(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707471
(24)【登録日】2020年5月22日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】ピロールカルボキサミドの固形組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/40 20060101AFI20200601BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20200601BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20200601BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20200601BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20200601BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20200601BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
A61K31/40
A61K47/26
A61K9/20
A61K47/02
A61P43/00 111
A61P9/12
A61P13/12
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-571999(P2016-571999)
(86)(22)【出願日】2016年1月25日
(86)【国際出願番号】JP2016051956
(87)【国際公開番号】WO2016121664
(87)【国際公開日】20160804
【審査請求日】2018年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-12252(P2015-12252)
(32)【優先日】2015年1月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113583
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 範子
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100119622
【弁理士】
【氏名又は名称】金原 玲子
(72)【発明者】
【氏名】田邊 秀章
(72)【発明者】
【氏名】山田 美奈
【審査官】
新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−111657(JP,A)
【文献】
特開2014−162769(JP,A)
【文献】
特開2014−088454(JP,A)
【文献】
特開2015−007116(JP,A)
【文献】
特開2014−156435(JP,A)
【文献】
特表2013−518860(JP,A)
【文献】
特表2008−503475(JP,A)
【文献】
特表2000−515535(JP,A)
【文献】
加藤博信 ほか著,標準処方の直接打錠法への適応に関する検討(2)−原料の粒子径の影響−,薬剤学,2006年,第66巻,第5号,p.370-379, ISSN:0372-7629,Table I, Table II, 第374頁2.1錠剤硬度欄, Fig.4, 第375頁2.2錠剤崩壊時間欄, Fig.5
【文献】
DFE Pharma,DFE Pharmaの乳糖製品,製品カタログ[オンライン],2013年,[検索日 2016.02.22],p.1-10,URL,http://www.dfepharma.jp/ja-jp/downloads.aspx?id=%7BCE0B81DC-9BD8-408E-8F13-A184F2F2893D%7D
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 9/00
A61P 13/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)
【化1】
を有する化合物である(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドと、平均粒子径が5〜50μmの範囲内である乳糖水和物を含有することを特徴とする、医薬用の固形組成物。
【請求項2】
(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドと、平均粒子径が5〜50μmの範囲内である乳糖水和物を含有し、(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドの溶出低下が防止されたことを特徴とする、医薬用の固形組成物。
【請求項3】
乳糖水和物が、平均粒子径15〜50 μmの範囲内の乳糖水和物である、請求項1又は2に記載の医薬用の固形組成物。
