβL
GFP細胞として定義される)は、グルコース負荷に応答してc-ペプチドを分泌することができなかった。特筆すべきことに、Ad-ERRγ感染iPSC由来ベータ様細胞(iβeta細胞)は、ヒト単離膵島について見られたのと同様に、グルコース負荷に応答して増強されたc-ペプチド分泌を示した(
図13E)。さらに、トランスクリプトーム分析は、iβeta細胞において前駆体代謝物の生成、酸化還元、電子伝達系(ETC)、酸化的リン酸化、およびミトコンドリア組織化に関連する遺伝子の増加、ならびに、細胞周期に関連する遺伝子の減少を同定し、これはベータ細胞系譜特異的遺伝子の発現における有意な増加は伴っていなかった(
図13F、13G、13J、13K、
図16、および表4)。注目すべきことに、ERRガンマ過剰発現はiβeta細胞においてクリステ構造だけでなくミトコンドリアの呼吸機能も改善させた(
図13Hおよび13I)。すなわち、これらの結果は、iPSCからのグルコース応答性合成ベータ細胞の生成を記述している。特定の理論に拘束されるわけではないが、これらの結果は、ERRガンマ制御によるミトコンドリア代謝経路がGSISのために必要とされるという仮説を支持している(
図18E)。
【0161】
糖尿病の状況でグルコース恒常性を回復させることができる移植可能β細胞を産生する能力は、究極的な治療的目標である。iβeta細胞がインビボで機能するか否かを決定するために、ストレプトゾシン(STZ)誘導性糖尿病NOD-SCIDマウスモデルを利用した。STZで処理(180 mg/kg i.p.注射)したNOD-SCIDマウスの血中グルコースレベルを毎日監視して高血糖を確認した。STZ注射の12日後、Ad-GFP (iβL
GFP細胞)またはAd-ERRγ(iβeta細胞)で感染させた1000万のiPSC由来ベータ様細胞を腎臓被膜内に移植した(
図17)。ヒト膵島およびマウス膵島も陽性対照として同様に移植した。特筆すべきことに、iβeta細胞投与を受けたマウスの血中グルコースレベルは、移植から数日以内に正常化し始め、これは機能的なヒトまたはマウスの膵島の投与を受けたものと同様であった(
図18Aおよび19A)。さらに、移植されたiβeta細胞はレシピエントマウスにおいて長期的に(chronically)血中グルコースレベルを制御し(56日間、
図18B、19B、および
図20)、長期的治療の後の腎臓においてインスリン陽性細胞が検出された(
図21)。重要なことに、長期的治療されたiβeta細胞レシピエントマウスのほぼ半数において、グルコース負荷試験で実証されるグルコース応答性表現型に伴って、血中グルコースレベルが非糖尿病レベル(<250mg/dL)にまで回復し、これはヒト膵島移植を受けたマウスと同様であった(
図18C)。さらに、正常化された血中グルコースレベルを有する長期治療されたiβeta細胞レシピエントマウスにおいて、代謝の概日性制御における顕著な改善が観察され(グルコース利用の改善ということと合致する、夜間呼吸交換比(RER)の上昇)、これは夜間活動の増加を伴っていた(
図18D)。これらの結果は、遺伝子工学的ERRガンマ発現を利用してベータ様細胞におけるGSIS機能を強められ得ることを実証している。
【0162】
本研究は、エストロゲン関連受容体ガンマ(ERRγ)発現が新生児と成体のベータ細胞を区別させ、ERRガンマがグルコース応答性ベータ細胞のために必要であることを示している。ERRガンマは、酸化的代謝およびミトコンドリア生合成の既知活性因子である。特定の理論に拘束されるわけではないが、グルコース応答性を達成し維持するために高エネルギー必要量が必要とされるのかもしれない。これまでiPSCを機能的ベータ細胞に分化させることは可能ではなかったが、本明細書に記述される結果は、ERRガンマ遺伝子ネットワークの活性化がこの代謝的障壁を克服する可能性を有することを示している。事実、ゲノム誘導による代謝成熟は、インビトロでiPSC由来胎性様細胞をグルコース応答性細胞に形質転換するうえで重要なステップであった。おそらくより重要なことに、最適化されたスケールアップおよび精製により、これらの転換された細胞が移植を介して1型糖尿病マウスを効果的に救出することが示されている。重要なことに、これらの実験は、1型および2型糖尿病の治療における療法として幹細胞移植が有用であるということのインビボでの概念実証を提供している。