【請求項4】
乳糖水和物が、平均粒子径15〜40 μmの範囲内の乳糖水和物である、請求項1又は2に記載の医薬用の固形組成物。
【請求項5】
(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドと、平均粒子径が5〜50 μmの範囲内である乳糖水和物を含有し、崩壊時間の遅延を防止することを特徴とする、医薬用の固形組成物。
【請求項6】
崩壊時間が10分以内である、請求項5に記載の医薬用の固形組成物。
【請求項7】
医薬用の固形組成物が錠剤である、請求項1乃至6から選択されるいずれか1つに記載の医薬用の固形組成物。
【請求項8】
(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドと、平均粒子径が5〜50μmの範囲内の乳糖水和物を含む添加剤を混合する工程を含む、医薬用の固形組成物の製法。
【請求項9】
(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドと、平均粒子径が5〜50μmの範囲内の乳糖水和物、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及び着色剤を湿式法で造粒する工程及び、
ステアリン酸マグネシウムを加えて圧縮成型する工程、
を含む、請求項8に記載の製法。
【請求項10】
着色剤が、黄色三二酸化鉄又は三二酸化鉄である、請求項9に記載の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミド
((S)-1-(2-Hydroxyethyl)-4-methyl-N-[4-(methylsulfonyl)phenyl]
-5-[2-(trifluoromethyl)phenyl]-1H-pyrrole-3-carboxamide、以下、「化合物(I)」と称することがある。)の保存安定性の高い医薬用の固形組成物、およびその安定化された医薬用の固形組成物の調製方法に関する。
【0002】
また本発明は、化合物(I)の安定化された錠剤、散剤、顆粒剤およびカプセル剤の形態の固形製剤、ならびにこれらの安定化された錠剤、散剤、顆粒剤およびカプセル剤の形態の固形製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
次の構造式:
【0004】
【化1】
【0005】
で示される化合物(I)は、米国特許第8,524,918号に開示されており、ミネラルコルチコイド受容体(MR)(アルドステロン受容体)拮抗薬として優れた活性を有することから、高血圧症、心臓疾患[狭心症、心筋梗塞、不整脈(突然死を含む)、心不全若しくは心肥大]、腎臓疾患(糖尿病性腎症、糸球体腎炎若しくは腎硬化症)、脳血管性疾患(脳梗塞若しくは脳出血)又は血管障害(動脈硬化症、PTCA後再狭窄、末梢性循環障害)などの疾患に対して優れた治療効果および/または予防効果が期待されている。さらに、糖尿病性腎症の寛解においても効果が期待される。
【0006】
医薬品の製剤は、それが製造されてから患者が服用するまでの過程、例えば倉庫内での保管、配送、病院や薬局あるいは家庭における保存などの過程において、その品質(例えば、含量、錠剤硬度、溶出性、崩壊性)が保たれることが重要な条件であり、長期に渡る高い保存安定性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開公報WO 2008/126831(米国公開公報US2010-0093826、米国特許第8524918号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、保存安定性(化学的及び/又は物理的)を高めた化合物(I)の医薬用の固形組成物、およびその安定化された医薬用の固形組成物の調製方法、さらに、化合物(I)の安定化された錠剤、散剤、顆粒剤およびカプセル剤の形態の固形製剤、ならびにこれらの安定化された錠剤、散剤、顆粒剤およびカプセル剤の形態の固形製剤の製造方法について、鋭意研究の結果、その課題を解決して本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、以下に説明するように、
次の構造式:
【0010】
【化2】
【0011】
で示される化合物(I)の安定化された医薬用の固形組成物、およびその安定化された医薬用の固形組成物の調製方法、さらに、化合物(I)の安定化された錠剤、散剤、顆粒剤およびカプセル剤の形態の固形製剤、ならびにこれらの安定化された錠剤、散剤、顆粒剤およびカプセル剤の形態の固形製剤の製造方法である。
【0012】
本発明の好適な態様は以下に示すとおりである。
(1)以下の式(I)を有する化合物である(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミド
【0013】
【化3】
【0014】
と、平均粒子径が5〜50 μmの範囲内である乳糖水和物を含有することを特徴とする、医薬用の固形組成物、
(2)(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドと、平均粒子径が5-50 μmの範囲内である乳糖水和物を混合して存在させることにより、(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドの溶出低下が防止されたことを特徴とする、医薬用の固形組成物、
(2−1)第16改正日本薬局方の溶出試験法(パドル法)において、試験時間30分時点の溶出低下が防止された、上記(2)に記載の医薬用の固形組成物、
(2−2)(i) 蓋無し褐色瓶の開放系にて40℃75%RH環境下に二日間保管、
(ii) (i)の保管後に褐色瓶の蓋を固く閉じ、60℃湿度成り行き環境下に1週間保管、
(i)及び(ii)の工程後、第16改正日本薬局方の溶出試験法(パドル法)において、試験開始から30分時点の溶出低下が防止された、上記(2)に記載の医薬用の固形組成物、
(3)乳糖水和物が、平均粒子径15〜50 μmの範囲内の乳糖水和物である、上記(1)又は(2)に記載の医薬用の固形組成物、
(4)乳糖水和物が、平均粒子径が15〜40 μmの範囲内の乳糖水和物である、上記(1)又は(2)に記載の医薬用の固形組成物、
(5)(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドと、平均粒子径が5〜50 μmの範囲内である乳糖水和物を混合して存在させることにより、崩壊時間の遅延を防止することを特徴とする、医薬用の固形組成物、
(5−1)(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドと、平均粒子径が5〜50 μmの範囲内の乳糖水和物を混合して存在させることにより、崩壊時間の遅延を防止することを特徴とする、溶出低下が防止された医薬用の固形組成物、
(5−2)さらに、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースを含有する上記(1)〜(5−1)から選択されるいずれか1つに記載の医薬用の固形組成物、
(5−3)さらに、ステアリン酸マグネシウムを含有する上記(1)〜(5−2)から選択されるいずれか1つに記載の医薬用の固形組成物、
(5−4)さらに着色剤を混合して存在させるか又は、コーティング部に着色剤を存在させることにより、安定性が向上した上記(1)〜(5−3)から選択されるいずれか1つに記載の医薬用の固形組成物、
(6)崩壊時間が10分以内である、上記(5)に記載の医薬用の固形組成物、
(7)医薬用の固形組成物が錠剤である、上記(1)〜(6)から選択されるいずれか1つに記載の医薬用の固形組成物、
(8)(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドと、平均粒子径が5〜50μmの範囲内の乳糖水和物を含む添加剤を混合する工程を含む、医薬用の固形組成物の製法、
(8−1)(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドと、平均粒子径が5〜50μmの範囲内の乳糖水和物を含む添加剤を混合する工程を含むことにより溶出低下が防止された、医薬用の固形組成物の製法である、上記(8)に記載の製法、
(8−2)(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドと、平均粒子径が5〜50μmの範囲内の乳糖水和物を含む添加剤を混合する工程を含むことにより崩壊時間の遅延が防止された、医薬用の固形組成物の製法である、上記(8)に記載の製法、
(9)(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドと、平均粒子径が5〜50μmの範囲内の乳糖水和物、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及び着色剤を湿式法で造粒する工程及び、
ステアリン酸マグネシウムを加えて圧縮成型する工程、
を含む上記(8)に記載の製法、
(9−1)さらにコーティング工程を含む、上記(9)に記載の製法、
(10)(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドと、平均粒子径が5〜50μmの範囲内の乳糖水和物、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースを湿式法で造粒する工程及び、
ステアリン酸マグネシウムと着色剤を加えて圧縮成型する工程、
を含む上記(8)に記載の製法、
(10−1)さらにコーティング工程を含む、上記(10)に記載の製法、
(11)(S)-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチル-N-[4-(メチルスルホニル)フェニル]-5-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミドと、平均粒子径が5〜50μmの範囲内の乳糖水和物、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースを湿式法で造粒する工程及び、