【0163】
本明細書では、酸化的ミトコンドリア代謝の既知制御因子であるERRガンマが、ベータ細胞が機能的に成熟してグルコース応答性かつ移植可能なiPSC由来ベータ細胞(iβeta細胞)を産生するために必要とされるという根幹的発見を活用した。特筆すべきことに、iβeta細胞の移植は、重篤なSTZ誘導性1型糖尿病マウスモデルにおいてグルコース恒常性を回復させただけでなく、基質利用に関する概日代謝周期性も再確立させた。
【0164】
このことは重要である。なぜなら、グルコース管理の乏しさは、糖尿病性の網膜症、腎障害、および神経障害を含む長期的な糖尿病性帰結と関連付けられているからである。長時間作用性インスリン製剤およびプログラム可能送達ポンプは治療的有用性を提供するが、これらは膵臓β細胞のグルコース応答性を完全に再現することはできない。ヒト膵島移植はより優れたグルコース管理を提供するが、免疫抑制剤レジメンを必要とするし、移植される細胞の入手可能性およびインビボ生存性によって制限される。膵島移植を介してインスリン非依存性を達成することはできるが、同種移植患者の50%超および実質的に全ての自家移植患者は、5年の後にインスリン療法に戻る。どちらの状況においても、より大きな量の膵島を移植することで前記制約のいくつかが軽減され得る。従って、患者特異的iPSC由来β細胞が、これらの懸念の多くを解決し得、幹細胞補充療法の中心的ゴールの1つであると考えられる。
【0165】
ERRγはどのように作用するのだろうか?胎児発生は低酸素分圧および安定した母体グルコースの条件下で起こるため、膵臓を含むほとんどの生理的系は、出生の時点では、態勢は整っているが完全には機能的となっていない状態にある。出生後および成体の状況では、酸化的代謝が支配的となり、間欠的な摂食が、グルコースレベルの劇的変化に膵臓を晒す。最近、離乳が、グルコース刺激による酸化的リン酸化およびインスリン分泌の増強により特徴付けられるβ細胞の成熟ステップの引金となることが報告された(Pagliuca et al. 2014, Cell 159, 428-439)。本研究において開示されたトランスクリプトーム解析は、ベータ細胞におけるERRガンマ発現の上昇が、酸化的代謝遺伝子ネットワークを駆動させる鍵となっていたことを示している。さらに、iPSC由来ベータ様細胞におけるERRガンマ発現の低さが、それらの細胞がインスリンを分泌する能力を制限しているかもしれない。このことは、ERRガンマを発現するiPSC由来ベータ様細胞であるiβeta細胞は酸化的代謝プログラムを活性化させグルコース応答性インスリン産生を示したという観察と合致している。しかしながら、ベータ細胞の重要な特徴は、インビボおよびインビトロでグルコース負荷に応答して繰り返しインスリンを分泌する能力である。重要なことに、iβeta細胞の移植は、重篤なSTZ誘導性1型糖尿病マウスモデルにおいてグルコース恒常性を回復させただけでなく、基質利用に関する概日代謝周期性も再確立させた。
【0166】
ES細胞からの機能的ベータ細胞の生成や、インビトロ分化された膵臓前駆細胞のインビボ成熟といった近年の進歩に関わらず、ベータ細胞成熟の根底にある機序は理解が乏しいままである。動的なクロマチンリモデリングおよび交感神経支配刺激の関与が示されてはいるが、ERRガンマが転写プログラムを調整して酸化的代謝の上昇を調節するという発見は、ベータ細胞の機能的成熟についての機序的洞察を提供するものである(
図18E)。遺伝学的研究および疫学的研究は、糖尿病の発生におけるERRガンマの関与を示していたが(http://t1dbase.org/page/AtlasHome)、しかしその役割はこれまで理解されていなかった。注目すべきことに、グルコース応答性ベータ細胞の生成のために必要な代謝的成熟の促進におけるERRガンマの役割の理解は、患者自身の細胞からインスリン応答性ベータ細胞を発生させることを加速させる可能性を有する。本明細書において記述した結果は、iβeta細胞が、幹細胞に基づく療法のための新たな機会を表すことを示している。
【0167】
上記で記述した実験は、下記の方法を用いて行われた。
【0168】
[動物実験]
ベータ細胞特異的ERRガンマノックアウトマウス(βERRγKO)は、純粋なC57BL/6J遺伝学的バックグラウンドにあるERRγ