ステアリン酸マグネシウムを加えて圧縮成型する工程、
着色剤を含むコーティング剤によるコーティング工程、
を含む上記(8)に記載の製法、
(12)着色剤が、黄色三二酸化鉄及び/又は三二酸化鉄である、上記(9)〜(11)に記載の製法、
である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、化合物(I)の安定化された医薬用の固形組成物を得るために、様々な困難を克服し、最終的に、その安定化された医薬用の固形組成物を得ることができた点に特徴を有する。
【0016】
本発明により、化合物(I)の安定化された医薬用の固形組成物を調製することができるようになり、さらに、化合物(I)の安定化された錠剤、散剤、顆粒剤およびカプセル剤の形態の固形製剤、ならびにこれらの安定化された錠剤、散剤、顆粒剤およびカプセル剤の形態の固形製剤を製造できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明で使用される乳糖水和物は、医薬品添加物として使用できるものであって、平均粒子径が5-50 μmの範囲内であれば特に制限はない。例えば、DFEファーマのLactochem(R) Powder、Lactochem(R) Fine Powder、Lactochem(R) Extra Fine Powder、Pharmatose(R) 450M、Lactohale(R) 201が好適である。
【0018】
本発明における「平均粒子径」は、ふるい分け装置(例えば、ATM corp製、型式「ATM sonic sifter」等)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を意味する。
【0019】
本発明の固形製剤は、更に必要に応じて、適宜の薬理学的に許容される乳糖水和物以外の賦形剤、滑沢剤、結合剤、乳化剤、安定剤、矯味矯臭剤及び/又は崩壊剤等の添加剤を含むことができる。
【0020】
使用される「賦形剤」としては、例えば、乳糖、乳糖水和物、白糖、ブドウ糖、マンニトール若しくはソルビトールのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α−デンプン若しくはデキストリンのようなデンプン誘導体;結晶セルロースのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;又は、プルラン等の有機系賦形剤;或いは、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム若しくはメタケイ酸アルミン酸マグネシウムのようなケイ酸塩誘導体;リン酸水素カルシウムのようなリン酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;又は、硫酸カルシウムのような硫酸塩等の無機系賦形剤を挙げることができ、好適には、セルロース誘導体及び糖誘導体から選択される一つ以上の賦形剤であり、更に好適には、乳糖、乳糖水和物、マンニトールの他の結晶及び結晶セルロースから選択される一つ以上の賦形剤であり、最も好適には、乳糖水和物である。
【0021】
使用される「滑沢剤」としては、例えば、ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム若しくはステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;コロイドシリカ;ビーズワックス若しくは鯨ロウのようなワックス類;ホウ酸;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;フマル酸ステアリルナトリウム;ショ糖脂肪酸エステル;安息香酸ナトリウム;D,L-ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム若しくはラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水ケイ酸若しくはケイ酸水和物のようなケイ酸類;又は、上記デンプン誘導体等を挙げることができ、好適には、ステアリン酸金属塩である。
【0022】
使用される「結合剤」としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、又は、前記賦形剤と同様の化合物等を挙げることができ、好適にはヒドロキシプロピルセルロース又はヒプロメロースである。
【0023】
使用される「乳化剤」としては、例えば、ベントナイト若しくはビーガムのようなコロイド性粘土;水酸化マグネシウム若しくは水酸化アルミニウムのような金属水酸化物;ラウリル硫酸ナトリウム若しくはステアリン酸カルシウムのような陰イオン界面活性剤;塩化ベンザルコニウムのような陽イオン界面活性剤;又は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル若しくはショ糖脂肪酸エステルのような非イオン界面活性剤を挙げることができる。
【0024】
使用される「安定剤」としては、例えば、メチルパラベン若しくはプロピルパラベンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール若しくはフェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール若しくはクレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;又は、ソルビン酸等を挙げることができる。
【0025】
使用される「矯味矯臭剤」としては、例えば、サッカリンナトリウム若しくはアスパルテームのような甘味料;クエン酸、リンゴ酸若しくは酒石酸のような酸味料;又は、メントール、レモン若しくはオレンジのような香料等を挙げることができる。
【0026】
使用される「崩壊剤」としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム若しくは内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;架橋ポリビニルピロリドン;又は、カルボキシメチルスターチ若しくはカルボキシメチルスターチナトリウムのような化学修飾されたデンプン・セルロース類等を挙げることができる。
【0027】
固形製剤中の上記一般式(I)を有する化合物又はその薬理上許容される塩の配合量には特に制限はないが、例えば、固形製剤全重量に対して0.1〜10.0重量%(好適には、0.1〜5.0重量%)配合することが好ましい。
【0028】
また、固形製剤全量中の添加剤の配合量には特に制限はないが、例えば、固形製剤全重量に対して、乳糖水和物も含めて賦形剤を10.0〜93.5重量%(好適には、44.0〜90.0重量%)、滑沢剤を0.5〜5.0重量%(好適には、0.5〜3.0重量%)、結合剤を0.0〜15.0重量%(好適には、1.0〜5.0重量%)、崩壊剤を2.5〜40.0重量%(好適には、5.0〜30.0重量%)配合することが好ましい。
【0029】
本発明の固形製剤は、例えば、錠剤(舌下錠、口腔内崩壊剤を含む)、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、顆粒剤、細粒剤、散剤、丸剤、チュワブル剤又はトローチ剤等であり得、好適には、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤又は錠剤であり、最も好適には、錠剤である。
【0030】
本発明の固形製剤は、有効成分である化合物(I)の粉末に、
(1)安定化剤である賦形剤及び崩壊剤等、さらに製剤化に必要な助剤(滑沢剤等)を添加して、
(2)得られた粒状粉末をカプセル充填機によって圧縮充填するカプセル充填工程、または、得られた粒状粉末を打錠機によって圧縮する錠剤化工程、そして必要に応じて得られた粒状粉末、顆粒または錠剤の表面をコーティングするコーティング工程
を順次おこなうことによって、散剤、顆粒剤、表面コート顆粒剤、カプセル剤、錠剤、表面コート錠剤として得られるものである。
【0031】
固形製剤の製造方法としては、(1)有効成分と添加剤を混合し、そのまま打錠機で圧縮成型する直打法、(2)添加剤を顆粒にし、それに薬剤を混ぜて圧縮成型するセミ直打法、(3)有効成分と添加剤を乾式法で顆粒として造粒した後、それに滑沢剤等を加えて、圧縮成型する乾式顆粒圧縮法、(4)有効成分と添加剤を湿式法で顆粒として造粒した後、それに滑沢剤等を加えて、圧縮成型する湿式顆粒圧縮法等が挙げられる。また、造粒化方法としては、流動造粒法、高速撹拌造粒法、溶融造粒法(melting granulation)などの手段を用いることができる。本発明においては、有効成分と添加剤を湿式法で顆粒として造粒した後、それに滑沢剤等を加えて圧縮成型することで、錠剤を調整する方法が好適である。
【0032】
例えば、本発明の錠剤の製造方法は、以下に説明するとおりである。
【0033】
有効成分である化合物(I)を粉砕して粒子径を整えた後、賦形剤、結合剤及び/又は崩壊剤とを湿式法で顆粒として造粒する。その後、その顆粒を整粒機にて篩過した後、滑沢剤を加え、さらに混合した後、打錠機にて打錠して錠剤を得る。
【0034】
コーティングは、例えば、フィルムコーティング装置を用いて行われ、フィルムコーティング基剤としては、例えば、糖衣基剤、水溶性フィルムコーティング基剤、腸溶性フィルムコーティング基剤又は徐放性フィルムコーティング基剤等を挙げることができる。
【0035】
糖衣基剤としては、白糖が用いられ、更に、タルク、沈降炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ゼラチン、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン及びプルラン等より選ばれる1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0036】