lox/loxマウスとRIP-Cre(B6N.Cg-Tg(Ins2-cre)25Mgn/J)マウスとを交配することにより産生した。タモキシフェン誘導可能ベータ細胞特異的ERRガンマノックアウトマウスは、ERRγ
lox/loxマウスとRIP-CreER(ストックTg (Ins2-cre/Esr1)1Dam/J)マウスとを交配することにより産生した。膵臓特異的ERRガンマノックアウトマウス(PERRγKO)は、ERRγ
lox/loxとPDX1-Cre(B6.FVB-Tg(PDX1-cre)6Tuv/J)とを交配することにより産生した。インスリンプロモーターGFP(MIP-GFP)マウス(Tg(Ins1-EGFP)1Hara)はジャクソンラボラトリーから購入した。ERRγ-LacZノックインマウスは以前に記述されている(Alaynick et al., 2007, Cell metabolism 6, 13-24)。グルコース負荷試験は、タモキシフェン誘導可能β細胞特異的ERRγノックアウトマウスの処置前(12週齢)および処置3週間後(16週齢)に行った。雄マウスにタモキシフェンを7日間毎日注射した(トウモロコシ油中2mg/kg、腹腔内)。
【0169】
動物は、特定病原体除去動物施設(SPF:specific pathogen-free animal facility)において、12時間明暗サイクルの下23℃の環境温度にて維持した。水および食料は自由に摂取させた。全ての動物実験は年齢および性別を一致させたマウスを用いた。動物が関わる全ての手順は、IACUCおよびソーク生物学研究所の動物資源部門(ARD:Animal Resources Department)により認可されたプロトコールに従って行われた。
【0170】
[腹腔内グルコース(IP-GTT)またはインスリン(IP-ITT)負荷試験]
IP-GTTは、一晩絶食させたマウスにおいて行った。2 g/kgのグルコースの腹腔内投与の前ならびに15、30、60、および120分後に、グルコースPILOTを使用して血中グルコース値を評価した。グルコースの腹腔内投与の前ならびに5、15、および30分後に、ラット/マウスインスリンELISAキット(ミリポア)を使用して血清インスリンレベルを評価した。IP-ITTアッセイは、6時間の絶食後のマウスにおいて0.75 U/ kgのインスリン(ヒューマリンR、イーライリリー)の注射により行った。
【0171】
[単離膵島の実験]
マウス膵島は、ラットについて以前記述されたようにして単離した(Sutton et al., 1986, Transplantation 42, 689-691)。手短に述べると、HBSSバッファー中に希釈した0.5 mg/mlコラゲナーゼP(ロシュ)を総胆管を通して注入し、灌流された膵臓をウォーターバス中で解剖しインキュベートした(37℃、21分間)。消化された外分泌細胞と無傷の膵島とを、ヒストパック1077(シグマ)を使用して遠心分離(900g、15分間)で分離し、無傷の膵島を手で取り出した。全てのヒト膵島は、認可されたプロトコールのもとIntegrated Islets Distribution Program(IIDP)により提供された。ヒト膵島に関する追加的情報を表5に提供する。
【0172】
[インスリン分泌アッセイ(マウスおよびヒトの一次膵島ならびにヒトiPSC由来細胞)]
無傷の膵島からのインスリン放出は、バッチインキュベーション法を使用して監視した。一晩培養した単離膵島(10%(v/v)ウシ胎仔血清および1%(v/v)抗菌・抗真菌剤(ギブコ)で補足されたRPMI-1640)を37℃にて30分間、前培養した(129.4 mM NaCl、3.7 mM KCl、2.7 mM CaCl
2、1.3 mM KH
2PO
4、1.3 mM MgSO
4、24.8 mM NaHCO
3(5% CO
2、95% O
2、pH7.4で平衡化)、10mM HEPES、および0.2%(v/v)BSA(V画分、シグマ)を含有する(KRBH)クレブスリンゲル炭酸水素バッファー(KRBB)と3 mMグルコース)。それから、インスリン分泌レベルを決定するために膵島を3 mMまたは20 mMのグルコースを伴うKRBHバッファー中にインキュベートした(500μl/10膵島)。30分後、遠心分離により膵島をペレットにして、ELISAによってインスリンレベルを決定した(マウスおよびヒトの膵島について、それぞれ、ラット/マウスインスリンELISAキット(ミリポア)およびヒトインスリンELISAキット(ミリポア))。ヒトiPSC由来細胞については、細胞(24ウェルのウェル当たり1x10