水溶性フィルムコーティング基剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース若しくはカルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタクリレートコポリマー若しくはポリビニルピロリドンのような合成高分子;又は、プルランのような多糖類等を挙げることができる。
【0037】
腸溶性フィルムコーティング基剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース若しくは酢酸フタル酸セルロースのようなセルロース誘導体;(メタ)アクリル酸コポリマーL、(メタ)アクリル酸コポリマーLD若しくは(メタ)アクリル酸コポリマーSのようなアクリル酸誘導体;又は、セラックのような天然物等を挙げることができる。
【0038】
徐放性フィルムコーティング基剤としては、例えば、エチルセルロースのようなセルロース誘導体;又は、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS若しくはアクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・共重合体乳濁液のようなアクリル酸誘導体等を挙げることができる。
【0039】
上記コーティング基剤は、その2種以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。また、さらに必要に応じて、適宜の薬理学的に許容される可塑剤、賦形剤、滑沢剤、隠蔽剤、着色剤及び/又は防腐剤等の添加剤を含むことができる。
【0040】
本発明に使用できる可塑剤の種類は特に限定されず、当業者が適宜選択可能である。そのような可塑剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン及びソルビトール、グリセリントリアセテート、フタル酸ジエチル及びクエン酸トリエチル、ラウリル酸、ショ糖、デキストロース、ソルビトール、トリアセチン、アセチルトリエチルチトレート、トリエチルチトレート、トリブチルチトレート又はアセチルトリブチルチトレート等を挙げることができる。
【0041】
本発明に使用できる隠蔽剤としては、例えば、酸化チタン等を挙げることができる。
【0042】
本発明に使用できる着色剤としては、例えば、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、酸化チタン、青色1号(Brilliant Blue FCF)、青色2号(Indigo carmine)、赤色3号(Erythrosine)、黄色4号(Tartrazine)、黄色5号(Sunset Yellow FCF)等を挙げることができる。
【0043】
好適には、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、及び黒酸化鉄であり、さらに好適には、三二酸化鉄及び黄色三二酸化鉄である。
【0044】
本発明で使用される着色剤の含量は、素錠成分に含める場合は、好適には素錠の総重量に対して0.01〜1重量%(さらに好適には0.02%以上〜0.1重量%)配合することが望ましく、フィルムコーティング成分に含める場合は、好適には素錠の総重量に対して0.003〜0.1重量%(さらに好適には、0.01%以上〜0.1重量%)配合することが望ましい。
【0045】
本発明に使用できる防腐剤としては、例えば、パラベン等を挙げることができる。
【0046】
本発明の固形製剤の有効成分である上記一般式(I)を有する化合物又はその薬理上許容される塩の投与量は、薬剤の活性、患者の症状、年齢又は体重等の種々の条件により変化し得る。その投与量は、経口投与の場合には、各々、通常は成人に対して1日、下限として0.010mg(好適には、0.625mg)であり、上限として100.0mg(好適には、30.0mg)を投与することができる。(固形製剤の製造方法)
ついで本発明を実施例等によって更に詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明をこれら実施例に限定して解してはならないものとする。
【実施例】
【0047】
(実施例1)乳糖水和物の粒子径と製剤の安定性
(1−1)錠剤の製造方法
表1に示す各乳糖水和物について、化合物(I)、乳糖水和物、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(LH-21、信越化学)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L、日本曹達)及び黄色三二酸化鉄(癸巳化成)を表2に示す組成に応じた配合比率で量り取り、精製水とともに高速撹拌造粒機(VG-5又はVG-10、パウレック)に投入後、ブレード回転数280又は250 rpmで3分間練合し、造粒末を得た。この造粒末を流動層乾燥機(NFLO-2、パウレック又はFLO-5M、フロイント産業)で製品温度が60℃となるまで乾燥し、その後、コーミル(QC-197又はQC-194S、Φ1.143 mm、QUADRO)を用いて2200 rpmで篩過し、整粒顆粒を得た。この整粒顆粒とステアリン酸マグネシウムを質量混合比率が99:1となるようV型混合機(2 L)に投入し、回転数39 rpmにて5分混合した。これを打錠機(Correct 18HUK、菊水製作所)を用いて、錠剤質量を200 mgとし、打錠圧10kNにて成型することでφ-8.0mmの素錠を得た。得られた素錠に、コーティング機(ハイコータラボ30、フロイント)を用いて給気温度75℃、スプレー速度3 g/minでフィルムコーティングを施した。
【0048】
【表1】
【0049】
*乳糖水和物の平均粒子径は、乾式ふるい分け法(ATM sonic sifter、ATM corp.)によって測定されたカタログ記載の数値である。
【0050】
【表2】
【0051】
(1−2)評価方法と結果
実施例(1−1)で製造した錠剤(乳糖水和物1〜4それぞれを使用した錠剤a〜e)について、錠剤の劣化を加速させる以下の環境条件下での保管プロセス(保管A)を経た錠剤(保管Aあり)と、保管Aを経ていない錠剤(対照)とを比較する崩壊試験および溶出試験を実施した。
【0052】
保管A:錠剤を入れた褐色瓶を、蓋無しの開放系にて40℃75%RH環境下に二日間保管した後に、褐色瓶の蓋を閉じ、60℃湿度成り行き環境下で1週間保管する。
【0053】
溶出試験は、第16改正日本薬局方の溶出試験法(パドル法, 50 rpm)に準じ、試験液として0.1%ポリソルベート80(TW-O120V,花王製)水溶液900 mlを用いて評価した。また、崩壊試験は第16改正日本薬局方の崩壊試験法に準じ、補助盤なしで評価した。
【0054】
結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
*乳糖水和物の平均粒子径は、乾式ふるい分け法(ATM sonic sifter、ATM corp.)によって測定されたカタログ記載の数値である。
【0057】
平均粒子径がより大きい乳糖水和物3及び乳糖水和物4を用いた錠剤d、錠剤eの場合、保管Aを経た錠剤の崩壊時間はそれぞれ対照より15分及び16分遅延した。それに対し、より小さい平均粒子径の乳糖水和物1及び乳糖水和物2を用いた錠剤a、錠剤b及び錠剤cの場合の崩壊時間の遅延は4分、X分及び2分にとどまるものであった。
【0058】
また、錠剤d、錠剤eの場合の溶出率(15分及び30分時点)についても、保管Aを経た錠剤は20%以上低下したのに対し、錠剤a、錠剤b及び錠剤cでは、ほとんど変化は生じなかった。
【0059】
したがって、より小さい平均粒子径の乳糖水和物を使用した処方は、より大きい平均粒子径の乳糖水和物を使用した処方に比べて崩壊遅延を伴う溶出遅延を防止する効果が極めて高く、溶出安定性に優れていることが示された。
(実施例2)着色剤添加による製剤の安定性
(2-1)錠剤の製造方法
化合物(I)、乳糖水和物(Pharmatose 450M, DFE ファーマ)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(LH-21、信越化学)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L、日本曹達)及び黄色三二酸化鉄(癸巳化成)を表4に示す組成に応じた配合比率で量り取り、精製水とともに高速撹拌造粒機(VG-10、パウレック)に投入後、ブレード回転数250 rpmで3分間練合し、造粒末を得た。この造粒末を流動層乾燥機(FLO-5M、フロイント産業)で製品温度が60℃となるまで乾燥し、その後、コーミル(QC-194S、Φ1.143 mm、QUADRO)を用いて2200 rpmで篩過し、整粒顆粒を得た。この整粒顆粒とステアリン酸マグネシウムを質量混合比率が99:1となるようV型混合機(5 L)に投入し、回転数34 rpmにて5分混合した。これを打錠機(Correct 18HUK、菊水製作所)を用いて、錠剤質量を200 mgとし、打錠圧10kNにて成型することでφ-8.0mmの素錠を得た。得られた素錠に、コーティング機(ドリアコータ200、フロイント)を用いて給気温度75℃、スプレー速度3 g/minでフィルムコーティングを施した。
【0060】
【表4】
【0061】
(2−2) 評価方法と結果
(2−1)で製造した錠剤を、25℃/60%RH/25日(2000Lux/時)開放条件で放置した後、類縁物量をHPLC(1290 Infinity、Agilent)を用いて表5に示す条件で測定した。
【0062】
【表5】
【0063】
その結果を表6(総類縁物質の初期値からの増加量(%))に示した。
【0064】
着色剤として黄色三二酸化鉄をコーティング剤中もしくは素錠成分中に使用した錠剤(錠剤a、錠剤f〜h)では、着色剤を使用しなかった錠剤(錠剤i)よりも光で増加する総類縁物質は初期値からの増加量が非常に少なく、安定性において優れていることがわかる。
【0065】
【表6】