6細胞)を3mMグルコースKRBHバッファー(500μl/ウェル)中で前培養した。それから、インスリン分泌レベルの指標としてのc-ペプチド分泌レベルを決定するために、細胞を3 mMまたは20 mMのグルコースを伴うKRBHバッファー(200μl/ウェル)中にインキュベートした。30分後、遠心分離により膵島をペレットにして、ヒトc-ペプチドELISAキット(ミリポア)によりc-ペプチドレベルを決定した。
【0173】
[INS-1細胞培養、トランスフェクション、およびインスリン分泌アッセイ]
INS-1細胞は、10%(v/v)ウシ胎仔血清、1%(v/v)抗菌・抗真菌剤(ギブコ)、10 mM HEPES、2 mMグルタマックス、1 mMピルビン酸ナトリウム、および50μMβメルカプトエタノールで補足されたRPMI-1640(シグマアルドリッチ)(INS-1用RPMI培地)において、空気中5%のCO
2中で37℃にて培養した。INS-1細胞は、Plus試薬(インビトロジェン)を含有するLipofectamine2000でトランスフェクトした。INS-1細胞を、ERRガンマsiRNA(キアゲン)または陰性対照スクランブルsiRNA(キアゲン)で72時間トランスフェクトした。インスリン分泌は、前インキュベーションした細胞(一次膵島についてのインスリン分泌アッセイにおいて記述したように、3 mMグルコースを伴うKRBHにおいて37℃で30分間)において、30分間のグルコース負荷(3 mMまたは20 mMのグルコースを伴うKRBHバッファー)後にラット/マウスインスリンELISAキット(ミリポア)を用いて測定した。
【0174】
[定量的RT-PCR分析]
TRIzol試薬(インビトロジェン)およびRNeasyキット(キアゲン)を使用して全RNAを抽出した。逆転写は、SuperScript IIIファーストストランド合成システムキット(インビトロジェン)またはPrimeScript RT試薬キット(タカラ)を用いて行った。リアルタイム定量的RT-PCR(qPCR)はSYBRグリーン(バイオラッド)を用いて行った。PCR分析は、表6に記載したオリゴヌクレオチドプライマーを用いて行った。
【0175】
[クロマチン免疫沈降]
マウスインスリノーマ、MIN-6細胞からクロマチンを調製した。手短に述べると、MIN-6細胞を1%ホルムアルデヒドで10分間架橋し、その後125 mMのグリシンを加えた。クロマチンを酵素で剪断し(CHIP ITエクスプレスキット、アクティブモチーフ)、2μgの抗H3、対照マウスIgG、または抗ERRガンマ抗体で免疫沈降した。ChIP-qPCRプライマーは表6に記載されている。
【0176】
[電子顕微鏡]
膵臓試料を1 mm
2の切片に切り、2%パラホルムアルデヒドおよび2%グルタルアルデヒドを含む0.1 mMリン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4)中で4℃において36時間に渡り固定した。それからその組織片を洗浄し、段階的なアセトンを用いて脱水し、エポン・アラルダイト中に包埋した。ウルトラミクロトームを使用して超薄切片を調製した。切片化組織を1%トルイジンブルーホウ砂溶液で染色し、銅グリッド上に載せ、酢酸ウラニルで二重染色した後にJEM 100 CX-II電子顕微鏡で調べた。
【0177】
[組織学(H&E染色、免疫染色、およびLacZ染色)]
H&E染色はパシフィックパソロジー(サンディエゴ)によって行われた。免疫染色は、膵臓の凍結切片および4% PFA固定化細胞に対して、以下の抗体を使用したZEISS共焦点顕微鏡分析によって可視化した:インスリン(1/100、アブカムab7842)、c-ペプチド(1/100、アブカムab14182)、グルカゴン(1/100、アブカムab10988)、ソマトスタチン(1/100、アブカムab103790)、プロホルモンカルボキシラーゼ1/3(1/100、ミリポアAB10553)、Pdx-1(1/100、アブカムab47267)。核染色のためにDAPI含有マウンティング媒体(蛍光用VECTASHIELDマウンティング媒体)を使用した。ERRγノックインマウス(Alaynick et al., 2007, Cell metabolism 6, 13-24)からの全膵臓はパラホルムアルデヒドおよびグルタルアルデヒドで固定し、凍結切片をX-galにより染色した。
【0178】
[マイクロアレイ分析]
Trizol試薬(インビトロジェン)を使用して、Ad-GFPまたはAd-Creで感染された膵島から全RNAを抽出し、その品質をアジレント2100バイオアナライザーにより決定した。イルミナTotalPrep RNA増幅キット(アンビオン)を使用して、500 ngのRNAをcRNAに逆転写しビオチンUTP標識した。cRNAは、アジレントバイオアナライザー2100を用いて定量化し、標準的プロトコール(イルミナ)を用いてイルミナのマウスRefseq-8v2 Expression BeadChipにハイブリダイズさせた。画像データは、イルミナGenomeStudioを用いて非正規化サンプルプローブプロファイル(unnormalized Sample Probe Profiles)に変換した。データはGeneSpring GXソフトウェアにより分析した。手短に述べると、チップ当たりの正規化は75パーセンタイルに対して設定し、遺伝子当たりの正規化は中央値および特定のサンプルに対して設定した。不在として指定された遺伝子はデータセットから消去され、WTより発現差が2倍の遺伝子を選択した。主にDAVIDソフトウェアを使用して、GO、経路解析、およびクラスター解析による組合せ解析を行った(Huang et al., 2009, Nature protocols 4, 44-57; Huang et al., 2009, Nucleic acids research 37, 1-13)。マイクロアレイデータはNCBI遺伝子発現オムニバスに登録され、GEOシリーズアクセス番号GSE56080によりアクセス可能である。
【0179】
[RNA-Seqライブラリー作製]
RNA miniキット(キアゲン)を使用して、RNAlaterで処理された細胞ペレットから全RNAを単離し、室温で30分間 DNaseI(キアゲン)で処理した。配列決定用ライブラリーは、製造会社のプロトコールに従ってTruSeq RNAサンプル調製キットv2(イルミナ)を使用して100〜500ngの全RNAから調製した。手短に述べると、mRNAを精製し、断片化し、ファーストストランドおよびセカンドストランドcDNA合成に使用した後、3’末端をアデニル化した。サンプルを固有のアダプターにライゲートし、PCR増幅した。それからライブラリーを、2100バイオアナライザー(アジレント)を用いて確認し、正規化し、配列決定のためにまとめた。
【0180】
[ハイスループット配列決定および解析]
各実験条件について2〜3個の生物学的複製から調製されたRNA-Seqライブラリーを、イルミナHiSeq 2500において、バーコード化マルチプレックスおよび100 bpリード長を使用して配列決定した。画像解析およびベース判定はイルミナCASAVA-1.8.2を用いて行った。これは、サンプル当たり中央値29.9Mの使用可能リードを生じた。RNA-SeqアライナーSTARを使用して、短いリード配列をUCSC mm9参照配列にマッピングした(Dobin et al., 2013, Bioinformatics 29, 15-21)。アライナーにはmm9における既知スプライスジャンクションを供給し、新規のジャンクション発見も許容した。差次的遺伝子発現解析、統計学的検定、およびアノテーションは、Cuffdiff 2を用いて行った(Trapnell et al., 2013, Nature biotechnology 31, 46-53)。転写物の発現は、百万のマッピングされた断片につき1キロベースのエクソンモデルごとの断片(fpkm:fragments per kilobase of exon model per million)の遺伝子レベル相対的存在量として計算し、転写物存在量バイアスについての補正を採用した(Roberts et al., 2011, Bioinformatics 27, 2325-2329)。対象とする遺伝子のRNA-Seq結果はUCSCゲノムブラウザーを使用して視覚的にも探索した。RNA-Seqデータは、NCBI配列リードアーカイブにおいてアクセス番号SRP048600およびSRP048605のもとアクセスすることができる。
【0181】
[ヒト人工多能性細胞(hiPSC)のインスリン産生細胞およびグルコース応答性細胞への分化]
Huvecから誘導されたヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)および胚性幹細胞(H9ES)はステムセルコア(ソーク研究所)から入手した。マトリゲル(BD)コーティングディッシュ上にて完全mTeSR培地中で細胞を維持した。膵臓分化のためには、スピンフェクション(800g、1時間)によってhPCをヒトインスリンレポーターレンチウイルス(pGreenZeroレンチレポーターヒトインスリン、System Biosciences)で感染させ、それから培地を2日間、100ng/mlヒトアクチビン(シグマ)、25ng/ml組換えヒトWnt3a(シグマ)を含む分化培地(800ml DMEM/F12、13.28g BSA、10mlグルタマックス、560mg NaHCO
3、330mgチアミン、100mg還元グルタチオン、3300 mgビタミンC、14μgセレニウム、10ml NEAA、2mlトレースエレメントB、1mlトレースエレメントC、7μl β-ME、2ml DLC、2ml GABA、2ml LiCl、129.7μg PA、インスリン2mgを1000mlまでにする)に変え、それからさらに2日間、100ng/mlヒトアクチビンを含む分化培地に変えた(ステージ1)。続いて培地を、1μMドルソモルフィン(カルバイオケム)、2μMレチノイン酸(シグマ)、および10μM SB431542を伴う分化培地に7日間置き換えた(ステージ2)。それから培地を、10μMフォルスコリン(シグマ)、10μMデキサメタゾン(ステムジェント)、10μM TGFβRIキナーゼ阻害剤II(カルバイオケム)、10mMニコチンアミド(シグマ)を伴う分化培地に10日間置き換えた(ステージ3)。培地は、毎日(ステージ1)、毎日または2日毎に(ステージ2)、および2日毎に(ステージ3、ベータ様細胞)交換した。
【0182】
第22〜25日に、ヒトインスリン遺伝子およびGFPの発現を、qPCRおよび蛍光顕微鏡により定期的に確認した。陽性の細胞を後続の実験に使用した。EGFP-アデノウイルス(Ad-GFP)またはヒトERRガンマアデノウイルス(Ad-ERRγ)を、2% FCSを伴うRPMI-1640中に希釈し、1x10
8 pfu/ml(MOI 100)を使用して2時間、ベータ様細胞に感染させた。培地を3〜5日間、10μMフォルスコリン(シグマ)、10μMデキサメタゾン(ステムジェント)、10μM TGFβRIキナーゼ阻害剤II(カルバイオケム)、10mMニコチンアミド(シグマ)、10mMニコチンアミド(シグマ)を含有する分化培地に変え、それからGFP発現ベータ様細胞(iGFP細胞)およびERRガンマ発現ベータ様細胞(iβeta細胞)を、RNA-Seq、EM、シーホース(Seahorse)、および移植実験について分析した。分化プロトコールについての追加的情報は表7に記載されている。
【0183】
[OCRおよびECARの測定]
酸素消費速度(OCR:Oxygen consumption rate)および細胞外酸性化速度(ECAR:extracellular acidification rate)は、XF96シーホース(Seahorse Biosciences)を使用して96-ウェルプレートにおいて記録した。手短に述べると、70単離膵島/ウェルをXF DMEM培地(pH7.4)および3mMグルコースで1時間前培養し、その後、グルコースを、最終濃度20mMになるまで段階的に追加した。グルコースを追加するあいだ、OCR(3mMグルコースと比較した%変化として報告される)を記録した。
【0184】
フローサイトメトリーにより選別したインスリン陽性ベータ様細胞を96-ウェルプレートにおいて3日間培養し(1x10
5細胞/ウェル)、その後アデノウイルスEGFPまたはERRガンマベクターで感染させた。感染した細胞を、3mMグルコースを伴うXF DMEM培地(pH7.4)中で1時間前培養し、それから培地を、マイトストレス(Mitostress)キット(Seahorse Biosciences)で指示されているように、20mMグルコース、1mMピルビン酸ナトリウム、および適切なミトコンドリアストレス試薬(オリゴマイシン、Fccp、ロテノン、およびアンチマイシンA)を伴うXF DMEM培地(pH7.4)に変えた。
【0185】
[ウイルス生成]
レンチウイルスは、HEK293T細胞株において第2世代または第3世代レンチウイルス系を使用して産生した。アデノウイルスEGFPおよびCreはイリノイ大学から購入し、アデノウイルスERRガンマはウェルゲン社から購入した。
【0186】
[NOD-SCIDマウス移植実験]
免疫不全NOD-SCIDマウス(NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ)はジャクソンラボラトリーから購入し、ソーク研究所のSPF施設にて、オートクレーブ済みケージ中で飼育し維持した。マウスは、高用量のストレプトゾトシン(STZ;180mg/kg)の腹腔内(i.p.)単一注射により糖尿病にした。STZ注射の1週間後、400mg/dLより高いレベルの血中グルコースを有するマウスを、移植分析のためのレシピエントとして使用した。
【0187】
ヒトとマウスの膵島(動物当たり200〜500個の膵島あるいは500〜1000 IEQ)またはヒトiPSC由来インスリン産生細胞(iβL
GFPまたはiβeta細胞;動物当たり1000万細胞)を200μlのRPMI-1640培地に再懸濁した。細胞を実験用チューブ(SiLastic, 508-004)中に充填し、1〜2分間400gで遠心分離した。8〜16週齢STZ注入糖尿病マウスにおいて細胞塊を腎臓被膜下に移植した(約30〜50μl)。ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)を外科麻酔薬として使用し、マウスは37℃ヒートパッド上において回復させた。
【0188】
[代謝ケージ分析]
代謝ケージ分析は、包括的実験動物モニタリングシステム(コロンバスインストゥルメンツ)を用いて行った。データを記録する前に少なくとも24時間適応させ、CO
2産生、O
2消費、呼吸交換比(RER)、およびx-ピークによる歩行カウントを5日連続して昼と夜に決定した。
【0189】
[統計学的方法]
結果は、平均±平均の標準誤差(s.e.m.:standard error of the mean)として表現した。統計学的比較はステューデントのt検定を使用して行った。統計学的有意差は*P<0.05として定義した。
【0190】
[他の実施形態]
上記説明から、本明細書に記述される発明にバリエーションおよび修飾を施して様々な使用および条件に適応させ得ることが明らかであろう。そのような実施形態も下記特許請求の範囲の範囲内である。
【0191】
本明細書における可変物の定義における要素の列挙の記載は、その可変物の単一要素としての定義または列挙された要素の組合せ(もしくは一部組合せ)としての定義を包含する。本明細書における実施形態の記載は、単一実施形態としてのその実施形態またはその他の実施形態もしくはその一部分との組合せにおけるその実施形態を包含する。
【0192】
本明細書で言及される全ての特許および刊行物は、各々の独立した特許および刊行物が具体的かつ個別に参照により組み入れられていることが示されているとした場合と同程度において、参照により本明細書に組み入れられる。
【0193】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【0194】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【0195】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【表3-6】
【表3-7】
【表3-8】
【表3-9】
【表3-10】
【表3-11】
【表3-12】
【表3-13】
【表3-14】
【表3-15】
【0196】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【0197】
【表5】
【0198】
【表6-1】
【表6-2】
【0199】
【表7-1】
【表7-2】